眠る支度をしていたレティの避暑地の扉がドンドン、とやかましく叩かれる。
「レティさんいますかー?」
「はいはい、いますよーっと」
その声を聞いたレティは薄く笑みを浮かべると優しく扉を開けた。
「レティさん、春ですよー!」
「だから私はもう寝るのよ?」
扉を開けた途端、ぶわっと心地好い風が部屋に舞い込む。そして立っていたのは、春を告げる妖精、リリーホワイト。
にこにこと陽光のような笑顔を浮かべ、レティを見つめている。
「何のご用かしら?貴方の笑顔が眩し過ぎて、私はもう溶けちゃいそうよ」
「あは、そんなに褒めないでくださいー」
そして浮かべる笑顔は太陽の如く輝かしい。レティが本当に溶けてしまうんじゃないかと錯覚すらしてしまう程だ。
「寝ていた私の枕元にチョコレート置いてくれてありがとうございますー」
「……あぁ、そういえば置いてたわね。お口に合ったかしら?」
「はい、とってもおいしかったですー」
リリーの言うチョコとは、二月の十四日、つまりはバレンタインデーのチョコレートの事だ。
「本当は直に受け取りたいんですけどー、冬は寝てる時間がどうしても増えちゃってー……」
「それはお互い様でしょ。私も、もう寝る所だし」
春の妖精であるリリーと、冬の妖怪であるレティ。それぞれ、得意な季節以外はほとんど活動しない。
故に顔を合わせるのは、冬から春への移り変わりのこの時期が大半を占める。
「なら、寝る前にちょっぴりお話しませんかー?」
リリーは外を指差し笑う。
レティもそれに無言で微笑み返した。
幻想郷に積もり積もった雪も、暖かな陽光で少しずつ溶けている。
雪解け水で悪くなった山の地面を、二人の人影が並んで歩く。
「それでチルノったらね、『だったら蛙じゃなくて巫女を凍らせてくる!』だなんて言い出すのよ。その後、ボロボロで帰ってきたんだけど」
「あは、やっぱりあの子は面白いですねー」
仲よさ気に歩くリリーとレティ。
並んでいる二人はあと少しで手と手が触れ合いそうな距離。
「う~……しかし、いい天気ね。……ちょっぴり辛いわ」
「ごめんなさいー、私が起きたから春まっしぐらなんですよー」
空を見上げ、その日差しに渋い顔をするレティ。
「別にリリーが謝ることじゃないのよ。いつまでも春が来ない、なんてことになったらまた異変よ」
「そうですねー。私も春が来ないのは寂しいですしー」
二人で微笑んだ後に訪れる静寂。
しかしそれは決して苦痛を感じるものではなく、二人にとっては心地好いもの。
「……少し、休みましょ?」
レティの提案にリリーは笑顔で頷き、木陰に腰掛ける。
「うっひー、地面が湿ってますー」
「あら、私はこの位が好きだけど?」
結局、レティだけが腰を下ろし、リリーは木に寄りかかるだけで座らなかった。
「リリーは」
唐突に口を開いたレティは、「はいー?」と首を傾げるリリーを見た後に続ける。
「私のこと、好き?」
「はいー、好きですよー」
すぐに返ってくる答え。
「じゃあ、レティさんは私のこと好きですかー?」
「えぇ、好きよ」
こちらもすぐに返ってくる。
「……私達、両思いですねー」
「そうね。両思い」
「…………あはは、両思いですかー」
「ふふふ、両思いねぇ……」
あはは、ふふふ、と二人は顔を見合わせ笑う。
「何をやってるのかしらね、私達は」
「そうですねー、お馬鹿さんですー」
「毎年少ししか話せないんだから、もっと他に話すことあるでしょうに」
「世界情勢の話とかー」
「する?」
「やですー」
一言一言を楽しそうに、彼女達は話す。
まるで幸せがそこにあるかのように。
「ところでレティさんー」
リリーはぴょんと跳ねると、レティの前に立つ。
日の光を背にした彼女の顔はレティからは見えないが、きっと笑っているのだろう。
「何かしら?」
「今日は何の日か分かりますかー?」
「……今日って何日?」
「もー、三月十四日ですよー」
唇を尖らせ、自分で「ぷんぷん!」と言うリリー。
何故怒っているのか分からないレティは首を傾げ、今日が何の日か考える。
「……仏滅?」
「違いますよー!それに仏滅だったとしても特に話題に取り上げませんー!」
「じゃあ友引?」
「六曜はもういいですからー!」
「じゃあ、えぇと……」
頭をかくレティに、リリーはしゃがんで視線を合わせる。
「……レティさん、これボケですかー?」
「これがボケとして面白いんだったらそれでも良いわ」
「…………ホワイトデーですよー、ホワイトデー」
「……あぁ」
本気で納得したレティを見て、リリーは溜め息をつく。
「レティさん、バレンタインデーにチョコくれたのに忘れてたんですかー?」
「忘れてたわ」
