Coolier - 新生・東方創想話

悪魔を憐れむ歌

2012/02/26 02:01:08
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第一話 家畜の気持ち

こないださあ 裏庭のとこにある芝生の斜面に座ってたんだ
その時ずうっと曇り空が続いてて  その場所は少し小高い丘みたいになってて
その裏庭の端っこのほうにある家畜小屋の中が見えるようになってたの

で わたしは家畜小屋が この何百年かあんまり好きじゃないんだけど
好きじゃないから見なかったんだけど そん時ただぼーっと見てた
そしたらあることに気がついた

その家畜小屋のある一角に 金網も鎖も何もない藁を敷き詰めたみたいなとこがあって
そこに毛布かぶった小さい人間の雌の子供がいて その子供のまわりには
簡単な柵はあるんだけど 大地とその子供との 子供との間には何も妨げるものなんてなくて
足枷の鎖とかみたいなものも転がってなくて
それで 走り出そうと思えば 自由にこの大地に駆け出せるのになあと思ってたんだけど
何であの子逃げないんだろうなあってずうっと思ってて

そしたらあの子 その人間はそれまでずうっと動かなかったんだけど
ある時 身動ぎして 毛布を跳ね除けたんだよ
そしたら その手足がなくなってて 何もついてなくて
何度も もがくんだけど その身体で大地を駆け出せるはずがなくて
誰かが その子供の手足を切ったんだ

とても悲しい感じがする話でしょ?
でも悲しくなっても彼女の手や足はもう二度と戻らない

今日は曇り空 何処かに歩いていこうかな
今日は曇り空 綺麗な曇り空



第二話 狂ったダンス

(いつまでもこんな気分でいたら、きっと頭がおかしくなる)
(何か楽しいことを考えなくちゃいけない)
(いつまでもここにいたら、きっと頭がぶっこわれる)
(優しいものに会わなきゃ駄目だ)

そんな夜のプラチナブロンド・スカーレットデビルは地下室を全速力で飛び出す。
とにかくむちゃくちゃなダンスが踊りたくて心が疼く。
なくなったはずの幻たちがわたしに魔法をかけてくれるはず。
幻想郷の夜空は行き場のない刹那主義者の溜まり場だから。

(何か楽しいことを考えなくちゃいけない)
「ジェットエンジン、スーパーソニック、クリームの入ったメロンソーダ」

冷たい空気を切り裂きながら声に出して呟く。

「ロンドン、星空、切れる肌、ストロベリーミルクシェイク」

目が痛くなるくらいに加速する夜の幻想郷。

「ハート。内臓。子供の死体。マカダミアナッツ・チョコ♪」

歌うように併走をはじめたのはシルバーヘアー・クローズドアイ。

「愛や恋についてなんて、もうこれっぽっちも知りたくないのに」
「だったらちょうど、おあつらえむき♪」
「なんでさ」
「そんなものはないって、教えに来たから♪」
「だったらいますぐ教えてよ」

シルバーヘアー・クローズドアイの目は暗闇の中で爛々と光る。
プラチナブロンド・スカーレットデビルは同じ気持ちが嬉しくて震える。
知ってるのは彼女も寂しいってことだけ。

この夜空のルールはたった一つ。
最初の一発を合図に、ダンスを始めなくちゃいけない。
誰も見たこともない自分だけの狂ったダンス。
行き場のない刹那主義者のダンス。

瞬間、頬を掠めた光。
飛び散ったプラチナブロンド・スカーレットデビルの血。
月明かりで、てらてらと光ったそれの美しさに目を奪われた瞬間だけ全部忘れる。
切り裂く速度で羽ばたく翼。



第三話 赤い花

マリファナをきめた夜、赤い花に話を聞いた。
花壇に入り込んで。
土に寝そべり、顔をめいっぱい近づけた。
赤い花は優しく微笑みかけてくれたよ。

「美しい青空が君の恋人なの?」
(曇り空はわたしに安らぎをくれます)
(雨空はわたしに冷たい気持ち良さをくれます)
(夜空は星の光をくれるので、それを見るんですよ)
「土が君の母親なの?」
「土から育ったのにどうして赤いの?」
「暗くて何も見えない土の中にずうっと閉じ込められてたのに」
「どうしてそんなに綺麗に赤いの?」
(土は温かさをくれます)
(土は昔の思い出をくれます)
(それに、わたしは思うのです)
「なにを?」
(一番大事なのは、夢を見ることです)
「夢?」
(どこにいても、一番なりたい自分の夢を見ることです)
「一番なりたい自分」
(夢を見続けることです)
「どのくらいの時間?」
(ずうっと忘れちゃだめです)
「叶うのかな?」

