※大体、独自設定です。
「お前は本当に仕事をよく頑張っているね」
古くからの友人からこんなことを言われたことがある。
「うん……そうですかね?」
頑張っているという実感は持てず、誤魔化すように笑ってみせた。
すると、彼女はより楽しそうな笑顔を見せて、「そうだよ」って返してくれた。
その笑顔があまりに眩しすぎるものだから、顔を逸らし、頬を掻いては照れ隠しをする。
特別、仕事に精を出しているわけではない。ただ幻想郷を見て回るのが楽しいから続けているだけ。
私達はこんなにも素晴らしい世界に住んでいるのを伝えたくて、私は筆を握り締める。
まだ未開発で、発展途上で、何色にでも染まる可能性のある真っ白の世界が見惚れるほどに好きだから、私はカメラのシャッターを切る。
自分はなんとも利己的な生き物だ。
新聞を配るのは趣味であり、生き甲斐だ。
自分勝手な考察と憶測を記した記事でご飯が食えるのだからありがたいと思う。
おかげで趣味に没頭できる。
「文、お前の固い頭は何時まで経っても直らないな」
馴れ馴れしくも私を下の名前で呼び、挙句には呼び捨てにする少女。
黒く大きな翼を背中に携え、日本の家老のような服を着込んでいる。黒い長髪に凛とした顔つき、頭には天狗の証でもある赤い頭巾を乗せている。
外の光が入って来ず、一人で居るにはあまりにも広すぎる部屋の中で彼女はふっくらとした座布団の上で胡坐をかいている。
「計算高いと言って欲しいですねぇ、天魔様。私はこう見えても慎重派なんですよ」
そう言って胸を張ってみせると、天魔は少し寂しそうな表情を見せる。
「お前まで私のことを様付けにして呼ばないでくれ。できれば敬語もやめて欲しい。その物言いにはうんざりしているんだ」
「……ごめん」
彼女が気落ちしているところが見ていられなくて、つい視線を彼女から逸らしてしまう。
「……山の神とはうまくやっているのか? まあ、あちらは私達よりも河童の方に興味を持っているみたいだけどな」
「それなりによろしくやっていると思いますよ。河童は人見知りですが、義理深い妖怪です。あちらに気を許しても、私達の下から離れることはありえませんよ」
「あの神様も豪気な奴だからな。上から目線の物言いは私達と大差ないだろう。……って、また敬語になってる」
「あはは、ごめんなさい。これが今の私なんですよ。こちらの方が気兼ねなく喋れます」
頬を膨らませる彼女の頭を撫でて、宥める。
最初は私を睨みつけていたものの、徐々に目尻が下がり、気持ちよさそうな表情で目を瞑った。
「天魔。これくらいで許してはくれませんかね?」
「寂しいな……でも、まあ良い。その方がお前にとって話しやすいというならね」
彼女とは付き合いはかれこれ、千年以上も遡ることになる。
まだ妖怪退治が職業として成り立っていた時代。天狗はまだ組織の力というものを手にしてはおらず、各地に散らばっていた頃の話。
それなりに有名な妖怪であった天狗は人間達に徹底的に対策を練られ、妖怪退治には良い標的とされていた。
仲間は年々数を減らしていった。人間から逃げるようにひっそりと暮らしていた、暗黒時代とも呼べる時が天狗にもあったのだ。
そんなときに立ち上がったのが今、私の前で無防備に頭を撫でられている少女だ。
彼女は各地に散らばった天狗達を一処に集めて、妖怪の歴史上、初めてとなる妖怪の組織を作り上げた。
山一つを縄張りとしており、戦となれば、生まれ持ったカリスマ性と類稀なる軍才で他者を圧倒し追い払う姿はまさに軍神。
天狗達にとってはまさに戦乱の英雄。今も天狗のトップに座する大妖怪だ。
私はそんな彼女の側に居続けただけの天狗。他よりも歳を重ね、経験を積んでいるだけのジャーナリスト。
そんな私と彼女が横に並ぶのもおかしな話ではあるが、これはまあ、天狗という組織の結成当初のメンバーの一人としての特権だろう。
そのメンバーも私と彼女しか残ってないけれども。
「お前だけだよ。まだ私の側に居てくれるのは……」
彼女は私に身を寄せると、私の肩にちょこんと頬を乗っける。
(軽くなりましたねぇ……)
昔、豪腕を振るっていたガッチガチだった腕も、今は柔らかくなって細くなった。
胸は大きいままだが、一時期の彼女を思うと全体的に身体が小さくなった印象がある。
あの時に発していた圧力のようなものを今は感じられない。
「天魔、そろそろ私も……ん?」
帰らないといけないと思って口を開こうとすると、すぅすぅという呼吸音が耳に入った。
視線を落とすと、天魔の半開きになった口から漏れる寝息ということが分かった。
戦乱の英雄と言われる彼女が身体全身を私に預け、警戒の一つもせずに眠りについている。
「…………」
なんとなく彼女の目元を指で擦ってみると、厚い化粧を施しているのが分かった。
(少し眠らせてあげるかな)
私に身を委ねる彼女の姿は、英雄として天狗の全てを引っ張っていた面影はない。
そのことに胸を締め付けられる。この感情をどう表現すれば良いのか分からないが――
酷く、苦しい。
◆ ◆ ◆
「ですから私にだって仕事があるんですって! いい加減にしてくださいよ!」
妖怪の山では有名な料理店の一角にて、若い子の怒声が部屋に響く。
「静かにしてください、椛。周りに迷惑です」
ここはそれなりの高級な料理を出してくれる料亭だ。
天狗の一般的な賃金では祝い事のある日に来るのが精一杯。
そんな店だからこそ、それなりのマナーといものが求められるというものだ。
それなのに目の前の娘っ子と来たら……彼女が大きな声を出すものだから、周りからの注目を浴び、私まで白い目で見られる羽目になる。
これだから白狼天狗は好きじゃないのだ。彼らには品というものが些か欠けている。
根っからの戦闘民族と言えばそれまでなんだけども。
「いいえ、今日こそ言わせてもらいますよ!」
「私のような老人の道楽に付き合ってはいられないですか? いやはや、悲しいです。こんな子に育てた覚えはありませんよ」
「そこまで言ったことはないですって!」
「まあ、良いじゃないですか。今日は私の驕りなんですから、貴方も良い思いをしているはずですよ」
鼻息を荒くする椛を尻目にして、女給の一人に目配せをして酒を持ってくるように促す。
とりあえず飲ませれば、少し大人しくなるだろう。この若い娘は酒をよく飲むが、酔いが回るのも早い。
何より飲んでいると、気分を良くしてくれるのがやりやすい。
暫く、椛の愚痴を適当に聞き流していると、女給が一升の酒とお猪口を二杯持ってきてくれた。
連れが騒がしくて申し訳ないという気持ちを込め、苦笑しつつ軽く頭を下げる。
「貴方の目当ては私の目なのでしょう? 千里眼の能力は射命丸様の活動には有益かもしれませんが、私には私の都合というものがあってですね……」
「まあまあ、とりあえず、お酒でも飲みましょうよ。せっかく持ってきてくれたんですから」
「さっき催促していましたよね。まあ、構いませんけど」
椛のお猪口に酒を注いで、うるさい口を塞ぐ。
先輩の私が若輩である彼女にお酌をするのは天狗社会を考えるとありえないことだが、そんなプライドは必要ないものだってインタビューをしている時に悟った。
もっと大事にすべき誇りがあり、そこさえしっかりと抑えておけば腐りはしない。
お酌をされた椛は急に頭を低くし、申し訳なさそうに笑って御子著を口につけた。
すると酒がきつかったのか、身体を小刻みに震わせ、「くぅ~~っ」っと小さく呻き声を上げる。
「射命丸様。このお酒、美味しいですねぇ」
少し頬を朱に染めて、うっとりとした表情で甘い声を漏らす。
彼女の身体の後ろに見える白い尻尾がゆったりとした動作で左右に振っているから、機嫌を直してくれたのだろう。
「それは良かったです」
ええ、ちょろい女なんてことは思っていませんとも、たぶん。
それから適当に椛と話し込んだ。
彼女は酔うのは早いが、泥酔することは少ない。気分は高揚するが、意識が途切れることはない。
だから、彼女のお願い事をするときは酒を飲ませるのがいい。少し持ち上げてやれば勢いのままに約束をしてくれる。
それで今回も彼女と一緒に取材に行く約束を取り付けることができる。
妖怪の山の外まで行くとなると、妖怪の山で連れて行けるのは椛くらいなものだ。
同じ山に住むはずの河童ですら見下す者の多い天狗の中で、対等な関係を気づいているのは彼女くらいなものだ。
その程度のこともできない奴を相方として外に連れ出すなんて恐ろしくてできやしない。
ただでさえ、天狗は外から疎まれているというのに、これ以上悪化させたくない。
「そういえば、河童との付き合いの方はどうなのですか?」
なんとなく気になって聞いてみる。
私が河童に会いに行くと、天魔の側近だったイメージが強いせいか視察を勘違いされてしまう。
やけに待遇が良かったりするから困ったものだ。今は立場的な権力を持たない、ただのしがない新聞記者なんですけどね。
「河童って言ってもいっぱい居ますよ。そんなに抽象的な言い方では何を話せばいいのか分かりませんって」
「えーと、にとりって言いましたっけ。彼女との付き合いはまだ続いているのでしょう?」
「……何を探っているのか知りませんが、それはもちろん続いてますよ。でも、あんまり手を出さないでやってくださいね」
「それは大丈夫です。手を出すにしても椛には迷惑かけないようにしますから」
「むぅ……」
不貞腐れるように酒をぐいっと一息に飲み干すと、ふぅっと目を細めながら熱の篭った吐息を吐き出した。
「私だけの問題じゃありませんよ」
