「――僕はゲイなんだ」
霖之助の雲山への告白は、まったくの唐突に行われた。
「……?」
雲山は、きょとんとした顔で振り向いた。店全体が日陰に覆われたような暗いカウンターの霖之助と、壁際の商品だなに向かっていた雲山の、二人の視線が、薄暗い店内で静かに絡み合う。
雲山は入道仕事の無いオフの日になると、よく香霖堂へくつろぎにくる。暗く、人気の無い時間のおだやかにながれる店内で、寡黙な店主である霖之助と穏やかな時を共有する。告白は、そんなさなかに行われた。
霖之助は、手にしていた本に再び視線をおとし、世間話をするような軽い口調で繰り返した。
「ゲイなんだ、僕は。今まで黙っていて悪かったね」
ガラクタを手にしたまま、雲山はキョトンとした顔をしている。
ちなみに雲山は今は人型である。一輪の手を離れて自立行動をするときは、いつもそうだ。同性からみても性的に魅力を感じざるを得ない、引き締まった強靭な肉体。衣服はまとわず、局部には巧妙に雲が漂っている。身の丈は2メートルほどもあろうか。
――あと普通にしゃべる。
「……冗談か?」
怪訝な顔をする雲山に、霖之助はクスクスと笑みを返す。
「いや、本気さ。それともう一つ、僕には意中の人がいる。それは――貴方だよ、雲山」
「う、む?」
雲山は正気を疑うように、しげしげと霖之助を見詰める。本を読んでいる霖之助の表情は、冗談とも本気とも受け取れなかった。
「……すまんが、おぬしが何を言っているのか、さっぱり理解できん」
「ふふ、そうかい」
ほんの一瞬、霖之助の表情に苦いものが混ざる。が、すぐにそれは消えた。霖之助はまた、軽く笑い飛ばすような声色で言った。
「まぁ、驚くだろうね。こんな急に打ち明けたのでは」
「驚く、というか……待て、本気か?」
「そうだって、言ってるじゃないか」
霖之助はのんきそうな表情をしていrが、どことなく視線が熱い。
「僕は貴方に、好意を抱いている」
「好意?」
「好きってことさ。僕と、交際してほしい」
「つまり……ワシと霖之助が恋人になるということか」
「そうさ」
雲山はぽかぁんとした間抜けな顔でしばし視線を泳がせた後、さらりと答えた。
「いや、それはもちろん断るが。ワシはゲイではないし……」
「……。そうかい」
霖之助の表情は一見なにも変わらないようだった。が、あるいは表情を見せないようにロウの仮面をつけているようにも感じられる。
霖之助は再び読書に戻った。
静かな時間が戻ってくる。香霖堂の外から、木々の葉が風にふかれてこすれる波のような音。
雲山は何が起こったのか理解できていない様子だった。
「……まて霖之助。なんだ今のは」
霖之助は答えなかった。霖之助は目したままペーシをめくる。紙のこすれる乾いた音。
「おい」
雲山は完全に置いてけぼりにされた。
「さて、明日はよろしくたのむよ」
「ん、承知」
部屋の灯火を消して。霖之助は布団にもぐり、雲山は雲にもどり部屋の宙空に漂う。
時折二人は連れ立って賽の河原にガラクタあさりにゆく。雲山は霖之助と、収集した骨董品を乗せて空を移動する。骨董品のある雲山の、ささやかな楽しみである。
灯りも消え、カーテンも閉じきった。時折遠くで野鳥が鳴いている。
「のう、霖之助よ」
「ん?」
「結局、さっきの話はいったい何だ」
しばしの間をおいてから、霖之助が答えた。
「……もっと笑ってくれるかと思ったんだけどな」
どこか白々しい言い方であった。
「では、やはり冗談か」
「才の無いことを、あまりやるものではないね」
霖之助の答えは一見肯定のようであったが、かといって否定してもいない。
「忘れてくれ。お休み」
それきり霖之助は黙った。寝返りを打って、雲山に背を向けた。なにか会話がかみ合わないぎこちなさが、沈黙を呼んだ。
「口下手なお前さんに冗談の才はもとより無かろうて。……眠る」
雲山は、人騒がせなやつだと言いたげに、それだけ言い捨てた。
深夜のどこかで、雲山がふと目を覚ました。
目覚めた理由を探してか、雲山はあたりの暗闇を見回す。
「む? 霖之助?」
布団で寝ているはずの霖之助の姿がなかった。
「用便か」
雲山は特に気にせず、そのまま再び眠りにつこうとした。
が、
「……ん?」
――うぐ、うう、うおおん、うおおん。
闇夜のどこかから、男泣きをする声が聞こえる。押し殺しきれずに漏れ出している、そんな様子の男泣き。
「……霖之助? 何をしておる」
雲山は煙となって薄闇の中をただよい、音の出所を探る。香霖堂は狭い建物だ。すぐにめぼしはついた。厠からのドアの隙間から、灯りが漏れている。
――っぐ、くむぅっ、ひぐう。
ドアの向こうの泣き声は、間違いなく霖之助だった。
静かな夜の香霖堂に、悲しげな呻き声がじわりじわりと広がる。雲山はドアに顔をよせ、じっと、その声に耳を澄ませている。
「……」
すこししてから、雲山はドアから離れた。そしてゆっくりと、寝室へ漂っていく。泣き声はまだ聞こえている。雲山は中空で煙の塊になると、しばし黙し、それからやれやれと呻いた。
「いかにせん……まことの言葉であったか」
闇の中、雲となった雲山が揺れる。
霖之助の泣き声はまだ聞こえている。
翌朝。
雲山は雲形態で、霖之助を背にのせて魔法の森の上空を飛んでいた。
「良い眺めだ」
「……うむ、天候も良い」
飛行能力を持たない霖之助は、高所からの幻想郷の眺めに目を細めている。昨晩の涙の後は、どこにもなかった。
雲山はそんな霖之助に、ときおり探るような視線を送っていた。
「のぅ霖之助」
「なんだい」
「あゝ……昨日の夜の話なのだが……」
「へ?」
霖之助は何のことだという様子で、きょとんとした顔をした。
雲山はそんな霖之助にわざとらしさを感じたのか、少しもどかしそうな、いらだっているような顔を見せた。
「へ、ではない。ほら、お前に衆道の気があるとかいう」
霖之助は再びキョトンとした顔したあと、
「はっ」
と噴出した。
「いやだな。あれは冗談だと言ったろう。まさか本気にしたのじゃないだろうね?」
「……」
めずらしくカラカラと笑う霖之助を不愉快そうに眺めながら、雲山は言うかいうまいかを迷ってかしばしの間口ごもり、そしていった。
「霖之助、お前、昨晩かわやで泣きふせていたろう」
「へ……」
霖之助は突然首を絞められたかのように、笑いを止めた。しばし目が泳ぐ。
「……起きてたのか」
「いかにも」
「あー……」
霖之助は意味もなく眼鏡のふちを上げる。
「うん、ちと、持病の痔が痛んでね」
雲山の額にしわがよった。
「なに?」
「職業病でね。知っているだろう。僕は酷い痔なんだ。それが痛んでね」
霖之助に似つかわしくない、軽薄な笑いだった。
「嘘を言うな」
雲山はきっぱりと言い捨てた。
「お前さんの痔は知っているが、それで泣くものか」
「いや、実は、便を拭こうとしたときに寝ぼけてうっかり強くこすってしまってね」
「……」
雲山はいらだたしげに大きくため息をつき、雲体をもごもごと波打たせた。霖之助が危なげに雲山の体をつかむ。
「気に食わんな。霖之助」
「……何がだい」
居心地の悪い沈黙が二人の間におりる。乾いた風が、霖之助の噛みをなびかせる。
「ワシはな、昨日のお前さんの言葉は、まことの心うちであったと思っている」
「は……何を言うんだい雲山」
霖之助は笑おうとしたが、失敗したようだった。
雲山は、中空にぴたりと静止しした。
そして、雲の前部にある顔を、霖之助に振り向かせる。霖之助は少し顔をこわばらせ、雲山の厳しい眼を見詰める。
「霖之助よ。後生だから真実を語ってくれ。あれは本当に冗談だったのか。いやそうであったなら、謝る。バカなことを言ってすまなかった。もう忘れよう」
「……」
