窓の外を見ると、どんよりとした雲が空を覆っていた。
いい天気だ。
カレンダーを一枚めくるると、九月二十四日と書いてあった。
もうすぐ夏が終わり、秋が来るらしい。
…なんだか最近ずっと涼しい状態が続いていたので、あまり実感は湧かないが。
さて、お嬢様を起こしてこよう。
多分今はまだ寝ておられるだろうが、今日は午後から予定もあるし。
その前に、朝ごはんを作らねば。
服をしっかり整え、時間を止めてキッチンへと向かう。
ああ、今日もいつもと変わらない一日になりそうだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
十六夜咲夜の変わらない日常
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
……あぁ。
私としたことが何たるミス。材料が無いとは。
昨日買いに行った気がするが、買った食材が一日でなくなるだろうか。
…昨日は宴会だったしなぁ…
ん? 宴会? あれ、あったっけ。酔ってたのかな、記憶があいまいだ。
ああだめだだめだ、こんなんじゃだめだ。がんばれ私。
まずは食料の調達。これは今からでも間に合わなくも無い。
そして調理。時間を止めれば大丈夫。
後はお片づけ等も時間が止められれば余裕。
……結構余裕があったな。
えっと、食料は人里で買ってきて……
着いた。
今が七時の三十分だから、後三十分くらいで用意しなければならない。
肉、野菜…
今は急いでいるので時間ををめたまま商品を一つつまんでかごの中に入れる。
代わりに書置きと多めに代金を置く。
まあこのお店の人は慣れているはずだから大丈夫だろう。
よし、調達完了。
早く帰って準備をしなければ。
それにしてもここは毎日が平和でまるで時間が止まっているよだ。……私が止めているのだけど。
はい、帰宅。時間経過は0。まあ当たり前か。
次は調理ね。というわけで……いつもの行きますか。
咲夜の0秒クッキング!
はい、今回作りますのは、
「一晩“分”煮込んだチキンカレー」
です。
まずは、時間を止めます。
次にたまねぎ、にんじん、ジャガイモ。これらに傷符を使って細かく刻みます。
そしてお湯を沸かしその中にさまざまな香辛料を入れます。
このとき多めに入れれば、後でお嬢様の半泣きの顔が見れますが、今回は少なめに。
あとは切った鶏肉を入れ先ほどの野菜を入れ時間を720倍にし体感一分待てば出来上がり。
……適当だが、わりかしうまくいった。
さて、次はお掃除。
今はさしあたり廊下と食堂で充分だろう。
香霖堂で買ってきた何とか棒とか言うのは便利だ。
あとパチュリー様の魔法集塵機とかも。
床。机。椅子。台、壁、シャンデリア。暖炉。
埃をたたき、塵を吸い集め、芥は分別して全部燃えるゴミ箱へ。
大方こんな所でしょう。
後は妖精たちに任せることにする。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「むにゃ、…あと50年…」
「駄目です。そんなに寝ていたら、私はたちまち完全で瀟洒なおばあちゃんです」
「……それは嫌だなぁ」
「だったら起きてください」
お嬢様の朝は遅い。
吸血鬼はもともと夜行性の生き物なのですごく眠いそうだ。
最近血を飲んでいないせいで低血圧だとも言っていたがそれはたぶん嘘でしょう。
「で、今日の朝ごはんは?」
「時間が無かったのでテキトーに作ったカレーです」
「……言い方はあれだけど咲夜のカレーはおいしいから好きよ」
「光栄です」
軽い会話をした後、お嬢様の前にカレーを置く。
すると途端にがっつき始めるお嬢様。
おいしいからって、そんなにしては優雅さが消えうせてしまいます。
そう指摘すると、少し肩を落としながらもゆっくりスプーンを動かす様になりました。
ところで前から思っていたのですが吸血鬼が銀のスプーンを持っていて大丈夫なんでしょうか?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ああ、やはり今日も変わらず平凡な一日だ。
美鈴は門の前で太極拳をしていますし、
お嬢様は暇そうにお紅茶を飲み、
パチュリー様は魔法の実験をしているらしい。
妖精たちは無い頭を使ってがんばってくれている。
図書館にお茶を入れてこよう。実験の内容も気になるし。
「ああ、また失敗」
割れたビンを集めながら、パチュリー様は言いました。
どうやら錬金術の実験だったようだ。
「お茶です」
そう言って温いお茶を差し出す。
「ありがとう」
