Coolier - 新生・東方創想話

比那名居考 -天人無垢- 前編

2012/03/01 22:16:15
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 ※注意書き 物語の性質上、震災の描写が書かれています。尚、早苗については、緋想天則フリー対戦時の会話などは考慮しておらず、天子とは初遭遇として扱っています。



 二十八階層に渡る天界の最上部。無色界最頭頂。最も仏神に近い位置。それを非想非非想天、または有頂天と言う。
 六道輪廻における最も高い位置に存在しているが、そこに住まう者達が人間である事に一切の変わりはない。悟りに易いというだけだ。人間界に比べ理不尽が少ないとも言える。
 悟らねば五衰するのみ。
 励まねば五衰するのみである。
 ……が、その生は千万年単位であり、まともに修行に励んで居れば、是非曲直庁から仕向けられた執行人共の手にかかる事はないだろう。
 そして、まともではない天人はわざわざ地におり、今まさに死神と対峙しているところであった。

「はあ? いやいやそう簡単にしなないから。ほら、やってみんさい、ほら、ほらほら」
「ぐぬぬ」

 緋想剣の代わりに拾った木の棒を担いで肩でポンポンとやり、相手を嘲る。比那名居天子は力及ばず地面に伏せる死神を足蹴にし、笑みを浮かべていた。

「いまどきね、そんな解りやすい格好で現れる死神もいないわよ」
「話が違う……」
「はい?」

 黒いぼろ布、デスサイズという典型的ないでたちの死神は、半べそかきながら走り去って行った。
 さて、これで何人目か。百年単位で天子の前に現れては破れ去っていた死神が、ここ最近猛攻をかけている。
 一カ月に覚えている限りで五人。そこから先は数えるのが面倒であった。が、ともかく流石にこれは異常である。殺しに来ている。
 天人を殺しに来るのは何も死神だけではない。いつぞのスキマ妖怪など、確実に天子を殺害する勢いであった。触った神に祟られたのだから自業自得とも言えるが、博麗神社での一戦は流石の天子も肝を冷やした。
 そして更に妖怪だけでもない。朝寝ぼけた状態で地面を踏み外して雲の上から落っこちたり、たまたま買い食いしたオハギに針が入っていたり、たまたま覗いた金物屋の主人が酔っぱらっていてナタを振り廻していたり、普段出て来る事もない永遠亭の姫様が牛車を爆走させて現れて危うく轢かれかけたりと、ここ最近は災難続きであるが

『私様が理不尽な災難なんかに負けたりする訳がない』

 という謎めいた自信がある。ただ過剰という訳でもなく、これら全ては事無きを得ている。
 迫りくる死神もまた、無傷で完封だ。

「質が落ちてるのかしら。ちょっと昔はかなり手ごわかったのに。質より量の時代かな」

 是非曲直庁の欧米化を心配しながら、天子は散策を再開する。未だ頑なに『妖怪出入り禁止』となっている店だって入っちゃう悪である。そもそも妖怪ではないのだが、人間からしてみれば某魔法使いも某メイドも某巫女も妖怪みたいなものであるからして、幻想郷における妖怪の定義は『空飛んで弾を撃つ奴等』だ。

「あ、おいしそー。外のレシピでも手に入れたのかしら。凝ってるわねえ。値段もアレだけれど」

 甘味処の新作スイーツらしい。物流がどうなっているか知らないが、ともかく貴重な砂糖が冗談のように使われたケーキ的物質が目に止まる。カフェテラスでそれをパクつくのは、緑がかった髪色の、腋の開いた巫女っぽい何かのヒトだ。

「景気がいいのね」
「ケーキだけにはぶりもねって馬鹿ッッ!! 諏訪でそんなギャグかましたら蝗と一緒に煮られますよ!?」
「(諏訪ってそんなに笑いに厳しいっけ……)アンタでしょ言ったの。で、美味しそうねそれ」
「あげませんが美味しいです。凄いですよこれ本物のカカオですよカカオ。ちよこれいとですよ。これなんてほら、がっつり甘くて風味広がるなまくりぃむですよ。これ作ろうと思ったら原価どれだけかかるか」
「一口」
「駄目です。あげられません。許されざるです」
「一欠けでいいから」
「無理無理ですよ。これ限定なんですから」
「ケチねえ。どこの貧乏神社の巫女よ」
「一口ぐらいならいいですよ」
「ありがとう」

 ただで席を埋めるのも稼ぎ時の店に悪いと思い、一応お茶は注文する。ワガママだけれど傍若無人に振る舞わないのが長生きの秘訣なのだと衣玖あたりに聞いた気がした。

「ところで」
「何?」
「どちらさまです?」
「あー……」

 巫女っぽい何かというか東風谷早苗は小首をかしげる。此方が一方的に知っている事が多いので、天子は焦らず自己紹介と東風谷早苗を見知った経緯について説明した。

「ああ、霊夢さんの神社がブッ潰れて惜しい所までいった事件の主犯格ですか」
「もうちょっとだったのだけれど」
「あの神社を乗っ取ろうと思ったら、並大抵の力では無理ですね。御存じか知りませんが、彼女の後ろには大妖怪がゴロゴロとついています。貴女が対峙した八雲紫様もその一角です」
「神社を護ってるってこと?」
「いえ、ああ、八雲紫様については、その通りでしょうが、他のヒト達は我こそに我がものに、という意図でしょうから、衝突によって均衡が保たれているとも言えます。つまり貴女もそれに加わっている、という、なんとも倒錯的で、尚且つ現実的な防衛が展開しているのが、あの神社なのです。女性ボーカル一人であと全部男性のユニットみたいな感じで」
「確かに立地的にも、霊的にも、魅力的よね、あそこは」
「だからこそ博麗であり、だからこそ八雲なのでしょう。故に貴女方もアレに手を出したくなる。その守護者を弄りたくなる。最近解ったんです、霊夢さんって意外と弄り甲斐があるなあって」
「どこが? 暖簾に腕押しというか、糠に釘というか、あれはなんとも、扱い難いけど」
「並大抵では動かないからこそ、動いた時に面白い。実はですね……」

 共通の敵を見つけた二人の話が咲いて行く。天子としては、東風谷早苗は最近常識を飛び越えるのが趣味の人間で神様で変な奴、という認識でいたのだが、どうやら話してみれば普通の噂好きの女の子であった。お茶とお菓子が来る頃にはだいぶと意気投合し、どうでもいい話にどうでもいい話を塗りたくるという友人らしい空気が出来あがっていた。

「あ、これ食べますか。思いの外、量が多くて」
「じゃ、貰う。アンタはそっちのお菓子摘まんでいいわよ」
「なんですかこれ」
「豆乳クッキーだとかなんとか」
「御寺じゃあるまいに。なんで喫茶店に入って豆腐なんぞ食べねばならないんですかね私はポリポリ美味しいですねこれ」
「天界の食べ物ってなんかこう、大概甘いのよね。繊細さがない甘さというか。ああでもこのケーキ超美味しい」
「で、どこまで話ましたっけ」
「たしか霊夢がバイセクシャルだって所だったけど」
「好色というよりは、楽しみ方の幅を狭めていないような気もします。常識踏破委員会会長としては見逃せませんね」
「なんだかんだと異性ってのは、不可思議で謎めいて見えるけれど、同性となるとそうは行かないじゃない? 汚い所知ってるし、こんな話でゲラゲラ笑う訳で。あの子、抵抗ないのかしら」
「私達とは見ている視点が違うのかもしれません。そういうのは前提で、そこから先……というか」
「あー、うん。知りすぎると逆に無意識になって、別の視点から見えるってこと?」
「そうですそうです。例えば突然声をかけてきてケーキを強請る卑しい貴女ですけれど、そんなものは当たり前だとして、比那名居天子という人物を良い方面から見つめれば、また違って見えますでしょう?」
「どう見えるのよ」
「ちょっと棘はありますけれど見目麗しいですし、思いの外常識外れじゃないですし、こうして人様と楽しく喋れるじゃありませんか。簡単なようでなかなか居ないんですよ、そんなヒト」
「外でも?」
「貴女ランクの女性がどれほどいるやら」
「いやー……」
「会話らしい会話、っていうのがそもそも知性の塊のようなものです。ダベりとは言いますが、相手の話を聞き、汲み取り、意見し、提案し、持論を語り、流れるように自分の話に持って行き、相手もそれを繰り返す。勉強様が教えてくれない物の一つでもあります。それだけ出来て尚且つ美男美女なら素晴らしいじゃありませんか……あれ……なんか……天子さん、美人ですね」
「あーはいはい。そういうネタふり要らないですー」
「顔紅いですよ」
「ほ、褒められ慣れてないのよ、私不良だし」
「可愛いポイント追加しておきますね」

 ……。

 何か散々と東風谷早苗に玩ばれたような気がしてならない。これも災難の一つだろうか。
 清楚そうな顔してる癖に、どうやら人様をおちょくるのが得意と見える。もしかしたらそんな環境で育ったのかもしれない。
 早苗はメモ帳に『ひななゐてんし 丁』と書きこんだ。ちなみに『はくれいれいむ 正正正正正正正一』となっている。

「ひななゐって書くとカワイイですね」
「なにそれ」
「可愛いポイントです。魔理沙さんとかもレベル高いですよ。っぱないです」
「あのガサツそうなのが?」
「普段そうなのです。ガサツだし、言葉づかいはアレだし、部屋もきったない汚部屋の主ですし。でもですね、遠目で観察していると良く分けるのですけれど、ちょっとした仕草とか、趣味とか、そういうのが滲み出てるんですよ。普通、こういうのって私達女がみると『うわ、なにこいつww』ってなるじゃありませんか。なのにならないんです。嫌味がないというか、媚がない。素です。彼女の素が可愛いポイント満載なのです。小動物的な?」
「それ公開して大丈夫なメモ?」
「私の主観で書かれた評価ですから何の当てにもなりませんが、どうぞどうぞ」

 そういって、早苗は『さあみろやれみろ』とメモを押しつけてくる。主観とはいうが自信はあるのだろう。
 早苗の評価は以下の通りだ。

『はくれいれいむ  正正正正正正正一』
『きりさめまりさ  正正正正正正正正正正正正正』
『いざよいさくや  正正性性性』
『こんぱくようむ  正正正正正丁』
『しゃめいまるあや 正正一』

 ・
 ・
 ・
 ・

 そういった評価がずらりと、ワンポイントメモ付きで残されている。こちやさなえ、もりやすわこ、やさかかなこ、については、測定範囲外らしい。

「ちなみにこれは可愛い力をスカウターした結果なので、本人の魅力が別にある場合はそれに限りません」
「で、随分と膨大だけれど、今のところ一位は?」
「あー、御存じか知りませんけど。こちらと、こちらがかなりです。ヤバいです。お話してるとドキドキします。最終的にはお話しているとドキドキする二人を選出してくっつけて妄想する予定です」
「アンタ脳みそ腐ってるのね」
「男同士も大丈夫です。楽しみの幅は広く持つべきです」
「逞しい、で……これか。うわ」

 早苗が指差したのは、二人の魔法使いである。片方は面識が無い。

『ありすまーがとろいど 正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正』
『ひじりびゃくれん   正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正』

 圧倒的。圧倒的可愛い力。もしかしたらこの人達と会話した人々は、可愛い力に押しつぶされて死ぬかもしれない。

「片方は森のぼっちことアリス・マーガトロイド氏です。容姿、性格、知性、生活、趣味、全てにおいてヤバイレベルです。彼女の可愛い力をもってすれば、幻想郷に新しいエネルギーを齎す事が可能なのではないかと、今神奈子様と相談しているところですよ」
「魔法使いね。魔法使い。で、もう片方は? 魔法使いっぽくない名前だけれど」
「れっきとした強化魔法の使い手です。聖白蓮。ほら、最近御寺が建立されましたでしょ」
「ああ、命蓮寺だっけ。トラがご本尊の」
「守矢神社協力の下建立された御寺です。その妖怪尼寺のご住職が、この聖白蓮氏なのですが……」

 早苗は、何か愉快な事を思い出したのか、プルプルと震えながら、半笑いで天子をみつめる。天子は『あ、こいつ気持ち悪い』と率直に想いつつも、本人は本気のようなので、ヒト様の趣味に文句はつけない。

「あれは、守矢神社協力の下、命蓮寺が建立されるという話がまとまって直ぐの事でした。おしとやかで落ち着いた笑みを浮かべた彼女が、お近づきの印にと、お土産を持って来たんですよ。ぶっちゃけ私なんかは再封印とかしようとした立場なので微妙に気まずかった訳ですが、向こうさんはそんな事まるで気にして居ない様子で。うちの神様達は、大きな風呂敷に包まれたお土産に、嬉々として飛び付いた訳です。はしたないですけどなんか可愛いですよね流石うちの神様達。で、その包みを開いて見たら、何が出て来たと思いますか?」
「そ、想像も出来ないわ」
「ぶ、ぶふふ……うう。て、手作りの、と、寅丸ちゃん人形(フェルト生地)ですよ。た、大量に。しかもね、なんか手がテーピングとかばんそうこうだらけで、ぶふ、うう、うう。で、それを開いて満面の笑みで、両手を前で合わせて『うちで御奉りしている仏様の、寅丸ちゃん人形です。以前沢山作ったのですけれど、作りすぎてしまって』とか、う、嘘、うそつけぇ! 手、手傷だらけやないかーいッって……ああ、く、ぶっふ……」
「で、出来はどうなの」
「み、みんなバラバラなんですけど全体から『いっしょうけんめいつくりましたっ』感漂いまくりで、し、死ぬかと思いました。諏訪子様が『な、なんでこんなに、ぶぶ、ふ。う、た、沢山作ったの?』って聞いたら『諏訪の大きな神社だと聞いたので、人が沢山いるだろうから、みんなで取り合いの喧嘩にならないようにと思って……あっ』って」
「???」
「素で、素でばらすし……くふ……うっ。もうね、あざといとか、あざとくないとか、そういうレベル超越してるんですよ、あの尼さん。前提が凄いんです。寅丸星は可愛くて、可愛いと思いこんで大量に生産して、うちは大所帯なんじゃないかと勘違いした上で、そんな努力を悟られまいと嘘をついたけれど素でバラす、という、とんでもない高難度な荒技をのっけから繰り出されて、私は昏倒しかけました」
「そ、そう。すごいのね、その尼」
「まだあるんです。その日は御夕飯を御馳走して、そろそろお邪魔しました、なんて言うのかと思ってたら、いそいそと御泊まりセットを取り出してですね。『うちのナズーリンが支度してくれたんです、私、こういうの初めてですから、ドキドキしちゃって』なんてね、顔紅くして言うんですよ。いやもう、泊める泊める、泊めますよ幾らでも居てくださいって感じですよ。で、急な泊り客なものですから、部屋は私と相部屋と言う事にしてってこれがおかしいんですが、お風呂も一緒に入ったんですが、白蓮さんは脱衣所で全裸になって、立ちつくしてた訳です。どうしました、なんていうと彼女『同じ枕じゃないと眠れないのに、忘れてきてしまいました……』なんて愕然としてる訳ですね。今かよ、今思い出したのかよと。はは、もう何この人超可愛いと思って、神様をパシリに使おうとしたら、そんなの申し訳ないと断って、護法童子とか呼び出して持ってきてくださいと頭下げてるんですよ全裸で。もう童子が目のやり場に困ってる様なんて今後一生見ないと思います。で、そんな一悶着があった後、就寝となったのですが、白蓮さん寝ない寝ない。修学旅行で興奮した同級生を彷彿とさせましたね。外の世界はどうなっているんですか、貴女は人なのですか神なのですか、仏様って本当にいると思いますか、将来の夢はなんですか、うちのご本尊超可愛いですよね拝みませんか、などと営業トークも交えながら、枕を並べて延々そんな話をするんです。枕営業ですかって突っ込んだら『う、うん?』って、うん? って。だよね、千年も封印されてたもんね。どんだけ純粋なんだよ。で、やっと寝ついたかと思ったら、寝言で『あう、ごめんなさいお肉は食べられないんです……』とか呟きだしてもう大興奮です。もう食べられないとかベタな寝言じゃなくてお勧めされたけれど宗教上の理由で食べられません、なんて寝言いう人初めてみました。ああくそ、可愛すぎて腹立って来た。あれが元は七十過ぎのお婆様で、挙句千年も封印されていて、更に大復活を遂げた挙句元の信者たちが助けに来るってのも頷けますわ。いやもう何なんですかあのヒト。その日のエピソードだけでその可愛いポイントですよ。毎日彼女に付き合っている人達は、間違いなく彼女を崇拝し尊敬し命すら投げだす事を惜しまない輩だと思います」

「喋わねーる」

 ……。

 早苗は吐き出すものを吐き出したのか、やっと一息つき、お茶を啜った。全く顔も見た事がない人物である為、天子はいまいち実物を把握し難かったが、壮絶な天然生物である事は理解出来た。そんな純真そうな生物、幻想郷で生きて行けるのだろうかと心配になる。

「魔法使いよね?」
「はい。素手で岩を砕いたりできます」
「ほげぇ……」

 自分の放った要石ミサイルを片手で爆発四散させられる光景が目に浮かぶ。とても興味をそそられる超生物であった。
 しかし魔法使いで尼僧とは、アベコベにも程がある。天然ではあるが、並はずれて強靭な精神を持ち合わせているのだろうと、天子は目測を立てた。

