彼らは、彼女らは、何も知らないだけなのかもしれない。
◆
橙をマヨヒガに招き、紫様と共に昼食を摂った後の昼下がり。不意に、橙の悲鳴がマヨヒガの屋敷へ響き渡った。
昼食の片付けをしていた私は、洗っていた食器をほっぽりだし慌てて橙を探す。
居間から襖を挟んですぐ隣の部屋、そこで私は橙を見つけた。
橙は力の抜けた様子で、畳の上にへたり込んでいる。その瞳には大粒の涙を湛えて。
「……橙、どうしたんだ」
「うぅ……藍様ぁ……」
私が声をかけると同時に、橙の瞳からはボロボロと涙がこぼれ、口からは嗚咽が漏れだした。
何事かと、私は咄嗟に橙を抱きしめる。先程昼食を摂っていた時はとても元気だった橙が、どうして突然このようになってしまったのだろう?
未だ確認出来ていない、橙を泣かせた何かに怒りを覚える。泣きじゃくる橙の背中をさすりつつ、私はじっくり辺りを見回した。ついさっきまでは元気だったのだから、何か突発的な原因がこの部屋にあるはずだ。
そして私の予想通り、すぐに――その答えは見つかった。
部屋の隅っこに置かれたテレビと、そこに接続されている四角形の機械。以前紫様が河童に作らせ、橙にプレゼントしてくれたTVゲームという代物だ。
そして、ゲームの出力されているテレビ画面には、黒い背景の中に白い文字で書かれた一文だけが映っていた。
おきのどくですが
ぼうけんのしょ1は
きえてしまいました。
「……」
……怒りの感情が、北風か何かで吹っ飛んでいく気がした。
「……橙。これは、ええと」
「うぅ、藍様ぁ……私、今まで頑張ってきたのに、ぐすっ、今始めたら、セーブデータが全部消えてて、ううぅ……」
「……ゲームの?」
「100時間以上やってて、レベルもあとちょっとで100だったのに……ぐすん」
私の顔からは、最早仏頂面と形容して問題ない程に表情が消えていた。まばたきだけがやたらと数を増している。
だって、ねえ……私はゲームデータの破損に対して怒っていたんですよ?
滑稽でしかない。
「うぐっ……ぐす、うぅぅ……」
しかし私の懐に抱かれている橙は、今も本気で涙を流している。
その感情は少しも理解できそうに無かったが、それでも橙の悲しみは確かに伝わってきた。
(まったく……困ったものだな)
溜め息が1つ。まあ、仕方が無い……取りあえずは、私の胸を暫く貸してあげる事にしよう。
……別に嬉しくなんてないぞ?
◆
橙の涙がある程度収まり、嗚咽もかなり落ち着いてきた。
という事で、お説教タイムの始まりである。
「……で、橙。いつの間にお前は、このゲームを100時間もやっていたんだ?」
「ギクリ」
ギクリ、と声に出してしまうところがまた可愛い。
……じゃなくて。
「はあ。ゲームは1日1時間と言っておいただろう」
「い、1日1時間を100日繰り返したんですっ!」
「紫様にゲームを頂いてまだ1か月も経っていないんだけどな」
「ギクリ」
全く……けしからん程にキュートだ。
じゃなくて!
「……私に隠れて何時間もゲームしていたのだろう? 困った奴だ」
「うぅ……すみません……でも、本当に面白くて……」
橙の瞳から、思い出したように涙が頬へ伝う。
それは、きっと私に説教されているからでは無いのだろう。このゲームが本当に面白かったからこそ、そのデータが消えてしまった事に対して悲しみが癒え切らないのだ。
……それ程までに橙を悲しませるゲームは、果たしてどんなゲームなのか。
「……私に貸してみなさい」
「ふぇ……?」
「もしかしたら、治せるかもしれない。貸してみなさい」
気付けば八雲藍、そんな事を口走っていた。
橙の瞳へ再び大粒の涙が滲む。恐らくこれもまた意味の違う涙なのだろう。
しかし、一応言っておくが……これはあくまで私の数学者としての興味が沸いた結果であり、決して橙を甘やかしている訳では無い。断じて無い。
「ありがとうございます、藍様っ!」
……甘やかしてもいいかなあ。
じゃ な く て !
