「あ~う~ん~…」
自室の立て鏡の前で、わたしは頭を悩ませていました。
何故こんなにも悩んでいるのかと言うと、先ほどご主人様である麗しのパチュリー様がわたしに向かって仰った言葉が、頭から離れないのです。
何と言われたかというと
「貴女って、あんまり悪魔っぽくないわね」
昼下がりにお紅茶を持っていったら、そう言われてしまったのです。
これはもうあれです。
聡明なパチュリー様は「悪魔らしからぬお前なんかわたしの使い魔たる資格は無い」的なことを遠回しに仰ったということです。絶縁宣言です。
しかしわたしも黙ったまま引き下がるわけにはいきません。この先もずっと美しきパチュリー様にお仕えするという栄光の職にあり続けたいのです。
そのためには悪魔らしさを磨かねばなりません。賢者たるパチュリー様のお求めになる悪魔らしさを。
「でも…具体的にどうすればいいのかな…?」
立て鏡に映る自分の姿を見続けていますが、残念なことに何も思いつきません。
見た目的には背中の黒い羽に頭の小さな黒い羽。それに黒を基調とした服装も、悪魔らしさを引きたてていると自負しています。
つまり、可憐なパチュリー様は見た目以外に何か別の悪魔らしさを求めていらっしゃる。
「何か…悪魔らしいもの。服装以外に…」
う~ん、これですぐに閃けば苦労はしないんですけどね。
でも諦めるわけにはいきません。考えなければ、愛らしいパチュリー様のお傍にいられなくなってしまいます。
外面とは違うということは、もっと内面的なもの。例えば、内から湧き出る悪魔の威厳とか。
「そうか…悪魔らしい威厳か…」
ピンと来ました。
わたしには悪魔としての威厳が足りていない。だから頭脳明晰なパチュリー様はわたしのことを「あまり悪魔っぽくない」と仰ったわけです。
これでとりあえずわたしに足りてないものが何なのか分かったので良かったのですが、逆に問題が出てきてしまいました。
「悪魔としての威厳って、どうすれば身につくのかな…? わたしは小悪魔だし…」
そう、わたしは力のない悪魔。だから小悪魔。一朝一夕で悪魔の威厳が身に付くはずもありません。
それではやはり、至高の魔法使いパチュリー様は、わたしなんかいらないということなのでしょうか…あ、涙出てきた。
「……まだ手はあるっ!」
崩れ落ちそうな体をぐっと堪えて、わたしはある効果的な方法を思いつきました。
苦し紛れの強がりなんかじゃありません。きっとこの方法を使えば、わたしにも威厳が出るはずです。
その方法とは
「ズバリ、決め台詞!」
そう言って、わたしは鏡の前で変なポーズをとっていました。
それくらい、わたしは自分の閃きに酔っていました。でも少し恥ずかしかったです。誰にも見られなくて良かった。
話を戻します。
何故決め台詞かというと、簡単なことです。例えば普通の魔法使いである魔理沙さんが「弾幕はパワー!」という決め台詞を放った場合、普通の魔法使いのはずの魔理沙さんが途端に普通には見えなくなります。
これと同じ要領で、威厳のない小悪魔であるわたしも、何か決め台詞を言えば途端に威厳がありそうに見えるわけです。
それってつまり見せかけなんじゃないかという意見は却下します。チャーミングなパチュリー様のお傍にいられるか否かの緊急時に、手段なんて選んでいられないのです。
「何か良い決め台詞は無いかなあ…」
考えます。とにかく考えます。考え続ければ、いつしかいい案は出てくるものです。
早速、一つ台詞が出てきました。大きく深呼吸。鏡に向かって叫びます。
「フハハハハハッ! 貴方も蠟人形にしてあげましょうか!?」
立て鏡の前でそう叫んで、少し快感です。
この台詞は確かに十万ウン十歳くらいの悪魔界の閣下っぽいです。威厳に溢れかえっています。
でもやめました。何だか顔を真っ白にしなくちゃいけない気がします。それに、わたしはお相撲にはあんまり詳しくありません。
次です、次。もう一度、鏡の前で深呼吸。