「尼僧でもあるのよね」
「はい。私は神様畑の人間なのでそう詳しくはありませんが、かなり高度に仏教を習得している様子です。その辺りは、天人の天子さんの方が詳しいのでは?」
「私も神様畑なのよ」
「え? 天人ですよね? 仏教における六道の最頂点、非想非非想天の」
「本家の名居家がその領域に至ったってだけ。分家で使用人な比那名居は、それに付き添っただけなのよ。名居、なゐ、つまり地震の神様を祭った家系の、そのしたっぱ。だから他からは、不良扱いされてるわ。私はその中でも特に」
「あら。申し遅れました。東風谷家の早苗です。諏訪の鎮護をつかさどっていましたが、この度移住してきました」
「え、分家とか末子とかじゃなくて? てっきり諏訪の分家あたりが来たから御柱おっ立ててるとばかり」
「神長官です」
「……」

 本当にアキツミカミなのだ。尼さん萌えを大発揮しているが、これは本来ならば、まともに取り合って貰えるか怪しいレベルで差のある神だ。分家で使用人の比那名居の娘程度が挨拶でどうこう、なんて冗談にも程がある。

「……神様って?」
「タケミナカタの巫女と、洩矢神そのもののアレなヒト達の事です」
「エリートね」
「あ、ちょっと、天子さん、やめてください、畏まったり避けたり逃げたりしないでください」
「いいの、そんなフランクで」
「いいんです。だからほら、椅子に座ってください。ああもう、改めて紹介なんてするんじゃなかった」
「まあ、お察しするわ。友達少なかった事とか、変に敬われて神格化されてた事とか」
「あはは……、まあ、そんな時代もありました。つい最近まで」
「アンタ程とは事情が違うけれど、似たようなものだし。私の場合は、位が低いから、だけれど」
「ははあ。ヤンチャしてるんですね」
「天界兵器(緋想剣)パクったり、神社潰したり、予定すっぽかしたり、親族会議で無意味に塩を撒いたりする仕事をしているわ」
「こいつ五衰するな、って空気がバンバン伝わってきます」
「数千万年も寿命いらないわよ。今の暇を潰せるのならば、それで十分だわ」
「天人なのに刹那的ですね。でもなんか、友達にはなれそうです」
「友達のキャパシティ、がら空きだもの」

 ははは、と笑う。早苗から譲り受けたケーキをパクつきながら、お茶を飲んでどうでも良い話にどうでも良い話を塗りたくる。こんなにも気心が知れる人物と喋り散らかしたのは、一体いつぶりだっただろうか。早苗の会話は一部一方的ではあるのだが、そんなくだらない単語の数々すら、耳に心地よい。
 永江衣玖とは長い付き合いだが、こうもさらけ出して喋った事は無かった。

「さて、そろそろお暇しようかしら」
「あら、そうですか?」
「じゃあね、ええと、早苗?」
「はい。今度はお酒でも呑みながらお話しましょう、天子さん」
「あー」

 ピクリと、天子に違和が走る。その名で呼ばれる事に、ほのかな嫌悪があった。

「地子と呼んで。呼び捨てで良い」
「はて、渾名ですか」
「幼名」
「何かあった……あいや、詮索しないでおきましょう」
「それはありがたいわ」

 頭の良い子なのだろう。詳細など知らずとも、含まれた行間を的確に読む彼女は、実に付き合い易い。

「じゃあ、地子、またね」
「うん。またね」

 代金をテーブルに置き、喫茶店を後にする。有意義な時間とは、とてつもない速度で過ぎ去るのだなと、天子は、いや、地子は幼少期ぶりに感じた。
 早苗とわかれ、さてと一息つく。空を見上げれば、青と白のコントラストが幻想郷を覆っていた。今日も良い天気だ。普段はあの上にいるのだが、もう二度と、帰る事はないだろう。
 話は三時間ほど前にまで遡る。



 ※



 劣等感、というものがある。はっきりした価値基準はない。本人が『何かしらよりも自分は劣っている』と感じれば、それは負の感情として現れる。ひとたびその感情を表に出したならば、社会に属している限りは、扱い難いヒトであると判断されるだろう。だが同時にこの感情は燃料にもなる。
 抑圧された環境下、それを燃料に出来る人物は、爆発的なエネルギーを生み出す。何も特別な感情ではなく、誰もが持ち得るものだ。結局のところ、それを操れるか操れないかの問題でしかない。
 比那名居天子という人物がどちらに属しているかといえば、なんとも半端な位置である。
 総領娘という大層な敬称は実際、後継ぎが独りしかいない故のものだ。総領娘らしく振舞い、主家の名居家を補佐し続ける運命を背負っている。主家からは、比那名居天子という人物が『力不足』だと判断されていた。天子の性格、力量、人となりは大して加味されていない。跡取りが一人しかおらず、他と比ぶるべきものが無かった為、そのような評価を押しつけられたのだ。
 天子は、言わずもがな捻くれた。兄弟が居ない場合当然親と比べられる。だが、長い経験を持つ親と、まだ経験の浅い娘を比べるのはあまりにも無慈悲である。そんなものは理不尽極まりない。とはいえ、経験の浅かった頃の親を、本家が覚えている筈もない。もう、どれほど昔の話だろうか。
 比那名居は出来て当然というイメージに、比那名居天子は当てはめられているのだ。
 捻くれた天子だが、しかし。その頭脳に間違いはなく、気質も力量も、はっきり言ってしまえば大した徳も積んでいない、未だ悟り菩薩界へと赴く気配のない主家の当主より、幾分も上である。
 天子には自覚があり、なおかつ、相手の力を計る程度の眼力も備わっていた。
 いわば、何故、自分以下の者なぞに、ヘコヘコと頭を下げねばならないのか、という、憤りである。お前らのいう『出来る』というのは、人に頭を下げる事なのか。天人が、そんな精神性で大丈夫なのか。

「――愚昧。暗君。お立場を理解出来ていないご様子ね、名居神様」
「あ、な、なに?」
「天界に召しあげられて以来、貴方様は何か高い徳を積まれましたか。そんな様子では、人にも修羅にも劣りましょう。名居が召し上げられて幾百年。私の眼には、ここに居る親族一同、何一つ変わっているようには思えない。顔が変わらなければ性格も変わらない。力が変わらなければ精神はむしろ劣化している。名居を見込んで天に召しあげた御仏の顔に泥を塗る様な貴方がたに、比那名居の天子は、心底うんざりしている、と申し上げているのです」
「てて、天子。お、おまえ、名居様に、な、なにを」
「はは。そう動揺なさらないでくださいまし、御父上。ここは天界。御仏の庭へと向かう旅路の途中。天子は、勤めて冷静に、堕落しきった名居、比那名居の核心を、愛をもって諭しているのです。……で、名居神」
「――くっ」
「ここに外敵は居ない。ともなれば敵は内のみ。内とは心。心とは揺らぎやすく、尚且つ堕落しやすい物です。御当主、ここは天。決して、人の身の最終地点では御座いません。貴方が目指すはこの上。須弥山の先。菩薩の先です。どうかゆめゆめ忘るる事無きよう」
「呆れた娘だ!! 名居が安らかに悟り至る為の比那名居ぞ!! それが貴様、そのような程度の低い話で当主を罵り辱める気かッ!!」

「このように程度の低い話すら通じないのが――今のアンタ達だ大馬鹿野郎どもがッッ!!!」

 不毛すぎ、進展もなく、ただ怠惰に進められる親族会議の席で、とうとう比那名居天子は爆発した。そのもどかしいまでの愚かさに、とうとう怒髪天を突く。主家から簒奪した緋想剣を、大広間の座卓に叩きつける。

「その凝り固まった頭、刀で切り開いてかき混ぜてやったっていい!! 幾分かマシになるでしょうから!!」
「ひ、比那名居!? と、当主に、刃を……」
「誰か止めてみる? 無理でしょう。励みもせず、現状維持のみで前も見れないアンタ達に、この私を止められるもんですか。ああ、怒るのは愚かだと言ったかしら。確かに愚か。ただ、私は御仏に救いなんぞ、元から求めちゃいない。アンタ達頭に来る親族一同、全員バラバラにしたところで、私は一切の後悔はなく、一切の許しも乞わない。さあ、どいつから来る!!」

 数十人の親族たちは、しかし一切の抵抗が見られない。悟りきっている訳ではないのだ。眼の前に現れた、天界に有るまじき非常識な暴力に、どうする事も出来ず、ただ解決策が齎されないかと、待っているだけなのである。
 そんな姿をみた天子の胸に去来する想いは、言うまでも無い。
 彼らは五衰する。ただダラダラと数千万年の時を無為に過ごし、菩薩になる訳でもなく、人に下る訳でもない、この生ぬるい、幸の多い天において、怠惰に過ごすだけだ。一生悟りは訪れず、無価値に時間と空間だけを消耗し続けるだろう。
 天子は思う。何故、これほど愚かな者達が、天などという大仰な階層に招かれてしまったのかと。

「――これは酷い。誰一人として、経文の一つも唱えない。アンタ達がするべき事は、必死にその穢れた肉体と精神を御仏に願って清めて勤めて悟る事のみだというのに」

 座卓に叩きつけられた緋想剣を抜き去り、天子は親族会議を後にする。ここまでやったのだ。恐らくは、もう二度と戻る事もないだろう。
 失望。極端な失望である。元から然したる期待はしていなかったが、まさか、ここまで無抵抗で、天に居ながらにして仏に祈る事もないとは、天子も予想の埒外であった。
 名居、比那名居の大本となる大村守(おおむらのかみ)は、しかと成し遂げて既に天にはいない。人とは違った概念となり、人々の営みを見守る立場となっているのである。大村守に仕えた名居は優秀であった。だが、時間とは恐ろしいもので、天というぬるま湯の中に浸かった彼らは、みるみるとその力を弱めてしまった。
 天は幸多き場所だが、故に、堕落しやすい。

「総領娘様」

 名居の敷地を出た所で、声がかかる。何時も聞く耳に心地よい声だ。

「あー。関わらないほうが、アンタの為だわ」
「あらお優しい。気遣ってくださるんですね」

 永江衣玖は、いつもの飄々とした態度を崩さない。むしろ、楽しそうにしていた。
 永江衣玖。竜宮の使い。人と天の間を行き来し、龍の話を聞き、人々に災厄を伝える役目を負った妖怪である。特に地震には敏感である為、名居家、比那名居家、元の大村守と懇意な立場を取り続ける人物だ。
 同時に、恐らく、ただ一人友人といえる人物である。

「何よ、ニヤニヤして」
「いえ、あの進展の無い親族会議に、始まって以来の進展が見られたものですから、ウキウキしてしまって」
「ああ、面白かったのね」
「大変。総領娘様のご意見は、いささか厨二的ではありますが、正論です。あの人達はあのまま行けば五衰して体臭がきつくなること請け合いでしょう。総領娘様はちゃんと勉強していますし、話も論理立っていますから、聞いててスッキリしますね。私が言いたかった事全部出ていました」
「そりゃよかったわね。じゃ」
「あら、どちらに?」
「どちらにって、もうあの家に戻れる訳ないでしょ。幻想郷で生活基盤を盤石にする為の作業フェーズに移行するのよ」
「それはつまらないですね」
「アンタの御楽しみには付き合えないわ」
「ふうむ。参りました。あの調子であの愚かな人達を論破しまくって暴力でねじふせて、名居家乗っ取りなんてしたら、戦国大名っぽくて面白いですのに」
「……マジで言ってんの、アンタ。私がちょっと外に飛び出したくらいで、執拗に追いかけ回したくせに」
「だって見当たらなかったんですもの。そもそも名居にも、比那名居にも、私は別段と属していませんから、双方の家が取り潰しになった所で、私には大した影響はないのです。でもあのまま堕落して五衰する姿を見るくらいなら、総領娘様が全権握って尻を叩いて修行に励ませるのが良いと思うのですが」
「遠慮する。別に私は菩薩になる気なんてない。五衰するまで、楽しく幻想郷で生きるとするわ。あ、これ、緋想剣。返しておいて。それと今後、もし私を呼ぶ時は、総領娘じゃないし、地に落ちるから地子とでも呼んで」

 そういって、天子は緋想剣を衣玖に投げて渡す。

「ああ」
「何?」
「サバサバしていて、カッコいいなって思ったんです。地子様は思いの外、あらゆる所に適応出来そうですね。じゃあ、何かあったら呼びますね」
「呼ばんで良い。私はもう、いいの。比那名居の名も捨てる」

 口にしてみると、なかなかに不安だったが――それ以上に、束縛から解放された事実が大きかった。もう、あの暗君の下で働かなくても良いのだ。あの名居にペコペコするだけの父親達の顔も見ずに済む。
 不良天人が、ただの妖怪となる。天子が地子へと戻るのである。本人にとりて、そこに優劣はない。

「衣玖」
「はい」
「今までありがと。何かと迷惑かけたわね」
「その糞迷惑加減が意外なまでに癖になるのが、総領娘様だったのですが、いささかばかり残念です」
「わたしゃチーズかクサヤか」
「ふふ。はい、では」

 衣玖が、小さく手を振る。おそらくコイツの事だ、何度でも顔を出す事だろう。それだけ、短い付き合いでもないのだから。友人と呼べる者は、本来永江衣玖しかいないのだ。
 衣玖に一瞥し、雲の敷き詰められたような天を歩む。どこまでも青い空が広がるこの場所に、初めて足を踏み入れた頃を思い出した。まだ地子と名乗っていた頃。戦と汚泥と疫病と天災が舞飛ぶ穢れた大地を離れた、あの頃。地子は、生まれて初めて清らかなる世界を目撃したのだ。
 今となっては、ただ懐かしむばかりの情景。そこに夢も希望も、信仰心もない。
 ふと、地子は立ち止まる。地へと降りるべき道すがらに、何か光るものを見たからだ。雲の間から覗く光はやがて湧出し、地子の前へと立ちはだかる。
 見覚えのある形。人の形であり、顔はない。光が人の形を模したものだが、威圧的である。

「……天か、明王か。権化?」
『如何にも』
「ああそう。悪かったわね、暴れて。でも、傷つけてないわ。傷つけるつもりもなかったし。あんなんでも、一応親族だし、家族なのよ」
『不要』
「ああ、弁解はいらない、と。私、これから下に降りるのだけれど、それで許して貰えるかしら」

 そういうと、光はその指を下界へと示した。雲が開き、その指が何処を示したのか知らせる。人里のようだが、遠くていまいち、地子には解らない。

「あら、やっぱり徳が高いと優しいわね。赦してくれるんだ」
『地に我あり。天に我あり。我、三千世界あらゆる場所にあり。我権化也』
「……シルエットクイズかしら……」

 仏とは、さまざまな姿形で現れ、人に道を諭すものである。ここが天なればでは、天に適合した形として現れるものだ。四天王をあてずっぽうに言えば当たるのではないか。

「多聞天」
『褒美を取らせよう』
「すげえ、当たった」

 どうやら多聞天、つまり毘沙門天であったようだ。毘沙門はその手を差し出し、天子に何かしらを預ける。

「ええと、宝塔?」
『如何にも』
「貰っていいの?」
『星にゃんに届けてほしい。また落としたみたいで』
「星にゃん? あ、寺? お忙しい所御苦労さまです」
『まかせた』
「え、ちょっとめんどい」

 小さくお茶目に手を振りながら、毘沙門天はまた雲の間に消えて行った。下に降りるついでに、物を届けて貰いたかったらしい。天のお目付け役が天人の前に現れる事自体は珍しいものではない。流石に菩薩や仏となれば違ってくるが、天や明王は、何かしら人に近しい役目を負っている為、時折こうして現れる。
 今回の場合、天で一触即発の事件を引き起こした地子への制裁かと思われたが、どうやら毘沙門はその事について不問とする様子だった。預かったのはおつかいである。

「それにしても……命蓮寺かあ」

 幻想郷において、何のコネクションも持たない地子にとり、棲むとなればまずは場所を確保し、飯の種を探らねばなるまい。命蓮寺に御厄介になれば、多少堅苦しくとも双方満たされるのではないだろうか。

