幻想郷は微妙なバランスの上に成り立っている。
強力な力を持った者が各々自分を頂点としたコミュニティを形成しており、
それらのコミュニティはたった一勢力だけでも幻想郷を揺るがすほどの力を持っているのだ。
しかし、それらの勢力の持つ能力を完全に数値化できれば、この世界の管理はもっと容易になり、
安定が見込めるのではないか。
「という訳で、本日よりカリスマ政策を導入します。」
博麗神社の、各勢力の長の集まる宴で、幻想郷の管理者たる八雲紫はそう宣言した。
------------カリスマ政策の導入とその効果について--------------
コミュニティの力とは何だろうか。数?いや違う。どのような数を有していようが、
トップが無能ではそれらは烏合の衆である。
軍事力?いや違う。強力な部隊を擁していても、やはりトップが無能では
役には立たない。
ゆえにコミュニティの能力が一番端的に現れるのが、トップの部下をまとめる力、
ひいてはカリスマなのだと幻想郷の管理者たる八雲紫(16)は力説する。
では、トップのカリスマ=コミュニティの力ならば、カリスマを数値化すれば
コミュニティの力は自ずと判るのではないか。
この八雲紫「カリスマ=勢力の力」説には説得力があった。その場に居た各勢力の長は
何れもこの言葉にうなずき、カリスマ政策への協力を表明した。
概ね賛同を得た八雲紫はカリスマ政策のルールを発表した。
①まず、カリスマ政策の参加者は観測者を設定する(複数でもかまわない)
②観測者は、参加者の日々の行動を観測する。
③観測者は、参加者が「カリスマあふれる言動」を行った場合、参加者にシール(通称カリスマシール)を与える。
つまり、カリスマシールをより多く取得した者が、カリスマあふれるリーダーである。
その日から、カリスマ政策は実行された。
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カリスマ政策は、瞬く間に人々の政策に浸透し、彼女らの生活を変えた。
「ごちそうさま。咲夜、今日も美味しかったよ。」
「好き嫌いを直したお嬢様…!なんとカリスマあふるる御姿!シールを一枚差し上げますわ!」
「私のカリスマを持ってすれば人参もピーマンも敵ではない。それくらいは当然だろう?」
「なななななんとカリスマなセリフを!辛抱たまらん!えいっ!」
「うー☆」
「永琳ー。この薬はこの棚に置けばいいのー?」
「ええ、そう。その棚において鍵をかけておいて下さい。」
「そうね。誰かが悪戯したら困るもの。」
「しかし、姫様が診療所の手伝いをしたいなんて…どういう風の吹き回しでしょうか…」
「なによその顔は。」
「ふふっごめんなさい。もちろん後でシールを差し上げますよ。」
「大ちゃん!あたい今度から寺子屋に通う!もう⑨とか言われたくないもん!シールももらえるかしれないし。」
「え…じゃあ観測者は私じゃなくて慧音さんに…!?やだよ!行かないでチルノちゃぁん!!」
「もう、違うよ。かんそくしゃは二人いてもいいんでしょ?大ちゃんはいままでどおりだよ。」
「私だけのチルノちゃんが…チルノちゃんが私以外のだれかを観測者に…パルパルパル」
「だ、大ちゃん?」
「みんなシールを集めてるわね…なにかしら?いや、別に気にしてるわけじゃないのよ?
いや、ただちょっとね?だれか観測者になってくれないかしら、なんて思ってないわよ?
……私は何でひとりごとなんて言ってるのかしら。向日葵に水をあげないと…」
「おくう、この問題は?」
「んーと、1941年の6月22日に開始された…多分バルバロッサ作戦だね。」
「すごーい!正解だよ!全く…ルイ○ジとマ○オの見分けがつかなかったおくうが勉強が出来るようになるなんてねぇ…
あたいはうれしいよグスッ」
「うにゅ?なんで泣いてるの?」
「あ?ああ、いや、泣いてないよ!うん、そうだ。ほら、シールをあげるよ。」
「わーい」
「シールは何枚溜まった?」が挨拶がわりとなり、勢力の長たちはシールを集める事に
に意欲を燃やした。宴会では、保護者…いや観測者たちは「お嬢様の偏食が治った」「姫様が手伝いをするようになった」
「諏訪子様が早寝早起きするようになった」などと言う話題に華を咲かせた。そして口々に美少女妖怪八雲紫の
先見性を褒めたたえた。紫は口でこそ「私はなにもしてないわよ」などと照れ隠しを言っていたが
その顔は紅がさしていた。皆、カリスマ政策は幻想郷にとって必要不可欠なものになるだろうと思っていた。
だが、終わりの日は、すぐそこまで来ていた。
~~~~~~~~
カリスマ政策が導入されて二月ほどが経ったある日の事だった。
氷の妖精(プライバシー保護のため名前は伏せる)が「あややや、じゃなかったフ、フヒヒヒお嬢ちゃん、わ、私、いやお姉さんに
ついてきてくれたらシールをいっぱいあげるよグフフ」などと言われてホイホイついていってしまうという事件が発生した。
「チ(ピーッ!!)ノちゃん!いつも知らない人についていっちゃいけないって注意したのに…」
「え、だって大ちゃん『お菓子をくれるって言われてもついていっちゃダメだよ!』っていってたよね?
