幻想郷、とある冬の夕方
博麗霊夢は一人溜息をついていた。
「はぁ、もう嫌になるわね」
そんなことを漏らしつつ、彼女は一人酒を飲んでいた。
神社で一人暮らしをしている彼女は、客人がだれも来ない日はこうして一人酒をして暇を潰す日も多い。
酒は思考を鈍らすが、気分は良くなる。
彼女はこうして一人で物思いに耽る時間が好きだった。
「まったく、どうしてうちの神社には妖怪しか来ないのかしら」
彼女は少し前に終えた正月の行事を思い浮かべていた。
年末年始と言えば神社に初詣を、というのは古来から伝わる風習であり、また幻想郷には神社が二つしかない。
うち一つは人間の立ち入ることのできない妖怪の山の頂きにある。
よって、当然大勢の参拝客がここに来る
「はずだったんだけどなぁ・・・」
もちろんそんなことはない。
妖怪神社で知られているここは、人里と神社の道のりが遠いことも合わさり、毎年人間の参拝客は0である。
いや厳密にはいないわけではないのだが、来るとしても時を止めたり魔法を使えたり神を名乗ったり半分幽霊だったりと明らかに普通の人間ではないのが三、四人来るだけで、残りはほぼ妖怪と妖精たちである。
妖怪退治の御利益がありますよとはいっても、この現状では来るはずもない。
以前妖怪や妖精に屋台まで出されたこともあり、大晦日に何やってんだいい加減にしろと切れた霊夢と妖怪たちの血みどろの弾幕ごっこが行われたこともあった。
(結果霊夢があまりの数に折れてしまったが)
「しかもどいつもこいつもお賽銭せずに帰るし、せめて金くらい置いてけっていうのよ」
守銭奴である。
まああいつらにそんなことを期待しても無駄かと、そんな愚痴をこぼしながら、また酒を一杯飲む。
そして、こたつの中で横になって何をするわけでもなくぼうっと天井を眺める。
まだ夕方なので、電球をつけているわけでもなく、綺麗な朱い光が障子を通して入ってきているのが確認できた。
ああそういえば今日は雪が降っていたなぁと思いだし、そのうち参道と屋根上の雪を払わなければならないという事実に面倒くささを覚える。
(ああ、雪かきの神様でも降ろしてみるかなぁ)
尤も、そんな神様いるかわからないが。
炬燵にこもりつつそんなことを考えていると、身体があたたかくなり、すぐにでもまどろみの中に落ちて行きそうで―――
「・・・ん」
そして彼女は独り静かに覚醒した。
ああ結局自分は寝てしまったのかと、まだ思考が途切れ途切れの頭の中でなんとなくそんなことを考える。
時計を見てみると現在時刻は午前4時半。
「まだ夜中じゃない・・・」
朝御飯まではまだ長く、とはいえ昨日の夜御飯は寝てしまって何も食べなかったということを思い起こしたら、お腹が減っていることに気がついた。
このまま何かを作る気力はないので、仕方なくこたつの上の蜜柑を食べるが、今の寝起きの舌にはたまらないほどの酸味があふれ出て、おもわず唸ってしまう。
どうにも調子が悪いわねと蜜柑に強引に覚醒されてしまった頭で考える。
その後もう一度横になってみるが、今の状態では寝るに寝られず、結局起きてしまった。
が、起きてしまったはいいが、炬燵が暖か過ぎて外に出れない。
正直、便所に行くのも億劫になるほどである。
部屋が特別寒いというわけではないが、この暖かさに一度囚われてしまうともうそこから抜け出すことができなくなる。
結局彼女はその場でしばらくぼうっとしていたのだが、しばらくして外から何か落ちてくるような音が聞こえた。
(そういえば、昨日は雪が降っていたのよねぇ)
さすがに、降り積もった雪をそのままにするわけにはいかない。
参道を整理しなければますます人は来なくなるだろうし、屋根上の雪を降ろさなければ、その重みに耐えきれず神社が潰れてしまう。
尤も、参拝客というものは存在しないのだが。
(しょうがない、とりあえず昨日の雪を払いますか)
と、炬燵に後ろ髪を引かれている心を強引に引きはがし、どうにかその天国から脱出する。
そして、いつもの巫女服に手袋と帽子を履いて、障子を開けてみれば―――
「・・・」
思わず彼女の口から溜息が漏れていた。
地は雪に覆われ、天には星が輝いている。