「あれは誰だ 誰だ 誰だ あれは小悪魔 こあくま~! こあくま~!」
いい感じで歌えました。
小悪魔アローは超音波、小悪魔イヤーは地獄耳、小悪魔ウイングは空を飛び、小悪魔ビームは熱光線です。
でも、やっぱりだめです。裏切り者の名を受けて、全てを捨てて戦う女にはなれそうにありません。
何故なら、わたしは憧れのパチュリー様を裏切り、捨てたくは無いのです。
少し惜しいですが、次です。吸って~、吐いて~。
「わたしがバケモノ…? 違います…わたしは小悪魔です…」
なかなか強そうです。
「伝説のスーパー小悪魔」と名乗ってもよさそうです。どこかの王子の一人や二人、軽く岩盤に叩きつけられそうな気がします。
でもこれは少しまずいかもしれません。
惑星をデデーンするのはきゅっとしてどかーんの妹様のお仕事です。人のお株を奪ってしまうわけにはいきません。
まだ案はあります。次行ってみましょう。す~は~、す~は~。
「ぶっ飛んでくださいまし!」
まあまあでしょうか。
これは悪魔というよりは悪魔と人の間に生まれた半魔という感じですが、勢いがあっていいですね。
けれどもやっぱり問題はあります。
この台詞は何だかメイドさんみたいで、ビューティフルなパチュリー様にお仕えするわたしとしてはいいのですが、やっぱりメイドは咲夜さんのポジションです。被りは避けたいですね。
次の案、行きます。鏡の前でポーズをとりまして
「必殺、コアクマイト光線!」
これは…ちょっと微妙かもしれません。
なんか、色々と技の説明をしてもらいながら結局不発に終わってしまいそうな気がします。相手に雑念がないと意味ありません。
威厳とは離れちゃってるように思うので却下です。
どんどん行きましょう。鏡の中の自分を見ます。
「わたしにはまだ帰るところがある…こんなに嬉しいことはない…」
これも…駄目ですね。
強い悪魔には違いないと思いますが、悪魔は悪魔でもこれでは「白い悪魔」です。
わたしの服装は黒が基調です。白い悪魔にはなれそうにありません。
次。
「小悪魔教授の総回診です」
違う違う違う!
さっきの「白い」に持っていかれました。これは悪魔関係ありません。
わたしは黒が基調です。そう、黒。
黒黒黒黒黒黒黒黒黒…
「カサカサ…カサカサ…」
駄目です! 絶対駄目!
黒は黒でも「すばしっこい」とか「台所に潜む」とか、つまりGです。
Gは嫌です! 絶対に!
「はぁ~~~~…駄目だ~…」
その場にへにょりと座り込んで、ため息をつきました。
そりゃあため息だって出てきますよ。せっかく閃いた決め台詞作戦なのに、肝心の決め台詞が全然うまく決まりません。最後の方は訳が分かりません。
このままでは、本当にエクセレントなパチュリー様のお傍に仕えることができなくなってしまいます。
ああ、愛しのパチュリー様…せめて一回でも、貴女とムフフなことをしてみたかった…じゃなくてじゃなくて…
「あ、そうだ」
閃きました。
決め台詞以外に、わたしが悪魔らしさを身につける最善の方法が。
そうと決まればこうしてはいられません。わたしは喜び勇んで、最善の方法のための準備に取り掛かりました。
「貴女は一体何をしているのかしら?」
わたしはそう問わずにはいられなかった。
本を読み終わり、気晴らしに何日かぶりの睡眠でもとってみようかと自室のベッドまで来てみれば、そこにはキラキラと目を輝かせた素っ裸の使い魔がいた。
いや、素っ裸という表現は正確ではないので訂正するわ。
裸にYシャツ一枚だけ着た使い魔がいた。
「もう一度聞くわ。貴女は一体何をしているのかしら?」
「はい、ズバリ裸待機です! パチュリー様ってばちっともお休みにならないから、ずっとここで待ってたんですよ」
「そう、それは大変だったわね」
どうやらこの使い魔はわたしの聞きたいことを理解してくれなかったらしい。
まあわたしの聞き方も悪かったかもしれないし、それは別にいいか。