そう言ったら赤い花は優しく微笑みかけてくれたよ。
わたしは立ち上がっって、赤い花を踏み潰すと靴底を何度も地面に擦り付けた。
ゴシゴシと。念入りに。

「ばーか」

地下室に戻ろうか。
まだ吸ってないのが2、3本のこってたはず。

深呼吸してみると小さく膝が震えていた。



第四話 鉄の心臓

プラチナブロンド・スカーレットデビルのkawasaki製KSR-Ⅱ。
人間の小学生と変わらないその体躯に普通のバイクは大きすぎるがKSRは違った。
幼児の使う三輪車みたいに小さな車体に幼い吸血鬼の身体がぴったりフィットする。
社外品の90ccボアアップシリンダーを組み込んだ2ストロークエンジンは
彼女自身の手によって整備され極限までピストン時の摩擦抵抗を抑えている。
後輪計測で14psの強心臓と超軽量で小回りの効く車体は
たしかに一般道では大型のバイクに負けるが
彼女の主戦場たる妖怪の山の夜の下りではいつだって絶対に負けないと吸血鬼に思わせる。

2ストロークエンジン。
一度の上昇行程と下降行程で、吸気と排気を行うその機構は
現在外の世界で主流となっている4ストロークエンジンの2倍の効率を誇る。
同じ排気量の4ストロークエンジンと比較した場合
理論値で2倍、実測値でも1.7倍程度の馬力を発揮する脅威の機構だ。
にもかかわらず、外の世界ではこのエンジンはほぼ全滅してしまった。
それはこのエンジンが燃料を消費しきらないうちに排気するからであり
排気ガスの汚さと燃費の悪さが憎まれたからだ。
おかげで今の幻想郷では一部のマニア達が日夜、環境破壊と騒音創造に励んでいる。

プラチナブロンド・スカーレットデビルはもともとモーターサイクルなどに興味はなかったが
ある日の夜中に妖怪の山で何もかももう手遅れなんじゃないかと焦燥感に駆られて
思わず切羽詰まってクスクス笑い出した時に
『ぱっぱっぱっぱあああああああああああぱいいいいいいいいいいいいんんんん』
とめちゃくちゃにダサくて突き抜けるような頭の悪い音が響いたので
何かと思って路上に飛び出した時に妖怪の山の下り坂最速の女と呼ばれるブルーツインテールに出会った。
プラチナブロンド・スカーレットデビルとブルーツインテールはお互いの事など何も知らなかったが
別に知る必要はなく、お互いがコーナーに突っ込むとき馬鹿みたいにブレーキを遅らせて
自分の命を揺らしたがってるということだけわかれば事足りた。
それに彼女たちの話題はいつもエンジンとセッティングとコースラインの話だったし
プラチナブロンド・スカーレットデビルはブルーツインテールにもらったKSRについて
知りたいことが山ほどありすぎたので他の話を聞く暇がなかった。

ブルーツインテールの1986年製TZR2501KTは生粋のレースマシンで
生粋のエンジニアである彼女は誰よりも美しくそれを乗りこなした。
エンジンもボディもいつも完全な状態に維持されていたし
超高性能な車体の特性をデータ、体感の両方から知り尽くしていた彼女はその能力を完璧に引き出した。
それにTZRはYAMAHAという外の世界の楽器メーカーが作り出した機体で
同時期の他のメーカーと異なる並列2気筒という特殊な機構の2ストロークエンジンは
甲高く生物的で、2ストロークらしからぬ美しい排気音をあげ
その昔人間の世界では「楽器屋はレース用バイクでまで演奏しやがる」と皮肉を言われたものだった。
ブルーツインテールはどんな高価な楽器や美しく強い妖怪の羽ばたく音よりも
TZRの音を愛していたし、その排気音とメカノイズが彼女の生きる世界の芸術だった。
プラチナブロンド・スカーレットデビルは彼女の信じる無機質な宗教からなにかしらの愛を感じ尊敬した。
プラチナブロンド・スカーレットデビルがブルーツインテールに下りで勝ったことは一度もない。