すると霖之助は苦悶の表情をみせつつ空を仰いだ。思いもよらなかった状況に急に襲われ、苦しんでいるように見える。
そして顔を下ろすと、口元に悲壮な笑みを浮かべ、雲山に言った。
「その話は後にしないかい」
「……」
「今日は陽が良い。気持ちよく、すごそうじゃないか」
「……」
「……頼むよ、雲山」
雲山はしばし口をすぼめながら、苦い表情をした。けれどすぐに、しかたなさそうに、うなずいた。
「……承知した」
「ありがとう」
雲山が小さく微笑むと、会話は終わり、二人はまた、幻想郷の風となった。
夕焼け空を、流れる雲がある。白い体のふちをオレンジ色に輝かせながら、その圧倒的な大きさと美しさで見るものの心を奪う。
雲山も、その雲の一つだ。背中には霖之助と、たくさんのガラクタを乗せている。
「今日は、なかなか大量だった」
「うむ」
霖之助は家に着くまで我慢しきれぬという様子で、ガラクタをあれこれと手にとり、さまざまな確度から眺める。まだ遊び足りないと、夕日の中で野原を駆け巡る少年のよう。雲山は、前を見据えながら、やさしい笑みを浮かべた。
「お前さん、道具あさりに夢中になるのは良いがもっと周りに気をつけろ。今日など、三途の川に落ちそうになっていただろう」
「鬼か死神がいじってほうり捨てたんだろうね、岸辺に面白そうな道具が転がされていたのさ」
「あの川は、落ちたら二度とあがってこれんのだぞ」
「ならばなおさら、道具が川に転がりおちてしまわないうちに、僕が拾わなければならない」
くすくすと悪びれもせず霖之助が笑った。やれやれ、と雲山が頭を振る。
ひゅうと風が吹いて、二人の視線を夕日に誘った。地平の山脈に、輝く陽は半分ほどにまで沈んでいる。今日という日が終わろうとしている。朝来た空を、二人は引き返している。
「――なぁ霖之助よ」
「……ん」
二人は、今朝この空で交わした会話を、忘れてはいなかった。
線路と海の間には何もさえぎるものはなく、見たこともない広さの空と海が、ゆっくりと流れてく。二人は言葉もなく、しばしの間、その眺めに見入っていた。
「――雲山。僕はね……」
「……」
夕日に視線を向けたまま、霖之助は静かに語り始めた。
「僕は――ゲイなんだ」
びょう、と風を切りながら雲山は空を翔る。
雲山はほんすこし顔を緊張させ、背中の霖之助にちらりと視線を向けた。が、霖之助はくつろだ表情のまま、いいや、くつろいだ表情でいようと努めつつ、夕日に顔を向けている。雲山もまた、霖之助の見つめる先に、視線を追った。
「――霖之助よ」
「ん?」
「なぜ今まで黙っていた? 知り合って、もうどれくらいになる」
「どれくらい……だったかな」
「たしかにこの幻想郷では、女性同士の交わりにくらべ男性同士の交わりは極端に忌避される――だが、ワシとおぬしの中ではないか。話してくれても、よかったろう」
「すまない……少々苦い思い出もあってね。……臆病になっていたんだ」
「……ふむ」
雲山は、何があった、とは聞かなかった。ただじっと黙って、霖之助の言葉をまった。
「ぼかぁ以前、里のとある道具やで働いていたんだ」
「聞いている。霧雨の店だろう」
「うん。で……だ」「
霖之助は、しばし、遠い空をみつめ、はるかな過去を懐かしむように、目を細める。
「――僕は昔、店の主人に恋をした」
ひょう、と霖之助が風にたなびく。
「……なんぞこっぴどい断られ方でもしたか」
「いや――告白をして、ふられることはふられたのだが、主人はそれでも僕に良くしてくれた。気持ちにはこたえられないが、僕さえよければ店にいてほしいといってくれた」
「そうか」
「僕は答えたよ。自分の気持ちはきっぱり忘れる、とね……すぐに忘れられるわけはないけれど、彼のそばにいたかったからね。いつか……振り向いてくれるかも、だなんてバカことも考えた」
「バカだなんて、思うことはない」
「……ありがとう。けれど結局……彼はその後人間の女性と恋をして、所帯を持った。そして、子供もうまれた。可愛い女の子さ。……僕はずっとその間、彼のそばにいなければならなかった。なんでもないフリをしながらね」
「……」
「たいしたことの無いように聞こえるかもね。こっぴどい失恋をしたわけでもなく、大げさな心の傷を負ったわけでもない。けれど――僕の精神は、長い時間をかけってゆっくりと腐っていったのさ。環境も良くなかった。ほれた相手が、自分とは違う人間と幸せになっていく様をまじまじと見せられるのだから。……鬱屈するよ」
霖之助は、クスリと笑った。自嘲気味な弱々しい笑みだった。
「本当にバカだった。くだらない希望にいつまでもすがり付いて、その癖自分は憂鬱になって――。ようやく店を離れようと思えたころには、女の子ももう立派に大きくなっていたね」
雲山が霖之助の笑みに合わせた。
「ワシも多分その娘を知っているな。たいそうなじゃじゃ馬に育ったものだ」
「まったくだね。ふふ」
「くくく」
ひとしきり笑った後、霖之助は遠い目をする。
「あの娘が、私とあの人の子供だったなら、と時折考えてしまうよ……」
「やれやれ馬鹿じゃな。そればっかりは、馬鹿じゃ」
「ふふ、まったくだね」
霖之助が、雲山の禿げ上がった後頭部にそっと手を添えた。
「魔法の森の穏やかな暮らしにうずもれて、どれくらいたった頃かな。貴方と知り合ったのは――」
「ん……」
「いつの間にか、過去を思い返すことより、貴方のことを考えている時間が多くなっていた。でも、やっぱり怖かったんだ。この幸せな時間を、また失ってしまうことが。貴方に気持ち悪いと思われてしまうことが」
「……哀れじゃな。おぬしは、長い時間をかけて、己の体にいえぬ傷を刻んでしまったのだ。それは一時の激しい傷よりも、長くその者を苦しませる」
「ああ……」
「しかし、ではなぜ、今またワシに気持ちを伝えたのだ」
霖之助は、恥ずかしそうに笑った。少年のような笑みだった。
「雲山、最近すこし太ったのでは?」
「……なんじゃ、いきなり」
雲山はギクリとして、霖之助をにらんだ。
「たしかにここのところ、オフの日はおぬしの店に入り浸って、自主トレもちとサボりガチであったが」
「雲山は、今くらいがちょうどいい」
「なぬ?」
「脂肪と筋肉がほどよく乗っている。店であなたの後姿を見ていると、その大きな広背筋 に惚れ惚れするよ。今だって――」
霖之助は、そっと自分が載っている雲山の背中に手を触れた。
「貴方の肉体がすばらしすぎて、僕はもう自分の気持ちを抑えることができなくなった」
「……」
「ただ、あんな風になんでもない風を装ったのは恥ずかしく思っているけれどね」
「そのくせ、ワシにふられて厠で情けない声を上げていたのだな」
「……そのことはもう言わないでくれ」
「認めたな。やはり、泣いていたんだな」
「……今だって、本当はすごく怖い」
「うん?」
「雲山が僕を家まで運んでくれて……そしてもう二度と、店には現れないのではないかとね」
霖之助が情けなく笑う。
雲山がむっとして、霖之助の背後にニョキッと腕を生やし、ぽかんと後頭部を小突いた。
「痛……何をするんだい」
「情けないことをいいよるから、つい、な」
「悪かったな……」
「まったくじゃ。お前さん、生まれてからの気質か霧雨との一件でそうなったかしらんが、自分の胸の内にいろいろ溜め込みすぎだ。もっと……ワシを信用しろ」
「……すまない」
「ワシとてお前さんとの縁は得がたいものだと思っておる。お前さんは……一緒にいるとほっとする。それに、自身を持て、お前はなかなか良い男だ」
「……っ。馬鹿だな、君は」
霖之助が頬を膨らませて、そっぽを向いた。顔が紅いのは、夕日のせいだけではないだろう。
二人は口を閉じ電車の揺れる音だけが、しばし赤い車内に響く。