「質問を変えるわ小悪魔。貴女はどうして私のベッドで裸待機なんてしてたのかしら?」
「ふふふ。それはですね、悪魔らしさを求めた結果です!」
「…は?」
思わず間の抜けた返事をしてしまった。
それにしたってこの子は何を言っているのだろう。無い胸を張って堂々と…あ、意外とわたしよりある。こんちくしょう。
「パチュリー様仰ってたじゃないですか。わたしはあんまり悪魔っぽくないって。だからですよ」
そういえばそんなこと言ったわね。まあわたしの命令には忠実に動くし、反抗的なところもないからそう言っただけなんだけど、気にしてたのかしら。
そうやって真面目に受け取るところも悪魔っぽくは無いわね。でもそれはそれとして可愛げがあってわたしは好きだけど。
「それで、今の貴女のどこら辺が悪魔らしいのか、分かりやすく教えてほしいわね」
「はい! 見てください私の体を。貴女を誘惑する魅惑の悩殺ボディです!」
「あーなるほどね」
これはつまりあれか。淫魔の真似ごとか。
でも残念。悩殺ボディには程遠いわね。確かに全体的にすらっとしててスタイルもバランスもいいけど、総合的には…って、わたしはおっさんか。
おっとっと、わたしがおっさんめいた思考をしていたら、急に小悪魔がしおらしくなったわ。忙しい子ね。
「あの…それでパチュリー様…これでわたしは貴女のお傍に居続けることができますか…?」
「どうしてそんなことが気になるの?」
「だって、パチュリー様には悪魔っぽくないわたしなんて似つかわしくないのかと思って…ぐすん…」
ああ、この子はわたしが言ったことを気にしてただけじゃなくて、何か勘違いしてたみたいね。
まったく。こう考えすぎるのも悪魔らしくは無いわね。仕方ない、少し励ましてあげるか。
「ねえ小悪魔」
「はい、何ですか…ってわあ!? どうして突然のしかかってくるんですか!?」
「どうしてって、これからわたしが眠るからよ。ここはわたしのベッドなんだから、おかしくないでしょう?」
「あ、そうですね…」
相変わらずちょっと抜けてるわね。
まあいいか、とりあえずベッドで一緒に寝て、頭を撫でてあげて…あら、結構柔らかくてさらさらした髪の毛なのね。
「ぱ、パチュリー様ぁ…くすぐったいですよぅ…」
「いいじゃないこれくらい。魅惑の悩殺ボディはどうしたの?」
「あ…頭撫でられるのは想定外でした…」
「まったくどこまでも面白い子ね。まあ、わたしはそんなあなたが一番好きだけどね」
「え、それってどういう…?」
まだ分からないのかしら。本当に面白い子。いつまで経っても退屈しないわ。
でも、いつまでも悩ませ続けるのも可哀そうだし、そろそろ答え合わせといこうかな。
「あのね小悪魔。わたしは別に貴女が悪魔らしいかどうかなんて興味ないわ。貴女が傍にいれば、それでいい」
「じゃ、じゃあわたしのことを悪魔っぽくないって言ったんですか?」
「何となくよ。深い意味なんて無いわ。それとも、貴女は悪魔らしくないという理由でわたしから離れたいの?」
「と、とんでもない! ずっと貴女にお仕えしていたいです!」
「それじゃあこれからもよろしくね。悪魔らしくない小悪魔さん」
「は、はい!」
あらあら、さっきまでは半べそだったくせに、嬉しそうに笑っちゃって。
ともあれこれで万事解決、オールオーケー。
なのだけれど、さっきからずっと気になってるのよね…
「ねえ小悪魔」
「何ですか?」
「貴女の体って悩殺ボディには程遠いけど、出るところと引っ込むところは割とバランスよくて、わたしよりもずっとスタイルいいのよね…羨ましい…」
「ひゃうぅ!? ど、どこ触ってるんですかぁ!?」
「ホント…羨ましい…」
「パチュリー様! 目が、目が怖いです! 心なしか瞳の色が緑です! きゃあああああ!?」
悪魔なんかよりも最愛のパチュリー様の方がよっぽど怖いなって、この時わたしは心の底からそう思いました。
でも嫌ではな…げふんげふん!
