・その1
ここは幻想郷のとある場所、そこには少女が2人いた。2人でなにやら話をしている。
その少女らには他とは違う特徴を備えていた。
頭に生えた角、そして口から除く小さな牙、それは少女らが鬼だということを指し示している。
小さな方の鬼、伊吹萃香は唐突に疑問を投げかけた。
「なあ、嘘ってどう思う」
「いきなりなんだ?」
そう答えたのは、同じく鬼の星熊勇儀。突然の問いかけに困惑した。
鬼という種族は嘘を嫌う、別に嘘をついたからといって死ぬわけではない。死ぬわけではないが、嘘をつくことを鬼は嫌っている。勇儀もその例に漏れず、嘘をついたことはなかった。
「いや、勇儀は嘘ついたことあるのかなぁって、ちょっと気になっただけさ」
萃香は勇儀の疑問に対して答える。
「嘘ねぇ・・・ 私はついた覚えはないねぇ。
あーでも、間違いということでの嘘ならついたことはあるかもな」
「間違いとしての嘘? それはどんな嘘だい」
「例えば、萃香に道を尋ねられたとする。目的地はそうだね、神社とでもしておこう か・・・
そして目の前には2本の道があり左右に分かれている、右に行けば神社に辿りつく。 だが、左に行くと神社ではなく魔法の森へ行ってしまう」
「ほうほう」
萃香は相槌を打つ。
「ここで私が間違って左を指す、そしてそのままオマエさんは左に行ってしまうわけだ。
そうして間違って道を選んだ結果、目的地の神社へは辿り付けなかった。
さて、ここからが本題だ。嘘をつくつもりはなかった、だが私は正しくない道を教えてしまった。はたして本当のことを言わなかった私は嘘つきになるか?」
萃香は考える。『正しくないこと=嘘』であろうか・・・
嘘字という言葉がある。これは書き順や実際にはない文字のことを指す。だがこの嘘字というのは正しくないという意味であって相手を貶めるとかそういった類のものではない。ならば、この場合もそうだだろう。
「それは嘘とは云わないんじゃなかろうか」
萃香は少し考えたあと、自分の考えを述べた。
「何でそう思う?」
「それはだね、この場合結果としては間違った道を教えることになってしまったが、本当は正しい道を教えようとしたんだろ。つまり相手を騙そうとしてやったことじゃないからそれは嘘とは云えないんじゃないか」
「なるほどね、そういう意見もあるな」
「ほう? じゃあ、勇儀はどういう意見なんだい」
「いや、私も同じ意見だな。だが昔、同じような質問をしたことがあってね。それはこちらの都合であって、道を尋ねた人は相手が間違って教えたなんて事情は知らない。 つまり、道を尋ねた側からすれば相手が騙そうと思って嘘を教えたと思って仕方が無い、そう言ったのさ。つまり、そいつは嘘つきだ、そう言ったのさ。
ちなみにそいつは地霊殿の橋の近くに住んでいる・・・」
「ああ、あいつか。誰だかわかったよ」
萃香は勇儀の指す人物が誰かわかった。
「つまり、何が言いたいかというとだな・・・
今まで嘘をついたことはないが間違ったことを言った、という意味での『嘘』ならついたことがあるかもしれん」
「ここまで来るのにずいぶんな回り道をしたねぇ」
そう言いながら萃香は瓢箪に口を付ける。
「うーん、つまり勇儀は相手を騙すとかそういった嘘はついたことないのかぁ」
「そうなるな。私も鬼だったということさ」
「実はね、私は嘘をついたことがあるんだよ・・・」
萃香は言った。
「鬼にとって嘘をつくということがどういうことかわかっているだろ。
なんでまた嘘なんて?」
勇儀は困惑した。
「昔のことなんだけどね、どうしても嘘をつかなくてはいけない事態になってしまってね。1度だけついてしまったことがあるんだ。いや、回数は関係ないか・・・」
萃香が嘘をつかなければいけない状況とはいったいどれほどのことがあったのか、勇儀は考えた。
昔、私が山にいたころのことだ・・・
私たち四天王は人間と戦った。そして萃香はあわや退治されるという事態にまで陥ってしまった。その時、嘘をつけばその状況を乗り越えられるという場面が訪れた。
だが、萃香は嘘をつかなかった。結果的には萃香は窮地を脱し、事なきを得たのだが、一歩間違えれば殺されていたかもしれない。だが、萃香は嘘でその場を乗り越えるより、鬼として嘘をつかないという選択をした。
あの時、萃香の選択は正しかったか今でもわからない。だが、私も同じ状況に置かれたら同じ行動を取っていただろう。
その萃香がだ、嘘をついた。嘘をつかねばならぬ状況とはいったいどんなものか、勇儀にはまったく想像がつかなかった。
「わからないな、嘘をつくことをよしとしないおまえが嘘をついたなんて」
「ああ、聞いてくれ。あれは私が幻想郷に来る前の話だ・・・」
伊吹萃香は語りだす。
・その2
※昔の文章で書かれているのを現代文に訳したものです
私、国衛門は旅の途中で立ち寄った楽郷という村での出来事を思い出した。
それは風の強い日であった、日が沈んだので今夜はこの村に泊まることにした。
村人は私を見ると一様に目を伏せた。それもそうだろう、私は今まで何人もの人を斬ってきた。外見も恐ろしい、我ながらそう思う。
することがないので呆けていると、僧が訪ねてきた。私はその僧のことを知っていたので、僧を中に招き入れた。
