Coolier - 新生・東方創想話

歩け! イヌバシリさん Vol.5

2012/03/25 19:43:49
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※超オリジナル設定注意

一作目は作品集144
二作目は作品集148
三作目は作品集154
四作目は作品集159 にあります。


【登場人物】

犬走椛:哨戒が仕事の白狼天狗。色々と逞しい。幼い頃、天狗の上層部に両親を殺されている。

射命丸文:鴉天狗の新聞記者。実力は山でもトップクラス。椛を好いている。

姫海棠はたて:鴉天狗の新聞記者。元引篭もり。少し前まで椛が新聞作りをサポートしていた。

河城にとり:色々作れる谷河童。椛の将棋友達。発明に集中したい時は地下工房という名のダンジョンに篭る。

天魔:天狗の最高位。天狗で一番強い。

大天狗:椛の上司。その年齢は妖怪の山の重要機密事項とされている。椛のことを「モミちゃん」と呼ぶ。





【 episode.1 レット・イット・ビー 】


犬走椛は今年の新入隊員の名簿を届けに大天狗のもとを訪れた。

「今年の新人はどう?」
妙齢女性は、目を細めながら名簿に書かれている男の名前を探す。
「やる気のある者が多いですね。若いのに剣の腕が立つ者もちらほらと」
「いや、そうじゃなくて」
「はい?」
「顔よ顔。新人の中にカッコ良い子や可愛い顔立ちの子が何人かいるでしょ?」

最近の若い白狼天狗は昔と違い、お洒落にも気を使うようになっているため、大天狗の食指が動いているようだった。

「聞く所によると、今年は当たり年らしいじゃない?」
「あー、そうですね。大天狗様の御眼鏡に適いそうなのが何人かは居るような気がします」
「もうすぐやる新人の歓迎会。私の席、新人君たちが座る席の正面ね」
「別にいいですけど、ただ…」
堂々と職権乱用を宣言する大天狗に何か言い辛そうな顔をする椛。
「そうなると当然、大天狗様は新人の女の子が座る列に加わるわけで」
「新しい娘たち可愛い?」
「そりゃ、まぁ。仕草も初々しいですし、肌は瑞々しいですし、髪は艶々ですし、贔屓目に見なくても可愛い娘が今年は多いですよ」
当たり年なのは男だけではないようだった。
「そんな娘達と並んで大丈夫ですか? 化粧の上に化粧を重ねなければならない大天狗様が」
若い女子の列に一人だけ混じっている大天狗の姿を想像し、心の底から大天狗を心配する。

「勝率は・・・・五分五分ね」
「え?」
「え?」

お互いが不思議そうに首を傾げ合った。

「まぁ、私はそれよりも、彼らが入隊後の訓練を無事に乗り切れるかどうかが不安ですね」
新隊員の顔立ちなど椛にとってはどうでも良く、彼らの基礎体力の方を心配していた。
「そういえば今もやってるの樹海演習?」
「伝統みたいなモノですから」
樹海演習とは、妖怪の山で未開となっている樹海に踏み入れて、
武器も食料も全て現地調達、誰にも頼ることなく各自で一ヶ月を生き延びるという過酷な訓練である。
椛が入隊した頃から存在していた。
「あのサバイバル訓練は今の子にはちょっとキツいかもね」
「私は楽しかった記憶しかないですけど」
「モミちゃんは例外です」
当時、これに参加した椛のエピソードは後輩の間で語り継がれ、今では伝説となっている。
「木の上に素敵なワンルーム作ったり、木の幹を削った投げ槍で野生動物を乱獲。しかもその倒した動物の頭蓋骨を寝床に並べるとかどこの原住民よ。適応しすぎ」

訓練終了後は体重が激減するのが常だが、椛だけ体重に変動がなかった。










椛が大天狗との雑談に興じている頃、射命丸文と姫海棠はたては天魔の屋敷の門の前に立っていた。
「天魔様から直々に呼び出しだなんて、なんだろうね?」
「わかりません。が、嫌な予感しかしません」
二人がこうして呼びつけられる時は、何か厄介ごとを押し付けられるというのが常だった。
「これまで何度、あの方の話術に翻弄されて、無茶なミッションをこなして来たか」
口達者な文でも老獪な天魔には勝てず。いつも言い包められてしまっていた。
「いいですか? 天魔様がどんな頼み事をしてきても。返事は断固として『いいえ』ですよ」
「わかった」
徹頭徹尾、相手が何を言おうと拒否し続ける。
正攻法では勝てないと分かっている今、こうする他ないと考えた。

意を決して、二人は屋敷の門を潜った。

「良くぞ来てくれた。ささ、座れ座れ」
小さな体型に合わせた特注の羽織と袴。頭に不釣合いな大きさの烏帽子を被っている童女が、広間にて二人を迎え入れる。
座敷童と見紛うような容姿の彼女こそが、天狗の最高位に位置する天魔であった。

用意された座布団の上に二人が座ると天魔は話し出す。

「はたて、最近また新聞の順位が上がっているようじゃな。嬉しいぞ。つい最近まで引き篭もりをしておったのが嘘のようじゃ」
「あ、ありがとうございます」
「文、お主の新刊読ませてもらったぞ。相変わらずの斬新な切り口。儂はいつも舌を巻いておる」
「勿体無きお言葉」

それぞれ褒められた二人は平伏する。

「情報を征する者が勝者となるのが世の常。これからも天狗社会の発展のため、切磋琢磨して精進してほしい」
「お任せください」
「が、頑張ります」
「うむ」

力強く返事する二人を見て満足げに頷いてから、天魔は軽く咳払いをした。

「そうそう。ちと、話は変わるがの…」
((来た!))

予想していた時が訪れ、表情が強張る。

「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
「いいえ。今忙しいので」
即答だった。文は首を素早く左右に振った。
「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
今度ははたてを見つめながら言う。
「いいえ。今日は別の予定がありますから」
打ち合わせ通りにはたても答える。
「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
再度、同じ問い掛けをした。
「いいえ」
二人同時に首を振る。
「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
めげずに問いかける。
「いいえ」
そして断固として断る。

「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
「いいえ」

文とはたてはお互いに顔を見合わせて、視線のみで会話する。
(ねぇ文、これってもしかして『はい』を選択しないと不思議な力でループさせられるパターン?)
(どっかの王様と勇者みたいなやりとりですね。しかしここで『はい』と言うわけにはいきません)

なおも根競べが続く。

「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
「いいえ」
「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
「いいえ」
「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
「いいえ」
「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
「いいえ」
「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
「いいえ」

埒の明かない問答を何度も繰り返していたが、ようやく決着の時が訪れた。

「二人を見込んで頼みたいことがある。引き受けてくれるな?」
「…………………はい」
とうとう根負けして文は首を縦に振った。またしても天魔に軍配が上がった。
「おお! 迷うことなく即答とは! それでこそ儂が見込んだ者達じゃ!」
非常に白々しい声色だった。
「それで、今回は何をしたらいいんですか? 無理難題は御免ですよ」
「案ずるな。お主らが本気を出せば容易きこと」

障子を開くと、そこには広大な庭が広がっている。
そこに生える木の中でひときわ立派な一本を指差した。

「アレじゃ。アレを何とかして欲しい」
「アレって言われましても」

文が目を凝らして木を見ると、枝に丸い塊があるのが分かった。
はたてが携帯のズーム機能を使い、その正体を特定した。

「天魔様がなんとかして欲しいものって、もしかしてスズメバチの巣?」
「左様」
「帰ります」
「文が帰るなら…私も」
「待てい! 待て待て待てい!!」

玄関に向かい歩く二人の背中を掴む。

「天魔様ともあろう御方がなにスズメバチにビビってるんですか! 噴飯モノですよ!!」
「文もあ奴らが耳元まで来てアゴをカチカチと鳴らす音を聞いてみろ! 三日は安眠できんぞ!」
必死な表情の天魔とは対照的に呆れ顔の文。はたても擁護のしようがないといった顔をしている。
「だからこうして気心の知れたお主らに頼んでいるのではないか!」
「天魔様なら、巣なんて跡形も残さずに消し飛ばす術の一つや二つ持ってるんじゃないんですか?」
はたてがそう提案するが天魔は首を振った。
「出来ることならそうしておる、しかしあの木は儂がまだ小さかった頃に植えて、長い時間を共にしてきた友人じゃ。傷つけとう無い」
「天魔様、今も十分小さ…むぐ」
「その言葉は禁句です」
はたての口に手を当てて、失言を防いだ。
「あーもーいいわい! いいわい! そこまで言うなら木の思い出ごと羽虫を焼き払ってくれるッ!! 天魔の意地! しかと括目せい!!」
天魔の小さな手のひらに火球が生み出される。
「ストップ! それはまずいですって天魔様!」

文が慌てて天魔の前に立ち、両手を広げる。

「ええいどけぇい文!! 『天狗火』を一発見舞うだけじゃ!」
天狗火とは、天狗の基本妖術の一つで、小さな火の玉を作り出す術である。夜道に迷った人間を導いて助けたり、逆に呪ったりと様々な効果を持つ。
「私達が使う天狗火はマッチ十本分の火力ですけど、天魔様クラスがそれ使ったら屋敷が一瞬で火炎地獄になっちゃいますよ!!」
「望むところじゃ! 『スズメバチの巣がある天魔屋敷』と『火炎地獄と化した天魔屋敷』。どちらが良いかと問われれば答えは決まっておろう!!」
「ズズメバチ」
「ズズメバチ」

「なん……じゃと」








とりあえず落ち着きを取り戻した天魔。

「それで、頼まれてくれるのか?」
「わかりました。お引き受けしましょう」
あそこまで盛大に騒がれては、流石に断れないと観念する。
「しかし、只ってわけには行きません。労働にはそれ相応の報酬を頂かないと」
「わかっておる。そう言うと思って用意しておいた」

天魔は封筒を取り出して畳に置いた。

「この中に妖怪の山にとっての機密事項が一つ書かれておる。それが報酬じゃ」
「なっ!」
「き、機密事項!?」
せいぜい菓子折り程度だと思っていたら、その予想を遥かに上回る物が出てきて驚愕する。
「明らかにハチの巣退治の報酬じゃないですよ!」
文のその言葉に、はたても何度も頷く。
「わかっておる。その代わり儂がハチを怖がっていたことは内密にせよ」
どうやら口止め料を加味しての報酬らしかった。
「わかりました。ハチを駆除した暁には、絶対に頂戴しますからね」
「うむ、契約成立じゃ」

その時、一匹の蛇が部屋の中にスルスルと体を這わせて入り込んできた。

「お前は守矢神社の使い……おおっ。しまった、すっかり忘れておった! これから守矢の神との打ち合わせじゃった!」
スズメバチの事で頭が一杯で予定を忘れていたらしい。
「呼びつけておいてすまぬ! 儂は出掛けてくる、夕刻には戻る! その間にあ奴らを始末しておいて欲しい!!」
封筒を懐に仕舞い、急いで支度をして、天魔は屋敷を飛び出していった。

こうして部屋に、文とはたてが残された。

「そういえば私、ハチの巣駆除なんてしたことないんだけど」
「私だってしたことありませんし、しようとも思いません。こういう時は」
「こういう時は?」
「現場主義の方にお任せするのが一番です」



数分後。



「それで、私を呼んだのですか?」
椛は全身から不機嫌さを滲み出していた。
大天狗と別れて哨戒の任務に戻った矢先に、文が使いで飛ばしたカラスと遭遇。
そのカラスの足に天魔屋敷の入門許可証と『至急来たり』と書かれた手紙が括り付けられており、それを見て、文字通り一目散に飛んできたのだった。

「ハチの巣駆除なんかのためにわざわざ私を呼びつけたと?」
「ひっ! 椛が怒ってる!」
「謝罪しますから! 私達との間合いを測るのをやめてください!」

鞘に手を掛け、ジリジリと距離を詰める椛に後ずさる二人。

「まあ。冗談はさておき」
鞘から手を離し、脱力する。
(本当に冗談だったんでしょうか?)
「私は構いませんよ。天魔様がお困りとあらば、断る理由はありませんし」
「助かります」
「ありがとう椛」

椛は木を眺め、巣の大きさを確認する。

「で、あの木ですか。なるほど中々立派な巣ですね」
「椛さん、ハチの巣駆除の経験は?」
「毎年、数回やってますが。こういった作業は河童の方が得意ですね。聞くところによると、にとりはハチの巣駆除の名人だそうです」
「では、にとりさんに協力を仰ぎましょう」







