§
幻想郷は妖怪の山。山の木々は葉を色づかせ、季節は秋も半ばを迎えようとしていた。
そこを流れる川のそばに居を構える妖怪が一人。
ひとりでもにとり、もとい、谷河童の河城にとりである。
ポケットが大量についた水色の服に緑の帽子。彼女自身の青い髪も相まって妙に寒々しい色合いに身を包んだにとりは、家の裏手にある小さな畑に立っていた。
育てられている作物は見事なほどにキュウリだけである。
河童の好物はキュウリ。安直極まりないのだが、実際に好きなのだから仕方がない。
実をつけているキュウリは敷地の三分の一ほど。時期をずらして収穫期間を延ばしてはいるが、秋にもなれば限界である。
もっとも、冬になったらなったでこの畑は簡易温室に姿を変えてやっぱりキュウリを作る。
未だ大して供給されるあてのない地底のエネルギーの有効活用だと、にとりは思っていた。
山の上の神様にお願いしないといけないかな、などと考えつつ、程よく育ったキュウリを蔓からもぎ取る。
最初の一本は、上着でごしごしと擦ってその場で口に運ぶ。
シャク、と小気味いい音を立てて噛み切られ、そのまま噛み砕けば瑞々しい果肉が青臭さを感じさせながら口の中に広がった。
「うん、美味い」
満足気に頷き、あっという間に一本平らげると、にとりはキュウリの収穫を続けた。
収穫したキュウリを抱えて家に戻ったにとりは台所の調理台にキュウリを置いて床に屈み込んだ。
床板に埋まっている取っ手を引っ張り出して持ち上げると、床下に続く穴がぽっかり口を開け、ひんやりとした空気が流れてくる。
にとりは上半身を穴に突っ込んでしばらくごそごそやっていたが、やがて、床下から一つの瓶を取り出した。
片手で持つには大きく、一抱えと言うには小さい。そんなサイズの陶製の瓶だ。
木で作られた蓋が口に載っているが、既にその下から独特の匂いが漂ってにとりの鼻を刺激し始めている。
にとりは瓶を一度床に置いて床板を戻し、それから瓶を調理台に抱え上げた。
明るい場所で見ると、瓶の蓋に黄ばんだ御札が一枚、ペタリと貼り付けられているのがわかる。
なぜだか『大入』と書かれた札は、その瓶の出所を無言で主張していた。
博麗神社由来の瓶が、どうしてにとりの家にあるのか。
その話をするためには、少々――妖怪基準であるが――時間を遡らなければならない。
あれはもう数十年も昔。先代の博麗の巫女、博麗霊夢が生きていた、初夏のころの話である。
§
幻想郷の住人というのは、なぜだかやたらと宴会が好きである。
異変が終われば宴会を開き、季節が変わればまた宴会を開き、楽しいことがあれば宴会を開くし、悲しいことがあってもやっぱり宴会を開き、鬼が萃めれば嬉々として宴会を開き、理由がなくても気が向けば宴会が開かれるのである。
そして、その会場は、毎回のように博麗神社であった。
幻想郷には大きな力を持つ勢力がいくつも存在し、そのいずれの拠点も宴会を開くには十分な広さがあるのだが、人も妖怪も神様も、当然のような顔をしてわざわざ幻想郷の端にあるこの神社まで集まってくる。
ただ、こちらの理由ははっきりしていて、それは言うまでもなく博麗霊夢のせいである。
普段は何をするともなく日常を過ごしているが、異変となるとほぼ直感に任せて幻想郷を飛び回るこの巫女は、異変ごとに出会った相手の何人かを惹きつけて来るのだ。
おかげで博麗神社は霊夢に会いに来る客が増加の一途を辿っていて、そのほぼ全員が『参拝客』ではないことが霊夢の悩みの種だった。
閑話休題。
とにかく、そんな風に宴会ばかりやっているものだから、その宴会が何の集まりだったのかは定かではない。
が、この際重要なのは、博麗神社で開かれた宴会に鴉天狗が珍しい顔を伴って現れたことだった。
霊夢は、この大きな緑の背嚢を背負った河童のことを、実はよく知らない。
地底での異変の折には霊夢の友人である白黒魔法使いと組んでいたとか、山にダムを作ろうとして地すべりを引き起こしたとか。話には聞くのだが、実際に顔を合わせたのは山の上に神社が引っ越してきた異変以来二度目である。
一度目もろくに話もしないで弾幕勝負に興じ、終わればさっさと先に進んだためにほとんど初対面のようなものだった。
ならばさすがに挨拶の一つもするべきだろうと、霊夢は彼女のところへと足を運んだ。
「ええと、河童のにとりだっけ? あんたが来るなんて珍しいじゃない」
「や、やぁ盟友。久しぶりだなぁ」
霊夢が声をかけると、にとりはビクッと肩を揺らし、自分を連れてきた天狗――射命丸文の影からおずおずと挨拶した。
実はこの河童、結構な人見知りであり、境内に溢れるほどに集まっている連中にびびっているのだ。
宴会に顔を見せないのもそれが理由だし、今日だって文が無理やり誘い出さなければここには来なかっただろう。
妖怪の山は鬼を筆頭とした縦社会。いくら文とにとりが友人であると言っても、天狗に出て来いと言われれば河童としては逆らえなかったということである。
「そんなにビクビクしなくたって、誰もあんたを取って食いやしないわよ」
「いやいや、そんな心配はしてないけどさ。あ、そうだ」
話していると少しは落ち着いたのか、にとりは文の影から出てきた。
そして、背負っていたリュックを下ろすと、中からどっさりとキュウリを取り出した。
「ええと、これ、お土産だから」
「あら、どうもありがとう」
霊夢はにとりからキュウリを受け取り、でも、と続けた。
「鍋にキュウリは、入らないわよねぇ?」
本日の宴会で供される料理は鍋であった。
既に境内のあちこちで、妖力や術で点された紫だの青だのといった妖しい火に鍋がかけられ、煮え立った出汁の匂いが漂っている。
鍋のために食材を持参した客はたくさんいたが、キュウリは鍋の具材として適当だとは思えない。
「うん? キュウリなんだから、そのまま食べればいいだろう?」
きょとんとした顔でにとりはそう言った。
「あ、まだあった」とリュックの底に残っていたキュウリを取り出し、実際に齧ってみせる。
シャクシャク。
霊夢は、腕の中のキュウリとにとりを見比べ、おもむろに一本取ると口に運んだ。
シャクシャク。
「……ひゅーりだわ」
キュウリを口にくわえたまま、もごもごと霊夢は言った。
河童のキュウリだから凄く美味しいのかもしれないと期待したのだが、水っぽくて青臭い、普通のキュウリだった。
悔しかったので、「何かエロいわね」とカメラを取り出した天狗に陰陽玉をぶつけて溜飲を下げ、霊夢はキュウリを食べきった。
「あんた、いつもこうやって食べてるの?」
「そうだけど」
「よく飽きないわねぇ」
「妖怪というのは、結構保守的なものなのですよ」
呆れとも感心ともつかない口調で霊夢が呟くと、そこに文が口を挟んだ。
「意義に依(よ)って存在しているような連中も多いですし、本質的に、一度固定されたものに対して新しい発想を見出しにくいのです」