西を向けば、綺麗な満月が浮かんでいた。
月光に照らされたその白銀の世界は壮麗と評しても問題ないだろう。
鳥居には雪が覆いかぶさり、なんとも言えない寂しさを醸し出している。
彼女はその雪景色に思わず目を奪われたのだった。
そして、今聞こえるのは彼女の吐息のみ。
幻想郷に息づく鳥も虫も動物も、風さえ寝静まったかのようなそれは、涅槃静寂を思わせるようで
「・・・凄いわね」
彼女は思ったことをそのまま口に出した。
普段は傍若無人そのもののような彼女だが、それでも日本人である。
侘び寂びを理解する心は生まれたときより持っていた。
この幻想的な風景は一体どこまで続いているのだろうかと思った霊夢は、首に襟巻を巻き、身体に霊力を纏わせ空に浮かび上がった。
―――そこには、まごうことなき幻想郷があった
まず見えたのは人里。
いくつか灯篭や電灯の光が見えたという以外には、人がいないのではないのかと思うほどに寂しさを漂わせている。
妖怪寺は静かにその外観を雪に溶かしており、普段の活気ある幻想郷の人々も今はすっかり寝静まっているようだ。
春の湊はまだまだ先になるだろう。
次に目に映ったのは妖怪の山。
斜面はすっかり白に覆われ、しんしんと雪が降り積もった後がよく見える。
木は枯れ果て、静かに雪を積もらせている。
月光に照らしだされたそれには、例え神々たちでさえ恋をするだろう。
豊穣の神だってきっと冬を好きになる。
いつもうるさい天狗たちも、今日ばかりは空気を読んだようだ。
そして目を隣に移せば、氷の綺麗に張り付いた霧の湖が見えた。
おそらく湖には明日にでもなればおてんばな恋娘たちが駆け回っているはずだ。
それは文字通り妖精の舞。
ひと眼見ればどんな大人だろうと絵本の中に入ったような錯覚を起こさせるに違いない。
そのすぐ隣には紅さを失わない紅魔館が見える。
この静寂でも存在感を放つその建物に、霊夢はおもわずあいつら侘び寂びのわからん西洋人なんだなぁなどと苦笑している。
そうして見えた世界の先に、彼女は想像を膨らます。
竹林にひっそりと佇む永遠亭。
兎達は大喜びで外ではしゃいでいて、明日行ってみれば雪と兎の区別がつかないだろう。
そして、あそこの住人は今この満月を見ているのかもしれない。
冥界は、枯山水が雪に抱かれてとても美しいのではないのだろうか。
雪月花とはよく言ったものだ。
あそこの庭師なら手入れを怠ることはないだろう、あああそこに桜以外にも楽しめることがあったなんて。
山の上の神社はどうしているだろうか。
おそらく明日の朝の湖は神が渡った跡が見えるはずだ。
風と共に届けに来る明日の新聞には二柱の嬉しそうな顔が載っているかもしれない。
そして、白に満ちる魔法の森、魂運ぶ彼岸、薄白く輝く天界、灯篭揺らめく旧都、星降る太子廟、
今まで彼女が出会ったそのすべてを優しく反芻して
「―――なんて」
「なんて美しいのでしょう」
隣から急に声が聞こえた。
「・・・珍しいじゃない、紫、こんな時間にあんたが起きているなんて、」
「いえいえ、あなたにも風情を理解する心があったのかと驚いてしまいまして」
「その前にもう少し風情ある登場の仕方をしなさい。空間からいきなり現れても生まれるのは人の悲鳴だけよ。」
「そういうあなたは妖怪?」
「巫女よ」
そんなことを言いながら、彼女たちは軽口をたたき合っている。
よく見れば、紫の顔は少し赤い。
手には、どこから取り出したのか、酒と盃があった。
「雪見酒、どう?」
「あんたにしては珍しく気がきくじゃない」
と盃に酒を注ぎながら言う。
「それにしても、なんであんたがこんなところにでてくるのよ」
「あら、幻想郷に恋をしているのは、何もあなただけではなくてよ?」
「私は別に恋をしているわけではないわよ」
「でも、見惚れてしまったでしょう?この美しい景色に」
「あんたが出てきて興ざめよ」
「それは手厳しいわねぇ」
そんなことをいいながら、盃で乾杯をする二人。
とはいえ、霊夢自身、今の今まで幻想郷に見とれてしまっていたという自覚はある。
今まで雪景色はいくらでも見たことはあるが、満月の下にここまで綺麗な雪化粧をしている郷は初めて見た。
