「おーい中国、今日も来てやったぜ!」
「今日こそ通さないわよ!それと、私の名前は紅美鈴!!」
「マスタースパーク!」
「ちょ、話を聞きなさ………」
ドゴーンッ
今日も今日とて美鈴は、問答無用で魔理沙に吹っ飛ばされていた。
「じゃ、通らせてもらうぜ~」
「ううっ………」
あっさりと侵入を許してしまう。
どうにかしたいが、マスタースパークをまともにくらってしまったので動くことができない。
やがて、魔理沙が侵入して少しした頃、誰かが門を訪れた。
「相変わらずなのね」
「お、お嬢様!?」
訪れたのはまさかのレミリア。
門にもたれかっていた美鈴は、思わず背筋をピンと伸ばす。
「ほどほどにしなさいよ、中国」
「は、はい!……あの、お嬢様。私の名前は……」
「ん?何か言った?」
「………何でもありません」
それじゃあ、と言ってレミリアは館の中に戻っていく。
それを見ながら美鈴は思った。『誰か私の名前を呼んでくれ』と。
「美鈴」
「ふぇ?」
願いが通じたのか、凛とした声が美鈴を呼んだ。
館の方からカツカツと音が聞こえてくる。
「何?その腑抜けた返事?」
クスクスと笑いながら彼女は言う。
「お昼、持ってきたわよ」
「ありがとうございます、咲夜さん」
「どういたしまして」
笑い返しながらお礼をし、咲夜から昼食を受け取ろうとした瞬間、
バタッ
「………え?」
咲夜が、倒れた。
突然のことに呆然としていた美鈴だったが、ハッと我に返り咲夜に呼びかける。
「咲夜さん、しっかりしてください、咲夜さん!!」
しかし、反応がない。完全に気を失っているようだ。
「とりあえず、館に運ばなきゃ………」
美鈴は咲夜を抱えて館へと走った。
パチュリーによると、咲夜が倒れた原因は過労らしい。
昨日倒れてから、まだ意識が戻っていない。今日はメイド長が不在となった。
「よお、中国。咲夜が倒れたらしいな」
「知ってるなら、帰ってもらえないかしら?それと、名前間違えないでよ」
「そいつは無理な相談だ」
「………どっちに対して?」
「両方だぜ」
「………」
即答した魔理沙に対して無言でいる美鈴。
「……お?やる気か?」
サッと美鈴が構えると、魔理沙は嬉しそうに言った。
「先手必勝!マスタースパーク!!」
「同じ手は効かないわよ!」
マスタースパークの動きを完全に読み、難なく避けてそう言う美鈴。が、
「だが……」
「なっ……!」
「今回も私の勝ちのようだな!」
マスタースパークが放たれた所に魔理沙はいない。
代わりに後ろの方から、勝利宣言が聞こえた。
慌てて回避しようとるが、間に合わない。
「スターダストレヴァリエ!!」
「はぁ………」
美鈴はボロボロの格好で門の前に座っていた。
いつもの美鈴なら避けられてであろう攻撃。
しかし、今日は何故だか調子が悪かった。
「………中国」
全ての業務を終え館に戻ると、静かな、それでいて確かに怒りが込められている声が聞こえた。
「パチュリー様……」
珍しくパチュリーが図書館から出てきている。
その理由はというと、
「また魔理沙を通したわね、中国」
美鈴に文句を言うためであった。
「申し訳ありません……あの、パチュリー様。私の名前は美鈴です」
「そんなの、今はどうだっていいわ」
「………」
「とにかく、もう魔理沙は入れないで」
「……はい」
ピシッ
―――入れなかったら入れなかったで怒るでしょう?
「ちょっと中国!」
「お嬢様、私の名前は美鈴です」
今度はレミリアに会った。彼女も怒っているらしい。
名前の訂正を求めたが、無視された。
「魔理沙のせいでまた館が少し壊れちゃったじゃないの!」
ピキッ
―――そういうことは本人に直接言ったらどうですか?
(さっき……から、頭が……痛い……!)
「ちょっと中国、聞いてるの?」
「はあ………」
その返事をどう取ったのか。レミリアは青筋を立て畳み掛けてくる。
「この際だから言っておくわ。貴女には門番としての自覚が足りない。毎回毎回魔理沙は通す。
そのせいで館が壊れる。咲夜が倒れたのだって、貴女が無駄に仕事を増やすからでしょ!?」
ビキッ
―――彼女が倒れたのは、貴女が何でも彼女に任せるからでしょう?