「……しかしな、ということは霖之助は、ワシと、その――接吻したいなどと、思うておったのか?」
霖之助はさすがにちょっと口ごもった。
「雲山だって、もし意中の人がいたとしたなら、どうだい」
遠回りだが、明白な答えだった。
「……ならば、それ以上のことは?」
「はい?」
「おぬし一人で己を慰めたりは……しとるのか?」
「なっ、ちょっとっ」
霖之助はあわててあたりを伺う。もちろんこの空には今二人しかいないし。見渡しても、遠い緑があるばかりで人気はない。
「ワシのことを考えてセンズリとか……あるのか?」
「もぉ……勘弁してくれっ」
頭を抱えんばかりに顔を伏せている霖之助。
雲山の顔にも、幾分か恥ずかしさからきているらしいこわばりがある。だが雲山は楽しそうだ。普段は感情のうすい霖之助の、めずらしい表情を楽しんでいるように見える。
「で……どうだ」
霖之助は、ああ、うう、とうめいた後、ぼそりと答えた。
「……あるさ。何度もある」
「ぬぅ、背筋が、ぞわぞわと。やめてくれ」
雲山がぶるりと身をよじった。
霖之助は顔を赤くして青筋をたてた。
「あ、あんたがが聞いたんだろう! 正直にこたえてやったのにっ」
「聞かぬほうが良いということは、あるのだな」
「不愉快だっ! ああくそ、不愉快だっ」
わいわいとはしゃぐ二人。そこにはいつも以上に中むつまじい二人の姿があった。
だが霖之助の目じりには涙が浮かんでいた。感情の複雑な高ぶりが流した本人にも無意識の涙なのだろう。
二人でこうしてはしゃげる喜び、秘めていた気持ちを明らかにできる喜び、そして、もしかするとこの時間が永遠に去ってしまうかもしれないという恐怖。
「……」
雲山が、その涙の気配に気づいた。意地悪はおしまいにしようという風に、居住まいを正して、ゆっくりと霖之助に語りかける。
「霖之助よ、ワシも、いろいろと考えたよ」
「え……」
霖之助もつられて、おとなしくなった。
「もう一度ゆうがな、お前との友情は得がたいものだと思っている。それにワシは古い妖怪じゃ。今の幻想郷と違い、かつていた外の世界では、男同士の契りもそうめずらしくはなかった。男同士の交わりというものも、外の世界では何度もみてきた」
「……」
「それにしても、こうやって人から、若いモンから素直に好意を向けられたのは随分とひさびさじゃ。ワシのような爺さんでは、もう随分とそういうこととはごぶさたじゃ。……だからちと戸惑ってる。お前の泣き声を聞いて、霖之助の告白が本気だったんだって気づいて、それからずっと考えているのだが――いまだに答えがでん」
「……」
「だから――」
雲山の背中でで、霖之助がぎゅっと手を握った。これから自分につきつけられる事実がどんなものであるか、恐れ、そして向き合おうとしている。
「だから――――――――――まずは接吻から」
「……え?」
霖之助の小さく開いた唇から乾いた声が漏れた。
「ワシは一度しおれた身じゃ。今すぐ人とイチモツをひさごうという気にはなれん。が、それをおいても、お前さんは若く、魅力な男だ。お前さんに好きといわれれば……悪い気はせん」
必死に自分の気持ちを訴える雲山の姿は、霖之助に許しをこうているようにも見えた。雲山は空を飛ぶのをやめ、赤い空の中で、霖之助をみつめ真摯に語りかける。
「どうか、後生じゃ霖之助。ワシにいましばらく時間をくれ。お前の若い意思を受け止める時間を……。ワシとて、お前との交友をこんなことで失いたくない。むしろ、深める良い機会だと思っている」
霖之助は感極まったように口を一文字にし、そしてうつむいた。うつむいて、両手を差し伸べて、雲山の膝に手をくべた。
「雲山、もちろんだよ、もちろんだとも――」
雲山には、うつむいた霖之助の顔が見えない。だがその前髪の置くから滴った小さな涙の粒が、雲山の背にぽたりと落ちたのは見えたのだった。
「ありがとう……」
二人の背後では、最後の陽が遠い山のふちに消えようとしていた。
『――魔法の森の端にある、古ぼけた道具屋を知ってる?』
『ああ、あの街道近くにある、潰れてるんだかやってんだかわからないお店でしょ。お客さん、くるのかしら、あんなところで』
『それがね、あそこってあの森近霖之助のお店なんだって』
『えーっ、そうだったんだ』
人里の飯屋の一角で人間の娘のそんな会話がわいた。
食堂のざわめきの間をぬって、別テーブルにいた雲山と霖之助の耳にその声が届いた。二人は逢引の最中であった。雲山も、今は衣類を身につけている。
「……」
煮魚をつまんでいた雲山の手がとまる。眉間にちょっぴり皺がよる。
「雲山、気にするな」
冷奴を端で刻みながらにからませながら、霖之助が釘をさすように呼びかける。
『なんでわざわざあんなところでお店を開いてるんだろう』
『さぁ、でも噂では、あの人ってもともとは霧雨魔法道具店にいたんだって』
『へぇ』
『それで、男主人にフられて、お店をやめたんだってさ』
『え~っ、そうだったんだ。昔からゲイだったんだね。そりゃ追い出されるわ』
「……雲山、怒ることない。ただのうわさ話さ」
「だが……不愉快だ。あることないこと言われるのは」
「君がこうして怒ってくれれば、僕はそれでいい」
『けどさ、男同士、いっつもあのお店でなにしてんのかしら』
『そりゃ……ナニでしょ。ゲイなんだから』
『うわぁ~、キスしたり、抱き合ったり、するのかしら。男同士で? うわぁ』
『あら、私達だって、するでしょう?』
『私達はオンナじゃん。あの人たちはオトコでしょ? うぇ~』
『ま、たしかに気持ち悪いけどね』
ガンッ、と雲山の拳がテーブルをたたいた。
霖之助がその拳をぽんぽんとなでる。
「はいドードー。そんなに怒るな」
「なんでそんなに落ち着いている」
「ただの興味本位の下世話な会話。それに僕たちが騒がなければ、そのうちどこかに忘れられるさ」
「だが……」
「――雲山、やっぱりつらいかい?」
霖之助の声がいちだんと優しくなった。傷ついた仲間を気づかうような、そんな声色。霖之助の手が雲山の手をそっとなでる。
「僕はなれてる。昔からゲイだ。耳をふさぐすべを覚えた。けど雲山は……」
霖之助は暗に、自分のせいで雲山までもがうわさ話の対象になってしまったことをわびているようだ。
「おぬしが悪いわけでは。噂話をする連中がいかんのだ」
雲山が唇を尖らせながら愚痴る。
霖之助は苦笑いしながら、首をふった。
「噂話を、悪いだなんて思うことはない」
「だが……」
「私にとっては、世間がどう思うかより、雲山がそばにいてくれて、その幸せを喜ぶほうが大事さ。噂話に気をとられて、その大切な時間を無駄にしたくない」
「そりゃ……わかるが」
「食べ終わったし、いこうか。ここにいては耳に毒だろう」
「……むう」
霖之助はにこりと微笑むと、さっと立ち上がった。噂話は二人の周りのテーブルにも聞こえている。けれど霖之助は、身を小さくするようなことはせず、ごく自然に振舞う。皿の乗ったトレイを手にとり、テーブルの間をすたすたと歩いていく。何人かの客は二人に先ほどから好奇の視線を向けてきている。。霖之助はそれに気づいているはずだが、気にした様子はない。見ほれるほどに綺麗な姿勢で、長いスカートとをなびかせながらすっすっと歩いていく。
雲山は霖之助の後を歩きながら、自分の前をいくその背中を見つめていた。
食堂をでると、雲山は霖之助にそっと腕を絡めた。
「霖之助よ」
「ん?」
「私はお前を尊敬するぞ。アレだけの視線を受けながら、なんとどうどうたる様だろうか。周りにいってやりたかった。どうだみなの衆、これがワシの連れ合いだ、うらやましいだろ、とな」
「嬉しいけど……そうやって変に力むと、周りから変に見られるだけだけさ」