「こほん……とにかく、それをこっちに貸しなさい」
「はいっ」
橙からコントローラーを受け取った私は、そそくさとゲームの画面へ目を向ける。
相変わらず先程の表示が残っていたが、Aの記号が付いたボタンを押すと画面が切り替わった。
カーソルは『ぼうけんのしょをつくる』というコマンドで止まっている。もう一度Aボタンを押すと『ぼうけんのしょ1』『ぼうけんのしょ2』『ぼうけんのしょ3』と3つの選択肢が表示された。
「これは……どれを選べばいいんだい?」
「どれを選んでもどうせ『最初から』ですから同じです……」
そう言って橙は口を尖らせる。悲しみがやや怒りへ転嫁し始めているらしい。
どうであれ、コントローラーから色々弄ったところで何も変わらなそうだ。一応『ぼうけんのしょ1』を押してみて、奇跡的にデータが戻っているとかそういう可能性に賭けてみよう。カーソルを合わせて、私はAボタンを押しこむ。
ところが、データが戻っているどころか……『最初から』という表示すら、そこには出ず。
ぼうけんのしょ1は
のろわれていて
ひらくことができない!
そんな表示だけが、映し出される。
「……橙。これは」
「わ、分かりません……」
橙は画面を見つめたまま、きょとんとした表情を見せた。
この様子だと、橙もこれを見たのは初めてのようだ。いやまあ、データが消えた事自体初めてなのだから当たり前かもしれないが。
それにしても……不気味な表示だ。
「……河童も悪趣味なシステムを作るな」
セーブデータの体裁を『ぼうけんのしょ』としているならば、このデータの中には冒険する筈だった世界が全て内包されている筈だ。
それが呪われているという事は、世界そのものが呪われているという事になる。実際は何かシステム上のエラーが起きただけで、河童がブラックジョークでも仕掛けたのかもしれないが……それにしても。
「まあ……コントローラーを持っていても仕方ないな。橙、ちょっと本体をこっちへ持ってきてくれないか」
「はい、藍様」
どちらにせよ、私が修理できれば問題の無い事である。もっとも、修理できるかどうかは不明だが。
橙が本体に近づき、ソフトを取り出そうと電源ボタンに触れる。と――
「ただいま~。疲れたわー」
私の後ろに気配を感じたと思えば、ピッと空間に裂け目が生まれる。
そこから出てきたのは、勿論私の主上――八雲紫様だ。
「お疲れ様です、紫様」
「紫さま、お疲れ様です!」
私と橙の言葉に紫様はニコリと笑いかけ、駆け寄った橙の頭を優しく撫でる。橙は嬉しそうに、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。
それから紫様は私に視線を向け、その笑顔を苦笑いに変える。
「もう疲れたわー。どうしてスキマの中でニジマスが大量繁殖してるのかしら」
「それはまた広い生息域ですね……」
「そもそも水すらないのだけれどね」
深く溜め息をつきながら、紫様は懐から扇子を取り出した。
さっとそれを広げて口元に当てると、紫様の視線は私から外れ、そして何かで止まる。
そして、穏やかに開いていた瞳を――にわかに細めた。
「……? いかがなされましたか、紫様?」
不審に思い、私も紫様の視線の先を見た。
未だ、例の表示が映っているゲーム画面。紫様の視線はそこで止まっている。
――眉をおひそめになられている理由は分かった。紫様も不気味に感じたのであろう。
「何だか、気味が悪いですよね。ゲームデータが破損しただけのようなのですが」
「……」
「……紫様?」
「……え、ああ、そうね」
……珍しい。心ここに非ずという姿の紫様を、私は数えるほどしか見た事が無いのに。
「それで……藍がこのゲームを治してあげるのね?」
「え……はい、でもどうしてそれを」
「橙のゲームが壊れてしまったのに、貴方が何もしない筈がないでしょう?」
あはは……
「まあ、そのゲームのプログラムはそんなに難しくないわ。藍でも簡単に修理できるでしょう」
「わあ、やったあ!」
「こら、橙」
紫様の言葉に橙が飛び上がって喜ぶ。それを紫様も笑顔で見つめている。
いつの間にか、先程見せていたような表情は完全に消えていた。いつも通りの、穏やかな紫様だ。
「さあて、私は疲れたから寝るわねー。おやすみ」
「おやすみなさいませ」
「おやすみなさーい!」
そして紫様は改めてスキマを開き、さっさとそこに入って行ってしまった。
様子が変だったのは、疲れが原因だったのだろうか?
