数行で解らない登場人物紹介
宮古 芳香(ミヤコ ヨシカ)
本編の主人公で、思考能力はファミコン並。
胸はキョン乳。
驚いた猟師に、ヘッドショットを決められたがケロっとしていた。
最近オシャレ意識を持ち始めたのか、新しい服を買いに行くがセンスは絶望的だった。
有機物ならなんでも食べられるので、墓場で卒塔婆を主食にしているところを南無三された悲惨な過去がある。
豊聡耳 神子(トヨサトミミノ ミコ)
言わずと知れた聖徳王の異名を持つ聖人。
男といわれても違和感のない胸板だが、とくに問題ないと思っている。
人間の里に行くと、よくハニートラップに絡まれたり、女性からカッコイイと噂されるがとくに気にしない。
お気に入りのジャージの生地が少し傷ついただけでかなり落ち込んだ。
最近、太子様の様子がおかしい。
偉大なる霍 青娥様の道具である私は、そんなことを聞いた。
事の発端は、数日前にさかのぼる。
それは、私がナズーリンのお手伝いをする前のお話だ。
青娥様は、直接関わっていないのだが、神子こと太子様と二人のお供は敵である命連寺を訪れたらしい。
そしてその時は、話し合いは太子様と向こう側の代表格である聖 白蓮との2人が個室で行ったとのことである。
そして、話し合いはなんとかまとまり、我々はいくつかの不利な条件を突きつけられた。
一つ・人に無害な妖怪および、友好的な妖怪には手を出さないこと
一つ・妖怪を退治する場合は、正当防衛および人を救う時のみに限る
一つ・話し合いの余地がある妖怪に対しては、話し合いで解決を図ること
などと言った妖怪優遇の制約を認めることとなった。
対する命連寺も、妖怪達に不利な条約を呑む事になったらしい。
互いに不利な条約を守る事によって、大規模な全面戦争を回避するといった結果に落ち着いた。
そこまでは、よかったのだ。
だが、その日から太子様の行動に異常が現れたのだ。
太子様は、昔からボロ衣を着て民にまじり、民の様子を自らの五感で知ろうとしたらしい。
そんな行動派の太子様が、我々の住む仙界にある大霊廟を飛び出して、人間の里に繰り出す事は日常的と言っても過言ではない。
だが、最近の太子様はある目的で大霊廟を出て行く事が多くなったのだ。
それは、なんと敵である白蓮と合うためである。
本来ならば、それは大問題に発展しかねないのだが、太子様が白蓮に合う事を知っているのは私しかいなかった。
なぜならば、いつも出かける太子様を目撃しているのは、いつも外をうろついている私だけだったし、
太子様も、
『白蓮に合ってきます。他言はせずに、みんなには人の里へ遊びに行ったと言い訳してください』と、
命令されていたから、青娥様にも真実を話す事はなかった。
だが、青娥様が太子様と白蓮が会っている光景を見て状況は一変した。
布都は、めんどくさそうな屠自古を連れて命連寺に向かった。
私の主青娥様も、『私はただのマトです。好きなだけ弾幕を撃ち込んでください』と、いうプラカードを抱えて二人の後について行った。
私も命令されていないが、道具としていつでも青娥様の命令を受けられるように着いていこうとしたのだが、
以外な人物に呼び止められてしまった。
それは、事の発端となった太子様その人だった。
太子様のシャイニングくせ毛(命名・霍 青娥)は、なぜか猫耳に変わっており、背中には細い尻尾もユラユラしている。
その表情は、いつもとの優しい笑顔ではなく、少し気だるそうな表情をしていた。
そして、太子様はこう言ったのだ。
「芳香、今から私の戯れのお手伝いをしてくださいな。
これは、私からの命令ではなくて、仕事の依頼ですよ」
その瞬間、私の仕事は始まったのだ。
今日の仕事は、太子様の遊びに付き合う事である。
遊ぶ仕事とは聞いた事はないけど、依頼を受けている以上これは仕事なのだろう。
なので、今日は太子様の言われるがままに遊ぶ事にしようと思う。
「わかったぞぉ~!太子様のお仕事引き受けますだぞぉ~!」
「一日よろしくお願いします」
芳香は、神子に言われるがままに人間の里にやって来ていた。
しかし、ここで問題が発生したのだ。
神子は、しばらく新たに生えてしまった尻尾をゆっくりと振りながら考える。
「さて、まずは何から手を着けていいものやら」
「太子様は、何をしたいのだぁ~?」
そう、神子はひとまず人の多い場所にやって来たのだが、何をして遊ぶか考えていなかったのだ。
もちろんポンコツ頭の芳香では、神子を満足させられる遊びを思いつくはずがない。
せいぜいできることといえば、何も考えてなさそうな笑顔で愛嬌を振りまくことだけである。
しばらく考えた神子は、ふと自分自身の能力を試してみることにした。
「そうですねここは、私の能力を使って、みなさんの心の声を聞いてみましょう。
そうすれば、今どきのナウでヤングな遊びを知ることができるはずです。
では、早速...」
そう言って神子は、静かに瞳を閉じる。
尸解仙として目覚めた神子が、新たに身につけた能力...