「……あー」

 さて。毘沙門天はいかような腹積もりなのか。地子は、何かしら面白い事があるのではないかと、多少の期待を寄せ、地上へと降り立った。



 ※


 早苗と別れて一刻をすぎたころ。地子はあぜ道を歩いていた。
 収穫の終わった田畑というのは、寒さも交わり実に寂しいものだ。天は常に温かい為、四季を意識する機会も少ない。地子だった頃、それは日常であった筈だ。種が撒かれ、やがて青々と茂る田を社から見降ろし、黄金に実った稲を刈る為家族総出で百姓の手伝いに出る事も毎度だった。
 今年も災害は無く、疫病も無く、それは全て名居様の御蔭であると、そんな言葉と礼を、何度となく受けていたと、地子にはまだ幼い記憶が残る。
「おはよーございまーすおはようございまーす」
 ひとえに飯を食う、というのは、大変な事なのだ。作るものがおり、捌くものがおり、それを消費するものがいる。消費するにはまた働く必要がある。働いて物と銭を回さねばならない。そういったものが巡り巡り、飯になり飯の種になるのだ。そしてまた、人が食う為には人の力のみではどうしようもないものがある。
「おはよーございまーすおはようございまーす」
 自然の力だ。陽が無ければ作物は枯れ、陽がありすぎれば地は干上がる。水が無ければ田は単なる土の掘りであり、水がありすぎれば流れ行く川も同じ。こと、地を揺るがす地震というのは、筆舌に尽くしがたいほどの影響を人間に与えるのである。地が割れれば水は溜まらず、水脈はかわり、家財は崩れ、生物は乱れ、人そのものの命すら奪う。まして、津波など起きようものならば、海の見えぬ場所すらも、潮に攫われ、潮につかり、代々作った土地は不毛と成り果てる。
 名居も比那名居も完璧では無く、抗いようの無い強い力もあった。だが、それを極力抑え、人に幸なす事こそが、両家の誉れで在った筈なのだ。
 ――なのに。

「おはよー、おはよー」
「……ああもう、何? どこの虫? 最近の虫は挨拶すんの? ああ?」
「おはようございます。良い朝ですね!!」
「……昼よ」

 巡らす思考に割って入ったそいつは、満面の笑みで態度の悪い地子に挨拶を求めていた。どこの糞餓鬼だとも思ったが、どうやら妖怪であるようだ。
 視線をあげる。おはよう妖怪の背後には、長く伸びる参道が見えた。
 どうやら命蓮寺らしい。

「おはよう。ここの人?」
「おはようございます。はい、命蓮寺に御厄介になっている、幽谷響子です」

 地子は、響子を見て、瞬時に犬っぽいと判断した。

「参拝ですか?」
「聖白蓮に挨拶に来たの。御在宅かしらね」
「白蓮様ですか。朝のお勤めも終わって、たぶんのんびりしていると思います。お昼ですし」
「(昼って知ってて言ってんのか。馬鹿にされてるのかしら……)そう。じゃ、お邪魔するわ」
「ごゆっくりー」
「……門番とかじゃあ、ないの?」
「はい? 掃除婦です。そうだ思い出しました。白蓮様はのんびりですけど、星様とナズーリンは忙しいみたいです」
「あらそ」

 何となく理由は解る。もしかしたら隠ぺい工作に走っているのかもしれない。毘沙門天から直接預かるような宝塔を無くしたというのだから偉い話だ。
 ともかく、中に入ってみよう。地子は参道を裏に抜け、母屋の方面へと向かう。寺の前にちゃんと寺の地図が載っている辺り心遣いが行き届いていた。防衛には向きそうにない。

「あーだ」
「こーだ」

 大方予想通りであった。母屋の影からちょっと覗くと、そこには寅柄の寅っぽい寅の人が、半べそをかきながら鼠色の鼠っぽい鼠の人と言い争っている。

(あれが代理とお目付けか)

 東風谷早苗の話を思い出しながら、そのあからさまな特徴から判断する。寅柄の毘沙門天。そして毘沙門天直下の眷属である鼠。こうまで象徴的な存在が言い争っていると、まるでファンタジーそのものだ。きっと仲良く喧嘩しているに違いないし、勝利者はいつも鼠だろう。

「だからあれほど言っただろう、ご主人。寝てる間も風呂に入っている間も御手洗いの時も、常に頭に乗せておけと」
「しましたよ、しましたよナズーリン。私は貴女の言う通り、常に頭に宝塔を乗せて輝かせていましたとも、まるでうらさびしく漁港を照らす真冬の灯台のように」
「なんだいその例え、上手い事いったつもりかい」
「ははあ、ナズーリン。あの状況下では、流石の私も宝塔を無くす訳がない。つまりこれは最初から仕組まれた出来ごとだったのですよ。ナズーリン、貴女謀りましたね」
「ほほう。仏神の代理が、人をむやみに疑うというのかい。大層なホトケサマもいたものだ。いいかいご主人、私はあの宝塔の重要性を、骨の髄まで身にしみて解っているんだ。それをわざわざ隠したり、ましてご主人を貶める為に使ったりする訳がないじゃないか。宝塔を無くした事自体もそうだが、私は毘沙門天の代理としての自覚と品性を、お目付けとして直接伝えてあげているんだ」
「随分と上から来ましたね」
「実質的なヒエラルキーなら私の方が上さ」
「ぐぬぬ」
「むむむ」

 こいつら本当に喧嘩しているんだろうか。もしくはこれこそがブッティストにおける高度なやりとりなのか。地子には判断がつかない。ただ客観で、率直な感想を述べるのならば、重要な物を紛失した割には軽い。

「……夕餉」
「ふん。何をどうするって言うんだい」
「夕餉までには、戻ってきます。この、財を集める程度の能力で」
「なかったら?」
「今日の……具の……高野豆腐を……譲りましょう」
「――なん……だと? あ、あれほど好きだと言っていたじゃないか。それを、譲るのかい?」
「必然なのです。私があの宝塔を持つ事を許されている事も、貴女が私の目付としている事も。それはつまり、毘沙門天の加護ぞあるからなのです。おお、毘沙門天よ、吉祥成就。オンベイシラマンダヤソカワ」
「くっ……そこまで言うのなら、仕方が無い。鼠達も引き上げよう。君の力、信じようじゃないか」

 地子に、重いのか軽いのか解らないファクターがのしかかる。てか、坊主が賭け事するな。
 地子は一つ溜息をついて、その足を進め、二人の前に出る。

「お探しのものはこれ?」
「ナズーリン、高野豆腐はこのヒトにあげてくださいね」
「くっ……相変わらず抜けてても運は良いな、ご主人……」
「で、私は聖白蓮に御目通り願いたいのだけれど」
「これはこれは、良くいらっしゃいました」

 半べその顔を拭い、寅丸星が営業スマイルを作り上げて対応に出る。鼠はこそこそと隠れていった。

「私、ここのご本尊の、寅丸星です。動いていますがご本尊です」
「半べそでも?」
「半べそでもご本尊です。それで、聖白蓮に御用向きと……ところで、どちら様で?」
「比那名居天子……比那名居だった天子だった、地子よ。一応先ほどまで天人だったのだけれど、親族をぶっ殺すと脅して自主勘当したわ」
「天人ですか。ああ、たしか幻想郷界隈を練り歩く不良天人がいると、何処ぞの目出度い巫女に聞いた覚えがあります」
「私のことね」
「しかし過激な話ですね。何か思い悩む事があるからいらっしゃったのでしょう。それに宝塔まで抱えて。きっと毘沙門天の思し召しです。当寺院は貴女を歓迎します」
「懐が深いことで」
「たとい危ない人物だろうと、まあ、この尼寺に後れ取る様なヒトは、一人もいませんから」

 寅丸星は、然したる衒いも驕りも無く、そのように言い放つ。それだけ自信があるのだろう。パッと見ただけでも、この仏神代理がその辺りにうろついている妖怪とは全くの別物であると判断出来るし、東風谷早苗の言を信じるならば、聖白蓮という尼僧は、それらを遥かに凌ぐ怪物だというのだから、当然だろう。

「宝塔、確かに返したから。毘沙門天が宜しくって」
「あら、顕現なさったのですか」
「暇じゃないだろうに、アンタの事心配してるみたいだったわ。幸せね」
「え、えへへ……」

 想い人に遠まわしに褒められたような、照れくさそうな表情で星が笑う。元は寅か。ともなれば経立(ふつたち)から人の姿を取るまでになったのだろう。まず間違いなく、人とて食い殺しただろうに……その笑顔はそんな暗さを一切感じさせない、地子の心をジクジクと抉るような明るいものだ。

「ふふ。御案内しましょう」
「宜しく」

 代理に連れられ、地子は母屋へと足を踏み入れる。どこもかしこも真新しく、掃除も手入れも行き届いている。女しかいない寺だというから、もっとカオスめいているものだと思っていたが、そこはやはり寺院なのだろう。目ざとく辺りを見回しても、文句のつけどころがない程綺麗だ。

「尼寺よね」
「一人というか、一群というか、一匹というか、男なのか女なのかもいちまい不明な入道ならいます」
「ちゃんとしてるのね」
「はて、どこをとってちゃんと、と?」
「いいの。寺だものね」
「はあ」

 自己完結の地子をしり目に、寅丸が廊下を奥へと進んで行く。一番突き当りまで来て、漸くその足を止めた。

「聖。お客様です」
「え、自室にご案内な感じなわけ?」
「駄目でしたか」
「あいえ、手間が省けるから良いけど」

 客、と言う程大層なものでもないが、これから一部の区画を占拠させろと宣言するのだから、もっと交渉に見合うような場所で話を進めたかった。まさかいきなり住職の私室とは。いや、もしかすればだ。地子が何かしら腹に抱えていると承知の上で、ホームグラウンドで有無を言わせない展開に持ち込む為の策略かもしれない。
 そして思い出す。
 聖白蓮。幻想郷可愛い力現在ナンバーワンの、けた外れの怪物である。

「どうぞどうぞー」
「だそうです。じゃあ」
「え、行っちゃうの?」
「え、聖のお客様でしょう? それに私、これでもご本尊ですよご本尊。御本尊に部屋まで案内させて何が不満ですか」

 ご本尊が部屋までご案内。もう物理的にも日本語的にも大破綻だが、間違ってはいないので、地子は口を噤む。

「御茶とお菓子も後で持って来させますね。どうぞごゆっくり。ああ、夕餉も食べていってください。今日は私が当番です」

 ご本尊が夕餉を作る立場に居る変な寺である。
 ともかく、それら何だか良く解らない命蓮寺の状況に思考的撹乱を食らいながらも、地子は改まる。
 襖に手をかけて引くと、ほの明るい日差しが漏れた。障子戸から差し込む柔らかい光が、まるでそこに坐す主を後光のように照らしている。
 スッと息を飲む。それはあまりにも穏やかなのだ。人というのは、そこに存在しているだけで、匂い立つ空気が、気配が、力がある。だが、今眼の前にしている『コレ』は、そういった尖ったものが無く、全ての角が取り払われ、丸い。
 はっきり言ってしまえば、穏やか過ぎて異常である。そんなものは、人ではない。妖怪でもない。神ですらないのだ。

「末恐ろしいわ。本物ね、アンタ」
「まだまだ未熟です。八苦は滅そうとも、次から次へと、湧いてくるものですから」

 長い髪をした、たおやかな女性が、耳朶を優しく撫でるような声で言う。巻物を丸め直す所作は、その一つとっただけでも、どこか優雅だ。波風こそ立つが、これが荒れたり吹いたりする姿が、まるで想像出来ない。
 純然な恐怖を感じる。想像出来ないもの程、名状しがたい恐怖はない。
 が、そこは地子だ。頭を一つ振り、歩みを進めて怪僧、聖白蓮の前に坐す。

「元比那名居の、元天子。先ほどから幼名の地子と名乗っているわ」
「名居の所縁の方ですね。天に昇った方々が、当寺院に如何な御用向きでしょう」
「その天を降りたの。ハッキリ言ってしまえば、あんな所に拘る恥もプライドもないのよ。地に再び降りるにしても、当座の住まいがないわ。毘沙門天のよしみで、暫く置いてくれないかしら」
「いいですよ?」
「そう。流石にどこの馬の骨とも解らない奴を置けないわよね……ん?」
「どうぞどうぞ。お部屋は沢山空いているのです。私の御客様として御迎えしましょう」
「わあ、まるで聖人。言い当ててみましょうか。アンタ、一度全部失ったわね」
「よくご存じで。捨てに捨て、また拾いました。選りすぐった、とも言えるでしょう」

 にこにことまあ、良く笑顔でいるものだ。何かと余裕な表情と態度はしているが、内心皆が思っているよりも必死な地子は、こういう『素』で、誰に対しても態度を変えない奴が恐ろしくてたまらない。どこまで余裕なのか。どこに逆鱗があるのか。探ってみたい好奇心はあるのだが、今は機嫌を伺っておかないと、宿なしになる。

「ただし」
「きたきた。それを待ってたわ。ただじゃ気持ちが悪いもの」
「んっと。お部屋は綺麗に使ってくださいね。あと、好き嫌いせず出されたものは食べてください。でないと……」
「……でないと……?」
「カルマシールが増える事になります」

 そういって、白蓮は先ほど巻きなおした巻物を再度広げる。そこには命蓮寺に暮らしている人物達の名前と、なんか可愛いラクガキと、謎のシールがべたべたと張られていた。

「聖!! 聖!!」

 と、そこへ、セーラーな船員がなだれ込んでくる。ここに海は無い筈だが。

「どうしたんですか、水蜜。お客さんがいるのですよ」
「ああ、聞いてよ聖。出来たの、出来たのよ、1/200の聖輦船模型が!!」
「まあ、本当ですか!? すごいです、水蜜!! ハナマルです!!」
「やったーハナマルだーッ」

 ……違う。ここは寺じゃない。幼稚園だ。聖は嬉しそうに、ウキウキしながら『みなみつ』と書かれた脇に、ハナマルシールを貼りつけた。

「ちなみにハナマルシールが十個たまると、地霊殿温泉旅行が当たっちゃいますっ」
「坊主が地獄旅行行ってどうすんのよ!?」
「ちなみにカルマシールが十個たまると、でこぴんです」
「……案外やっすい罰ね」

 が、それを聞いた水蜜は、背筋を凍らせて固まる。まるでこの世全ての悪を全部一遍に見せられたような、言い知れない恐怖に打ち震えているのである。

「水蜜は良い子ですから、そんな事ありませんもんね、ねー?」
「ナイヨ。ナイアルヨ。ワタシ、ヨイセンチョウネ」

 そういって、聖はふふふと笑いながら、デコピンを素振りする。

 ――瞬間、何事が起ったのか、正面に構えていた地子の脳天が弾かれ、全身が四畳ほどぶっとんだ。

「アバッ」
「あ、いけいない、地子さん、大丈夫ですか?」
「アイエエエ……」

 無力な一般市民めいた悲鳴をあげて地子は起き上がる。
 ともかく怒らせてはいけない、と言う事だけは、間違いなく地子の脳天に刻み込まれた。頑丈な天人ならともかく、今の一撃、冗談で人間にぶっ放したのなら冗談では済まない。

「ごめんなさい……まだ、封印を解かれて日が浅いもので。魔界とは加減が違うものだから……」
「どんな壮絶な封印生活をエンジョイしていたのか果てしなく気になる所だけれど、まあともかく、宜しくお願いするわ。寝床を与えてくれる事には感謝するけれど、私は媚びないし、借りを作るのも苦手だから、そのうち返す」
「気丈なのですね。いつまででも居てくださって構いません。ウチの子になりたいというのなら、いつでも申し出てくださいね。何せ私、娘なんてもう千と数十年会ってなくって」
「あ、御長寿ギャグね。御馳走さまですー」
「おそまつさまでした」

 こうして、いささか選択肢を間違ったような気もするが、地子は地上で新しい生活を築く地盤を手に入れる。ここから先の事など、当然何一つ決まっていないが、不安もない。もとより、あの生ぬるく、毎日変わり映えのない天界に嫌気をさしていたからこそ、平然とこのような行動に出たのだ。



 ※



 翌朝。
 そこには『ちこの部屋』と表札がかかげられた。面積にして半畳、ワンルームである。命蓮寺の広大な庭の一角に据え付けられた地子の暮らしの場は、幻想郷のどこの犬小屋より小さい。となりには『きょうこの部屋』がある。それは地子も納得であった。

「さて、聖白蓮。説明して頂戴」
「はい。まずはここからです」
「どーゆうことよ!!」
(どーゆうことよぉよぉよぉよぉよぉ……)

 早朝の命蓮寺に地子の悲鳴めいた咆哮が響き渡り、遠くの響子が木霊した。

「響子ちゃんには納得頂いていますよ」
「そりゃまあ犬だから納得もするでしょ。猫? なのかわからなけど兎に角犬っぽいし」
「大丈夫です、ちゃんとご飯はみんな食卓を囲いますっ」
「そういう問題でもないでしょ。そもそもアンタ、部屋は沢山空いてるって言ってたじゃない。てか昨晩はそこに泊めてくれたじゃない。ナンデ? イヌゴヤナンデ?」
「地子さんは、得る事の尊さを知っているでしょうか。そして失う事の悲しさを知っているでしょうか」
「おっと、坊主的ゼンモンドーは御断りしてるわ。天界で散々聞いて育ったからね」
「むむ、そうでした。では自ずと、私の言いたい事が解ると思うのです」
「解るわー、超解る。解るけど体現はしないわ。何せ私、天人やめた身だからね」

 聖白蓮は、困ったように唇を噤み「むむむ」としている。釈迦に説法程ではないが、それこそ元天人の端くれである地子に、さてどうやって意図を理解して貰おうと考えているらしい。実質、地子は白蓮が何を言いたいのかはよく分かっている。人が歩み生活して行くと言う事は、獲得と喪失の連続である。何が重要で何が他愛ないものか。何を残し何を捨て置くべきか、そういった判断こそが、仏の道を歩む為の、最初のステップと成りえるのだ。
 が、地子の場合、それは全て百も承知で、実践しようとはしていない。何せ、天という仏教世界における人間の最頭頂部を捨てて、還俗した身なのだ。故に地子が必要とするのは、聖より俗である。