「ふーん。要は、最初にキュウリを素で食べたから延々そのままってことね。でも、なんだか意外だわ」
「何がです?」
「ほら、河童って色々作ってるじゃない? だから、結構進んでるイメージだったのよね」
「いえいえ、霊夢さん。それも『河童は精密工作を得意とする』という保守的な属性なのですよ。ですから、河童は大規模な工事には向いていないわけでして。まぁ、河童がキュウリを食べるのは水神だったころのお供え物の名残と言いますから、実は人間のせいかもしれませんが」
「そりゃまぁ、神様にもろきゅう供えたりはしないでしょうねぇ」
そう言ってから、霊夢は腕いっぱいのキュウリを見て、それからにとりを見た。
シャクリと、短くなったキュウリを齧っている河童。
河童らしくそれが好物であるが、一つの食べ方しか知らない河童。
それはなんだか、
(勿体無いわよねぇ)
とか、そんな風に思う霊夢であった。
§
霊夢がにとりを訪ねてきたのは、その翌日の昼ごろのことだった。
家の外から呼びかけられて顔を出したにとりは、玄関先に藤籠を提げた霊夢を見つけて目を瞬いた。
「あれ、盟友。なんでここに?」
「早苗に教えてもらったのよ。と言うか、いつまでも一絡げに呼ぶのやめなさい。私は霊夢よ」
「あ、ごめんよ。じゃあ霊夢、改めて聞くけど、何で家に? 仕事の依頼とかか?」
「違うわよ。はいこれ」
「何だ、これ?」
霊夢は藤籠の中から小鉢を取り出して、にとりに差し出した。
反射的に受け取って、にとりは霊夢に聞き返す。
「見ればわかるわよ」
「そりゃまぁ、そうだな」
にとりは蓋代わりに載っている皿を外して、鉢の中を見てみる。
すると、そこには乱切りにされたキュウリが入っていた。
「キュウリ?」
「そ。昨日あんたがくれたのを浅漬けにしたの」
「浅漬け……。おー、じゃあこれが漬物ってヤツなのかぁ。へぇー」
「あんた、ほんとに食べたことなかったのね」
霊夢は、キュウリの浅漬けをしげしげと眺めるにとりを見て、呆れたように言った。
「聞いたことはあったんだけどなー。でもこれ、なんか萎びてるぞ?」
「水分抜けてるからね。とりあえず食べてみなさいよ。ほら」
霊夢は手を伸ばして浅漬けを一つ掴み、にとりの口に持っていった。
「い、いいよぅ。自分で食べられるって」
「そう? じゃあ、あむ」
にとりが断ったので、霊夢はそれを自分の口に放り込んだ。
ポリポリとキュウリが砕ける音が霊夢の口から聞こえる。
「じゃあ、いただきます」
にとりはキュウリを取って、思い切って口に入れた。
まず感じたのはしょっぱい塩味。それから、一緒に漬けられていた唐辛子のピリリとした辛味。
歯を当てると、単に萎びたキュウリとは大違いで、むしろ歯ごたえは増していた。
パリポリ。
それを飲み込んでしまうと、にとりは無言でもう一度手を伸ばした。
パリポリ。
パリポリ。
あんまり無言が続くものだから、いい加減霊夢が焦れてきたころ、にとりの口は食べる以外の使い方を思い出した。
「何だこれ…………何だこれうまっ」
美味しかったらしい。
「霊夢! これ美味しいぞ!」
「あー、うん。見てたらわかるわ」
「ぜ、全部食べていいのか?」
「いいわよ。でも――」
霊夢は再び籠に手を突っ込んで、今度は竹の皮の包みを取り出した。
「これがあるともっと美味しいわよ?」
「そ、そんな物があるのか。あっと、いつまでもここじゃあれだな、上がってよ」
「ええ、お邪魔するわ」
霊夢を家に上げたにとりは、机の上にあったものを適当に端に寄せてスペースを作り、小鉢と包みを置いた。
包みを開くと、出てきたのは丸いお握りであった。
海苔はもちろん、塩も振られていない、炊いた米をただ握ったものだった。
「い、いただきます」
ごくりと唾を飲み込んで、にとりはお握りに手を伸ばした。
一口齧り、漬物を口に入れる。
ポリポリ。
ご飯と漬物の相乗効果。それは恐ろしいものだった。
やわらかく握られたお握りがほろほろと崩れて、単体で食べ続けていると気になってくる漬物の塩辛さを包み込む。
そして、漬物はその塩気でご飯の甘みを引き立てるのであった。
美味しい。まさか、もう何十年も食べ続けていたキュウリが、こんなポテンシャルを持っていようとは。
にとりは感動に打ち震えた。
あまりに感動したので、うっかり脱帽して頭頂部をさらけ出してしまうところだったが、それは河童的にはプロポーズと言っても過言ではない行為だったので何とか踏みとどまった。
「霊夢……っ、ありがとな」
「どういたしまして。それと、お茶にもまた合うんだけどね」
その代わりにありったけの気持ちを乗せてお礼を言うと、調子に乗った霊夢が、今度は水筒を取り出したので、これにはにとりは笑ってしまった。
「何よ?」
「いや、だって、お茶くらいあるって。キュウリだけ食べて生きてるんじゃないんだぞ」
「あら?」
霊夢はちょっと小首を傾げ、それもそうね、と笑った。
にとりは、そうだろう、と笑い返して、二人はしばらくの間、面白そうに笑っていた。
§
「うぁーー……はぁ……」
溜息交じりの呻き声。
卓に着いたにとりの体が、プルプルと震えている。
にとりは今、どうしようもなく悶々としていた。
「も、ダメ……我慢できない」
とうとう耐えかねて、にとりは席を立った。
慌しく身支度を整えて、家を飛び出していく。
机の上には、切られたキュウリが乾燥した断面を見せながら置き去りにされていた。
さて、にとりが訪れたのは博麗神社である。
博麗神社は鳥居や手水舎、本殿兼用の拝殿、社務所、守矢神社の分社などから構成されている。
普段の霊夢は拝殿の縁側かそこから続く一室で過ごしていることが多いが、本来の居住区は社務所の奥にあったりする。
「霊夢ー。霊夢ーっ」
来るもの拒まずといった体で障子が開け放たれている縁側で声を張り上げると、中から霊夢が顔を覗かせる。
「珍しく静かだと思ったら、意外なヤツが来たものね」
霊夢は、そんなことを言いながら縁側に這い出して、足を垂らすようにして縁に座りなおした。
「で、何か用?」
「実はさ、この前の漬物がまた食べたいなーって……。もう一回食べさせてくれないかな、お願いっ」
にとりは、がばっと頭を下げた。
キュウリというものについてコペルニクス的転回を迎えて早数日、にとりはその味を忘れることができなかった。
再現しようとして川魚を焼くときに使うものだと思っていた塩など振ってみるのだが、何か物足りない。
主食のごとくに毎日食べるものであるから、思いは募るばかりであった。
そしてとうとう耐え切れなくなり、こうして霊夢の元を訪れたのである。
(面倒なことになったなぁ)
それが、霊夢の偽らざる気持ちであった。
博麗神社を訪れる妖怪を自分で増やしてどうするのか。これではますます妖怪神社である。
とは言え、本当に美味しそうに食べていた姿を思い出し、こうも一心に頼まれると無碍にもできない。
霊夢はううむと唸り、やがて、口を開いた。