それは、十人の話を同時に聞く事が出来る程度の能力である。
そして、その能力の副産物的な能力が、相手の心の内の欲望を聞き取るというものであった。
美しい欲も醜い欲も、彼女の前では一切が筒抜けなのである。
遊ぶということは、欲望そのものである。
だから神子は、人々の欲望を知ることによってこの時代の遊びとやらを知ろうとしたのだ。
しばらく、神子は静かに人々の心を聞き続けた。
そして、一つの結論を出す。
「ふむ、今のヤングな人々は、様々な娯楽を持っているようですね。
私が、人間として生きていた頃とは違うみたいです」
「どんな遊びがあるのか~?」
「まず代表的なものに、物を買うということです。
我々の時代の民は、遊びといえば道具を使った遊びなどが主流でした。
しかし今の時代では、物が容易に手に入りやすくなり、みんな生活以外でも娯楽の買い物を楽しむようになったようですね。
例えるならば、衣服や甘味などなど...私が人だった頃には想像もつかない事でした」
神子の生きてきた時代...
それは、天皇家の権力が弱まり、各地の豪族が血で血を洗う権力争いを繰り返していた時代だった。
神子も、もちろんその権力争いに巻き込まれることとなる。
女であることを偽り、いくつもの戦で戦果をあげた。
だが、神子には聞こえていたのだ。
戦乱でもっとも傷つくのは、何時の時代も同じである。
侵略を受けた国でもなく、報復を受けた国でもない。
暴力の渦に巻き込まれた民こそが、何よりも傷ついていたのだ。
大儀や名文なんて所詮は、まやかしである。
傷ついた民に手に、さしのべられる手といえば、己の権力と支持を得る為だけの工作でしかなかった。
だから神子は、戦い続けたのだ。
自分こそが、この国に平和と統治をもたらし、民が苦しまなくていい国を作ってみせると...
「まあ、そんな目論見も、所詮ひとり相撲に等しい儚い夢でしたがね」
「太子様~、なんで暗い顔してるの~?遊ぶときは、笑顔じゃなきゃ楽しくないぞぉ~?」
「おっと、失礼しました。少々物思いに耽ってしまいましてね」
神子は、今の民衆の生活を聞き安堵を覚える一方で、虚しさが心に宿っていた。
自分は、永遠に生ける王として、未来に続く永遠の和を作るつもりだったのだ。
だがその夢も、今はこうして統治の必要のない現状で実現していたのだ。
『なら、なぜ自分は目覚めたのだろうか?』そんな疑問が脳裏に浮かび上がる。
目覚めてから、まだ半年にも満たない時間で、何度も自問自答した疑問である。
答えは、未だにでない。
「芳香、服を買いに行きましょう。
遊びには、遊びに相応しい服装が必要です。
解らなければ、何事も形から入るべきなのです」
「おぉ~、青娥様がいつも芳香に着せてくれる服を買いに行くのだな!