何事かと問うと、この私に頼みごとがあるらしい。
なんでも村の子どもが夜な夜な布団を抜け出し、妖怪と一緒に遊んでいるらしい。そして、子どもは日を追うにつれ弱っているみたいなのだ。
相手は妖怪である以上、農民では対処しきれない。そこで旅の途中でこの村に立ち寄った武士である私に白羽の矢を立てた、というのが僧の話である。
子どもは夜な夜な布団を抜け出し、そして朝方になると戻ってくる。その夜のことを尋ねても子どもは覚えてないらしく、無自覚のうちに家を抜け出しているというのだ。
不思議に思った家の者が後をつけてみると、子どもとあまり変わらない年の少女が子どもの前に姿を現し、一緒に遊びはじめたで。少女は見知らぬ者で暗くてよく見えなかったが、どうやらこの付近の住人ではなかったようだ。後をつけた家の者いわく、人間の姿はしているが、どうも人間ではないらしい。少女は空を飛んだという、なるほど空を飛ぶ人間などいないだろう。
朝になると、少女はどこかへと去り、子どもは家に戻っていったそうだ。その時のことを尋ねてみると、その時のことは一切覚えてないと言う。覚えてないならこれ以上追求するわけにもいかず、その話はいったん終わった。
その後も同じようなことが続き、子どもの体調は日に日に悪くなっていった。
このままではマズイ、というところでこの私が村に来た、というのが今までの出来事だという。
しかし、今までいくつもの国を渡り歩き数々の盗賊や武士を斬ってきたが、さすがに妖怪までは斬ったことはない。
だが、思うことがあったのでその頼みを引き受けることにした。
私はその妖怪と遊んでいるという子どもの家を訪ねてみた。
子どもは10歳前後の男子だろうか、妖怪に取り憑かれているのかやはり顔色が悪 く、体調も悪そうだった。
こんな年端もいかない子どもをこんな目に合わせるとは・・・
沸々と怒りが腹の底から湧き上がるのを感じた。
・その3
私、国衛門はその夜、例の子どもの家に泊まることになった。子どもが抜け出すとしたら夜中、ここに居れば見張ることができると思ったからだ。当初は子どもが家を抜け出すまで何日でも留まるつもりであったが、思惑は外れた。
夜、気配がしたので目を覚ますと、子どもの寝床を確認するともぬけの殻であった。布団はまだ暖かかった、どうやら家を出て時間はそれほど経ってないようだ。刀を持って外に出る、辺りを見渡す。見当たらない、村の外も探してみたが一向に見つからない。どうやら見失ったようだ。
朝になり仕方がないので家に戻ると、子どもは布団でぐっすり眠っていた。これはいったいどういうことだ、抜け出していなかったのか。昨日のことを問いただしてみても覚えてないと言う。しかし私にはわかる、この子どもは嘘をついている。だが、これ以上聞いても何も喋らなそうだったので、これ以上詮索することはやめた。外に出た子どもの後をつけ、何をしているかを見れば一目瞭然。今夜こそ何をしているのか突き止めてやろう、そう思った。
その次の夜、昨日のような不覚を取らないように私は起きていることにした。またもや物音がしたので、子どもの部屋へ向かった。今まさにその瞬間、子どもは家を出るところだった。私は気付かれないように後をつける。村を出て川沿いに下っていく、いったいどこまで行こうというのか。10分ほど歩いただろうか、子どもは立ち止まった。
子どもの周りに霧がただよっていた、やがてその霧は子どもを中心に集まっていき、ついには人の形となった。私は目を疑った。何もない空間からいきなり人が現れた、それは少女だった。手に持った瓢箪、手首に巻かれた鎖、子どもより少し低い身長、多少変わった格好だが村に住む少女だと思った、ある部分を除けばだが。そのある部分とは頭から左右に2本生えている角、少女が人間ではないと判別できる十分な要素だった。 頭から角が生えているといえば、そう鬼だった。
・その4
突然だが私は妖怪が嫌いだ、妖怪が憎い。
妖怪なんてこの世からいなくなればいい、そんなことを思っている。それは私の辛くて思い出したくもない過去によるものだ。
あれは私がまだ子どもの頃の話だったか、今では剣豪として名を馳せているが、当時はまだ刀も握ったことのなかったただの小僧だった。いや、その当時私はただの農民であって、今のように刀を下げて全国を歩き回るなんてことはまったく想像もできなかった。
村に妖怪が現れた。村人たちは一致団結し、妖怪に立ち向かった。全員必死だった。妖怪なんかに勝てない、村を捨てて逃げるべきだとかそんなことは誰も思わず、死に物狂いで戦った。私は物陰に隠れて大人たちが戦う姿をただ見ていた、妖怪が怖くてとてもじゃないが戦う気にはなれなかった。
そして妖怪に勝った。妖怪は命乞いをした、腹が空いたので村で食べ物を分けてもらおうとしただけだ、だから許してほしい、と。もちろん村人の大半は反対した、村人の中に死傷者こそ出なかったものの、許しておけばまたいつ襲ってくるかわかったものではないというのが村人の意見だった。