「そんなんだから中国はいつまで経っても中国なのよ、このダメ中国!!」
「………っ!」
ビキリッ
気付いた時には走り出していた。
後ろでレミリアが何か言ってたが、美鈴は無視して走り続けた。
「はぁ、はぁ……!」
息も絶え絶えに自室に駆け込む。
「い…た………」
さっきよりも頭痛が酷くなっている。心臓が不規則に音を響かせる。
そんな状況の中美鈴は、今日言われ続けたことを必死に否定していた。
―――中国
違う。私の名前は紅美鈴だ。断じて中国ではない!
―――中国中国
だから、私の名前は美鈴だ!
―――中国中国中国
いい加減に………!
―――中国中国中国中国
私の…名前……は……。
―――中国中国中国中国中国!!
うっ……ぁ………あ…れ………?
パリンッ
その時何かが美鈴の中で壊れた。
「私の…名前……何だっけ?」
その日。たった一人の人間が繋ぎ止めていた幻想が……消えた。
翌日。
「あの、お嬢様……」
「何、咲夜?」
昨日の内に意識を取り戻した咲夜は、仕事に復帰していた。
「朝から、美鈴の姿が見えないのですが……」
「美鈴?……ああ、中国のことね。私は見てないわよ?」
「そう、ですか……」
「大変よ!!」
バタンッと、勢いよく扉が開かれる。
やってきたのは意外にも、息を切らせているパチュリーだった。
「騒々しいわねパチェ。一体なんだというの?」
「いいから外を見て!!」
怪訝そうにしながらも、レミリアは外を見る。
「……?何よ。何もないじゃない」
「空をよく見て!!」
言われたとおりに空を見る。するとそこには………。
「な、何よ、あれ………!?」
数分前。博麗神社の縁側にて、霊夢はお茶を啜っていた。
天気は雲一つない快晴。お昼寝するのに丁度よさそう、と霊夢が考えていた時、
「………!?」
ブワッと。得体の知れない大きな気が流れ込んできた。
禍々しく、それでいてどこか神聖さを感じさせる気。
快晴だった空は曇り、辺りは暗くなり始める。
(異変………かしらね?)
若干の違和感を感じながらも、霊夢はそう判断する。
(……!何か来る!)
直感がそう告げ、一瞬にして神社を結界で包み込んだその直後。
ピカッと暗雲に包まれた空が煌き、
ズゥゥゥゥン……と大きな衝撃が神社を襲った。
「雷………?」
空から放たれたのは雷。が、自然に落ちてきたわけではないのは明白だ。
結界にぶち当たってもなお、その勢いは衰えることを知らず。
徐々に徐々に、強力な結界を喰らっていく。
「やばっ………」
そして、完全に結界が喰らい尽くされようとしたその時、
「危機一髪、って所かしら?」
新しい結界が覆い、流石の雷も少しずつだが消えていった。
「助かったわ。ありがと、紫」
「礼には及びませんわ」
新たな結界を作り出した紫は、そんな口調で言った。
「……これって、新しい異変なの?」
「………異変ではないわ」
ふと、紫の口調から胡散臭さが消えた。顔が少し青ざめているように見える。
「これは、幻想郷の危機よ」
「幻想郷の…危機?」
「あれをごらんなさい」
スッと紫が指差したのは、黒く染まった天空の彼方。
そこに霊夢は信じられないものを見た。
「何で………」
声が、震える。
「何で、龍神様が……!?」
ハッキリと見えるその姿。
空を支配しているのは幻想の中の幻想――龍だった。
長い胴体。黄色い瞳。レミリアも見た。
幻想の中でも伝説になりそうな神が、そこにいた。
あろうことかその神は、こちらに向かって真っ直ぐ向かってきている。
「………咲夜。貴女は下がっていなさい」
「ですが……!」
「……あれは、貴女の手に負えるものではないわ」
「………!」
そう言われて返す言葉がなく、黙り込んでしまう咲夜。
レミリアは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに表情を戻した。
「……パチェ」
「わかってるわ。丁度妹様も起きられたようだしね」
「……咲夜。紅魔館は任せた」
「………はい」
「………では、戦いを始めるとするか!!」
吸血鬼と魔女は飛び立つ。
大切なものを賭けた戦いが、今、始まった。