「だめです?」
「だめです」
「部屋に住もうと思ったら、あとは私の娘にでもなるしか道がないです……」
「あ、身内は甘やかしちゃうのね」
「私は出来た人間ではありませんでしたし、今も出来ていませんので、身内には甘いのです。でもでもですね、娘になったら毎日頭をなでなでしてあげられますよっ?」
「くっ」

 白蓮の『猫可愛がりしてみたい』というオーラがだだ漏れで、耐性の無い地子は後ずさる。こいつ人を動物か何かだと思っているのか。確かにこんな超生物の前からしてみれば、天人ですらなくなった地子などその辺りに蠢く有象無象のちょっと可愛い生物と見られてもおかしくはないが。

「た、他人でいいわ。しかしこれ、どっから持って来た小屋なの」
「あ、ええと」

 白蓮は言い淀み、その手を後ろに隠す。ほどけた包帯が隙間から覗いていた。
 ああ、ああ、そう。自作したのね、と地子はその謎の健気さに心を持って行かれそうになるが、一歩手前で踏みとどまる。何が健気なものか。夜なべして作ったのが人間用犬小屋などという倒錯的な建造物なのだ。それは鬼畜の所業ではないか。うきうきしながら人間用犬小屋を作る姿がちょっと可愛いが結果的に納められるのは地子のほっそい身体であり、提供されるのは寝苦しい殺伐たる住環境である。

「でもでも、飛倉の素材を使いましたよ?」
「つまり呪物で作り上げた空飛ぶ人間用犬小屋ね。名状しがたき恐怖を感じるわ」
「まあまあ。折角還俗したのです。一から全てを組み立てる喜びという人間的価値観を再構築しても、罰は当たらないと思います。努力に幸を。励みに喜びを」
「でも失うんでしょ?」
「諸行無常なのでー」
「でっすよねーって馬鹿! それじゃ駄目でしょうが」
「執着は心の贅肉です。地子さんの家庭環境は存じ上げませんけれど、思うに、所謂人らしい苦労も無かった事でしょう」
「うっ」

 笑顔の内から、するどい指摘が飛ぶ。こればかりは反論しようがない。確かに地子は、甘い両親と、偏見ばかりの主家の板挟みのような家庭環境下で暮らしてはいたが、殊人間らしい苦労や苦悩があったかといえば、違う。言ってしまえば、最初から人間が苦労して手に入れる環境を持っていたようなものなのだ。一から何か懸命に追い求め、己の環境を改善するように勤めてはこなかった。
 寝て、起きて、飯を食い、勉学に励み、読経し、主家に仕え、風呂に入って、飯を食って、寝る。
 数百年、実に、実に、変わり映えのない日常なのである。人間的、という価値基準の曖昧さはあるが、多種多様な人間に揉まれ、苦悩し、解決策を模索し、成功し、失敗し……そのような『当たり前』を、知識でしか、地子は知らない。

「……あの、折角ウチにいらしたのも、何かの縁だと思うのです」
「ちなみに毘沙門天の縁よ」
「そうなんですか?」
「寅柄の人に聞いて」
「ならばなおさらです。今でなくても良い、いつでも良いのです。貴女について聞かせてください。私は他愛も無い、夢ばかり見ている尼僧ですが、人様の話を聞いてあげられるくらいには、立派になれた気がしますから」
「謙虚ねえ。仏の代理を従えてる妖怪の言葉とは思えないわ」
「寅丸の事ですか。決して、従えている訳ではありません」
「ふーん。あれでも?」

 縁側で、寅丸が洗濯物と格闘している。綺麗に干し終えて額の汗を笑顔で拭ったところで、強風にあおられた洗濯物がひらひらと舞いあがり、地面に落ちて土まみれになった。彼女は膝を付き、orzとうずくまって動かなくなるが、ガバッと顔を上げたかと思うと、聖白蓮に目配せする。白蓮はにこやかに笑った。するとどうか。寅丸はまるで優しい先輩に励まして貰った新入部員の如く跳ねあがり、ニコニコとまた洗濯を始めたのである。

「寅丸は、えーと」
「なに?」
「んっと。お友達です」
「お友達、洗濯すんの?」
「します。みんなしますよ? 当番制なので、地子さんもやってくださいね」
「アンタは?」
「私は、いつもやりたいと言っているのですが、皆に全力で止められてしまって……」

 早苗の話と、小屋を作る過程と、小屋の出来具合を見れば解る。彼女は極度に、不器用なのだろう。もしかしたら家事洗濯は、彼女とケミストリーするとエクスプロージョン的なエナジーを生み出し、仕事を五倍ぐらいに増やすのかもしれない。

「これでも、昔はお母さんだったんですよ?」
「でも子供にも止められたんでしょ」
「なんで解るんですか……」

 というか何年前だよ、というツッコミが決まり、ひと段落つく。ともかく、言いくるめられた気はしたが、元から贅沢を求めていた訳でもないのだ。聖白蓮の話に完全同意など間違ってもしないが、ここは引き下がる。
 そう。さっさと地子様の素晴らしい実力を発揮して飯の種を見つけてこの寺をオサラバすれば良いのである。

「ふん、まあいいわ。じゃあ私、仕事を探してくるから」
「殊勝な心がけですね。ただ、今は農閑期です。普段ならお仕事もあるでしょうけれど、だいぶ減っていると思います」
「そう、そうっか。そうね。でも、無いわけじゃないでしょ?」
「でしたら、商店街入り口に据え付けてある求人掲示板で探して、お役場から紹介して貰うと言う手がありますね」
「手慣れた返答ね」
「人間のように働いて、日々の糧を得たい、という妖怪も、少なくはないのです。長続きしないのが、難点ですけれど」
「じゃあ、探して来るわ。ああそうだ、せめて、その小屋に布団ぐらいつっこんでおいて。幾ら元天人とはいえ、凍える」
「ええ。寅丸に言っておきます」
「お友達にお願いする話なの、それ」
「あ、私が入れておきます」
「はいはい」

 聖に背を向けて、手をひらひらとやる。聖白蓮。噂にたがわぬ変な妖怪である。ただ、早苗の推薦する可愛い力ナンバーワンと言われると、また微妙な話だ。単純に、彼女の好みなのかもしれない……いや、当たり前か。あの早苗バイアスしかない評価表など、一体どんな当てになるか。


 寒空の下、地子は商店街へと足を踏み入れる。白蓮の助言通り、商店街の入り口には、でかでかと掲示板が設置してあった。しかしその大きさに似合わず、求人の数はだいぶと少ない。当然、力仕事関係は農作業ではなく、土木関係ばかりだが、それもまた少ない。
『河川堤防工事日雇い労働者募集 現物支給』
『楽しい職場! 霧雨道具店 店頭販促、倉庫整理など 住み込み三食』
『おいでませ紅魔館 メイドに興味はありませんか? お嬢様の機嫌取り、ワガママ付き合い、掃除洗濯、その他諸々 住み込み二食おやつ付き 』
『甘味処創想荘 ウェイトレスさん募集 可愛い制服選べます 日当~~銭、現物支給半々』

 つらつらと、求人広告を眺めて行く。河川堤防工事の広告には、河童の「自然壊すよくない」「強権的な」「もろきゅうり」などというアジビラがべたべた貼られて反対を訴えられていたり、霧雨道具店も「ブラック企業」「しいたけの食べられない部分」「こんにゃくいも」などと戦慄の批判が書きこまれ、紅魔館の広告においては周りの広告が避けるようにして貼られる程ギラギラしている。

「殺伐としてるわね」

 唯一まともそうな甘味処の募集要項だが、地子は里冷やかしで一度入店したことがある。どうやら外から来た人間が営業しているらしく、かなり異質な雰囲気を醸し出している。具体的に言えば媚び媚びしているし、ひらひらしている。どこの遊郭だ。ちなみに里に風俗店はない。狭い世界なのだ。

「あら、販売業?」

 掲示板のだいぶ下の端に、隠れるようにして一つの求人がある事に気が付いた。

『後藤生花 接客販売 やさしい先輩がおしえます 』

 それはいい。それはいいが、何か緑色の髪をした笑顔のこわいお姉さんのイラストが書かれている。地子は遺伝子レベルで危険な臭いを察知し、目を背けた。あった事は無い筈だ。無い筈だが、そのイラストの本人と思しき女性とは、絶対に遭遇してはならない気がした。

「――あら」
「……何よ」

 目を背けた先に、不思議げに小首をかしげる女性がいた。シャツとジーンズ、というなんとも幻想郷らしくないいでたちに、花柄のエプロンをつけている。その髪の色は緑かかっており、イラスト女性と酷似した。戦慄する。

「あまり見ない顔だけど、妖怪?」
「つい最近までは違ったけど、今は妖怪と大差ないわ。頑丈だしね……で、どちらさま」
「求人をみてたの?」

 どうも話を噛みあわせる気はないらしい緑髪の女性は、地子に近づき、花屋の求人広告を覗きこむ。

「このイラスト私が描いたの、似てるでしょ」
「ええ。直ぐアンタだと解る位には。で、何?」
「働き口を探してるからここに居るんでしょ」
「そうだけど」
「働かないの?」
「どこで」
「ウチで」

 そういって、女性の妖怪は求人広告をビリっと剥がす。

「役場には、人が間にあったからと伝えるから」
「いやいやいやいやいや。私にだって職業選択の自由ぐらいあるでしょうに」
「ないない。そこにある求人どこもきっついわよ」
「う、ウェイトレスとか」
「媚びれる? そういう店よ?」

 無理だ。えへへ、ちこちゃんかわいいなあ、ねえねえ、ぱんつなに色? なんて聞かれたら、衝動的にチョップで首をはねてしまうかもしれない。実際のところ、地子は本来、家柄の問題で巫女でメイドという属性を保有した類稀なる存在である筈だ。だが生来の性格と主家の扱いもあり、なんともパッとしない。

「貴女、名前は」
「地子だけど」
「幽香よ。風見幽香」
「風見幽香――四季のフラワーマスター? 大妖怪じゃない。なんで里で働いてんのよ」
「私も案外有名ね」

 緑髪の女性、風見幽香。顔は知らなかったが、その名は良く耳にする。無差別暴力装置、曰く一人にして電撃部隊、曰く空戦大艦巨砲、曰く因果破壊者。御大層な肩書を保有する、幻想郷の大妖怪の一角である。

「秋はヒマワリがないじゃない」
「そりゃ秋だし」
「花を求めて歩くのもいいけど、たまには立ち止まってみたいじゃない」
「え?」

 ぐぃりと、腕を掴まれ、そのまま引っ張られて行く。抵抗が抵抗にならない。どれだけ腕を離そうと頑張っても、万力めいた握力が地子を絡め取っている。

「ち、血とまるからっ」
「はいはい、大げさねえ」

 間違いなく天人頑丈度が無ければ筋の二、三本持って行かれているレベルである。この女はどうやら人型の物に対して加減なんてものを考慮するような妖怪ではないらしい。

「ちょっとちょっとっ」
「はい到着」

 あれよあれよと言う間に、商店街の真中程にある店舗に連れて来られる。そこでは中年の女性が接客の最中であった。

「店主、人手を見つけて来たわ」
「拉致してきたの間違いでしょう!! もう、なんなのよ!!」
「ごちゃごちゃ五月蠅いわね」

 幽香の眼が細まる。途端、腕を握る力は弱まったが、その視線から地子の脳内にゴアチックな映像が、比喩的に流れ込む。地子の生存本能が訴えた。逆らっちゃイケナイ。

「ハイ、スミマセン」
「あらあら、まあ。幽香ちゃんみたいに可愛い子ねえ」
「花の隣りにゴミは置けないもの」
(さりげなくとんでもない事言ってるなこのヒト)
「あなた、お名前は?」
「ち、地子よ。訳あって仕事を探しているの」
「そうなの。ウチで働いてくださるの?」
「あ、えっと」

 中年の女性、どうやら店主は、小首を傾げて地子を覗きこむ。気を遣っているのか、容姿に歳は感じさせず、言葉もどこか上品だ。気品がある、とはこのことだろう。上流階級のそれだ。

「ケホッ……ケホッ」
「ああ、店主。休んでていいわ。あと、やっておくから」
「そう。ごめんなさいね、幽香ちゃん」
「この通り、店主の体調が悪いわ。貴女はそのお手伝いをしなさい」
「えぇー……」

 店主は奥の座敷へと下がる。眼の前には腕組みをして見降ろす幽香。負けじと見上げる地子だが、冷や汗ものである。何が優しい先輩か。視線だけで一般人が失禁失神しかねない。
 頑張ったが、駄目だった。視線をそらし、花に目を向ける。
 多少の違和を覚える。この時期にしては、どうも鮮やか過ぎるのだ。
 というか、見たことも無い品種が並んでいる。

「春の花……、てか、何の花?」
「ああ、うん。少量だけど、扱っているわ。外からも幾つか株をね」
「どうやってよ。今、秋よね」

 地子が疑問をぶつけると、幽香は手を握ったり開いたりする。

「四季のフラワーマスターって、そのまんまの能力なの?」
「細かい説明がいるなら、するわよ。新人にものを教えるのは得意だから、得意だから」

 何故得意を強調されたのか知れないが、地子は首を振る。が、早速メモと万年筆を与えられた。

「あれは今から五百年ぐらい前のことだったかしら」
「その話今日中に終わる?」
「終わらないわ。分割して一カ月かける」
「oh.」
「ア?」
「あ、だいじょぶっす、聞くっす」

 高飛車……とまでは行かないにしても、基本的に自信満ち溢れる地子すらも、この怪物は御す気であり、そして実際地子は逆らえないでいた。なし崩し的ではあるが、この就職難の時期に、職にありつけたのは幸運ではなかろうか。流石地子、世界は七割くらい自分中心に回っているのだと、謙虚ポジティブに考える。

「で、あるからして……私はその時思ったの。暴力って良いなって。暴力が全部を解決してくれるわ。五月蠅いやつの口を閉じさせ、嗅ぎまわる奴の鼻を粉砕し、ジロジロ伺う奴の眼を液体に変えられる」
「……――」

 それから一時間後、地子はそんなポジティブな考えはどこにも残っていなかった。



 ※



「もう少し綺麗に切りなさいよ。切り口が悪いと、水を吸いにくいでしょ」
「いや、十分綺麗よこれ」
「貸してみなさい」

 そういって、幽香はその手に握った花の茎を、手刀で切り落とした。空気が裂かれるような音が聞こえ、しばらくして余分な茎が離れて落ちる。

「ほら」
「ぶぇええ物理的に可笑しいわよこれッッ!!」
「出来る」
「いや、むり」
「出来る」

 頭をがしりと掴まれる。目の座った幽香の顔が迫る。間近でみると本当に美人だ。その美人は出来るという。では出来るのではないか? 出来る。出来る出来る出来る出来る出来る。私は達人、カラテの達人。間違いなくタツジン。タツジン!

