Coolier - 新生・東方創想話

紅魔館のある一日 初心の魔女編

2012/02/29 23:46:11
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「そう、咲夜も不老不死になってみない?そうすればずっと一緒に居られるよ」
「私は一生死ぬ人間ですよ。大丈夫、生きてる間は一緒にいますから」











「で、断られちゃったって訳?」
「…うん」

ここは紅魔館の地下図書館。
椅子に座っているパチュリーの目の前には、同じく椅子に座りながら机に突っ伏しているレミリアがいた。

「不老不死が嫌だってだけで吸血鬼になりたくないって言うのとは違うの?」
「人間でいたいってさ。いや、理解は出来てはいるんだけどね…」

レミリアはテーブルに突っ伏していた上半身をゆっくりと起こす。
しかし、いつもは大きく広がっていた吸血鬼の黒い翼は力なく垂れ下がったままだ。

「でも納得は出来ない、と?」
「そりゃそうよ…。私と咲夜じゃ寿命が全然違うんだから…」

レミリアは上目遣いでパチュリーの瞳を見上げる。
どこか不貞腐れたような顔だ。

「咲夜に先立たれるってことを考えると…ね」
「まあ、確かに今までそういう経験なかったかもね」

レミリアにとって、咲夜は従者であり子供のような存在である。
そのような者に先立たれてしまうということを考えると、どうしてもレミリアの中にやるせない思いが生まれてくる。
子供に先立たれると親が悲しむという事は、人間に限った話ではなかった。

「あの時は咲夜がそう言うんなら仕方ないって言ったんだけどね…」
「…そうね」

しかし、パチュリーはレミリアの話よりも別の事が気になって仕方なかった。

「でも私は咲夜にずっとずうっと生きていて欲しいんだよ…」
「…そうね」

とてつもなく可愛かったのだ。
レミリアが。

「これは単なる我儘でしかないのかな…?」
「…そうね」

最早パチュリーはレミリアの話など全く聞いていなかった。

(何よこの感覚は…)

吸血鬼の象徴である大きな黒い翼は力なく垂れ下がったまま。
レミリアの翼は大きくぴんと張る事で、そのシルエットを実際の体以上に大きく見せるという効果を持っている。
それがないとレミリアの体はいつも以上に弱々しく、そして愛らしく見えた。

(今のレミィはいつもの強く誇り高い状態ではないというのに…)

いつもは堂々と背筋を伸ばし精一杯威厳を出していた体も現在は前のめりにわずかに沈んでいる。
まさに愛らしい幼児のままの姿をパチュリーの瞳に映していた。

(今のレミィは私の求めるレミィではないというのに…)

いつもは力強い深紅の瞳も涙目のまま上目遣いでパチュリーの瞳を見据えている。
その瞳はパチュリーの心に衝撃を与えた。

(なのに…なのに…)

そして極めつけはその顔だ。
美しい顔なのはいつものこと。
それが少々拗ねたような膨れっ面になっているところがパチュリーに母性本能を感じさせた。

(どうして今のレミィから目が離せない…!?)

「どうして人間はあんなに寿命が短いのかな…」
「…そうね」
(どうしよう…さっきからレミィの話が聞こえない…。レミィにはいつもの誇り高い姿を取り戻してもらわなければいけないのに…)

パチュリーは焦っていた。

「私にとっては咲夜は人間じゃなくても咲夜さ。吸血鬼だろうが魔女だろうが、ね」
「…そうね」
(私はレミィに今の姿を続けてほしいとも思っている!?そんなバカな!こんな弱々しい姿なんて本来のレミィではないのに…)

理解できない自分の心に。

「だったら私は咲夜に寿命が長い種族になってもらいたい。いっそそれが蓬莱人でもね」
「…そうね」
(私は誇り高いレミィが好きなのに…。何故こんなに心臓の鼓動が早くなるの!?)

目の前の親友の愛らしさに。

「咲夜は私の気持ちなんてわかってくれないのかな…」
「…そうね」
(体が熱い…。顔も熱い!?バカな!何故!?非科学的よ!こんな…こんな…)

パチュリーは信じられなかった。

「…パチェ?」
「…そうね」
(ど、どうすればいいの!?ええっと…こういう時はどうすればいいかって本に書いてたかしら…)

自身の体の変調が。

「パチェ!?聞いてるの!?」
「…そうね」
(…ダメ!どんなことが本に書いてあったのか考えられない!どうして!?)