「仕方ないわね」
「じゃあ……」
霊夢の言葉を聞いて、にとりが顔を輝かせる。
「ええ、食べさせてあげるわ」
霊夢は靴を履いて縁側から降りると「ついて来なさい」と言って歩き出した。
にとりがその後を追いかけると、霊夢は歩きながら口を開く。
「でも、漬けるから漬物なのよね」
「え?」
「浅漬けったって少なくとも数時間は漬けるし、食べたいって思ってもすぐには食べられないってこと」
「えええー……」
落胆の声を上げるにとり。
ここに来れば食べられると思ったのに、なんと言う仕打ちだろうか。
「そんな顔しないでよ。食べさせるって言ったでしょ」
「でも、今ないって」
「浅漬けはね」
そんな話をしている間に、霊夢たちは社務所の裏手に到着した。
引き戸を開けると、そこは土間で、台所になっていた。
さすがにガスコンロなどというものはないが、天人絡みの異変で倒壊して建て直した際に井戸から水をくみ上げる水道が引かれて使い勝手が良くなっている。
霊夢は調理台の下にある収納を開いて、そこから一つの瓶を取り出した。
調理台に載せてから縛っていた糸を解き、口に被せていた紙蓋を取ると、発酵食品につき物の独特な匂いが立ち上ってくる。
「うわ、何それ?」
思わず鼻を押さえながらにとりが聞く。
霊夢は平然としたもので、顔色一つ変えていない。
「糠床よ。私はもう慣れてるけど、そんなに嫌な匂い?」
「うーん……」
にとりは手を離して、改めてその匂いを嗅いでみる。
「悪臭、じゃあないな。ちょっと慣れないけど」
「そ。ダメな人はダメだから、そのくらいで済んでよかったわね」
霊夢は右手から袖を抜き取って、瓶の中に手を突っ込んだ。
しばらくしてその手が抜かれると、黄土色の泥のようなものが握られていた。
「それは?」
「漬物よ。糠漬けって言うの」
霊夢が糠を落とすと、その下から出てきたのは茄子だった。
もう一度手を突っ込み、今度はキュウリを取り出して糠を洗い落とすと、まな板の上で斜めの薄切りに切る。
後は適当に皿に盛り付けて完成であった。
霊夢とにとりは上がり框(かまち)に並んで座り、糠漬けをつついた。
ポリポリ。
先日の浅漬けよりも歯ごたえが感じられ、味はと言えばしょっぱさと同時にいくらかの酸味が感じられる。
ずずずと湯飲みを啜ると、苦味のある緑茶が口の中をさっぱりと流していった。
「どう?」
「うん、これも美味しい。私はこっちの方が好きだな」
「そう。私もよ」
ポリポリ。
ポリポリ。
ポリポリ。
ずずず。
「感謝しなさいよ。これは、博麗の巫女に代々伝わる作り方で作った、霊験あらたかなありがたーい糠床の漬物なんだからね」
「そりゃ、妖怪の身にはぞっとしない話だあね」
「妖怪にだってご利益あるわよ。多分」
「どんなご利益だよ?」
「えーっと……妖怪退治?」
「妖怪の身にはぞっとする話だなぁ……」
ポリポリ。
ポリポリ。
ポリポリ。
ずずずー。
「なくなったな」
「なくなったわね」
飲み干した湯飲みを框に置いて、霊夢は立ち上がった。
台所の角のところにある戸棚を開き、少しの間吟味してから何かを取り出した。
それは、古い新聞紙に包まれたもので、普段使っていないものだとわかる。
新聞を開くと、中から出てきたのは大きな器だった。深さもあり、うどんを入れるとすれば二、三人前は入るだろう。
霊夢はその器を軽く洗って布巾で拭くと、まな板の上にそれを置き、瓶から中身を移し始めた。
「にとりー、ちょっとこっち来て」
「何ー?」
器の八分目辺りまで糠を入れて、霊夢はにとりを手招きした。
にとりは上がり框から立ち上がり、霊夢のところへと歩いていく。
霊夢は、糠床を移し変えた器を、にとりに突き出した。
「これ、あんたにあげるわ」
「え、いいのかい?」
ずっしりと重いそれを受け取って、にとりは聞いた。
「いいのよ。減った分は継ぎ足したらいいし。何より、何度も漬物食べに来られると迷惑だもの」
「うわーはっきり言うなぁ」
「生憎と、押しかけ妖怪に払う気遣いは持ってないの。それより、手入れの仕方を教えるからちゃんと覚えなさいよ」
「手入れ?」
「糠床は生き物よ。ちゃんと手を入れてやらないとすぐダメになるの。案外と、これが面倒なのよねぇ」
げんなりと、霊夢は言った。
「まずは、何も漬けてなくても毎日掻き混ぜることでしょ」
「毎日!?」
「夏の暑いころは一日二回、朝と夕方に混ぜてもいいくらいよ。空気に触れていた部分が触れなくなるように底の方まで掻き混ぜて、手で押さえる感じで表面を平らにすること。これやらないと、腐ったりカビが生えたりするから」
霊夢は、にとりの持っている糠床に手を突っ込んで実演して見せた。
「野菜を漬けるときは塩揉みしたのを突っ込めばいいわ。大きさにもよるけど、キュウリならまぁ、一日もあれば漬かるわね」
「ふむふむ」
「漬けてると野菜の水分で糠床が水っぽくなるから、そういう時は適当に窪みを作っておけばそこに水が溜まるわ。基本的にはこんなとこかしらね」
「結構面倒なんだな」
「でも、ちゃんと手入れすると何十年も持つのよ? しかも、漬ければ漬けるほど美味しくなっていくの」
「へー、それはすごいなあ」
にとりは感嘆の声を上げて、糠床を見つめた。
「だから霊夢の漬物は美味しいんだな」
「感心してるとこ悪いけど、それは私が巫女になったすぐ後に漬けたヤツだから、まだ数年ものよ」
「あれ、さっき代々伝わってるって言わなかったか?」
「伝わってるのは作り方。先代のは腐らせちゃったからもうないの」
「霊夢ぅ……」
「いや、違うのよ」
じとっとした目でにとりに見られて、霊夢は慌てて弁解を始めた。
「えっと、先代も先々代のをダメにしたって言ってたし」
「博麗の巫女って代々霊夢みたいだったのか……」
「どういう意味よそれ」
「いやぁ別に、あはは」
霊夢に睨まれて、にとりはから笑いをした。
こほんと霊夢は咳払い。とにかく、と強引に話題を打ち切った。
「漬物が食べたかったら自分で漬けること。わざわざ家まで来ないでよね」
「はーい」
にとりがいい返事をしたので、霊夢は自分の行動に満足した。
まさか、ここで糠床を分けたことが、にとりが本格的に神社に通い始める原因になるとは思ってもみなかったのである。
§
霊夢は、にとりに糠床を分けることで、少なくとも一人の妖怪を神社から遠ざけることに成功した。と、思っていた。
いや実際、最初の二週間ほどは成功していた。
ところが、二週間ほどしたある日、にとりが糠床を手に霊夢を訪ねて来た。
「どうしたのよ? まさか、腐らせたんじゃないでしょうね?」
「ちゃんと手入れしてたよ! でも、何か漬物が妙に酸っぱくなるんだ」
にとりがそう言うと、霊夢はなるほどと頷いた。
それは、糠床の発酵が進みすぎているせいである。
「そういうときは薄皮を取った卵の殻を砕いて入れるといいわよ」
その様に知恵を授けてやると、にとりは礼を言って山へと帰って行った。