河童の集落。

「にとりーいますかー?」
「返事がないですね」
「鍵がかかってる」

河城にとりの家を訪ねたが、どうやら留守のようだった。

「ごめんくださーい」

三人はにとりと仲の良い河童の村長の家を訪ねた。

「はいはーい・・・まあ天狗の皆さんお揃いで」
長い髪の、どこからおっとりとした雰囲気を持つ美しい女性が、スリッパをパタパタと鳴らしながら玄関までやってくる。
「突然押しかけてすみません村長。にとりさんがどちらに居るかご存知ですか?」
「にとりちゃんですか? あの子なら三日くらい前に『地下の工房に行ってきます』って言って私に」

三人は顔を見合わせた。






















地下工房。最深部。

「やっぱりココの箇所は鋼材よりもステンレス製に変更しないと不安だなぁ…でもステンレス高いからなぁ…もう資金は底ついちゃったし・・・はぁ、困った」

設計図に見ながら唸るにとり。開発のために部材が無いことに彼女は頭を抱えていた。

「「「どりゃあああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

突然扉を突き破って入ってきた三人。

「はたてさん! タイムは!?」
「2時間16分」
「よっし! 新記録!!」

(罠は毎回強化してるんだけど、どんどんタイム縮めてるよこの三人)












―――――――――― 【風雲河童城 ダイジェスト】 ――――――――――



【 1面:VS ヒグマロボ(試作形) 】


『クリエイターハドコダ? クリエイターハドコダ?』

椛「なんでしょうかコイツ?」
文「恐らくにとりさんが開発したヒグマ型ロボットでしょうね」
はたて「でも、見た感じ作り途中みたいだけど? 配線とか剥き出しの部分あるし」
椛「きっと製作途中に欠陥が見つかって廃棄され、ここの番人として機能している……という設定なのでしょう」


《 ヒグマロボ 撃破 》


『ワタシヲカンセイ、サセナ、サイ……ドカーン!』


文「こいつ、自分で『ドカーン』って言いましたよ」
はたて「言うだけ言って爆発してないのに」
椛「先を急ぎましょう」


【 2面:VS ヒグマロボ(完成度80%) 】


はたて「さっきよりも見た目がちゃんとしているね」
椛「けれど、足がありませんね」

『アシナンテモノハカザリデス! エライヒトニハ、ソレガワカランノデス!』

はたて「おおっ浮き上がった」
文「確かに飛べれば足はいりませんね」


《 ヒグマロボ(完成度80%) 撃破 》


椛「少し手こずりましたね」
文「まさか、胴体を壊しても首だけ分離して攻撃くるとは」



【 3面:VS ヒグマロボ(完成度100%) 】

はたて「お、今度のは足がある」

『コチラ、パーフェクトヒグマロボ。モクヒョウヲ、クチクスル』

文「さっき自分で『足なんてものは飾り』って言ってたじゃないですか」
椛「結局飛んでますしね」


《 ヒグマロボ(完成度100%) 撃破 》


椛「足がある分、さっきよりは強かったですね」
文「ヒグマなのにブレイクダンスみたいな蹴り技かましてきましたね」


【 4面:VS ヒグマロボ(量産型) 】


文「なんかわらわらと沢山いますよ」
はたて「でも見た目が弱そう」

『シンニュウシャダー』
『ヤッツケロ-』
『タタカイハカズダヨアニキー』
『ヒャッハー! オブツハショウドクダー!』
『ボクワルイヒグマジャナイヨー』


《 ヒグマロボ(量産型) 撃破 》


椛「時間だけ無駄にかかりましたね」


【 5面:VS フルアーマーヒグマロボ 】


はたて「前足が六本、頭が三つ、後足が四本あって、尻尾が鞭みたいになってる」

『GYAOOOOOOOOOOOO!!!!』

椛「もうヒグマの原型がない」
文「これどっちかというと魔改造ですよね?」


《 フルアーマーヒグマロボ 撃破 》


文「5分経ったら勝手にオーバーヒートして止まりましたね」
はたて「コレ完全にバーサーカーモードだ」


【 6面:VS ヒグマ(黄色いヌイグルミ) 】


椛「これは面妖な」
はたて「ハチミツの壷を持った黄色いクマがこっち見てる」

『アア、タイヘンダ』

文「無視! あれと目を合わせては駄目です! 行きますよほら!」
椛「最初からドアが開いてますね」

『クリストファーロ…』

文『言わせませんよぉ!!!」



―――――――――― 【風雲河童城 ダイジェスト】 ――――――――――




「なるほど、スズメバチ退治に私の力を借りたいと」

文がここに来た目的を説明した。

「お願いできますか?」
「その前に一つ良い訊いてもいい?」
「なんでしょう?」
「駆除したハチの巣にいるハチノコはどうするの?」
ハチノコとは、まだハチになる前の幼虫のことを指す。栄養価が高く、好んで食す者もいる。
「特に何も言われてませんね」
「じゃあ私が全部貰っていいの?」
「構いませんよ、ご希望なら全て差し上げます」
「皆はいらないの?」
「私、虫とかムリ」
鳥肌を立てながら答えるはたて。
「あれば食べますけど、別にそこまでは」
大して好物じゃないと言う文。
「頂けるなら欲しいですね」
貰えることまで考えていなかった椛。
「最近の鴉天狗ってハチノコ食べないの? 鴉なのに?」
「良いじゃないですか別に。というかにとりさん、好きなんですか?」
「私は食べないんだけど、ウチの村長が大好きなんだよ」
「河童の村長が?」
あの美人が虫をムシャムシャと食べる光景がいまいち想像できなかった。
「ハチノコは良い値段で売れるんだ」
その金で必要な部材を揃えようと考えていた。
「村長さんが買い取ってくれるのですか?」
「違うよ『村長が虫を食べているのを見ると興奮する』っていう連中がいて、そいつらが買ってくれるんだ」
そして彼らは買い取ったハチノコを村長に無償で提供し、彼女が食べている様子を見て、己の欲を満たすのである。
「なにそれこわい」

ハチの巣を報酬ににとりは協力を快諾した。
椛もハチノコが貰えることになった。





天魔の屋敷。
にとりは双眼鏡を覗き込む。
「うおぉ! デカイ! これは良い値が付くよ!」
予想を上回るサイズに興奮を隠せない様子だった。

にとりは持参したリュックサックを開ける。

「さーて、ど・れ・に・し・よ・う・か・なっと」
道具の選定を始める。
「もし可能なら、木を傷つけないでハチの巣だけ取り除く道具ってありますか?」
「あー、今日持ってきた道具でそれはちょっと難しいかも」
「そういえば以前『ぐりずりーすーつ』というのがあったじゃないですか? それ使わないんですか?」
「あれ表面が獣毛と樹脂だから、ハチの針を通しちゃうから向かないんだよ。うーん、どうしよっか・・・」
一応、殺虫剤を持ってきているが、後で食べることを考えると、極力使用は避けたかった。

「仕方ない。お客様の要望に答えるのがエンジニアのあるべき姿だ」

にとりは腕まくりをして、柔軟体操を始める。
「本来。ハチノコ取りはハチとの真剣勝負。相撲と一緒だ、小細工なしの裸のぶつかり合い。道具なんて使うもんじゃないのかもしれないね」
体の筋肉が十分解れたのを確認してから、ハチの巣を見据える。
「まさか生身で挑むつもりですか?」
嫌な予感がした文は尋ねる。
「そだよ」
「そんなの無茶です!」
「ガンガンいこうぜ!!」
「命を大事にしてください!!」
にとりはハチの巣に向かってゆっくりと歩き出す。
「駄目ですってば! 戻ってください!」
「心配しないで、私の拳がアイツをハチの巣にしてやる様をそこで見ててよ」
「もうなってますから! すでに立派なのが!」
文の警告を無視してにとりは前進を続ける。
そして、大きな音を立てればハチが一斉に襲ってくるであろう距離までやってくる。
「ウォォォ!! 『水を操る程度の能力』発動!! ポロロッカカッター!!」
手から高圧力の水を発射し、ハチの巣を両断。木から引き剥がす。
「よし落ちた」
「そんな便利な技があるなら道具とか要らないじゃないですか!?」
「だってエンジニアとして、生身の力に頼ったらなんか負けた気がするじゃん?」

素早くリュックにハチの巣の欠片を詰め込む。
「時間が立つと、ハチノコはすぐに蛹になっちゃうから先に戻ってるね! 椛の分は半分残しておくから!」
換金して、一刻も早く発明に戻りたかったにとりは、足早に帰っていった。







夕刻になり、天魔が帰ってきた。
「よくやってくれた二人とも、椛にも大儀であったと伝えてくれ」
(まぁ、実際は全部にとりさんがやってくれましたけど)
広間にいるのは文とはたてだけだった。
椛は恐れ多いと、天魔への謁見を断り、屋敷の外で待機していた。
「報酬をください」
「うむ、そうじゃったな」
貰った封筒を開けて、畳の上に広げる。
「なんでしょうかこの数は?」
それは数字の羅列だった。
「これが山の重要機密?」
「何かのパスワードでしょうか?」
「外で待つ犬走椛なら、この意味がわかるやもしれんな」
「 ? 」

一度屋敷を出て。門で待機していた椛にその紙を見せた。

「この数字に何か思い当たることはありますか?」
「これを一体どこで!?」
紙を見た時の椛の動揺は尋常じゃなかった。
「天魔様が今回の働きの報酬として頂いた紙がこれでして。『機密事項』だと仰るのですが私達には意味がサッパリ」
「確かにこれは、妖怪の山でごく一部しか知らない情報です」
「一体なんなのですか?」
「・・・生年月日です」
「誰の?」
「大天狗様の」
「え゛!?」
椛は数字を指でなぞる。
「ここが西暦、ここが月、ここが日付です」
「私のとは桁が違う」
「ありがとうございます椛さん」
「その紙は燃やした方が良いですよ。所持していると色々と面倒です」

答えを知り、天魔の元へ戻った。

「その顔、どうやら分かったようじゃな?」
「こんな情報を知っても一文の得にもなりませんよ!」
「そういうな。今回の件で儂がお主らと秘密を共有できるほど、信頼できると評価していると暗に伝えたかったのじゃ。それはその結束の証として受け取って欲しい」
「天魔様・・・」

軽く感動する二人に向かい、天魔はピョンと飛び上がり、まるで肩を組むように二人の首に腕を回してぶら下がった。

「じゃから、儂がハチに臆しておったことを第三者に口外してみろ。お主らが大天狗殿の実年齢を知ったことを、大天狗殿にバラす」
その耳元で囁いた。
「「なっ!?」」
「年齢を知られた大天狗殿は夜叉か修羅か。現世(うつつよ)にも地獄があることを知ろう」

二人は血の気を引かせながら、じゃあ天魔の年齢は幾つなのだろうかと考える。

「なんかズルイですよ天魔様。これじゃあ結局私と文、ただ働きじゃないですか」
「大人はズルイ生き物なのじゃよはたて。覚えておくと良い」

見た目童女の天魔に言われても、全然説得力が湧かなかった。






























【 prologue 】


年老いた天狗がベッドに横たわっている。
広い病室にも関わらず、そこには彼一人しかなかった。
棚には高級そうな花瓶があり、この時期にしか咲かない美しい花が飾られている。
その老天狗は皆から愛されていた。その証拠に、彼が眠るベッドの周りには、これでもかというほど見舞いの品が並んでいた。

今日も、彼を見舞いに大勢の天狗がやってくる。

「どーもどーもお久しぶりです」
「誰だ? お前は※※※か?」
「いいえ。違いますよ。射命丸文ですよ。いつもお世話になっている」
「知らん、帰ってくれ」
「あややややや。これは手厳しい。じゃあ見舞いの品はここに置いておきますね」

そう言って鴉天狗の少女は去っていった。

またしばらくして、誰かが見舞いにやってくる。
「元気にしてる?」
「誰だ? お前は※※※か?」
「ううん違うよ。はたてだよ」
「知らん、帰ってくれ」
「うん、じゃあまた来るね」
持っていた見舞いの品を置いていくことも忘れ、鴉天狗の少女は病室のドアを閉めた。その目は薄っすらと湿っていた。
その後も、大勢の者が彼のもとを訪れてたが、同じ応対をされ、ある者は呆れ、あるものは悲しみの表情を浮かべてその場を後にした。