青娥様も、芳香に命令するときは、いろんな服を着せてくれるぞぉ~!
ボンテー...なんとかとか、バニーだったっけ?あと、紺色の袖とかないぴっちりした濡れても大丈夫な服とか」
神子は、芳香ににっこりと微笑み、大霊廟に帰ったら某邪仙を無条件で殴り倒すことを決めたのであった。
尚、それらの服装の意味を知らない芳香は、あいかわらずの笑顔のままであった。
そんな二人は、遊びに相応しい服装を求めて衣服店を目指す。
芳香と神子は、神子がちょっと猫っぽいところを除けばいつもどおりだった。
そんないつもどおりな二人が、人間の里を歩いていると突然2人の人影が現れたのだ。
それは、命連寺に所属する新入り二人組の封獣 ぬえと二ッ岩 マミゾウだった。
ぬえは、いきなり二人の前に立ち阻かり、高らかに宣言する。
「見つけたわよ、聖人・豊聡耳 神子!!
道教を広めるのは別に邪魔するつもりはない!!
だが、おまえはここで終わりだがな!!」
ぬえは、そう言って狂気染みた笑い声を上げる。
無邪気な性格から、かすかにかいま見える狂気の笑い声...
常人ならば、言い知れぬ不安と不快感をあじわうことになるだろう。
もっとも、それがマミゾウさんから生えたモフモフ尻尾に、抱きついていなければの話だったが。
「ぬえや、ちょっと重いからそろそろ放してくれんかえ?
帰ったら、存分のモフモフさしてやるけえのお」
「ヤダー!今モフモフしたいの~!だって、マミゾウの尻尾は世界一なんだよ!!九尾にだって負けない!!
正体不明のモフモフ(かいらく)に、溺れて死ぬの~!!」
そう言って、ぬえは全身全霊でマミゾウの尻尾をモフった。
ビーズクッションや低反発抱き枕の非ではないその抱きごごちは、もはや現代技術では及ばないほどのモフモフだった。
さて、ここでみなさんに質問したい。
貴方は、全身に包まれるモフモフと、全身で抱きしめるモフモフどちらが好みだろうか?
もちろん私は、どちらも甲乙付けがたい幸せがあると思う。
エロいキツネとみだらなタヌキと言う言葉が昔からあるように、九尾の尻尾と神格の狸の尻尾は、まさに神の領域なのである。
そう、モフモフこそ正義であり、真理なのだ。
モフモフの前には、あらゆる教えは常人の戯言に等しく、像に挑む一匹の蟻の如くなのだ。
そんなモフモフを独占する封獣 ぬえに、豊聡耳 神子は激怒した。
邪知暴君の王(モフモフ独占禁止法違反)を許してはおけぬと思ったのである。
そこで神子の取った行動は、華麗なる助走から放つドロップキックは、
ぬえの左顎を貫き、骨の構造上で曲ってはいけない方向にひねられた。
「このモフモフ狸の尻尾は、聖徳王のものとなったのです。
はい、今決まりました。異論は認めません」
神子は宣言した。
この宣言と共に、幻想郷モフモフ歴0044年は、革命的な日となったのである。
これまで、ぬえのモノとされてきたマミゾウのモフモフは、神子のモフモフとなったのである。
これを『豊聡猫耳 神子の変』と言う。
ちなみに、『~~の変』と『~~の乱』という戦は、両方ともクーデターを意味し、
成功した場合は、変と言い失敗した場合は乱と言う。
「ククク、実になじむぞ!!この神子の全身にこれほどなじむモフモフあんまりない!!