「そもそもあなたは冬は外に出ずにいつも炬燵で丸くなってるわよねぇ、迷い家に行って猫達の仲間入りをした方がよいのではないかしら?」
「余計なお世話よ」
「だけど、実際今日外に出てみてよかったと思ったでしょう?」
と、その言葉に、思わず霊夢は酒を飲む手を止めてしまった。
が、今回ばかりは自分の負けかと思ったのか
「・・・まあね、正直、ここがこんなに綺麗だとは思わなかったわ」
月光の下に聖母のような優しい雪に包まれたこの幻想の郷は、もはや言葉では表すことはできまい。
「ここは、今でも古き良き日本の原風景を保っている。今では、外の世界でこういうところは少なくなってしまったから・・・」
そう、紫は慈しむように、それでいてどこか寂しげな声で語る。
外について口を漏らした紫に、霊夢は尋ねた。
「・・・外の世界は、人の心を失ってしまったのかしら」
「いえ霊夢、別にそういうわけではないわ。ただ人間の心は様々な側面を持っている。外の人間は、その中で進歩という道を選んだだけよ」
「なんで進歩を選んで幻想が消えるのよ。人の心が進歩すれば、むしろより幻想を大事にするのだと思うのだけれど」
そういった霊夢に、紫は微笑んだ。
「彼らは、精神的発展よりも科学的発展を選んだのよ。だから、外の世界で生活に不自由することはほとんどない。自然と引き換えに、ね」
「それは、悲しいことなのかしらね」
「少なくとも、今の外の人々はそれに概ね満足しているわ。まだ人類の発展が始まって百数年、これからもっと文明が発展していくでしょう。
その結果どうなってしまうかも考えずに。尤も、もうすでに自然からの警鐘に気がつき始めている人もいるけれど」
それが、彼女が見てきた外の姿。
そして、かつて彼女がいたところ。
彼女はすでに、その結末を知っている。
「だけれども、決して科学的発展が悪いこととは限らないわ」
「どういうことよ」
「山の上に少し前に入ってきた神様がいるでしょう」
「あいつらか、そういえばついこないだも核融合のために何かを作らされたわ。そういえば、あんたの口ぶりからするとあいつらは悪いことをしているということにならないの?」
今の紫の口ぶりからすれば、今すぐ彼女達の科学的な発展を止めに行ってもおかしくないはずだ。
純粋な疑問を口にした霊夢に、紫はこう答えた。
「彼女たちは確かに科学的発展をしています。それは、ともすれば幻想郷の人々の心を奪ってしまうかもしれないほどに。だけれど、彼女たちは信仰というものを非常に大切にしている。」
「まあ確かにあいつらは信仰集めに必死よねぇ。おかげでこっちには全然人来ないんだけれど。」
「それは元からでしょうに」
霊夢は眉に皺を寄せた。
「とはいえあんたがあいつらを排除しようとしない理由もなんとなくわかったわ。それは、あいつらが八百万の神々だからでしょ?」
「ええ、彼女たちは八百万の神々そのものです。それはつまり自然の権化。外の世界で信仰されなくなった彼女たち自身が再び科学に呑まれるようなことをするはずがない。科学を発展させようとすると同時に、彼女たちは信仰と自然というのも同じくらい大切にしている。」
彼女たちは精神的発展と科学的発展を同時にやろうとしているのだ。
だからこそ、常に人々の側にいようとしている。
人々の近くにいるために、性格もああいう風におおらかなのだろう。
先日人々の前に出て核融合の実演をした時も、その一端である。
「科学というものは時に災厄をもたらすけれども、間違うことなく運用すればそれは心に余裕を与える。それが妖怪たちと共存出来れば、本来はそれが一番なのよ。」
だから八雲紫は山と坂の権化には手を出さない。
出す必要もないからだ。
「たまには、新しい風を吹かせるのも必要なことなのよ。」
彼女はそんなことを言いつつ自らの話を切った。
とはいえ、一体彼女は霊夢に何を伝えたいのだろうか。
何故だろうか、普段は胡散臭いことで有名なこの妖怪に、どこか母性を感じさせるような優しさがあった。
と、月下に広がる幻想郷を見ながら、ぼんやりとしていた霊夢に、紫が最後の言葉を継いだ。
「飛鳥尽きて良弓蔵され、狡兎死して走狗烹らる」
それは、霊夢の顔を向いて言っていなかった。
