一応、その辺の妖精に比べて、それなりに賢いというプライドはある。けど、大妖精なんていう大層な呼ばれ方をしているわたしも、所詮はただの妖精だ。博霊の巫女や、人間の魔法使いたちなんかには、とてもじゃないけどかないっこない。
それどころか、彼女らが軽くあしらうような妖怪…宵闇の妖怪なんかにも、勝てないかもしれない。
スペルカードルールなるものが幻想郷で流行しているが、わたしはスペルカードは持ってすらいない。わたしもスペルカードが欲しいと、スキマ妖怪にわざわざ頭を下げに行ったことはある。が、なんだかよくわからない理屈をつけられて断られた。
それでも、わたしはスペルカードが欲しかった。
わたしは力が欲しかった。大妖精の「大」に見合うような力が。
わたしにはチルノ、という名前の友達がいる。
チルノちゃんは氷の妖精である。かなり頭は悪いものの、冷気を操る程度の能力を持っていて、弾幕も氷のそれを得意としている。スペルカードも何枚か持っている。妖精でスペルカードを持っているのはこのチルノちゃんと、あとは……名前は忘れたけど、三姉妹の妖精が持っているという話を聞いた。
スペルカードを持っている以上、チルノちゃんは妖精の中でも飛びぬけて強い。
彼女なら、宵闇の妖怪……名前は確か、ルーミアとかいったかな? ルーミアにも勝てるだろう。
わたしには勝つことができないルーミアにも、勝てるだろう。
少なくともわたしは、チルノちゃんよりは賢いつもりでいる。
わたしにチルノちゃんくらいの力があれば、チルノちゃん以上にその力を有効利用出来るだろう。ルーミアなんて妖怪風情ではなく、博霊の巫女やあの魔法使いにも、一杯食わせられるかもしれない。
しかし実際は、ヘラヘラとカエルを苛めたり、間抜けなことをしてみんなの笑い物になっているチルノちゃんすら、わたしよりも遥かに高みにいた。
大妖精なんて呼ばれていても、所詮はバカな氷の妖精にも敵わない自分が悔しかった。
力を持っていながら、それを無駄にしているチルノちゃんが妬ましかった。
自分の恵まれた境遇に気付かず、愚かな振る舞いをする友達が妬ましかった。
チルノちゃんはそして、とんでもない自信家だった。
今思えば、どうしてあそこまで自信過剰でいられたのか……わたしには、さっぱりわからない。
自分こそ最強という考えを持っていたチルノちゃんは、どんな強大な妖怪にも向かっていった。
「大ちゃん! ビッグニュースよ!」
「どうしたの?」
「さっき、山の向こうにすっごい大きな怪物がいたのよ! これは異変ね……あたいがぶっ飛ばしてやる!」
「えっ、やめといたほうが良いんじゃないかな……? すっごい大きな妖怪なんて、巫女にでも頼まないと倒せないよ」
「何言ってるの。あたいがババッて倒してやるわよ! 巫女なんか弱くて頼りにならないし! 大ちゃんはそこで黙って大人しく待っててくれればいいわ!」
少なくともわたしは、チルノちゃんよりは賢いつもりでいる。
わたしには力がないだけだ。力さえあれば、「そんな危ない妖怪、立ち向かうなんて無茶だ」と、チルノちゃんを思いとどまらせるだけの説得力も得ていただろう。
だが、わたしより力のあるチルノちゃんが、チルノちゃんより力のないわたしに、黙っていろ、というのを、どうしてわたしが止めることができるだろうか。
これが力無い野良妖精の台詞なら、頭から笑ってやれたのに。馬鹿のくせになまじ力があるから藪なんかを突っついて、蛇に噛まれる羽目になるのだ。
「じゃあ行ってくる! あたいが最強なことを見せてあげる!」
「……いってらっしゃい。チルノちゃん」