しかし、村の僧は妖怪を助けるべきだと言った。困った時は人間や妖怪に関係なく助け合うべきだ、もちろん村を襲ったことは許されることではない。だから、妖怪を許す代わりに二度とこんなことをしないと約束させた。食べ物が欲しかったら分けてやる、だから村を襲うことはしてならない、そう提案した。
村人達は僧の意見を尊重することにした。妖怪のやったことは許せない、しかし僧は妖怪と約束をし、妖怪もそれを守ると誓った。村で慕われている僧に免じて村人は妖怪を許した、妖怪も僧と村人の慈悲に深く感謝をして去っていった。
それから何ヶ月か経った。私は隣の村に用事があったので僧と一緒に村を離れた。村と隣村はけっこう離れていて、着いたのは夜遅くだった。私は用事を終えて帰ろうとしたが、もう夜も遅く、危ないということでこの村に泊まった。
翌日、雨が降った。僧は雨が降っているからと今日も村に止まることにしたが、私は一足先に帰ることにした、妙な胸騒ぎがしたからである。私は急いで村に向かった、雨が強かったがそんなことは気にもとめなかった。
村へ着いた。いや、正確には村だった場所だ。木や家は倒壊し、まるで台風が過ぎ去った跡のようだった。家が倒壊している状態なので視界を遮る物はなかった。
目の前にいたのは、先日村を襲ったが僧の慈悲によって許されたあの妖怪だった。
「おまえ、何をしているんだ! もう村を襲わないって約束したじゃないか」
私は叫んだ。
妖怪はこちらに気がついたようだ、視線をこちらに向け言った。
「こちらだって襲うつもりはなかった。私はただ村人に食料を分けてもらうように頼んだのだ。しかし、村人は食料をこちらに渡すのが惜しいのか、出し惜しみした」
「そんな馬鹿な。おまえに食料を渡すぐらいの余裕はあったはずだが」
「そんなことは知らない。とにかく先に約束を破ったのはおまえたちだ。
だから、こちらもそんな約束を守るつもりはない!」
妖怪はそう言いながら近づいてくる。
「ちょうどいい、おまえもついでに食べてしまおう」
妖怪はこちらに手を伸ばす。
「な」
なんということだ・・・
私はすべてを理解した。
妖怪の食料は人間だったのだ。村人が食料を渡さなかったわけだ、村人がみすみす妖怪に食べられるのを認めるわけがない。それを拒否した妖怪はここの村人を食べたのだ。
このことがわかっていれば、あの時妖怪を退治していただろう。だがもう遅い。
あの時、僧の意見を無視していればこうはならなかったか。しかし、僧を恨むつもりはなかった・・・
そして私はあの時死んだ・・・
・その5
それは、幻想郷ができる前のできごとだった。当時、伊吹萃香は、楽郷という村の周辺に住んでいた。
萃香はそこで村の子どもと仲良くなった。きっかけは何だったろう、今となっては覚えていない。
子どもは昼間、村で仕事をしていたので、夜に会うことが多かった。子どもは鬼である私を怖がらなかった。色々な話もした、妖術を見せた、とにかく色々なことをして遊んでいた。
この奇妙な友情を萃香はとても心地良く思い、それがずっと続けばいいと思っていた。
しかし、それは長くは続かなかった。
村で子どもが妖怪に憑かれて夜な夜な布団を抜け出している、という噂を耳にした。妖怪というのは私のことだろう。
だが、憑かれているという部分は納得できなかった。布団を抜け出して会いに来るのは子ども意志、誰に強制されたわけではない。しかし、そのことを私が主張しても無駄だろう、妖怪である私の言葉に耳を向ける者はいない。
子どもに、もう会いに来るなと言ったこともあった。しかし、子どもはその提案を受け入れず、会うのをやめることはなかった。
これ以上私と会うことで子どもは村と孤立するのではないか、とり返しの付かなくなる前にこの地から去ろう、そんなことを考えていた。
そんな時、旅の途中でこの村に立ち寄った国衛門という武士が鬼退治をするという噂を聞いた。
私はこれを好機と思った。鬼を退治に武士が出てくる、ここまで大事になれば子どもは事態を重く受け止め、去りやすくなるのではないか、と。私は鬼だ、嘘が嫌いだ。その武士に正直に事の顛末を話せば、相手もわかってくれるだろう。そう考え、そのことを説明しようと考えていた。
その夜も私は待ち合わせの場所で子どもと会っていた。少しして、例の武士が姿を見せた。武士を見る。萃香は武士が普通の人間とは決定的に違う部分を見つけた。
その武士は生きていなかった。もちろん実際に死んでいるわけではない、生きながら地獄に落ちた、そんな印象を抱かせる。これではどちらが妖怪かわかったものではなかった。
「今日はもう家に帰りな、あれを見たらわかるだろう。これから少しばかり面倒なことになるからね・・・」
そう言って、子どもをここから遠ざけた。ここにいては危険だ。
「さて、おまえさんが私を退治しに来たのかい?」
「ああ、そうだ」
男は口を開いた。
「それはちょうどいい、私は今日を最後にここから去ることにしたのさ」
「それはどういうことだ?」
男は聞き返す。
「私はね、子どもには悪いことをしたと思っているんだ。妖怪である私と遊んでいたばかりに、村の人から避けられる。それは望ましくないことだ、だから今回のことを機 にこの地を去ることにしたのさ。安心しなよ、もうこの地を訪れることもないし、子 どもに会うこともないさ」
「そんなのが信用できるか!