「どういう意味です?」
「……山の神が来てから、少し居づらくなったんですよ」
「ほうほう」
胸元のポケットから文花帖を取り出そうとすると椛が眉を顰め、おもむろに嫌な顔をする。
「こほんっ」
と、咳払いをして胸元から手を離すと、彼女は表情を元に戻してくれた。
これは私の思慮が足りなかったな。プライベートの付き合いに仕事を持ち込んで、良い思いをする相手はいないだろう。
誤魔化すために笑ってみせると、椛は呆れたように嘆息を吐いた。
「河童の皆さんが、私達を嫌っているという感じではないんですけどね。なんというか山の神が思っていた以上に好かれているようでして……正直、肩身狭いですね」
それでも話してくれるのだから、椛は優しい。
「それでも、にとりとかいう子は貴方を嫌ってないのでしょう?」
「河童に政治的な意図なんてありませんからね。素直で純粋な方々だと思いますよ。だからこそと言いますか……んー……」
椛は手に顎を乗せて黙り込んでしまう。
そんな彼女の姿を見て、不味いなって感じる。
思えば、これまで天狗は河童に対して、何か特別なことをした記憶がない。
必要に迫られた時に何度か協力をしたことはあるが、天狗は縄張りばかり意識していて河童に何かをするということをあまりしないのだ。
河童も大人しい生き物だから、自分の生活圏が脅かされでもしない限りは何も言ってこないだろう。
だからこそ、山の神か。
山の神は惜しみなく新しい技術を提供し、河童の生活をよりよいものに仕上げている。
他にも失敗はしたがダム建設など、積極的に手を組んで協力関係を築きあげようとしていた。
今でこそ、古くからの貯金で河童と天狗の関係は成り立っているが、その内、山の神に鞍替えされてしまうのではないだろうか。
河童のトップが仁義に疎い人物であったなら、既に見切られていてもおかしくない。
そりゃそうだろう、何時まで経っても利益にならない相手よりも、今すぐに利益になり、それが今後も期待できる相手なのだ。
表立って天狗と敵対するほど河童も愚かとは思わないが、心情的には山の神寄りになるだろう。
私がもし河童だったなら天狗よりも山の神を選ぶ。
そうならないためにもっと河童と連携を取り、関係を密にしていく必要があるのだが……今の天狗では難しいだろうな。
天狗の上層部は自尊心ばかりが高い。自分から引くなんてことを知らない連中ばかりであり、交渉ごとも相手よりも上の立場として行われる。
それでも天狗は幻想郷では一大勢力を持っているので無視はされないだろう。
問題なのは、天狗と手を組んでも面倒なばかりで、それに見合う旨みが無いということ。
交渉は強気に行うものかもしれないが、天狗の場合は少しばかり度が過ぎている。
「飲んでますか、射命丸様?」
不意に椛が身体を乗り出してきて、御猪口に酒を注ぐ。
「あー、あー、零れます。零れますって」
「どうせ仕事のことでも考えていたのでしょう? 若い娘を連れ出して、そういう真似をするのはやめてくださいよ」
「若い娘って、同性を相手に言うことですかね」
なみなみに注がれた御子著を零さないように、ゆっくりと持ち上げて、口を窄めて吸い上げる。
椛が言うだけあって、美味しい酒だ。
「……あと昔に比べて蝙蝠の印も目立つようになりましたよ。アルファベットでスカーレットグループと中心に書かれているやつです」
「ああ、紅魔館ですね。彼女達も昔から河童に目を付けていますからねぇ」
最近、妖怪達が各地で店を持つことが多くなった気がする。
例えば、人里近くにある八目鰻の屋台なんかもそうだし、虫の知らせサービスも紅魔館の手が入っている。
八目鰻の屋台の例だと厨房周りの資材の調達や修理は紅魔館が担っているし、竹林の竹炭売りを生業にしている少女と引き合わせたのも紅魔館なんだとか。
最近では妖怪が新しい事業を集める時はまず、紅魔館に相談に行くのが通例だ。命蓮寺のマミゾウという狸も似たようなことを始めたと聞くが、紅魔館と比べて規模が全然違う。
河童にも鉱石などといった資材を送ったり、貸し工房なんてものも提供したりしていて、紅魔館は感謝されている。
鉱石の発掘も他の鉱石が豊富な山に住む妖怪と手を組んでいるとも聞いている。
「今は赤い長髪の人が来るようなことも少なくなりましたけどね。代わりに妖精のメイドさんが足を運びに来ているとにとりから聞いていますよ」
「美鈴さんのことですね。あの人も厄介な妖怪でしたよ。今は門番の地位に収まっているのがありがたいくらいです」
この数々のパイプを繋ぎ、紅魔館の基礎を作ったのが紅美鈴である。
今は紅美鈴の後継として十六夜咲夜が各地に回っているらしいが、彼女に美鈴ほどの力はない。
レミリアと咲夜の二人でなんとか仕事をこなしている状態だろう。
「……今のは私が悪かったですね」
空になったお猪口を机に置くと、すかさず椛が酒を注ぎこんだ。
「射命丸様のお金なんですから、飲まないと勿体無いですよ」
「そう急かさないでくださいって、こういう場では落ち着いて飲むのが好きなんですよ」
「宴会だと、水の様に飲んでいるじゃないですか」
「宴会とはそういう場です。酒の味よりも、酔う方が大事ですからね」
注いでもらった酒を口に含み、舌の上に転がして味を楽しむ。
十分に味わったところで、コクリと小さく音を立てて飲み込むと、喉の奥の方から熱くなってくるのが分かる。
椛も自分の分の酒を注ぎ、味を堪能しているようだ。
彼女はゆっくりと飲むときは舌を出してチロチロと飲む。その様子が実に可愛い。
「なんで、そんなに顔をにやつかせているんですか?」
ジトッとした目で見つめられ、「なんででしょうね」と返した。
本当のことを言ったら、二度とやってくれないだろうから黙っておく。
椛は顔をしかめつつも、お猪口に顔を落として、酒を舐め始めた。
「そういえば、天魔様、最近見かけませんよねぇ……」
料理も出揃い、適当に会話を交わしている時。不意にそんなことを椛が呟いた。
「そうですかね?」
「そうですよ」
週に一回や二回くらいの頻度で会いに行っている私としては、あまり実感はないが世間的にはそんな感じらしい。
名前だけは新聞や雑誌によく載っているから、そのせいでも勘違いしていたのかもしれない。
「昔はもっと表に出てきてくれたじゃないですか。私達のような一端の天狗にも剣の稽古を付けてくださった時のことは今でも忘れられません。武器を持って対峙した時の気迫、交えた時の手の感触、最後に爽やかな笑顔をかけてくれた時はそりゃあもう……!」
胸元で両手を握り締め、身体をくねくねと捩じらせて、尻尾をパタパタ、耳をピコピコ、目はキラキラ。
その夢に希望を馳せる少女の仕草を見て――ああ、と一つのことを思い出した。
「椛は天魔のファンでしたっけ?」
「“天魔様”ですよ、射命丸様。いくら貴方でも不敬です」
「すみません。天魔様でしたね、天魔様。キャーテンマサマカッコイー」
「何処となく悪意を感じますがまあいいです」
椛はふんっと鼻を鳴らして、腕を組みなおした。
そんな椛の様子を見つつ、椛の浮かべる天魔像と私の天魔を思い重ねてみる。
「――――ッ」
どうしてか胸が疼いた。それに目をそむける。
少なくとも今の弱々しい天魔をみんなには見せられないな。
「天魔様は天狗の頂点に立つお方であり、各地に散らばった天狗達を纏め上げた天狗の基盤を作ったお方ですよ!」
「あーはいはい」
「本当に分かっているんですか?」
「分かってますって、しつこい女は嫌われますよ」
椛の天魔語りに適当に相槌を打ちつつ聞き流し、運ばれてきた料理に箸をつける。
私は椛に天魔との繋がりがあることを話してはいない。
友人に様付けをするのも面倒とは思うが、椛のことだ。言えば、もっと面倒なことになるに違いない。
「仕事が忙しいのでしょうか。また、お目にかかりたいですよ」
「本当に仕事が忙しかったら良いんですけどね」
酒を飲んだせいか、つい漏れてしまった本音。
しかし、椛は一度だけ首を傾げて、料理に箸を突いて酒を啜り始めた。
「これ、美味しいですよ」
「私のおすすめの店ですからね。美味しくないわけがありませんよ」
彼女は細かいことに気づくことがあるのだが、疑問として抑えることはなく流してしまう傾向がある。
それもまた、彼女と付き合いやすい面だと思う。彼女は地雷を踏み込むことはないのだから。
「天魔様にまた稽古をつけて貰いたいなぁ」
そう呟く椛を私は見て見ぬふりをした。だって、そんなことはありえないと思うから。
天魔は天狗の権威であり、首領だ。しかし、その実情は翼を失った烏に等しい。
今の彼女は上座に座っているだけであり、謀略によって上層部に権力を全部奪われてしまっている。
別に頭が悪いわけでも政治ができない訳でもない。
天狗が妖怪の山に来たときに河童を懐柔したのは天魔だし、鬼と同盟を結んだのも天魔の力によるものだ。
人柄の良さもあり、頭も切れる。こと外交に置いては右に出るものは居ないだろう。
しかし、相手を信じることから始めるという彼女の道徳は今の天狗社会で生きていくにはあまりに奇麗すぎる。
そもそも、どうして天狗社会に置いて新聞が流行ったのか。
上層部が情報操作を行うのにこれほど素晴らしい道具はないと判断したからだ。
事実、上層部が掌握している新聞組織は多い。
その結果、あることないこと書かれた天魔は一度、上座から追放されたこともある。
尤も、吸血鬼異変の時に平和ボケをした天狗達では抑えきれず、再びトップにと掲げられたわけだけども。