面会時間をとうに過ぎた深夜。

「そろそろ死ぬらしいからな。最期にその面を拝んでおこうと思って」
彼の病室に忍び込む者がいた。
「誰だ? お前は※※※か?」
「だとしたらどうする?」
「ちこう、ちこう寄れ」
枯れ木のような手で深夜の訪問者に手招きする。
素直に近づいてきてくれた彼女の襟を枯れた手が掴む。
最期の力を振り絞るように、強く強く彼女の身を自分の方に引き込んだ。

「・・・・ゥ・・・ァ・・・」
「どうした?」

何かを伝えようと老天狗は必死に口を動かす。

「言いたいことがあるなら、はっきり言え」
「・・・ナカッタ」

それだけ言って老天狗は事切れた。

「勝手に死にやがって」

死してなお襟を掴む手を乱暴に剥がし、両手を組ませ、彼女は誰にも気づかれぬよう病室から消えた。







【 episode.2 スタンド・バイ・ミー 】



早朝、降りしきる雨の中、椛は大天狗の執務室を訪れていた。

「モミちゃんおはよう」
「おはようございます」
「雨の中ご苦労様・・・あら? 目が充血してるわよ、ひょっとして寝不足?」

椛の顔色が優れないので尋ねてみた。

「そんなところです」
「目は白狼天狗の生命線なんだから、大事にしないと駄目よ」
「心得ているんですが、どうしても・・・ふぁ・・・・・・あ、すみません」
本日何度目になるかわからない欠伸をする。
「まぁいいや。それで持ってきてくれた?」
「はい、こちらに」

椛は来週行われる防災訓練に関する書類を提出する。

「こちらが我々の隊の当日の動きと人員です」
「はい、確かに。じゃあこれ持ってって」
その書類と交換するように、大天狗は上等な和紙を一枚差し出してきた。
「これ防災訓練の注意事項だから、詰め所に帰ったら壁に貼っておいて」

内容が気になったため、その場で目を通す。


―――――――――――――――【 防災訓練 注意事項 】―――――――――――――――


 各位

 去年、防災訓練が終わったその足で居酒屋に直行して、
 飲み会やら合コンやらを開く不届きな輩がいました。
 家に帰るまでが訓練です。

 この警告を無視して、訓練で使った武器や道具を持ったまま飲み屋に行く奴らは、
 『凶器準備集合罪』という正式な手順を踏んでしょっ引きます。

 15年はシャバに出られないので覚悟してください。

大天狗

―――――――――――――――【 防災訓練 注意事項 】―――――――――――――――


「文面からでも私怨が十分に伝わってくるんですけど」
「ここ数年多いのよ。訓練中で知り合った異性と、訓練後にそのままデートに行ってカップル成立しちゃうケースが」
「まあ大勢の天狗が一同に介すのですから、それくらいあるでしょうね」
「防災訓練は男女の出会いの場じゃないわ」

自分を差し置いて素敵な恋愛をする若い天狗に嫉妬する大天狗だった。

「ちなみにこの紙、帰りの途中でお腹を空かせたヤギがいたら・・・」
「あげちゃ駄目だから」

「失礼します」
ちょうど会話が途切れたタイミングで、大天狗の部下が断りを入れてから襖を開けて顔を覗かせた。
「お話の途中、大変申し訳ありません。火急にご報告したいことが」
「構わぬ。申せ」
大天狗が公事用の口調で命じると、部下は『ハッ』と頭を深く下げる。

「訃報でございます」

亡くなった天狗の名が告げられる。その名に大天狗は目を大きく開き、椛から受け取った書類を落とした。

「マジで?」
「マジでございます」

























一人の高名な天狗がこの世を去った。

夕方になってもまだ雨は止まなかった。
白、青、紺、色々な色の傘が咲いている。
傘達は通夜が行われる葬儀場へと向かっていた。

椛はその光景を、斎場から遠く離れた場所に立っている木の上から眺めていた。
降りしきる雨を頭にかぶった陣笠で、申し訳程度に凌ぎながら。

参列者の中に、並んで歩く文とはたての姿を見つける。
二人とも普段の衣装ではなく、天狗の正装、白と黒を基調とした着物を纏っている。
その姿もやがて、通夜が行われている斎場の中へと吸い込まれていった。







「すごい数だね」
斎場の中に入ったはたては、参列者の数に驚いていた。
天魔や大天狗といった天狗の重鎮。大勢の下っ端天狗。河童。山に住む神。その他の妖怪までもが大勢押しかけ、入り口には長蛇の列ができていた。
「この山のほとんどの者が、少なからずあの方にお世話になっていますからね」

故人は天魔や大天狗のような幹部ほどの器ではなかったが、多くの者から慕われる天狗だった。
鬼が去ってからの山の統治に携わった古株の一人で、天狗社会の発展に大きく貢献した功労者である。
一線を退いてからも特別顧問という形で、組織の中核に引き止められる程の手腕を持っていた。
また面倒見が良く、老け込んで隠居の身となってからも、若い天狗達の良き相談役となり、大勢の迷える者を救った。

「椛いないね。裏方のお仕事してるのかな?」
辺りを見回しながらはたてが小声で言う。
「椛さんなら、きっとここには来ませんよ」
「どうして?」
「あの方は、白狼天狗にあまり評判が良くありませんでしたから」

故人は現役の頃。白狼天狗を軽んじる政策・活動を多く行っており、典型的な白狼天狗差別者だった。

「でも、ここに白狼天狗大勢いるよ?」
はたての視界には、これでもかという程、白狼天狗の姿が見受けられた。
「一線を退いてからは、今までの罪滅ぼしでもするかのように、白狼天狗の地位向上に尽力し始めたのです。だから若い白狼天狗には人気があるのです」
「へー」
「ですが、その被害を直に被っている世代の白狼天狗は『自分達を出世の踏み台にした』と捉えている方が多いみたいでして」
「そうなんだ」

はたては故人に世話になった若い天狗の一人だが、彼の過去の行いについてはあまり知らなかった。
知らなかったというよりも、功績が多すぎて覚えきれないというのが実際のところである。

はたてはもう少し会話を続けようとしたが、隣にいた壮年の天狗の視線に気づき、神妙な面持ちに戻った。















木から下りた椛は雨に両肩を濡らしながら、家路を急いでいた。
「勝手に死にやがってあの老害め」
怒りに任せ、足元にあった小石を蹴飛ばした。

「あらあら、中々厄いわね」

雨音が支配している空間で、不思議とその声ははっきりと耳に届いた。
椛が雨に濡れる顔を袖で拭き、声のした方を向くと、フリルの目立つ赤いリボンで髪を飾った少女の姿があった。
「そう警戒しないで、私は鍵山雛。厄神よ」
彼女はスカートの両端を摘んで、丁寧にお辞儀をした。傘を持っていないため、全身ずぶ濡れだった。
「ええ、存じております」
この山で有名な神である。知らないわけがなかった。
「近くを通ったら、中々ハードな厄を見かけたもので、ちょっと失礼」
雛は椛に近づくとその肩にポンと触れた。
「気休めだけと、今溜まってる分の厄は吸ってあげたわ。どう、少しはスッキリした?」
「ええ、多分」
実感は湧かなかったが、先ほどまで抱えてきた陰鬱な気持ちは幾らか薄れているような気分になった。あくまで気になっただけかもしれないが。
「ありがとうございます。あの、これよろしければ。そこまで濡れていてはあまり意味はないかもしれませんが」
自身が被っていた陣笠を雛に渡す。
「いいのよお礼なんて、これが私の使命なのだから」
「そう仰らず。私の家はすぐそこですし」
「じゃあその好意に甘えようかしら」
雛は陣笠を被ってみる。
「これは便利ね。ただの傘と違って両手がふさがらないから回転に支障がないわ」
機嫌よくその場で一度だけクルリと回ってみせた。
「では親切な天狗様には一つ耳寄りな情報を教えてあげる」
その言葉に何か不吉なものを椛を感じる。
「近い内、この山で厄がらみの騒動が起きるわ」
「何故です?」
「今の山の雰囲気は非常によろしくないもの。こういう喪に服す空気っていうのは、厄を溜め込み易いのよ」
「そんなんで騒動が起きるものなんですか?」
半信半疑だった。もしそうなら葬式がある度に厄騒動が大なり小なり起こるはずだと思った。
「普通なら起きないわ」
「普通なら?」
「最近、この山に新しい神が二柱越してきたようね。その片割れが“祟り神”の統括者だとか?」
守矢神社の神、洩矢諏訪子のことを言っているのだとわかる。
「それがこっちに引っ越して来る際に、色々と連れて来たちゃったみたいで、それが厄に影響を与えちゃったみたいなの」

そこまで話し、雛は陣笠をはずした。

「この笠、素敵だけど髪のリボンが潰れちゃうから、やっぱり私には会わないわ」
「そうですか」
「とりあえず用心だけはしておきなさい。縁起を担いだり、憂鬱な気持ちにならないようにすること」
返却された陣笠を受け取る。
「ご忠告、感謝しま・・・・・・雛さん?」
笠を被り直し正面を向く。その数瞬の間に、雛は姿を消していた。
「相変わらず神出鬼没だなあの神様は」
頭までずぶ濡れになった椛だけがそこに残されていた。
















翌日。雨では無いにしろ、鉛色のどんよりとした雲が空を覆っていた。
椛にとっては普段通りの一日。しかし滝の裏にある白狼天狗の詰め所はいつもと雰囲気が異なっていた。

「静かですね」
「しょうがないよ。ほとんどが葬儀に行ってるんだから」
大将棋の相手であるにとりが答える。
いつも賑やかな詰め所も、今だけは必要最低限の人数を配置しているだけだった。
「にとりは行かなくてよかったんですか?」
故人は河童とも深い交友があった。てっきりにとりも出席するのかと思っていた。
「いいよいいよ。河童の偉い人はみんな行ってるし、私みたいな下っ端まで行くことないさ」
「そうですか」

会話はそこで終わり、再び静寂が支配した洞窟にパチリパチリという音だけが響く。



将棋に夢中になっていたら、いつの間にか時計の針は夕刻を指していた。

「もうこの時間だと、葬儀が終わって火葬されてるのかな?」
「そうでしょうね」
「亡くなった天狗さん。ここ数ヶ月間、認知症だったみたいだね」
「そうらしいですね。友人や元同僚の顔も判別できなくなるほど呆けたとか」
「普通さ、認知症になっちゃたら家族からも友達からも疎まれるじゃない? でもさ、あの人の場合はきっと大勢が泣くんだろうね」

焼き場から立ち上る煙を見て、それに涙する山の住人達の姿が容易に想像できた。

「ところで、にとり」
「うん?」
「そっちの陣の駒で、なんかオカシイのが数個あるんですけど? 違法な改造してません?」
「ソンナコトナイヨ?」
にとりの目がこれでもかというほど高速で泳ぐ。
「じゃあこの駒はなんですか?」

駒の一つを指差す。

「取られると自爆する歩なんて初めて見るんですけど」
「それは『愚直歩兵(ボコスカウォーカー)』と言って、捕虜となることを良しとしない忠義の厚い足軽なんだよ」

「あと、私の駒がそっちの金に近づくと動かせなるなるんですけど」
「それは『鉄壁金将(メタルジャスティス)』と言って、強力な磁場を発生させて、射程圏内の敵兵を行動不能にする守りの要なんだよ」

「目を離すと飛車が全然違う位置にいるんですけど」
「それは『放蕩飛車(ファンタジスタ)』といって、相手のプレイヤーの目を盗んで勝手に移動する遊撃手だよ」

「火を吹く香なんて論外だと思うんですけど」
「それは『香炎車輪(レッドフレバー)』といって、前列の駒を焼き尽くす頼もしい前衛さ」

「王手を取ったはずの王将が、次の瞬間には全然違う場所に出現するんですけど」
「それは『絶対王将(エンドレスワルツ)』といって、ピンチに陥ると盤の中に掘られた隠し通路を通って安全地帯まで脱出するんだよ」