「ワシは霖之助のことを、尊敬する、尊敬するぞ」
「雲山は落ち着いてみえて、意外と情熱的なところがある。しかし、さておき」
と、いいながら、霖之助がつながった腕をもぞもぞとさせる。
「こーいうことしてるから噂になるんじゃないかな」
二人の歩いている場所は人里でも比較的人気の少ない通りだ。が、周りには民家があるし、周りにまったく人がいないわけではない。
それでも雲山は霖之助の腕を放さなかった。
「ワシがしたいからするのだ。周りに気をつかって遠慮してたまるか」
「勇ましいね……」
霖之助はしょうがないという風に笑い、それから雲山の耳もとに口をやりそっと囁いた。
「けど嬉しいねぇ。そんなにまで僕を思ってくれるなら……そろそろどうだい? ――まぐわってみないか」
ぎくり、と雲山の身体がこわばる。
「あいや、しばらく……その、心の準備が……」
雲山は急に小さくなるのだった。
霖之助はちょっぴり残念そうに、けれどおかしそうに、口元に手をやった。
「冗談さ」
「霖之助は相変わらず冗談が不得手だ」
「ふ」
霖之助は半分は本気だった。雲山にもそれはわかっていたはずだが、それを冗談として流してしまうのが、今の二人の、お互いへの優しさだった。
と、その時。
「あ……」
霖之助が何かに気づいて、急に立ち止まった。
「どうした」
「雲山、あれを持っていないか」
「あれ?」
「ナプキン」
「……む」
「そろそろだったのに……油断していた。持っていなかった」
「いや、わしももっておらぬ」
「そうか、まいったな。万屋へいけば売っているだろうけど……」
「……いや、よし、ワシ乗るがいい。」
「え?」
「香霖堂までひとっとびしてやろう」
「おお、すまないね」
雲山はしゅしゅっと雲状態に戻る。その背中に霖之助が飛び乗った。
「行くぞ」
二人は空に飛び立った。
――妖怪であれば、男であっても生理はある。しばしば女性型妖怪が精液を放出する事実からも推測できるように、妖怪は基本的に雌雄同体である。男、女のくぎりは、人間の性質にあわせた曖昧なものでしかない。当然、半分妖怪である霖之助もまた、女性的な機能を身体に備えているのである。
空をかけながら、雲山は言った。
「やれやれ。しばらくはまた、へたりんのすけ、じゃな」
霖之助の生理は、非常に重い。
睾丸に絶え間なく自機狙い弾が降り注ぐ感じ――。
というのが、霖之助の表現である。
重い日はそれくらいの苦痛を感じるらしい。そんな日はもう家からでることさえできない。布団の上で、うーんうーんとうなり続けるばかりである。
そういう日、雲山はよほどの用事がない限りは、霖之助のそばにいてやるのだ。
「ワシはせいぜい、ふぐりにゆるいデコピンをされているという感じじゃ。耐えられぬというほどえはない」
雲山は霖之助のお腹のあたりをくるくるとなでてやりながら、笑った。もちろん霖之助は布団をかぶって、お腹を冷やさないようにしている。その布団の上から、なでてやるのだ。
「たまんないよ。毎月毎月いやになる……」
布団から半分だけ顔をだして、霖之助は泣き言をもらした。
「まぁ、な」
生理の間、霖之助はまるで人が変わったように気弱になる
「はぁ……」
と、霖之助が腑抜けたため息を吐いた。
「ありがとう、雲山」
「生理の辛さは、霖之助ほどじゃないが知っている」
「そのことではないんだ。いやそのことも感謝してるけど……」
「ぬ?」
「僕の気持ちを理解し、一緒にいてくれて……ってことさ」
「いまさらなに言っている」
「本当に感謝しているのさ。僕が今こうして幸せなのは、雲山のおかげだ」
「そうか?」
「そうだよ。知らなかったのかい?」
それから霖之助がぽつぽつと語ったことは、普段、雲山もあまり聞いたことのないことだった。
「僕はもう、この先一生幸せにはなれないと思っていたんだ」
「何を大げさな」
「大げさだけど、そう思ってしまっていたのさ。魔法の森のうらぶれた店で、一生孤独にすごすのだろうとね」
「この場所に店を構えたのは、お前自身だろうに」
「もちろんそうさ。だけど僕は、逃げていたんだ。人と触れ合って、傷つくことにね。その勇気をもう一度振り絞らせてくれたのが、君さ、雲山。あの時君が僕の泣き声に気づいていたら、僕は今頃どうしていたろう。ふとそう考えることがあるんだ。君への気持ちを隠し続け、もしかするといつかそれが重荷になって、また逃げ出したのではないかとね。そうなれば、僕はもう完全な世捨て人さ。次は、どこか山奥にでも引っ込んでいたのかな――」
霖之助の独白は、この後一日中続いた。
雲山は途中からはもう疲れてしまっていて、霖之助の言葉が、『くぅんくぅん』と甘える子犬の鳴声のように聞こえてしまっていたが、耐えた。霖之助の、時折みせる弱気なところ。自分がそれを受け止めずに他の誰が受け止めるのか、そんな意地があったのだった。
翌日になると霖之助の体調も随分と持ち直して、二人は空へ散歩をした。
雲山は霖之助を背中にのせながら幾分かぐったりとしていた。一日中語りごとを聞かされ、それは夜中まで続いた。もちろん霖之助の愚痴交じりの語りを聞くのが嫌なわけでないのだが、えんえんと一方的に聞き役にまわるのは苦痛である。それに、はじめこそ可愛げがあると思えるものの、霖之助のふがいない口ぶりに、疲れた雲山は苛立ちを感じないでもなかったのである。
(どうもやはり、霖之助には軟弱なところがある。もっと自信をつけさせてやりたいが――)
雲山は、霖之助にもっとまっすぐに生きてほしい。人里で食事をした折にみせたような颯爽とした姿を、いつも見ていたいのだ。
(生理が落ち着いたら。――そうだ、その時こそまぐわおう。全身で愛して霖之助を安心させてやろう。二度とあんな愚痴を言わずにすむようにな)
疲労からくる苛立ちと、霖之助を守ってあげたいという使命感が、雲山のしなびた男根を幾分か奮い立たせている。
二人が空中散歩を始めてしばらくのときだった。
二人が見下ろす地上の一角に、何人かの雑魚妖精がいた。妖精たちは二人に気づくと、ねぇあれ、と声を掛け合って、皆して視線をむけてくる。
『お、あれが噂の二人か』
というような、好奇の視線を感じる。このようなことはしばしばある。
『噂のゲイ・カップル』
といった念が、時には露骨に伝わってくる。
雲山も、もはやそれくらいであれば気には留めなくなっている。いちいち視線に反応していては、身が持たないのだ。
それになりより、目の前で霖之助が輝いていてくれるから、自分を抑えてくれるから、そちらに目を奪われるのである。が、この日は違った。霖之助はまだ本調子ではなく、輝くどころか、霖之助までが、それらの視線を気にしているようだった。
「あのような妖精たちまで……わずらわしいものだな」
苛立ち混じりに、雲山がうめいた。いつもであれば霖之助がそれを軽くなだめる場面である。が、今日は違った。
霖之助はうつむきがちに視線で周りをうかがった後、弱弱しく顔を上げて、そして雲山にへつらうような笑顔を見せて、こういったのだ。
「すまない」
その一言が、雲山の脳髄の奥の奥にまでしみこんだ。そしてそれが自分の怒りの中枢に触れたのを、雲山は感じた。噴火はすぐには起こらなかった。が、大爆発の予感は、はっきりと体の奥にあった。
「――なにを謝る」
「……」
霖之助は、答えなかった。それは多分、謝るべきことは何もないのだと、本当はわかっていたからなのだ。それでも謝ってしまったのは、つまり、霖之助の弱気の表れなのだろう。
そして雲山は霖之助のその態度に、明確なメッセージを読み取った。
――申し訳ない。僕がゲイだから。僕が雲山を好きだから、雲山まで、変な目で見られてしまう……
