幽々子はその日、朝からずっとそわそわしていた。
目が覚めると、夜のうちに雪が積もっていて、白玉楼の庭の松の枝は美しい白い鳥の羽根のように見えたし、イチョウやカイブキは真珠でふちどられているようだった。
寒かったので、ふだん着のほかにもう一枚、妖夢に羽織を持ってこさせた。そのときに渡してくれるかと、昨夜寝る前から期待していたが、すぐにはもらえなかった。
お昼までは各所――四季映姫様のところや、友人である八雲紫宛、怨霊の管理で相談事のある、地底向けなど――へ届ける書状を書いて過ごした。慣れているとはいえ、面倒な仕事であることはかわりないし、気を使う。いつもよりも時間がかかってしまった。
お茶を何度か命じて、そのたびに熱いものを持ってきてもらったから、いつでも機会はあったはずなのに、妖夢はとてももったいぶっていて、ちっともそれを持ち出す気配がない。
「書きものをしていると、頭を使うから、甘いものがほしくなるわね」
なんてことも、それとなく言ってみた。すると妖夢は、「そうですねえ。私にも経験があります」なんて返したきりで、にやにや笑っている。
これはもしかすると、何か驚くようなことを用意しているのかもしれない。
英語で言うと、サブライズをスタンバイしているのかもしれない。
幽々子は気を揉んだ。気を揉んだまま、お昼になって、ご飯を食べてデザートのときもまだ、出してこないから、これはおやつのときか、もしかすると夜になってしまうのかな、と思った。
どきどきしている自分を、幽々子は面白く思う。
生まれた時から知っていて、自分が育てたにひとしい妖夢の、バレンタインデーのチョコレートなんかを、こんなにも気にしていて、それでいろんな日常ごとが、なんにも手につかなくなっている。自分がかなりおまぬけなようにも思えるし、なんだかちょっと、可愛いようにも思える。
三時になった。これでもまだ出してこないようだったら、野暮は嫌いだけども、仕方がない。はっきりと聞いてみよう。そうでもしないと、今日は一日そればかりを考えて終わってしまう。
ぱんぱん、と手を叩くと、障子が開いた。少し前からそこに座っていたようだ。妖夢の横に、大きなお盆が置かれてあった。
お盆の上に、洋食のフルコースのメイン料理で使うみたいな、銀の丸い蓋がかぶせてあった。
「あら」
幽々子は笑った。妖夢にしては、けれん味のある仕掛けだ。その中にあるはずのチョコレートが、今までの何倍も楽しみになってしまった。
「お待たせしました。したでしょう?」
「生意気な。ええ、でも、まったくよ」
冥界の主従は、顔を見合わせて、同時にふふふと笑った。
「それでは」
妖夢が蓋を取ると、お盆の中に、小さな、小指の先ほどの黒いチョコレートが、宝石みたいに置かれていた。
美しい、おいしそうなものであったが、圧倒的に量が足りない。幽々子はびっくりしてしまった。
「これっぽっちなの?」
「はい、幽々子様」
妖夢はお盆を差し出すと、実に晴れ晴れとした顔で言った。
「幽々子様はダイエット中なので、チョコをちょこっと持って来ました!」
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコを
ちょこっと
持って
来ました
※ちなみにチョーコうか(超高価)なチョコ
◆
「きゃああああああああああああああ……あれ?」
幽々子は目を覚ました。どうやら、お昼のあと、文机に突っ伏してうたた寝をしてしまったようだ。
(ふっ……Day Dream'nか)
そうひとりごちると、なんだかおかしくなってしまった。亡霊である自分が、夢を見るなんて。あんまりないことだった。
自分はすでに死んでいる。死をつかさどり、万物に停止と終焉を知らせるものである。死と夢と、どちらがおそろしいものなんだろうか? などとなんとなくそれっぽいことを考えてもみたが、単なるハッタリだった。
妖夢のチョコ欲しさに、変な夢を見てしまった。これはもう、なんというか、なんだか何もかもがどうにもならないので、早いところもらってしまって、スッキリしたほうがいい。
幽々子はそう考えて、手をぱんぱんと叩いた。
障子が開いた。すでに妖夢がひかえていて、横に、銀色の丸い蓋が乗ったお盆が置かれていた。
「はい、幽々子様!」
~Sweet Valentine's Dream…~
目が覚めると、夜のうちに雪が積もっていて、白玉楼の庭の松の枝は美しい白い鳥の羽根のように見えたし、イチョウやカイブキは真珠でふちどられているようだった。
寒かったので、ふだん着のほかにもう一枚、妖夢に羽織を持ってこさせた。そのときに渡してくれるかと、昨夜寝る前から期待していたが、すぐにはもらえなかった。
お昼までは各所――四季映姫様のところや、友人である八雲紫宛、怨霊の管理で相談事のある、地底向けなど――へ届ける書状を書いて過ごした。慣れているとはいえ、面倒な仕事であることはかわりないし、気を使う。いつもよりも時間がかかってしまった。