そう言って、私がここを去ったあとにまた戻ってくるんだろう」
「私は鬼だ。鬼というのは嘘が嫌いな種族でね、一度言ったことは曲げないよ」
「だから、どうした。そんなのは口でなんとでも言える」
男は萃香の言うことをまったく信用していなかった。
萃香は考える、どうして目の前の男は私の言うことを信用してくれないのか。鬼が嘘を嫌うという話は、人間の中でも常識になっている。ならば、男がその常識を知らないのか。
どうもしっくりこない。萃香は男が地獄を見てきたような風貌を加味して、ある結論を出した。
「おまえさん、過去に嘘を付かれたことがある。それが原因で人生が変わったね?」
「な、何を根拠に、そんなことを言う!?」
どうやら図星のようだ。この男は過去に嘘を付かれ、そのことが人生に影響を与えたのだろう。
「ああ、たしかにそうだ。私は過去に嘘を吐かれて、その結果、大事な家族や友人を失ったのだ。
しかも、おまえら妖怪にな!」
男は語った、子どものころに村を妖怪に襲われたことを。その時はその妖怪を許したが、後日、その約束を妖怪は破り、村を襲ったこと。そしてたまたま村を留守にしていた自分と僧しか生き残らず、僧に育てられ、成人を機に村を出て全国を旅していたことなどを萃香に語った。
「どうだ、これで私が約束を信じない理由がわかっただろう。ましてや、妖怪の言うことだ、信じられないに決まっている!」
男は声を荒らげた。
「なるほどね、それが理由か。人を信じられなくなる理由もわかったよ。
だが、もう一度だけ信じてみないかい?」
萃香は思う。男は今まで誰も信用することなく生きてきたのだろう。そして誰からも理解されず、誰にも心を許すことがなかったに違いない。
それはとても悲しいことだ、だからこの悲しい流れを断ち切りたかった。
「断る! 誰も信じられないと言っただろう」
ダメだ、やはり何を言っても聞いてもらえない。それもそうだろう、私と男は今会ったばかりだ、そして私は妖怪だ。どう考えてもうまくいくはずがなかった。
ならば、どうすればいい・・・
私が妖怪に退治されるか? いや、それでは何の解決にもならない。男は私を倒しても、救われることはなく、またどこかへ旅立っていくだろう。もちろん、私もむざむざ退治されるわけにはいかない。
「ふふ、受けいれてもらえないか・・・
ならば、この場はいったん退散させてもらうよ。
明日の夜も私はここに来るからねぇ。怖気づいていなければ、またここに来るといいよ」
「逃げるのか、卑怯だぞ!」
男が叫んだ時には萃香はもういなかった、叫び声だけが夜の闇に空しく響いた。
「さて、子どもと武士、どっちも救わなきゃね。難しいことだ」
・その6
伊吹萃香は考えた、どうすればあの男は自分を信じてくれるか。先ほどの会話を反芻する、何か手がかりはないだろうか・・・
「そういえば」
萃香は男と一緒に村から離れていて難を逃れた僧のことを思い出した。たしかあの惨劇のあと、その僧に育てられたと云った。もしその僧が生きているならば、男のことを少しでも知ることができるかもしれない。そこに何かしらの手がかりがあるかもしれない、ならばそこから手をつけるか。
「さて、例の僧の名も知らないし、どこから手をつけたらいいかわからないな」
いい考えだと思ったが、早速行き詰ってしまった。
さてどうしたものかとひょうたんに口をつけて酒を飲もうとして上を向く、すると空を飛んでいる1人の妖怪が目に入った。
「あれは・・・」
その目が捕らえたのは、かつて山にいたころ鬼の支配下にあった天狗だった。
萃香は天狗に近づき声をかけた。
「おい、そこの天狗。ちょっといいかい?」
「何ですか、今は忙しいので後に・・・
・・・って鬼、鬼だぁ~」
天狗は驚いて少し高度を下げる。
「そう、鬼だよ。忙しいとことちょっといいかな?」
「は、はい。いったいなんでしょう?」
天狗はオドオドしている。
「ん? 見たことのある顔だねぇ。おまえさんはたしか、白狼天狗の犬走椛じゃないかい?