「ハイ、ヨロコンデー」
「宜しい」

 この空間に否定の言葉はいらなかった。幽香先輩が出来ると仰ることは、実現可能なことなのだ。覚悟の足りない地子に、幽香先輩は惜しげもない努力で教示してくれているのだ。報いなければ報いなければ報いなければ――――

「――……ハッ。あぶない、洗脳ね!?」
「チッ」

 舌うち。幽香は黙々と作業を続ける。危なく洗脳されかけた地子は手元の鋏に力を込める。基本的にあまり会話らしい会話はない。初日は殆ど幽香の自伝を聞かされるだけに終始した為、作業は今日が初めてだった。
 まだ陽も昇りきらぬ時間だというのに、幽香はそれよりも早く来て、既に最初の準備を終えていた。果たしてどこでおろされている花なのか。種類こそ多くはないものの、これだけ仕入れるとなれば苦労もある筈だ。

「仕入って、どこでやってるの」
「紅魔館の副業とか。農地の隙間とか。あと、ウチの温室とか」
「なるほど、考えた事もなかったわ。紅魔館がねえ」
「敷地には花を植えるべきよ。無駄に広いならなおさら。あの門番も、腕があがったわ」

 などと、幽香は一輪取り出し、睨みつける(見定めているのかもしれない)

「温室って?」
「私がやってるわ。急激に成長させるより、持続的にゆっくり力を掛けた方が、花も自然に育つの」
「へえ」
「家庭菜園もやってるわ」
「へえ」
「お料理もするわ」
「……へ、へえ」
「趣味はお菓子作り」
「ぶぼふっ」
「なに?」
「い、いえ」

 座った瞳が地子を睨みつける。花と野菜を育てていて自給自足しつつお料理もして趣味がお菓子作りとか、考えるだけでも地子は恐ろしかった。その無表情でやるのか。不味いも美味しいも同じ顔で言うのか。いやそれにしたっていささか無表情が過ぎるのではないか。
 この妖怪の生態は謎である。

「ねえ」
「手うごか……してるわね。何」
「幽香ってもしかして、あんまり笑わない?」
「……」
「ああ、別段とそれが気に入らないとか、そういうんじゃないわ」
「朝が弱い。そして、時期が悪い」
「妖怪だものね。でも、大概強い妖怪って笑顔よね、いやらしいほど」
「貴女もでしょ」
「私は繊細な事情があるのよ」
「秋と冬は、テンションが、低いのよ」
「ああー、なんか妖怪っぽい。冬はスキマのアンチクショウも冬眠するし、自然影響を受ける奴等は大半引きこもるものね」
「八雲紫、知ってるの」
「博麗神社倒壊」
「――貴女だったの、あれ。巫女が騒いでたけど。ああ、それでやり合ったのね、スキマと」
「凶悪ね、あいつ。底が知れないわ」
「あれは――私ほどじゃないけど。真っ当な概念は通用しないわ」
「業が深いわね」
「ただ、一番恐ろしいのは、貴女が手を出した、博麗」
「ただの人間よ?」
「ふふっ」

 幽香が顔を上げ、微笑む。地子は凍りついた。何が起こるのか。槍でも降るのか。幽香が花を束ね、数十本を一気に剪定する。今までにない鋭さで、切り離されたそれらはゆっくりと地面に落ちた。

「あれが? 馬鹿ね。あのスキマすら御してるのよ」
「スキマが本気じゃないからでしょ」
「本気にすらさせて貰えないのよ、アレには。人間は恐ろしいわね。幻想郷を飛び回る、所謂『人間』って人達は、並はずれてる。狂ってるとすら言える。私ほどじゃないけど。強いわ。そして、たぶん今後も倒せないし、私達は倒されるでしょうね。そう出来ているのよ」
「何それ」
「インストラクションよ、地子。世の中、どうにも成らない事が沢山あるわ。貴女はなんか、箱入りっぽいし、知らないだろうけれど。人間は恐ろしいわ。そして、例外なく、脆い」

 そういって、彼女は作業を終えると、正面の戸を引き開く。陽射しが入り、漸く朝であると認識出来る程の光量が齎された。
 それにしても、と思う。
 人間の店で、人間みたいな単純労働に勤しむこの妖怪は、一体どんな意図があるのだろうか。妖怪と言うのは基本的に、食わずとも生きて行ける。人間ではないのだ。事象が現世に受肉している存在である。肉があるのならばエネルギーも必要になるだろうが、食わずとも妖怪として『存在』出来て居れば良い。概念と肉体の合間にある存在。そのどちらかに寄る事で、生きているのだろう。故に、飯の種の為に労働して賃金を頂こう、それで御飯を食べよう、という発想は無い筈だ。
 あるならば別の理由である。
 ちなみに、地子ならび天人は、ほぼ人間である。新陳代謝が半永久的に繰り返す為に、死に難いのだ。人間よりも高次の存在であるが、それでも人間である為に、食わねばならないし、怪我をすれば自然に治るのに時間がかかる。身体を治す方法が新陳代謝だけに限らないので、これもまた死に難いだろうが、消耗は激しい。

「ねえ幽香」
「何」
「なんで働くの?」
「聞こえが悪いわね。てかなんか、質問が馬鹿みたいよ」
「私は理由があるけれど」
「私にはないと?」
「理由が見当たらないの。妖怪は別に食べなくても死なないじゃない」
「そうね」
「じゃあなんで」
「あとでね。地子。店はやっておくから、里外れまで練炭を買って来て」
「ええ、私を遣いっ走りにしようっていうの? この私様を?」
「あ?」
「ふふ、もう睨まれても怖くないわ」
「ふぅん……」

 幽香の手があがる。地子は身体をビクつかせるが、その手は自らの頭を掻いた。

「なな、何よ? やや、やるの? お? やりますか?」
「あほくさ。ほら、行ってきて頂戴。お願いだから」
「まったく。人様を遣いっぱしりとはいい度胸だわ」
「ねえ地子」
「何さ何よ」
「働くって、なんだと思う?」
「そんな定義を私に聞いてどうするのよ」
「甘ったれ。ここは、お前の、家じゃない。本意だろうが不本意だろうが、対価を貰うなら動きなさい」
「ふん。先輩ぶって。ああ、わかったわよ」

 エプロンを放り投げ、地子は花屋を後にする。まったくもって不本意だ。ここで働くのも、幽香に使われるのも。
 一番の問題は、そんなものは当然なのであると、理解していて尚頭に来る自分である。罪悪感で死にたくなる。働く場を得ようと思ったら人の下に付くしかない。人の下についたなら、指導を受けねばならない。間違いを指摘され、怒られ、嫌味を言われ、それでも『はい』と頷かねばならない。『はい』と頷いたところで『本当に解ってるのか?』などと言われても、それでも『はい』と答えねばならない。更に手違いで間違えたとしたら、さらなる叱咤が待つ。だが、それでもなお、なお『はい』と頷かねばならない。
 それは何故か。先輩を否定しても、良い事など一つも無いからだ。適当に仕事を覚えて、大きな間違いをした場合、責任を取るのが先輩であるからだ。責任者とはそういうものである筈である。
 幽香のやり方が多少常軌を逸脱していた所で、別に本気で真似しろと言う訳ではないし、そもそも、後輩となれば先輩の仕事を助けながら仕事を覚えるのが、また当然の話である。
 解っている。当たり前だ。
 日々、先達に学びまた後続に諭しつつ、改善を試みるのが、人間である。
 それでも――頭に来た。その頭に来る自分に頭に来る。自分は何様だ。今や天人ですらないのだ。一介の妖怪である。しかしそんな妖怪である上に、食わねば生きて行けないと来たものだ。
 自由など、己が思っている程簡単に手に入るものではない。自由が当たり前であった事実が、恐ろしい。自分はあの状況で、自由ではないと思っていたのだから。

「甘すぎる……」

 トボトボと道を歩きながら、自己嫌悪で鳥肌が立つ。かといって、人に謝る程出来たヒトではないのだ、地子は。
 まだ二日だ。これから慣れるものなのだろうか? 人に頭ごなしに怒られたり、さもしい飯を食いながら泣いたり、寒さに凍えたり、熱さにうだったり――ぞっとする。ぞっとするが、帰る場所は既にない。

「あ、地子じゃない」

 不意に声があがり、地子は顔を上げた。そこには買い物かごを抱えた東風谷早苗がいる。

「はい、あーん」
「あー、むご」

 突如、口の中に何かを突っ込まれる。焼き菓子のようだ。

「ひょんにゃにあみゃいみょにょびゃきゃりちゃべちぇると、ふひょるわひょ」
「やだ、なんか可愛い。素でそれやる人なかなかいませんよ。プラス2ポイントで」
「もふ。にゃにしてるの」
「買い出しです。地子は?」
「買い出し。練炭を」
「自殺するの?」
「なんでそうなるのよ」
「死にそうな顔してたから」
「あー……」
「でも、尊大な態度の多そうな地子が凹んでる処みると、心の中がもやもやしますね」
「どういう意味よ」
「虐めたくなります」
「虐めてみる?」
「誘い受けですか?」
「――あはは」

 なんだこいつと、思うものの、内心とてもうれしかった。ただ一度話の席を設けただけなのに、まるで十年来の友人のような安堵感がある。嫌味が無い。そして彼女は笑顔だ。
 愛想でも、作りでもない。彼女の頬は綻び、地子に対して本当の笑顔を向けている。長い間名居神家の顔を伺いながら暮らしていた地子には、嫌でも人の心が解った。
 ……神長官。諏訪の神子。一体、若い身空で、どれほどのものを背負いこみ、そして、幻想郷に来たのか。それは、逃げなのか、飛躍なのか。もっともっと、もしかしたら切実な問題かもしれない。東風谷早苗の笑顔は温かい。本当の苦しさや辛さを知らねば、出来ぬ顔なのだ。

「アンタの事、嫌いじゃない」
「そら、数少ない友達でしょうしね。嫌われると辛いですよ?」
「嫌らしい事言うわね」
「なんだったら、改めて霊夢さんや魔理沙さんにもご紹介しましょうか。改めて」

 早苗は改めて、を強調する。それは比那名居天子ではなく、地子として紹介する、という意味だろう。数百歳年下の小娘に玩ばれているような気もするが、嫌ではなかった。

「ねえ、早苗」
「はい?」
「アンタ、私の事どう思う?」
「それは同性愛的な意味でですか、友人としてですか」
「まずその選択肢が入る事自体おかしいし、そもそもその二択なの?」
「ぶっちゃけ私は地子の事をよく知りませんが、美人で頭良さそうで羨ましいですね」
「初めて受ける評価よ」
「そうなんですか? 御家はともかく、他の人からは?」
「どういう意味よ」
「素の貴女を他人様に評価して貰える機会、ありましたか?」
「あ――」

 きょとんとした顔で、早苗は言う。地子は唖然とした。この娘の言う意味を理解し、尚且つ自分を省みた際、どれだけ滑稽な質問であるか、解ってしまったからだ。

「わ、悪かったわ、変な質問して」
「そうですよ。友達はあえて私達友達だよね、とか確認しませんよ」
「あ、あはは……」
「へんな地子」
「あ、あー……私は、買い出しをしてさっさと戻らないと、また怖い先輩に怒られるから」
「え? 働いてるんですか?」
「ええ。花屋で」
「ふふふ、可愛いポイント追加しておきますね。催事の際はそちらに発注するようにしておきます」
「毎度どうも。じゃあ、行くから。お菓子ありがと」
「あ、どこに泊ってるんです?」
「命蓮寺」
「因果ですね。ではでは」

 走り去る早苗の後ろ姿を見ながら、地子は小さく微笑んだ。そして、改める。
 周りを全て敵視して来たのだ。味方は多く見積もっても衣玖程度である。それだって、後ろに誰と繋がっているかも解らないのだから、さして深い話もしなかった。己の疑念が、深いつながりを拒んでいたのだ。ただ、今更過去の自分を否定する訳にはいかない。それはそれと、受け止めるほかない。
 改めてみると良い。ここは皆、地子の事など大して知らないのだ。今まで天人であった、などと、そんなものをどうとも思わない人達ばかりである。妖怪だって当たり前のように働いている里なのだ。自分が、受け入れられないのではないかという不安は、まさしく自分が作り上げた虚妄である。
 検めてみると良い。幽香が、地子憎さにあのような事を言ったり、遣い走りにしている訳ではない。そんなもの、長年培った自分の観察眼を信じるならば、直ぐに解った筈だ。地子は否定されているのではない。否定される事を恐れ、まず自ら相手を否定しているのだ。そこからは何も生まれない。
 自己との葛藤はするべきだ。だが、それだけでも前には行けない。

「謝ったら、何かひらけるかしら」

 是非も無い。まず、やってみるべきだ。



「ただいま」
「来たわね」

 店に戻ると、椅子に座った幽香が独りお茶をしていた。客は無い様子だ。

「買える分買って来たわ。これ、何に使うの」
「店主用。そろそろ寒くなるから。出した分はそこの金庫から持ってって」

 なるほど、と頷く。確かに、店主はあまり身体が強そうではないし、咳き込んでいる姿も見ている。体調を崩しているのだろう。

「あ、あの」
「何」

 頼まれた品を机に置き、幽香を正面に据える。彼女に表情の変化はないが、悪意も無い。直ぐに解った。
 地子はあまり味わわない空気である。こうして、問題に対して正面からぶつかることなど、まずないのだ。あったとしても、それは此方の一方的なもの。つまり、あの親族会議のようなものだ。

「ご、ごめんなさい。調子に乗りました」
「――……」

 幽香は――面食らっていた。目を見開き、手に持ったコップが傾き、床に茶が垂れる。

「な、なに?」
「げ、幻想郷で……まともに謝る妖怪なんて……いるのね……。育ちが、違うからかしら?」
「え、なにそれ」
「幻想郷で正面向かって謝る程従順で素直で素敵な性格持ち合わせてる奴なんて、指で数えるまでも無くそもそも居ないのよ。ショックで失神しそうだわ」
「幻想郷ってホント不誠実な場所ね……」
「あ、ああ。悪かったわね。いいわ。赦す。うん。赦す。そもそも、怒って無いし」
「怒って無いの?」
「この程度の反抗で怒ってたら、私はこの里を五度は滅ぼしているわ。でも、素直なのはいいことね。扱いやすいわ」
「扱いやすいって――」
「扱いやすいってつまりね、此方が教える幅が広がるし、其方も受け入れる幅が広がるのよ。貴女は正しいわ、地子」
「あ、ありがと」
「じゃあ、休憩取りなさい。奥の座敷で。店主がお昼作ってくれたから。終わったら、次を教えるわ」
「う、うん」

 ほっと胸を摩擦なく撫で下ろす。幽香の見たことも無い顔には驚いたが、成程と思う。彼女は怒っていないと言ったが、一時的な怒気は確実に存在した。それで此方が卑屈になったりすれば、関係はますます悪化の一途をたどるだろう。自分は新人、向こうは先輩。なれば、最初の印象一つで、その人間の印象というのは、ガラリと変わるものだ。
 変化もなく、保守の世界に居た地子にとって、想像を絶する人の動きである。
 そもそもほぼ此方が一方的に悪いのだ。なればこそ、己の葛藤を脇に追いやり、私を滅して謝るならば、相手とて悪くは扱わないだろう。勿論、先輩の性格が最悪である場合や、人格に問題がある場合はこの限りではないが――。
 ともかく、幽香がそんな気持ちの悪い性格でない事は、確かなのだ。

「地子ちゃん」
「あ、ええ、なに?」
「お昼、食べるでしょう」

 奥の座敷に座ると、店主が自ら握り飯と沢庵、そしてお茶をお盆に載せて現れた。この時間帯、食欲を煽るむき出しの栄養の塊を見せつけられれば、否が応でも腹が蠢動する。

「悪いわね。昼食なんて、御馳走になってしまって」
「毎度は出してあげられないけれど」
「十分すぎるわ」

 行儀よく手を合わせて、炊きたての湯気を上げる握り飯にありつく。一つかぶり付き、角を取るように小さく齧る。米の甘みを味わいながら沢庵を摘まみ、それをお茶で流し込めば、まるで胃に染みるような至福が訪れた。

「なにこれ、美味しい」
「そうかしら。普通のものだけれど」
「そ、そうなの?」
「……働いて食べるからじゃないかしら」

 店主がお茶を啜りながら言う。地子も気が付いていた。自分は、まったくもって瀟洒じゃない。小慣れていない。かなり浮いていると言っても良い。実際浮いた処に暮らしていたのだ。労働らしい労働をして飯を食うなど、それがまして人からの施し物となれば、果たして何百年ぶりだろうか。

「わ、解るわよねえ」
「食べ方はお行儀がよいし……言葉づかいも、本当はもっと丁寧でしょう。どこかのお嬢様なの?」
「あ、ああ。まあ、普通の人間ではないし、お嬢様っていえば、お嬢様だったわ」
「事情があるのね。一人っ子?」
「ええ。一応、神社の娘だったわ」
「神社の娘が、妖怪に? 博麗神社が妖怪に占拠されているって噂があるけれど、昔からよくあったのかしら……」
「ち、違う違う。博麗神社は未だ巫女が強権きかせてるし、私も妖怪じゃないわ」
「人でなくて妖怪でもないのかしら」
「うっ……説明し難いわね。ええと、六道ってあるでしょう」
「ええ」
「天の、一番上に居たわ」
「仏様……?」
「厳密には、仏というのは悟りを開き涅槃に至った者のみを指すわ。つまり、釈迦、阿弥陀、薬師、諸々。その下には菩薩がいて、明王がいて、天がいる。仏にもかからない、人間にもなりきれない。そういう中途半端な奴等よ」
「じゃあ、飛び出してきたのね」
「あが……」

 店主は、ニコニコとしながら言う。状況的に、どうやったって包み隠しようのない身空なのだ。人間も天人も、妖怪ではないのだから勝手には湧いてこない。

「よ、余計な詮索しないでくれる? だ、大丈夫よ、一度決めたのだから、いや、無理やりだったけど、働かせて貰えるなら、ちゃんと働くわ。幽香の話も……出来る限りで、聞く」
「追い出したりしないわ。私より、年上なのでしょう?」
「私からしたら、大半の人間が赤ん坊と同等ぐらいになっちゃうわよ……あむあむ」
「美味しい?」
「……うん」

 どうにも。井の中の蛙大海を知らずとでもいうか。いやそもそも、ここ自体が井戸から池に落ちたようなものなのだが……人らしく生きて来た人、世の中をしる妖怪……そういった奴等に、まず言論で勝てる気がまったくしない。威張れば威張る程、気恥ずかしさが目立ってしまう。
 なんと矮小か。それで人間より高次だと言うのだから、ちゃんちゃらおかしくて、逆に笑えて来た。

「私」
「うん?」
「十四歳で天に召しあげられたの。仏法を学ぶでなく、功績を認められた主家の名居家に付き従う形で。だからつまり、私は十四の頃から、何一つ動いていない。勉強も、鍛錬も、沢山したわ。毎日毎日、呆れるほどに。他の天人や主家から馬鹿にされないよう、頑張ったの。でも、見下されたまま、動かなかった。私は、どんなに頑張ろうと、従者の娘。天の一区画を自由に出来る程度の権限しかない、世の中を知らない、身動きの取れない、偶像」
「やっぱりお嬢様なのね。気品があるもの」
「初めて言われたわよ……ああ、うん。そうなのよね。初めて見る人達からすれば、私なんて、何ともない一介の妖怪。でも、それが好都合だわ。色眼鏡で誰も見ないもの。こんな事に気が付くのに、時間がかかるなんて、全く愚か」
「地子ちゃんは」
「うん?」
「長生きなのね」
「ええ」
「なら、幾らでも、何度でも、思う存分やりなおせるわ。ここは貴女の言う天ではないから。常に全てが入れ替わる、人間の世界だもの。ちょっと、神様や妖怪が、当たり前にいるけれど」