どれもこれも、にとりの手作りである。

「言いたいことは色々ありますが、その名称は如何なものかと」
「うん、実際に口に出して言うと恥ずかしいねこれ」
「徹夜で作りました?」
「した。そのテンションのままネーミングも考えた」
「翌朝に見返せばよかったですね」
「今からこの子たち改名してもいいかな?」
「どうぞ。もう金輪際使わせませんけど」

この時椛は、にとりに内心感謝していた。
彼女のお陰で、葬儀のことをそれほど考えずに済んだからである。



勤務時間を終えた椛は、にとりと別れ、夜の山道を歩く。
雲のせいで月は見えず、足元がいつもより暗かった。

「こんばんは椛さん」
道の途中、正装に身を包んだ文と出くわした。
「こんばんは。今からお帰りですか?」
「はい、会場に残って仲間達と故人の思い出話を少々していたもので」
そのせいで、帰りがこんなにも遅くなってしまった。
「やっぱり通夜も葬儀も出られなかったんですね」
「生憎と仕事がありましたので」
「非番の日でも行かなかったのでは?」
「ええ、弔う気などさらさらありません」

冷たい風が二人の間を吹きぬける。

「軽蔑しますか?」
「いいえ、あの方は白狼天狗に評判が良くないと聞き及んでいます」
「ご理解痛み入ります」
「ただ、一つだけ」
「 ? 」
いつに真剣な表情で椛の目を見る。
「はたての前で、故人を悪く言わないでください。はたてはあの方にすごく懐いていましたから」
「心得ました。しかし貴女にそこまで言わせるとは、相当ですね」
よほど皆から愛された天狗だったとわかる。
「さぞ立派な墓が建つんでしょうね。私たち白狼天狗と違って」
「そう言った皮肉も控え頂けると助かります」
文の目に、微かに怒りの色が灯る。
「それに私だって、それなりに辛いのですから」
怒りの色は一瞬ですぐに彼女は俯いてしまった。彼女自身、故人のことは少なからずショックなようだ。
「・・・では、私はこれで」
「はたてにはくれぐれも」
「善処します」
軽く会釈をして文に背を向け、山道を登っていった。




















日が完全に昇った頃、椛は布団から身を起こした。
今日は午後から深夜までが彼女の勤務時間であるため、遅めの起床だった。
「ん?」
枕元に黒い何かがいた。寝ぼけ眼を擦ってよく見てみると、それはカエルだった。まるで零した墨から生まれたのではないかと思えるほど真っ黒な体を持っている。
(この種類のカエルは初めて見るな)
家に虫なんかが入り込むことはさして珍しいことではないため、別段驚くことではなかった。
親指ほどの大きさのそれを摘むと、縁側から外に投げ捨てて身支度をして外に出た。
今日も空は雲に覆われており薄暗かった。


『ナカッタ』

投げられて地面に落ちたカエルはそう鳴いた後、地面に溶けて消えてしまった。












山の中腹にある大衆食堂で昼飯を取ってから、滝の詰め所に向かうことにした。
この食堂は種族を問わず、山に住む多くの者が利用している場所だった。
椛が入店した頃にはすでに大勢の客がいた。
列に並び一番安いかけそばを注文。受け取って空いているテーブルに座る。

「お蕎麦とは縁起の良いチョイスだわ。私のアドバイスを実践してくれてるのね」
「皮肉ですかそれ?」

定食が乗った盆を持つ雛が椛の対面に腰掛ける。

「あら、ちょっと見ない内にまた厄が溜まってるわね?」
「そうですか?」
「そんなんじゃこれから訪れる困難を乗り越えられないわよ?」
「ほっといてください。どうせ幸運とは程遠い場所にいますから」
しかめっ面で乱暴に蕎麦を啜った。
「拗ねないで頂戴。ほら、良いものをあげるから」
自分の腕に巻いてあるリボンを一本解き、椛の前に置いた。
「雛ちゃんストラップよ。私の力が込められていて、持っていると持ち主の厄を引き受けてくれるわ。あまり多くの量は無理だけど」
「よろしいんですか? こんなご利益のあるもの」
「その代わり大事にしてちょうだい。闇ルートで買うと結構するんだから」
「製造元が闇ルートとか言わないでくださいよ」

「うおっ! なんだコイツは!?」

突如、食堂にいた天狗の男が声を上げた。
男の腕に真っ黒な塊がくっついている。
黒い塊は、男が腕を振るうと床に落ちてべちゃりと崩れた。
「一体なんの騒ぎで・・・っとコイツは?」
小首を傾げていた椛の目の前にもそれは現れた。
「カエル?」
先ほど自分の家で見たのと同じ、真っ黒なカエルだった。

『ナカッタ』

「喋った?」
カエルから出たとは到底思えない奇怪な鳴き声に、椛は目を張った。
「カエルじゃないわ。それは厄の一種よ」
「厄? 普通、厄は目に見えないのでは?」
「前に少し話したでしょう? 喪に服す山の雰囲気と、新しく越してきた洩矢諏訪子かそれに従属する祟り神の影響で、今までにないことが起こるって」

気が付けば、食堂中の至る所に黒いカエルが発生していた。

『ナカッタ』『ナカッタ』
『ナカッタ』『ナカッタ』
『ナカッタ』『ナカッタ』

人の声にも聞こえる鳴き声が、食堂にこだまする。
この怪異に怯え店の外に逃げ出す者、退治しようとする者、硬直して動けない者、新聞のネタとして写真を撮る者、居合わせた者の反応は様々だった。

「こう言ったら失礼ですが。厄を引き寄せるあなたがここにいるからコイツらが沸いたのですか?」
「さぁ、どうかしらね。何せ初めての現象だから」

そう言うと雛は騒ぐ周囲に気にすることなく定食に箸を付けはじめる。
椛も哨戒の勤務時間が迫っていることを思い出し、急いで箸を持ったが、
「あ」
『ナカッタ』
どんぶりの中に、黒いカエルが漂っていた。
「まだ半分もあったのに・・・」
これにより食欲が完全に失せてしまった。
「哨戒の任務があるのでお先に失礼します」
「待ちなさい」
食器を返却し、立ち去ろうとする所を呼び止める。
「今のあなたを放っておいたらもっと非道い目に遭いそうだから、可能な限り取り除いてあげるわ」
「すみません」
立ち上がり、椛の元まで歩み寄る。
「あら?」
厄を吸おうとした時、何かに気付いたのか、彼女は椛の顔を凝視しだした。
「私の顔に何か?」
「この前は暗くて気付かなかったけど、昔にも何度か、こうやって厄を吸い取ってあげたことなかった? あなたがコレくらいの身長の時に」
自分の腰の位置で手のひらを水平に動かす。
「……ありませんよ」
「そんなわけないわ。私は曲がりなりにも神よ、どれだけ昔であろうと、一度厄を集めた相手は覚えてる。あなた名前は?」
「犬走椛です」
「モミジ? おかしいわね? 私の記憶ではあなたの名は…」

次の瞬間、椛は横にあったテーブルを思い切り叩いていた。そこに居たカエルが椛の鉄槌でぐちゃりと潰れた。

「仕事の時間が迫っているので失礼します」

壁に立掛けてあった剣を引っ掴み、貰ったリボンをその柄に結ぶと、食堂の戸をうるさく閉めて外に出て行った。

『ナカッタ』『ナカッタ』
『ナカッタ』『ナカッタ』

食堂の中は、未だに喧騒に包まれていた。
「厄いわね」
この日椛は、哨戒で訪ねた先々でこのカエルが発生する場に出くわすことになる。














次の日。この日も相変わらず、空には薄い雲が張られていた。

「それで被害とかは?」

局地的に発生した黒いカエルについての被害状況の報告をするために大天狗のもとまでやって来た椛。

「私どもが巡回している区画は、これといった騒ぎはありません。ただ、怯えている住人もいるので場合によっては避難所を開門する必要があるかと」
「そっ」

大天狗は相槌を打ちながら、煙管(キセル)の煙を吐き出した。

「天魔ちゃんが言うには、あのカエルは厄の一種らしいわ」
「そうなんですか?」
知っていたが、知らない風を装った。変に知っている事を言うと色々と訊かれて面倒だと思ったからである。

「これ自体に害は無いけど、近くに居る者に『ヨクナイモノ』を運んで来るから、見つけてもなるべく関わらない方が良いって」
「わかりました。隊の者達にもそう伝え、徹底させます」
「昨日、あれが私の袖にくっ付いてたの気づかずに博打打ちに行ったせいでボロ負け」
「それは自業自得です」

会話の途中、黒い泥のようなモノが畳と畳の隙間から湧き出てきて、それがカエルの形に形成される。

『ナカッタ』
「あーもー! コイツよ、コイツ! これのせいで昨日は!」
手の甲でカエルを払い飛ばす。
「何が『ナカッタ』よ!? お陰で昨日は私の運が無かったわ!」
カエルは壁に叩きつけられると黒い霧状に姿を変えて畳の中に潜っていった。
「触っちゃったから、エンガチョ(因果の性)切って」
大天狗は両手の親指と人差し指をくっつけて輪を作った。
「はいはい」
椛の手刀が大天狗の輪を切る。
「ありがと」
「このまじないは意味あるんですか?」
「厄って感染るらしいから、こうやると広がらないんだって。気休め程度にはなるわ。気にしてる子がいたら教えたげて」
「はい」
そして再び、大天狗は煙管を胸いっぱいに吸い込む。
「自棄酒ならぬ、自棄吸いってやつですか?」
大天狗の様子が、いつもと若干違うことに椛は気付いていた。
「やはり大天狗様でも、あの方の死は堪えましたか?」
「そりゃぁね・・・長い付き合いだったし」
「貴女の実年齢を知る者が一人消えたと思えば良いじゃないですか?」
「中々と棘のある言い方ね」

大天狗の目付きが険しくなるが、それはすぐに解かれた。

「まあアレも若い頃は好き勝手やってたし、自業自得か」

肺に限界まで溜め込んでいた煙を吐き出す。

「換気、しておいた方がいいですよ」
すでに部屋の中は、霞がかかったように白んでいた。
「うん。そうする」


その後、詰め所に戻った椛は、大天狗からの内容を通達し、勤務時間が終わるまで山を見回った。











ようやく交代の時間となり、家に戻ってきた椛は絶句した。
「なんだこれは?」
自分の家は黒いカエルの巣窟となっていた。

『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』
『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』
『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』

玄関、厠、廊下、風呂場、居間、台所。
屋根の上にいたるまで、カエルが居座っている。

「うわぁ、ひどいねコレ」
背後から声がかかる。はたてだった。
「もし良かったら、今日は私の家に来る? これじゃあ寝れないでしょ?」
「すみません、助かります」
その申し出を椛はありがたく受けた。

山道は歩かず、二人は飛んで移動する。

「今日、天魔様が鴉天狗を集めてこの厄に関する情報を最優先で集めるように命令が出たの」
そのために新聞の投稿日を延期させても良いという異例の許可まで下りたのだという。
「それではたてさんはこの辺りの調査を?」
「うん、この辺は誰もまだ調べてないようだったから」
この地域は白狼天狗が多く居住しているため、鴉天狗はあまり踏み込んでいない。それならばと、はたてがやって来た。
「見てきた中で、ここが一番カエルの数が多い」
「やっぱりそうですか」

話している内にはたての家に到着した。



「椛がベッド使って良いよ」
「いえ、床でいいです」
「いいの?」

家主を尊重し、はたてがベッド、椛が床に布団を敷くことになった。
食事をし、風呂に交代で入ってから二人は布団に潜り込む。

「こうやって椛が家に泊まるのって久しぶりだね」
電気の消えた部屋で呟く。
「そうですね。新聞のお手伝いをさせて頂いた時以来です」
まだはたてが引き篭もりを脱出したての頃、椛ははたての新聞作りをサポートしていた。
入稿締め切りの直前になると、新聞記者の家は鉄火場となる。はたてもその例に漏れず、椛は彼女の泊り込んで手伝いをしていた。

