「ふふふ…今年もこの季節がやって来た…」
紅葉を司る神、秋静葉は自宅でそわそわとしていた。
まだ寒さの抜けきらない日々が続き、本調子となる秋までは長い。
しかしテンションは高い。抑えきれそうにない高揚感を何とか堪えつつ、炬燵の中で妹の帰りを待つ。
「穣子ったら遅いわね。人気投票の結果を見に行くのにどれだけ時間がかかってるのかしら」
そう、静葉が炬燵に籠りながらわくわくしていたのは、第9回人気投票の結果である。
今は妹の秋穣子が山頂の神社にてはりだされる掲示板を確認しているはずだ。
ちなみに言えば、全体の中での秋姉妹の順位は以前からそれほど高くない。
しかしそんなことはどうでもいい。重要なことはもっと別にある。
「初参加の時には赤い髪の教授、前々回は地底の猫、前回は妖精。ふふふ…今回の具材は一体誰かしら。わたしたち『秋サンド』の具材は…」
姉妹の絶妙な人気コンビネーションにより、3回に渡って秋サンドという珍現象を引き起こしてきた秋姉妹。
順位こそ高くないが、前回はこれが大きな話題となって盛り上がった。今回もまた秋サンドを引き起こし、上位キャラに引けを取らない話題性をもって一花咲かせてやろうと、静葉は心を燃やしていた。
そんなとき、玄関の扉がギィッと開いて、ただいま、という言葉とともに妹神の穣子が入って来た。
今か今かと待ちわびていた静葉は、ルンルン気分で妹を迎えた。
「おかえりなさい穣子遅かったじゃない。結果はどうだった?」
「ちょ、ちょっとまってお姉ちゃん。とりあえず温まりたいよ」
「それもそうね。ごめんなさい焦っちゃった。炬燵に入ってゆっくりしてね」
思えば妹は寒い中結果を見に出かけていたのだ。ひとまず温かいお茶でも飲みたいだろうと、台所に行ってお茶を淹れる。
そしてまた炬燵の所まで戻って穣子にお茶を渡し、自分も妹の隣に座った。
「ありがとうお姉ちゃん」
「いいわよこれくらい。そんなことよりさあ、早く順位を教えて頂戴」
「そ、そうだよね。やっぱ気になるよね。あはは…」
なめらかに言葉の続く静子に対し、穣子はやけに歯切れが悪かった。
しかしテンションが高まるあまり静葉はそんな妹の様子に気付かず、結果を教えるよう急かした。
そしてとうとう妹の方が折れ、姉に向かって一枚の紙を差し出す。
「あのねお姉ちゃん。落ち着いて、じっくりと見てね」
「大丈夫よ。確かに少し興奮気味かもしれないけど見落としなんてしないわよ」
「う、うん…」
何を心配してるんだかと苦笑いしながら、妹に手渡された紙を見る静葉。
気になる結果は
50位 八意永琳 1725pt
51位 秋静葉 1684pt
52位 秋穣子 1647pt
53位 橙 1637pt
これを見て、静葉は顔をあげた。視線の先には、とっても気まずそうな妹の顔。
そして静葉はもう一度視線を紙に戻し、結果を見る。
50位 八意永琳 1725pt
51位 秋静葉 1684pt
52位 秋穣子 1647pt
53位 橙 1637pt
何も変わっていなかった。
そこで静葉は再び顔をあげて妹の方を見る。相変わらず気まずそうな顔をしていた。
疲れた顔の静葉はまた、紙の方へ視線を戻し…
「お姉ちゃんもうやめて! 何度見たって結果は変わらないよ!」
「だって…たった10ポイント差で秋サンド不発だなんて…こっちは楽しみにしてたのに…今回も秋サンドが成功するようにってずっとお祈りしてたのに、こんなのって、こんなのって…あんまりよ!」
悔しさのあまり声を震わせ涙目になる静葉。
そんな姉の強くしめられた握りこぶしを、穣子は両手で優しく包んだ。