「……!」
その瞬間、雲山は自分の血液が沸き立つ音を体中に聞いた。
体内のたけりとは裏腹に、雲山はゆっくりと、それこそ幽鬼のような静けさをともなって、後ろを振り向いた。
「雲山?」
雲山が瞳に火をともして、霖之助に言う。
「帰るぞ。霖之助」
「へ? ま、まだ散歩をはじめたばかりじゃないか」
「散歩なんてどうでもいい。今すぐ戻ろう」
「いったいどうしたんだ」
雲山はもうじれったくなって、突然に方向転換をし、飛んできたそらを猛スピードで戻り始めた。
「ちょ……どうしたんだ!?」
霖之助は振り落とされそうになりながら、必死に雲山の背中にしがみつく。
「おい、危ないじゃないか」
雲山は荒い鼻息を一つはいて、無言の返事を返す。
「雲山……怒ってるのかい?」
「そうだっ」
「たしかにじろじろみられるのはさ……気持ちはわかるけど、けど」
霖之助がまとはずれなことを言った。
雲山は噛みつかんばかりの調子で霖之助の言葉をさえぎった。
「違うっ。ワシが気に食わんのは霖之助おまえだっ」
「えっ……?」
霖之助は本気で戸惑ったような顔を見せる。それがまた、雲山の癇に触るのだ。
「お前はさっき『すまない』といったな。あれはなんだ、何に謝ったのだ」
霖之助はハッとした。
「そ、それは……」
それきり、霖之助はもう何も言わなかった。
雲山は少しだけ安心した。霖之助もやっぱりわかっている。けれどそれだけではまだ、腹の煮えるのは収まらなかった。
雲山は速度を緩めず、魔法の森の上空を香霖堂へむけて飛ぶ。霖之助はときおり気まずそうな視線を雲山の後頭部に向けながら、うつむいていた。
香霖堂の店内にもどると、雲山はがちゃりと店の入り口のかぎを閉め、『閉店』の札をおろした。それから霖之助の手を引っ張って、奥の間へとむかった。奥の間は、寝室兼居間の質素な8畳部屋。
雲山はその畳の上にいま、雲山は仁王立ちになっている。部屋の入り口で立ちすくんでいる霖之助に向けて、雲山はきっぱりと言った。
「霖之助、こっちきて、服ぬげ」
「なに!?」
「裸になれと言っている」
「阿呆を言わないでくれ。なんで裸にならなくちゃいけない」
雲山は叫んだ。
「まぐわうのだっ! 今からここで!」
霖之助は絶句したあと、呆然としたようすで首を左右に振った。
「う、雲山の頭がおかしくなった……」
そういうと、霖之助はその場から逃げ出すようなしぐさを見せた。
雲山が飛んだ。一瞬にして人がから雲となり、霖之助を煙のようにして包み込む。そしてそのまま霖之助を持ち上げ、部屋へと無理やりに引きずりこんだ。
「逃がさんぞ!」
「何をする、離せ!」
宙に浮いた足をばたつかせる霖之助。
雲山は霖之助をくるんだまま部屋の中央まで移動し、そしてそのまま畳の上に霖之助を転がした。
「ぬう、痛いじゃないか……って、おい雲山!? 何している!?」
雲山は、普段は陰部に漂わせている濃い雲を、霖之助の目の前でかき消してしまった。
「雲山……」
霖之助は畳にへたりこんだまま、唖然とした表情で雲山の荒々しい益荒男を食い入るように見詰めている。雲も、皮も、一切をまとわず、それはそこにあった。
雲山は勢い良く腰を左右に振った。
「どう、興奮する?」
「雲山、ああ、雲山……あなたは時々ほんとにまったく……むちゃくちゃだ!」
「さあ、霖之助も早く脱げ」
「やめてくれ」
雲山は霖之助に近づいて、その肩に手をかけた。
「やめてくれといっている! 僕だって怒るぞ!」
「怒ってるのはこっちのほうよ!。すまない、だなんて、もう二度と言わせんぞ! 霖之助と私は今ここでまぐわうんだ。性行為をするのだ!」
雲山は両腕で、霖之助につかみかかった。そして、強引に上着を脱がそうとする。
だがさすがに霖之助もだまってはいない。
「いいかげんにしてくれ! もう怒ったぞ! この大馬鹿やろう!」
雲山の腕をつかみ、自分から引き剥がそうとする。雲山の肉体は霖之助のそれよりもはるかに強靭である。が、霖之助も負けてはいない。二人は畳に倒れこんで、くんずほぐれつに絡み合った。
「そうよ怒れ! 怒ってるほうが、ずっとましだ! 何が「すまない」よ! このゲイが!」
「うるさい! 僕がどれだけ苦労してきたかも知らないくせに!」
「知っている! 昨日たんまりきかされた!」
「う……」
霖之助がしまった、という顔をして一瞬動きを止める。その隙に雲山は霖之助の上着に手をいれた。
「あっ、お、おいっ」
雲山は完全に服のしたに腕を入れていたから、霖之助が多少抵抗したところで、もうどうにもならなかった。無理に抗えば、服が破れてしまう。今の雲山はそんなことは気にしないだろう。雲山は下着ごと霖之助の上着を一気にめくりあげた。無理やりに万歳の格好をさせられて、顔まで服をめくりあげられる。霖之助の薄い胸板と、茶色がかった乳首があわらになった。
霖之助は両腕を衣服にからみとられ、顔も覆われて、もがいている。雲山はその隙に、霖之助のズボンを剥ぎ取った。やぶれてしまってもかまわないというくらいに力をこめてひん剥いた。霖之助が多少膝をばたつかせたが、力まかせにズルリと引きずりおろした。
「こらー!」
雲山は続いて霖之助の顔と両手を覆っている衣類を無理やりに剥ぎ取る。
だがもうすでに、霖之助はふんどし一丁の半裸であった。
霖之助は顔をわなつかせて、怒鳴った。
「このっ、このっ、変態!」
「ふん! ゲイに言われたくないわ!」
「こ、こんにゃう!」
霖之助は爪をたてて雲山につかみかかった。雲山に体ごとぶちあたり、畳の上にひっくりかえす。だが雲山も負けてはいない。覆いかぶさってきた霖之助の腰を両足でかにバサミして、横にころがしてやろうとする。霖之助は両足をひろげて、必死にバランスをとる。霖之助に絡みついた腰を力点に、上半身をなんどもばたつかせた。
「そうよ! 霖之助はゲイなんだ! ゲイらしくワシをむさぼれ!」
「勝手なことばかりいうな!……うおっ」
霖之助は姿勢を崩されて、横向きに転がされてしまう。そこを、雲山が押さえ込んだ。両肩とまたの間に腕を回して、いわゆる横四方固めを決める。
「同性愛者はこういうことが好きなんだろう! かつて山奥でなんども見たぞ!」
「ゲイと色情狂を一緒にしないで! そんなのは一部の好き者がやっているだけだ!」
スパァン! と霖之助がかろうじて自由に動く腕で雲山の背中をたたいた。人型でときに皮膚を直接にたたいたのだから、結構な音が部屋に響く。霖之助は力任せに、もう何度もパチィン! パチィン! と平手打ちを叩き込んだ。
「くぅっ!」
雲山の顔が苦悶にゆがみ、腕から力が抜けた。霖之助はその隙を見逃さず、雲山の体を振りほどき脱出する。
「はぁ、はぁ、ふぅ、ふぅ」
互いに膝立ちになって、両腕を広げ、相手がいつ飛び掛ってきてもいいように待ち受ける。
「はぁ、はぁ、雲山、やめてくれ。もうこんな馬鹿なこと、くだらない」
「ふっ、ふっ、くだらなくなんか無い。ワシは決めたぞ。ワシのすべてをもってして、霖之助を満足させてやる。ゲイの喜びを味合わせてやると」
「はぁ……? って、うわっ」
雲山が再び霖之助につかみかかる。つかみかかるというよりは、タックルだった。姿勢を低くして、霖之助の骨盤のあたりに肩をぶつける。そしてそのまま、霖之助のふんどしを下ろしにかかった。
「ふぉっ」
と霖之助が寒気に震えた悲鳴を漏らす。
「このっ、離せっ」
霖之助はふんどしが下ろされないように必死にひっぱりあげる。霖之助の今日のふんどしはド派手な赤である。それが上下に無理やりにひっぱられ、雲山はその隙間に、霖之助の白銀の陰毛を覗いた。
「このお!」
と霖之助が再び雲山の背中をたたいた!
スパァン!