思考することすらできない自分が。

「パチェ!?」
「…はっ?」

パチュリーが気付いた時には

「パチェ!どうして私の話を聞いてくれないのさ!」

レミリアの愛らしい顔がパチュリーの目の前にあった。
少し怒ったような膨れっ面だった。

これにはパチュリーも認めるしかなかった。

「か、可愛い…」
「…パチェ?」

意味不明なことを口走ったパチュリーがレミリアには理解できない。
思わずコトンと首を傾げてしまう。

(目の前でそれはちょっと反則じゃないかしら…)

パチュリーは今まで以上に自身の顔が紅潮していくことがわかった。

(そうよ…これはレミィを元気づける為にやることなのよ…)

誰に言い訳しているのかパチュリー自身にもわからなかった。

(別に他意があってのことではないわ…。全てレミィの為なのよ…)

ただ、とにかく言い訳がしたかった。

(そうよ…全部レミィが悪いのよ…)

救いが欲しかったのだ。
理解できない自分自身に。



「レミィ…貴女に良い事をしてあげましょうか」
「良い事って何さ?」
(なんだろう?)

「貴女が元の誇り高い吸血鬼へ戻る為の方法よ…」
「…え?」
(…そんなのがあるのかしら?)

パチュリーは自身が何を言っているのか分からない。
ただ、感情と欲望の赴くままに喋っているだけだ。

「レミィ…私を信じて…」
「…パチェ?」
「私に任せて…。貴女は私だけを見ていればいいのよ…」
(どうするつもりよ、私…)

「えっと…どうしたのさ、パチェ」
(私にもわからないわよ…でも…なんだか止まらない…)

パチュリーはレミリアの小さな顎に手を添える。
わずかに添えた手を動かし、自身の目線と同じ位置までに上げる。

「パチェ…?」
「レミィ…」

レミリアはパチュリーの紫の瞳に吸い込まれそうな感覚に陥る。

(そうよ…レミィが全部悪いんだから…)

そして、パチュリーはそっと自分の顔を寄せて





「ちょおおおおおっとまったああああああああ!!」
「…はっ!?」

どこからか大きな声が聞こえてきた。
思わずパチュリーはレミリアから手を離し、辺りを見回す。
出入口の方を見れば美鈴の姿が見えた。

「め、美鈴!?」

レミリアも美鈴の姿に気付いたようだ。
美鈴はずかずかと遠慮なしに図書館に侵入していく。

「お嬢様!?ご無事ですか?」
「…無事だけど?どうしたのさ、美鈴」
「パチュリー様に何かされませんでしたか!?体を弄られたりとか!」
「ちょっと!私がそんなこと…!」
「え、パチェに?いや、別に大丈夫だよ?」

パチュリーが弱々しく抗議の声を挙げるが、美鈴は華麗にスルーをする。

「あ、そうだ!お嬢様!私これから非番なんですよ!私の部屋でお話に付き合ってもらえませんか!?」
「え、でも今までパチェと話してたんだよ。なんか途中から変だったけどさ」
「パチュリー様はこれからお忙しいみたいですよ!ですから私の部屋へ行きましょう!ねっ?」
「ちょっと!美鈴!」

レミリアが美鈴の部屋に行く。
そう考えただけで怒りの感情が芽生えてくるパチュリー。
何故なのかはよくわからなかったが。

「そうか、パチェは忙しいのか…だから途中から…」

美鈴の言葉をあっさり信じてしまうレミリア。
レミリアはパチュリーが忙しいから、あのような小さな反応になったのだと考えたのだ。

「お願いします!私も最近お嬢様とお話できなかったから寂しくて…お嬢様とお話したいなあって常々思っていたんですよ!」
「じゃあそうしようか」
「レミィ!?」

自身が介入する間もなく話が淡々と進められてしまう。
パチュリーのコミュニケーション能力の弱さがここに強く出てしまったのだ。

「じゃあねパチェ。よくわからないけど頑張ってね」
「レミィ…私は忙しくなんか…」
「さあお嬢様!ぜひ私の部屋へいらっしゃってください!お嬢様に聞いて欲しい話が沢山あるんですよ~」

パチュリーの声も美鈴の大きな声にかき消される。
パチュリーは元々内臓が弱い為に肺活量が強くなく、声も小さいのだ。
そして、パチュリーが止める間もなく美鈴とレミリアは図書館の出口から出て行ってしまった。