ある日プラチナブロンド・スカーレットデビルがブルーツインテールにこう言った。
「いったいわたしたちはいつまでこんなこと続けるの?」
シートタンクに跨ったままで彼女は肩をすくめて囁く。
「ヘルメットシールドの向こうに見える、細く美しい線が切れるまでだよ」
その時プラチナブロンド・スカーレットデビルは嬉しく感じて
もう死にたいくらいだと思ったので、最後の勝負を申し込んだ。

最後の夜、妖怪の山の頂上付近、スタート地点で暖かくて苦いコーヒーを飲みながら二人は無言。
ブルーツインテールは余計な口をきかない無骨なエンジニアだからだ。
だけどバイクに跨る直前、珍しく、出会って以来ほとんど初めて、私的なことを口にした。
「最後だから言おう。君とKSRは最高だったよ、盟友」
二人のエンジンが始動して2ストが叫びだす。
ヘッドライトがついて、夜の虫たちを映し出した。

いつものようにブルーツインテールの綺麗なライディングフォームを追いかけながら
プラチナブロンド・スカーレットデビルは思い出す。
(盟友か)
今夜はいつになく乗れている。
もしかしたら勝てるかもしれなかった。
(はじめて本当の友達が出来たかもしれない)
極限まで研ぎ澄まされた神経と機体は命を度外視したような最も速いラインを攻める。
(けどそんな感情に興味はない)
細く美しい線が、切れそうなほどに張り詰めて、きらりと光るのを感じた。
(わたしたちはこれが見たいだけだったんだから)
完全なオーバースピードで二人の車体が並んで最終コーナーに突っ込んでいく。
(何度でもこれが見たいだけだったんだ)
ブーツを乗せたステップがガリガリと地面にあたり火花が散った。
(だって他のことなんて何も信じられなかったんだからさ)



第五話 ポルノビデオ

わたしは彼女の綺麗な銀色の髪をじっと見つめている。
彼女はその真っ白で綺麗な足をゆっくり広げていく。
どうしてなんだろう。
どうしてそんなことをするんだろう。
わたしは初めて出会った何年も前から何も変わっていない。
変わったのは彼女のほう。
こんなに綺麗な青い目をしてるのに、どうしてこんなことをするんだろう。
そんなものいらないって言ったら悲しそうな顔をされた。
お気に召しませんよ。
やめてよね。
絶望的な気分だよ。

紅魔館の屋根の端っこのへりにつま先立ちして目をつぶって歩いてみる。
風が下から音を立てて吹き付けて、足がふらつく。
額から滴る汗がだんだん純粋になっていく。
楽しい。

秘密基地を探しにいこうか。
わたしはあの頃から何も変わっていないんだから。
わたしは秘密基地とかが好きなの。
でも何年も前に彼女と一緒に秘密基地でお菓子を食べてた時に
いつか絶対こんな気持ちになるって思ってた。
人間は一瞬で変わってしまうんだから。
いつか絶対こんな風になってしまうんだから。
でもそれは悪いことなのかな。
わたしはそんな風になってほしくなかったけど。
悪いことなのかな。
とにかく今は1人で秘密基地を探しに行かなくちゃいけない。

ふと彼女がどういう風に喘ぐのか想像してみる。
洋物のポルノビデオで白人女優が喘ぐみたいに声に出して言ってみる。
おーういえー。かまーん。ふぁーっく。しーはあっ。しーはあっ。
みたいな?
はは。ちょっと面白い。

全てが変わり果ててもわたしだけはこのままでいるつもり。
絶望的な気分だよ。
ほぼ全編が自分の好きな歌のパロディです
キメラ2
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コメント



0.390簡易評価
1.80奇声を発する程度の能力削除
元は分かりませんでしたが、歪んで少し狂った感じが良かったです
2.100春日傘削除
何かを伝えるというよりも表現欲が先行している姿勢に惚れました。
やはり書きたい事を書くべきですね
3.90名前が無い程度の能力削除
何だか良い。
9.90南条削除
3104丁目だけ分かった。
12.無評価名前が無い程度の能力削除
ここ健全なところだし、もうちょっとおさえたらどうかな(提案)
14.無評価キメラ2削除
寝る前に投稿して、自分はこの話が好きだけど
さすがにキャラが好きな人は怒るだろうし、駄目かなと思って
朝起きてみてこの反応だと、やっぱ駄目かあと反省気味です

>12さん
もうちょっとソフトに、健全に、書けるように方向転換かんがえています