彼女はそう言うとごくごくと一気に飲み干した。
「ちなみに隠し味は魔理沙の茸です」
その瞬間、ものすごい顔でこっちを見られた。
むう、何がいけなかったのだろうか。
「ところで、この惨状はどうしたんですか?」
いまだ回収しきれていないビンの破片を指差して言いました。
「ああ、これね…」
パチュリー様の表情が暗くなる。
「いや、今まであまりやらなかったポーション作りでも、と思って」
「はあ、ポーションというと…」
「魔法薬、よ」
魔法薬、ですか。
「アリナ○ンVとリポ○タンDにしょうがとタカノツメを入れたものでしょうか?」
「いや、違うわよ。魔理沙の茸薬とか」
「ああ、あの鬼の酒張りに霊力がみなぎってくる薬ですか?」
「そうそう。でも、私には向いていないようね。何回繰り返しても駄目だったし」
「え?」
その時だった。
「っ」
私は、急に意識を失ったのだ。
「咲夜?どうしたの!?」
―――何回繰り返しても駄目だった
その言葉を引き金にしたかのように。
「咲夜!返事をして!」
薄れ行く意識の中、
最後に聞こえたのは…
「諦めなさい、咲夜」
お嬢様の、声だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
声が聞こえる。
「や、さ…!」
どこか、遠くから。
「きな…!…くや!」
優しく、厳しく、懐かしい声。
「咲夜!起きなさい!」
「起きました」
「うわぁっ!」
急に動き出した私にお嬢様は驚いて飛び上がってしまった。
ところでここは…
どうやら私の部屋のようだ。
あれ、でも私は図書館にいたはず…
「急に気絶したのよ。ここまで運ぶの大変だったんだからね?」
そうか、私は図書館で倒れて…
「それはとんだご迷惑をおかけしました」
「まあ、それはいいのよ。問題は――」
お嬢様は少し間を空けて、言った。
「――今が九月二十五日の午前十時であること!」
「まあ、昨日の晩は作り置きのカレーがあったからよかったけれど、もう食べるものが何も無いのよ!」
あ、昨日食材一食分しか買ってなかった。
ああ、私としたことが何たるミスだろう。
「すみませんでしたお嬢様、急いで買って参ります!」
その時。
「……待って」
何だろうか?
「どうかなさいましたか?」
「今日は時間を止めずに買い物に行くこと!」
……え?
「でも、それだと帰ってくるのが遅れますよ?」
「いいの、わかった?絶対に時間を止めては駄目よ?」
うーん、意図はわからないけれど、お嬢様が言うのなら仕方ない。
「……はぁ。わかりました」
「じゃあ、お願いね!」
「はい!」
そう返事をした後で、扉へ向かう。
バタン、
「これは、避けられない運命、それならせめて―――」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
紅魔館から、徒歩十五分。
此処は、いつもの人里のはずだ。
でも、
なにかが、おかしい。
違和感を感じる。
昨日と違う天気。
昨日と違う気温。
昨日と違う景色。
当たり前のことのはずなのに、何かが引っかかる。
胸騒ぎが止まない。
さっさと終わらせて帰ろう。
肉、野菜、果物、茶葉……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
私が食料をあらかた買い終わった、その時だった。
大きな音が、一帯に響き渡った。
それはまさに轟音と呼ぶにふさわしかった。
そしてその音が聞こえてきた方角は…
霧の湖のある方角だった。
凍りついた時間を解放すると、そこにはなんとも形容しがたい物があった。
強いて言うなら、紅い破片の山。
しかし、こんな場所にこんな物は無かったはずだ。
ここには、私の帰るべき家があったはずなのだから。
「……嘘、でしょ……?」
気がつけば、私は瓦礫の山を掘り返していた。
何かを探しているように。
それは、
この星の形をしたプレートでもなく。
この三日月形のアクセサリーでもなく。
この宝石のようなものが付いた枝状のものでもなく。
ああ。
見つけて、しまった。
それは、
小さな、蝙蝠の羽根――――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そこで、眼が覚めた。
「……なんて夢よ」
ああ、嫌な夢だ。思い出したくも無い。
見覚えのある景色。
ここは、私の部屋のようだ。
窓の外を見ると、どんよりとした雲が空を覆っていた。
いい天気だ。
カレンダーを一枚めくるると、九月二十四日と書いてあった。