 そういって、店主は白髪交じりの髪の毛を揺らし、ころころと笑う。地子はなんとなく、水のような人だと思った。
 店主の言う通り、地子は恐らく長生きだろう。地に下ったからといって、その仏性が即座に失われることもあるまい。何の変化もない天に比べ、地は実に表情豊かだ。
 握り飯を見つめる。
 自らがまだ幼かった頃。農作業を手伝い、百姓からその手に齎された粟稗の握り飯を思い出す。
 自分は――きっと、笑顔だっただろう。

「地子ちゃん?」
「は、はい」
「? 何か、嬉しい事があった?」

 地子は……握り飯を見つめながら、今久々に、まごころから笑っていた。
 


 ※



「おつかれ」
「ええ、おつかれさま」

 夕刻。商店街を歩く者が酒を求める人間だけになった頃。身支度を整えた地子は店の外に出た。幽香はまだエプロン姿のままである。

「作業については、別段と文句はないわ。要領も良い」
「ドーモ」
「昨日と、今日の分」
「あ、あー」

 そういって、幽香は包みを地子に手渡す。ひぃふぅみぃ……中を確認し、地子は苦い顔をした。もし、己を省みず、幽香に今まで通りに接していたなら『何よこのくそ駄賃』などと言ったかもしれないが、口にはしなかった。自分の労働は幽香に比べ劣っているし、そもそも里の花屋に盛大な振る舞いなど期待してはいけない。

「ありがと」
「……ま、そんな顔するわよね。でも口に出さないだけマシ。尊いのよ、労働って」
「身をもって感じてるわ」
「そういえば、貴女が何者なのか、まだ知らないわね」
「知る必要があるかしら」
「そうね。ま、どこかのお嬢様だろうけれど」
「……店主にきいて。話したから」
「お茶でも飲みながらきいておくわ。じゃ、また明日」
「うん」

 そういって、地子は幽香に背を向けて歩み出す。ここから命蓮寺は、歩いて十分もない、里の外れだ。
 辺りを見回すと、家路を急ぐ者や居酒屋を目指す者、里の自警団などが良く見てとれるが、女性の姿はあまりない。幻想郷の里という特殊な背景がそうしているのだろう。
 基本、里は商家と農家が一緒になっている。全てではないが、大半の農家の実家が里にあるのだ。里は大きく柵で囲われており、雑多な妖怪や霊を近づけないような術式も編み込まれている。(妖精は違うようだが)ここは幻想郷。あらゆる魔性が蠢いている。女性が夜出歩かないのは道理である。
 ただ、そんな術も強力な妖怪となれば無意味も無意味だ。しかし力の強い妖怪は大半が『弁えている』為、里もそれほど警戒はしていない。風見幽香などを例に見れば解るだろう。それに、里に入る妖怪は、同時に防衛にも加担するような暗黙の了解が存在しているのだ。
 複雑怪奇であり、もしその強い妖怪に悪意がある場合本末転倒なのだが……風見幽香レベルの妖怪を、果たして人間が防衛可能かと考えた場合、まず無理である。42センチ艦砲射撃を連続でぶち込まれて平気な村がないのと同じなのだ。対抗出来る者は限られている上、つい昔まで最終兵器扱いだった博麗は、現在妖怪に乗っ取られていると専らの噂で誰も期待はしていない。
 いやそもそも、結界で区切られて百余年。初期のいざこざ以来、大妖怪が里を襲う事例が殆どないのであるからして、警戒する人間が少ないのも、当然と言えた。

(むっ……)

 思考が一端途切れる。微弱だが揺れる。
 揺れた。
 大した震度はない。それこそ、机の埃すら動かないだろう。地子は頭を振り、もう一度思考を戻す。

「あー……でも確か吸血鬼が……」

 数十年ほど前。妖怪という妖怪をぶちのめし、幻想郷に君臨せんとした吸血鬼がいる。あの花屋の主人は知らないだろう。だが古い人間は過去の猛威を覚えている為に、未だに妖怪出入り禁止を掲げている店も、少なからずある。
 人間と妖怪の融和は、ほぼ、成った。だが、絶対はまずあり得ないのだ。隣人と、家族とすら喧嘩をする奴等が、何故理解不能の生命体と絶対的な信頼を築けようか。土台無理な話なのである。

「おかえりなさい、地子ちゃん」

 命蓮寺門前に、綺麗な女性の姿が見えた。まるで、子供を待っていた母親のように、優しい笑顔を携えている。
 千年の比丘尼。妖怪の救済者。あわよくば人間と妖怪の間を取り持とうとする、聖人めいた阿呆である。そう、心の中で罵倒はするが、地子は頭を振る。

「ただいま」
「疲れましたか?」
「そこそこに。労働らしい労働、久々だしね」
「でも、良い顔をしています。長続きすると良いですね」
「ここで何してるのよ」
「何故でしょうか。なんとなく、地が揺れているような、そんな気がして」
「敏感ね。確かに、さっき揺れたけど」
「わかりましたか」
「私はこれでも元比那名居よ。地震の神の巫女なのだから」
「なるほど。確かに」
「不安なら、私でも合祀する? 生憎と、分ける御霊はだいぶと余ってるのよ」
「地震避けですか。お手数でなければ」
「お安い御用よ。何せ要石を地面にぶちこむだけだからね」

 聖を連れだって、庭にまで赴く。生垣の近くまで行くと、地子はその手に要石を作り上げた。比那名居の気質と霊力、その他諸々の要素からなるこれは、幻想郷を通る龍脈等に作用して地に齎される災害を抑え込む。現在実質的に大きな災害に見舞われていないのは、元来から幻想郷に打ち込まれている要石の効果だ。
 ただ、抑えるだけで累積は増えるので、要石の許容量を超える地殻変動となれば、恐らく漏れて地を揺るがす事になるだろう。
 これはそういったものの簡易版である。

「絶対じゃないわ」
「ありがとうございます」
「これぐらいじゃ、借りを返す足しにもならないわね。まあ……犬小屋を貸し扱いにするのもシャクだけど」
「ふふ。じゃあ、御夕飯にしましょう。皆がお腹を空かせています」
「待って無くても良いのに」
「皆で食べる習慣ですから」

 家族以外と食卓を囲む機会の殆どない地子にとって、他者との食事というのは大変気を遣う。ましてや寺だ。居間に足を運ぶと、そこには既に皆が揃っている。当然聖はなんとも思わないだろうが、外様の自分は居心地が悪い。ましてや待たせていたとなればなおさらだ。

「悪いわね、遅くなって」
「はは。誰も気にしてはいません。動物じゃあるまいに」

 と、虎の耳っぽい髪の毛をぴょこぴょこさせ、寅丸星が言う。いやあ、どうみても動物なのだが、あえて突っ込まない。

「そんなことをいってご主人、口の端から唾が垂れているぞ」
「おっと、こりゃ失敬。地子殿が案外と美味しそうだったもので」
「ってそっちかーいっ」

 ばちーん、とナズーリンの突っ込みが入り、寅丸とナズーリンがドヤ顔で此方を見る。どうしよう、面白くない。地子は精いっぱいの作り笑顔で、本当に、本当に精いっぱいの作り笑顔で、彼女達の漫才を迎えた。
 ちなみに聖、水蜜、一輪、響子はふんぞり返って笑っている。笑いの沸点が偉く低いらしい。抑圧生活の所為で、どこかネジが究極的に緩んでいるのかもしれない。哀れだった。

「あ、あははは……ユニークなご本尊ね、聖」
「ぷふふ、くくっ……で、でしょう? 可愛いでしょう? うちの寅丸可愛いでしょう?」
「あはは、そうだろう、うちのご主人は可愛いだろう?」

 全員が寅丸猛プッシュである。どんだけ敬われているんだろうか。当の寅丸星は、照れ笑いだ。何だこの寺。

「さて、ではでは、仕込みも上手く行きましたし、頂きましょうか」
「え、仕込んでたの?」
「いやあ。新しい家族が先輩を待たせて食卓に遅れて来たら、さぞかし気まずいだろうと思ったので」

 ……。地子は、陰鬱では無く、嬉しそうに溜息を吐く。何せ、気遣われているのだから、悪い気はしない。

「大丈夫です、地子さん。何せ私達、誰一人人間はいませんから。この食事とて趣味趣向習慣の類です。なければないで誰も怒りません。でも、貴女はお腹が空くでしょう」
「ええ」
「むやみに気を病む必要も、背負う必要も無い。当寺院は、貴女のようなヒトの手助けをする為にあるのです。ひもじいならば施します。辛いのならば話を聞きましょう。当然、気丈そうな地子さんが、そういう事を口にしないでしょうけれど。伊達に皆、長生きしていませんから、解ります」
「……うん」
「じゃあほら、皆さん手を合わせて」

 とても不思議な寺である。そもそも、妖怪しかいない寺というのがおかしな話なのだが……ここに居る妖怪達は、幻想郷を跋扈する有象無象とは、根本的に異なるのだ。尼僧で魔法使い、虎で仏神代理……他は知らねど、誰一人として、まともな時間を送って来た者は、いないのだろう。
 お互いを見る目が、相当の信頼に満ちている。地子の記憶では、千年以上封印されていたとされる聖白蓮を、ずっと信じて待ち続けたと、そう聞いている。たった数百年で崩壊した家族関係を持つ地子にとり……それはあまりにも、眩しいものだ。だがそこに衒いはない。さも、当然の如くである。故に、この空間は地子を一切拒まないのだ。

「お口にあいますか?」
「天のより確実に美味しいわね」

 食卓に並べられた煮物に手をつける。染みた芋は口の中で解けて、優しい味が広がって行く。吸い物も思っていた以上に塩味が利いており、労働する身体にうってつけである。

「そうですか。自信作だったので、良かった」

 しかし、ここは寺だというのに、膳の上には盛られず、直接卓の上に全ての料理が載っている。

「膳で出て来ないのね」
「禅的な食事の価値観を否定している訳ではないのです。あれは食事と真剣に向き合い、それをも修行とするものです。ただ……これは、私と寅丸のワガママであるし、皆の合意の下なのですが。あまり、一人で食事はしたくないんです」
「どういうこと?」
「本気で食事と向き合ってしまったら、みんなの可愛い顔が見えないじゃありませんか。特に魔界に居た私と、私を待ち続けた寅丸は、長い間一人だったもので」

 そういって、聖はお浸しを摘まみ、口に運ぶ。

「この葉物は、お百姓の五郎字さんから頂きました。そちらのお芋は、農作業が趣味で妖怪の泥田坊さんからです。こちらの筍は、謎の技術で保存されていた竹林の永琳さんから。で、そちらが家庭菜園を営む妖怪の風見幽香さんから。このお米も、この器も、その他諸々、人々から施され、尚且つ命蓮寺皆の熱心な慈善の賜物です。私達は一時の至福を、人と妖怪の善意から賜っているんです。そしてそれら全ては、この土地から齎されたもの。何を憎むでなく、何を怨むでなく、あるままの善意を受け、労働に励み、あるままの自然に立ち向かった結果にあるものなのです」
「……」
「地子ちゃんは、地震の神の代理でありましたね」
「ええ」
「人々に恩恵を齎す自然は、裏を返せば猛威となる。それを、自然の神を以って退けようと努力した人達がいる。日本らしい話です。私達は、自然の表裏と、衆生の縁によって編まれて在る。こんなに壮大で勉強になるお話はありません。それらに、日々小さくでも感謝して、皆手をとって生きて行こうというのが、ここ、命蓮寺です」
「……食事時に良く喋る尼僧ね。ご説教どうも」
「ふふ。考えた事、ありましたか?」
「生憎ないわね。ま、それがココの道義だというのならば、従うわ」
「今はそれで構いません。急激に変化するヒトなど、そうそう居ませんから」

 箸を進める。本当に今更の話なのだ。だが、それを実感しながら食事をした事が無い。聖は衆生縁という。全ての行いは繋がり、つまり、因果は綿密な繋がりを見せて応報となす。そして、それらの体現が彼女達、命蓮寺という集団なれば……地子に反論の余地は一つもない。そもそも、反論する気もない。自らもまた自然神の一。人の身から輪廻する事無く天人となった、菩薩にもっとも近い人間の一人なのだから。

(敵わないわねえ……)

 智慧とは、実践無くして身に付くものではない。地子の中に眠る知識は、漸くその実践に触れ、形をなして行く。
 ――しばらく、ここに居ても良いだろう。犬小屋でも、大した文句はない。
 地子には足らないのだ。生きて行く為の覚悟も、智慧も。では、先達に学ばねばなるまい。例えそれが不格好だったとしても、命蓮寺諸君は、決して笑わないだろう。



「げっぷ」

 それにしても、食わされた。まるで都会からやって来た孫娘に沢山食べさせようとするおばちゃん達のように、あれやこれやと寄こすものだから、断るのも悪いので地子は食べに食べた。
 地子は母屋の縁側に腰掛け、食後の腹休めといった感じで、何と無しに空を見上げてゆっくりする。この時間から、命蓮寺も殆どする事は無い。長く起きて居ればそれだけ蝋燭も消費する為、皆は庶務を終えれば寝るだけだろう。地子も多少の疲れがある為、早めに眠ろうと思っていた。明日もまた仕事である。
 体力的というよりも、精神的なものが大きい。普段遣わない気を遣い、普段やらない仕事を覚えるという作業は、想像以上に消耗するものだ。

「――早速か」

 見上げた空に、ひらひらとした輝きを見つける。はためく絹のようなそれはふわりと命蓮寺の庭に降り立ち、此方へと近づいてきた。永江衣玖である。

「こんばんは、地子様」
「やっほ」
「ひもじい想いは……していませんね、良かった」
「どしたの。そろそろ休もうと思ってたんだけど」
「それはそれは。いえ、近況を伺おうと思いまして。何せ愛しい元総領娘様が、まさか犬小屋めいた場所で寝泊まりしたり、寒さに震えて凍えていたり、餓えに苦しんでいる姿なんて観たくありませんから」
「犬小屋に関しては間違いないわね」

 そういって、地子は自らに与えられた部屋を指差す。

「虐待でも受けているですか」
「最初はそうも想ったけれど、今の私には相応ね」
「――……ま、丸い。丸いです地子様」
「いや、確かに色々食べ過ぎている気もするけれど」
「いえ。衣玖としましては、きっとどちら様かの家に上がり込んでワガママに幅を利かせて家主に迷惑をかけているものだとばかり思っていたのです」
「そのつもりだったけど。色々と思う所があったのよ」
「地に下りたのは正解ですね。たった二日三日衆生に触れただけで、これだけ変化があるとは。その適応力と元来の素直さは、実に愛しいところです」
「はいはい。で、何しに来たの」
「悪い話を持って来ました」

 衣玖は地子の隣りに腰掛け、その帽子を直しながら、言い難そうにする。さて、どのようなものか。衣玖ほど飄々としている奴が言い難いというのだから、相当である。地子は色々と考えを巡らせながら、話を聞く態勢を整える。


「名居と比那名居の動きが不穏です」
「具体的には」
「さて……もしかすればですが、地子様が邪魔なのかもしれませんねえ」

 頭を抱える。自分達を改めるでなく、比那名居天子を見ない方向で話が固まったらしい。愚か過ぎて罵倒する言葉すら浮かばなかった。

「こんなことだけは決断的ね」
「もし現実ならば、百年保留する話でしょうね」
「どんだけ信用のない娘なのかしら、私」
「実に鬼気迫る迫真の演技でしたからね、実際殺されるんじゃないかと気を揉んでいるんじゃないでしょうか」
「けど、あの人達に私をどうこう出来るとは思えないわ」
「自分達でどうにも出来ないのなら、人に頼む手もありますねえ」

 そのように言われ、ゾクリとする。
 死神の件だ。ここ最近、あまりにも襲撃数が多すぎる。かねてから不和の多かった親族の間に、不穏な考えを持っている輩がいないとも限らない。ただ、考えすぎであるようにも思える。そもそも、何故天人如きが彼岸に指示出来ようか。あちらにはあちらの統治機構があり、規律の中にある。そうそう干渉出来るものではないのだ。まして、ほぼ敵対である。

「勿論、憶測の域を出ません。ただ、胸にとめておく程度で良いと思います」
「で、なんでアンタは私に助言するの」
「オトモダチでしょう?」

 永江衣玖は……立ち上がり、ひらりと舞い上がる。地子は『オトモダチ』の永江衣玖に対して、相当の警戒心を持った瞳を向ける。

「アンタは言ったわね。誰の味方でもないと」
「はい。強いていえば龍神様ですがね。少なくとも、名居や比那名居には加担していません。そして更にいえば、私は個人的に、地子様をお慕いしていますよ?」
「――何企んでるの」
「聞こえが悪いですね。私は何も。ただ私は天人『比那名居天子』に、期待を寄せています。ずっと。それだけです」
「……おやすみ、衣玖」
「ええ、おやすみなさい、地子様」