「あ、あ…レミィ…」

パチュリーは二人が出て行った図書館の出口を恨めしそうに見つめる。
すると、美鈴だけが自身の方へ戻ってくるのが見えた。
パチュリーは先程の美鈴の振る舞いについて抗議をしようとする。

「ちょっと!メイ…」
「何やってんですか、貴女は」

いつもよりドスが効いた美鈴の声がパチュリーの耳に突き刺さる。
美鈴が怒りの形相でパチュリーを睨んでいたのだ。
思わず美鈴から視線を逸らしてしまうパチュリー。

「な、何の事かしら?」
「お嬢様が参ってる時に口説くのはルール違反だとは思いません?」
「い、いつから聞いてたのよ?」
「ほぼ最初から。私は気を操る能力で体の一部分を強化する事も出来るんですよ。それでちょっと聴力を、ね…」
「ぬ、盗み聞きしてたって訳?門番なら門を守ることに集中しなさいよ…」
「私は紅魔館の門よりもお嬢様の方が大事ですからね…。肝試しから帰って来たお嬢様は私もずっと気にかけていたんですよ…」

パチュリーは美鈴と問答を続けながらも平常心を取り戻そうとする。
美鈴に言い負かされるのは自分らしくない、と。
とにかく必死に落ち着こうとする。

(すぅ~…はぁ~…)
「聞いているんですか、パチュリー様」

パチュリーは深呼吸をして気持ちを整える。
多少は冷静に思考出来るようになったことが自分でもわかった。

「(よし…)あら、美鈴。魔女にルール違反かどうかを聞くのは少々場違いではないかしら?」
「何ですって?」
「魔女は手段など問わない。必要だと思ったらどんな手段でも使うのが魔女よ」

結局パチュリーは開き直る事にした。
先程の不可解な現象の件はとりあえず置いておく事にしたのだ。

「…なるほど。貴女は生粋の魔女ですよ、パチュリー様」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
「では、私はどんな手段を使ってでもお嬢様を守ろうと思います」
「…勝手にしなさい」

それを聞くと美鈴は踵を返し、図書館の出口へと向かう。

「…どうして付いて来るんです?」
「あら、私とレミィの話は中断してしまったのよ?どこかの居眠り門番のお陰でね」

パチュリーも美鈴の後を付いて来ていた。
レミリアの元へ向かう為に。

「それに先程も言ったでしょう?私はどんな手段を使ってでも欲しい物は手に入れるわよ?」
「では、私はお嬢様をどんな手段を使ってでも守ります。どんな敵からでも、ね…」
「ふふ…それがいつまで保つか楽しみだわ。精々頑張りなさい」
「貴女こそ。手に入れられるものなら手に入れてみてくださいよ」

美鈴とパチュリーは並んで歩く。

(お嬢様は私が守る…。例え、パチュリー様が相手でも…)

美鈴は自身の主を守る為に。

(さっきのレミィの姿を見ていたら私はおかしくなっていた…。あれの正体を突き止めなくてはいけないわ…。何よりさっきのレミィの姿が忘れられない)

パチュリーは自身の感情の行き所を見つける為に。
二人が図書館の出入口まで辿り着くと、廊下の真ん中でぽつんと寂しげに立ちつくしている吸血鬼の姿が見えた。

「レミィ!」
「お嬢様!」

二人の戦いの第二ラウンドが今、始まったのだった。
お子様な悪魔、初心な魔女、保護者な門番
二つ前の作品と展開が少々似てしまったことは否めません
それにしても、お嬢様と七曜の魔女様は親友のはずなのに何故(色々と)少ないのでしょうか
エル
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コメント



0.490簡易評価
2.70奇声を発する程度の能力削除
うーん…ほんの少しだけ、くどい感じがしました。
けれど面白かったです
5.90名前が無い程度の能力削除
面白かった。満足です。


だけど、ちょっとテンポが悪い気がします。
同じフレーズが連続すると、冗長な文章に感ぜられますね。
「そうね」がいささか多すぎるわ、とか。
他にも、心のセリフを地の文で説明せんでも分かるわい、とか。

でも、この「くどさ」を武器にする作家さんもいらっしゃいます。


どちらにせよ、もう少し推敲の余地があったんじゃないかと愚考しております。