「最近、私達の隊ではたてさんの新聞が人気なんですよ」
「椛が変に宣伝とかしてないよね?」
「私は何も。はたてさんの努力によるものです。やっぱり貴女には新聞の才能がある」
「あの人も、私の新聞をそうやって褒めてくれた」
ふと、はたては故人のことを思い出した。
脱引き篭もり出来たことを報告に行った時も、自分の事のように喜んでくれたりと、孫のように可愛がって貰っていた記憶が蘇る。
「私にとってはお爺ちゃんみたいな人だった」
「そうだったんですか」
「椛はお通夜も葬儀もいなかったね」
「ええ、どちらも出ませんでした」
「あの人のこと、嫌いだった? 文から聞いたよ。あんまり白狼天狗には評判が良くなかったって」
「ええ。大っ嫌いでした。死んでくれて清々しています」
臆面もなくそう答えた。答えてから文との約束を思い出したが、言ってしまったものはしょうがないと開き直ることにした。
「・・・・・・そっか」
「怒らないんですね?」
「不思議と、怒る気どころか、死んじゃったのに全然悲しくない」
「まだ気持ちの整理がついていないのでしょう。頭では亡くなられたことを理解していても、心がそれを受け止めきれていないのですよきっと」
「多分、そうじゃない」
「 ? 」
遠慮がちに、しかしはっきりと椛の考えを否定した。

「あの人、最後は認知症だったんだ」
「そう伺ってます」
「私、何回もお見舞いに行ったんだけど。開口一番に言われるのがいつも『誰だお前は?』だった。ちょっと…ううん、結構辛かった」
何度訊いても慣れるものではなかった。
「多分、あの人が呆けちゃった瞬間に、私の中であの人は死んだも同然だっただんだと思う。だから今更死んだと知らされても、何も感じないんだと思う」
自身の心情をはたてそう推察・結論付けた。
「こんなこと考えちゃう私って異常なのかな?」
「死生観なんて人それぞれです。正しいも間違っているもありませんよ」
「そうかな?」
「ちなみに私ども白狼天狗は『この体と魂は、この山から一時的に借りている物。死ぬとはそれら借り物を山に還すことだ』と両親から教えられます」
「素敵な考え方だね」
「ところがどっこい。実はこの言葉。裏に隠れた意味がありまして」
「どんな?」
「二つあります。一つは他の天狗から見下され、命を蔑ろにされている現実から少しでも目を逸らすため。もう一つが頻繁に死ぬ仲間のために一々涙していては身が持たないから。ということです」
「…」
「貴女はこの死生観を異常だと思いますか?」
「わかんないよ、そんなこと・・・」

しばらく、時計の針が刻む音だけが流れる。
どれだけこの沈黙が続いたのかわからなくなった時、ふいにはたての声がした。

「椛、もう寝ちゃった?」
「・・・・」
起きていたが、狸寝入りを決め込むことにした。なぜ彼女にあんな棘のある言葉を言ってしまったのかという若干の後悔が彼女を苛んでいた。
「もうちょっとだけ、あの人について話したいんだけどいいかな?」

椛が起きていようと寝てようと関係なかった、自分の気持ちの整理と、泣いて送ってやることが出来なかった故人への懺悔の為。はたては語りだす。

「あの人、お見舞いに来た全員に『お前は※※※か?』ってすごい剣幕で尋ねてたの」
気になった彼の友人が、その名前の人物を探したが見つかることはなかった。
「あの人、ずっと独身だったし。皆は昔の恋人か何かだろうって誰かが言ってた」
結局、呆けた老人の戯言だと片付けられた。
「多分、皆から失望の眼差しを向けられたあの人を見た時、私の中であの人は死んじゃったんだと思う。だってその晩、何故かすごく悲しかったから」
「・・・」
「ごめんね五月蝿くして。おやすみなさい」
「・・・・」
はたての寝息が聞こえてからも、しばらく椛は目を開けていた。
彼女が口にした『※※※』という名で、その眠気は一気に失せてしまっていた。

『ナカッタ』

この時、部屋の隅に黒いカエルが一匹発生したことに椛は気づいていなかった。










白狼天狗という種族だけで、他から蔑まれて生きていた。
同年代の他種の天狗に苛められることなど日常茶飯事だった。

擦り傷や打撲をたくさん作って家に帰り、母に心配された時は「友達と草すべりをして遊んでいた」とよく言い訳した。
今にして思えば、母は全部知っていて騙された振りをしてくれていたのではないかと考える。

父は哨戒の仕事をしていた、薄給ではあったが料理上手な母のお陰で食事の質に関して不満を抱いたことはなかった。
だだちょっと量が少なく、ひもじい思いをしていたが、食べられるだけで有難いと感じ、父への感謝を忘れたことはなかった。

他の天狗から見れば『可愛そうな生活』を送っているのだろう。
けれど、当事者の彼女は満足だった。

しかし、その掛替えの無い生活はあっさりと終わりを迎えた。


首から下を無くした両親が、往来に設置された粗末な棚の上に飾られている。
そのすぐ横には立て札が立掛けられており、彼らがどんな罪を犯したのかが事細かに書かれていた。
その立て札を支えている天狗がいる。
椛は彼を知っていた。つい先日、天寿を全うした天狗である。今、椛の目の前にいるのは彼は、老人ではなく当時の若い姿をしている。
彼は誇らしげな顔をしていた。同じ山に住む仲間の首を刎ねたにも関わらず、自身の行いを絶対正義と信じている。そんな表情だった。

「ふざけるな!!」

椛はその天狗の前に立つ。

「貴様が山の者すべてから支持されようと! 偉人として名を残そうと! 聖人君子として崇められようと! 私にとってお前は屑だ! 死骸に群がり病原菌を媒介させる羽虫にも劣る屑だ!」

しかし、彼はそんな罵詈雑言を受けても微動だにせず、毅然とした表情を崩すことも、眉一つ動かす気配すらなかった。
この空間で動けるのは椛だけだった。他はまるで舞台のセットとマネキンのように動かない。
彼女だけを残してこの空間の時間は止まっている。

「お前のせいで全て失った! 父も母も、家も、名前さえも!!」

その喉笛を噛み千切るために足を前に出す、さらに一歩と徐々に距離を詰めようとする。
しかしどれだけ歩こうと、この距離から一向に縮まらない。
腰にさしていた剣を抜く、しかし抜いた途端に剣はまるで飴細工のようにボロボロになり、柄だけしか残らなかった。

「どうしてお前はそんなにも遠い!! どうしてお前はそうやって色々なものから守られてる!!」
『・・・・・・』
「なんとか言ってみろ!!」
『・・・・・カッ・・・』
「ッ!?」
マネキンだと思っていた彼の口が動いたような気がした。
「なんだ? 今、なんて言った?」

『ナカッタ』

そこで彼女の夢は終わった。












「ひいぃぃっいいいいぃぃいい!!」
「ッ!!?」
翌朝。はたての叫び声を目覚ましに椛は覚醒した。
寝起きにも関わらず素早い動きで布団を蹴り上げて、枕元の剣を掴む。

『ナカッタ』『ナカッタ』
『ナカッタ』『ナカッタ』

拳ほどの大きさの黒いカエルが数匹部屋の中を跳ねていた。
「またこいつらか」
鷲づかみにして窓から外に投げ捨てる。
『ナカッタ』
しかし、また家に入ってこようと跳ねてくる。
「うっとおしいな」
イラついた椛は下駄を履き外に出て抜刀、足元にいた一匹に切っ先を突きたてた。剣が汚れるからと思い今まで控えていたが、我慢出来ずにやってしまった。
「ん?」
ここで、今までに無い現象が起こった。
霧散するのまでは今までと同じだったが、カエルの体を構成していた黒い粒子が椛の手元に吸い寄せられるように近づいてきた。
椛の手元、剣の柄の部分には、雛から先日渡されたリボンがあり。厄はそのままリボンに吸収された。
「これは・・・」
他のカエルにも試してみる。同じようにこの剣で斬るとリボンに厄が吸収された。

「カエルどっか行った?」
窓から恐る恐る顔を出したはたてが尋ねる。
「ええ、追い払いました」
そう答えつつ椛は雛のリボンをじっと見つめていた。





「ここには当分戻りたくない」
カエルに居つかれてしまったため、しばらく家から離れることを決意するはたて。
「当分、文のトコに泊めてもらおうと思うけど、椛はどうするの?」
「流石に二人も行っては迷惑ですし、私はにとりの所に厄介になろうと思います」
「そっか」
「あのはたてさん、その・・・」
「 ? 」
昨晩の自身の発言、白狼天狗の死生観を半ば八当たりのように語ったことを詫びようと思った。
「どうしたの?」
「えーと、その・・・」
椛はすっと手で輪を作った。
「あいつ等に触ってしまったので、エンガチョ切ってもらえますか?」
「うん、良いよ」
結局謝る事はできなかった。

そこで二人は別れ、それぞれの仕事場に向かっていった。









「おや?」
はたてと別れ、詰め所に向かう途中、ある人物を見つけて椛はその隣に降りた。
「何してるんです?」
両手の上に黒いカエルを乗せている雛に問いかける。
「見て判らない?」
「生憎と。接吻でもするんですか?」
「それは素敵ね。でも残念、不正解」
まるで本でも閉じるかのように、手のひらと手のひらを重ね両手でカエルを挟みこんだ。
手を開くとカエルの姿はどこにもなかった。
「そうやってカエルを駆除して廻っているのですか?」
「駆除じゃないわ。元の場所に還しているだけよ」
「還す、ですか?」
「誰にだって“かえる”場所は必要よ。厄にだって。そして貴女にだって」
『還す』という言葉を聞き。昨晩、はたてとした話を思い出しそうになり、顔を軽く振ってそれを払い落とした。

「でも、これはそろそろ私が扱える範疇を超えるわ。もうじき私の力じゃ山に還せなくなる」
「厄神に扱えないってことは、存在自体が厄じゃなくなるってことですか?」
「そうよ。守矢の神の影響力ってすごいのね。このまま行くと、この厄はきっと新しい祟り神として生まれ変わるわ」
「もう手遅れなんでしょうか?」
「大本を叩けば解決よ」
「それはどこに居るのですか?」
「そう焦らずともちゃんと現れるわ。いずれ貴女の前に。この厄は多くを語ってはくれないけれど、どうやら貴女に用があるみたいよ」
厄神だからこそ分かる事があるのか、雛は今回の真相にすでに辿り着いているようだった。
「やはり、この厄騒動の核は先日死んだ天狗ですか?」
「あら、気づいてたの?」
意外だったのか、驚いた顔で椛を見つめる。
「『ナカッタ』という言葉には、ちょっとばかし聞き覚えがありまして。あれの目的が私だったのは知りませんでしたが」


雛曰く、彼を偲ぶ大勢の想いから生まれたのが巨大な厄。それに彼の残留思念が溶け込んでしまった所に、祟り神の力が介入してしまい、厄が暴走してしまったのだという。
彼の残留思念は椛のことを強く想っているらしく、それのせいで厄は彼女を中心に発生しているのだとか。

「はたてさんには悪いことをしてしまいました」
「守矢神社には私から説明するわ。事情を知ってくれれば騒ぎが治まるまで保護し・・・」
雛は言葉を途中で止めてしまった、今の椛の表情を見てしまったからだ。
「どうしてそんなにも嬉しそうなのかしら?」
「そう見えますか?」
「ええ、とても」
椛は笑っている。朗らかで優しいモノではなく、攻撃的な笑みである。

「今日中には守矢の神に話をつけておくわ。今夜、神社まで来なさい。忘れちゃ駄目よ?」
「わかりました。今日の哨戒を終えたら伺います」

一礼してから詰め所に向かうために飛ぶ。
移動中も未だに笑いが止まらないでいた。
これほどまでに精神が高揚するのは久しぶりだった。
神社に行く気など椛はなかった。


詰め所に向かう途中、山で一番大きな診療所の上を通った。
その際、メモ帳を持った文が一瞬見えたような気がした。






















――― つり橋を渡ってる途中で急に綱の一本が切れてバランスを崩したんだ、その時に足をちょっと・・・・黒いカエル? そういえば綱に何匹かくっついてたな。

――― 包丁を研いでいたら手元が狂っちゃってねぇ。カエルかい? そういえば家の中で何匹か見かけたね。息子が潰して遊んでいたよ。

――― 仕事さぼってるのをカミサンに見つかってコレもんよ。あ? カエル? 腹がパンパンのぶっさいくなカエルなら毎日見て・・・ゲェ、お前! 違っ、今のはお前のことじゃなくて!!