いい音が響く。雲山の背中は霖之助の目の前におしげもなく広げられているから、たたき放題だった。
スパァン! スパァン! とたたくたび、雲山の白い背中がだんだんと赤くなっていく。
だがそれでも、雲山は霖之助のふんどしから手を離さなかった。
歯を食いしばりながら、雲山がうめく。
「……霖之助。ワシが自信をつけさせてやる」
「何のだっ」
「オトコとして――ゲイとしてのだ!」
雲山は何度たたかれても霖之助のふんどしを離さなかった。すると霖之助は、このままではらちがあかないと悟ったのか、突然手を伸ばし、雲山の引き締まった大殿筋に、グワシを決めた。
「ぬぉっ」
唐突に襲い来るでん部への刺激に、雲山の体が硬直する。霖之助はそのまま体重を前にかけて、雲山を押しつぶした。
「ぐえ」
雲山の頭は、霖之助のおへその辺りに下敷きになった。しかし、雲山と霖之助にはかなりの体格さがある。雲山がその気になれば、いつでも霖之助をひっくり返すことができたはずだ。が、雲山はそうしなかった。
雲山の背中の、鼻骨からでん部の割れ目のうわつきのあたりに、霖之助の荒く激しく生ぬるい鼻息があたった。
雲山は観念したような声で言った。
「……さぁ、そのまま喰らえ。むさぼりつけ」
畳に頬を押し当てながら、雲山は言った。
「ワシとまぐわいたかったのだろう。いかようにも、せい」
「こんな風にしたって、嬉しくない」
パチィン!と霖之助が雲山の尻を平手打ちする。
「ええい! いいかげん叩くのをやめろ! 痛いだろうが!」
「だったらさっさと正気に戻ってくれ!」
「霖之助こそ、何ぜためらう! ワシとまぐわりたかったのだろう!?」
「こんなわけのわからない状況でできrか。しかも生理中だぞ僕は!」
「血ぐらいなんじゃ。それぐらい飲みほしてやる!」
「やめてくれ! 気持ち悪い!」
霖之助はなんども何度も雲山のお尻をたたいた。
雲山はジンジンとした痛みに耐えながら、けれどお尻を逃がすことはしなかった。しだいに痛みはきえ、ジィンジィンとした熱さがお尻に広がる。それでも雲山は、一切の抵抗をしなかった。
「霖之助、後生だ。ワシのケツを舐めてくれ……」
「おい、それは場所によっては侮辱の言葉だろう……」
雲山は哀願した。
「ワシはな霖之助――お前のかような姿はもうみとうない。今の自分を悔いて、弱々しい笑みに逃げて、『すまない』などという言葉をはくところを、みとうないのだ」
「雲山……」
「霖之助、お前はゲイなのだ。そんな自分に誇りを持て。誇りをもってワシを喰らえ……ありのままの自分を受け入れろ。ワシは霖之助と共にありたいのだ。霖之助がゲイであろうと、なんだろうと。周りにどんなことを言われたて、霖之助はいつもまっすぐでいて。そんなお前がワシは好きじゃ。『すまない』などと口にしてワシらの関係を侮辱するな」
「……」
霖之助の手が、優しく雲山の尻をなでた。
「わかった、わかったから。ありがとう。雲山の気持ちはよくわかった」
「じゃあ、こい」
「雲山はそればっかりだ……」
「……ワシはな、ほんとはまだ恐ろしいのだ」
「え……」
「早く霖之助とほんとうのゲイ・カップルになってやりたいのに、なかなか足を踏み出せぬ。だから、こうやって怒って、怒って、やっと勇気をだしているのだ。だから、早く……」
「急ぐこと、ないのに、僕は――」
「――ええい! なさけないやつっ」
雲山は怒鳴った。それは、今また霖之助にやさしい声をかけられれば、なえてしまう自分の気持ちを理解していたからだ。
「こいと言うとるのだから、はやくせい!」
霖之助は、何かを躊躇するように、二度三度、深く呼吸をした。そして、
「……わかった」
霖之助の声が、急に重くなる。雲山はどきりとした、霖之助が気持ちを切り替えたのを、その声に感じたからだ。
「言っとくが、僕は容赦しない」
「……それでよい」
「ずっと我慢してたんだから」
「そうだ。もっと素直になれ。助べえめっ、言え!」
雲山は己の会陰に、霖之助の指が触れるのを感じた。ぎくり、と腰が震える。
「こんな姿勢なんだから……ふぐりであろうがあんであろうが、すべて見えてしまうんだからな」
「……っ」
でん部の割れ目に、霖之助の吐息が吹き付けられるのをはっきりと感じた。
待たれよ――そう口から漏れそうになるのを、雲山は必死に耐えた。下半身の何もかもが、霖之助の目の前にあらわになっている。霖之助の熱い視線が、自分のまたぐらに突き刺さるのを、雲山は敏感に察知した。体の奥から、未知の衝動が突き上げてくる。
「霖之助ぇーっ」
悲鳴の変わりに、雲山は小さくそう呻いた。
どこかから、妖精たちの遊ぶ声が聞こえてくる。
魔法の森の片隅の、薄暗くほこりっぽい香霖堂。二人はそこで今、生まれたままの姿で身をよせあっている。畳に寝転がり、しみのついた天井を見るでもなく見上げている。
自分がいまどこにいるのか、どんな姿でいるのか――雲山にはそんなことはどうでもよかった。霖之助が体内の中に残していった余韻だけが、今雲山の感じるすべてだった。
「雲山」
霖之助がそっと頬をなでた。
「唇がまだ、しびれているよ」
雲山はその手を握り、頬ずりをする。
「ワシもだ。お前は――接吻が好きすぎる」
「お、お互い様だろう……あっ……痛っ」
雲山の握っている霖之助の手が、こわばった。
「腹が痛むか?」
「うん……少し、きたみたい。もう、出ないとは思うけど……」
「冷やしてはいかんな」
「そうだね。そろそろ服を……って、雲山?」
「ワシが暖めてやろう」
仰向けになている霖之助の、そのお腹のあたりに、雲山は向かい合うようにして体をかぶせた。
「霖之助、足を開け」
「あ、ああ」
霖之助のまたぐらに体をいれ、おへそのあたりを枕にするようにして、抱きつく。少し顎をひいて、はぁ、と暖かい息を吹きかける。
「あたたかい?」
「うん、すごく。雲山の体はたくましい」
雲山は呼吸にあわせて何度も何度もいきを吹きかけた。
その後頭部を、霖之助がやさしくなでる。その手にこしょこしょとウナジをくすぐられるたび、さわさわとした電気が、雲山の背中に走る。
「考えてみれば、肝心なときはいつも、雲山が僕の背中を押してくれる」
「……ふ」
「告白のときも、今もそうだ。僕はおびえてばかりだ」
「……たしかにそうだな。だが、それでよい」
「そうだろうか?」
「霖之助は若い力でワシを抱いてくれた。お前が怖気づいたときは――この老いぼれが無い力を振り絞るさ」
霖之助の手が伸びてきて、ぐいと雲山の顔をだいた。
雲山は霖之助の相棒に顔を寄せて、二人の汗がまざった匂いと、かすかな海の香りを感じながら、ゆっくりと眠った。
あなたなりの情熱の発露として、あの作品の焼き増しを二つも投稿することに至ったのだと思うが、これは奇行だと思う。
共同の発表場所を、すこし私物化してしまっているのではないだろうか。
同じようなテキストを立て続けに投稿するのは、荒らしだと言われても仕方がないと思う。
どっちも同じ位気持ち悪いのに。
まだ読んでおりませんので
わからないのですが。
こういった作品も
面白かったです。
ちょっとえっちなかんじでしたが
それも
よかったりと思ったり。
次も期待しております。
ごめんなさい。本当ごめんなさい。思いつきで行動する、馬鹿なのです。経験則でしか学べない、馬鹿なのです。以後つつしみます。
>>4
生理学的な問題かなと思います。
>>5
ありがとう
ございます
次は
焼き増しでは
ありません
ので
ぜひご拝読を
>>6
ギャグです
自己パロっていうか、良くコントとかである「~の場合」って
感じのギャグみたいな感じに受け取っているんですが
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/ /
 ̄ ̄ ̄
男主人に降られて
>男主人に振られて
たまないよ。
>たまんないよ。
「おい、危ないざないか」
>「おい、危ないじゃないか」
さすがに誤字が多いです…アッー♂
前回のいくてんは改変あったからこそのものだと思っていました
ただの焼き増しなら途中で読むのやめてました。
雲山がイケメンなら…どうしても髭面が思い浮かんだのでこの点数でorz
和解を申し入れます。金でなんとかなりやせんでしょうか
>>11
そういってもらえるとホッとします
>>12
ごめんなさい。たぶん、スパンキングはしそうにありません。でも、期待にこたえられるようがんばります。
>>14
二作目なら、まだ二作目なら、生暖かい目で受け入れてもらえたかもしれないんでしょうか
>>15
あざっす!