というわけでこのモフモフは、仙界にしまっておきます」
「うわ~ん!!マミゾーを返せえええええ!!」
「力ある者は、好きなものを手にできる。良い時代になったものです」
モフモフを手に入れた神子は、素早くマミゾウを仙界へと幽閉した。
その暴虐ぶりは、かつての神子の姿からは想像を絶する光景だった。
妖怪の切り札を失ったぬえは、絶望に飲まれただ泣いた。
その哀れな姿に、神子は手をさしのべるどころか、まるで見下すように眺めているだけであった。
そんな神子に芳香が問いかける。
「太子様~今日は何かおかしくないですか~?」
芳香は、ふとそんな言葉を口にした。
だが、神子は『そんなことはありませんよ』と言葉を返すだけである。
そんなふうに答えられた芳香は、それ以上探求することなく再び歩き始めた神子についていくばかりである。
芳香のポンコツ頭では、そう言われてしまえばそれ以上を疑問に思うことはないのである。
ただ、言われるがままに着いていくだけであった。
一方そのころ、命連寺を目指す物部一行は、命連寺所属の村紗 水蜜と雲居 一輪&雲山と遭遇していた。
両者は、出会うべきではなかったのだが、出会ってしまった両者はにこやかに笑顔で挨拶をする。
「これはこれは、我々の復活を邪魔してくれた命連寺の方々ではないか」
「そういうあなた方は、妖怪の殲滅を望む暴力主義者の仙界の人々じゃないですか」
布都と水蜜が、激しくにらみ合う。
両者は共に笑顔だが、今すぐにでも殴り合いが始まってもおかしくない状況である。
しばしの笑顔ににらみ合いの後、布都が口を開く。
「そう言えば最近、妙に太子様の機嫌がよろしい様でな。
太子様の幸せは、我等の幸せも同じ...
それ自体は、非常に素晴らしいことなのじゃ。
でもお宅の大魔法使い(笑)様が、うちの太子様をたぶらかしている様で...
。
本当に、どんな術を使ったことやら...」
対する村紗は、小馬鹿にしたように笑って、布都にこう言った。
「そうそう、聖も最近やけに機嫌がよろしくてね。
毎日のように性悪王でしたっけ?
その御方が来るのを楽しみにしていますよ。
最近では、流行のファッションとやらも研究されているようでして...」
両者の額の青筋が、みるみる濃くなっていく。
屠自古と一輪は、これは面白いことになりそうだと傍観を決め込む。
青娥は、いつでも両者の攻撃に割って入れるようにタイミングを見計らった。
次の瞬間、布都と村紗の拳が互いの頬を捕らえた。
1秒にも満たないわずかな時間で、二人の身体は互いを突き放すように吹っ飛んだ。
屠自古は、本日の夕飯を考え、一輪は、そろそろ漬けておいた漬け物が食べごろだろうと考えた。
青娥は、完全に両者の間に入り込むタイミングを見逃した。
「へぇ、やるじゃん...普段から錨を振り回す私とほぼ互角だなんて...」
「はは、拳法で鍛えた我と互角か...程度の低い妖怪にしては、なかなか骨があると見た」
周囲の風が静かに弱まり、両者を阻むものが無くなっていく。
屠自古と一輪は、とりやえず周辺に被害をだして自分達に責任がかかることを恐れてその場を立ち去る。
青娥は、期待に満ちあふれた表情で、二人を見ていた。
そして、二人の地を引き裂くような大声で戦いのコングは鳴り響いた。
「太子様を!!」
「聖を!!」
「「ねとってんじゃねええええええ!!」」
ここに、スペルカードを無視した鬼の殴り合い並の肉弾戦が繰り広げられようとしていた。
ちなみに、このあと周辺に甚大な被害をだしたために、某紅白巫女に制裁(物理)を喰らったのは説明するまでもないだろう。
衣服店についた芳香と神子は、神子の思うままに衣類を見て回った。
約1400年ぶりに目覚めた神子にとって、それらの衣類は珍しいものばかりである。
和洋折衷が入り乱れる衣類の種類は多く、どれもこれも目うつりするものばかりだった。
しかし尸解仙として、目覚める前から限られた衣類にしか身を包んだことのなかった神子は、