「言い切りますねー……」
「まぁ、いいですー」とリリーは仕切り直すように言うと、姿勢を膝立ちへと移行してレティとの距離を詰める。
「リリー?」
「レティさんからチョコ貰いましたしー、私もお返しをしたいんですよー。だけど私はチョコ作れませんしー、レティさんが春眠しちゃう前に他の物を用意する時間も無いですしー……」
「良いのに、そんなの気にしなくて」
「そうもいかないですよー。だからー」
リリーはレティの両肩を掴むと、ぐっと顔を寄せる。
「不束者ですが、私の気持ち受け取ってくださいー」
そう言うと、レティが唇を動かす前にリリーが動いた。
肩を掴んでいた手をレティの頬へと移動させると、そのまま額に優しく口付けをした。
それから彼女達にとっては何時間とも感じるような数秒が流れた。
リリーはそっと額から唇を離すと、赤い顔でレティを見た。
しかしレティの方はいつもと変わらぬ顔色で、リリーを見つめ返すだけだ。
「貴方も結構大胆ねぇ」
「余裕の表情ですねー!?」
「あら、さっきも言ったでしょ?私はリリーが好きだから」
「ううー……レティさんには敵いませんー……」
赤面で俯くリリー。白い服なのでその赤さはさらに際立つ。
「でも、素敵なお返しだったわ。ありがとう」
そう微笑むレティを見て、リリーは唇を尖らせる。
「ずるいですよー。そんな顔でそんな事言えるなんてー……」
「これが大人の女性の余裕ってものよ」
「参りましたよー……」
「それじゃ、私は春を告げに行きますー」
「私は春眠を貪る事にするわ」
レティの避暑地前にて。
相変わらず太陽のように笑うリリーは恥ずかしさも大分薄らいだようだ。
「それじゃー、そのうちまた会いましょうー」
「あ、ちょっと待ってリリー」
「何ですかー?」
「ちょっといらっしゃい」
手招きに従うがまま、リリーはそばに駆け寄る。
と、一瞬。無防備なリリーの頬にレティは軽い口付けをした。
冷たいその感触に、最初は訳が分からずに戸惑い、その後音がしそうなぐらい一気に赤くなる。
「お仕事頑張ってね」
「は、はは、はいーっ!」
リリーは飛び上がると、大きく息を吸い叫んだ。
「春ですよー!私の心が春ですよー!」
「リリー!流石に恥ずかしいから止めて!」
「レティさんいますかー?」
「はいはい、いますよーっと」
その声を聞いたレティは薄く笑みを浮かべると優しく扉を開けた。
「レティさん、春ですよー!」
「だから私はもう寝るのよ?」
扉を開けた途端、ぶわっと心地好い風が部屋に舞い込む。そして立っていたのは、春を告げる妖精、リリーホワイト。
にこにこと陽光のような笑顔を浮かべ、レティを見つめている。
「何のご用かしら?貴方の笑顔が眩し過ぎて、私はもう溶けちゃいそうよ」
「あは、そんなに褒めないでくださいー」
そして浮かべる笑顔は太陽の如く輝かしい。レティが本当に溶けてしまうんじゃないかと錯覚すらしてしまう程だ。
「寝ていた私の枕元にチョコレート置いてくれてありがとうございますー」
「……あぁ、そういえば置いてたわね。お口に合ったかしら?」
「はい、とってもおいしかったですー」
リリーの言うチョコとは、二月の十四日、つまりはバレンタインデーのチョコレートの事だ。
「本当は直に受け取りたいんですけどー、冬は寝てる時間がどうしても増えちゃってー……」
「それはお互い様でしょ。私も、もう寝る所だし」
春の妖精であるリリーと、冬の妖怪であるレティ。それぞれ、得意な季節以外はほとんど活動しない。
故に顔を合わせるのは、冬から春への移り変わりのこの時期が大半を占める。
「なら、寝る前にちょっぴりお話しませんかー?」
リリーは外を指差し笑う。
レティもそれに無言で微笑み返した。
幻想郷に積もり積もった雪も、暖かな陽光で少しずつ溶けている。
雪解け水で悪くなった山の地面を、二人の人影が並んで歩く。
「それでチルノったらね、『だったら蛙じゃなくて巫女を凍らせてくる!』だなんて言い出すのよ。その後、ボロボロで帰ってきたんだけど」
「あは、やっぱりあの子は面白いですねー」
仲よさ気に歩くリリーとレティ。
並んでいる二人はあと少しで手と手が触れ合いそうな距離。
「う~……しかし、いい天気ね。……ちょっぴり辛いわ」
「ごめんなさいー、私が起きたから春まっしぐらなんですよー」
空を見上げ、その日差しに渋い顔をするレティ。
「別にリリーが謝ることじゃないのよ。いつまでも春が来ない、なんてことになったらまた異変よ」
「そうですねー。私も春が来ないのは寂しいですしー」
二人で微笑んだ後に訪れる静寂。
しかしそれは決して苦痛を感じるものではなく、二人にとっては心地好いもの。