私を覚えてないかな、鬼の四天王の伊吹萃香って言えばわかるかな?」
そういって自身の特徴でもある腕に巻かれた鎖やひょうたんを見せる。
「伊吹萃香様でしたか、すみません気がつかずにこのような態度を取ってしまって。
それと下っ端である私のことを覚えていただけなんて、光栄であります」
「いや、いいんだよ。最後に会ったのは何十年も前だからね。
それより、様をつけて呼ぶのはやめてくれないか。なんかムズムズするんだよねぇ」
そう言って萃香は左右に手を振る、それに合わせて鎖もじゃらじゃらと鳴った。
「萃香様相手に呼び捨てなんてことはできません、勘弁してください」
萃香は椛の言葉に反応し、クスっと笑った。様の次は呼び捨てか、この子は少々変わった子だなぁ、そんなことを心の中で思った。
「まあ、様は他人行儀だねぇ。せめてさん付けくらいにしておくれよ」
「では、萃香さん。お久しぶりです、どうしてこんなところに? ここは人間の里ですが、こんなところになんか用でもあるんですか?」
「ちょっと困ったことになってねぇ。そんな時におまえさんを見つけて、思い出したんだ。天狗には犬走椛という『千里先まで見通す程度の能力』ってのがいるってね、そ したら運のいいことに」
「私だったというわけですね」
椛は萃香の説明に補足する。
「それで私の能力を利用したいわけですよね、どんなことをお望みですか?」
「それはだな・・・」
萃香は今までの経緯を説明した。
「なるほど、それで育ての親である僧を見つけたいと、たしかに私の能力はうってつけです。しかし、いくつか問題があります」
「問題、いったいどんな?」
萃香は首をかしげる。
「まず1つ目、その僧の顔や名前がわからないと探しようがありません。いくら千里先を見通せたとしても、素性の知らない相手を捜し当てることなどできっこないです。
それから2つ目、その僧が生きているかどうかわからないところです。さすがに死んでいる相手までは探すことは無理です。
そして最後に3つ目、仮に生きていたとしてもおおよその位置を掴めないと探索できません。この場合はおおよその方角ですね、例えば相手が西にいるとき、千里眼を東 に向けて向けては探し当てることは難しいでしょう」
椛は己の千里眼がけっして万能ではないことを述べた。もっともその条件さえ満たしてしまえば、見つけることはたやすいとも取れなくはない。
「なるほどねぇ、どの条件も満たしてないや」
「ですが、どうにもならないわけではありません。妖怪が村を襲って全滅させた、これは十分ニュースになりえる事件です。恐らく当時、新聞沙汰になったに違いありませ ん。
そして事件といえば・・・」
「はいはい! 事件といえば、毎度お馴染み、清く正しい射命丸文であります!」
2人の会話に割って入ってきたのは、『文々。(ぶんぶんまる)新聞』の記者である射命丸文であった。
「椛が遅いので様子を見にきたら、なんとなんと、一緒にいたのは鬼の伊吹萃香さんではありませんか、ビックリしましたよ。あやややや!」
「久しぶりだねぇ。まだ新聞作ってたんだ、調子はどうだい?」
「おかげさまで新聞もそこそこ売れてますよ。
それで妖怪が村を襲った事件でしたよね」
「そう」
「私が記事にした事件にした記事でいくつか心当たりがありますね。
山に戻ればその新聞も見られます」
一緒に来てくれませんかと文は云った。
そして3人は妖怪の山へ行くことになった。
「ふう。やっぱり、自分の家というのは落ち着きますね」
そう言って文はイスへと座った。
「そうですか? 家と仕事場が一緒というのはオフの時でも仕事をしているようでなんだか落ち着かない気がしますが・・・」
「それがいいんですよ。新聞記者というものはいつ何時でも新鮮なネタにとびつけるようにしなければなりません。たとえオフの時でも常に情報が入ってくるようにしてい ます」
鬼にはとても勤まりそうにないな、萃香は思った。
「それで記事のことですが」
そう云って文は数部の新聞をこちらへ寄こした。
「妖怪が人間を襲うなんてことは日常茶飯事なのでニュースにはなりませんが、村を全滅させたとなると話は別です」
そうなるともうトップ記事ですよ、そう云って新聞を広げてみせた。
「ええと、全部で3部ありますね。この中で事件の概要と一致する記事は・・・
この記事じゃないですか文さん」
そう言って椛は1番手前の新聞を指差す。
「ええ、おそらくこの記事でしょう」
「ん~、何々? 妖怪が陸村を襲い村人ほぼ全滅か。難を逃れたのは村にいなかった少年と僧のみ。確かにこれだね」
そこには当時の村のことや村の被害などが書かれていた。
「生き残った少年の名は国衛門、これはあの侍のことでしょう。村都というのが僧の名前のようですね」
一同はその文章を目で追いかける。
「妖怪の襲撃から運よく逃れた2人はその後、以前から親交があったとなり村、楽郷村に住むことになる」
楽郷ですか、どこかで聞いたような、そう云って文は自分の額に手をあてた。
「今回の事件が起きた村の名前だよ。なるほど、この武士はこの村で育ったんだね」
それならば妖怪退治に協力したのも納得がいく。
問題は今もこの村にその僧がいるかですね、と椛が云った
たしかにそのとおりだ。そもそも生きてすらいないかもしれない。人間の寿命というのは短い。
「顔がわからないはいけませんね。この当時はまだカメラというものはここにありませんでしたからね」
「それでも小さい村だ、村都という僧侶がいるかと尋いて回れば簡単に見つかるだろ う」
「そうですね、それじゃあ皆で探しましょうか」
椛の提案に文と萃香はうなずいた。
・その7
「当時のことをいろいろ思い出していくうちに、どんどん記憶が甦ってきてねぇ。話がどんどん長くなっていってすまないねぇ」
そんなことはない、そう云って勇儀は話を続けるように促した。
「その僧侶を探すだけでまた話が長くなりそうだね。だから、手短に話すことにする よ。
それじゃあ行こうかってところではたてがここを訪ねてきたんだよ。
ああ、はたてっていうのは姫海棠はたてという名前の妖怪の山に住んでいる鴉天狗 だ。かかし年報、花果子って字を当てるんだけどね、そこの記者をやっていて、どう やら射命丸とはライバル関係だと、椛が言ってたよ」
「へー、そんな新聞があったのか」
と、相槌を打ったのは勇儀。
「うん。
彼女は『念写する程度の能力』で望んだ写真をカメラに自在に写す能力を持っているんだ」