どういったものを着ればいいのか解らなかった。
「そうですねえ、芳香はどう思いますか?」
「これなんかいいと思うぞぉ!青娥様は、前に私に着せてくれて喜んでくれたぞぉ!」
「ほぉ?」
そう言って、神子は芳香のオススメの一品を見る。
それは、西洋の家政婦が着るカチューシャを頭にはめるタイプの衣類だった。
幻想郷でこの服を着こなしているのは、紅魔館の犬ぐらいだろう。
そんな衣類を持って、芳香はこう言った。
「青娥様は、この服を着て『ご主人様は、雌豚みたいですね』って言うと喜んで」
「芳香、その話はまた今度にしてください。
周りの視線がものすごいことになってます」
「そーなのかー」
いろいろと危ない方向に向かいつつあったので、神子は強引に話を終えさせる。
中には、『詳細を詳しく語ってもらおうか?』と言った心の声も聞こえてきたが、とりやえずスルーすることにした。
気まずい雰囲気の中で、神子は決心が着かずとりやえず気になる衣服をいくつかピックアップして決めようとした。
だが神子は、小さくため息をついて手に持っていた衣服をもとの場所に戻した。
そして、芳香に声をかけて店を出て行く。
芳香を連れた神子は、近くのだんご屋によると、定番の3色ダンゴを50本ほど注文した。
神子は、無言のままダンゴを2、3個食べたところで、憂鬱そうに芳香に声をかけた。
「ねえ芳香...欲のままに生きるって難しいと思いませんか?」
「ん~?」
突然そんなことを言いだす神子に、芳香は首をひねるばかりだ。
今日はどこか調子のおかしい神子...
あの真面目一直線の神子が、突然遊ぼうなどといいだし、
モフモフの為にマミゾウを誘拐したり、服を買いに行こうと言ったり...
だが芳香には、そんな神子の狂行を理解する術はなかった。
神子は、宙を人指し指でなぞる。
すると、頭部から生えたネコ耳は、いつものシャイニングくせ毛に戻り、尻尾もいつのまにか消えていた。
「芳香、これから言うことは他言は無用です」
「解ったぞぉ!すぐに忘れるぞぉ!」
神子は、芳香に命令してゆっくりと口を開く。
そこには、先程までの変な神子の姿はなく、いつもどおりの神子の姿があった。
だが、そのいつもどおりの姿が、芳香にはなぜか少し寂しく見えた。
それがなぜなのかは理解できない。
でも、芳香は少し寂しそうだと感じたのだ。
「命連寺に目覚めを邪魔されて、憎しみを感じました。
おまけに、彼女達は妖怪の味方だといいます。
私は、その話を聞いてすぐに敵だと判断しました。
しかし敵を倒すには、敵を知らなければならない。
だから、私はこのサトリ妖怪の様な耳を使って、敵を知ろうとしました」
そう言って、神子は耳当てを指でなぞる。
尸解仙となって目覚めたこの力...
その耳はサトリ妖怪よりも強力な能力を持ち、過去だけでなく未来の一部を知ることも可能なのだ。
神子は、この耳を使って敵の全てを探るために命連寺へと足を運んだのだ。
そして、白蓮の心を理解した神子は絶望したのだ。
「白蓮は、私がほしかったものを全て持っていたのです。
私がほしかったもの...それは、何か解りますか?」
「ごめんなさい、我は馬鹿だから解らないぞ」
『いえ、これは私にしか解らないものですから』と、神子は優しく芳香の頭をなでる。
権力を持ったがゆえに孤独だった神子...
民を思い、権力を欲した神子...
多くの戦で勝利し、身の回りの者達は、みな神子をほめてくれた。
でも...
「布都と屠自古は、私の意見に心から賛同してくれました。
でも、彼女達だけでした。
私を理解してくれたのは...
結局、私を称えた者達は、みな己しか見えていない者ばかりでした。
民を救うという大儀も、私を慕ってくれた忠誠心も所詮は偽りのモノ...
みんな、誰も私なんか見てくれていなかった」
誰も、神子なんか慕っていない。
誰もが己の為に、神子を慕っているふりをした。
だから、神子は周りを切り捨て、永遠を得ようとした。
「強欲とは、病にも等しい...