――― 屋根の修繕中に、釘が足元に散らばっているのを知らずに歩いてしまいまして。カエルなら屋根にいましたよ。よくあんな高い所に良く登れたものです。


「ありがとうございました。お大事にしてください。あとこれ、お口に合うかわかりませんが」

証言をしてくれた者に感謝を述べてから、お礼として安物の菓子が詰まった包みを渡す。

文は山で一番大きな診療所を訪れ、今日怪我をして手当てを受けた者に、その時の状況を聞いて回っていた。
カエルの近くにいると不幸に遭遇する確率が上がると聞いた文は、今日ここを訪れる者に聞き込みをした方が新しい発見があるのではと考えた。

(しかし、大して良い情報はありませんね)

カエル目撃の証言は多く得られたが、有力な情報と呼べるものはまだ手に入っていなかった。

(一度戻りましょうか)

お騒がせしましたと、医者に一言詫びてから飛び立った。








鴉天狗が多く暮らす集落の中央に掲示板がある。
普段は催し物の案内や伝言、業務連絡に使われるそれは、現在、天魔の命により厄の情報を報告する専門の板として利用されていた。

文は自分が仕入れた情報を貼り付けると、他の鴉天狗が張った紙に眼を通し始める。
(今回の騒動。かつてあった花の異変のような自然現象なのか、誰かが作為的に起こしているものなのか)
調査する上で、まずはそれを確認する必要があった。
(この厄の発生には何か法則があれば、自ずと背後の黒幕が見えてくるのですが)

掲示されている情報を取捨選択し、重要だと思うことだけメモ帳に書き込んでいく。

射命丸文を突き動かすものは二つ。
今回の騒動の真相を誰よりも早くスッパ抜き、勲章を増やし名を上げたいという新聞記者としての性。
(こんな不気味な日々、さっさと終わらせなければ)
そして妖怪の山に住む者としての責務だった。

「あ。文だ」

振り向くと紙を貼り付けようとしているはたてがいた。
「貴女も情報を貼りに・・・・ん?」
紙には、自分の家に出現したと書かれていた。
「あなたの家にも出たのですか?」
「うん、今朝起きたら何匹も家の中にいて、追い払ってもまた湧いてきた」
「それは災難でしたね」












文は自身の家にはたてを招いた。

「ここで良ければしばらく居ても大丈夫ですよ」
「ありがと」
「しかし解せません。あの区画で、貴女の家にだけカエルが現れるなんて、何か特別なことでもしました? できれば昨日のあなたの行動を詳しく」
「さ、さぁ。不思議だね!?」

椛を好いている文に、彼女を泊めたことを告げると後々面倒になると思ったはたては知らばっくれた。

「まあ、それは後で訊くとして、先にこっちを取り掛かりましょう」
机の上に山の地図を広げる。
「はたてにも家賃代わりに働いてもらいますからね」
厄の情報が詰まったメモ帳をはたてに渡す。
「なにするの?」
「黒いカエルが発生してる地域の分布図を作ろうと思いまして。1ページ目に書いてある場所を上から順番に読んでいってください」
「わかった」

はたての手伝いもあり、1時間程でその作業は終わった。

「白狼天狗が居住してる地域に集中してますね」
プロットした点は椛が住んでいる地域に集中していた。
「そういえば、昨日このあたり行ったけど、カエルの数が凄かった」
「さて、次はっと」
今度は棚から裁縫箱を出し、大量のマチ針が入ったケースを取った。
「メモ帳に厄の発生時刻があるでしょう? 今度はそっちを読んでいってください」
「えーと大天狗様の所に現れたのが夕方5時ごろ。椛の詰め所に発生したのがお昼の2時・・・」
その言葉に従い、文はマチ針を地図に刺していく。

「出来た」

地図には赤、青、黄、白、黒と様々な色のマチ針が刺さっている。
「赤が厄が目撃された初日目の昼、青が夕方、黄色が夜。白が二日目の午前、黒が昼と分けています」
「こう見ると、バラバラだね。あっちで発生したりこっちで発生したり」
発生した時間に法則性がなかった。
「こうすれば何か発見があると思ったのですが、仕方ありません。明日は厄が多く発生する白狼天狗の地域を調査してみ・・・どうしましたはたて?」
はたては、携帯の画面を怪訝な表情で見つめていた。

「いや、私の能力でこのメモ帳にある『発生時間』と『発生場所』。それと『厄』で検索してみたら」

たまたま近くに新聞記者が居れば厄の写真を撮っているはずだと思い、はたては調べてみた。
「ヒットした写真の何枚かに椛が映ってたからちょっとビックリしちゃって」
「ちょっと見せてください」
はたてから奪うように携帯を取る。
彼女の言うとおり、厄の発生した時間帯に椛がその場に居合わせている写真が何枚かあった。
「椛呪われてるのかな? もしかして椛が泊まった私の家に出た、とか?」
「椛さんを家に泊めた!? その話、詳しく!」
「あ、いや。別に椛とは、そんなやましい事なんて全然なくて、椛の家がカエルまみれだったからしょうがなく・・・」
「そうじゃなくて厄に関しての話です! そっちの方は後でじっくり聞かせてもらいます!!」

昨日の晩のことをひとしきり話した。

「なんでもっと早く教えてくれなかったんですか!!」
「だって椛とお泊りしたなんて言ったら文絶対に暴走するから・・・」
「いや、そうですけど・・・じゃなくてっ!」
文はカメラも手帳も持たずに下駄を履く。外はすでに暗くなっていた。相変わらず今夜も月は雲で見えない。
「私は椛さんの所に向かいます!! あなたは先に寝ててください!!」
「あ、待ってよ文! 私も行・・・おおっと」
肘がテーブルの上にあった裁縫箱に引っかかり、床に中身をひっくり返してしまったはたてを尻目に、文は闇夜の中に飛び込んだ。


飛びながら文は自身の今の行動を省みる。
(断定するにはまだ情報が圧倒的に足りていない)
これだけの手掛かりだけで動くのは新聞記者として明らかに軽率だと思っている。
(突飛過ぎ、飛躍し過ぎだってわかってる。でも)
その可能性が砂一粒ほどのでもあると思ったら動かずにはいられなかった。

















雛のリボンのお陰で、家にいたカエルが一掃出来た椛は夕飯の支度をしていた。

雛に守矢神社に来るように言われているが、行く気などなかった。
自分の手で決着を付けたかった。

(にしても、奴はいつ現れる?)

囲炉裏の火を見つめながら思う。
囲炉裏には菜種油の注がれた鍋がぶら下がっており、鍋の中では今日山道で採った山菜が踊っている。

(これだけ熱いと流石にカエルも跳びこんでこないだろ)

かつて食堂で駄目になったかけそばのことを軽く根に持っていた。

『ナカッタ』『ナカッタ』
『ナカッタ』『ナカッタ』

厄のことを考えたせいか、部屋の隅からそんな声が聞こえてきた。
「また沸いてきたか」
傍らに置いた剣を掴む。
その時、背後でゴトリとカエルのものとは明らかに違う音がして、椛は素早く振り返った。
「なっ!」
どういうワケか、調理に使った菜種油の溜まっていた壷が倒れて、こちらに流れ込んできた。
(マズイ)
油が囲炉裏の火に触れる前に、椛は剣で床を叩き割り、油の進路を潰した。
「ああ、ただでさえボロ屋なのに・・・え?」
床を割った衝撃なのか、振動で囲炉裏から下がる鍋が引っ掛け部から外れて傾き、中身がすべて椛の側でぶちまけられる。

「~~ッ!!」

咄嗟に身を引いたが僅かに間に合わず、右膝から下に容赦なく油をかぶった。
「くっそっ!」
剣で灰を巻き上げ囲炉裏の火を消し、火事になるのを防ぐ。
立ち込める煙と煤が充満する部屋から外に飛び出し、地面に肩から着地し転がって素早に体勢を立て直す。

「ッ!?」

今晩は空だけでなく、地面も黒かった。

『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』
『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』
『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』
『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』『ナカッタ』

あたり一面に敷き詰められたカエルの合唱が響く。
発生した初日はアマガエルほどの大きさでしかなかったソレは、今では一匹一匹がウシガエルほどの大きさになっていた。
やがてカエル達は一箇所に集まりだし、あっという間に一匹のカエルと変貌した。

(なんだ、これは?)

椛など軽がると呑み込める大きさだった。
かつて、文が書いた新聞記事の氷精と大蝦蟇の記事が一瞬だけ脳裏を掠めた。
直後、これに丸呑みされる自分の姿が浮かんだ。

「ふふふ・・・・アハハハハ!! 」

にも関わらず椛は笑った。

「なんだなんだ!! 思ったよりも早かったじゃないか!! お前も待ちきれなかったのか!? この早漏がッ!!」

普段の彼女からは想像も出来ない声で盛大に笑った。
熱せられた油によって爛れた足にも関わらず、椛は剣を杖代わりにして立ち上がる。

「ずっと諦めていたんだ! 仇など討てないと! 復讐など成功しないと!」

哨戒の部隊に入ったばかりの頃。
両親を殺した者を必ず復讐してやると躍起になっていた。
いつか巡って来るチャンスに備え、ただひたすら強くなることだけを考えた。
仲間よりもずっと鍛錬を積んできた。危険な任務にも自分から志願した。
しかし、その渇望していた機会はいつもまで経ってもやって来なかった。

そして数多の任務を経験して大天狗と仲良くなり、河城にとりとも友達になった。
姫海棠はたての脱引き篭りが切欠で、彼女と射命丸文とも親しくなった。

長い長い時間の経過と共にその復讐心は薄れしまい、結局何一つ果たせないまま今日まで来てしまっていた。
そんな椛にとって、今回の異変は青天の霹靂と呼ぶにふさわしかった。

精神と思想は今、当時のものに戻っていた。

「大昔に始末しそこねた餓鬼を残してこの世を去るのがそんなに心残りか!? それともただ単純に、私が生きていること事態が許せないのか!?」
『ナカッタ』
今までで最もしっかり聞こえる声でカエルは鳴いた。
「そうさ『無かった』! お前達が並べた首の中に、私のだけな!! さぞ焦ったろ!? 取るに足りない餓鬼に逃げられたのだから! 貴様の人生で唯一の汚点だ!!」
何度、その心臓に剣を突き立てたいと渇望したことかわからない相手。その成れの果てに向かい吼える。
「火葬されて大人しく塵あくたになっていれば良いものを! わざわざそんな穢れた身になってまで私のもとに来てくれるとはご苦労なことだ!!」

剣を肩に担いだその時、文がその場に到着した。

「こいつは・・・」

状況は把握できていないが、この大蝦蟇が椛を襲おうとしているのは分かった。
自分の勘が当たっているのを喜んでいる余裕などなかった。
「いったん退きましょう椛さん!」
全神経が警鐘を鳴らす。これは関わってはいけないものだと本能が訴える。
「邪魔だカラス!! そこをどけっ!!」
「きゃっ!」
自身の前に立とうとする文の肩を掴み、横に押し飛ばした。
椛の目は大蝦蟇に釘付けだった。
「コイツは危険です! それにその足の怪我、私達だけで対処するには余りにも・・・」
「嫌だね!」
袖を掴んできた文の手を強引に払いのける。
「今までずっと食いたいと思って見上げ続けていた桃が、突然落ちて自分の足元に転がってきたんだ! 食わない馬鹿がどこにいる!!」

その言葉が終わると同時に大蝦蟇は跳ねて、呼吸でもするかのように口をパックリと開けた。

「上等だ!! 叩っ斬っ・・・」
「逃げください!!」
「ッ!?」

文は椛の後ろ襟を掴むと、天狗の膂力を最大限まで引き出し、彼女の身を後方に投げ捨てた。
「がはっ・・・・」
地面に背中を強かに打つ。十メートル以上は飛ばされたと体感的にわかった。
「邪魔するなと言ったろうがこのアバズ、レ?」
椛が体を起こした時、大蝦蟇はまるで租借でもするかのように数回アゴを動かしてから、ゴクリと何かを呑み込んだ。
一瞬だけ見えた口の中に、見覚えのある足と下駄があった。