「なるほど、便利な能力だな。その能力を使って村都という僧を念写したんだな?」
「いや、それがダメだったんだよ」
萃香は首を横に振った。
「ダメ? どういうことだい」
「その『念写する程度の能力』というのはだね、既存の写真しか念写できなのさ。つま り、すでに誰かによって撮られた写真、そういったのを彼女のカメラに念写するそう だ。村を全滅した当時はカメラなんてものはなかったからね、能力は役に立たなかっ たんだなこれが」
ガハハハハ腹を抱え、勇儀は笑い転げた。
「なんだいそれは、今のくだりは完全にいらなかっただろう」
「スマンスマン、本題に戻るとするよ」
「んで、そのはたても仲間に加えて村中を探したのさ」
鬼の姿の私は姿を小さくして、椛のポケットに入り様子を伺っていた。元々人間の容姿に近い天狗は少しの変装をするだけでよかった。
「最初はすぐに見つかるとは思わなかった、何しろもう何十年も前のことだからね」
しかし、その僧はあっけなく見つかった。
僧なのだからまずはお寺に行ってみませんか、そう提案したのは椛だった。
「それは一理あると思って、寺に行ったんだよ。んで、庭を掃いていた人に村都とい僧 はこの村にいませんか、と聞いた」
「その人が例の僧だったというわけかい?」
うん、と萃香云った。
「当時のことを聞いたよ。文が尋ねたんだけどね、さすがに新聞記者をやっているだけ あって聞き上手だったね。こちらが知りたいことをすべて聞いてくれたよ」
あの時、はたては小声で参考にしなきゃなどと言っていたが、あれは巧いインタビューの仕方だったと今更ながら当時の疑問の答えを理解した。
「んで、その僧が言うにはさ。たしかに自分と国衛門はその村の生き残りで、襲撃の後 は国衛門を引き取って暮らしていたんだって。でも、数年か経って国衛門は姿をくら ましてしまったんだと。
ついこの間、村に戻っていたそうだが、あの頃の面影はなく、幽霊のような風貌で最 初はわからなかった。その時思ったんだって、自分はあのできごとを乗り越えたが国 衛門は未だに乗り越えられないでいる。だから、妖怪が関わっている今回の事件を任 せることにしたんだ、そう言っていたな」
「なるほど、妖怪が村に関わっているのは前回と同じだな。
もしかしたら、その妖怪は子どもに近づいていずれは食べようとしているとでも思っ たかもな」
勇儀は口を挟んだ。
「その妖怪ってのは私なんだけどね。もちろん村を襲ったり子どもに危害を加えたりす るつもりは毛頭ない」
その気はない。しかし、そのことを云っても国衛門に信じてもらえなかった。なるほど、あのようなことが信じられないというのももっともかもしれない。
「その妖怪が実は私です、なんてことはとてもじゃないけど言えなかったね」
「そんなことを言ったら、余計話がこじれるだろうな」
勇儀は同意した。
「その後、国衛門がどういう子どもだったのかとか、村を襲撃した妖怪の特徴といった ことを聞いてその場を去ったのさ」
「それで」
なんか有益な情報は得られたのかい、と勇儀は云った。
「おうさ、いろいろなことがわかったよ」
萃香は勇儀にそこで見聞きしたことを語った。
・その8
僧から話を聞いた夜、私は子どもと待ち合わせしている場所へと向かった。子どもはもうここへは来ない。なぜなら私はもうここには来るなと釘を刺しておいたからだ。戦いに巻き込まれるのを防ぐため、もちろんそれもある。だが、最大の理由はこの騒動が終わったら私はここを去るつもりでいた。だからきちんとさよならを言うために昨日のうちに別れのあいさつを済ませたのである。
天狗記者一味は事件に干渉する気はないようで、事の顛末を見届けるらしい。もっとも射命丸と姫海棠、両の新聞記者は今回のことを記事にする気満々のようだが。
天狗たちは村都の話を聞いたあと、用事があるといってどこかへ行ってしまった。我々は青鬼になります、そう告げのだが、あれはいったいどういう意味だろう。
夜の約束の時間までには戻ってくると云ったが、いったいどこへ出かけたのか。すでにこの場所にいるならば、ここからは見えないがそのあたりの物陰に潜んでいるかもしれない。
そんなことを考えていると、強い風と共に国衛門がやってきた。
「もう来てたのかい。待たせてすまないねぇ」
「すべてを終わらせるんだ。こんな時間短く感じなかったさ」
国衛門は答えた。
「それで? 昨日、私が言ったことを信じてもらえたかい?」
私は男に、この村から出ていき未来永劫この村に近づくことはないと約束した。
「あれから色々なことを考えた。今までの人生のこと、お前が約束したこと・・・
信じたかった。私が信じさえすれば、今回の事件は全て丸く収まる、そんな気がし た。でも無理だった。あんたを信じて、もしまた騙されたらと思うと・・・」
頭ではわかっているんだ、国衛門は云った。
「信じられないか、ならばどうする?」
「戦う、たとえ負けるとわかってもこの命が尽きるまで戦う」
「戦って何になるんだい?」
「わからない。
だが私は今までこうしてきた。それしか方法を知らないから・・・」
男は言葉を放つと同時にこちらへ向かって走った。
『密と疎を操る程度の能力』、これは伊吹萃香の能力である。この能力を使うことにより自分の体を『疎』、つまり霧状に分散させてダメージを無効化する。
刀は萃香を貫いたが効き目はない。
「無駄だね、この私に普通の刃物は通らないよ」
「うるさいっ!」
国衛門は刀を振り回す、だがその攻撃は空を切るだけだった。
萃香は思った、この男に理屈は通じない。過去と似た状況に遭遇し、その過去を乗り越えるために動いているのだと。
このまま攻撃を受け流していれば負けることはないが、何も解決はしないだろう。
ならば、どうする。
その時、物陰から声がした。
「椛!」
射命丸は叫んだ。
「はい、わかりました!」
その言葉を合図に天狗たちは動いた。
犬走椛が両者の間に割って入る。椛の手には刀が握られ、子どもにはその刀が突きつけられていた。
「な、何の真似だ?」
国衛門は問うた。
「あーあ、もう少しで騙せるところでしたのに。
萃香がモタモタしているからですよ」
椛は言った。
「椛?」
萃香は困惑した。なぜ椛が子どもを人質に取って出てきたのだ。天狗たちはこの件に関わらないはずではなかったのか。わけがわからなかった。
「もうやだなぁ~。もう忘れてしまったのですか?