お茶を何度か命じて、そのたびに熱いものを持ってきてもらったから、いつでも機会はあったはずなのに、妖夢はとてももったいぶっていて、ちっともそれを持ち出す気配がない。
「書きものをしていると、頭を使うから、甘いものがほしくなるわね」
なんてことも、それとなく言ってみた。すると妖夢は、「そうですねえ。私にも経験があります」なんて返したきりで、にやにや笑っている。
これはもしかすると、何か驚くようなことを用意しているのかもしれない。
英語で言うと、サブライズをスタンバイしているのかもしれない。
幽々子は気を揉んだ。気を揉んだまま、お昼になって、ご飯を食べてデザートのときもまだ、出してこないから、これはおやつのときか、もしかすると夜になってしまうのかな、と思った。
どきどきしている自分を、幽々子は面白く思う。
生まれた時から知っていて、自分が育てたにひとしい妖夢の、バレンタインデーのチョコレートなんかを、こんなにも気にしていて、それでいろんな日常ごとが、なんにも手につかなくなっている。自分がかなりおまぬけなようにも思えるし、なんだかちょっと、可愛いようにも思える。
三時になった。これでもまだ出してこないようだったら、野暮は嫌いだけども、仕方がない。はっきりと聞いてみよう。そうでもしないと、今日は一日そればかりを考えて終わってしまう。
ぱんぱん、と手を叩くと、障子が開いた。少し前からそこに座っていたようだ。妖夢の横に、大きなお盆が置かれてあった。
お盆の上に、洋食のフルコースのメイン料理で使うみたいな、銀の丸い蓋がかぶせてあった。
「あら」
幽々子は笑った。妖夢にしては、けれん味のある仕掛けだ。その中にあるはずのチョコレートが、今までの何倍も楽しみになってしまった。
「お待たせしました。したでしょう?」
「生意気な。ええ、でも、まったくよ」
冥界の主従は、顔を見合わせて、同時にふふふと笑った。
「それでは」
妖夢が蓋を取ると、お盆の中に、小さな、小指の先ほどの黒いチョコレートが、宝石みたいに置かれていた。
美しい、おいしそうなものであったが、圧倒的に量が足りない。幽々子はびっくりしてしまった。
「これっぽっちなの?」
「はい、幽々子様」
妖夢はお盆を差し出すと、実に晴れ晴れとした顔で言った。
「幽々子様はダイエット中なので、チョコをちょこっと持って来ました!」
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコをちょこっと持って来ました
チョコを
ちょこっと
持って
来ました
※ちなみにチョーコうか(超高価)なチョコ
◆
「きゃああああああああああああああ……あれ?」
幽々子は目を覚ました。どうやら、お昼のあと、文机に突っ伏してうたた寝をしてしまったようだ。
(ふっ……Day Dream'nか)
そうひとりごちると、なんだかおかしくなってしまった。亡霊である自分が、夢を見るなんて。あんまりないことだった。
自分はすでに死んでいる。死をつかさどり、万物に停止と終焉を知らせるものである。死と夢と、どちらがおそろしいものなんだろうか? などとなんとなくそれっぽいことを考えてもみたが、単なるハッタリだった。
妖夢のチョコ欲しさに、変な夢を見てしまった。これはもう、なんというか、なんだか何もかもがどうにもならないので、早いところもらってしまって、スッキリしたほうがいい。
幽々子はそう考えて、手をぱんぱんと叩いた。
障子が開いた。すでに妖夢がひかえていて、横に、銀色の丸い蓋が乗ったお盆が置かれていた。
「はい、幽々子様!」
~Sweet Valentine's Dream…~
大好き
でも笑ってしまった、不覚ッ!!
爆笑しました。
それでいて幽々子も妖夢も可愛い。
けれどそんなん気にしなくなるくらいウザ面白い。
笑ってしまったので、私の負けです。
こういうバカバカしいの大好きなんで大いに楽しませていただきました!
何だかここに集約されている気がしました。何だかうまいこと言おうとしているというか、それでいいのかとちょっと不安になりました。
きっとアンさんは忍者に違いない。
汚いな、さすがニンジャきたn(ry
くっだらないバカギャグとみょんの組み合わせが腹に響きました。
ドヤ顔は早苗・布都の2人だけの特権じゃないんだなぁ。
いいぞもっとやれ
文句いってやろうとおもたのにあとがきのつぶらな瞳に二度吹いちまったwwww
でも繰り返し書くのは卑怯だwwww
念のため解説すると、「チョコ」と「ちょこっと」がかかっているギャグです。
何故解説したしwwwwwwwwwwwwwww
でも、なんだかとても愉快!
これはひどい
馬鹿野郎…………ッwwwww
ずるい
くだらなすぎて思わず笑いました