それからしばらくして、幻想郷は夏の真っ盛りを迎えていた。
霊夢が日光を避けて部屋の中でぐったりとだれていると、縁側に誰かの気配を感じる。
のそのそと出てみれば、そこにいたのはにとりであった。
にとりは、霊夢が出てきたことに気づくと、うつむき加減に口を開いた。
「ごめんな、霊夢。糠床、ダメにしちゃった……」
「えー。ちゃんと手入れしてたの?」
「それが、早苗がいらなくなった外の機械をくれて、それバラすのに夢中になってたら、いつの間にか……」
「もう、何やってんのよ」
「ごめん……」
霊夢が文句を言うと、にとりは暗い顔で頭を下げる。
その姿に、霊夢はふと懐かしさを感じた。
(そういや、私も何度か腐らせて先代に怒られたっけ)
ちなみに、霊夢が腐らせた原因は単に手入れをサボったからである。しかもにとりほど反省した覚えがない。
ダメにしたのは同じでも、にとりの方がまだいくらかマシであった。
「ま、いいわ。じゃあまた――」
縁側から降りた霊夢は、わけてあげる、と言いかけて一度言葉を切った。
あごに手を当てて、何事か考える。
そして、一つ頷くと、霊夢はにとりに向かって言った。
「にとり。あんた、私の弟子になりなさい」
「で、弟子ぃ?」
顔を上げて、にとりは素っ頓狂な声を出した。
「弟子って何さ? 私に妖怪退治をさせるつもりなのか?」
「違うわよ。博麗流の糠漬けを一から教えてあげるって言ってるの」
「あ、あぁ、なんだそっちか」
「そっちよ。一度覚えたらあんたは自分で問題に対処できるようになるし、私は手を煩わされない。いいこと尽くめじゃない」
「それはまぁ、そうだけど」
にとりは歯切れが悪い。
霊夢の言っていることもわかるが、提案が突然すぎるのだ。
もう少し考える時間が欲しいのだが、霊夢は性急だった。
「やるの? やらないの?」
「や、やるよぅ」
ずいと迫られて、にとりはつい頷いてしまった。
こうして、にとりは霊夢の弟子になったのであった。
§
準備がいるからとその日は帰され、翌日改めて、にとりは霊夢を訪ねた。
いつかの台所に通されると、そこには既に準備が整えられていた。
糠、昆布、唐辛子、実山椒。それに、キャベツや大根、にんじんなどの切れ端が乗せられたざるが置いてある。
海のない幻想郷では昆布は地味に貴重品なのだが、どこかのスキマ妖怪がちょくちょく補充していくので実は困ったことのない霊夢であった。
それらの材料と一緒に、糠床を入れるためであろう瓶が置いてある。
置いてあるのだが、にとりには微妙に気にかかることがあった。
「なぁ霊夢、ちょっといいか?」
「なによ?」
「この御札は、何だ?」
瓶の木蓋を指差して、にとりが聞く。
そこには、一枚の退魔の札が貼ってあった。
本来の妖怪退治のために用いられる、殺傷力を持つ御札である。
「あぁそれ? 昔はその瓶、妖怪を封印するのに使ってたのよ」
「ちょ」
ぎょっとして、にとりは体ごと一歩退いた。
「大丈夫よ。今は使ってないから」
「そんな曰くありそうなの嫌だって! 他になかったのかよー」
「見つかんなかったんだから仕方ないでしょ。もしかしたら妖力が上がるかもしれないわよ」
「いや、ないから。むしろ私が封印されそうで怖いんだけど」
その札には今は力がないようだったが、怖いものは怖い。刃毀れしていても刃物は刃物だ。
にとりがごねていると、火の消えた竃の上で鍋をかき回していた霊夢が寄ってくる。
御札に書かれている文字を指でなぞり、一言。
「ま、これは危ないか」
「ほら危ないって言った! 何使わそうとしてんだ!」
「わかったわかった。ちゃんと剥がすわよ」
霊夢は御札を剥がすと、それを丸めて竃に突っ込む。
そして、その代わりとばかりに袖から取り出した御札をペタリと貼り付けた。
にとりも嫌と言うほどぶつけられたことのある、『大入』と書いてあるヤツだ。
「……なぜ貼る」
「博麗流の証ね。さ、始めるわよ」
そう言って霊夢はにとりの背中をぐいぐい押す。
にとりはその瓶を使うことはもう仕方ないと諦め、霊夢に従った。
「まずは糠。一キロ用意したわ。これを入れる」
「糠が、一キロっと」
にとりが瓶に糠を投入する。
細かな粒が舞い上がって、黄色っぽい煙が立ち上ったように見えた。
「次に、糠と同じ量の塩水。沸かして塩を溶かしたのを冷まして使うんだけど、時間かかるから用意しておいたわ」
霊夢は、竃の上に載っている鍋を指差した。
にとりはその鍋を持ってきて、ゆっくりと注ぎ込む。
「そしたら混ぜる」
「よし、混ぜるぞ」
にとりは右腕の袖を捲り、瓶に右手を突っ込んで掻き混ぜ始めた。
せっせと混ぜていると糠の全体がしっとりと湿り、霊夢から貰った糠床で感じていた固さになってくる。
「このくらいでいいのかな」
にとりが聞くと、霊夢が腕を伸ばしてきて糠を突いて、頷く。
「ま、いいでしょ。それじゃ、次は野菜屑ね」
「これ、どんな意味があるんだ?」
野菜の切れ端を糠の中に突っ込みながら、にとりは聞いた。
「これは捨て漬けって言うのよ。理由は知らないけど、こうやって野菜を漬けておくと糠床が育つの。あ、野菜が終わったら昆布と唐辛子と山椒ね」
「はいよ、了解」
野菜屑を埋めて表面を均したら、五センチ四方程度に切った昆布と丸ごとの唐辛子を数本、実山椒をばらして入れる。
これで、糠床作りは終了である。
「後は、この野菜を毎日取り替えて掻き混ぜるのよ。十日くらいしたら糠床の匂いがするようになるから、そうしたら一応出来上がりね」
「一応?」
「できたらわかるわよ」
「ん? とにかく、ちゃんと手入れすればいいんだな。よーし、今度は忘れないぞ」
にとりは糠に塗れた手をぎゅっと握り締めて、決意を固める。
「ふふ。ま、頑張んなさい。って、あ。一個入れるの忘れてたわ」
にとりを見て微笑んでいた霊夢は、はっとしてスカートのポケットを押さえた。
「にとり、手」
「こうか?」
霊夢に言われて、にとりが素直に手を出す。
霊夢はポケットに手を突っ込んで、そこから取り出した物をにとりの掌に落とした。
それは、数本の先を潰してある鉄釘だ。
「うわぁっ」
それを見た途端、にとりは手を振って釘を払い落とした。
土間に釘が散らばって、金属質な音を響かせる。
にとりは、若干涙目になって叫んだ。
「河童に鉄渡すとか、何考えてるんだお前!」
「……あー、そういや河童って鉄が苦手なんだっけ」
「そうだよ! あー、びっくりしたなあ」
「ごめんごめん、うっかりしてたわ。でもあんた、それでよくエンジニアなんてやってられるわね」
「弱点と言うよりは好き嫌いだからな。それでも心の準備ってものがいるんだけど」
にとりは恨めしそうに霊夢を睨みながら言った。
人の感覚で言えば、無害だからと突然イモムシでも握らされるようなものだろうか。
それは確かに嫌だろう。悲鳴の一つも上がるというものだ。