その後、天狗達からの圧倒的な支持を得た天魔は上層部の人気取りのために頭領の座に置かれているが、天魔は上層部に徹底的に権力を奪い取られており、挙句には情報遮断まで行われている始末。
要するに今の天魔は天狗の上層部の傀儡なのだ。
「いや、でも本当に美味しいですね。これ、お代わりをしても良いですか?」
用意された料理をペロリと平らげた椛はおもむろに女給を呼ぶと、新たに注文を入れ始める。
「以上でよろしいでしょうか?」
「はい♪」
椛は一通りの注文を伝え終えると満面の笑みで頷き、女給も営業スマイルを振りまいて、厨房の方へと戻っていった。
「椛、人の金で食う飯がそんなに美味しいですか?」
私がにっこりと微笑んで問いかけると、
「はい! それが嫌いな相手からだと格別ですね!」
椛はふてぶてしくも笑って頷いてみせる。
まあ、良いんですけどね。
椛よりも高給取りですから。椛の数倍くらいは稼いでますから。
ここは年長者として懐の広いところを見せてやるくらい虚栄は張ってやりますとも。
懐が大きすぎて、相対的に中が寂しいことになっている気がするけれど。
◆ ◆ ◆
「ほら、椛。さっさと行きますよ」
「んもー、そんなに急がなくても良いじゃないですか。もっとゆっくり行きましょうよ」
髪がボサボサにして、まだ開ききってない目を眠そうに擦っている椛が気だるそうに口を開く。
私と椛とでは年齢の桁が文字通り違うのに、随分とふてぶてしい態度だ。白狼天狗の見廻り組の規則は緩んでいるのではなかろうか。
「スクープは待ってくれないんですよ! ほら、酒と飯を好きなだけ飲み食いさせてやったんだから、代金分はきちんと働く!」
「はいはい……あの後、更に追加注文したことをまだ根に持ってますか?」
「そんなに私が懐の狭い妖怪に見えますか? 持っていませんとも。ええ、持っていません。ただ扱き下ろして、ボロ雑巾のようにしてやるって誓っただけです」
「それ、怒ってますよね?」
目の前で両手を合わせ、何度も頭を下げている椛を尻目に、地を蹴り、空に舞い上がり、風に乗っては、どんどんと先へ飛んでいく。
椛はまあ、放って置いても大丈夫だろう。付いてこれる程度には速度を緩めている。
今頃、木々を大きく跳躍して渡り、地面を駆けて付いてきていることに違いない。白狼天狗は空を飛ぶよりも、地面を駆けた方が速い。
「射命丸様ー! 今日はどこに行くのですかー!?」
しかし、声をかける余裕があるほど手を抜いたわけでは無かった。
椛が千里眼で私の姿を追いかけられる程度の速度を保ったつもりだったのだが――彼女も成長しているということか。
「今日は人里です。少し飛ばしますよ」
「えっ、人里? あっ、ちょっとこれ以上はきつ……待っ……わっ! わわっ! わふんっ!」
足を滑らしたのか、枝の折れる音が耳に入った。
まあ、場所はきちんと伝えたし、根は律儀である彼女はきちんと追いかけてくれるだろう。
両腕を伸ばし、真っ黒の翼を目いっぱいに広げ、風を捕まえて空を駆ける。
いつもの様に自分の作った風ではなく、自然の風に乗っていく。
力を抜いて、逆らうことも無く、なすがままに流されて――
――嗚呼、全身で風を感じるなんて何時くらいぶりだろうか。
「遅いですね。仮にも最速を自称している天狗の一人でありながら、なんて体たらくですか」
頬を真っ赤に染めて息を切らし、膝に手を置いて呼吸を整える椛に悪態の一つを入れておく。
「はぁっ……ぜぇっ……これでも、同僚の中では速いほうなんですよ? 射命丸様が速すぎるだけです」
「まあ、私が速いのは否定しませんがね」
それでも全力を出したわけではない。
昔はもっと……と懐古主義になるつもりもないが、私の全力に付いて来れる天狗が新しく現れてくれないのは少し寂しく感じる。
この大空を羽ばたかずに、内側に引きこもった狭い空の下しか知らない天狗達に求める方が無理というものか。
今の時代を否定している訳ではない。現状を悲観し、思考停止するほど愚か者になるつもりもない。
でも、少し黄昏れるくらいは許してくれないだろうか。
昔の空を投影し、天魔と一緒に各地を回った時は本当に楽しかった。
何もかもが新しいことだらけで、様々なことを天魔から教えてもらったりもした。
あの頃の空はあまりにも広かった。どこまでも飛んでいけると思った。飛んでいきたいと思った。
では今の空は?
「私の息が整うまで待ってくれるなんて珍しいですね」
空を見上げていると、不思議そうな顔をした椛が横から私の顔を覗き込んできた。
「珍しいとは失礼ですね。週に一度、貴方のちんけな給金では到底、入れないような店でご馳走してあげているのは誰ですか?」
「はい、私のような下民では到底持ち得ることのない、射命丸様の懐の厚みには感服するばかりであります」
「厚みですか。私は貴方の財布ですか」
「いえいえ、そんなことは一言も。でも、少なくとも広くはないでしょう?」
眩いばかりの笑顔で椛はさらっと言ってのける。
そこに悪意を感じないから、きっと本音から言っているのだろう。
彼女の底抜けの厚かましさには、すがすがしさすら感じてしまう。
「で、今日は何処へ連れて行ってくれるのですか?」
両手を合わせ、尻尾を左右に振って期待に満ちた目で私を見つめてくる。
ああ、本当に図々しい。こいつは本当に私のことを尊敬すべき人生の先輩と見ているのだろうか。
「美味しい店が新しく開いたと聞いたので、まずはそこに行きますよ」
「美味しい店!? それはなんという食べ物ですか!?」
急に身を乗り出してきた。
いい年した女の癖に食い意地ばかり張って……だからこそ、連れ出すのも楽なんだけど。
「ただの茶店ですよ。ただ扱っているものが特別でして、抹茶を使ったデザートなんかが美味しいと聞きましたよ」
「抹茶! あれは苦くてのが嫌いだったのですが、友達に薦められてミルクとシロップを入れてみたんですよ! んで、これがまた美味しくてですね!」
身振り手振りで私に伝えようとする彼女に、私は目の前に人差し指を立てて静止する。
「分かっていませんね、椛。そこが良いんじゃないですか。それに抹茶は砂糖菓子で口の中を甘くしてから、飲んで中和するんですよ」
「それだったら、最初から甘くしても一緒じゃないですか。二度手間ですよ。無駄は省くべきです」
「それが風情というものじゃないですか。ああ、小娘にはまだ早いでしょうか」
「むぅっ」
乙女らしさの欠片もない膨れっ面を見せる椛はさておき、文花帖を取り出して場所を確認する。
先日も見たが、店は大通りから少し離れたところにある。
情報提供者によれば、この店は穴場らしく席はいつでも空いているだろうから急ぐ必要はないとの話。
「そろそろ行きますよ、椛。美味しい料理が待ってますよ」
「はい、急いでいきましょう。ところで射命丸様、今日は奢ってくれるのでしょうか?」
「……ほんっと、厚かましくて図々しい犬っころですね」
精一杯の悪態を込めて睨み付けると、椛は小さい胸を張って誇らしげに口を開いてみせる。
「犬は気高い忠義心を尊ぶ生き物なんですよ。餌付けと毛並みの手入れをしてくれれば、そりゃあもう手となり足となり、恩義の分は必ず返します」
「そりゃまた現金な忠義心でして……まあ、一品だけですよ?」
「やった!」
椛は嬉しそうに小さくガッツポーズを作ってみせる。
食事を与えれば、それなりに言うことを聞いてくれるワン公。
ちょろい女だとは思うが、餌で釣って連れ回すのも気分的によろしくない。
どうせなら、お金を払って正式に雇うことはできないだろうか。
「射命丸様、調子でも悪いのですか? なんなら、私が射命丸様の分まで食べてあげますよ!」
胸を叩いて減らず口を叩く椛の頭を思い切り抑え付けて、くしゃくしゃって頭の髪を掻き乱してやる。
「わわっ、そんな乱暴な真似はやめてくださいよ! 撫でる時はもっと優しく愛情を込めてください! それじゃ懐く犬も懐きませんよ!」
あまりに悲鳴を撒き散らすものだから、頭から手を除けてやる。
椛は悲しそうな顔をして髪の先を摘んで、毛の状態を確認する。
元から跳ねていたでしょうに――今更、女性らしい一面を見せられても同情もできない。
「ったく。貴方にあるのは食い意地だけですか」
「向上心はありますよ。この前、武闘大会で優勝もしましたし……ああ、インタビューしても良いですよ。是非、一面に飾ってください」
「ああ、若手達が参加する大会でしたっけ? そんな小さな大会の記事なんて需要ありませんよ」
自分の栄誉を誇らしげに語ってみせる椛に私は冷ややかな言葉を投げかける。
武闘大会と言っても、所詮は天狗だけで行われる大会だ。
今でこそあれだが、天狗は元々武闘派集団。武が強いことが誇りであり、皆からの憧れの対象にもなる。
平和の世の中でも、その傾向は消えておらず、今も武闘大会なんて開いて自らの強さを誇示するのだ。
そして椛も武の高みを目指す一人なのだ――素質はまあ悪くないと思っている。
「一応、新人王の称号をもらったんですけどね。知ってます? 私は新進気鋭の若手として期待されているんですよ」
「知っていますよ、私を舐めないで欲しいですね」
つい一週間前、知り合いの天狗から話は聞いている。
その天狗は「大番狂わせ」とか「ダークホース」とか好き勝手言ってくれていたが――椛は仮にも私の相方なのだ。
訓練ばかりで実践を一度も体験したことがない相手如きに彼女が遅れをとるなんて思えない。
私の下馬評ではオッズ1.0で賭けにもなりやしない。
それで負けるようなら、わざわざ餌で釣って連れ回したりなんかするものか。