あたい、お菓子をくれるって言われてないもん!シールをくれるっていわれたからついていったんだよ!」
何でも犯人は、サングラスとマスクをかけて、赤い頭巾をかぶり、背中には大きな黒い鴉天狗のような翼があったという。
氷の妖精は犯人の自宅と思しき場所に連れ去られ、様々な服を着せられ、写真を取られるという被害を受けた。
里の守護者であるワーハクタクの慧音と紫は事態を重く見、あらゆる手段を尽くして犯人を捜したが、
懸命な捜索も虚しく、犯人の行方はおろか、正体の手がかりすら見つけることは出来なかった。
紫は今日もくたくたに疲れた様子でマヨヒガに帰ってきた。
「ただいま藍~。疲れたわ~。ゆかりんもう動けないわ~。」
「おかえりなさいませ紫様。今日も捜査ですか?」
「そうよ。全く。この美少女探偵ゆかりんでも解決できないなんて、なんて事件でしょう。」
「……夕飯は出来ていますので、食卓について下さい。」
「らめぇぇぇ~疲れて動けない~。おぶって~。」
「スキマでも使えばいいじゃないですか。」
結局藍が背負って玄関から食卓に運ぶことになった。
「しかし妖精とはやはり愚かなのですね。シールに釣られて攫われるとは。」
「そんなことはないわよ。『シールあげる』って言えば妖精じゃなくてもついていくかもしれないわよ?」
「まさか~。そんな訳はありませんよ。」
そこまで何気なく喋ったものの、紫は自分の発した言葉に何か引っ掛かりを覚えた。
引っ掛かりはある疑念となり、紅茶にこぼしたミルクのように広がっていった。
「……藍」
「どうしました?」
「シールって悪用できないかしら?」
「どういうことですか?」
「恣意的に使うっていうのかしら。藍、少し調べるわよ。ついてきなさい。」
紫は珍しく、厳しい表情を浮かべた。
~~~~~~~~
「あーうー。これ早苗の学校の服だよね?これで本当にカリスマがたまるの?」
「お…お…おお。なんと神々しい姿だ諏訪子…。あの時この格好をしていたなら諏訪大戦は諏訪子の勝ちであったぞ…」
「えー、そう?」
「おお!そうだとも!はい。シール」
「わーい」
「諏訪子様。次はこのスモックを着てください。」
「えーと、これって早苗が昔着てた…」
「ええそうです。しかしこれを着ることにより諏訪子様のカリスマがどどんとアップします!
その効果、実に2枚分!」
「あーうー。シールがもらえるなら着るよぉ…」
「姫様…そう少し上目遣いで…それで『えーりん大好きっ!』って感じで私の腰にかじりついてください。」
「えーっと、こんな感じ?えいっ!えーりん大好き!」
「あう…そうです!姫様!非常にカリスマに溢れております!はい、シール」
「わーい!じゃあ次はどうすればいいの?」
「え…えーとですね…わ、わわわ私の額にですね…そ、その…き…き…」
「ふーん。シール何枚くれる?」
「に、二枚あげます!」
「二枚、ねぇ…。どうしようかしら…」
「三枚!三枚あげます!だから私に…えーと、き…」
「やっぱり悪用されてるじゃないか(ふんど)」
「紫様、キャラが崩壊しています。」
「藍、明日、参加者を博麗神社に集めなさい。」
「はい。」
~~~~~~~~~
「カリスマ政策の廃止を決定しました。今後、シールのやり取りを一切禁止します」
博麗神社にあつまった者は、口々に鬼、悪魔、スキマ、靴下と紫を罵ったが、紫はそのままスキマに消えてしまった。
結局のところ、どんなに優れた施策も、いずれは腐敗するのだ。カリスマ政策はそのことを見える形で幻想郷の
人妖たちに示したとも言える。むしろ、悪影響を後世にを残す前に廃案にした
八雲紫の判断は妥当なものであろう。
「はあ…。これで明日からまたお嬢様の偏食に悩まされるのね…」
「ねぇ、咲夜、ねぇ。ねぇってば。」
「あ、どうしましたお嬢様?」
「わ、私は…!明日からも好き嫌いなんてしないわよ!」
「あらあら、嬉しいお言葉ですね。」
「だからね…その…?あの『えいっ!』っていうのを…」
ほんの少し、良い影響は残ったようだが。
~~~~~~~~~
それからまた二月ほどが経ち、カリスマ政策のことはほぼ人々の記憶からなくなっていた。
あれほど必死に集めたシールはみなそれぞれ机や棚の中にしまわれ、埃を被っている。
「私はいったい誰を観測者にすればいいのよぉ……」
ただ、向日葵畑に住んでいる妖怪は、未だ、カリスマ政策が廃案になったことを知らない。
政策の終わり方が幻想郷らしくて面白かったです
面白かったです。カリスマって大事なんだなぁ
だが、地霊殿は空じゃなくさとりじゃないか?