「だから悪かったわよ。じゃあ、入れるのやめとく? 入れると茄子の色が綺麗に漬かるってだけだし」
「じゃあいれない。私はキュウリだけ漬けて生きていくんだ……」
「そうね。それがいいわね、きっと」
霊夢は、散らばった釘を拾いながら言った。
最後に一波乱あったが、そうして、にとりの糠床作りは終了したのだった。
§
捨て漬けを始めてから十と一日後。
にとりは、完成した糠床で作った漬物第一号であるキュウリを持って、博麗神社を訪れた。
「霊夢ー。いるかーい?」
「いらっしゃい。やっぱり来たわね」
縁側に座っていた霊夢は、にとりが訪れることを予想していたらしい。
霊夢が手元に置いているお盆には、二人分のお茶が用意されていた。
「漬物、持ってきたんでしょ? あんたはもう食べた?」
「いや、まだなんだ。せっかくだから、霊夢と食べようと思って」
「そう。それじゃあまぁ、座りなさいよ」
「うん」
霊夢は自分の隣をぽんぽんと叩く。
にとりが頷いてそこに座ると、霊夢がお茶を注いで渡してくれた。
「はい、お茶」
「ありがと。じゃあこれ、漬物」
にとりは切ったキュウリが並んだ皿を二人の間に置く。
「た、食べるぞぉ」
「何でそんなに緊張してるのよ……。いただきます」
二人はにとりの糠漬けに手を伸ばすと、同時に口に入れた。
ポリポリ。
しばらく、キュウリを咀嚼する小気味いい音が響く。
ごくんと飲み込んで、にとりは言った。
「なんだか塩っぽいだけのような気がする」
「若い味よね」
「ええー、何でだぁ」
にとりは言いながら後ろ向きに倒れ、縁側に寝転がった。
可笑しそうに笑う霊夢の顔が、にとりを上から見下ろす。
「だから言ったじゃないのよ。『一応出来上がり』って。えーと、にゅうさんきん? が少ないから熟成してなくて、酸味と風味が足りないの」
「……言ってたなぁ。こういう意味かぁ」
「これも前に言ったけど、野菜を漬ければ漬けるほど熟成は進むから、そのうち美味しくなるわよ。三ヶ月くらいしたら、百点上げるわ」
「ちなみに、今何点くらいなんだ?」
「そうねぇ。六十五点?」
「六十五点かぁ……」
そう呟いたきり、にとりは黙って空を見上げていた。
が、しばらくすると、勢いよく起き上がってキュウリに手を伸ばした。
ポリポリ。
「これが六十五点の味か……。ぃよしっ」
にとりは縁側から飛び降りると、半回転して霊夢に指を突きつけた。
「霊夢っ。必ず私が、百点って言わせてみせるからな!」
それだけ言い放つと、にとりは身を翻して空へと上がって行った。
残された霊夢はしばらく呆然としていたが、復活すると、とりあえずにとりの置いて行った糠漬けを摘んだ。
ポリポリ。
六十五点を味わって、霊夢は一人呟いた。
「三ヶ月で百点上げるって言ったのに、何するつもりなのかしら?」
§
次ににとりが現れたのは、それから三日ほどした日のことであった。
境内の掃き掃除をしていた霊夢の前に降り立つと、いきなり糠漬けを突きつける。
「霊夢! これ、食べてみてよ!」
「……なんだか面倒な予感がするわ」
霊夢は溜息混じりに呟き、にとりの持ってきた糠漬けを口に入れた。
ポリポリ。
「ん? これは……」
違いはすぐにわかった
まず、口に入れた瞬間に嗅覚に感じる匂いが、霊夢の糠漬けとは違っている。
そして、味わってみれば、以前から三日にしては随分と風味が増していた。
「にとり。糠床に何か入れたわね?」
糠床に隠し味として色々入れるのは別におかしな話ではない。
霊夢の糠漬けにおいても、昆布と唐辛子、山椒はそれに分類される。
逆に言えば、そこで何をどれだけ入れるかで、漬けた人物の個性ある糠床ができるのである。
「さすが霊夢。わかるんだな。糠床に大蒜を加えてみたら、風味が増したんだよ」
にとりはえっへんと鍵のぶら下がった胸を張る。
(意外とあるな)と、まるで関係ない思考が一瞬霊夢の脳裏に浮かんだ。
「さぁ、何点なんだ?」
「四十点」
「下がったぁぁぁ!?」
頭を抱えて、にとりは絶叫した。
「何で? どうして? そりゃ百点満点とは行かないだろうけど、でも、前よりは絶対美味しくなっただろう?」
「さぁて、どうしてかしらね」
詰め寄ってくるにとりに、霊夢ははぐらかすように言った。
「それは、あんた自身が気づかないと意味がないのよ」
「くぅ……」
箒を持ったまま腕組みする霊夢。
にとりの目には、その背後に『師匠』の二文字が燦然と輝いているのが見えた。
もちろん気のせいであるが、にとりには真実だったので、
「申し訳ありませんでした! 出直して来ます!」
丁寧に謝り、糠漬けを口に突っ込んでポリポリ言わせながら撤退した。
つまり混乱していたのである。
これが霊夢の誤算。
何かが刺激されたらしいにとりが、糠漬けの採点を求めて神社に通ってくる日々の始まりであった。
§
にとりは糠床に様々な工夫を凝らし、度々神社を訪れるようになった。
もちろん、新作の糠漬けを霊夢に採点してもらうためである。
「粉辛子を入れてみた!」
ポリポリ。
「五十点」
「陳皮と柚子ならどうだ!」
ポリポリ。
「三十点」
「生姜!」
ポリポリ。
「五十五点」
「糠を炒って作ってみたぞ」
ポリポリ。
「七十点」
「焼いた魚の骨を喰らえ!」
ポリポリ。
「四十点」
と、このような具合であった。
そして、そうこうしている間に、霊夢が百点を上げると言った三ヶ月は過ぎてしまった。
何も手を加えずに野菜だけ漬け続けていたら百点をもらえたことになるが、ここまで来るとにとりも意地だった。
断じてその手段は取らないと、様々な方法を試した。
しかし、点はさっぱり上がらない。
しかも不可解なことに、霊夢は、低い点数をつけたときにも美味しいと言うのだった。
「今日のは自信作だぞ。昆布、山椒、生姜、削り節の粉末を入れた糠床を二月熟成させたものだ!」
ポリポリ。
「前とはまた違った味わいになってるけど、これも美味しいわね」
「ほんとか!? 何点?」
「そうね、六十点」
褒めた割りにばっさりであった。
「それでも六十? 美味しいって言ったのにさ」
「美味しいかどうかは、この際問題じゃないのよ」
口を尖らせて文句を言うと、霊夢はそんな風に言った。
にとりにはその意味がわからなかった。点数というものは美味しければ美味しいほど高くなるものではないかと思った。
負けん気に青い瞳を熱く燃やして、言い放つ。
「ぬぬ、じゃあ次だ。今度こそ、百点、いや、百二十点って言わせてみせるからな!」
「はいはい。期待して待ってるわ」
そう言って、霊夢は袖をひらひらと揺らしながら手を振った。
明らかに、口で言っているのとは逆を考えている風だった。
そういう態度を取られると、にとりの技術者魂はますます燃え滾り、その頭脳は次なる工夫を生み出すために回転を始める。
(必ず霊夢に満点って言わせてやる。言わせて……あれ?)
熱くなった思考の隅に、冷たい思惟が浮かび上がった。
(言わせたら、どうなるんだ?)