 踵を返し、衣玖は夜空へと消えて行った。
 永江衣玖。あの天女は、長い付き合いなれど、考えが読めた憶えがない。基本的な行動原理は地震警報装置以外にないのだが、彼女が私情をはさむとなれば、まるっきりその思考は霧の中である。
 初めて出会ったのは何時の頃であったか。
 名居伝いに知りあった筈だ。天界でも高い位置にある場所と、幻想郷という不可思議な異境の狭間を行き来する妖怪。地震について造詣が深いという理由から、顔を合わせた。
 実際――名前を知ったのは、ここ百年程前の話である。彼女は殆ど自分を語らない。地震警報にしか顔を見せない時期も多い。ただ。彼女もまた、あれから数百年経っても変化はない。彼女は出会ったころから彼女であり、名前を知った後も彼女であった。

「……私は、アンタを何も知らないわ」

 オトモダチの彼女には、含みがある。全てを信じる訳にはいかないだろう。しかし、だとしたら、一体、何を考えているのだろうか。

「……地子ちゃん? 誰か、いらしていたんですか?」

 思案する地子に、声がかかる。聖白蓮だ。

「知り合いが来てたの」
「きっと心配でいらしたんですね」
「だと、良いんだけどね」

 彼女は、比那名居天子に期待していると言った。比那名居天子に期待する要素など、まるで思い当たらない。思わせぶりか……腹にイチモツあるのか。やはり、想像もつかなかった。



 ※
 


「ええと……これで良いかしら」
「そう。葉は全部取れてるわね。それをそっちのバケツに移して、終わり」
「どっせいっと……ううう」
「御苦労さま。今日は店主がもう休んでるから、私から払っておくわ」

 日銭。
 なんと儚い響きか。下界の労働者が、まさかたったこれだけの日銭を稼ぐのに、これほどの努力をしていたとは、地子には想像出来なかった話である。人間は皆、これを稼ぎ、これで生きる為に、またこれを稼ぐのである。無慈悲だ。仏陀は人は生まれを選べないからサッサと諦めろと仰った。王子様がそんな事言いだすのかと笑っていたが、何もかもを投げだした
後で実感する現実は、正しく仏陀の言う通りである。
 普段口にしているもの、普段何気なく扱っているもの、それらは全て、自然と人の手によって生み出されているのである。人は生まれを選べない。カーストが敷かれたあの国では、もっと重たい言葉だっただろう。
 あれから一週間。
 地子は、何事も無く毎日を繰り返していた。懸念らしい懸念も無く、降り注いだ災難も無く、日々を花屋と命蓮寺の往復に費やしている。

「飽きたかしら」
「何が?」
「仕事」
「飽きたとしたら、どうなの」
「大概、飽きたらみんな辞めるもの。まして、妖怪は直ぐに」
「私は大した不満もなく、先輩様の良いつけを守って、良い子にしているでしょう。無粋よ」
「言うわね。ただ、その通り。悪かったわ」
「いいの。幽香は思った事口にしてるだけだろうし。他意が無い事ぐらい知ってる」
「はン。まるで私を知っているように言うわね」
「幽香」
「何」

 無理やり雇われてから一週間、漸く風見幽香なる人物が解って来た気がする。春はもっと明るいと、霊夢辺りが言っていた。四季のフラワーマスターを名乗る彼女は、四季によってテンションも異なるらしい。ではそんな彼女は何故働いているのか。一番最初の質問であり、未だ解らぬものの一つである。 

「幽香って、なんでここで働いてるのかしら。知らない事といえば、そんくらいね」
「だから、向日葵がー」
「それは聞いたわ。だって、貴女程の妖怪なら、別に食べて行かずとも良いだろうし、接客で人間に頭をペコペコ下げる必要もないでしょ」
「あー」
「何?」
「三百年程前に通り越した質問だわ。インストラクションが必要ね」

 幽香は手を拭くと、エプロンを外し、近くの椅子に腰かける。既に外は暗く、光源は店頭に飾られた蝋燭が数本灯っているだけだ。まるで怪談でも始めるかのような雰囲気である。
 地子も花柄のエプロンを脱ぎ、綺麗に畳むと着替えの籠に放り投げ、手近な椅子を引っ手繰り、尊大に座る。

「貴女は、元天人よね。いいえ、天人そのものか。輪廻したのかしら」
「いいえ。人の身で、主家の名居につき従い、召しあげられたわ」
「……比那名居?」
「むっ」

 幽香が、頬を吊り上げて嘲る。何か思うところがあるのだろう。

「そうか。じゃあ貴女が噂の不良天人」
「今更ね。何よ、文句あるの?」
「面倒ね。無いわよ。噂程酷くは無いし、頭も良い。まあ、接客はイマイチだけど」
「ぐぬぬ」

 基本的な作業。つまるところ事前準備の剪定やら、花を選ぶセンスやら、その他肉体労働について、地子は率なくこなしていた。地子はこれでも良い所のお嬢様である。元総領娘である。プラス天人であり身体も頑丈だ。花を愛で花を評価する力はあるのだ。が、しかしながら、接客は酷い。

『あのー、すんませんー』
『はいはい、何?』
『え? ああ。誕生日に花束を贈りたいんだけど』
『なに色。何好きなの、贈る人。どんな雰囲気』
『ええと、女性でその、柔らかい感じの……色は確か青が好きだとか……』
『ふーん。アンタの女? それともただの知り合い?』
『そ、それは重要な話?』
『ったりまえでしょ』
『す、好きな人だけど……』
『あらそ。んじゃコレとコレとコレとコレね。リーズナブルにまとまるわ』
『そ、そうです、こんな感じ……ッ』
『まあ頑張りなさいよ。顔は悪くないんだから』
『あ、ウッス、頑張るッス』

「お客さんは友達かお前死にたいか」
「いいじゃない。お客満足してたじゃない。顧客満足度ナンバーワンよ間違いなく」

 ちなみにその接客で幽香からエルボーを三発程わき腹に食らい、流石の天人も地面にもんどり打った。

「お客さんが減ったら減給ね」
「そんな、それでなくともこんな雀のなみ……なんでもない」
「あ?」
「ハイスミマセン。け、けど。それを言ったら幽香、アンタが一番可笑しいしこわいわ。なんで客の前に出るとあんな満面の笑みで接客出来るの? 普段その笑顔私に向けられないの?」

『ちぇーっす、しぃーやせぇーん』
『はい、いらっしゃいませっ』
『(か、可愛い……なんだこの可愛い力は……神か?)あ、あの、お姉さんみたいな花ください』
『申し訳御座いません。私の大好きな花は、残念ながら今の時期に咲きませんの。でしたら、こちらなど如何でしょう』
『(ああ、向日葵みたいな笑顔だ……しゅ、しゅごしゅぎる……)それください。その桶ごとください』
『はい、ありがとうございますッ』

「こわっ」

 ぶるりと地子が震える。名状しがたき恐怖を感じる。こんなツッケンドンの、一体どこにあのような接客性格が備わっているのだろうか。

「性格なんてのはね、その場その場で幾らでも変わるものよ。変えられるもの。むしろ何に対してもその態度を変えない貴女をソンケーするわ」
「平等なだけよ」
「脱線したけど、つまるところ、私は妥協を趣味としたのよ」
「ああ、ええと、働いてる理由だっけ」
「そ。この幻想郷が閉じられたあと、ここには不自由な自由が残った。出て行くも消えるも自由だけれど、どこにも行き場はない。人間と妖怪が協調して暮らして行くとなれば、私のような妖怪でも、人間と接して行かねばいけないわ。単なる自然災害の権化としていれたならどれだけ幸せだったか」
「何故そうしなかったのよ」
「そう出来る時代じゃないのよ。貴女が思っている以上に、外の人間は闇を恐れず、災害を恐れない。妖怪という存在自体に、知らず知らず叛旗を翻し、尚且つ蹂躙して、圧殺したわ。でもこれを責めるわけにはいかないの。何せ私達は妖怪。人の思念から生まれたような奴等ばかり。子は親を困らせても、親を殺しちゃいけないわ。ああ、個人レベルの話じゃないわよ。人類全体に対しての話」
「外……」

 外。つまり、幻想郷の外。天界の下。有象無象の人類が跋扈する、人間界である。地子の人類に対する認識は、はっきりいって数百年前から大して動いていない。未だ、幻想郷の人里のような世界が残っているものだと、信じているのだ。

「確かに、ここみたいな人里、世界を探せばあるでしょ。あるけれど、国家単位で考えれば、それは無いと言って過言ではないわ。大きな戦争を繰り返して、人類同士がぶっ殺し合って、智慧を絞り合って、人類はコンクリートという人工の石で出来た家に住まい、鉄の車で駆けまわり、焼き物で出来た空飛ぶ鉄機で、月に行き、宇宙を回遊しているの。貴女の頭で想像出来るかしら」
「そ、外くらい知ってるわよ。天から見てるもの。で、でも流石に月に行ったりするのはギャグでしょ」
「冗談じゃないわよ。そうなっているの。私が、どれだけ強かろうと、武装した人類には敵わない。どれだけ自然の猛威を振るおうと、私の力では台風一つにもなりはしない。ああ、思い出すわ。私のテリトリーを犯した鎧武者共を、一薙ぎで大将ごと焼き払った時代。私には、もうそんな力は残っていない。いいえ、厳密にいえば、外に出た場合、そのような力は発揮出来ない。もうそんな幻想は、外には残っていない。つまり、私はここ、幻想郷にしか、もしくはどこか亜空間や異界……そんな場所でしか、暮らせないのよ」
「な、なんでそんな事言えるの。なんで知ってるのよ」
「実際見たし、実際体験したし、実際学んだからよ。その辺りの妖怪のように、眼の前の事しか見てない訳じゃないの」
「……」

 幽香は、自分の鞄から竹筒を取り出し、お茶を注いで一口した。地子には、幽香の話が理解出来ない。

「今、人類がどれだけいるか、知ってる?」
「え? ええ、解るわよ。ええと、一億くらいだっけ?」
「それは戦後の日本の人口ね。世界人口は七十億らしいわよ」
「は?」
「はって何よ。てか、人類日本人だけってどうよ」
「ちょっと良く解らないわ。人間って、そんな、星の数じゃあるまいに」
「星はもっとあるわよ。しかも宇宙は広がっているわ」
「んん?」
「……だから、ね。私達妖怪は、広がる宇宙のように多数に、広大に、膨大になって行く人類に圧殺される運命なの。あと百年もすれば、妖怪なんていう概念すら、どこかに行ってしまうかもしれない。だからこそ、私はここで、余生を生きる事にした。幻想郷という檻の中で、時に自由に、時に縛られながら、時に何も飲まず食わずに、時に日銭を稼いで飲んで食べて……貴女はどうなの、比那名居天子」

 どうなのと問われ、答えられるものではない。地子には何一つ、理解出来ないのだ。比那名居という家の縛りを脱して、自分は自由を得た気で居た。だというのに、それすらも幽香からすれば拘束の中だという。自らの存在が、一体どれほど矮小なのか、下方に想像を絶する。そして自分が、一体どれほど恵まれているのか、まったくもって実感出来ない。
 人がそんなに居たら……仏は、どうやって人類を救済するのだ? まさか、千手観音ですら手が足りないだろう。人類はそれだけ増えて、一体どうやって暮らしているのだ? 天はあれほどまでに……ガラガラだというのに。

「可笑しいわ。それでは、仏陀は、弥勒は、人を救いきれない。流石にキャパオーバーよ」
「でしょうね。だから殆ど諦めてるんじゃないの?」
「そんな……ッ」

 勢いよく立ち上がり、椅子が倒れる。幽香に反論したかった。だが、言葉は思いつかない。幽香の瞳はずっと此方を捉えたまま動かない。何か言えば、それだけ反論しようの無い言葉を浴びせられそうだった。

「人は生まれを選べないわ。貴女は、天人となった。つまり、救済される裁量の中に入った。幸福だと、想った事はないの? 天は、幻想郷のような、高度な術式で編まれた人造世界じゃない。それそのものが、世界に定着している、一種の不可侵な『世界』よ。人間界と同じように。故の六道。でしょう? 貴女は何故、わざわざその世界を捨てて、ここに来たの」
「それは……」

 親族に、頭に来たからだ。自分を認めず、ただ怠惰に時間と空間だけを消化し続ける奴等に付き従うなど、まっぴらごめんだったからだ。故に、比那名居天子には、大局的なビジョンは一つもない。

 いや――あった、筈だが……今は、悲しいかな、明日の日銭を稼ぐ程度のビジョンしかないのだ。

「あら、幽香ちゃん、地子ちゃん、まだ残っていたの?」

 何も言えず佇む地子と幽香に、店主が声をかける。上着を羽織った姿が、病人めいていた。店主はどうやら、あまり体調が優れないらしい。求人募集を出したのは、他ならぬ幽香である。

「ああ、ごめんなさいね、大きな音を立てて。ほら、地子、帰るわよ」
「ええ」

 そういって、二人は店の戸締まりを終えると、無言で背を向ける。

「店主、身体が悪いのよね」
「長くないわ」
「長く、ないって?」
「餓鬼じゃあるまいに、何言ってるのよ」
「……え?」
「冬を越せるかしら」

 そう残して、幽香は手提げかばんを肩に背負い、去って行く。地子は己に齎された混乱を整理するだけで、精いっぱいであった。声をかける間も無い。

「……死ぬの?」

 恐らく……どのような妖怪、人間が見ても、店主の病状は良くない。その蒼白の顔を見れば、長くない事は明らかであった。だが、地子には、いまいち意味が把握出来ないのだ。
 今の今まで話をしていた人間が死ぬという、意味が解らない。
 人は死ぬ。病と老いは、間違いなく人間を蝕む。絶対的に逃れられない。前触れこそあれど、もしかしたら次の日にはその魂魄は分離し、魄は物言わぬ肉塊に成り果てているかもしれない。
 理不尽は、常に隣にあるのだ。

「地子ちゃん」
「――!?」

 飲み込めない状況に置かれた地子に、店主が店出て声をかける。その手には何かが握られていた。

「これ、かわり御飯。多く炊いてしまったから、持って行って」
「――あ、ありがとう。美味しそうね」
「地子ちゃんは、幽香ちゃんと喧嘩していたみたいだけど……」
「さ、些細な事よ。何も問題ないわ。業務にも」
「ぶっきらぼうだけれど、春と夏はとっても元気なの。それにね、根も優しいのよ。貴女にはキツく当たる事もあるだろうけれど……嫌いにならないであげてね?」
「え、ええ。こんなの、親族の険悪さに比べれば……」
「おうち、飛び出して来たのよね。家族は心配していない? 今、どこで寝泊まりしているの?」
「だ、大丈夫よ。私なんて、元から居ないようなものなんだから。それに、今は命蓮寺にお世話になってるわ。店主は、何も気負う必要はないの。私、これでも数百歳よ? 店主よりも、何倍も生きてるんだから」
「そう。そうね。ごめんなさい、人間は一生が短いから、例え妖怪でも、若い格好をした子には、こうしてお節介を焼いてしまって」
「とんでもないわ。貴女は出来たヒトだもの。きっと、その優しさで救われる人がいるから、だから貴女は、そうして優しさを振りまいていればいい。もし邪魔立てする馬鹿が居たのならば、いつでも言いなさい。私、幽香程じゃないかもしれないけれど、並の妖怪なんかに負けない程強いのだから」

 そのように行って、地子は逃げるように走り去る。
 店主の優しさを嫌った訳ではない。ただ恐ろしくはあったのだ。
 店主は長くない。人間というのは、天人と異なる存在であり、尚且つ、間違いなく天人と同じ存在であるのだ。禅問答でもパラドクスでもない、それはそういうものなのだ。天人の寿命は数千万年と言われる。天人が生まれた頃から天人を続けている者は居ない為、その真偽は定かではないが、少なくとも地子が知る限り、ここ数百年で死んだ天人はいない。
 だが人間は、天人が瞬きをした間に、その身を滅ぼすのである。
 六道頂点の存在であった比那名居天子は、天人であるのだから、そんなものを恐れてはならない筈だ。八苦など苦しむに値せず、それら全ては諸行無常と受け止めるべきである。だが、比那名居天子は、地子はあまりにも半端なのだ。仏教を学んで天人になった訳ではないのだから。覚悟など抱いて天人になった訳ではないのだから。輪廻して蘇った訳ではないのだから。
 人の死。その恐るべき現実。
 人が死ねば、仏にならない限り、六道を輪廻し続ける。その魂魄はこの六道の煉獄に囚われ続けるのだ。真の悟り、般若波羅密多を感得せしめれば、その身は菩薩へと道が開かれる。不滅。不滅であれば、では恐れは、無い筈だ。
 ……。
 ……。
 だが残念ながら、地子はそんな実感を胸に生きてなど、いないのである。
 故に恐ろしかった。そんなに優しくして欲しくなかった。
 どうせ、人は死んでしまうのに、そんなに優しくされてしまったら……どうなるのだ?