いい天気だ。
カレンダーを一枚めくるると、九月二十四日と書いてあった。
もうすぐ夏が終わり、秋が来るらしい。
…なんだか最近ずっと涼しい状態が続いていたので、あまり実感は湧かないが。
さて、お嬢様を起こしてこよう。
多分今はまだ寝ておられるだろうが、今日は午後から予定もあるし。
その前に、朝ごはんを作らねば。
服をしっかり整え、時間を止めてキッチンへと向かう。
ああ、今日もいつもと変わらない一日になりそうだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
十六夜咲夜の変わらない日常
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
……あぁ。
私としたことが何たるミス。材料が無いとは。
昨日買いに行った気がするが、買った食材が一日でなくなるだろうか。
…昨日は宴会だったしなぁ…
ん? 宴会? あれ、あったっけ。酔ってたのかな、記憶があいまいだ。
ああだめだだめだ、こんなんじゃだめだ。がんばれ私。
まずは食料の調達。これは今からでも間に合わなくも無い。
そして調理。時間を止めれば大丈夫。
後はお片づけ等も時間が止められれば余裕。
……結構余裕があったな。
えっと、食料は人里で買ってきて……
着いた。
今が七時の三十分だから、後三十分くらいで用意しなければならない。
肉、野菜…
今は急いでいるので時間ををめたまま商品を一つつまんでかごの中に入れる。
代わりに書置きと多めに代金を置く。
まあこのお店の人は慣れているはずだから大丈夫だろう。
よし、調達完了。
早く帰って準備をしなければ。
それにしてもここは毎日が平和でまるで時間が止まっているよだ。……私が止めているのだけど。
はい、帰宅。時間経過は0。まあ当たり前か。
次は調理ね。というわけで……いつもの行きますか。
咲夜の0秒クッキング!
はい、今回作りますのは、
「一晩“分”煮込んだチキンカレー」
です。
まずは、時間を止めます。
次にたまねぎ、にんじん、ジャガイモ。これらに傷符を使って細かく刻みます。
そしてお湯を沸かしその中にさまざまな香辛料を入れます。
このとき多めに入れれば、後でお嬢様の半泣きの顔が見れますが、今回は少なめに。
あとは切った鶏肉を入れ先ほどの野菜を入れ時間を720倍にし体感一分待てば出来上がり。
……適当だが、わりかしうまくいった。
さて、次はお掃除。
今はさしあたり廊下と食堂で充分だろう。
香霖堂で買ってきた何とか棒とか言うのは便利だ。
あとパチュリー様の魔法集塵機とかも。
床。机。椅子。台、壁、シャンデリア。暖炉。
埃をたたき、塵を吸い集め、芥は分別して全部燃えるゴミ箱へ。
大方こんな所でしょう。
後は妖精たちに任せることにする。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「むにゃ、…あと50年…」
「駄目です。そんなに寝ていたら、私はたちまち完全で瀟洒なおばあちゃんです」
「……それは嫌だなぁ」
「だったら起きてください」
お嬢様の朝は遅い。
吸血鬼はもともと夜行性の生き物なのですごく眠いそうだ。
最近血を飲んでいないせいで低血圧だとも言っていたがそれはたぶん嘘でしょう。
「で、今日の朝ごはんは?」
「時間が無かったのでテキトーに作ったカレーです」
「……言い方はあれだけど咲夜のカレーはおいしいから好きよ」
「光栄です」
軽い会話をした後、お嬢様の前にカレーを置く。
すると途端にがっつき始めるお嬢様。
おいしいからって、そんなにしては優雅さが消えうせてしまいます。
そう指摘すると、少し肩を落としながらもゆっくりスプーンを動かす様になりました。
ところで前から思っていたのですが吸血鬼が銀のスプーンを持っていて大丈夫なんでしょうか?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ああ、やはり今日も変わらず平凡な一日だ。
美鈴は門の前で太極拳をしていますし、
お嬢様は暇そうにお紅茶を飲み、
パチュリー様は魔法の実験をしているらしい。
妖精たちは無い頭を使ってがんばってくれている。
図書館にお茶を入れてこよう。実験の内容も気になるし。
「ああ、また失敗」
割れたビンを集めながら、パチュリー様は言いました。
どうやら錬金術の実験だったようだ。
「お茶です」
そう言って温いお茶を差し出す。
「ありがとう」
彼女はそう言うとごくごくと一気に飲み干した。