霊夢とにとり。今の二人の関係は、彼女たちの漬ける糠漬けによって繋がっている。
それならば、霊夢がにとりの糠漬けに満点を出したなら、この関係はそこで完結するのではないだろうか。
にとりは、愕然とする思いであった。
自分と霊夢との関係の希薄さに気づいたからだけではなく、それに気づいたときにふと――本当に突然に、必ず訪れる二人の関係の終わりに思い至ったからであった。
いくら姿が似通っていようとも、霊夢は人間であり、そしてにとりは妖怪である。
両者の間には絶対的な隔絶が、つまり、寿命の差という隔たりが存在していた。
一般に長命な妖怪から見れば、驚くほどに慌しく生き、死んでいく種族。
霊夢がそういうものであることを、ようやくにとりは思い出したのだ。
霊夢が先人から学んだこと。それを今、にとりが霊夢に学んでいる。
何かをなすのに、あるいは続けるのにその命は短すぎて、ゆえに継承と連鎖を尊ぶ生命のそのサイクルに、にとりは知らぬうちに触れていたのである。
霊夢はやがて、自分よりもずっと早く、この世界から消えてゆく。
そう思ったとき、ソレが今まさにこの瞬間であるかのような不安が、にとりの胸中に沸き起こってきた。
それは、胸を締め付けられるような痛みを伴っていて、にとりは思わず霊夢の袖を握っていた。
繋ぎ止めようと。皺が残るくらいに、ぎゅうっと。
その様子に、霊夢が眉根を寄せる。
「にとり? どうしたのよ、急に?」
「ん……なんか、霊夢がいなくなる気がして」
「はぁ?」
「だって、霊夢は、人間だろう?」
おずおずとにとりが言えば、霊夢は「あぁ、そういうこと」と頷いた。
そして、どうも妖怪という連中は根っこの部分が似ているようだとも思う。
スペルカードルールの制定によって、近年、人間と妖怪の距離はぐっと近づいた。
今まで人と深く触れた経験のない妖怪は、この神社で霊夢と会い過ごすうちにその差異を本当の意味で知り、にとりのように唐突にうろたえるのだ。
もっとも、妙に殊勝なのはせいぜい数日のもので、どんな風に心の整理をつけるのかは知らないが実にあっけらかんと元に戻るのも、その妖怪たちに似通った特徴だった。
だから霊夢は、どうせすぐ戻るのだからと、そういう妖怪の悩みに取り合わないことにしている。
『いつか死の影が付きまとい始めたころ、もう一度こんな顔をされるんだろうなぁ』という直感じみた思考が浮かび上がることもあるが、それも含めて霊夢は深く考えないようにしていた。
どうせ、考えても詮無いことなのだ。
そういうわけで、霊夢の口から吐かれる言葉は、深刻さを払った軽いものだった。
「いくら短命って言っても、今日明日に死んだりはしないわよ」
「わかってるよ、でも――」
可笑しな話だが、今日この時に至るまで、にとりは己と彼女の差について深く思考したことがなかったのである。
この巫女との付き合いは、わずか数十年で終わるのだと。
その現実という刃が、全く無防備だったにとりの胸に突き刺さり、彼女を動けぬように縫い止めてしまっていた。
「まったく、今日のあんたは変ね。そういうの、杞憂って言うのよ」
そう霊夢は笑った。
にとりは「そうだね」と言って頷いたが、霊夢のようには笑えなかった。
杞の人が天が崩れるのを恐れることには意味がないが、幻想郷と博麗霊夢の関係を鑑みるに、彼女の死は天が崩れ落ちると同義ではないだろうかと思ったからだ。
妖怪であるにとりからすれば、霊夢の一生は閃光のように過ぎ去るものであり、いつか必ず来るものだとわかってしまったからであった。
「にとり」
ふと気づくと、力を入れすぎて白くなっているにとりの手に、霊夢の手が重なっていた。
鬼と肉弾戦を行う巫女のものとは思えない、柔らかな手だった。
「れいむ――」
「馬鹿ね」
温もりを重ねながら霊夢は言った。
それは、とても静かで、どこまでも優しい声だった。
袖を掴むにとりの手を引いて、霊夢はにとりを抱きしめた。
暖かな体温。
響く鼓動。
糠床の匂いに微かに混ざった霊夢の体臭。
そういった、博麗霊夢を表す全てのものが、渾然一体となってにとりを包み込んだ。
「私は、ここにいるわ。いなくなったとしても、きっと」
ここに。と言って、霊夢はにとりのココロを示した。
にとりは、それしか知らないように、うん、うん、とただ頷いた。
(あぁ、そうなんだ)
くらくらする。千々に乱れた思考の中で、にとりは悟った。
今になって、霊夢と自分の種族の差に気づいたのは、置いて逝かれる悲しみを夢想したのは。
それは、にとりの中の霊夢の存在が、初めとは比べ物にならないほど大きくなっていたからで。
つまり、河城にとりが博麗霊夢に、どうしようもなく惹かれているからなのだと。
§
にとりの不安とは裏腹に、にとりと霊夢の関係は深くなり、漬物を介さなくとも顔を合わせるようになった。
とは言うものの、霊夢と――山の巫女の言葉を借りれば、全方位フラグ乱立型主人公的ヒロインである彼女とにとりの関係は一対一の特別なものではなく、特に理由もなく神社に入り浸る面々に河童が一匹増えただけだった。
一時期は「博麗の巫女、河童ににとられる!?」とかそんな見出しで文々。新聞の紙面を賑わせたものだが、時間が過ぎてみれば「八雲橙の式、八雲霊夢!?」とか「かぐや姫求婚記」とか「博麗神社の縁側裁判」あるいは「洩矢の神、麓の神社に移籍か」などという霊夢を巡る数々の記事と並列に綴じられる程度の話であった。
霊夢はよく愛され、時折気まぐれに愛を返し、そして幻想郷の全てを愛しんだのだった。
やがて時間が流れ、博麗霊夢は死んだ。
そこに特筆すべき物語はない。それでも一つ挙げるなら、霊夢は諸人の予想より早く逝ったことくらいである。
そのため、後継者が定まっていないことが問題となったが、それは霊夢の死を語る上では雑事に過ぎない。
霊夢は、人として自然に生き、そして死んだのだ。
霊夢の死後、彼女の育てていた糠床もやがて腐って死んだ。
博麗の巫女の死後のごたごたの中で糠床に注意を払うものなどいなかったし、霊夢が糠床を大切に育てていたこと自体、ほとんど知られてはいなかったのだ。
それはつまり、霊夢が先代の糠床を腐らせたのと同じ理由であったし、先代が先々代の糠床をダメにしてしまったのと同じ理由であった。
「今や私の仕事は糠床をかき回すことくらいね。暇で仕方がないわ」
晩年の霊夢がお茶を啜りながらそんなことを言って笑ったのを知っているのは、ただ一人の河童だけだったのである。
§
霊夢の死後、新たな博麗の巫女が立った。
生まれると同時に名も付けずして捨てられ、幻想に流れてきた子供であった。
博麗神社付近で見つかったその娘は、一時期霊夢に保護された後、里を守る半獣の世話で人里のある夫婦に引き取られた。
その子に才を見出して袖を引いた境界の妖怪は、霊夢が子供を後継として育てることを期待していたが、それは他ならぬ霊夢によって蹴られたのである。
そういう歴史を持つ少女であった。
まだ十と少しばかりの彼女は、霊夢を見慣れていた住人には、幻想郷を背負って立つには少しばかり幼いように見えた。
実際、彼女は未熟であり、最初の一年は修行に費やされることになった。