「もういい加減行きましょうか、ワトソン君」
「誰ですか、それ……って、あーもう、また置いて行く!」
嫌われているのは分かっている。同様に私も、この厚かましくもふてぶてしい犬っころが大嫌いだ。
それでも一緒に居るのはどうしてだろうか。きっと、彼女しか私に付いて来れる天狗が居ないからだろう。
◆ ◆ ◆
「失礼しまーす!」
大通りから少し離れた路地裏にて威勢の良い声が響き渡る。
「もうそろそろ少し落ち着きというものを覚えませんか?」
人の通りの少ない場所に構えた、少し草臥れた一軒屋。
椛の後に続き、入り口に掛けられた暖簾を潜り抜け、中に入る。
「雰囲気は悪くないですね」
十分な広さを取った部屋に完全な和風とは言いがたい空間。
窓には簾が下げられており、適度に太陽の光を遮った程よい薄暗さ。
そして、椅子と机が数組ほど用意されており、机同士は壁で適度に間切ってある。カウンターも用意されている。
どうやら茶店というよりも、和風の喫茶店と言った方が近そうな雰囲気だ――柱にもアンティークな時計が掛けられてあるし。
尤も、和風の喫茶店と茶店の違いが何なのか自分で思っていて分からないけど。まあ、ニュアンス的な意味で。
「さて、椛は何処に行きましたか」
ぐるりと店内を見渡すと、机の間切る壁から白い尻尾が覗かせているのを発見した。
遅れてやってきた店員が席を案内してくれようとするのを丁重断って、白い尻尾に向けて足を運ぶ。
「この前の新聞は読ませてもらいましたよ。記事にしてくれてありがとうございますね!」
「別に貴方のためじゃないわよ。むしろ、感謝をするのはこっちの方。協力してくれてありがとうね、おかげで良い記事を書かせてもらったわよ」
「はい、私でよければいつでも協力しますよ。どこかの誰かさんとは大違いですしね」
知り合いでも居たのだろうか。
椛と話している相手の声に聞き覚えがあるが――えーと、誰だったっけな。
考えていても仕方ない、見れば分かるだろう。
「それは何処の誰なんでしょうねぇ、椛?」
壁の裏側を覗き込んで見ると、苦笑いをして私を見つめる椛と、椅子に座って緑色のアイスクリームを口に運ぶツインテールをした天狗の少女。
「げっ、文じゃない」
「そんな、あからさまに嫌な顔をしないでくださいよ。もっと大人の対応をしてみませんか、はたて」
「取り繕ったところで今更って感じでしょ」
「まあ、そうなんですけどね」
姫海棠はたて。念写を得意とする新聞記者。
最近、内容が迷走気味になっている花果子念報を出版している子だ。
やけに私をライバル視してきており、最近では私の真似をして妖怪の山の外にまで足を運んでいるらしい。
一応、彼女の新聞も目に通しているが写真に比べて文字量が多く、見ただけでうんざりとしてしまう。
蛇足のような文章が多いし、憶測が多い割りに裏を取っていることが少ない。
記事内容を重視する思考を否定するつもりはないが、中身の薄い文章を連ねても意味が無い。
そもそも記事の本質まで見ようとする人間なんて限られている。それならば、簡潔に事実を述べたものを提供する方がまだましだ。
深い考察を書きたいならば、書籍や専門誌でも出版すれば良いだろう。
私達、新聞記者の持つ力はある意味では強大だ。それこそ世論を左右してしまうほどにだ。
だからこそ、言いたいことを言うだけが新聞ではない。
事実を客観的に受け止め、あるがまま記して伝えるというのが私の持論。とはいえ、興味を持ってもらうために多少の脚色はしますけれども。
理想を持つのは結構だが、理想しか見ていない彼女はやはり青いのだと思う。
「あー、椛が珍しく人里に居ると思ったら、貴方のせいだったのね」
「はい、彼女は私の優秀な忠犬ですからね。少し食費が重むのが難点ですが」
「貴方には勿体無い相方ね」
「ええ、椛には勿体無いほどの主人であると自負しています」
はたては眉を顰めて、しばらく私を見つめた後、同情するような目で椛を見た。
「貴方もこんなのが相方じゃ大変でしょう?」
「ええ、苦労しますね。自分勝手で私を置いて先に行っちゃうし、憎まれ口はいつまで経ってもなくなりませんし、頭も見てくださいよ。射命丸様に撫でられて、くしゃくしゃです」
「それは元からでしょう……あと、文句もそこまでにしておかないと今度からは奢ってあげませんよ」
「射命丸様は本当に素晴らしいお方。不満を持つなんてありえませんよ」
現金な奴だ。
いつも文句を言ってきて、食い意地ばかり張っていて、厚かましくて図々しくてふてぶてしくて、本当にどうして私はこんな奴を相方にしているのやら。
「椛、そいつのことが嫌になったら何時でも私のところに来てもいいのよ。貴方なら給金を弾むわよ」
「うーん……射命丸様、どうしましょうか? 今、私の心が揺れていますよ?」
「気高い忠義心はどこへ行ったんですかね?」
きょとんとした表情で私を見つめてくる椛の頭を思い切り掻き乱してやる。
「貴方も貴方ですよ。私の目の前で堂々と引き抜きをするのはやめてくれませんか?」
「別に引き抜いているつもりはないわよ。そこまでの拘束力のある契約を結んでいるわけでもないでしょ?」
「美味しい料理に連れて行って貰って、毛並みの手入れをしてくれるなら一緒に行っても良いですよ」
「おいこら、駄犬。さっさと、この席から離れますよ」
椛の首元を掴んで引きずって行こうとしたが、一足早く、彼女は席に座っておもむろにメニューを開いた。
「あー、すみませーん! 注文、取ってもらってもよろしいでしょうか!」
「どうして、そこの席に座っているんでしょうね? 私は違う席に行くと言いましたよね?」
「まあ、良いじゃないですか。ここは年長者として、どっしりと腰を据えましょうよ」
「椛、私もこいつと相席するのは嫌なんだけど」
「私と一緒に食事をするのはそんなに嫌ですか?」
「そんなこと一言も言ってないわよ」
なら良いじゃないですか、と椛は嬉しそうに尻尾を振る。
少しすると店の奥から店主らしき人物がやってきたため、渋々と席に座ることにする。
椛の隣に。
「この抹茶のパフェってのをください」
「一番高いのを頼むとは容赦ないですね。では、私は抹茶の餡蜜をお願いします」
「本当に居座るつもりなの? あ、私はミルクティーを追加で。それとこいつらとはレシートを別にしてくださいね」
店主は快諾すると再び、店の奥へと戻っていった。
さて、デザートが来るのを待っている間に、お冷で水を潤した。井戸水だろうか、冷えていて美味しい。
椛はというと、お絞りで手を拭きながら楽しそうに耳をピコピコと動かしている。わずらわしい、摘んでやりたい。
「あーあ、この穴場は私だけの独占にするつもりだったのになぁ。せっかく、念写に頼らずに見つけた店なのに」
アイスクリームを食べ終えた、はたてはつまらなさそうに口を開く。
「たぶん、情報源は一緒でしょうね。私は普通じゃない普通の魔法使いから薦められましたよ」
「教えてくれた河童の子も魔法使いから聞いたって言ってた。この調子だと数週間もすれば、情報が知れ渡っているんじゃないかな。早く記事にまとめないと」
「少なくとも新聞にする奴はいないと思いますけどね。貴方よりも早く出さないといけませんから、少しだけ急いで書かせてもらいますけど」
基本的に天狗は外の世界に興味がない。
だから、身内受けの新聞を作ろうと思ったら、必然的に身内にとって都合の良い情報を提供するのが良い。
妖怪の山の外にある茶店の情報なんて欲しがる天狗はいないだろう。
「そういえば、文。新聞大会の調子はどうなの?」
天狗の新聞大会。
過去、上層部が新聞を流行らせるための手を尽くした結果、あちこちで新聞の乱立が起こり、結果的に全体の質の低下へと繋がった。
それを緩和し、互いに競わせることで新聞全体の質の向上をさせるために取られた政策がこれだ。
とはいえ質の向上に繋がっているのかは正直な話、微妙である。
上層部はこの大会を利用して、自らの息のかかった新聞を上位に持ってきて、人気新聞にするための手段にしている。
事実、審査委員会は上層部から選出された者が行っているのだ。まあ、基本は発行部数であるから、完全に順位を掌握できているわけでもないけれど。
上層部の息のかかってない新聞が上位に来たときは、その人気に目を付け、お金で包み込もうとする。
最近では上層部のお墨付きが欲しいがために記事を書く、天狗も多いほどだ。
そういえば、こんな謳い文句もあったな。『○○様が運営している新聞なので信用できる内容です!』とか。
こんなあからさまな文句で騙せる相手なんているのかと思ったが、それなりに部数を稼げていると聞いているから驚きだ。
「私の心配よりも自分の心配をした方がよろしいのでは?」
「もう、つれないわね」
お冷を口に運ぶと、はたては不機嫌そうに唇を尖らせる。
はたては天狗の新聞大会で優勝を目標に掲げている。
しかし上層部からの恩恵が授かりたいという意味はなく、ただ単純に栄誉が欲しいという思いから来ている。
さっきは散々なことを思い連ねていたが、彼女の記事は日々進歩している。このまま情熱を持ち続ければ、入選が取れる程度の腕前は身に着けるだろう。
しかし、それでも、彼女の新聞が入選することはないだろうと思う。
私の新聞をライバル視しているせいか、対外向けの傾向が日を重ねる事に強くなっているのだ。
博麗神社や人里の情報、命蓮寺についての話があったりするが――どう考えても内容が天狗向けではない。
それに先ほど出版部数と言ったが、あれは妖怪の山限定のことである。