「わたしだってお姉ちゃんの悔しさは痛いほど分かるよ。だってわたしもお姉ちゃんと同じくらい秋サンドの成功を祈ってたし、わたしたち姉妹が大きな話題を作るんだって意気込んでた。でも結果はあんな風で、途方に暮れて帰るのも遅くなっちゃった」
「穣子…?」
「でもねお姉ちゃん。人気投票はこれで最後じゃないんだよ。きっとまだまだ続くから、そしたら次回こそ秋サンド復活を目指そうよ。わたしとお姉ちゃんなら絶対にできる!」
「…………!」
握られた手のぬくもり、そしてまっすぐ見つめてくる妹の視線に、静葉はハッとした。
そうだ。穣子の言う通りこれで最後ではないのだ。挽回のチャンスはまだある。
一度の不発がなんだ。自分には、手から伝わってくるぬくもりと同じくらい温かくて優しい妹がいるのだ。
「くよくよしちゃってごめんね、穣子。わたし間違ってた」
「お姉ちゃん?」
「わたしたち二人なら、きっと秋サンドを復活させられる。唯一姉妹サンドを達成しているわたしたちに怖いものなんて無いわ。頑張りましょう」
「…………え?」
「な、何よその反応は?」
決意に満ちた視線を送ったら、穣子はまた気まずそうな顔になって目をそらしてしまった。
穣子だって絶対に決意の言葉を返してくれるだろうと予期していた静葉が不満そうな目つきに変わると、穣子は順位が書かれた紙を指差した。
「お姉ちゃん、ちょっとその順位表の4位、5位、6位のところを見てみて」
「4位、5位、6位? どれどれ…」
穣子に言われるまま、静葉は順位表を確認した。
すると
4位 レミリア・スカーレット 8205pt
5位 霧雨魔理沙 8028pt
6位 フランドール・スカーレット 7824pt
見事なスカーレットサンドの出来上がりである。
「ふふ…ふふふふ…」
「お、お姉ちゃん…?」
「やってられないわよこんなのぉ! 人気者のくせに他人のネタもってかないでよぉ!」
「お姉ちゃん、気をしっかりもって! おねえちゃあん!」
悲しみのあまりやけ酒をおっぱじめた静葉。必死になだめようとする穣子であったが、今日だけは仕方ないかと付き合ってあげることにした。
後で介抱とか色々大変だろうなと思うけれども、これもきっと仲良し姉妹のコミュニケーションだろうと、泣きながら酒を飲む姉を見て苦笑していた。
「む~…」
「あら妹様。何やら不機嫌そうですが、どうされたのですか?」
「どうしたもこうしたもないよ咲夜。見てよこれ」
「これは…ああ、そういうことですか」
フランが手渡してきた紙を見て咲夜は全て理解した。
なぜならば、たくさんの名前が連なるその紙の、フランの不機嫌の原因であろう箇所にはしっかりと印がつけられていたのだ。
4位 レミリア・スカーレット 8205pt
5位 霧雨魔理沙 8028pt
6位 フランドール・スカーレット 7824pt
「惜しかったですね」
「そうなのよ~。あとちょっとでお姉さまと並べたのに、魔理沙に入られちゃった」
「まあ次に期待するしかありませんね」
「秋姉妹はいいな~。仲良く並んでてさ…」
ため息混じりにボヤいてから、フランは突然顔をハッとさせた。
「ねえ咲夜、わたしがこんなこと言ってたなんて…」
「分かっています。お嬢様には絶対に言いません」
「絶対だよ! 絶対だからね!」
顔を赤くしながらきつく言いつけるフランに、咲夜は終始ニコニコとしながら答えていた。
フランちゃんの人気がじわじわ上がってきてるのは、偏にレミリアへの愛ゆえか……。
具なしでも笑いが取れる秋姉妹はやはり格が違った