そう言って彼女は、外の世界からやってきたという、異形の妖怪に立ち向かっていった。
程なくしてこの妖怪の噂は人里に伝わり、博霊神社に伝わり、巫女が解決に向かうのだが……
先にその妖怪と戦ったチルノちゃんは、巫女が妖怪の元にたどり着いたその時、すでに事切れていたという。
(馬鹿のくせになまじ力があるから藪なんかを突っついて、蛇に噛まれる羽目になるのよ)
巫女により妖怪が退治され、幻想郷に再び安寧が訪れた。
巫女が運んできてくれた、事切れて、動かなくなったチルノちゃんを見て、わたしはそう思った。
そう思ったつもりだったのに。
チルノちゃんのその顔を見ていると、どうしてか、どうしてか涙が溢れてきた。
泣いて、泣いて、しばらく涙を流して、わたしは今まで自分が嘘をついてきたことに気づいた。
本当は妬ましかったのではない。このことを、この結末を恐れていた。
チルノちゃんが心配だったんだ。
馬鹿のくせになまじ力がある、この愛すべき友達が、心配だったんだ。
心配なのに、自分には力が無いだとかなんだとか、さんざん理屈をこねて、結局自分の言葉を紡げなかった 自分の自信の無さをひた隠しにしていた。
本当に馬鹿だったのは、わたしのほうだった。
数か月が経った。チルノちゃんは、まだ帰ってこない。
チルノちゃんは帰ってくるだろうか。
妖精は不安定な生き物だ。気まぐれな自然に左右され、再び生を受けるか、輪廻を終えるかが決まる。
でも、もし、チルノちゃんが「一回休み」であったときのために……。
チルノちゃんと肩を並べられるだけの、力をつけておこう。
チルノちゃんと肩を並べられるだけの、自信をつけておこう。
だからわたしは力がほしい。
大妖精の「大」に見合う力が。
それどころか、彼女らが軽くあしらうような妖怪…宵闇の妖怪なんかにも、勝てないかもしれない。
スペルカードルールなるものが幻想郷で流行しているが、わたしはスペルカードは持ってすらいない。わたしもスペルカードが欲しいと、スキマ妖怪にわざわざ頭を下げに行ったことはある。が、なんだかよくわからない理屈をつけられて断られた。
それでも、わたしはスペルカードが欲しかった。
わたしは力が欲しかった。大妖精の「大」に見合うような力が。
わたしにはチルノ、という名前の友達がいる。
チルノちゃんは氷の妖精である。かなり頭は悪いものの、冷気を操る程度の能力を持っていて、弾幕も氷のそれを得意としている。スペルカードも何枚か持っている。妖精でスペルカードを持っているのはこのチルノちゃんと、あとは……名前は忘れたけど、三姉妹の妖精が持っているという話を聞いた。
スペルカードを持っている以上、チルノちゃんは妖精の中でも飛びぬけて強い。
彼女なら、宵闇の妖怪……名前は確か、ルーミアとかいったかな? ルーミアにも勝てるだろう。
わたしには勝つことができないルーミアにも、勝てるだろう。
少なくともわたしは、チルノちゃんよりは賢いつもりでいる。
わたしにチルノちゃんくらいの力があれば、チルノちゃん以上にその力を有効利用出来るだろう。ルーミアなんて妖怪風情ではなく、博霊の巫女やあの魔法使いにも、一杯食わせられるかもしれない。
しかし実際は、ヘラヘラとカエルを苛めたり、間抜けなことをしてみんなの笑い物になっているチルノちゃんすら、わたしよりも遥かに高みにいた。
大妖精なんて呼ばれていても、所詮はバカな氷の妖精にも敵わない自分が悔しかった。
力を持っていながら、それを無駄にしているチルノちゃんが妬ましかった。
自分の恵まれた境遇に気付かず、愚かな振る舞いをする友達が妬ましかった。
チルノちゃんはそして、とんでもない自信家だった。