「今日こそ通さないわよ!それと、私の名前は紅美鈴!!」
「マスタースパーク!」
「ちょ、話を聞きなさ………」
ドゴーンッ
今日も今日とて美鈴は、問答無用で魔理沙に吹っ飛ばされていた。
「じゃ、通らせてもらうぜ~」
「ううっ………」
あっさりと侵入を許してしまう。
どうにかしたいが、マスタースパークをまともにくらってしまったので動くことができない。
やがて、魔理沙が侵入して少しした頃、誰かが門を訪れた。
「相変わらずなのね」
「お、お嬢様!?」
訪れたのはまさかのレミリア。
門にもたれかっていた美鈴は、思わず背筋をピンと伸ばす。
「ほどほどにしなさいよ、中国」
「は、はい!……あの、お嬢様。私の名前は……」
「ん?何か言った?」
「………何でもありません」
それじゃあ、と言ってレミリアは館の中に戻っていく。
それを見ながら美鈴は思った。『誰か私の名前を呼んでくれ』と。
「美鈴」
「ふぇ?」
願いが通じたのか、凛とした声が美鈴を呼んだ。
館の方からカツカツと音が聞こえてくる。
「何?その腑抜けた返事?」
クスクスと笑いながら彼女は言う。
「お昼、持ってきたわよ」
「ありがとうございます、咲夜さん」
「どういたしまして」
笑い返しながらお礼をし、咲夜から昼食を受け取ろうとした瞬間、
バタッ
「………え?」
咲夜が、倒れた。
突然のことに呆然としていた美鈴だったが、ハッと我に返り咲夜に呼びかける。
「咲夜さん、しっかりしてください、咲夜さん!!」
しかし、反応がない。完全に気を失っているようだ。
「とりあえず、館に運ばなきゃ………」
美鈴は咲夜を抱えて館へと走った。
パチュリーによると、咲夜が倒れた原因は過労らしい。
昨日倒れてから、まだ意識が戻っていない。今日はメイド長が不在となった。
「よお、中国。咲夜が倒れたらしいな」
「知ってるなら、帰ってもらえないかしら?それと、名前間違えないでよ」
「そいつは無理な相談だ」
「………どっちに対して?」
「両方だぜ」
「………」
即答した魔理沙に対して無言でいる美鈴。
「……お?やる気か?」
サッと美鈴が構えると、魔理沙は嬉しそうに言った。
「先手必勝!マスタースパーク!!」
「同じ手は効かないわよ!」
マスタースパークの動きを完全に読み、難なく避けてそう言う美鈴。が、
「だが……」
「なっ……!」
「今回も私の勝ちのようだな!」
マスタースパークが放たれた所に魔理沙はいない。
代わりに後ろの方から、勝利宣言が聞こえた。
慌てて回避しようとるが、間に合わない。
「スターダストレヴァリエ!!」
「はぁ………」
美鈴はボロボロの格好で門の前に座っていた。
いつもの美鈴なら避けられてであろう攻撃。
しかし、今日は何故だか調子が悪かった。
「………中国」
全ての業務を終え館に戻ると、静かな、それでいて確かに怒りが込められている声が聞こえた。
「パチュリー様……」
珍しくパチュリーが図書館から出てきている。
その理由はというと、
「また魔理沙を通したわね、中国」
美鈴に文句を言うためであった。
「申し訳ありません……あの、パチュリー様。私の名前は美鈴です」
「そんなの、今はどうだっていいわ」
「………」
「とにかく、もう魔理沙は入れないで」
「……はい」
ピシッ
―――入れなかったら入れなかったで怒るでしょう?
「ちょっと中国!」
「お嬢様、私の名前は美鈴です」
今度はレミリアに会った。彼女も怒っているらしい。
名前の訂正を求めたが、無視された。
「魔理沙のせいでまた館が少し壊れちゃったじゃないの!」
ピキッ
―――そういうことは本人に直接言ったらどうですか?
(さっき……から、頭が……痛い……!)
「ちょっと中国、聞いてるの?」
「はあ………」
その返事をどう取ったのか。レミリアは青筋を立て畳み掛けてくる。
「この際だから言っておくわ。貴女には門番としての自覚が足りない。毎回毎回魔理沙は通す。
そのせいで館が壊れる。咲夜が倒れたのだって、貴女が無駄に仕事を増やすからでしょ!?」
ビキッ
―――彼女が倒れたのは、貴女が何でも彼女に任せるからでしょう?