さて、こんな悪魔らしからぬ小悪魔なわたしですが、一生パチュリー様についていきたいと思います。
大好きです、パチュリー様。
自室の立て鏡の前で、わたしは頭を悩ませていました。
何故こんなにも悩んでいるのかと言うと、先ほどご主人様である麗しのパチュリー様がわたしに向かって仰った言葉が、頭から離れないのです。
何と言われたかというと
「貴女って、あんまり悪魔っぽくないわね」
昼下がりにお紅茶を持っていったら、そう言われてしまったのです。
これはもうあれです。
聡明なパチュリー様は「悪魔らしからぬお前なんかわたしの使い魔たる資格は無い」的なことを遠回しに仰ったということです。絶縁宣言です。
しかしわたしも黙ったまま引き下がるわけにはいきません。この先もずっと美しきパチュリー様にお仕えするという栄光の職にあり続けたいのです。
そのためには悪魔らしさを磨かねばなりません。賢者たるパチュリー様のお求めになる悪魔らしさを。
「でも…具体的にどうすればいいのかな…?」
立て鏡に映る自分の姿を見続けていますが、残念なことに何も思いつきません。
見た目的には背中の黒い羽に頭の小さな黒い羽。それに黒を基調とした服装も、悪魔らしさを引きたてていると自負しています。
つまり、可憐なパチュリー様は見た目以外に何か別の悪魔らしさを求めていらっしゃる。
「何か…悪魔らしいもの。服装以外に…」
う~ん、これですぐに閃けば苦労はしないんですけどね。
でも諦めるわけにはいきません。考えなければ、愛らしいパチュリー様のお傍にいられなくなってしまいます。
外面とは違うということは、もっと内面的なもの。例えば、内から湧き出る悪魔の威厳とか。
「そうか…悪魔らしい威厳か…」
ピンと来ました。
わたしには悪魔としての威厳が足りていない。だから頭脳明晰なパチュリー様はわたしのことを「あまり悪魔っぽくない」と仰ったわけです。
これでとりあえずわたしに足りてないものが何なのか分かったので良かったのですが、逆に問題が出てきてしまいました。
「悪魔としての威厳って、どうすれば身につくのかな…? わたしは小悪魔だし…」
そう、わたしは力のない悪魔。だから小悪魔。一朝一夕で悪魔の威厳が身に付くはずもありません。
それではやはり、至高の魔法使いパチュリー様は、わたしなんかいらないということなのでしょうか…あ、涙出てきた。
「……まだ手はあるっ!」
崩れ落ちそうな体をぐっと堪えて、わたしはある効果的な方法を思いつきました。
苦し紛れの強がりなんかじゃありません。きっとこの方法を使えば、わたしにも威厳が出るはずです。
その方法とは
「ズバリ、決め台詞!」
そう言って、わたしは鏡の前で変なポーズをとっていました。
それくらい、わたしは自分の閃きに酔っていました。でも少し恥ずかしかったです。誰にも見られなくて良かった。
話を戻します。
何故決め台詞かというと、簡単なことです。例えば普通の魔法使いである魔理沙さんが「弾幕はパワー!」という決め台詞を放った場合、普通の魔法使いのはずの魔理沙さんが途端に普通には見えなくなります。
これと同じ要領で、威厳のない小悪魔であるわたしも、何か決め台詞を言えば途端に威厳がありそうに見えるわけです。
それってつまり見せかけなんじゃないかという意見は却下します。チャーミングなパチュリー様のお傍にいられるか否かの緊急時に、手段なんて選んでいられないのです。
「何か良い決め台詞は無いかなあ…」
考えます。とにかく考えます。考え続ければ、いつしかいい案は出てくるものです。
早速、一つ台詞が出てきました。大きく深呼吸。鏡に向かって叫びます。
「フハハハハハッ! 貴方も蠟人形にしてあげましょうか!?」
立て鏡の前でそう叫んで、少し快感です。
この台詞は確かに十万ウン十歳くらいの悪魔界の閣下っぽいです。威厳に溢れかえっています。
でもやめました。何だか顔を真っ白にしなくちゃいけない気がします。それに、わたしはお相撲にはあんまり詳しくありません。