どこか、この結界を超えた遠いところを見つめているようで・・・
「?」
「でもね霊夢、これだけは覚えておいて。この郷にはいつまでも変わらないものがある。例え科学が発展しても、心だけはいつまでも自然や八百万の神様と共にある。いつか外の世界の人間も気づくでしょう。忘れ去られた幻想が、じつはなければならなかったと。ここは、妖怪にも神にも妖精にも、すべての幻想に必要な場所だから・・・あなたと同じように、ね」
と、ここで長い話が終わるようで、最後の最後で霊夢としては少し聞き捨てならないような言葉が聞こえた。
「・・・なんで私が必要なのよ」
「あなたは、妖怪たちの心の拠り所だもの」
「は?」
と、真正面からそんなことを言われた。
まさか、この性悪妖怪にそんなことを言われるとは思ってもいなかったので、思わず声が口を突いて出た。
「いや普通に考えておかしいじゃない。なんで私が妖怪の心の拠り所になるのよ」
こいつからそんなことを言われるなど気味が悪い、と霊夢は思ったので、気が付いたら思いっきり反論していた。
「第一私は妖怪を退治することが信条なのよ?妖怪に好かれる要素なんてどこにあるのよ」
もしかしてこいつ悪酔いしているのではないかと思い始めた霊夢に、紫はこう尋ねた。
「あなた、自分の神社がなんで妖怪神社なんて呼ばれるか考えたことある?」
「そんなのあいつらが勝手に家に来るからでしょうが。第一なんで退治した妖怪たちが家に来るのよ、頭おかしいわよあいつら。」
と、そんな霊夢を見てくすくすと笑う紫。
「何がおかしいのよ」
「いや、その調子では一生妖怪神社でしょうねあそこは」
八雲紫は知っていた。
博麗霊夢は、すべてのものに分け隔てなく平等であることを。
神社を訪れた妖怪たちに、忌々しいと言いながらも必ずお茶を出す彼女を。
かつて退治した妖怪たちでさえ、何もなかったような顔で話を聞くことを。
いや、妖怪だけではない。人も妖精も神も、動物たちだって同じだ。
だから―――
「だからあなたは、変わってほしくない。ずっと彼等の隣にいてほしい。」
「・・・」
「いいえ、御免なさい。今のは忘れて頂戴」
それは、八雲紫の願望。
彼女は、すべてを受け入れる幻想郷の体現者だ。
紫はそう思っていた。
だからこそ、彼女は美しい。
この壮観な幻想郷と共に、彼女にはずっとこのままでいて欲しい
もっとも、彼女をそんな風に評しているのはおそらく自分ひとりだろうが―――
と、そんなことを考えながら霊夢に微笑んでいる紫だったが、唐突に霊夢が口を開いた。
「―――あんた、なんで今日はそんなに饒舌なのか知らないけれどね、私は私の思うがままに生きるわよ」
霊夢はその口調に怒気を含ませていった。
紫は、少し虚を突かれたような顔をしている。
なぜ怒っているのか。
もちろんその理由はいくつかあるが、主な理由は紫があまりにも気持ち悪いから。
酔っているにしてもあんまりである。
せめていつものように妖しげに笑っていればいいのに、今日の彼女は何故か話していると妙に温かくなる。
その上妖怪たちの心の拠り所だの、妙に神妙な顔してあなたには変わって欲しくないだの、
なんでこいつからそんな言葉が出てくるのかわからないようなことばっかり話す。
結局、熱り立った霊夢はそのまま大声で叫んでいた。
「私が何をしようが私の勝手。なんであんたがそんなこと言うのか知らないけれど、あんたにむかついたから妖怪退治だって止めてやらない。私は、自分勝手なのよ!」
それを聞いた紫は、少しきょとんとした後―――
「・・・ぷっ、ふふ、ふふふ、あはははははははは」
大声で笑っていた。
「ちょっと、何笑ってんのよあんた」
「いえいえごめんなさい、つい、嬉しくて」
「はぁ?嬉しい?意味が分かんないわよ、あんた本当に悪酔いでもしてるんじゃないでしょうね」
「悪酔い・・・そうかもしれないわねぇ」
「自覚があるんだったら早く雪にでも突っ込んで頭冷やしてきたらどうなのよ、それとも夢想封印喰らう?」
と割と真面目に怒っている霊夢をよそに、紫は未だに頬の緩みが取れない。
紫は、霊夢の行いは、すべて何にも縛られないということをわかっていた。
だから世間一般の常識などどこ吹く風、妖怪たちさえ受け入れる。