「ちなみに隠し味は魔理沙の茸です」
その瞬間、ものすごい顔でこっちを見られた。
むう、何がいけなかったのだろうか。
「ところで、この惨状はどうしたんですか?」
いまだ回収しきれていないビンの破片を指差して言いました。
「ああ、これね…」
パチュリー様の表情が暗くなる。
「いや、今まであまりやらなかったポーション作りでも、と思って」
「はあ、ポーションというと…」
「魔法薬、よ」
魔法薬、ですか。
「アリナ○ンVとリポ○タンDにしょうがとタカノツメを入れたものでしょうか?」
「いや、違うわよ。魔理沙の茸薬とか」
「ああ、あの鬼の酒張りに霊力がみなぎってくる薬ですか?」
「そうそう。でも、私には向いていないようね。何回繰り返しても駄目だったし」
「え?」
その時だった。
「っ」
私は、急に意識を失ったのだ。
「咲夜?どうしたの!?」
―――何回繰り返しても駄目だった
その言葉を引き金にしたかのように。
「咲夜!返事をして!」
薄れ行く意識の中、
最後に聞こえたのは…
「諦めなさい、咲夜」
お嬢様の、声だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
声が聞こえる。
「や、さ…!」
どこか、遠くから。
「きな…!…くや!」
優しく、厳しく、懐かしい声。
「咲夜!起きなさい!」
「起きました」
「うわぁっ!」
急に動き出した私にお嬢様は驚いて飛び上がってしまった。
ところでここは…
どうやら私の部屋のようだ。
あれ、でも私は図書館にいたはず…
「急に気絶したのよ。ここまで運ぶの大変だったんだからね?」
そうか、私は図書館で倒れて…
「それはとんだご迷惑をおかけしました」
「まあ、それはいいのよ。問題は――」
お嬢様は少し間を空けて、言った。
「――今が九月二十五日の午前十時であること!」
「まあ、昨日の晩は作り置きのカレーがあったからよかったけれど、もう食べるものが何も無いのよ!」
あ、昨日食材一食分しか買ってなかった。
ああ、私としたことが何たるミスだろう。
「すみませんでしたお嬢様、急いで買って参ります!」
その時。
「……待って」
何だろうか?
「どうかなさいましたか?」
「今日は時間を止めずに買い物に行くこと!」
……え?
「でも、それだと帰ってくるのが遅れますよ?」
「いいの、わかった?絶対に時間を止めては駄目よ?」
うーん、意図はわからないけれど、お嬢様が言うのなら仕方ない。
「……はぁ。わかりました」
「じゃあ、お願いね!」
「はい!」
そう返事をした後で、扉へ向かう。
バタン、
「これは、避けられない運命、それならせめて―――」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
紅魔館から、徒歩十五分。
此処は、いつもの人里のはずだ。
でも、
なにかが、おかしい。
違和感を感じる。
昨日と違う天気。
昨日と違う気温。
昨日と違う景色。
当たり前のことのはずなのに、何かが引っかかる。
胸騒ぎが止まない。
さっさと終わらせて帰ろう。
肉、野菜、果物、茶葉……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
私が食料をあらかた買い終わった、その時だった。
大きな音が、一帯に響き渡った。
それはまさに轟音と呼ぶにふさわしかった。
そしてその音が聞こえてきた方角は…
霧の湖のある方角だった。
凍りついた時間を解放すると、そこにはなんとも形容しがたい物があった。
強いて言うなら、紅い破片の山。
しかし、こんな場所にこんな物は無かったはずだ。
ここには、私の帰るべき家があったはずなのだから。
「……嘘、でしょ……?」
気がつけば、私は瓦礫の山を掘り返していた。
何かを探しているように。
それは、
この星の形をしたプレートでもなく。
この三日月形のアクセサリーでもなく。
この宝石のようなものが付いた枝状のものでもなく。
ああ。
見つけて、しまった。
それは、
小さな、蝙蝠の羽根――――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そこで、眼が覚めた。
「……なんて夢よ」
ああ、嫌な夢だ。思い出したくも無い。
見覚えのある景色。
ここは、私の部屋のようだ。
窓の外を見ると、どんよりとした雲が空を覆っていた。
いい天気だ。
カレンダーを一枚めくるると、九月二十四日と書いてあった。
るが多い?
ちょっと展開が早すぎた感がありましたが面白かったです