「……少し、休みましょ?」
レティの提案にリリーは笑顔で頷き、木陰に腰掛ける。
「うっひー、地面が湿ってますー」
「あら、私はこの位が好きだけど?」
結局、レティだけが腰を下ろし、リリーは木に寄りかかるだけで座らなかった。
「リリーは」
唐突に口を開いたレティは、「はいー?」と首を傾げるリリーを見た後に続ける。
「私のこと、好き?」
「はいー、好きですよー」
すぐに返ってくる答え。
「じゃあ、レティさんは私のこと好きですかー?」
「えぇ、好きよ」
こちらもすぐに返ってくる。
「……私達、両思いですねー」
「そうね。両思い」
「…………あはは、両思いですかー」
「ふふふ、両思いねぇ……」
あはは、ふふふ、と二人は顔を見合わせ笑う。
「何をやってるのかしらね、私達は」
「そうですねー、お馬鹿さんですー」
「毎年少ししか話せないんだから、もっと他に話すことあるでしょうに」
「世界情勢の話とかー」
「する?」
「やですー」
一言一言を楽しそうに、彼女達は話す。
まるで幸せがそこにあるかのように。
「ところでレティさんー」
リリーはぴょんと跳ねると、レティの前に立つ。
日の光を背にした彼女の顔はレティからは見えないが、きっと笑っているのだろう。
「何かしら?」
「今日は何の日か分かりますかー?」
「……今日って何日?」
「もー、三月十四日ですよー」
唇を尖らせ、自分で「ぷんぷん!」と言うリリー。
何故怒っているのか分からないレティは首を傾げ、今日が何の日か考える。
「……仏滅?」
「違いますよー!それに仏滅だったとしても特に話題に取り上げませんー!」
「じゃあ友引?」
「六曜はもういいですからー!」
「じゃあ、えぇと……」
頭をかくレティに、リリーはしゃがんで視線を合わせる。
「……レティさん、これボケですかー?」
「これがボケとして面白いんだったらそれでも良いわ」
「…………ホワイトデーですよー、ホワイトデー」
「……あぁ」
本気で納得したレティを見て、リリーは溜め息をつく。
「レティさん、バレンタインデーにチョコくれたのに忘れてたんですかー?」
「忘れてたわ」
「言い切りますねー……」
「まぁ、いいですー」とリリーは仕切り直すように言うと、姿勢を膝立ちへと移行してレティとの距離を詰める。
「リリー?」
「レティさんからチョコ貰いましたしー、私もお返しをしたいんですよー。だけど私はチョコ作れませんしー、レティさんが春眠しちゃう前に他の物を用意する時間も無いですしー……」
「良いのに、そんなの気にしなくて」
「そうもいかないですよー。だからー」
リリーはレティの両肩を掴むと、ぐっと顔を寄せる。
「不束者ですが、私の気持ち受け取ってくださいー」
そう言うと、レティが唇を動かす前にリリーが動いた。
肩を掴んでいた手をレティの頬へと移動させると、そのまま額に優しく口付けをした。
それから彼女達にとっては何時間とも感じるような数秒が流れた。
リリーはそっと額から唇を離すと、赤い顔でレティを見た。
しかしレティの方はいつもと変わらぬ顔色で、リリーを見つめ返すだけだ。
「貴方も結構大胆ねぇ」
「余裕の表情ですねー!?」
「あら、さっきも言ったでしょ?私はリリーが好きだから」
「ううー……レティさんには敵いませんー……」
赤面で俯くリリー。白い服なのでその赤さはさらに際立つ。
「でも、素敵なお返しだったわ。ありがとう」
そう微笑むレティを見て、リリーは唇を尖らせる。
「ずるいですよー。そんな顔でそんな事言えるなんてー……」
「これが大人の女性の余裕ってものよ」
「参りましたよー……」
「それじゃ、私は春を告げに行きますー」
「私は春眠を貪る事にするわ」
レティの避暑地前にて。
相変わらず太陽のように笑うリリーは恥ずかしさも大分薄らいだようだ。
「それじゃー、そのうちまた会いましょうー」
「あ、ちょっと待ってリリー」
「何ですかー?」
「ちょっといらっしゃい」
手招きに従うがまま、リリーはそばに駆け寄る。
と、一瞬。無防備なリリーの頬にレティは軽い口付けをした。
冷たいその感触に、最初は訳が分からずに戸惑い、その後音がしそうなぐらい一気に赤くなる。
「お仕事頑張ってね」
「は、はは、はいーっ!」
リリーは飛び上がると、大きく息を吸い叫んだ。
「春ですよー!私の心が春ですよー!」
「リリー!流石に恥ずかしいから止めて!」
各季節を象徴するキャラ(秋姉妹、レティ<チルノ>、幽香、リリー)は、二次ではよく対立させられていますが、
彼女たちがみな仲が良ければ、とても素敵だな、と思います。
いやしかし、この二人はとてもいいですね。
良かった