彼女の言葉から、彼女がいつまでも幻想郷の体現者であることを垣間見て、嬉しく思ったのだ。
「まったくもう、なんだってのよ。なんかこっちまで調子悪くなってくるじゃない」
「あら、それはあなたも酔っているからではなくて?」
「誰が」
「でなかったら、あんなことを声高らかに言わないわよ、大声過ぎて幻想郷中に聞こえているかもしれないわね」
「ふん、言いたい奴には言わせとけばいいのよ。私は昔からずっとそうだから」
「あらまあおてんばさんだこと」
「何をお婆ちゃんみたいなこと言ってるのよ、そろそろ寒くなってきたし、帰るわよ」
と、そろそろ寒さで耳が痛くなってきそうになった霊夢は、神社に向けて踵を返そうとするが―――
「ちょっと待ちなさいな霊夢」
紫に呼び止められた。
「何よ?今のあんたは酔っててろくなこと喋りそうにないんだけれど」
「そういわないの、あなたはせっかく幻想郷の美しさに気がついたんだから、最後まで見て行きなさいな」
見ていくって何を―――そう言おうとするが、何故か紫が先に鳥居の上に降り立っていた。
霊夢もその後を追う。
そうして、しばらく東の方に目を向けていると―――
「・・・わぁ」
一体今日何回目の溜息だろうか、空が段々と白み始めていた。
「綺麗でしょう?これが幻想郷の素顔」
時刻はすでに六時を超えていた。
そこには、地平線の遥か先から太陽が顔を覗かせようとしていて、先に漏れ出た光が段々と幻想郷を照らし出していく。
月の女神の微笑みは静を思わせたが、太陽の雄々しさは生を思わせるほどに神々しい。
山はその輝きに触れて金色に輝き始め、烏達の鳴き声も聞こえる。
人里は段々と活気にあふれ、すでに働き始めている人たちも見える。
湖は妖精たちが踊り始め、森の中からは動物達もでてきた。
と、唐突に、霊夢はあることを提案した。
「今日は、宴会を開きましょう」
「あら、どうしたの?急に」
「いや、ここを見ていたらなんとなくそんな気分になったのよ。今日なら皆来るわよきっと。むしろここ最近何もやってなかったからまだかまだかと待ち望んでいるはずだわ」
と、そんなことを言いながら紫を見れば、やっぱり笑っていた。
もうこいつは笑わせとけばいい、ともはや霊夢はあきらめ気味である。
―――そして、ついに太陽が見えた。
神社の鳥居のすぐ側から現れたそれは、幻想郷の夜明けを告げていた。
その場所は、今夜まちがいなく童たちの祭りが開かれるはずだ。
人間も妖精も妖怪も神も鬼も幽霊も仙人も天人も吸血鬼も月の民も死神も閻魔も、
みんなみんな呼んでやるのだ。
気分が沈んでいる奴だって強引に引っ張ってこよう。
それはきっと、楽しい楽しい幻想の宴。
それで明日、またこの景色を見よう。
そう決めた霊夢のいる博麗神社の雪に覆われた地面から、ふきのとうが芽生え始めていた。
美しい自然描写も素晴らしいし、霊夢たちの会話も素晴らしかったですが。
なんか、途中ででてくる曲名(作者名もかな?)がね。
なんか凄く、良かったと思うんだよ。
次も期待してます!
もうすぐ春ですよー!
北国で生を受けた自分にとっては、お話の中で描かれているほど神々しくはないけれど
原風景の一つが思い起こされるようで、ちょっとセンチメンタルな気分になりました。
幻想郷の産みの親の一人である紫様と幻想郷を体現する霊夢の対比も良かった。
ゆかれいむがロードの俺にとって、作中の二人の関係性はとても好ましいものであります。
若干気になったのは作中の時期かな。
>彼女はついこないだ終えた正月の行事を思い浮かべていた
>そう決めた霊夢のいる博麗神社の地面から、ふきのとうが芽生え始めていた
冬眠設定のある紫様の登場を含めて、作者様がどう定めているのかがちょっとわかりにくいかも。
黒歴史にはならないと思いますよ? 素敵な白歴史でした。
うおおおおおおおおおおおおおおおお
矛盾点指摘して下さって本当にありがとうございます
なんで守矢神社のこと忘れてたんだろう俺・・・(汗)
誤字脱字等を修正しました。
寒い冬の幻を思い浮かべているにも関わらず、心が温かくなる心地を味わいました。
次回作をゆるりとお待ちしています。