現実と同じで折角の幻想という舞台がちょっと残念
条件自体は凄く面白いので、もう少しトリッキーでも良かったかなぁと思います。
ははは、こやつめ
観測者が身内贔屓と甘すぎでそこから欠陥がある気がするが…
なんにせよ面白い話でしたぜ
面白かったです。欲を言うなら聖と神子のも見てみたかったかな。
作者さんとは良い酒が呑めそうだ。
ぬかしおる
たくさんのコメント有難うございました!まさかこんなにコメントしていただけるなんて・・
>1.奇声を発する程度の能力様
ゆうかりんは素直になれないのです。それが幻想郷です。
>2.名前が無い程度の能力様
この靴下ッ! 声に出して読みたい日本語ですね。
ちなみに幻想郷の少女たちの靴下は高値で取引されます。
>3.名前が無い程度の能力様
ちなみに私は寝間着姿も好きだったりします。
>4.名前が無い程度の能力様
これから「期待の病人」などと言われないようにがんばります。
おくうの観測者ですが、さとりんは「避けられてる」「最近会ってない」などと言ってているため
おりんりんにしました。
>6.名前が無い程度の能力様
哲学的な問ですね。
行き着く先は旧東ドイツやソヴィエトのような監視社会になりそうな気がします。
>10.名前が無い程度の能力様
「ふふふ、ひまわりさん、私いまカリスマにあふれてたわよね?ふふ、ふふふふ」
>12.名前が無い程度の能力様
淫夢厨は帰れ。お前ら自分が迷惑だなんて
夢にも思わないんだろ?はっきり言って
ネタとしておもしろくないんだよネ
タとして。正直言って
大迷惑だ。どうせ誰にも
好かれないんだろ?
きもい。
(PCで見てくださいね!)
むう。そうですか。
確かに、ちょっと落ちとしてはあまり良いものでは無いかもしれません。
ちなみに私の中の幻想郷像は、「旅行に行きたいけど住みたくはない」世界です。
>17.がいすと様
カリスマ政策よりカリスマパワーを得たレミリアは
怪獣レミリゴンに変身してしまった!どうなる幻想郷!?
こうですかわかりません。
がいすと様の作品はいつも楽しく読ませていただいております。
とくに神奈子さまの縁日の話が好きです。
>25.名前が無い程度の能力様
十進法とはいっておりません。
>26. 名前が無い程度の能力様
「わ、私がチルノちゃんの観測者になっちゃいけないんですか!!?」
>27.名前が無い程度の能力様
きっとゆうかりんは「かんそくしゃになって!」っていえないんでしょう。
命蓮寺組はひじりんが「だれがかりすまでもいいじゃない びゃくれん」とか言っております。
神子とかは僕が神霊廟未プレイなのでなんとも…
30.名前が無い程度の能力様
ちなみに僕はゆうかりんとゆかりんとひじりんとレティさんが好きです。
みょん命の友人の「うわぁ…」という目は今でも忘れられません。
32.名前が無い程度の能力様
あ、あああなたのうしろにスキマが!
コメント、評価してくださった皆様、ありがとうございました!
また時間ができたら書かせて頂きます。アイデアは沸くけど書く時間がないよぉ…
チルノはきっと天狗さん並には長生きしてると思います。故にロリではありませんドヤッ
ゆうかりんかわいいw