つまり、彼女が本気で新聞大会で優勝しようとするならば、もっと天狗向けの見栄えとウケの良い記事を書き連ねる必要があるのだ。
そうして地道に天狗達の支持を集めて、やっと手にすることができる栄光だろう。
「あ、来ました! 来ました!」
店主が店の奥からお盆にパフェと餡蜜とミルクティーを持ってくるのを見かけると、椛はまるで子どものようにはしゃいで身を乗り出す。
本当に、もうちょっと落ち着いてくれないですかね。一緒にいる私が恥ずかしい。
「どうしたのです? お腹の調子でも悪いのですか? 私が代わりに射命丸様の分まで頂いてあげましょうか?」
頭を抱えていると、椛が嬉しそうな顔で私の顔を覗き込んできたので、彼女の額にデコピンを食らわしてやる。
「きゃいんっ!」
涙目で頭を抱える椛に対し、運んできてもらった餡蜜を抱えるようにして椛から隠す。
「あげませんよ。一口たりとも差し上げるものですか」
「そんなことを寂しいことを言わないでくださいよ。私の分も一口差し上げますから。ほら、あーん……」
椛はパフェの頂点に抹茶のクリームをスプーンで一掬いして、私の目の前に差し出してくる。
「やめてください。良い年して恥ずかしい」
それを手で払いのけ、自分の目の前にある餡蜜に手を付ける。
名残惜しそうに私の餡蜜を見ているが気にしない。
「あなた達って本当に仲が良いわよねぇ」
ストローをくわえてミルクティーを吸い上げる、はたてがそんなことを言った――聞こえないふりをした。
それから暫くの間、抹茶のデザートを堪能しつつ、雑談を交わした。
とはいえ、話しているのは椛とはたてばかりであり、私は甘くて、仄かに苦い抹茶の杏仁豆腐を舌の上で転がしながら二人の会話を聞いている。
「この前、射命丸様と太陽の畑に行ったんですよ。目いっぱいに広がる身の丈以上のひまわりも圧巻だったのですが、全部が全部、同じ方向を向いているんですよ。少し上から眺めた時は、それはもう爽快でしたね」
「でも、あそこの風見……だったかしら? あまり良い噂は聞かないんだけど」
「あの方は優しい方ですよ。少し誤解されそうな雰囲気もありましたけど、ハーブティーをご馳走してくれましたし」
私には、ただの水でしたけどね。
「貴方は餌付けさえしてもらえたら、誰でも良い人になりそうね」
「いやいや、良い人ってのは見返りを求めない人のことですよ。射命丸様なんて見返りがないと奢ってくれませんしね」
何かほざいている椛を睨みつけてみるが、彼女は気にする様子もなく、幸せそうな顔で目の前のパフェを堪能している。
嗚呼、彼女のように厚顔無恥な性格をしていたら、どれだけ人生を幸せに感じられるだろうか。
私の人生で最も失敗だったと思うのは中途半端に賢しくなりすぎたことだ。
幸せになるのに最も必要なことは、余計なことに気づかない能天気さである。
「先週なんかは、紅魔館に行かせてもらったりもしたんですよ」
「椛、少し黙りなさい」
「へぇ、何をしに行ったのですか?」
「吸血鬼がまたパーティーを開くことになったって情報を掴んだので、その話を聞きにですね」
「椛」
「うん、それでそれで?」
「今度のパーティーはですね。いつもと少し違う趣向に……」
「椛!」
少し声を張り上げると、椛が耳も尻尾もピンと立たせ、ゆっくりと私を方に振り向く。
私は餡蜜をスプーンを掬い、口元に運んで平静を装った。
椛だけではなく、はたても目を大きくしてしまっている辺り、少し声を大きくしすぎたようだ。
「すみません。少し驚かせてしまいましたね」
なんとなく気まずくなったので、頭を掻いて、素直に謝る。
すると椛はうろたえ始めて、はたてに視線を送るのを視界の端に捉え、はたては深くため息を吐いた。
「あー、えーと……」
わざとらしく、はたては声を出す。ただ言おうかどうしようか迷ってるのか、歯切れが悪い。
少し視線を逡巡させた後にやっと決心を決めたらしく、私と視線を合わせる。
「その紅魔館なんだけど、最近、河童が出入りしているみたいなの。ちょっと後をつけてみたんだけど調整とか言っていたし……もしかしたら裏で何か大きなことをしようとしているのかも」
はたては全部言い切ると、気まずそうにストローに口をつけてミルクティーを吸いだした。
紅魔館と河童の仲が良いことは前々から知ってる。
意外と知られてない事実ではあるが、両者が特別に隠しているわけでもないため、少し調べれば関係なんてすぐにバレてしまう程度のもの。
それに紅魔館の中に入れば分かることであるが、館の中は細かいところで河童の製品を使われている。
そんな両者の関係に何もない方がおかしいだろう。
「……情報を聞き出したお詫びですか? 貴方はこの世界で生きるには、少しばかり優しすぎますよ」
「そういうつもりじゃないわよ。ただ、文なら紅魔館と懇意だから、何か知っているのかもと思っただけ」
そう言って彼女は口先を尖らせ、視線を逸らす。
素直じゃないな。しかし、この場で素直になれという方が無理というものか。
「はい、知っていますよ。それはトイレの改修工事なんです」
「えーっ? トイレなの?」
「中身を見せてもらいましたが居心地が良い空間でしたよ、まるで憩いの場。本棚なんかを置いて、数時間くらい篭っていたいくらいです」
「それってどうなの? いや、朝にトイレを占拠されたらまずいでしょう」
「さあ? まあ、地下とレミリアお嬢さんの私室の近くにだけ配置したみたいですから、特定の人物しか使われないんじゃないですか?」
私が情報を掴んでいることに落胆したのか、せっかく掴んだニュースがたかがトイレの改装だったことにがっかりしたのか、はたては大きくため息を吐いた。
「射命丸様、少し行き過ぎてしまいました。申し訳ありません」
私の横に座る椛も、この調子だ。耳を垂れ下げて、尻尾にも元気がなく汐らしい。
「椛、らしくないじゃないですか。もっと上機嫌に振舞ってはいかがです?」
「あまり虐めないでくださいよ。私だって、叱られて開き直るほど馬鹿でいられません」
「それではまるで普段が馬鹿ではないようじゃありませんか。それなら、確かめてみましょう」
餡蜜に備え付けられていたサクランボを口に運び、実を舌で潰す。甘酸っぱい味が口腔に広がる。
「貴方はなんです?」
「図々しくもふてぶてしい、卑しい卑しいわんこめでございます」
「今の貴方はなんです?」
「貴方の命令にはなんでも従う従順な犬です」
「私のことが好きですか?」
「大嫌いです」
「…………」
椛の目を見つめる。彼女の美しい赤みがかった茶色の瞳に私の顔が写っているのが分かる。
目を逸らさず、瞬きをすることなく見つめ合うこと数十秒。彼女の落ち込んだ耳が立ち上がり、尻尾もいくらか元気が戻っている。
「……本当に貴方は賢い犬ですよ」
「ありがとうございます」
椛の白く輝く髪を梳くように撫でてやると、気持ちよさそうに鼻を鳴らした。
ついでだから、手櫛で跳ねた髪の毛も少しだけ整えてやる。ほんの少しだけ。
「さて、早くパフェを食べてしまいなさい。今日はまだ、回るべきところはいっぱいありますよ」
「あ、はい。分かりました」
椛は頷くと、まだ半分以上残っているパフェを急いで食べ始める。
そして、先ほどからずっとミルクティーを啜っている、はたてはというと唖然とした表情で私達を見ていた。
「貴方達、いつもそんなことをしているの?」
「愛犬のしつけはしっかりとしておくことが大事なんですよ」
「目上の人には尻尾を振ることが生きる術です」
「……貴方達はお似合いよ」
彼女は呆れるように、もう一度ミルクティーを啜るとズズッという音が鳴った。
「ああ、そうそう。はたてはどうでしたか?」
「どうでしたって……何のことよ」
「妖怪の山の外に出てみてどうでしたか。様々なものを見てきたのでしょう?」
「そんなの聞いてどうするのよ……別にいいけどさ」
一度、怪奇そうに眉を顰め、両頬を手に乗せて、うーんと考え込む。
「私の知っていた世界なんて、ほんの少しってことを思い知らされるわ。幻想郷ってこんなにも広かったんだって痛感させられる」
「妖怪の山が狭すぎるだけですよ。私から見たら幻想郷だって小さいですからね」
外の世界を知る者にとって幻想郷は小さすぎる。
吸血鬼である紅魔館のお嬢さんも、あっという間に端から端まで飛んでいってしまうだろう。
それぐらいの広さしかないのだ。それすらも大きく感じるほどの妖怪の山は狭いということだ。
「あれ? そうなると射命丸様は幻想郷ができる前から生きていたのですか?」
口元にクリームを付けた椛が横から口を挟んでくる。
「そうですよ。椛は知りませんでしたっけ? クリーム付いてますよ」
「あ、すみません。それと私よりも長生きしている新聞記者ってことくらいしか聞いてませんよ」
ペロリと舌で口の周りを舐めて、椛が言う。
吸血鬼異変を経験してる年頃だと、私の名前を聞いただけで皆が頭を下げてきたものだったが、今の世代には私の認知度は低いのかもしれない。
となると……
「はたては知っているのですか?」
「知っているわよ。そいつが無知なだけ。射命丸文と言えば――――」
「あー、はい、分かりました。それ以上は言わなくても構いませんよ」
「ん? ま、いいけど」
はたては不思議そうに首をかしげると、コップの中に入っていた氷をストローを器用に使って口に含んだ。
知っていて私のことを呼び捨てにする、はたては年上に対する敬意というものが足りないのではないだろうか。