「待って、そんな・・・・嘘・・・だって文さんは・・・」
「厄チョップ!」
「ぎゃん!」

脳天に衝撃を受ける。

「来るのが遅いから迎えに来てみれば」
「厄神様」
雛だった。守矢神社に説明し、椛の身柄を預かる約束を取り付け、彼女を迎えにここまで来ていた。
「まさかもう襲いに来てるだなんて、ちょっと予想外だったわ」
「下がってください雛さん、コイツは私が・・・ぐぅ」
くぐもった声を漏らし膝をついた。今になり足の火傷が強烈な痛みを訴え始めた。
「そんな状態で今まで平気だったなんてすごいわね、アドレナリンがドバドバ出まくってたんでしょうね。なるほど暗黒面(ダークサイド)にも堕ちちゃうわけよ」
椛に対し溜息を吐いてから、文を呑み込んだ黒い大蝦蟇を一瞥する。
「こっちはまだギリギリで厄の輪の中にいるみたいだけど、あと一歩で完全に祟り神の一員ね。良かった、今の状態なら私の力で・・・・・・あら?」

言葉の途中で、大蝦蟇の身がブルリと震えた。
すると体の中心から縦方向に裂け、半分の大きさになった大蝦蟇が二匹になった。

「分裂した?」
「片方が本体。もう片方がハリボテね。きっと私がいるからあまりここに長居したくないのでしょうね。ああすることで私を撹乱して、本体を遠くに逃がすつもりなのかしら?」

雛がそう予想した通り、二匹はそれぞれ背中を向け、右と左に分かれて移動し始めた。

「おい逃げるな!!」
「マズイわね。あなたの身代わりになった子、長い時間あの中にいると最悪、同化しちゃうかも」
「・・・そんな」

「椛! ここに文が来なかっ・・・って何のデッカいカエル!? きしょっ!」

はたてが着地する。床に落としてしまった裁縫箱を片付けるのに手間取り、到着が遅くなった。

「久しぶりねはたてちゃん」
「あ、厄人形だ」
「早速で悪いんだけど、一つ頼まれてくれないかしら?」
「何を?」
雛は椛から剣を取り上げると、柄にもう一本リボンを追加で巻きつけてからはたてに預ける。

「黒いカエルが二匹いるでしょ? 片方が今回の厄騒動の核。もう片方が文ちゃんを包んでるダミー。どっちか好きな方を斬ってちょうだい」
「・・・・・」

はたての表情が一気に硬くなった。事の重大さを理解したようだった。

「斬るだけでいいの?」
「むしろ斬らなきゃ駄目なの。他の方法で退治しようなんてナンセンス。皆言うでしょ『エンガチョ切った』って? 斬らないと厄の連鎖・感染は終わらないのよ」
「どっちを斬ればいいの?」
「さぁ? あれはもう普通の厄じゃないもの、私ではわからないわ」
オーバーに肩を竦めて見せた。
「じゃあどうやって!!?」
「でも大丈夫、この子が正解を見つけてくれるわ」
椛の肩にポンと手を置く。
「私が?」
「しっかりと見なさい。その目は千里先まで見通せるんでしょう?」
「そんな透視じみた芸当は・・・」
「出来ないなんて言わせない。貴女が私の言うことを聞いていればこうはならなかった。責任を取りなさい」

雛は椛の背後に回り、彼女の頭を両手で包み込むように挟んだ。

「良く見て、焦っては駄目よ。判断を誤れば、あなたは大切なモノを二つ同時に失う。慎重に、リラックスして」
「・・・・」

椛はドス黒い二つの塊を見る。
睨み、凝視し、瞼を目一杯まで上げ、瞳孔を限界まで開き、瞬きを我慢し、視神経を研ぎします。
奥歯にヒビが入るほど力み、眼球の筋肉を極限まで絞る。
見えるかどうかも判らないものを見極めようと自分の全てを目に注ぎ込む。

それは幻覚だったのかどうかわからない。しかし、椛の目に映ったものがあった。

視えた後、頭の中に『プツリ』と小さな音がした。

「左です! 左を斬って!!」
「わかった!!」
地面を蹴り滑空、剣は両手で持たず柄を逆手に握っていた。

はたては重い剣をまるで自分の手足のように扱える椛を尊敬していた。
彼女が鍛錬で剣を振るう姿を見て、それが余りにも格好良くて、一人の時、鏡の前でこっそりポーズを真似してみたことが何度かあった。

(全体重を前に)

椛が振るう剣の型の中で、とても好きな技がある。

(足で地面を思い切り蹴って)

これで木を軽々と伐り倒していた。

(目標の目の前でブレーキ)

急に止まった事で慣性が働き、はたての体は強い力で前方に引っ張られる。

(この勢いを利用して)

独楽のように体を回し、腹に力を入れ、腕の力ではなく体全体の力で剣を振りぬいた。
片手、しかも逆手で振ったにも関わらず、カエルの身は横一文字に斬り裂かれていた。

「斬った、斬っちゃった・・・」

はたての手に、水を斬ったような感触が残る。
剣を振り抜いてから数秒、呼吸を整えて自分が斬ったカエルの断面を恐る恐る覗き込む。

「はぁぁぁぁぁ」

そこには文の姿はドコにも無かった。

「よかった」

安堵し、脱力する。
手から自然と剣が落ちた、今の振りで握力を使い切ってしまっていた。
「こんな剣を軽々と扱える椛はやっぱりすごい・・・・あ、そうだ文!」
少し離れた所にあるもう一つの厄の元に駆け寄る。
「ぺっ、ぺっ!」
カエルの姿が溶け、泥のようになった厄の中から文が這い出てきた。
「大丈夫?」
「ええ、なんとか」
はたてに引き起こされた文は、彼女が斬った厄本体に近づく。

「こいつが、この騒動の親玉ですか」
『ナ、カッタ・・・・・・ナカ、ッタ、ナカッタ・・・ナカッタ、ナカッタ・・・』

まるで壊れた蓄音機のように、腹から上と下に体を両断された大蝦蟇は繰り返す。
息絶え絶えのカエルは、事切れる直前、口が今までに無いほどハッキリと動いた。

『スマナカッタ』

「え?」

その言葉の後、周囲の厄全てが一斉に消え去った。
この辺りを包んでいた禍々しい空気はもうどこにもない。

「終わったの?」
「どうやらそのようですね」
「やったね。もみ・・・・じ?」

振り向いた文とはたてが見たのは、両の目から夥しい量の血を流し倒れこむ椛の姿だった。














【 epilogue 】


この日は快晴で、西からの温かく心地よい風が山を包んでいる。

椛を医者に担ぎこんだ後、文とはたては雛から今回の厄騒動の原因が先日亡くなった天狗の残留思念であると知らされた。
「ふむ『スマナカッタ』…か」
二人は、昨晩の出来事も含め、自分達が知る全てを天魔に報告した。
「私には確かにそう聞こえたんです」
「私も」
報告と言っても、縁側に腰掛けて茶を啜りながらの、ほぼ世間話や雑談に近い状態だった。

「あの方と椛さんの間に何があったのでしょうか?」
「それは儂らが易々と踏み込んで良い領域ではない」

昨夜を境に、山にはもう黒いカエルは一匹も確認されていない。

「今日の朝一番に儂のもとに守矢神社の巫女が一人で来た。二柱の管理不届きを詫びに来たぞ」
同じ轍を踏まぬよう再発防止に努めると宣言し、東風谷早苗が頭を下げた。
「守矢の巫女め『そちらの気がすまないのなら、この身をもって償うよう、仰せ付かって来た』とぬかしおった。まったくもって小ズルイ神どもじゃ」
これ以上守矢神社に責任を追及すれば、真っ先に早苗が犠牲になるということだ。
「お陰でこちらはそれ以上守矢を糾弾できん」
早苗は異変解決を通して交友関係が広がったと聞く、もしそんな彼女に手を出せば、余計な敵を作ることになる。
「泣きそうな童にゃぁ勝てんわい」
そのときの東風谷早苗の表情を、天魔はしばらく忘れないと思った。
早苗は、二柱から自身の安全が保障されていることを知らされていなかったのだろう。彼女はそれ相応の覚悟を宿した瞳で天魔と対峙していた。
結局『次はないと思え』という捨て台詞しか天魔は言うことが出来なかった。
「全く持って気に食わん」
ここ最近、調子に乗ってきた守矢神社の鼻っ柱をヘシ折る良い機会だと思ったが、その目論見は見事に挫かれた。

「ああもうッ! 祭りじゃ! 祭りを開くぞ!! こんな気分ではまた厄が溜まってしょうがない! もうじきある防災訓練に会わせて縁日やるぞ縁日!」

立ち上がり、二人に向けそう宣言した。

「お祭りですか?」
「左様。喪に服すという陰鬱な空気が問題なのだろう? ならば派手に騒いで厄を祓おうでわないか。元より祭りは厄落としのための行事」
「いいですね」
「うん、やろう」
「それにそういう理由ならば、守矢はたんまりと祭りの運営費を出さざるを得んじゃろう? ささやかな仕返しじゃ」

転んでもただでは起きない天魔に、二人は感心するのだった。










天魔との話を終えて、屋敷を出る二人。
椛の見舞いをするために、彼女が担ぎこまれた診療所に向かっている。
はたての手には天魔から渡された椛への差し入れがあった。

「私、あの人を斬っちゃったんだね」

水を斬ったようなあの感覚が、まだはたての手に残っていた。

「気にしてはいけませんよ、所詮は残留思念。本人でもなんでもありません」
すかさず文はフォローを入れるが、違うとはたては首を振った。
「私が斬っても良かったのかなって」
「どういう意味です?」
「あの人『自分は大勢の者から感謝されることをしたが、同時に同じ数の者達から怨まれることもした』って言ってた」

認知症になる少し前に、たった一度だけ話してくれたことだった。

「だからひょっとしてあの人は・・・・ぁぅ」

文は、はたての頭をガシガシと掻いて、言葉を無理矢理に中断させた。

「所詮は憶測。それはあなたの胸の内にだけ閉まっておいてください。今となっては真実なんて誰にもわかりはしないのですから」
「わかった! わかったから! 髪が乱れるから、やめ・・・」
「いいですかはたて? この世には罪深い奴しか存在してないんですよ? 大罪を犯さないで生きてる奴なんていません。もし『自分は潔白だ』と言う者がいたら、そいつは自分の罪に気付いていない究極の愚か者です」
そこまで言って、はたてを自分の手から開放した。

「あー髪がーこれから椛に会うのにー」

乱れた髪を手櫛で直す。
「ねぇ一個訊いてもいい?」
整えながら、文に尋ねた。
「ええどうぞ」
「椛を庇って厄に呑み込まれた後、本当は自力で脱出できたんじゃない?」
「はい、きっと出来たでしょうね」
即答だった。
「やっぱり、どうして?」
「じゃあ逆に訊きますけど」
「うん?」
「どうして躊躇なく厄を斬れたのですか? 私が入っていたかもしれないのに?」
「だって椛が……あ、そっか」
自分で出した回答に、はたては得心いったと頷いた。
「椛が助けてくれるって信頼してた?」
「当たり前でしょう?」


ここまで話した頃、椛のいる診療所の屋根が見えてきた。







「え!? もう退院したんですか!?」
年老いた鼻高天狗の医者は頷いた。『片目が見えれば十分です。何泊もできるほど懐に余裕もないですから』と言って松葉杖で体を支えながら強引に出て行ったらしい。
「どうして引き止めてくれなかったんですか!? 彼女まだ重症なんですよ! 足に火傷だって!」
文のその問いかけに「怖すぎてできなかった」と弁解する医者と看護婦だった。



















山の片隅に、大勢の天狗が眠っている墓地がある。

「こんなゴツい墓に入れられたら、山に還るのなんて1000年先だな。ザマーミロ」

立派な墓の前に座り、椛は勝ち誇ったように言った。
墓の中にまだ骨は入っていない、骨壷は一ヵ月後に納骨される予定になっている。
だから周囲には椛以外誰もいない。

はずだった。

「ずいぶんと厄いこと考えているわね」

雛が音も無く椛の背後に現れた。

「目の調子はいかが?」
「良好ですよ」
今、椛は左目部分にだけ包帯が巻かれている。
「右の方はすぐ見えるようになったんですけどね、こっち側は完治にあと三日くらい掛かるみたいで」
「後遺症とか大丈夫なの?」
「目に負担が掛かって出血するのってそれほど危険なものじゃないんですよ。目に溜まりすぎた血を抜くための生理現象です。汗や尿みたいなもんですよ」
「それはそれで心配になるわ」
「平気ですってば、三ヶ月くらい前にもありましたし。珍しいことじゃありません」
「どんな理由で?」
「大天狗様が宴会芸の練習といって、学童服を着ていたのを偶然目撃してしまった時に」
「oh…」