「そんなんだから中国はいつまで経っても中国なのよ、このダメ中国!!」
「………っ!」
ビキリッ
気付いた時には走り出していた。
後ろでレミリアが何か言ってたが、美鈴は無視して走り続けた。
「はぁ、はぁ……!」
息も絶え絶えに自室に駆け込む。
「い…た………」
さっきよりも頭痛が酷くなっている。心臓が不規則に音を響かせる。
そんな状況の中美鈴は、今日言われ続けたことを必死に否定していた。
―――中国
違う。私の名前は紅美鈴だ。断じて中国ではない!
―――中国中国
だから、私の名前は美鈴だ!
―――中国中国中国
いい加減に………!
―――中国中国中国中国
私の…名前……は……。
―――中国中国中国中国中国!!
うっ……ぁ………あ…れ………?
パリンッ
その時何かが美鈴の中で壊れた。
「私の…名前……何だっけ?」
その日。たった一人の人間が繋ぎ止めていた幻想が……消えた。
翌日。
「あの、お嬢様……」
「何、咲夜?」
昨日の内に意識を取り戻した咲夜は、仕事に復帰していた。
「朝から、美鈴の姿が見えないのですが……」
「美鈴?……ああ、中国のことね。私は見てないわよ?」
「そう、ですか……」
「大変よ!!」
バタンッと、勢いよく扉が開かれる。
やってきたのは意外にも、息を切らせているパチュリーだった。
「騒々しいわねパチェ。一体なんだというの?」
「いいから外を見て!!」
怪訝そうにしながらも、レミリアは外を見る。
「……?何よ。何もないじゃない」
「空をよく見て!!」
言われたとおりに空を見る。するとそこには………。
「な、何よ、あれ………!?」
数分前。博麗神社の縁側にて、霊夢はお茶を啜っていた。
天気は雲一つない快晴。お昼寝するのに丁度よさそう、と霊夢が考えていた時、
「………!?」
ブワッと。得体の知れない大きな気が流れ込んできた。
禍々しく、それでいてどこか神聖さを感じさせる気。
快晴だった空は曇り、辺りは暗くなり始める。
(異変………かしらね?)
若干の違和感を感じながらも、霊夢はそう判断する。
(……!何か来る!)
直感がそう告げ、一瞬にして神社を結界で包み込んだその直後。
ピカッと暗雲に包まれた空が煌き、
ズゥゥゥゥン……と大きな衝撃が神社を襲った。
「雷………?」
空から放たれたのは雷。が、自然に落ちてきたわけではないのは明白だ。
結界にぶち当たってもなお、その勢いは衰えることを知らず。
徐々に徐々に、強力な結界を喰らっていく。
「やばっ………」
そして、完全に結界が喰らい尽くされようとしたその時、
「危機一髪、って所かしら?」
新しい結界が覆い、流石の雷も少しずつだが消えていった。
「助かったわ。ありがと、紫」
「礼には及びませんわ」
新たな結界を作り出した紫は、そんな口調で言った。
「……これって、新しい異変なの?」
「………異変ではないわ」
ふと、紫の口調から胡散臭さが消えた。顔が少し青ざめているように見える。
「これは、幻想郷の危機よ」
「幻想郷の…危機?」
「あれをごらんなさい」
スッと紫が指差したのは、黒く染まった天空の彼方。
そこに霊夢は信じられないものを見た。
「何で………」
声が、震える。
「何で、龍神様が……!?」
ハッキリと見えるその姿。
空を支配しているのは幻想の中の幻想――龍だった。
長い胴体。黄色い瞳。レミリアも見た。
幻想の中でも伝説になりそうな神が、そこにいた。
あろうことかその神は、こちらに向かって真っ直ぐ向かってきている。
「………咲夜。貴女は下がっていなさい」
「ですが……!」
「……あれは、貴女の手に負えるものではないわ」
「………!」
そう言われて返す言葉がなく、黙り込んでしまう咲夜。
レミリアは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに表情を戻した。
「……パチェ」
「わかってるわ。丁度妹様も起きられたようだしね」
「……咲夜。紅魔館は任せた」
「………はい」
「………では、戦いを始めるとするか!!」
吸血鬼と魔女は飛び立つ。
大切なものを賭けた戦いが、今、始まった。
後編、期待して待ってるぜ!
作品とは関係ない話ですがタグに「初投稿」と敢えて付けるのは、どうも評価を甘くしてもらおうという意図を感じてしまったり。
掴みはいいと思います!!後編含め百点満点ということでこの点数で