でも、長く生きているだけで、特別な何かをしたという訳でもないから当然の対応かもしれない。
強いて上げられるのは天魔の友人くらいであり、公表されていることでもない。せいぜい知り合い程度の認識だろう。
「…………」
ふと、気になった。
天魔と共に飛んだ熱い空を知らない世代にとって、今の天狗はどう写っているのだろうか。
散々、悪態ばかりを吐き捨てていた気がするが、それでも私は天狗という種族が好きだ。
思い出のアルバムも、すっかりと色あせてしまったけど――ずっと昔から大きくなっていく様を見続けてきたのだ。
良いところも、悪いところも、ずっと見てきた。
「あなた方は天狗という種族が好きですか?」
それを見ていない若者達はどう思っているのだろうか。
問いただすことに意味はない。単なる知的好奇心だ。
「……いきなり何よ」
「射命丸様、それはどういう意図でしょうか?」
ジトーとした目で見つめてくる はたてに、眉を顰める椛。
「特に意味はありませんよ。ただ、なんとなく聞いてみただけです」
意味なんてないし、意図もない。
好きって言ってもらえたら嬉しいのだろうか。嫌いと言われたら悲しむだろうか。ああ、やっぱりと思うだけだろうか。
よく分からない。自分でも分からないが故に問うたのかもしれない。
「好きか嫌いかで言うなら、きっと好きだと思う」
そう言ったのは、はたてだ。
視線を落とし、ストローでコップの氷を転がしている。
「正直にいうなら、よく分からない。きっと無くなったら寂しいと思うけど、それ以上に私はもっと外の世界を見て行きたい」
でも、と はたては繋げると、
「今は妖怪の山以外の場所に定住するのは考えられないわね」
最後にそう結んで、微笑んだ。
「これで満足?」
「ええ、十分過ぎます」
自然と笑みが零れた気がする。
嬉しかったのだろうか、たぶん嬉しかったんだと思う。
「そうですね、質問に答えてくれた礼にこんなものを差し上げましょうか」
ポケットの中身を弄って、一枚の封筒を取り出す。薄いピンク色の封筒で、赤い蝋に家紋を押したので封印されている。
「これ、紅魔館の封筒じゃない。まだ開いてないけど良いの?」
はたては家紋を見ただけで、それが誰によって書かれたものかを言い当てる。
「中に入っているのは先ほど言っていたパーティーへの招待状ですよ。同じものをもう一枚持っているので大丈夫ですよ」
そう言って、封を破いた封筒を見せると、はたては封筒をおずおずと受け取った。
そのまま、彼女は封筒を目の前に掲げると、家紋の押された蝋を物珍しそうに眺めて手で触れる。
「それ一枚で二人の参加が許されているんですよ。普段は一枚しか貰えないのですが、私と椛の分ということで二枚」
「……椛は良いの?」
「良いですよ。私はいつも、射命丸様の招待状で御一緒させて貰ってますから」
はたてが椛に視線を送ると、椛は笑顔で快諾する。
「今回に限って私に二枚渡すっていうことは、新聞に載せて宣伝してもらうのが目的のようですね。それで他の新聞記者にも伝えて欲しいと言ったところでしょうが、天狗は妖怪の山にしか興味ないのに誰に渡せというんでしょうねぇ」
「幻想郷全土に配っているのは文だけだからね。最近、私も配り始めたけど、まだまだ。ジャンク屋の店主からは駄目出しされるし嫌になっちゃう」
「ああ、彼は口五月蝿いですからね。何か言われるのが面倒だから窓から放り込んでますけど」
「それって、やっちゃいけないんじゃない?」
「紅魔館の門には半日常的に虹色の光線がぶち込まれてましたよ。今は侵入手段を変えたようで、鳴りを潜めてますけど」
さて、と机に手を付いて席を立つ。
椛も最後の一口を慌てて口の中に放り込んで、少し遅れて立ち上がった。
「パーティーに参加して勉強させてもらうと良いですよ。ついでに繋がりの一つでも作って来ると上々ですね。あ、寂しいなら椛を貸しますよ」
「それぐらいは一人でなんとかする。……でも、私は高価なドレスなんて持ってないわよ」
「適当で良いですよ。良いに越したことはないですが、巫女装束のまま来る方も居ますしね」
「ん、分かった」
自分と椛の分のレシートを取ろうとすると、横から伸びてきた手に奪い取られてしまう。
「これは私が払っておく」
「ありがとうございます。ですが、お金ではその招待状の恩を返せませんよ」
「……分かっているって、いやらしい」
機嫌が悪そうに彼女は鼻を鳴らして両頬を手に乗せた。
そんな彼女を見ていると、思わず口の端を吊り上がってきてしまう。
「意地の悪いことですね」
先に進んでいた椛が私の顔を、じとっとした目で見つめてくる。
「そうですか?」
「そういう顔をしていますよ」
うん、違いない。
◆ ◆ ◆
太陽が傾いてきた。
青い色をした空に赤みが差し、空を飛んでいる鳥がカァカァと鳴き始める。
今は妖怪の山へと続く道にある、少し大きな木の枝の上。そこに腰をかけて、今日、聞いた話を文花帖にまとめながら注釈を入れている。
椛も同じ枝に寝転がって、気分よさそうに寛いでいる。
今やっているのは覚書で本格的にまとめるのは帰ってからするので問題はないが、仕事をしている横なのだから少しは遠慮をするものではないだろうか。
迷惑になってないから良いんですけど。
「今日もたくさんの妖怪に会って、たくさんの場所に行ったりして疲れましたねぇ」
頭の後ろに手を回し、余裕のある笑みを浮かべた椛が言う。
「貴方は何もしていないじゃないですか。今回は荷物持ちの仕事もありませんでしたからね」
「……その荷物持ちですら、あまり機会はありませんけどね」
「そーなんですよね」
そう言って、不意に椛が上半身を起こし、顔を近づけてくる。
今にも息がかかるくらいの距離で、綺麗な赤茶色の瞳で私を真っ直ぐに見つめてくるものだから、照れくさくなってつい顔を退いてしまう。
「な、なんですか、急に?」
「いえ、別に」
「そんな見つめられて何もないという方がおかしいでしょう。何なんですか?」
気を紛らわせるために目を文花帖に落とすが、こうも見つめられていると上手く集中できない。
ペン先で文花帖をトントンと突くばかりで、文字数が増える気配がない。
二つのことを同時に考えるのは慣れていないと難しい。
ましてや、この状況だ。集中力を阻害するには持って来いだ。
何もないならあっちに行け、と横目で椛を睨みつけると、椛は少し悲しそうな表情を見せた。
「……ただ射命丸様がどうして私なんかを連れて行ってくれるのかと思っただけですよ」
「そんなことですか?」
「だって、千里眼の能力はほとんど使わないし仕事しない方が多いですよ。一緒に居る意味を見出せって方が難しいですね」
パタンと文花帖を閉じると同時にため息を一つ。
このまま逃げるのは簡単だが、この後、申し訳なさそうに見つめられて作業が捗らないのは目に見えている。
それ以上に、次からは食事で誘うことも一筋縄ではいかなくなる可能性がある。
そして、そこまでして気乗りしない椛を連れ出すのは、こちらとしても不本意だ。
「椛、この指のずーっと先には何があるか見えますか?」
そう言って、私が指を差すと、椛はその指の先を追って目を凝らした。
千里先を見通すことのできる目。とはいえ、視界が広いわけではないから、見たいものを見つけるまでに少々の時間を要する。
生き物であれば、白狼天狗持ち前の勘の良さで直ぐに探り当てることも可能らしいが、今差している先は生き物ではなく場所だ。
「……霧の湖が見えますね」
暫くして、椛が重い口を開いた。
「ここに初めて連れて行った時のことは覚えてますか?」
「覚えていますよ。まだ太陽も昇ってない時に無理矢理連れ出された記憶があります」
「春先のことでしたっけ」
「そうですよ」
椛は少し顎を上げて、物思いに耽るように目を閉じる。
「綺麗でした。霧の湖という名なのに霧がどこにも無くて、対岸が見えるほどに透き通ってました」
「日の出の光を反射し、波の動きでキラキラと輝く水面もなかなか良いものでしょう」
「はい。横殴りの光は眩しかったですけど、山の隙間からあがって来る朝日も美しかったですね」
あの時は自分で見つけた幻想郷の顔を、椛に直に見せたくて連れて行った。
行くまでの間は延々と愚痴ばかり言っていった椛も、いざ、その場所に着くと言葉を失っていた。
朝日の光を浴びて、身を震わせながら風景に見惚れている椛を見たときは彼女を連れて来て良かったと思った。
「では、椛。あっちには何が見えますか?」
「あっちには中有の道ですかね? もう外も暗くなるのに、まだ出店の光が灯っていますね」
「いやいや椛。出店は今からが本番じゃないですかね。二人で行った時も夜遅かったでしょう?」
「ああ、はい。そうでした。最初、三途の川に行くと聞いた時には気が狂ったのかと思いましたけどね」
あの時は興味のあるものを買って食い歩いた記憶がある。
椛は射的をやったり、くじを引いたりと随分と楽しんでいた記憶がある。
金魚掬いでは、張り切りすぎて身を乗り出しすぎて水槽の中に頭から飛び込んだ時は盛大に笑ったものだ。
「どうして笑っているんですか?」
おっと、つい笑みが漏れてしまったようだ。横から睨みつける椛に意を解さず、彼女の頭を撫でた。
機嫌を悪くしている辺り、大方の理由は察しているのだろう。
「さあ、なんででしょうかね?」
「……言わなくても良いですけど」
撫でられたまま彼女は膨れっ面を見せる。
可愛いな、こいつ。意地悪したくなる類の可愛さだ。
「それで、他には何処に行きましたっけ?」
「ほら、あそこの八目鰻は絶品だったじゃないですか」