その間、霊夢を慕い、彼女が愛した幻想郷を愛した住人たちは静かに見守り、新たな巫女の手が必要とされそうな問題を迅速に叩き潰した。
水面下での動きは多々あれど、表向き幻想郷史に残る平穏な一年が過ぎ、巫女は十分な力をつけていた。
たった一年という時間での成長振りは、さすが霊夢の後継であった。
巫女は地力をつけ、簡単な妖怪退治を行うようになった。
そして、神社に喧嘩を売りに行った氷精が返り討ちにされたという知らせが、縮こまっていた妖怪たちを解き放った。
霊夢に変わる巫女を験し、受け入れるための儀式たる、異変の始まりである。
§
意外なことに、その先陣を切ったのは古明地さとりを中心とする地底の妖怪たちであった。
異変を起こそうと決めたものの、一年見守っている間にすっかり保護者癖のついてしまった妖怪たちが微妙に尻込みしている――概ね、弾幕ごっこはしたいけどやり過ぎて嫌われたらどうしよう、というような心配が原因だった――ことを妹に聞いたさとりは溜息を一つ。
「それでは、まず私から始めましょうか。何と言っても私は、嫌われ者の覚り妖怪ですからね」
そんな風に嘯いて、さとりは異変を起こした。
ペットの火焔猫燐に命じて地上に怨霊を放ち、地上に通じる道から地霊殿に至る道に、協力を頼んだ釣瓶落とし、土蜘蛛、橋姫、鬼を配するという懐かしい構えで巫女を待ち受けたのである。
果たして巫女は訪れ、道中の有象無象を退けて地霊殿にたどり着く。
その前に立ちはだかるのは、神を呑んだ地獄鴉、霊烏路空である。
今回の異変の主犯は怨霊を撒き散らした燐ということになるための配置換えであった。
過去に倣うならさとりが先に出るべきだったが、空の心があんまりうずうずしていたものだから、彼女を先に出してやったのである。
結果から言って、さとりはその判断を大いに悔やむことになる。
空を破ってさとりの前に現れた巫女は、満身創痍一歩手前という感じにボロボロだった。
心を読んでみれば、なにやらネガティブな言葉に満ち満ちている。
訝しみながらも、さとりは取り敢えずトラウマ弾幕を呼び覚ましてみて――
それが空のスペル、核熱「核反応制御不能」であったことに頭を抱えたくなった。
事前に手加減するようにと言っておいたのに、空はそれをぶっちぎってルナティックな雰囲気が漂う弾幕で迎え撃ったらしい。
巫女がボロボロなのはそのせい――むしろ、弾幕初心者である巫女がよくそれを破ったものである。
もうこの時点で異変解決にしてあげたいくらいだったが、スペルカードルール上、最初に宣言したスペルカードの枚数は変えられない。つまり、あと三枚は破ってもらわなければならなかった。
その上、さとりは相手のトラウマから弾幕を生み出しているために自分のスペルカードというものをほとんど持っていないため難易度の低い弾幕にしてあげることもできず、必死に弾幕に喰らい付いてくる巫女の涙目とか、なまじ心が読めるだけにダイレクトに伝わる彼女の心の声が不憫すぎて、さとりは自分まで泣きそうな気持ちになりながら残り二枚のスペル――「ペタフレア」と「サブタレイニアンサン」だった――を宣言した。
さっき攻略したばかりだからか、それとも博麗の巫女の意地か、何とか巫女はさとりに勝利した。
さとりは泣きが入っている巫女を慰めつつ、燐を呼び寄せて異変を終わらせるようにと命じた。
燐には申し訳なかったが、さとりにはまだもう一戦ありますよと言うことができなかったのである。
そんな感じで、博麗の巫女にとって最初の異変は幕を閉じた。
ちなみにさとりは嫌われることはなく、凄く強いのに優しい妖怪という勘違いが多分に含まれた評価を受けることになり、後にちょっとした面倒を引き起こすのだがそれは別の話である。
§
なんともしょっぱい異変デビューを飾った巫女だったが、最初から強烈な洗礼を受けたからか、その後は割りとスムーズに話が進んだ。
紅い霧で空を覆った吸血鬼一家をとっちめ、霧が晴れた空に浮かんでいるはずの満月が欠けているというので人形遣いと組んで永遠亭に討ち入って月人に土をつけた。
それに続くのは冥界の亡霊姫だったが、残念ながら季節は秋。
普通なら諦めるところだが、彼女は「春がないなら秋を集めればいいじゃない。『しゅん』と『しゅう』の違いなんてささいなものでしょう?」などと言って従者に秋を集めさせ、冥界の桜に銀杏やら紅葉やらが咲き誇るという摩訶不思議な異変を引き起こした。
巫女はそれも解決し、鴉天狗がそのどれもを新聞にしてばら撒いたため、新たな博麗の巫女は幻想郷に周知されていった。
それから少しばかりの休息を挟んで、ようやく時間は冒頭へと辿りつく。
袖を捲り上げ、にとりが糠床に手を突っ込もうとした丁度そのとき、彼女の家の扉を叩く者があった。
「にとりさーん。いらっしゃいませんかー?」
「はいはい、今行くよー」
にとりが出て行くと、そこにいたのは巫女服を纏った緑髪の少女。
山の上の神社、すなわち守矢神社の三柱目。
先の二柱が蛇と蛙であるせいで、危うく蛞蝓の神様にされるところだった神祀の神、東風谷早苗である。
早苗はにとりの顔を見ると、開口一番こう言った。
「先日博麗神社に喧嘩を売ってきました! そろそろ巫女が来るころだと思うので、よろしくお願いしますね」
「いやいや、何でそれを今日になるまで教えてくれなかったんだよ」
非常にいい顔で言い放った早苗ににとりが呆れ顔でつっこむと、早苗は申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。天狗の方には教えましたので、当然知れ渡っているものとばかり……」
「あー、昨日椛が忙しそうだったのはそのせいだったのか……。教えてくれればよかったのに、友達甲斐がないなぁ。ま、とにかく了解したよ」
にとりは友人の白狼天狗に文句を並べつつ頷き、頭の片隅で糠漬けの漬かり具合について考え始めた。
§
「来た――」
椛眼鏡――千里先も見えたらいいなぁ、という願望の詰まった双眼鏡――で様子を見ていたにとりは、万感を込めて呟く。
早苗の言っていた通り、博麗の巫女はその日の内に妖怪の山へとやって来た。
紅葉と豊穣の姉妹神は冥界の従者に奪われた秋が回復しきらず、ただの姉妹になっているため不戦敗。厄を集める神様の待ち受ける山腹からのスタートである。
スペルカードを破られた厄神が「あーれー」とか言いながらくるくる回って川に墜落してリアル流し雛になり、巫女と(秋)姉妹が慌てて救出。
服を乾かすために焚き火をし、なぜか一緒に焼き芋を食べてから巫女は飛び立った。
さぁ、ようやく出番である。
「ちょっと待った!」
「?」
わらわらと沸いてくる妖精なんかを撃ち落しながら山頂を目指してふわりふわりと飛んでいた巫女は、突然呼びかけられて進行を止めた。
周囲、上、下と目を配るが、呼び止めたはずの相手の姿はない。
戸惑ったように目を彷徨わせる巫女だったが、やおら一枚の札を取り出すと、何もない空間へと投げつけた。
御札が何もない場所に当たって火花を散らし、不自然に揺らめいた空間から何者かが声を響かせる。