この武士を騙してもうこの村とは関わらないと嘘を付く。そして武士が村を去った後 に再びこの村を襲う。そういう手筈だったじゃないですか」
「だ、騙したのか?」
「ようやく気が付きました? 萃香さんが遊んでいるものだから、痺れを切らしちゃい ましたよ。
それにしてもあなた、今度は騙されなかったですね」
椛は男に丁寧に説明する。
「『今度は』だと・・・」
「あれ気が付かなかったんですか? 私の姿を見たらすぐにでも思い出すと思ったんで すけどねぇ。そうです、この私こそがあなたの村を襲った張本人ですよ」
「お前があの時の妖怪か。ようやく見つけたぞ!」
国衛門は笑った。だがその笑いは嬉しいから笑う、可笑しいから笑う、そんな顔とはとうていかけ離れた笑いだった。
萃香は考えた。
村を襲った妖怪と椛は別の妖怪だろう。天狗という種族は人を喰わないし、そんなことをするとは思えなかった。
ならばなぜこんな嘘をついた。
「いいでしょう、冥土の土産に全てを話しましょう。
あの村を襲ったあと、私は次の獲物を求めて旅に出ました。何十年か経ち、ふとあの 村のことを思い出しました。今、あの村はどうなってるのかな、と。あの村人たちは 美味しかった、できるならもうもう1度味わいたい。そんなことを思って村を再び訪 れたのですが、すでにその村はありませんでした」
まあ、当然といえば当然ですよね、椛は云った。
「村が無かったので、代わりにこの村で食料を分けてもらうことにしました」
「食料というのは人間のことだな、分けてもらえるはずがないだろう」
「そうですね、人間は自分のことで精一杯なので、妖怪に分ける余裕は無いと思いました」
会話が噛み合わない、おそらく椛の発言はわざとだと思うが。
国衛門は何も言い返さなかった。
「その村を見て回るうちに、私は1人の妖怪を見つけました。
そう、あなたのことです」
そう言って椛は萃香を指した。
ここで私か・・・
だが事実とはだいぶ違う。
「萃香とは古くからの友人です。
私は一緒に村を襲わないかという計画を持ちかけました。しかし、その提案は拒否さ れました。
なぜだと思います?
それは萃香が他の妖怪と違うところがあって、なんと人間を喰わないんですよ。オド ロキでしょう?
さらに驚いたことに、村を襲うのはやめてくれなんて云うんですよ。人間とは友達だ から、危害を加えることは許さないんですって、笑っちゃうでしょう」
国衛門は笑っていた、だが椛の云う笑いとは本質が違う。
「私は怒りましたね。妖怪というものは人間に恐れられる存在であって、けして友達な んていう生ぬるい関係にはなり得ないからです。
だから私は言いました。こういうのはどうだ、村人は襲うがあの子どもだけは助けて やろう、その代わりそこの武士を倒すのを手伝ってくれないか。
友達のためならば、と渋々承諾してくれましたよ」
そう言いながら、椛は刀を子どもの喉に突きつけた。
「でも、あなたを倒せなかった。だからこちらも約束を守る必要はないですね。手始め にまずこの子どもから始末しましょう」
もちろん椛にその気はなさそうだった、ならばいったいどういうつもりか。頭を回転させてひとつの結論を導き出す。椛の狙いがわかったような気がした。
「椛、それだけはやめてくれ!」
「却下です」
ならば、と私は叫んだ。
椛に向かって手元にあった石を投げつけた。刀に命中して手から刀が弾き飛ばされた。
何のつもりだと椛は云う。
私は男に言った。
「子どもを助けろ、今が好機だ!」
国衛門は刀を捨てて駆け出し、椛の手から子どもを奪い取った。
すかさず私は椛に向かって炎を吐く。
その時一迅の風が吹いた。
村を襲った妖怪である犬走椛は跡形も無く消えた。
・その9
夜が明けた。
国衛門は子どもを家に送り届けた後、萃香に再び会った。
「仲間の妖怪を裏切ってまで、人間を守りたかったんだな。疑ってすまなかった」
「人間は友達だからね。おまえさんが気に悩むことじゃないよ」
「私はあなたのおかげであの時の自分を乗り越えられた。私はこれからこの力でみんな を守っていこうと思う。人間を襲う妖怪や悪人に立ち向かっていきたい。
萃香さんはこの村に残るのですか?」
国衛門は尋ねた。
「いや、約束通り、もうこの村には関わらないよ」
萃香は寂しげに笑う。
「そうか、もう会わないと思うと寂しいよ。
それじゃあ、もう私は行くとするよ」
「そうかい、達者でな」
萃香と国衛門はここで別れた。
私は国衛門を救うことができた。だがしかし、同時に大事な物を失ってしまった。