「貴方はそればかりですか……」
「あのタレは――酒にも――――」
「味は――香りも――――」
「―――――――」
「――――」
そうやって、周りが暗くなるまで二人で語り合った。
椛は行ったことある場所を言葉足らずの部分を身振り手振りで補い、尻尾を振りながら楽しそうに話してくれた。
そんな椛を見ていると、つい頬が緩んでしまい笑ってしまう。
ああ、こんな時は酒が欲しい。さぞかし美味しいことだろう。
埃被った思い出を吐き出して、また胸の奥に仕舞い込むのだ。
物珍しいものは少なくなり、大半のことには驚かなくなったが、時代が進むと世界にも変化がある。
たまには昔は良かったと言うのも良いが、探せば綺麗な石なんて何処にでも転がっているものなのだ。
「椛は私と一緒に居るのは嫌いですか?」
不意に問いかけてみる。
椛は一瞬、言葉を失ったが直ぐに花で笑って憎たらしい笑みを浮かべてみせる。
「嫌だったら来ていませんよ。貴方に付いて行くと、色んな場所に連れて行ってくれる。新しいことを教えてくれる。これでも貴方には感謝はしているんですよ」
だからこそ、と椛は言う――私は貴方の部下にならない――と。
「私は貴方から学べることがあるから、大嫌いな貴方に我慢して付いていっているのです。貴方を見ていると自分の小ささを嫌でも実感させられますからね」
椛は頬を掻いて、苦笑する。
「いつか私は一人でこの広大な大地を駆け回ります。そうして、やっと貴方に並べる気がしますから。……私はいつまでも貴方の下なんて嫌なんです」
椛が枝の上に立ち上がり、気持ちよさそうに、うーんと体を大きくして伸ばした。
「これからも美味しいものや楽しいことを色々と教えてくださいよ」
そう言う椛はやっぱりふてぶてしくて、図々しい。そんな貴方だからこそ、私は外に連れ出したいと思った。
妖怪の山に居る、ほとんどの天狗達は外を知らない。
天魔の側近だった者達の大半は戦乱の時に亡くなり、生き残った少数も吸血鬼異変や月面戦争の時に亡くなっている。
残った幹部達も昔の情熱を無くし、今や内に目を向けてばかり。自分達の縄張りに関係なければ、内輪揉めばかりする日和見主義の集まりだ。
それが私には窮屈だった。妖怪の山は大きな鳥篭のように思えた。
鳥篭から眺める空がとても恋しくて、そこから私は抜け出して外の世界へと飛び出していった。
昔、彼女と共に駆けた空はとても広くて、どこまでも飛んでいけそうだった。
一緒に飛ぶだけで高揚し、体に熱が篭るのが分かった。その衝動をもう一度感じたくて、鳥篭から飛び出した。
嘗て、天魔と駆けた空は、一人で飛ぶにはあまりにも広く、寂しかった。
ただ語れる相手が欲しかったのかもしれない。誰かに一緒に飛んで欲しかったのかもしれない。
新聞を書いているのだって、私のことを分かってくれる仲間が欲しかったからなのか。知って欲しかったのからなのか。
――ふぅ、と嘆息を零す。
私は歳を取り過ぎたのかもしれない。静かに暮らすべきなのかもしれない。
しかし、それをするには一つの思い残しがある。
「射命丸様、急に黙り込んでどうしたんですか?」
そう言って私の頬を摘もうとする椛の手を払って、枝に膝を付いて立ち上がる。
「椛」
「あ、はい。なんですか?」
名前を呼ぶと、きょとんとした表情の椛が返事をしてくれる。
「私は今日、仕事をする気を無くしました。そこでこれから八目鰻を食べに行こうと思うのですが、一緒にどうです?」
「奢ってくれるなら付き合いますよ」
私はお猪口を仰ぐ仕草をしてみせると、椛はいやらしく口角を吊り上げた。
今日とその前の分も含めて、いくら奢ってやったと思っているのだ。
頭の中で財布の勘定を済ませ、すっかり軽くなっている懐と相談して溜息を零した。
「酒一杯分だけなら出しますけど?」
「ケチですね」
そう言う椛は笑っていて、きっと私も笑っている。
◆ ◆ ◆
日は沈み、月が頭上高くやってきても、妖怪の山の夜は終わらない。
何処かしらで騒がしい音が聞こえ、てんやわんやの宴会騒ぎ。
天狗は夜目が利くものだから、光は点けずに闇の中で語り合っては号泣し、笑って飲んででてんてこ舞い。
そんな通りをするりと通り抜けて、妖怪の山の奥へと進む。
土草を踏んで暗い夜道の中を歩いていく。
騒音は遠く遠く、遥か後方へ。進めば進むほどに闇は深まるばかりで、真っ黒の翼を真っ暗な闇の中に同化する。
そのまま進んでいくと、木々に囲まれた、一際大きな建造物が現れる。
天狗の里で一番、高い場所に位置する建物。天魔が住む三階建ての館だ。
「射命丸さん、お待ちしていましたよ」
その建物の前で手を上げて私を呼ぶのは、身なりの良い男性の天狗。
「いつもご苦労様です、大天狗様」
私が軽く頭を下げると、彼は慌てた様子で私よりも低い位置に頭を下げる。
「様なんてやめてくださいよ」
「実際にしがない新聞記者と天狗の上層部の一人とでは立場なんて天地の差でしょう。そもそも、私は大天狗の地位にさえ付いたことがないですよ」
「それでも私にとって、貴方は天狗を救ってくれた英雄の一人なんです」
そう言うと、彼は困ったようにはにかんで、肩を竦める。
私は権力を握ったことなんて、あまりない。
私を大天狗にと周りが推した時もあったが、天魔からは似合わないと反対されたし、最初から乗り気ではなかったために、その話は流れてしまった。
後にも先にも私が天狗を率いたことがあるのは、天魔の補佐として轡を並べた、吸血鬼異変の時だけだ。
彼はその吸血鬼異変の時に私の下に付いていた天狗の一人。
今でも天魔を慕ってくれ、私の手助けをしてくれる唯一の妖怪と言い換えても良い。
私は彼のおかげで、今もこうやって天魔の館の中へと侵入することが許されているのだから。
「何度も言ってますが、この件で自分の立場が悪くなるようなら遠慮なく私を売っちゃってくれて構いませんからね。失うような権力もありませんし」
「……知っていますか? 私は上層部の中では臆病者で通っているんですよ。吸血鬼異変で猛威を奮った射命丸文に命令をされたら怖くて、手も足も出ませんよ」
飄々とした仕草で彼は言う。
「ったく、貴方は長生きするタイプですよ」
溜息混じりに言うと、彼は「恐縮です」と頭を下げる。別に誉めたわけではない。
「入り口の鍵はもう開けています。限定的にですが封印も解いておきましたよ。あとは日の出までには帰ってくださいね」
「天魔が本気を出せば、鍵も封印も意味がないんですけどね」
「封印は妖怪避けと防音ですよ。動物すら近寄りませんからね」
天魔は普段、どのような生活をしているのだろうか。
聞いた話によると、侍女が数人仕えていて、料理や本を持ってきてくれるのだと言う。
言えば欲しいものはある程度は手に入るし、満足に身体を動かせないことさえ除けば不自由はないとのこと。
それが一番、天魔にとって苦痛だろうに。天魔の大きな翼は空を翔るためにあるはずだろう。
「……彼女も好き好んで、よくこんなところに居られますよ」
「戦乱の英雄と呼ばれている割には、荒事が嫌いな方ですからね」
天魔は人見知りで気難しい河童との会談を成功させ、力では劣る鬼とは対等の立場で交渉してみせた。
吸血鬼異変の時も、バラバラだった天狗達を数日でまとめあげ、各地で吸血鬼相手に抵抗していた妖怪達の代表を集め、会議の場を設けるまでに至る。
戦えば、単騎で鬼とも張り合える力を持ちながら、それをなかなか使おうとしない。
彼女が得意とするのは外交だった。
幽閉された身でありながら、私を使って山の神との会談に成功し、寝室の襖の中には小型の分社が置いてあったりする。
天魔の持つ外界との通信手段はそれしかない。手紙は上層部が選別したものが天魔の元に届けられるのだ。
とはいえ天魔がそれで何かをしようにも、山の神に天狗の内部情報が筒抜けとなってしまうため、気軽に使うわけにもいかない。
「どうしてなんでしょうね……誰よりも空を愛した彼女の作った里が、己自身を封じ込める檻となるだなんて……」
天魔の前で絶対に言えない言葉だ。
心を許せる相手にも語ることができず、同じ秘密を共有するものにだけ打ち明けられる思い。
「怖いんですよ。天魔様のカリスマ性は底なしですからね。神として崇められてもおかしくない。そうじゃなければ悪魔ですよ、あの魅力は」
実力は封じ込めたまま、持ち前のカリスマ性だけを利用する。そうやって天狗の里は成り立っているし、今のところは上手く行っている。
外の世界では天皇という存在があると聞いたことがある。ようはあれと似たようなことを天狗の上層部は行っているのだ。
「射命丸様」
物思いに耽っていると、不意に気の引き締まった声が耳に入った。
ふと振り向くと、両踵の後ろを合わせ、背筋をピンと伸ばして姿勢を正した彼の姿があった。
「少数ではありますが、天魔様の復権を望む者達で集会が定期的に行われています」
「……それで?」
「今の政権に不満を持っているものも多いのですよ。吸血鬼異変の時に天魔様の片腕として御活躍なされた射命丸様の力添えがあれば、必ず名乗り出る者も出てくるでしょう」
彼に聞こえるように溜息を零す。
「天魔がそれを望んでいるのでしょうかね?」
冷ややかな視線を彼に向けると、彼は困ったような表情で頭を掻いた。
「いいえ、恐らく望んではおられないでしょう。これは私達のわがままですから」
「そこは認めるんですね」
「射命丸様なら私達以上に分かるでしょう。再び、私達は天魔様と同じ空を飛んでみたいって気持ちがですね」
確認するまでもない。