「よく私の姿が見えたね」
「――――」/『目が良いからね。もしくは、あんたが隠れてなかったかも』
「人間は河童の盟友だから教えてあげるけど、これ以上来ると危険だよ」
「――――」/『私は山の上に住む神様に緊急の用事があるの。通してくれる?』
誰かの声に、博麗の巫女は言葉を返す。
彼女はその紅白の巫女服以外に先代の巫女との共通点を持っておらず、それでいて、やはり博麗の巫女なのだなぁ、と声の主は懐かしく思った。
それならば、彼女はやらなければならない。
連綿と続くだろう博麗の一人に、教えてやることがあるのだ。
「通せって? それはできない相談だ。だってお前は博麗の巫女だろう?」
「――――」
巫女が頷く。
「だったらお前は、私と戦うべきだよ!」
言い放って、その誰かは不可視の衣を脱ぎ捨てた。
雨合羽に似た光学迷彩スーツの下はポケットが大量についた水色の服。青い髪の上に緑の帽子。背中には中身が一杯につまった大きなリュック。
そして、明らかに場違いな、瓶一つ。
彼女は、一人でも二とり。もとい――
「博麗霊夢の一番弟子。河城にとりとは私のことさ!」
「――――?」
巫女は真偽を問い、河童は真と頷いた。
「霊夢が先代から受け継いで、お前が霊夢から受け継がなかったものを私は持ってる。それを知りたかったら――構えな!」
「――――」
巫女が何事か返し、スペルカードを取り出した。
「そうこなくっちゃ」
にとりは笑い、それに応じる。
弾幕を張ることを宣言する札。スペルカード。
これは相手に宣言するためのものなので、利便性などの都合でカードが使われることが多いが、実はカードである必要はない。
だから――にとりは抱えていた瓶を高々と掲げて、叫んだ。
糠符「博麗印キューカンバー」
あんまりと言えばあんまりなスペルカードに、巫女がぽかんと口を開く。
そんな巫女に構わず、にとりは瓶の蓋を取った。
鼻に慣れた糠床の匂い。その中に手を突っ込んで、にとりはほどよく漬かったキュウリを引っ張り出す。
それは、百点の糠漬けであった。
霊夢が先代に習い、倣い、それをまたにとりが継いだ、そういう漬物であった。
にとりに求められていたのは、より美味しいものを作るのではなく霊夢が先人から教わった味を受け継ぐことであったのだ。
もし霊夢が受け継いだ糠漬けが不味いものだったなら、にとりはその不味い糠漬けを作らねばならなかったのだ。
求められていたのは保守。そこには新しい工夫やオリジナリティは無用の長物であり、百二十点を求める限り、百点はつかない。
長い時間を要してにとりがそれに気づき、そうして出来上がったものだ。
それは、妖怪と同じくらい長命な、人間の営みの顕するものなのであった。
(だから霊夢。お前も、その中にいるんだよな)
にとりは、リュックから取り出したマジックハンドに糠漬けを掴み、巫女の口めがけてびよーんと伸ばしてやった。
………………
…………
……
美味しい糠漬けを作るための無数の細工を捨て、霊夢に教わった通りのやり方で作ったものだ。
毎日毎日――暑い夏には日に二度も掻き混ぜ、茄子は入れなくとも鉄釘を入れて、数ヶ月も野菜を漬けることで熟成させた糠床に、塩をしたキュウリを漬け込んだ一品だった。
すっかり大人になった霊夢は、にとりに渡されたそれを齧って「百点」と言った。
それは霊夢が漬けるものとも先代が漬けていたものとも少し違う味だったが、そこに込められたものが――受け継がれてきた手法を守り継ぐという思惟が、必要だったのだ。
「それにしてもね」
漬物を齧りながら、霊夢は呆れたように笑った。
「これだけのことに一体何年かかってるのよ。妖怪は保守的なんじゃなかったの?」
「あはは、そうだなー。随分遠回りしちゃったからなぁ」
「私なんて一個も余計なことしなかったから一発だったわよ。でもね、にとり」
「んー?」
霊夢は、声を潜めてにとりの耳に囁いた。
「ここだけの話。あんたの糠漬けの方が美味しくて、好きなのよね」
「ひゅいっ!?」
漬物の話とはいえ、好きだなどと囁かれたにとりが真っ赤になったのは、言うまでもない。
ポリポリ。
途中まで非常に良い雰囲気で読めたのですが、次代霊夢の異変初挑戦の辺りが少々冗長だったかなあと。
って、そんなのわかる訳neeeeee!
『縁は異なもの味なもの』とはいうけれど、糠漬けの味が繋ぐ異種族の縁ってのは、
うん、とても良い。世代をも繋ぐっていうのがまた良いですね。
作中のにとりと霊夢の関係も好きだな。浅漬けのようにサッパリとしつつも糠漬けの如き深さも備えているような、そんな関係。
>一人でも二とり
確かに。上手いなぁ、と感心しきりでした。そして一つ上乗せした相手が、零夢って側面もあるんじゃないかと俺が思っている
霊夢だというのもなんか感慨を深くするんですよね。
次世代の巫女ちゃんについては結構長めに描写されていたので、「おや?」とは感じたのですが、
最終的にはきちんと作品のテーマに収斂されているとも思いました。
それになんか予感がするんだよなぁ。ここから続くサーガの幕開けだぞ、っていう。
もしも世界観を共有する続きがあるのだとしたら額ずいて拝読。
なかったとしても全然問題なし。読み易い文章に、時折挟み込まれる言葉遊びは俺にとってとても好ましいものだから。
次回作が凄く楽しみです。
何はともあれ面白かったです。
糠漬けが凄く美味しそう。
お腹空いてきた…orz
キュウリ大好きな話を霊夢と絡めて面白い話になってる
そして受け継がれる魂…!(漬け物)
妖怪は人間がいないといないはずのもんだから、こういう素朴な交流こそが怪異譚の原型だと思うのよね、恐怖とかはまた別にして
特にカッパは技術職の日本に来た外人さんて話もあるし
日本人とそれ以外の「種族」との交流な訳だ
相手が霊夢なのもあちら側とこちら側の境界に立ってる巫女だからチョイス最高だと思いますし
山と海が異界なら川はその境界とは言うから境界に立つ二人の話だったわけで
さとりんの話も面白そう
とりあえず良い話でした、と
(漬物の漬けかたを教える話?)
で終わりまで持っていくように思えたので、
読み進めるために少し息継ぎがいる感じだったのですが、
途中、にとりが百点をめざしだしたあたりから面白くなって、
いっきに最後まで読んでしまいました。
料理のコースを食べ尽くして、俺はまだ食べられるぜ、へへ、って読後感。
さとりさんの挿話が好き。
久しぶりに100点入れたくて感想書きたくなったくらい。
実は人間と妖怪の寿命ものの話は苦手なんですが、この話にはこの手の話特有の切なさとかシリアスな感じがなくて。残された幻想郷の住人達が楽しそうに暮らしてるからですかね。
にとりと霊夢という組み合わせも良かったです。
味な組み合わせ、ごちそうさんでした。
交流の中で意義深いと思ったのは、失われそうになった霊夢の漬物技術が、一度にとりのたなごころに移ってから、
のびーるアームを経て次の博麗に渡ったところですかね。
実家に里帰りした時に糠漬けを食べると帰ってきた感慨にふける自分には、得も言われぬ趣がありました。
最高に面白かったです