>>19
全俺が泣きました。
>>20
前衛的パンツレスリング大好きです。すんまそん。
>>21
指摘ありがとうございます。
前回のを認めてもらえるような発言があると、嬉しいです。
雲山はイケメンというよりはやっぱりおやっさん押忍ってきな魅力の持ち主だと思います。
>>25
もともとあっしなんざブレまくりの半端者でござんす。投稿するたびに、読んでもらえるだろうか、評価いてもらえるだろうか、
と赤ちゃん人間もびっくりなくらいにビクビクしてござんす。
いいぞ、もっとやれ
てかゆかれいむを所望したの私ですが、待ってますよ。超待ってますよ。もう全裸待機ですよハァハァ
バカでしたー!(迫真)
ゆかれいむ、喜んでもらえればいいのですが。
>>29
雲山にするか妖忌にするか迷いました。妖忌にすると妖夢周りの言い訳が面倒くさくなるので、雲山になりました。一輪ェ……
>>31
つまらんと思われてしまったなら、いまさらもう言うことはない……のだけど、今回ばかりはさすがに説明せにゃならんような気もする。
そうですね……たまにはメンズガンガンの世界に触れてみたかった、というとこでしょうか。作者が面白かっただけですね、はい。読んでくださる方の気持ちを、やはりあまり考えれていなかったというのが、申し訳ないです。
>>32
やってしまいましたわあ
すまぬ、すまぬ
>>38
その変は微妙なとこですね。フェロモンの関係で汗有にほうが良いという人もいますし、やっぱ臭いという人もいますし。
え、私ですか?点数を見てくださいな
随分批判する人がいるみたいですね
でも読者を楽しませようとする姿勢さえ崩さなければいくらでもGO!!じゃ、ないですか~?
だが、男に生理は無い。絶対www
でも、こーりんの告白でコーヒー吹くかと思ったわこのヤロウ!!
ありがとうございます。そういっていただけると。
>>40
楽しませようとする姿勢以上に、我欲が前にでてしまったSSだと思っています。その懺悔として(?)全レスをば・・いやこれも自己満足ですが。
>>41
ありますよ! だって女でもシャセイするもん!
>>44
そこが一番の見せ場かもしれません。
>>45
やぁすませーん
と、根性で真剣に読んでましたが流石に生理の下りで吹いたw
そこは改変してもいいんじゃないのっ!?
ギャグと言い切ってくれたので救われた気分ですwww
話自体は良かったのでこの点数で。
どっちも同じ位素晴らしいのに。
キモい
だが、もう少し練っても良かったんじゃないかなって思ったよ。
タイトルで内容は予測出来ましたが前書き(?)で注意書き書いといた方が良かったんでは?パンツレスリング知らん人もいるでしょうしゲイを受け付けない人にはキツい内容ですし
他の方のコメントで別作品の焼き増しと知りましたが知らずに読み始めた私には謎展開過ぎたのでこの点数で
レズ作家はおとなしくレズだけ書いてろ
題名見ればどんな作品か大体分かるし……読みたくない人は読まなければいいよ。
賛否両論だけど個人的には有り、ギャグとして。
同じような展開ってのも同一作者がやるなら別にいいし。
ただ文章長いからちょっち飽きるね。
生理のくだりは痔のことですよね?
ギャグといったな……あれは嘘だッ!!!
>>50
ほんとすいません。視力0.00いくらの節穴アイです。
>>52
わ、和解の方向でなんとか、その
>>53
やはり当人が男か女かの問題ではないかと思われます。
>>56
信者が本当にいてくださるなら、それは嬉しいことです、が。そんな人いないですよorz
>>57
すみません。精進します。
>>59
そうですか……単独作品としてはなりたっていないのですね。私の技量不足です。すみません。
>>60
レズ作家と認知していただいてるようです。はい。
>>61
一目につくとこにおいてる以上は、私にも一定の責任(?)はあるのでしょう。難しいです。
>>63
そうかもしれません。でも、評価してもらえるとやっぱり嬉しいです・・・。
>>64
ガクブルでした。そういう理由での、見苦しい全レスです。
>>65
MPためる時間をください!
>>66
ありがとうございます! やっぱり、読んでくださる方に、まいど同じ文章を投げてよこすのは失礼にあたりますよねorz
>>67
かつてはマイナス点があったと聞きます。このSSがどうなっていたことか。。。
>>68
まちがいなく生理です。幻想郷の男妖怪には不思議穴があります。
百合モノしかないような、百合しか認められないようなこの界隈に一石を投じるSSでした。
いやー面白かったwww
かわいそう。
正直にがっかりした
何の意味もない一石ですね! ごめんなさい……。
>>74
どうかなー期待してないんじゃないかなー!w
……ほんと、よけいなことしてますよね……すみません。
>>78
お、おうぅ……ごめん
>>81
お脳がダメになりましたれす……面目なし
>>83
妊娠厨にランクアップ(ダウン)しました。許されたし・・・
>>84
なしにすべきは今作かもしれません。ほんと……orz
>>88
こーりんタグつける価値があるのか迷いました……o..rz
>>89
本当に、なくてよかったです……すんません
>>90
時間を無駄にさせてほんと……申し訳ない……
>>91
おお!? 待ってます!
近いうちに咲レミor美鈴投稿しますのでそちらもよろしくお願いたします。
宣伝。
他の読者の人には、ページ読みづらくさせてしまって申し訳ないです…。
こんなSSを作ってしまうんなんてまったくすごい!
後書きからもこのSSへの熱意が伝わってきました。お疲れ様です。
このSSはとても興味深かったです。
「はじめての本格的♀ガチレズパンツレスリング」のストーリーはそのまま、
キャラクターを男に変えただけなのに、自分の印象が180度違っていましたから。
「はじめての本格的♀ガチレズパンツレスリング」のラストには、
KASAさんの妙手に感心しながら抱腹絶倒していたのですが、
一方、「はじめての本格的♂ガチムチパンツレスリング」のラストには、
「うわっ…、こんな展開でセックスしちゃうの…?」と冷めた気持ちで一杯でした。
原因は、多分男性が女性よりも自分を顧みる視点に近いからなのでしょうか…。
男性同士のSEXの描写(息を吹きかけるとか、尻を撫でるとか)を、どちらかの男性に感情移入して読むと、
汗のべたつきとか、髭のざらざら感とか、硬い筋肉とかリアルな感触が、
思い浮かんできて、「そんなムサイ男とセックスなんてしたくない!」と嫌悪感が湧きます。
せめて、お風呂に入ってからセックスしてね……。という感じでした。
ところが、これが女性同士だとこういった汚らしさ?を自分は感じない。
「かわいいかわいい」という満足感だけを抱きます。異性には幻想的な脳内補正がかかってるのでしょう。
「自分は女性をまず性的対象としてやっぱり見ていて、男にはそうじゃないんだなー。」と
再確認させられて、とても興味深かったです。
結局このSSは好きになれませんでしたが、
このSSから伝わってくるKASAさんの挑戦的態度は好きです。
このようなガチムチSSを投稿して、コメント欄で罵倒されることはKASAさんも予想していたでしょう。
にもかかわらず、投稿してしまう酔狂なあなたは素敵だ!
「私達の眼球キッス」「優しいあの子はへの香り」を読んだときにも感じた、KASAさんの意欲的な姿勢と
KASAさんのほぼ全てのSSから伝わってくる、クレイジーな情熱、精力をこのSSでも感じることができました。
それを感じるたびに思うけれども、あなたはすごい!やっぱりあなたのSSはおもしろい!
このコメントの100点はKASAさんの作風への100点ということで!
ところで、このSSの感想から脱線しますが、KASAさんって目と耳がすごい良いですよね。
文章の中にさりげなく散りばめられた、登場人物の振る舞いや部屋の小物とかを、
凄いリアルに書いてるなぁ、と常々感心しています。
それらの描写を読むと、「あ、こういうことある!」とか「こういう人いるいる!」と
思わされて、空想がバーーーっと広がります。すごい観察力だと思う。
例えば、(例をあげだしたら本当にきりがないけれど…)
「人恋し長野の神様」での酔った神奈子の台詞は、酔っ払いの論理展開そのものだし、
寝相を変えて顔をそらして耳をそばだてる早苗にはとても共感して緊張します。
「現代巫女のレズビアンナイト」に出てくる豪胆な神奈子と慈愛に満ちた諏訪子は、
そのまんま、一人娘を持つ親父とおふくろの姿でしたよ。違和感を感じない一貫した二人の人物描写には感心しました。
「幽谷響子のアーリーライスヤッホー」で風にあおられて上手く飛べない早苗の描写の部分では、
それを読んだだけで、早苗の風貌や、皺や、つるつるしてやせこけた肌が目に浮かぶようでした。
最近圧倒されたのは、「無明キス流れ」の最後のキスシーンを「ふぶー」という
言葉で表現したことですね。大量の言葉の中で、あえて「ふぶー」をチョイスしたセンスには恐れ入りました。
ああいう状況を「ふぶー」の一単語だけで表現できるなんてすごすぎる!