……恐らくそうなのだろう。
「さて……私にも治せるとの事だ、早速治していくとしよう」
「はい、藍様っ!」
どちらにせよ、こんな不気味な表示は二度とお目にかかりたくないものだ。
私は電源ボタンに触れて、迷いなくそれを押し込んだ。
◆◆◆
寝室で八雲紫は思案する。再び、その眉をひそめながら。
(河童達……余計な事をするわね)
もしや、と紫は考え、しかし小さく首を振る。
まさか、それを知られている筈がない。ましてや幻想郷の賢者すら知らない事を、どうして河童達が知っていようか。
「……」
紫は瞳を閉じる。息を整えて、あの表示を記憶から引き出す。
『ぼうけんのしょ1は のろわれていて ひらくことができない!』
「……まあ、いいわ」
呟いて、紫は布団に倒れ込んだ。
――そう、何も変わらない。私の愛する式も、式の式も、幻想郷だって……変わらない。
呪文のように、紫は心で唱え続ける。何度となくそれを憂いて、涙も流してきた。だから分かる、変わらない。変えられない。
(……結界は、絶対死守しなければならない)
出せる涙も無いのなら、出来る事をやっていくしかない。
――これまで以上に、藍や霊夢には指導をしっかりしよう。決して開かれてはいけない結界を、揺らがせるような事があってはいけない。
紫はゆっくりと瞼を閉じる。逃げるように意識を遠のかせていく。
彼らは、彼女らは、何も知らないだけなのかもしれない。
……ならば、知らないままでいい。
げんそうきょうは
のろわれていて
ひらかれることができない!
……
…………
◆
橙をマヨヒガに招き、紫様と共に昼食を摂った後の昼下がり。不意に、橙の悲鳴がマヨヒガの屋敷へ響き渡った。
昼食の片付けをしていた私は、洗っていた食器をほっぽりだし慌てて橙を探す。
居間から襖を挟んですぐ隣の部屋、そこで私は橙を見つけた。
橙は力の抜けた様子で、畳の上にへたり込んでいる。その瞳には大粒の涙を湛えて。
「……橙、どうしたんだ」
「うぅ……藍様ぁ……」
私が声をかけると同時に、橙の瞳からはボロボロと涙がこぼれ、口からは嗚咽が漏れだした。
何事かと、私は咄嗟に橙を抱きしめる。先程昼食を摂っていた時はとても元気だった橙が、どうして突然このようになってしまったのだろう?
未だ確認出来ていない、橙を泣かせた何かに怒りを覚える。泣きじゃくる橙の背中をさすりつつ、私はじっくり辺りを見回した。ついさっきまでは元気だったのだから、何か突発的な原因がこの部屋にあるはずだ。
そして私の予想通り、すぐに――その答えは見つかった。
部屋の隅っこに置かれたテレビと、そこに接続されている四角形の機械。以前紫様が河童に作らせ、橙にプレゼントしてくれたTVゲームという代物だ。
そして、ゲームの出力されているテレビ画面には、黒い背景の中に白い文字で書かれた一文だけが映っていた。
おきのどくですが
ぼうけんのしょ1は
きえてしまいました。
「……」
……怒りの感情が、北風か何かで吹っ飛んでいく気がした。
「……橙。これは、ええと」
「うぅ、藍様ぁ……私、今まで頑張ってきたのに、ぐすっ、今始めたら、セーブデータが全部消えてて、ううぅ……」
「……ゲームの?」
「100時間以上やってて、レベルもあとちょっとで100だったのに……ぐすん」
私の顔からは、最早仏頂面と形容して問題ない程に表情が消えていた。まばたきだけがやたらと数を増している。
だって、ねえ……私はゲームデータの破損に対して怒っていたんですよ?
滑稽でしかない。
「うぐっ……ぐす、うぅぅ……」
しかし私の懐に抱かれている橙は、今も本気で涙を流している。
その感情は少しも理解できそうに無かったが、それでも橙の悲しみは確かに伝わってきた。
(まったく……困ったものだな)
溜め息が1つ。まあ、仕方が無い……取りあえずは、私の胸を暫く貸してあげる事にしよう。
……別に嬉しくなんてないぞ?