次です、次。もう一度、鏡の前で深呼吸。
「あれは誰だ 誰だ 誰だ あれは小悪魔 こあくま~! こあくま~!」
いい感じで歌えました。
小悪魔アローは超音波、小悪魔イヤーは地獄耳、小悪魔ウイングは空を飛び、小悪魔ビームは熱光線です。
でも、やっぱりだめです。裏切り者の名を受けて、全てを捨てて戦う女にはなれそうにありません。
何故なら、わたしは憧れのパチュリー様を裏切り、捨てたくは無いのです。
少し惜しいですが、次です。吸って~、吐いて~。
「わたしがバケモノ…? 違います…わたしは小悪魔です…」
なかなか強そうです。
「伝説のスーパー小悪魔」と名乗ってもよさそうです。どこかの王子の一人や二人、軽く岩盤に叩きつけられそうな気がします。
でもこれは少しまずいかもしれません。
惑星をデデーンするのはきゅっとしてどかーんの妹様のお仕事です。人のお株を奪ってしまうわけにはいきません。
まだ案はあります。次行ってみましょう。す~は~、す~は~。
「ぶっ飛んでくださいまし!」
まあまあでしょうか。
これは悪魔というよりは悪魔と人の間に生まれた半魔という感じですが、勢いがあっていいですね。
けれどもやっぱり問題はあります。
この台詞は何だかメイドさんみたいで、ビューティフルなパチュリー様にお仕えするわたしとしてはいいのですが、やっぱりメイドは咲夜さんのポジションです。被りは避けたいですね。
次の案、行きます。鏡の前でポーズをとりまして
「必殺、コアクマイト光線!」
これは…ちょっと微妙かもしれません。
なんか、色々と技の説明をしてもらいながら結局不発に終わってしまいそうな気がします。相手に雑念がないと意味ありません。
威厳とは離れちゃってるように思うので却下です。
どんどん行きましょう。鏡の中の自分を見ます。
「わたしにはまだ帰るところがある…こんなに嬉しいことはない…」
これも…駄目ですね。
強い悪魔には違いないと思いますが、悪魔は悪魔でもこれでは「白い悪魔」です。
わたしの服装は黒が基調です。白い悪魔にはなれそうにありません。
次。
「小悪魔教授の総回診です」
違う違う違う!
さっきの「白い」に持っていかれました。これは悪魔関係ありません。
わたしは黒が基調です。そう、黒。
黒黒黒黒黒黒黒黒黒…
「カサカサ…カサカサ…」
駄目です! 絶対駄目!
黒は黒でも「すばしっこい」とか「台所に潜む」とか、つまりGです。
Gは嫌です! 絶対に!
「はぁ~~~~…駄目だ~…」
その場にへにょりと座り込んで、ため息をつきました。
そりゃあため息だって出てきますよ。せっかく閃いた決め台詞作戦なのに、肝心の決め台詞が全然うまく決まりません。最後の方は訳が分かりません。
このままでは、本当にエクセレントなパチュリー様のお傍に仕えることができなくなってしまいます。
ああ、愛しのパチュリー様…せめて一回でも、貴女とムフフなことをしてみたかった…じゃなくてじゃなくて…
「あ、そうだ」
閃きました。
決め台詞以外に、わたしが悪魔らしさを身につける最善の方法が。
そうと決まればこうしてはいられません。わたしは喜び勇んで、最善の方法のための準備に取り掛かりました。
「貴女は一体何をしているのかしら?」
わたしはそう問わずにはいられなかった。
本を読み終わり、気晴らしに何日かぶりの睡眠でもとってみようかと自室のベッドまで来てみれば、そこにはキラキラと目を輝かせた素っ裸の使い魔がいた。
いや、素っ裸という表現は正確ではないので訂正するわ。
裸にYシャツ一枚だけ着た使い魔がいた。
「もう一度聞くわ。貴女は一体何をしているのかしら?」
「はい、ズバリ裸待機です! パチュリー様ってばちっともお休みにならないから、ずっとここで待ってたんですよ」
「そう、それは大変だったわね」
どうやらこの使い魔はわたしの聞きたいことを理解してくれなかったらしい。
まあわたしの聞き方も悪かったかもしれないし、それは別にいいか。
「質問を変えるわ小悪魔。貴女はどうして私のベッドで裸待機なんてしてたのかしら?」