そう、それは・・・
・その10
「種明かしをするとだね。
子どもは別に人質に取られたわけじゃなくてね、天狗たちが子どもに協力してもらっ て、人質のふりをしてもらったのさ」
天狗たちは私にそのことを知らせずにね、と萃香は云った。
「芝居だったというわけか」
「天狗たちがそんな行動を取ることなんてないことはわかっていたからね。
これは何かわけがあるなと思ったのさ。なんでわざわざ悪者になるようなことをする のか最初はわからなかったよ」
だからこれは芝居なんだと感じたわけかと勇儀は萃香の言葉を継いだ。
「うん、だから試しに手元にあった石を投げてみた。するとどうだい、椛は石が命中す る前に手を刀から離したのさ。これで一連の流れが芝居だということを確信したね。
そして私は国衛門に向かって叫んだのさ、子どもを助けるように」
「国衛門自身が子どもを助けることに意味がある、そう思ったのか」
「その通りさ。そして子どもを開放したのを見届けて私は炎を吐いた。その時に射命丸 が素早く飛び出して椛を掴んで炎から遠ざけた。そして炎によって天狗を退治したよ うに見せかけ、当の本人たちは遠くへ去ったというわけさ」
「なるほど、その計画を立てた天狗たちも見事だが、咄嗟に天狗たちの意図を汲んだお まえさんもたいしたものだよ」
勇儀は萃香の咄嗟の機転に感心した。
「しかしその結果、私は嘘をついてしまった。国衛門を救ったはいいが、騙す形になっ てしまった。
嘘をつくなんて鬼失格さ・・・」
「あの場はそれが最善の選択だったんじゃないか。もし、私でもそうしていたね」
「理屈ではそうなんだけどね。嘘をついてしまったということにどうしても負い目を感 じてしまうんだよ」
萃香は云った。
泣いた赤鬼に似ているな、勇儀はつぶやいた。
「昔話にそういう話があるだろ。今回の話はそれに似てると思わないか?」
泣いた赤鬼とは。ある日、人間と仲良くしたい赤鬼は青鬼に相談した。その相談を受けた青鬼は村を襲った。赤鬼は青鬼を止め、村を守った。そのことがきっかけで赤鬼は人間と仲良くなるが、青鬼はどこかへ去ってしまった。青鬼の心遣いを知った赤鬼は青鬼を思って泣いた。たしかそんな話だった・・・
「言われてみれば、今回の状況と似ているな。天狗たちが悪者になって私の誤解を解い た。まあ、多少違う部分もあるがね」
「あの話で青鬼は赤鬼のためにわざと村を襲ってみせた。
そして赤鬼は赤鬼で青鬼がわざと村を襲ったことにして結果的には村人を騙すことに なったあれも一種の嘘じゃないのかい?」
「かなりの拡大解釈だけどね。まあ、嘘といえるだろうねぇ」
「だろ? でも赤鬼と青鬼は誰かを貶めるため、その場を凌ぐために嘘をつい たわけ ではない、むしろ相手を思いやっての嘘なんだ」
そういう嘘ならありなんじゃないかな、勇儀は云った。
そうか、そういう考えもあるのか。相手を思いやっての嘘、そんなことは考えたこともなかった。今まで嘘と名のつくものは嫌悪してきた、遠ざけてきた。
「ありがとう、おかげで気が楽になったよ」
なるほど、私は赤鬼の役割をしていたのか。
私は今でも嘘は嫌いだ。
でも、こういう嘘はあってもいいと萃香は思った。
終わり
ただ天狗達あまりにもわざとらしかったなってww
丁寧に書こうとしているのは分かりますが、お陰でくどくなってるかな、と感じました
例えば、「鬼は嘘が嫌い」を何度も繰り返す点。
強調になるからありだとは思いますが、ただ言われるだけでは実感できません
一つ、どれほど嫌いか具体的なエピソードを盛れば冗長さを解消できると思います
他にも
>武士が姿を見せた。武士を見る。
それぞれの「見る」で意味合いは違いますが、「姿を現した」「観察する」などでスマートになるかな、と
また、話は変わって推敲も丁寧にしたなら読みやすくなるし、面白さもアピールできるかなと思います
>ちなみにそいつは地霊殿の橋姫に住んでいる・・・
例としてはこの箇所です。
最後に、文章をノートパッドで打っているなら、設定の「右端で折り返す」にチェックが入っていませんか
妙な改行、空白などの原因になります
楽しんで書いている雰囲気が伝わってきました。頑張ってください
まずは、書き上げた自分の文章を音読して、おかしいところを丁寧に直すことをおすすめします。
また、作中で勇儀も言っていますが、回りくどい部分が多くて読みにくい気がしました。簡潔にしてもいいところは、簡潔に説明するべきかと思います。