それは、治療なんてできない恐ろしい病です。
だから私は永遠を得て、病を切り離そうとしました。
真に民を思い、皆を導ける正しく清い心を持った者だけが、民を率いる為に...」
結局、その目論見は失敗に終わり、神子は永い眠りに就くことになった。
神子は、表向きには病死した事になり、広告として死をも利用された。
そして目覚めた時には、すでに神子は必要のない権力者となっていたのだ。
「でも、白蓮は持っていた。
心の底から慕ってくれる仲間達も、目覚めを待っててくれる者達も...永遠さえも...
偽りなんかじゃない、本物の絆を持っていたのです」
悔しかった。
権力も持たないただの尼が、種族は違えども心から信頼できる仲間達に囲まれていることに...
神子にも布都と屠自古に青娥がいる。
でも、三人は少し違うのだ。
「布都と屠自古...
彼女達は、私の部下として有能です。
青娥も、私の強さに惚れ込んでくれて、心の底から私を慕ってくれている。
でも、ちょっぴり寂しいのです。
だって彼女達は、私が太子様だから慕ってくれているのです。
本当はね、私は立派な太子様なんかじゃない。
誰かに甘えたい、ただの女の子なのですよ」
皆を率いる将として、神子はみっともない真似をすることなんてできなかった。
きっと、彼女達の前でそんなことを言えば、失望されてしまう。
そんな恐怖が、神子の中にはあったのだ。
「白蓮は、そんなことはない。
どんなに醜い自分をさらけ出しても、家族のように優しく抱きしめてくれる絆を持っている。
だから私も尸解仙ではなく、妖怪になれたら白蓮の家族になれるかなって...
でも、似合いませんでしたね」
欲望に忠実に生きる妖怪ならば...
望めば、神にも成れる妖怪ならば...
幼いころよりその才を見いだされ、女ではなく男として誰にも甘えることなく生きてきた神子...
でも今の神子は、ひどく弱い女の子のように見えた。
「さて、存分に愚痴を聞いてもらったし、すっきりしました。
明日から、またがんばらないといけませんね。
帰りましょうか、よ!?」
神子が立ち上がろうとした時、突然芳香が神子を引き寄せる。
そして、人を抱きしめることのできない固い腕と、人を温めることのできない冷たい体を神子を包むように近づけた。
ただしっかりと、その冷たい体を神子に近づけたのであった。
「青娥様はね、我が悲しいとこうしてくれるのだ。
太子様が寂しそうだったから、今日は芳香がぎょっとしてあげるのだ」
「それを言うなら、ぎゅっとですよ」
「そうかな~?」
「そうですよ」
『こう言うことは、ちゃんと覚えているのですね』と、神子は一言付け加えて、冷たい体に全身を預けた。
血液の通っていない冷たいカラダ...
壊れてしまったポンコツのカラダ...
でも、神子にとっては、とても温かいカラダだった。
「芳香...お願いがあります」
「なんだぞ~?」
「貴方の前では、太子様ではなくただの神子でいさせて下さいね」
「う~ん。よく分からないけど、わかったぞぉ!」
だって、私だって心を持っているもの。
たまには、たくさん悩んで人に弱みを見せてもいいじゃない。
それが、生きているという確かな証拠なのだから...
「ふぉっふぉっふぉ、わざと掴まったふりをしてみれば、面白いものがみれたのう。
まあ、聖人様と言えども人の子...ああ言う可愛げなところもあるじゃろうて」
「あっ、マミゾウ!!無事だったのね!!」
「おう、ぬえか。まさか、儂が本気でやられたのかと思ったのかえ?
しかし、普段はワガママで生意気なお主に心配されるとは...
お主も、なかなか可愛げなところがあるじゃないか」
「うっ、うるさい!!別に心配なんかしてないし!!
ただ、私が連れてきた切り札がいきなりやられちゃったんじゃ、私の沽券にも傷がつくっていうか...」
「フォッフォッフォ、そう言うことにしておいてやるよ」
「う~!」
異常?
温かい気持ちになれました
相変わらずフリーダムな面々で安心した。