今思えば、どうしてあそこまで自信過剰でいられたのか……わたしには、さっぱりわからない。
自分こそ最強という考えを持っていたチルノちゃんは、どんな強大な妖怪にも向かっていった。
「大ちゃん! ビッグニュースよ!」
「どうしたの?」
「さっき、山の向こうにすっごい大きな怪物がいたのよ! これは異変ね……あたいがぶっ飛ばしてやる!」
「えっ、やめといたほうが良いんじゃないかな……? すっごい大きな妖怪なんて、巫女にでも頼まないと倒せないよ」
「何言ってるの。あたいがババッて倒してやるわよ! 巫女なんか弱くて頼りにならないし! 大ちゃんはそこで黙って大人しく待っててくれればいいわ!」
少なくともわたしは、チルノちゃんよりは賢いつもりでいる。
わたしには力がないだけだ。力さえあれば、「そんな危ない妖怪、立ち向かうなんて無茶だ」と、チルノちゃんを思いとどまらせるだけの説得力も得ていただろう。
だが、わたしより力のあるチルノちゃんが、チルノちゃんより力のないわたしに、黙っていろ、というのを、どうしてわたしが止めることができるだろうか。
これが力無い野良妖精の台詞なら、頭から笑ってやれたのに。馬鹿のくせになまじ力があるから藪なんかを突っついて、蛇に噛まれる羽目になるのだ。
「じゃあ行ってくる! あたいが最強なことを見せてあげる!」
「……いってらっしゃい。チルノちゃん」
そう言って彼女は、外の世界からやってきたという、異形の妖怪に立ち向かっていった。
程なくしてこの妖怪の噂は人里に伝わり、博霊神社に伝わり、巫女が解決に向かうのだが……
先にその妖怪と戦ったチルノちゃんは、巫女が妖怪の元にたどり着いたその時、すでに事切れていたという。
(馬鹿のくせになまじ力があるから藪なんかを突っついて、蛇に噛まれる羽目になるのよ)
巫女により妖怪が退治され、幻想郷に再び安寧が訪れた。
巫女が運んできてくれた、事切れて、動かなくなったチルノちゃんを見て、わたしはそう思った。
そう思ったつもりだったのに。
チルノちゃんのその顔を見ていると、どうしてか、どうしてか涙が溢れてきた。
泣いて、泣いて、しばらく涙を流して、わたしは今まで自分が嘘をついてきたことに気づいた。
本当は妬ましかったのではない。このことを、この結末を恐れていた。
チルノちゃんが心配だったんだ。
馬鹿のくせになまじ力がある、この愛すべき友達が、心配だったんだ。
心配なのに、自分には力が無いだとかなんだとか、さんざん理屈をこねて、結局自分の言葉を紡げなかった 自分の自信の無さをひた隠しにしていた。
本当に馬鹿だったのは、わたしのほうだった。
数か月が経った。チルノちゃんは、まだ帰ってこない。
チルノちゃんは帰ってくるだろうか。
妖精は不安定な生き物だ。気まぐれな自然に左右され、再び生を受けるか、輪廻を終えるかが決まる。
でも、もし、チルノちゃんが「一回休み」であったときのために……。
チルノちゃんと肩を並べられるだけの、力をつけておこう。
チルノちゃんと肩を並べられるだけの、自信をつけておこう。
だからわたしは力がほしい。
大妖精の「大」に見合う力が。
大「生きてるのかよ!」
…そんな軽いオチかと思っていたら。
頑張れ大ちゃん!
あと三姉妹の妖精を光の三妖精のことを言っているのならば
あの三人は姉妹ではない筈です
(大ちゃんがそういう認識をしているという設定ならばすいません)
ぱるぱるしている大ちゃんもいいものですね
スペルカードって、技の宣言の為に各々が自作する物で、
誰かに頼んで貰ったりするものではない、と思っていたので、そこだけマイナスかなあ
こういう作品大好きです