「はあ……はあ……ハアッ……ッ」

 ただ走る。辺りは暗く、この寒さで普段外で呑んでいる奴等も、家の中に引きこもっていて、人影もない。商店街はまるで、ここだけ切り抜かれた影絵のようだ。
 恐ろしい。自分の先の見えない未来も、人の命も、仏の教えも。
 八苦は常に、あまねく人類を包囲し続けるのである。

「ハァ…………な、に?」

 りぃんと、鈴の音が響いた。商店街の奥が、まるで暗闇で見えなくなったと思うやいなや、道の両側を、人魂が等間隔に、遠くから此方に向かって灯り始める。

「そんなに急いで、どこにいくんだい」

 聞き覚えのある声が耳朶を揺する。普段耳にする声は、だいぶと緩んでいた筈だが、今のそれは緊張を感じられる凛々しさがあった。鈴の音と共に、行燈を片手に、大鎌を抱えた女が、いつの間にか姿を現す。

「な」
「な?」
「何しに来たァッッ!!! 何しに来た死神イィッ!!」


 赤髪の死神、小野塚小町は、怒気を荒げる地子に面食らう。同時に、これは戦闘も避けられないと、覚悟を決めたように鎌を抱える肩に力がこもっていた。

「彼岸はさ、人手不足なんだよ。何人も泣いて帰って来るだろう? 実力も無いのに自業自得って言えばそうなんだけどさ、仲間がやられて黙っている訳にも、いかないだろう?」
「だからなによ、薄汚い死神が、何人こようと、私は全員叩き潰すッ」

 普段の地子ならば、もっと余裕があっただろう。この身で数十の死神を彼岸に送り返しているのだ、自信が地子にはあって当然なのだが……今は時期が悪い。幽香と店主から突き付けられた現実を眼の前に思考するだけの時間の合間では、気も立つし、必死にもなる。楽天的な未来は、残念ながら無意識のうちにどこかへ行ってしまっていた。
 地子……いいや、比那名居天子の中には、どろどろとした焦燥感が纏わりついているのである。

 自分は、天人を捨てて、果たして何になるつもりでいるのか?
 仏は、本当に人間を救う気などあるのか?
 人は、死んだら本当に輪廻し続けるのか、そこで終わりではないのか?

 では、眼の前のこれは、天人として生きる比那名居天子の御霊を、いかようにする気なのか?

 人は、死んだら本当に輪廻し続けるのか、そこで終わりではないのか?
 仏は、本当に人間を救う気などあるのか?
 自分は、天人を捨てて、果たして何になるつもりでいるのか?

「……忠告する。それで済めば、あたいもこの鎌をふるう必要も無い」
「死神が忠告だあ? ナメた事言ってくれるわねッ」
「まるで狂犬だなあ。落ち着きなって。あんな煽り方はしたが、あたいは別に、お前さんを狩りに来た訳じゃないし、無傷で狩れるとも思っちゃいないよ」
「だ、だったら何しに来たのよ」
「だから、彼岸に魂を引っ張る死神が人手不足だから、あたいが狩りだされてるんだよ……。そして、お前さんに忠告する事もあって、わざわざここに来てるんだってば」
「ふん、どうだか……」
「まあ、いいや。言うだけ言うよ。あたいは、一応四季映姫地蔵菩薩代理の下に居る。御存じの通り、閻魔は複数いる。それは解るかい」
「ええ。そこには同情するわ」
「そうかい。で、だ。幻想郷担当の四季映姫ヤマザナドゥ殿は、積極的な妖怪狩りや、天人仙人の妨害に反対的な立場にいる。問題を起こせば別だが、ね。更に、前科のあるお前さんや、多少ヤヤコシイ茨木童子は、さらにまた別だ」
「さらに? その辺りの天人や仙人とは、違うってこと?」
「そう。お前さん達はどちらかといえば、幻想郷の秩序に加担している部分がある。主に、博麗がらみだけどね。故に、四季映姫ヤマザナドゥ殿は、特に比那名居天子を、幻想郷の妖怪の一角として処理する方向で進めてる。白黒つけたいんだろうさ。そうすればお前さんは狙われる事もない」
「……面倒が減るのはいいけど」
「やっと落ち着いてきたかい。それでね、あまり問題を起こさないで貰いたい訳さ。手続き上の障害になるし、死神が部屋に引きこもりになるのも、私が面倒だし」
「とはいえ、襲ってきたら叩くわよ」
「……そんな頻繁に襲うもんか。これから千年の話をしているんだよ。アンタの評価は、いや、悪名かな。だいぶ高い。あたいだって引き分けが精々だろうさ。新人の死神が食ってかかるなら解るけどねえ……そんなに、襲われてるのかい?」
「そりゃ、襲われているわ。ここ最近でもう、五人以上」
「馬鹿な。アンタが吹っかけたんじゃないのか?」
「違うわよ! なんであんな面倒くさい連中、わざわざ触らなきゃならないの?」

 話に、齟齬が起こる。そして、二人の胸に言い表せない蟠りがふつふつとわき上がる。地子は、死神をわざわざ襲ったりなどしない。彼らは敵。やらねばやられる。だから故に、面倒だから、戦いたいとも思わない。面倒だから。それが最近猛攻を仕掛けている。明らかに殺しに来ている。その事実が、小野塚小町という彼岸側の者からしても、可笑しいとなれば、どうも話がかみ合わない。

「面倒。ただ面倒。なんで手出さなきゃいけないの。手だしたら他からまた来るって解ってるのに、なんで出すの」
「合理的かつ理性的な判断だね。そう、手を出されたらこっちだって黙らない。が……そうか、あたいも、可笑しいと思ってた。あたいはね、四季映姫地蔵代理の話を伺ったから、こうして顔を出してるんだ。あたいの仲間がころころやられてる……おかしな話だ。もしそうなら、閻魔の判断を待たずとも、死神の統括がお前さんを殺りに、それこそ小隊規模で死神を派遣する。なのに、そんな動きがない。みんな単体、バラバラだ」
「――臭い。私はね、人が嘘をついているかどうか、直ぐ分るわ。アンタに嘘がない」
「臭いね。実に」
「嘘はないけど、隠せる奴は幾らでも居る。警戒だけはしておくけど、一応のところ信じましょう」
「頭の良いやつは会話が成立して助かるよ。幻想郷ときたら、さもなくばカラテだ! の勢いで襲ってくるからね」
「で、どうするの。私は、襲ってくる限り潰すわ」
「時間をくれるかい。ちょいと調べ物をするよ」
「そう……じゃ、行くから」
「ああ。さて、出て来るのは邪か蛇か……仏かもなあ……」

 小町はそのようにぼやきながら、商店街の奥へと消えて行った。その姿を確認してから、地子もまた振り向き、帰路につく。

 嫌な懸念が走る。普段殆ど接さない死神の猛攻。永江衣玖の助言。
 ――まさか、本当に、親族一同は、何かしらのコネクションをもってして、死神に比那名居天子の抹殺をけしかけているのではないか……?
 親が……子を? 理解不能も極まる。もしや、子とすら思っていないのか? 邪魔だったら消すのか? 恐ろしかったら殺すのか? なんだそれは――なんだ、それは?

「何よそれ……何よ……何よ……ッ」

 歩きながら、その手にかかえた握り飯を見つめる。まだ、ほんのりと温かい。

「ああ……少し、握り潰しちゃった……む……美味い」
「そうだ」

 ふいに、消えた筈の小町の声が聞こえる。遠いのか、近いのか。恐らく能力のせいだろう。

「あのおばあちゃん、そろそろだ。仲良くしてあげるんだよ」
「……ッッ!! し、」

 何かがおかしかった。どこか、ボタンをかけ違えたような違和感が、地子を圧迫する。
 地子は知っていたのだ。

「知ってるわよ……くそ……美味しい……ううぅ……ううぅぅ……うぅぅぅ……ッッ」

 派遣の死神を潰され、代わりに派遣された死神が何をするか。
 いや、どんな仕事をこなすかなど、知っていて当然なのだ。

「泣くか……誰が泣くか……ッ」

 だが、地子に出来る事は無い。それが理だからだ。彼女は死神らしい仕事をするだけだ。自分を殺しに来た訳でないのなら、そういう事だ。
 何が強いか。何が天人か。何も出来ない癖に。自分を守る事で精いっぱいなんて、冗談も過ぎる。
 地子の頭の中は、既に許容量を超えていた。こんなこと、天界に居てはまずあり得ないのだ。汗水たらして働く事も、反論しようのない、理解出来ない話を持ちかけられる事も、人が簡単に死ぬ事も、必死に自分の命を護る事も。

 溢れてくる涙を抑えきれない。
 地子はその場に崩れ落ちる。顔は、もうくちゃくちゃで、その姿がそのまま、名を表していた。

『地子』

 まやかしの声が聞こえる。まだ温もりがあった、父の声だ。

『地子』

 まやかしの声が聞こえる。まだ温もりがあった、母の声だ。

 こんな体たらくで、どうやって生きて行くというのだ。世界には数え切れぬほどの人がいて、数え切れぬほどの八苦を抱える人が生きている。たった一人の乙女の嘆きを、一体だれが拾い上げるというのか。そうしてくれるべき父も母も、もう二度と顔を合わせないだろう。まして、命を狙っているかもしれないのだ。
 人間界は、なんと恐ろしい場所なのか。
 家族とは、なんと薄情なものか。

「地子ちゃん。地子ちゃん」
「……ああ、ちこは、ちこは、一体……何で天人なんかに……」
「地子ちゃん。気を確かに」
「おか……あ、ひ、ひじり……」
「何かこわい事がありましたか?」

 肩を触れられ、抱き起こされる。視線をあげれば、そこには柔和な笑みを浮かべる聖白蓮がいた。

「な、なんでもないからッ」
「なんでもないのですか?」
「なんでもない!! なんで、こんな、人間界じゃ当たり前の、当然のことで……、なんともないから!!」
「……」

 聖は地子を抱きしめたまま、沈思黙考する。

(あったかい。何この人)

 一分ほどであっただろうか、身じろぎもしないでしがみ付く地子に、聖が口を開く。
 
「寅丸を通して、毘沙門天様からお話は伺いました。家族を殺戮すると脅して、家を出たと」
「冗談に決まってるじゃない……あいつら、それぐらい言わないと、何も動かないもの」
「優しいのですね」
「はい?」
「そのままでは親族もろとも五衰すると懸念したからこそ、そのような暴挙に出たのでしょう?」
「……――私は、ナニも出来ない。何もしてあげられない。自分で、精一杯だもの……」
「お話しましょう。私には、それくらいしか、出来ませんから」

 もし、たった一人の乙女に手を差し伸べるものがいるとするならば。それは想い人か、家族か、もしくは、聖人である。
 それほどに、この世には手を差し伸べる人間など、限られているのだ。
 人間界はまさしく末法。滅びの道を漫然と進み行く、壊れた箱舟である。
つづきますね


 誤字指摘ありがとうございます。そういう仕事の人ですかすごいですね。あと誤字はニンジャの仕業です。
俄雨
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コメント



0.5210簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
序盤早苗wwwwwとか思ってたら……すげぇシリアスだ
後編読んできます
2.100名前が無い程度の能力削除
評価するのだるいわー評価するのだるいわー
長いし深いし上手いし立ってるし評価するのだるいわー
6.100名前が無い程度の能力削除
やっと前半読み終わった~…。
何気にこの星はかわいいポイントが高いと思う。

誤字?
>怒髪天を突く ⇒ 衝く
今じゃ両方使うのかな。もしそうならスルーしてください。
7.100コチドリ削除
正正正正正正正正正正正正──
ハナマルハナマルハナマルチョットカルマ──

ヤベェ。べらぼうに面白い。
起きて半畳 寝て一畳 天子取っても お嬢さん。
いやさ、寝て半畳から幻想郷ライフをスタートさせた地子ちゃんの明日はどっちだ?

犬小屋は彼女にとっての菩提樹となるのか? 周囲にスジャータ役は事欠かないようだけど、うん、興味が尽きないです。
明日がお休みでホントに良かった。
8.100名前が無い程度の能力削除
面白かった、さっそく続きに行きますが、
早苗の聖さん語りの後の地子のセリフで喋わねーる(喋るわねー)とあって笑いました。
9.無評価名前が無い程度の能力削除
だめだ 面白すぎる
10.100名前が無い程度の能力削除
点数忘れスマソ
12.100名前が無い程度の能力削除
すっげぇ
序盤の早苗さんで笑いながら物語に入ったかと思ったら
全力で引き込まれた
18.100名前が無い程度の能力削除
ヒキが上手いなぁ
こんな風に切られちゃあ続きを読みたくなるに決まってるじゃない!
20.100名前が無い程度の能力削除
さすが俄雨さんだ…100kb↑がまるで長く感じない。
それだけ引き込まれてしまったということですな…
続きいってきます
22.100名前が無い程度の能力削除
アイエエエ、ひじりん、ひじりんナンデ!?
25.100名前が無い程度の能力削除
誤字の多さが少し気になったけど、面白かったです。
続き読んできますノシ
26.100名前が無い程度の能力削除
やばいおもしろい
後編行ってきます
30.100名前が無い程度の能力削除
あっさりのみこまれた
31.100名前が無い程度の能力削除
いつもいつも、応援してます
35.100詩所削除
どうやって幕を引くのか楽しみにしながら続きを読んできます
感想はその時に
36.80名前が無い程度の能力削除
>『いざよいさくや  正正性性性』
……なにがあったおい。流して、いいわー哲学するてんこ、もとい地子。
ただ、創想荘ルートも見てみたかった気も……悟り遠いなぁ俺。
38.100名前が無い程度の能力削除
早速後編に行ってきます!
39.100名前が無い程度の能力削除
ちょっと駆け足かなーとも思いますが、それでも尚中身が詰まってますね。
会話の時にどの台詞を誰が喋っているのか、すぐに分からないこともありますけど、同時に早口で畳み掛けて物語が迫り来る雰囲気を生み出してくれているので、相殺しているかと。
40.100名前が無い程度の能力削除
これは後半を読まねば
42.100愚迂多良童子削除
これはちょっと期待せざるを得ない。

>>ひと段落つく
一段落(いちだんらく)
43.100名前が無い程度の能力削除
小町小町小町小町小町小町こまちぃぃぃぃぃカッケぇぇぇぇ!!

茨歌仙ばりにかっこいいこまっちゃんに大サティスファクションです。ご本尊属性推しの星ちゃんもたまらない。てんこちゃんは本当に主人公が似合うぜこんチキショウ! こんチキ星! 言わなきゃよかった

地子の行く末と小町の活躍と小町の出番と小町のお乳と小町に期待して、いざ後編へ特攻だ! 覚悟しとけよ! 俺が!!
45.100名前が無い程度の能力削除
一段落はひとだんらくでも間違いじゃないでしょ
後編で地子のかわいい力はどれくらいに達するかな
49.100名前が無い程度の能力削除
すごい。話の長さが全く気にならない。
51.100名前が無い程度の能力削除
幽香・ゲンドーソー先生かっこ良すぎです
53.100名前が無い程度の能力削除
俄雨さんの作品はいつも深くて考えさせるなぁ
これが後編で何に変わるのかすごく楽しみです。さて読んでくるか。

……一瞬ブロンティストがいた様な気がしたが俺のログには何も無いな
59.100名前が無い程度の能力削除
見事な考察だと関心はするがどこもおかしくはない
幻想郷での生活がどのようなものか、興味深く読ませていただきました。
続きいってきます。
62.100名前が無い程度の能力削除
良い
65.100名前が無い程度の能力削除
さあ、続きへ
68.100過剰削除
開始五分くらいでこれは読まないと一生後悔する作品になると確信しました。
まぁ俄雨さんの作品かつ天子が主人公とくれば最初から読まないなんて選択肢はあって無いようなものなんですがね!
75.100名前が無い程度の能力削除
あっという間でした続きいってきます

あと冒頭の
>緋想天則 → 非想天則
76.100名前が無い程度の能力削除
うむ
80.100名前が無い程度の能力削除
すげぇ…
81.100名前が無い程度の能力削除
b
84.100名前が無い程度の能力削除
譛?霑鷹擇逋ス縺?聞邱ィ縺悟、壹>縺ュ縺
譁?唱縺ェ縺励↓100轤ケ
85.100名前が無い程度の能力削除
ドキドキしました
88.100名前が無い程度の能力削除
さて、どうなることやら
90.100名前が無い程度の能力削除
面白い。続きが気になる。
91.100名前が無い程度の能力削除
後半を読むのが楽しみです。
ところで、毘沙門天の真言がちょっと違うのは意図的なものなのでしょうか?
95.100名前が無い程度の能力削除
相変わらず面白いです。
続き読んできます。
104.100名前が無い程度の能力削除
続きが楽しみですね。
105.100名前が無い程度の能力削除
次行ってきます
113.100名前が無い程度の能力削除
里の求人広告の忍殺語に笑ってしまいました。続き見てきます。
114.100名前が無い程度の能力削除
早苗さんさすがやな
117.50名前が無い程度の能力削除
(iPhone匿名評価)
123.100名前が無い程度の能力削除
いい
128.100名前が無い程度の能力削除
すばらしい、後編ッ