天魔と同じ空を飛びたい気持ちは、彼女と一番長い時を過ごしてきた私が一番強く持っている。
願うことなら天狗、そのものを放り投げて、二人で自由に外の世界を散策してみたい。
どこまで遠い世界へ、新しい世界を求めて、
山を越え、海を越え、大陸を越えて、風の吹くままに、
何も背負わずに気兼ねすることもなく、
今度は対等の立場で飛んで行きたい。
「先ほど、貴方は長生きすると言いましたが訂正しますよ。貴方は早死にするタイプです」
それを願うには、私は妖怪の山を好きになりすぎている。
そして、捨てるには惜しいものを手に入れてしまっている。
「残念です。気が向いたら言ってください」
それだけを告げて、彼は大人しく引き下がった。
もう少し、食い下がってくるかと思ったのだが、やけに大人しい。
「私達もまだ準備が整っていませんからね。まだ青写真を引いている最中ですよ」
そう言って彼は力なく笑ってみせ、
「呼び止めてすみませんでした。終わったら、いつもの場所に来てください」
そのまま引き下がっていった。
妖怪の山はこれから、どうなっていくのだろうか。
薄暗い部屋の中。
ここは天狗の里の一番高い建物の一番上にある部屋。
和風の作りになっており、床には畳が敷き詰められており、窓には障子が使われている。
部屋の奥は段差が一つ分だけ高い上座があり、そこには豪華な装飾のされた椅子が置かれている。
天狗のトップである天魔は一日のほとんどをここで過ごすことになっている。
それ以外の時間は上座の横から行ける寝室だ。
「文。お前は天狗が好きか?」
上座から降りた天魔が私に身体を寄せて、呟くように言う。
そして、私が答えを返すよりも早く、言葉を連ねる。
「私も衰えたなって最近、よく思うようになってきたよ」
天魔は昔に比べて細く柔らかくなった手をゆっくりと握り締め、力なく笑う。
そんな彼女の笑みを見ているのが辛くて、つい顔を背けてしまった。
それをやってはいけないと分かっていたのに。
「すまないな。こんな弱音はお前にしか言えないんだ」
「いいえ、構いませんよ。天魔の泣いているなんて珍しいものを見逃すわけには行きません」
「お前には何度も見せているだろう」
「そうでしたっけ?」
わざとらしく惚けて見せると、天魔が小さく笑ってくれた。
それでも、酒を片手に高笑いを見せていた昔に比べると物足りない。
まだ見た目も若いはずなのに、精神が弱っているだけでこんなにも衰えて見えるものなのか。
「妖怪の山の風が停滞し、空気が淀んでしまっている」
天魔は手の平を上に向け、愛しい何かを求めるように目の前に手を翳す。
「守矢神社に居た巫女の風は、とても若々しくて心地よかった。皆にも彼女の風を感じて欲しくて接触を図ったんだけどな」
彼女は翳した手の平を見つめると、寂しそうにして深く息を吐いた。
「そうか、新しい風はまだ来ないか」
手のひらをそのまま胸元に持って行き、きゅっと握り締める。
彼女の仕草に心が苦しくなってくる。それでも、暗い表情をしないように努めた。
「そんなことはありませんよ」
胸元に置かれた彼女の手に自らの手を重ね、優しく包み込む。
冷たいし、細い。今の私の方が力があるのではないかと思えるほどに。
少しでも熱を分け与えようと、少しだけ力を込める。
「妖怪の山の外に目を向けている天狗は数は少ないですが増え続けています。これから先はもっと増え続けますよ。元々、外と不干渉を保っている方が不自然なのですから」
「そうなのか?」
問いかける天魔に対し、「そうですよ」と力強く頷いてみせる。
実際にはまだ二人だけであり、増えていく確信がある訳ではないけど――少しくらい誇張表現をしても許されるだろう。
「新しい風はもう少し先かもしれませんが、新しい時代の萌葉は既に現れ始めています」
それがどんな花を咲かすのか分からない。
水が足りなくて枯れてしまうか、他の植物に栄養を吸い取られて萎れてしまうかも分からない。
それでも、時代は変わっていく。それに否応なく私達は対応して行かなければならないのだ。
付いていかなければ、たちまち新しい波に飲み込まれ取り除かれてしまう。
「そんな時代が来るのならば、是非見てみたいものだ」
天魔は天井を見上げ、遠い目でじぃっと見つめる。
こうするのは彼女の癖だ。新しい所をに行く前には、いつもこうやって思いを馳せていた。
具体的に何を考えているかは教えてもらったことがない。ただなんとなく、まだ見ぬ空の先について考えていることは分かる。
だって、彼女は新しいことを見つけた時はいつだって目を輝かせるのだ。思いを馳せた後は、いつだってそういう目をしていた。
ただ、この時ばかり少し違った。
「なあ、文」
眉を顰め、唇を食いしばった情けない顔をして天魔が小さく口を開く。
「その時代に私は必要あるのだろうか?」
言葉が詰まった。あまりにも不意な質問だったため、何を言えばいいのか分からなくなってしまった。
「時々、思うんだ。私のような古い妖怪がいつまでも上に立ってたらいけないんじゃないかって」
「……今の妖怪の山には天魔が必要ですよ。天魔がいるから大人しくしている天狗なんていっぱいいるんですから」
「無論、今は止めるつもりはない。でも、その時は直ぐそこまで来ているんじゃないだろうか? 所謂、引き際というものがな」
そこで天魔は言葉を区切り、一呼吸だけして、再び口を開き始める。
「もし、その時が来たら――――」
途中まで出てしまった言葉は中途半端に止められ、息を飲み込む音と共に天魔の胸の内にしまいこまれてしまった。
「そうか、文にはまだ、やりたいことが残っているんだな」
天魔の手が私の頭に伸ばされ、私の髪の毛に触れる。
「うん、そうだな。私もまだ終わる訳にもいかないからな。もう少しゆっくりするのも良いさ。私はそれだけ働いたよ」
「すみません……」
「謝るな。私は十分すぎるほどにお前に救われている。ずっとやりたいことをやって、我侭を言いたい放題だったからな……たまには待つということを覚えないといけない」
そう言って、天魔が作った笑みで、わざとらしい笑い声をあげた。
天魔を少しでも楽にしようと足を運んだのに、逆に気を使わせてしまった。
私もまだまだ若い。
「天魔、新しい風は来ますよ」
髪を手櫛で梳くように撫でられ、涙腺が緩むのを必死で堪え、辛うじて搾り出した言葉。
天魔は優しく微笑んでくれた。
「ああ、来てもらわないと困る」
彼女は強く頷き――
「できれば、私の名前なんて必要ないくらいの強い風が来てくれれば良いな」
――最後に疲れきったような笑顔を浮かべた。
<終>
このおいしい雰囲気を上手く描写出来る人はなかなかいないと思います。
幽閉された天魔の儚さを始めと終わりに持ってくることで、物語全体にしっとりした寂しさを感じます。夕暮れの切なさというか。
キャラ付け・設定・全体の空気が完成されていて、どうしても続きを妄想してしまいますね。
それゆえに言い回しが二重になった個所だったり誤字だったりが目についてしまうと、物語に浸りきれないのでもったいないなあと思いました。
とても面白かったです。いい妖怪の山を読ませてくれてありがとう!
いや…やばいでしょ、可愛すぎる。
あやもみは仲良くても良いかと。
こういうあやもみもありだと思います。
初めてでしたが、過去の作品も読みたくなりました。
こういうあやもみも良いですね。
仲が悪いようで仲が良い
実に楽しそうで良いです。
これからの物語を読んでみたいのと、
美鈴の話が気になったのです。
この先の物語を読んでみてぇ・・・
そう思ったくらいに面白かった。
椛と文は仲が良いのか悪いのか分からない。ツンデレか!?
>>すると椛のうろたえ始めて
椛は
>>悪態ばかりを吐き捨てて気がするが
吐き捨てた?
>>新しい時代は萌葉は
新しい時代の
例えば天魔派の連中に外を見ることを教えるとか、
いろいろやれる事はありそうだけど、
それをやる気力が無いあたり枯れかけてるんだろうなあ。
あやもみごちそうさまでした。
安心して読める良い文章でした
「古参」という雰囲気を漂わせる射命丸で天狗社会を語る内容は地味ながらも面白かったです。
もっと、天狗の里を歩くという感傷に浸らせるシーンが欲しかったですが、天狗の里の外に向けて、という要素がありますからこれは仕方ないですね。
天魔の燃え尽き症候群のような切ない表現がよかったです。
いちいち行動が若いせいか、老成という言葉が似合わないんですね。
こうして見ると、椛やはたてに比べて、えらく老けててw。そこがうまいなぁと。
にしても、今後の妖怪の山が非常に気になりますね。次の展開が楽しみです。
誤字
>同じ山に住むはずの河童ですら見下す者の多い天狗の中で、対等な関係を気づいているのは
築いているのは
>こうするのは彼女の癖だ。新しい所をに行く前には、
新しい所に
天狗の山に新しい風が吹いたとき、天魔はどうするつもりなんでしょうね。
それでも山にとどまるのか、翼を広げて飛び立つのか、…はたまた一人で旅立つのか。
何だろうなぜか妖忌を幻視してしまった、・・・妖忌と絡むのも面白そうだな。
文の見聞の高さと友好関係の広さを改めて感じました。
妖怪の山に吹く新しい風。
その風には文の願いが込められ、他の天狗達に吹き荒れることを、祈ってます。
21世紀の怖いところは「新しい風」と思っていたものが次の年にはもう古いものになってしまっている「時間の速さ」なので、天狗の未来は残念ながら厳しいものでしょう。
本当に面白かったです