◆
橙の涙がある程度収まり、嗚咽もかなり落ち着いてきた。
という事で、お説教タイムの始まりである。
「……で、橙。いつの間にお前は、このゲームを100時間もやっていたんだ?」
「ギクリ」
ギクリ、と声に出してしまうところがまた可愛い。
……じゃなくて。
「はあ。ゲームは1日1時間と言っておいただろう」
「い、1日1時間を100日繰り返したんですっ!」
「紫様にゲームを頂いてまだ1か月も経っていないんだけどな」
「ギクリ」
全く……けしからん程にキュートだ。
じゃなくて!
「……私に隠れて何時間もゲームしていたのだろう? 困った奴だ」
「うぅ……すみません……でも、本当に面白くて……」
橙の瞳から、思い出したように涙が頬へ伝う。
それは、きっと私に説教されているからでは無いのだろう。このゲームが本当に面白かったからこそ、そのデータが消えてしまった事に対して悲しみが癒え切らないのだ。
……それ程までに橙を悲しませるゲームは、果たしてどんなゲームなのか。
「……私に貸してみなさい」
「ふぇ……?」
「もしかしたら、治せるかもしれない。貸してみなさい」
気付けば八雲藍、そんな事を口走っていた。
橙の瞳へ再び大粒の涙が滲む。恐らくこれもまた意味の違う涙なのだろう。
しかし、一応言っておくが……これはあくまで私の数学者としての興味が沸いた結果であり、決して橙を甘やかしている訳では無い。断じて無い。
「ありがとうございます、藍様っ!」
……甘やかしてもいいかなあ。
じゃ な く て !
「こほん……とにかく、それをこっちに貸しなさい」
「はいっ」
橙からコントローラーを受け取った私は、そそくさとゲームの画面へ目を向ける。
相変わらず先程の表示が残っていたが、Aの記号が付いたボタンを押すと画面が切り替わった。
カーソルは『ぼうけんのしょをつくる』というコマンドで止まっている。もう一度Aボタンを押すと『ぼうけんのしょ1』『ぼうけんのしょ2』『ぼうけんのしょ3』と3つの選択肢が表示された。
「これは……どれを選べばいいんだい?」
「どれを選んでもどうせ『最初から』ですから同じです……」
そう言って橙は口を尖らせる。悲しみがやや怒りへ転嫁し始めているらしい。
どうであれ、コントローラーから色々弄ったところで何も変わらなそうだ。一応『ぼうけんのしょ1』を押してみて、奇跡的にデータが戻っているとかそういう可能性に賭けてみよう。カーソルを合わせて、私はAボタンを押しこむ。
ところが、データが戻っているどころか……『最初から』という表示すら、そこには出ず。
ぼうけんのしょ1は
のろわれていて
ひらくことができない!
そんな表示だけが、映し出される。
「……橙。これは」
「わ、分かりません……」
橙は画面を見つめたまま、きょとんとした表情を見せた。
この様子だと、橙もこれを見たのは初めてのようだ。いやまあ、データが消えた事自体初めてなのだから当たり前かもしれないが。
それにしても……不気味な表示だ。
「……河童も悪趣味なシステムを作るな」
セーブデータの体裁を『ぼうけんのしょ』としているならば、このデータの中には冒険する筈だった世界が全て内包されている筈だ。
それが呪われているという事は、世界そのものが呪われているという事になる。実際は何かシステム上のエラーが起きただけで、河童がブラックジョークでも仕掛けたのかもしれないが……それにしても。
「まあ……コントローラーを持っていても仕方ないな。橙、ちょっと本体をこっちへ持ってきてくれないか」
「はい、藍様」
どちらにせよ、私が修理できれば問題の無い事である。もっとも、修理できるかどうかは不明だが。
橙が本体に近づき、ソフトを取り出そうと電源ボタンに触れる。と――
「ただいま~。疲れたわー」
私の後ろに気配を感じたと思えば、ピッと空間に裂け目が生まれる。
そこから出てきたのは、勿論私の主上――八雲紫様だ。
「お疲れ様です、紫様」
「紫さま、お疲れ様です!」
私と橙の言葉に紫様はニコリと笑いかけ、駆け寄った橙の頭を優しく撫でる。橙は嬉しそうに、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。
それから紫様は私に視線を向け、その笑顔を苦笑いに変える。