ひとしきり椛を憐れんでから、雛は彼女の剣に掛かっているリボンを外した。

「これはもう必要なさそうね」
「回収するんですか?」
「あら気に入ってくれた?」
「だって高値で売れるんでしょ?」
「没収します」
「えー」

雛は自分の手にリボンを巻きなおしてから墓石を見る。

「確かにずいぶんと立派ね。他とはワンザイスもツーサイズも違うわ。これじゃぁお隣さんが日陰になりそうね」
「こういうのが以前貴女が仰った『還る場所』という奴ですか?」
大蝦蟇に襲われる日の午前中に雛とした会話を引合いに出した。
「そうだと言えばそうだし、違うと言えば違うわ。『還る場所』なんてのは第三者が決めるものじゃない」
「私達、白狼天狗には『この体と魂は、この山から一時的に借りている物。死ぬとはそれら借り物を山に還すこと』という思想があります。妖怪の山の為に生き、妖怪の山の為に死ぬことが美徳だという妄信から生まれた言葉です」
はたてにも言った言葉だった。それで彼女を不快にさせてしまったことを、今でも椛は後悔している。
「なんとも歪んだ自己犠牲ね。厄神である私が霞んで見えるわ」
「あなたもそう思いますが? 私もそう思います・・・・けれど」
「 ? 」
薄っすらとだが、椛は笑った。
「それに殉じてみたいと思ってしまう自分も確かにいるんです」
否定半分、肯定半分。それが白狼天狗の性というやつなのかもしれないと椛は思う。
かつて白狼天狗を蔑(ないがし)ろにし、今もその風習が色濃く残る天狗社会は憎い、しかしこの山を敬愛している。
そんな小さな矛盾を抱えて椛は今を生きてきた。
「これからも私は、そうやって悩みながら生きていかなければならないのだと思います」
そう話す椛だが、その表情には、どこか清々しさが感じられた。

「話は変わるけど、ちょっと質問していいかしら?」
雛がそう切り出した。
「ええどうぞ」
「前に一度訊いたけど。あなたの本当の名前。犬走※※※ちゃんっていうんじゃない?」

その言葉の後、ほんの僅かな間だけ、時間が止まった。

「いいえ。違います」
「違わないわ。私が過去に厄を吸った者を忘れるわけないもの。たとえそれが何千何万人であろうと忘れないように出来てるのよ」
「あなたの言う犬走※※※という白狼天狗の女の子はですね。もうとっくの昔に死んでるんですよ」

目の前の墓を指差した。

「ここに納骨される予定の男が、当時率いていた治安維持隊に、一家まとめて処刑されました。謀反の濡れ衣を着せられて」

右目の色が、憎悪一色に染まる。

「じゃあ、この天狗が死んで犬走※※※ちゃんは救われたのかしら?」
「どうでしょうね。一家の死に関わった天狗はコイツだけじゃありませんから。実際に手を下した者。謀反を企てていると嘘の報告をした者。挙げたらキリがありません」
「つくづく厄い子ね」
「ええ、厄い子です」
「泣き虫だった子がずいぶんと捻くれてしまったものね。もう『厄神のお姉ちゃん』とは呼んでくれないのかしら?」
「私は犬走椛ですから。殺された一家とはエンもユカリも無い、ただの浮浪児です」
「そう」


雛は足を半歩引いて、椛に背中を向ける。

「それじゃあ失礼するわね。イヌバシリさん」
「色々とお世話になりました」
お互い、当分会うことはない気がした。
「知ってる? 西洋の術師は、真に信頼できる者にのみ自分の真名を教えるらしいわ。ロマンティックだと思わない?」
「…」
「いつかそんな相手が現れると良いわね」
誰にでもなく呟いてから歩き出す。
「あの時、本当は知ってたんじゃないですか? どっちが厄の本体だったか?」
去っていく雛の背中にそんな言葉をぶつけた。
「さあ? なんのことかしら?」
ただ彼女は意地悪くそう言うだけだった。












しばらく歩いてから雛は一度振り返り、遠くにいる椛を見た。
墓を睨みつける椛の体に、厄が溜まっていくのがわかる。
時間の経過と共に、その厄はどんどん量を増していく。

(このままだとやっぱりマズイわね・・・でも)

そこへ文とはたてが血相を変えて走ってきた。
そして椛と何やら言い合いを始める。
言葉をぶつけ合う度、椛の体に纏わりついていた厄が徐々に薄れていくのが見える。

(それで良いのよ、貴女は)

雛は優しく微笑んだ。









「ん?」
遠くにいた雛がこちらに視線を送ったような気がして、椛は振り向いた。
しかし、そこには誰もおらず、温かく透き通った風が椛の頬を撫でるだけだった。
「ほら! 椛さん医者に戻りますよ!」
「行くよ椛!」
「いいですって! 一人で歩けますから杖返してください!」
「さあ掴まってください!」
「ほら掴まって!」

二人に支えられながら、犬走椛は歩き出すのだった。
読んでくださいましてありがとうございます。
前半と後半の温度差は気にしないでください。
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コメント



0.4930簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
相変わらず素晴らしいクオリティ。本当に面白かったです。
6.100奇声を発する程度の能力削除
新作来た!!!!
とてもドキドキワクワクしながら読ませて貰いました!
椛が豹変した時は、おおう…となりましたがそれも良かったです
9.100君の瞳にレモン汁削除
おお、新作だ!

≫「大天狗様が宴会芸の練習といって、学童服を着ていたのを偶然目撃してしまった時に」
≫「oh…」

吹いた。
10.90名前が無い程度の能力削除
ヒャッハー、イヌバシリさんだぁー!
厄カエルの大量発生は鳥肌ぷつぷつ。モダンホラーなフレーバーで楽しませていただきました!

ヒグマ……
15.100名前が無い程度の能力削除
近作も素晴らしい!
色々あった山の中だけども、椛達に幸多き事を願います。

…大天狗様が可愛いと思うのは自分だけだろうか?
17.100名前が無い程度の能力削除
見事
謎の回収、落ち、どれをとっても素晴らしい
21.100白銀狼削除
新作待ってました!
貴方の独特な世界観が好きです。
22.90名前が無い程度の能力削除
>「勝率は・・・・五分五分ね」
 
 ひょっとしてそれはギャグで言ってるのか?
 大天狗様がいつも通りで安心しますた(´・ω・`)(ナニ
24.100名前が無い程度の能力削除
b
28.100椛が好き削除
大天狗様がいつもどうり通常営業ww
30.100名無しな程度の能力削除
この妙に行動が人間臭いところが好きだ。
そして毎度毎度終わり方がすばらしい。あんなに壮絶なシーンがあったのに、読み終わるといつも安らいだ気持ちになる。ありがとう。
31.90名前が無い程度の能力削除
スマナカッタ に対する考察がもう少し欲しかった。読んだ人なら分かるだろうけれど。
スマナカッタ と思い出た残留思念なら椛をなぜ襲ったのか。
スマナカッタ とても良い展開でした。だからこそ、なぜ厄として発生したのかを考えさせられます。
良かったです。
32.100名前が無い程度の能力削除
いつも通り面白かったです。
34.100リペヤー削除
「死人に善も悪もありません、あるのは仏の慈悲だけです」
読んでいて、そんな言葉を思い出しました。

毎度楽しみにしております。今回も良いお話でした。
エピソードの題名がビートルズだったのがいい雰囲気出してて良かったですね。

最後に。
>放蕩飛車(ファンタジスタ)
藤井プロのことかーーーーっ!!
35.100名前が無い程度の能力削除
クリエイターハドコダ
スターフォックスのネタが入っててワロタ
39.100終焉刹那削除
あれ何だろう?眼から透明な血が・・・ショッパイ・・・。
これぞ妖怪、そして妙で粋な人間臭さが幻想郷らしいと思います、次回作も楽しみにしております。
40.80名前が無い程度の能力削除
良い
41.100RUN削除
毎回楽しく読ませてもらってます。
シリアスとギャグの絶妙なブレンドがたまんないです。
過去の話なんかもしっかり作り込まれてて、自分の中ではすでにほぼ公式設定と化してますw
椛の本名…めっちゃ気になります。いつか明かして欲しいです。

楽しみにしてるシリーズなので是非これからも続けていってほしいです。
応援してます!
42.100名前が無い程度の能力削除
文句無しの満点

やはり、貴方の書く作品は素晴らしい
44.100名前が無い程度の能力削除
椛は幸せになれたのでしょうか?
椛は幸せになるのでしょうか?
48.100名前が無い程度の能力削除
暗黒面に堕ちた椛にドキリとしました。
二面性を持った主人公は良いですね。
52.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
次回も楽しみに待っています。
56.80名前が無い程度の能力削除
いいね!
59.100名前が無い程度の能力削除
椛の明日はどっちだ・・・!
62.100名前が無い程度の能力削除
良いね
66.100名前が無い程度の能力削除
見ろ!ヒグマがゴミのようだ!
雛ちゃんストラップ欲しい
71.90名前が無い程度の能力削除
相変わらず面白かった。
椛のキャラクター付けがとても良いですね。
次回への伏線なのか単なる説明不足なのか判断のつかない場所があったのが残念。
72.100名前が無い程度の能力削除
安心と信頼のクオリティ
少しずつでいいので椛には過去の呪縛から開放されてほしいものです
そして気兼ねなく仲間達と笑いあえる日がきてくれることを願います

そしてヒグマ、機械化してでも溜めパン当てたいのかwww
73.100名前が無い程度の能力削除
やさぐれ椛が魅力的な私はダブスポあやもみ推奨派。
もみはたでもにともみでもよし。つまりは椛が好きで仕方ない。
74.100名前が無い程度の能力削除
作者さんのおかげで椛が好きになりました
今後も楽しみにしています
76.100名前が無い程度の能力削除
この厄神様、なかなか良いキャラしてますね。登場人物達の多面性がとってもリアルでした。ある人にとっては大好きなおじいちゃんが、またある人にとっては文字通り親の敵であったわけです。でも程度の差こそあれそういう事ってあるあるですよね。良かれ悪しかれ因果応報で自業自得なんだと思いました。
77.100名前が無い程度の能力削除
二次創作っていいよね。
80.100名前が無い程度の能力削除
雛がしっかり神様してるSSは貴重だな。
なかなか貫禄がある。
82.100名前が無い程度の能力削除
簡単に許す展開じゃないのが素晴らしい
83.100名前が無い程度の能力削除
今回も椛や妖怪の山の過去に踏み込んだ内容で面白かったです
次回はどんな話になるのでしょうか…
86.100名前が無い程度の能力削除
大天狗様の通常運行ぶりに笑いました。
シリーズを一貫して差別問題を提起し、安易に解決させないのが素晴らしい。…そんな簡単なものじゃないしね。
椛の幸せ待ってます。
93.100名前が無い程度の能力削除
いいね。
95.100名前が無い程度の能力削除
ぜひぜひこっちでもっと書いて下さい
96.100名前が無い程度の能力削除
河童村長が虫を食べる姿に興奮とか上級者すぎるww
97.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
椛ではなく、はたてが決着を着けたのが良かったと感じました。
椛がカエルを斬っていたら、完全にダークサイドに行っていたような気がします。
104.100名前が無い程度の能力削除
スズメバチにビビる天魔様可愛い
キャラがみんな凄く立ってて素晴らしい

厄カエルは色々な考察が出来て楽しいです。
105.100名前が無い程度の能力削除
d
118.100名前が無い程度の能力削除
前半と後半の温度差もまた魅力的でした。
125.100ばかのひ削除
激しく面白かった!
さいきんの作品はもみちゃんみたく一直線で素直で脆い、そんな主人公がいなくて困る
ああ、いい主人公だなあ
133.100みなも削除
矛盾を抱えながら生きているもみじが大好きです。

アメリカで迫害されていた在米日本人の作った「第442連隊戦闘団」を思い出します。
差別してくる相手に忠誠を誓い、戦い、差別を打ち破った部隊ももみじの様に悩んだのでしょうね。
139.90名前が無い程度の能力削除
厄いわー。人を呪わば穴二つ、てね。
142.100名前が無い程度の能力削除
雛の能力と肩書きに見合った出番、足跡、行動、神様らしさ
天狗達の物語も勿論ですが、そこが特に面白かったです
148.100名前が無い程度の能力削除
久々に読んでもやはり面白い
このシリーズは名作だと思います