……などなどなど、こういう描写は話の展開には必要ないけれど、物語がすごいふくらんで、
読みながら場面を思い浮かべるのが、本当に楽しいです。ありがとう。
そして、KASAさんのSSが、エンターテイメントをいつも重視している所も自分の好みです。
どんなに話が脱線してクレイジーなっても、必ずハッピーエンドに終着させているし、
読者を息切れさせないように、展開もどんどん切り替えてますよね。エッチでおもしろおかしいお話ばかりです。
「まず楽しんでもらおう!」という気持ちが前面に出てるようで、それが好印象です。
かといって、マンネリを感じないところも良い。いつも話の展開は新鮮に感じます。
読んでいるうちに、「一体自分をどこに連れてってくれるのだろう!?」とわくわくしますよ。
「はじめての本格的♀ガチレズパンツレスリング」で、蓮子とメリーがスパァン!スパァン!とやりはじめた時や、
「幽谷響子のジャパニーズシリコダマヤッホー」でにとりと椛が尻子玉を取り合った時には爆笑しました!
自分の想定を遥かに超える世界へ、KASAさんのSSは連れてってくれて、それがたまらなくおもしろい。妙手ですね。
KASAのSSは自分の予想は裏切るけれど、期待は裏切らないSS達でした。
最後に、KASAさんの最も感心する点が、物語の中での女性の取り扱い方です。
KASAさんのSSの中の少女はかわいい。だけど、さらにうんこしたり、おならしたり、毎朝鏡の前で髪型を確認したり、服装を気にしたり、しわが増えたりもする。
これらの俗っぽさが、すごく良いです!
幻想的な百合やBLにはないリアリティがあると思う。「はじめての本格的♀ガチレズパンツレスリング」で、
蓮子が「ゲイと色情狂を一緒にしないで! あんなのは他人がおもしろおかしく大げさに言ってるだけに決まってるじゃない」と叫びましたが、
こんな台詞を言わせることができるのは、二次創作界隈広しと言えど、KASAさんだけじゃないでしょうか。
普段の生活で何気なく持つ、不安や憧れ、独占欲や同情、という所から出発して、相手への愛情に達していくのが、とても共感がしやすいです。
また、エッチはエッチでも、無責任でもなく狂ったようにでもなく、責任感ある二人が互いに愛し合う物語なのもGOOD!
百合や男性向け18禁にはリアリティがなくて、ないからこそ楽しいのだけれど、似たような話が多すぎるかなぁ…と最近、不満に思っていました。
こういう作品での女のキャラクターが、男の願望を様々な角度から組み合わせた「合成獣」に見えて魅力を感じないんです。
男の支配欲満々のエロファンタジーにやや食傷する中で、
無責任でも狭量でもナルシストでも無能でもない二人がお互いに気持ちいいセックスをしている二次元エロを探していました。
そんな中で、KASAさんの話に出会えて、とても嬉しかった。KASAさんの話は清々しいし、愛にあふれている!
特に「すごい!」とうなされたのは、「誰がために乳は出る」と「搾乳の天子」でした。
「誰がために乳は出る」は、授乳に伴う神秘や、信頼感、強い結びつきをしっかりとえぐりだしてたと思います。
たいてい、エッチなお話に「おっぱい」が出てくると、話の展開は「そのおっぱいが、いかに大きいか、または小さいか。」とか
「おっぱいがやわらいか。乳首がうんぬん…。」とかソッチ系の話に突入してしまいがち、だと思います。
けれども、このSSでは、授乳する時の安心感とか、相手への信頼感とか、母が子にだけ与える特別な気持ちを上手に表現していたと思います。
もう、とても感心しました。
現実の世界でも乳兄弟は血縁関係のある兄弟よりも結びつきが強いらしいですし、その結びつきの強さを良く表現できていたと思います。
その技術が本当にすごい。KASAさんは、女性に対してのイメージというか姿や所作についての引き出しが本当に豊富ですね。
「観察力」と「エンターテイメント性」と「色情狂じゃないゲイ」の3つが、KASAさんの圧倒的な個性だと思いました。
これらが、自分のハートのど真ん中を貫いてて、もう興奮する。どうかこれからも精力的に活動なさってください!
あー!こんな長文になってしまい申し訳ない!
最後に、一つ質問しても良いですか?KASAさんは作品をどういう
風に作っているのでしょう?
どうやったら、こんなにも女性らしい女性を描くことができるのか知りたいです。
また、ちょっとエッチで楽しい展開なんてどうやったら思いつけるのでしょうか…!?
もし、参考にしたり、真似をしたり、影響を受けている作品があるなら、それを是非知りたいです…。
つまるところ、KASAさんの(ような)物語をもっと読みたい!
KASAさんのSSを読んでから、KASAさんっぽい物語を見つけようとしているのですが、梨のつぶてです。
「荊の城」、「乳と卵」、「ひとりずもう」とか名作を一通り目に通しているのですが、どれもKASAさんとは違ってるみたいで…。
小説に限らずゲームや演劇などから発想を受けていたりするのでしょうか?
作品だけでなく個人への称賛のコメントは、誰もが見れるこういう場所に書くべきではないけれど、
他の伝達手段を持っていないので、こんなところに。えーと、メルアド記載すべきかしら?→しときましたが…。
KASAさんがドン引きであれば、このコメント消去しますね。
日付守らなくてごめんなさい。スケジュール守れないのはダメダメです、すみません。
素晴らしい作品達をどうもありがとう!そして、これからもどうぞお元気で!
これからも挑戦的でクレイジーなKASAさんでありますように。
こんな長文コメント描くなんて……、なにやってんだろう…グフ。
励みになります。
調度、別の作家さんのSSを読んで、その作品のあまりの完成度にちょっと筆を
折られかけていましたので。(何を大げさなとは思われるでしょうが……orz)
余計にありがたかったです。
>KASAさんって目と耳がすごい良いですよね
>空想がバーーーっと~
評価していただいて本当にうれしいです。
そうあるように書ければいいな、となるべく心がけていた点です。
個々の作品についてもたくさんコメントを下さって、本当に感謝しています。報われる気分です。
文章も下手で、話の組み立てもいまひとつで……と書くたびにへこむなかで、こんな風にたくさんの
感想をいただけたということは、そのSSを好きになってもらえたんだなと思えて、とてもうれしいです。
>女性に対してのイメージというか姿や所作についての引き出しが本当に豊富ですね
これについてはそんなことないです。過去に読んだり見たりしたいろんなことをぼんやりと思い出している、てな感じです。
あとは、精一杯の妄想です、それにつきますw
ただ、いわれてみるとそういえば中学生のころ演劇部でしたね……なんか影響あるのかなぁ?
作品を作るときも、やっぱり精一杯の妄想です。
カップリングをさせたいキャラを考えたり、自分がこうあってほしいというような何かを
考えて、あとはそれを実現させるための話を考え、それがすんだら、それぞれのキャラクターに
やってほしいこと、させたいこと、そして、あとは会話やしぐさを精一杯妄想です。
ただ2012年からの作品は、話を作ろう作ろうとするあまり、自分が何をしたかったかを忘れがち
になっているように思います。そのために魂がこもっていないように感じています。
今書いているSSからはそれをもう一度取り戻そうと四苦八苦しているところです。
また、見かけたら、読んでやってくださいませ。
私っぽい物語をさがされてるということですが、世の中の名作にそんなものを求めない
でくださいw 私個人の妄想にすぎませんので、並べて考えられると恐ろしいですw
参考になるかわかりませんが、最近、目指したいなーと思ったのは、
藤村流さんの「ダブルヘッダー(蓮メリ18禁)」です。18禁に抵抗がなければ、どうぞごらんになってください。
影響(?)を受けてるといえばやっぱり有名どころの百合作品でしょうか。
マリみてがたぶん百合の原体験で、上記にあがってる「荊の城」もやっぱり読みましたし、
百合wikiなどでちょいちょいと探して読んだ覚えがあります。
平然と百合できる精神はそのあたりで培われたかと。
あまりたいしたことは言えませんが……クレイジー目指してがんばります!
*念のためhotmailアドレスをのせてあります。
コメント等ありましたら、次はそちらにお願いいたします。