私は、射命丸文が嫌いだ。
私は、射命丸文が嫌いだ。
いつも私の邪魔をする。あいつはいつもそうなのだ。
私の暇を潰してやっていると言っているがそれは違う。私で暇を潰しているのだ。
所詮私は下っ端哨戒天狗。文とは根本的な階級差がある。あいつは私を弄ることで、自身の優越感を満たしているだけなのだ。
私がいつも真面目に警戒監視をしている最中、あいつはいつも自由気ままに山を飛び回っている。
それはそれは楽しそうに、それはそれは愉快そうに。
人形のような笑い顔を作って、上の者におべっか使って。
天狗の誇りの欠片も無い。あいつはそんな天狗だ。
だから私は、射命丸文が嫌いだ。
昔から、私はあいつが気に食わなかった。
CASE1「盾」
「椛」
「なんです? 文」
「あなたの盾が地味だったので、模様を描いてみました」
「貴女という人は……」
「見てください、可愛い紅葉マークですよ? 完成に一晩かかりました」
「なんて無駄な時間を過ごしているんですか」
「でも地味じゃない」
「文、貴女は何も分かっていない。私は哨戒を任された身。目立つ格好をするなど以ての外です。白の盾に赤い紅葉のデザインなど、あまりに目に付くじゃありませんか。そもそも私は一度でも貴女に盾に紅葉を描いてくれと頼みましたか? 勝手です、全く以て勝手が過ぎます。人の商売道具を無断で持ち出して、ましてや文、貴女も毎日幻想郷中を取材して周る記者の身ではありませんか。こんな趣味丸出しな行動のために貴重な睡眠時間を削るなど、本当に貴女の行動は理解しかね――」
「感想は?」
「超ナウい」
CASE2「取材」
「椛」
「なんです? 文」
「取材をさせてもらえます?」
「何故急に……」
「そろそろネタが尽きてきたので」
「こともあろうにネタが尽きた……呆れたものですね。私は貴女の非常食ではありません、滑り止めではありません、キープではありません。そもそも取材というものは事前に相手方の予定を確認してから行うものです。見ての通り私は今日も哨戒任務中。それは文、貴女も分かっていたはず。なのに貴女は恥ずかしげもなく私に取材をするというのですか? それがどれほど非常識なことかは記者としての経験も無い素人の私ですら分かること。なのに貴女という人は――」
「好きな芸能人は?」
「阿部寛」
CASE3「林檎」
「椛」
「なんです? 文」
「林檎を持ってきましたよ?」
「林檎?」
「いつも頑張ってるから差し入れです(ヒュッ)」
「(パシッ)人にいきなり林檎を投げ渡すだなんて危ないじゃありませんか。私が刀を地面に刺していなかったら危うく林檎を落とすところです。そもそもこういった行為は(ガブ)もっと慣れ親しんだ間柄で行う行為であり(ムシャ)、今目の前で任務に就いている者に対しては(モグモグ)手渡しするのが礼というものでしょう。第一私は林檎を欲してなど(バクッ)いない。強いて望むのであれば文(むぐむぐ)、貴女がこの山のために心を入れ替えて真面目に働くことを望みます(シャリシャリ)。それにどうせ差し入れるならば皮を剥くくらいの(ごっくん)気遣いの一つや二つ――」
「もう一個あるけど」
「是非に」
CASE4「尻尾」
「椛」
「なんです? 文」
「尻尾触らせて」
「嫌です」
「減るものじゃなし」
「文、貴女は今自分が何をしようとしているのか分かっているのですか? 貴女の行為は紛れもなくセクハラです。いえ、パワハラと言ってもいいでしょう。私が下っ端のあんっ、哨戒天狗であることをいいことに、自分の欲を満たそうなどというその考えははうぅっ、非常に醜い、そう、醜いのですんあぁっ。そもそも、たとえ下っ端といえど私は誇り高き白狼天狗ふえぇっ。この尻尾はその象徴であり、決して貴女に好き勝手弄られるためにあるわけではそれ以上は有料っありません。あぁっ、そこはダメそれが分かったならば文も今後このような悪ふざけをしようなどと――」
「さて、そろそろ取材に戻りますか」
「あと五分」
CASE5「将棋」
「椛」
「なんです? 文」
「将棋をしましょう」
「今は勤務中です」
「この前負けたからリベンジです」
「そんなことだから、いつぞやみたいに人間相手に不覚を取るのです。今の私を見て分かりませんか? 私は勤務中なのです。この場から離れることなど出来るわけないじゃありませんか。貴女の身勝手さには呆れる他ありませんね。私達は天狗。人間だけでなく、多くの妖怪達にもその名を轟かす山の民であったはず。貴女には自覚が足りないのです自覚が。下っ端の私ですら地に根を張る気持ちで任務に集中しているというのに貴女という人は――」
「先手椛ね」
「絶対負けねえ」
CASE6「写真」
「椛」
「なんです? 文」
「一緒に写真を撮りませんか?」
「何を言っているんですか」
「記念写真です」
「いいですか文、記念写真とは特別な日に撮るものです。私は今日も山を監視し、貴女は今日も記事を書く。特別なものは何もないじゃありませんか。貴女のカメラは、意味のないものを捉えるために存在するものではないはずです。なのに貴女は悪戯にカメラを扱おうとしている。物には全て意味があるのです。私の刀と盾が、この山を守るためにあるのと同じように、貴女のカメラもまた、幻想郷の真実を写し出すために存在している筈。なのに貴女は出鱈目な記事しか作らない。真実を形に残すことの出来る素晴らしい道具の機能を一切使いこなせていない。これでは道具として生まれた意味が――」
「明日で文々。新聞創刊一万回を達成するので」
「夕日が綺麗なスポットなら知っている」
射命丸文。鴉天狗。あいつを一言で表すならば、風であろう。
妖怪の山の掟は厳しい。それにも拘わらず、あいつは頭脳と器量でそれを悉く掻い潜る。それはさながら、木々の合間を止まることなく吹き抜ける風のように。
それは私には出来ない事だ。天魔様、大天狗様に忠を誓い、自らを縛る白狼天狗には出来ないことだ。 いや、忠を誓うは文も同じ。あいつはあいつなりに、天狗の掟に従い生きている。
それでも、私は白狼。この広き妖怪の山に立ち、大地の息吹と共に生きる存在。仮に私が山になっても、私が風になることは出来ない。私は、あいつのように自由にはなれない。
だから私は、射命丸文が――
「椛」
「なんです? 文」
「この前の記念写真、現像してきました」
「今持って来ることもないでしょう」
「今持ってきたかったんですよ」
「?」
「今日は椛の誕生日じゃありませんか」
「……」
「どうしました? 椛」
「まったく、貴女という人は勤務中にも関わらず何を呑気な――」
私は、射命丸文が○○だ。
~完~
名コンビですな。
もはや喧嘩にすらなっていない気がしますが
私の心が汚れてるだけですね。面白かったです。
ただ、ワンパターンゴリ押し過ぎたかも知れません
ほっこりしました
面白かった半面、ワンパターンな所為で後半飽きてきたかも。天丼を狙うだけでなく、元の形を残しつつネタを捻って欲しかった。
ちょっと文と距離を空けてるようで空けられてないもみじかわいい。
個人的にはこの二人はこれくらいの距離感がベストです。
ケース3でリンゴしゃりしゃりしながら全力で尻尾振ってるに違いない。
ああ、尻尾もみもみしたい
あやもみ、いいよあやもみ 2828