「もう疲れたわー。どうしてスキマの中でニジマスが大量繁殖してるのかしら」
「それはまた広い生息域ですね……」
「そもそも水すらないのだけれどね」
深く溜め息をつきながら、紫様は懐から扇子を取り出した。
さっとそれを広げて口元に当てると、紫様の視線は私から外れ、そして何かで止まる。
そして、穏やかに開いていた瞳を――にわかに細めた。
「……? いかがなされましたか、紫様?」
不審に思い、私も紫様の視線の先を見た。
未だ、例の表示が映っているゲーム画面。紫様の視線はそこで止まっている。
――眉をおひそめになられている理由は分かった。紫様も不気味に感じたのであろう。
「何だか、気味が悪いですよね。ゲームデータが破損しただけのようなのですが」
「……」
「……紫様?」
「……え、ああ、そうね」
……珍しい。心ここに非ずという姿の紫様を、私は数えるほどしか見た事が無いのに。
「それで……藍がこのゲームを治してあげるのね?」
「え……はい、でもどうしてそれを」
「橙のゲームが壊れてしまったのに、貴方が何もしない筈がないでしょう?」
あはは……
「まあ、そのゲームのプログラムはそんなに難しくないわ。藍でも簡単に修理できるでしょう」
「わあ、やったあ!」
「こら、橙」
紫様の言葉に橙が飛び上がって喜ぶ。それを紫様も笑顔で見つめている。
いつの間にか、先程見せていたような表情は完全に消えていた。いつも通りの、穏やかな紫様だ。
「さあて、私は疲れたから寝るわねー。おやすみ」
「おやすみなさいませ」
「おやすみなさーい!」
そして紫様は改めてスキマを開き、さっさとそこに入って行ってしまった。
様子が変だったのは、疲れが原因だったのだろうか?
……恐らくそうなのだろう。
「さて……私にも治せるとの事だ、早速治していくとしよう」
「はい、藍様っ!」
どちらにせよ、こんな不気味な表示は二度とお目にかかりたくないものだ。
私は電源ボタンに触れて、迷いなくそれを押し込んだ。
◆◆◆
寝室で八雲紫は思案する。再び、その眉をひそめながら。
(河童達……余計な事をするわね)
もしや、と紫は考え、しかし小さく首を振る。
まさか、それを知られている筈がない。ましてや幻想郷の賢者すら知らない事を、どうして河童達が知っていようか。
「……」
紫は瞳を閉じる。息を整えて、あの表示を記憶から引き出す。
『ぼうけんのしょ1は のろわれていて ひらくことができない!』
「……まあ、いいわ」
呟いて、紫は布団に倒れ込んだ。
――そう、何も変わらない。私の愛する式も、式の式も、幻想郷だって……変わらない。
呪文のように、紫は心で唱え続ける。何度となくそれを憂いて、涙も流してきた。だから分かる、変わらない。変えられない。
(……結界は、絶対死守しなければならない)
出せる涙も無いのなら、出来る事をやっていくしかない。
――これまで以上に、藍や霊夢には指導をしっかりしよう。決して開かれてはいけない結界を、揺らがせるような事があってはいけない。
紫はゆっくりと瞼を閉じる。逃げるように意識を遠のかせていく。
彼らは、彼女らは、何も知らないだけなのかもしれない。
……ならば、知らないままでいい。
げんそうきょうは
のろわれていて
ひらかれることができない!
……
…………
誰もが一度は思うことですが、これを完全に否定することって出来ないんですよね。
すごかったです。
この世界は誰かに作られた世界で、自分達はそれを作った「彼ら」の意思のままに生き、そして死んでいるのかも知れない。
これは平成というゲームの時代が生んだ新しい怪奇なのかも知れませんね。
出来ればもう少しこの怪奇を長く楽しみたいという思いはありましたが、この発想には脱帽です。
おきのどくですが
げんそうきょう1は
きえてしまいました
ゲーム画面に映し出されるあの無機質な文字でそんな表示がされていたら……たしかにとっても不気味ですね。
何にせよのろいも消えてしまうのも怖いですね
せっかく100時間以上やってもうすぐ100lvだったのに消えたら橙が泣くのもわかる
┏━━━━━━━━━┓
A A ┃ おきのどくですが ┃
( ノД`)シクシク…┃ 冒険の書1番は ┃
┃消えてしまいました┃
┗━━━━━━━━━┛
┃ 幻想郷は ┃
┃ 呪われていて ┃
┃開くことができない!┃
┗━━━━━━━━━┛