「ふふふ。それはですね、悪魔らしさを求めた結果です!」
「…は?」
思わず間の抜けた返事をしてしまった。
それにしたってこの子は何を言っているのだろう。無い胸を張って堂々と…あ、意外とわたしよりある。こんちくしょう。
「パチュリー様仰ってたじゃないですか。わたしはあんまり悪魔っぽくないって。だからですよ」
そういえばそんなこと言ったわね。まあわたしの命令には忠実に動くし、反抗的なところもないからそう言っただけなんだけど、気にしてたのかしら。
そうやって真面目に受け取るところも悪魔っぽくは無いわね。でもそれはそれとして可愛げがあってわたしは好きだけど。
「それで、今の貴女のどこら辺が悪魔らしいのか、分かりやすく教えてほしいわね」
「はい! 見てください私の体を。貴女を誘惑する魅惑の悩殺ボディです!」
「あーなるほどね」
これはつまりあれか。淫魔の真似ごとか。
でも残念。悩殺ボディには程遠いわね。確かに全体的にすらっとしててスタイルもバランスもいいけど、総合的には…って、わたしはおっさんか。
おっとっと、わたしがおっさんめいた思考をしていたら、急に小悪魔がしおらしくなったわ。忙しい子ね。
「あの…それでパチュリー様…これでわたしは貴女のお傍に居続けることができますか…?」
「どうしてそんなことが気になるの?」
「だって、パチュリー様には悪魔っぽくないわたしなんて似つかわしくないのかと思って…ぐすん…」
ああ、この子はわたしが言ったことを気にしてただけじゃなくて、何か勘違いしてたみたいね。
まったく。こう考えすぎるのも悪魔らしくは無いわね。仕方ない、少し励ましてあげるか。
「ねえ小悪魔」
「はい、何ですか…ってわあ!? どうして突然のしかかってくるんですか!?」
「どうしてって、これからわたしが眠るからよ。ここはわたしのベッドなんだから、おかしくないでしょう?」
「あ、そうですね…」
相変わらずちょっと抜けてるわね。
まあいいか、とりあえずベッドで一緒に寝て、頭を撫でてあげて…あら、結構柔らかくてさらさらした髪の毛なのね。
「ぱ、パチュリー様ぁ…くすぐったいですよぅ…」
「いいじゃないこれくらい。魅惑の悩殺ボディはどうしたの?」
「あ…頭撫でられるのは想定外でした…」
「まったくどこまでも面白い子ね。まあ、わたしはそんなあなたが一番好きだけどね」
「え、それってどういう…?」
まだ分からないのかしら。本当に面白い子。いつまで経っても退屈しないわ。
でも、いつまでも悩ませ続けるのも可哀そうだし、そろそろ答え合わせといこうかな。
「あのね小悪魔。わたしは別に貴女が悪魔らしいかどうかなんて興味ないわ。貴女が傍にいれば、それでいい」
「じゃ、じゃあわたしのことを悪魔っぽくないって言ったんですか?」
「何となくよ。深い意味なんて無いわ。それとも、貴女は悪魔らしくないという理由でわたしから離れたいの?」
「と、とんでもない! ずっと貴女にお仕えしていたいです!」
「それじゃあこれからもよろしくね。悪魔らしくない小悪魔さん」
「は、はい!」
あらあら、さっきまでは半べそだったくせに、嬉しそうに笑っちゃって。
ともあれこれで万事解決、オールオーケー。
なのだけれど、さっきからずっと気になってるのよね…
「ねえ小悪魔」
「何ですか?」
「貴女の体って悩殺ボディには程遠いけど、出るところと引っ込むところは割とバランスよくて、わたしよりもずっとスタイルいいのよね…羨ましい…」
「ひゃうぅ!? ど、どこ触ってるんですかぁ!?」
「ホント…羨ましい…」
「パチュリー様! 目が、目が怖いです! 心なしか瞳の色が緑です! きゃあああああ!?」
悪魔なんかよりも最愛のパチュリー様の方がよっぽど怖いなって、この時わたしは心の底からそう思いました。
でも嫌ではな…げふんげふん!
さて、こんな悪魔らしからぬ小悪魔なわたしですが、一生パチュリー様についていきたいと思います。
大好きです、パチュリー様。
巨塔の箇所で思わずくすりとさせられました。