『★芳香よしよし代行始めました★
可愛がりたいけど愛でる芳香がいない、永久保存できる美少女芳香をなでなでしたい、そんなときに!
芳香可愛がりで鍛えた邪仙が、一生懸命あなたの周りで芳香よしよしをします!
モチロン芳香を用意する必要もありません!
芳香があなたの家の近くの住人に無差別にかじりついて仲間入りさせます!
※お支払いは、一時間につき芳香二体でお願いします』
かような宣伝紙をまき散らした結果、芳香の総人口は、今や一億にまでのぼりつめました。
さすがは幻想郷。やっぱり欲望には勝てなかったよって人であふれてるので、毎日が最高に楽しいです。空気もウマイ。
まあ、空気がおいしいのは、どこにいっても芳香の群れがいるおかげで、そこらに甘ったるい腐臭が漂っているからなんですがね。
もちろん、ここ大祀廟もその例外ではありません。私が連れ込んだ芳香が、そこらにうじゃうじゃいるのでここでも芳香に包まれた気分になれるのです。
ところで、数日前から胸がくるしくてしかたないのですが、これはやはり芳香への想いで胸がいっぱいだからなのでしょうか、豊聡耳さま。
「いえ、息を吸い続けているからでしょう」
なるほど。どうりで意識が遠のくばかりだと思ったら、芳香の体臭があまりにかぐわしいせいで息を吐き忘れていたらしい。
芳香ったら本当にいけない子。主人の生死をもてあそぶだなんて。
……でも芳香にもてあそばれる自分とかちょっと見たいかも。
「ドゴォ」
こめかみを的確に狙った一撃を、わずかにのけぞって避ける。
豊聡耳さまが先ほどから効果音を口で言いながらシャドーボクシングをなさっているのですが、どうして私の前でやっているのでしょうか。
今のように事故で当たりそうになることが数十回はあったので、正直遠慮してほしいですね。お気に入りの子はつい甘やかしたくなるので、口にはしませんが。
「そうそう、豊聡耳さま。いいお知らせと、聞けば大胆に服を脱いで私を押し倒すお知らせがあるのですが、どちらからお聞きになります?」
「きみの断末魔が聞きたい」
「あ、あかるい内からそんなことを仰られてはいけませんわ。あなたさまときたらもう……めっ! ですよ」
「なぜ私がたしなめられるのかまったく理解できないし、その初々しさをかたる言動もものすごく不快ですので即刻やめなさいお願いします」
おかしな豊聡耳さま。可愛い権力者に殺意を向けられるとかご褒美以外のなにものでもないじゃない。
こんなステキな場面に恵まれるなんて、きっと私が誠実な仙人として民衆を導いてきたからでしょう。やっぱり日ごろの行いって、こういうところで出てくるんですねぇ。
「あら、豊聡耳さまったら。ご自慢の髪型が乱れてますわ」
うさぎを模したはずなのに会う人にことごとく、『クワガタみてぇ……』と言われた豊聡耳さまの立派な髪のハネが、なにかを我慢しているようにのたうち回ってる。
かの聖徳道士が、いったいどんな欲望に耐えているというのかしら。
拳をぶるぶると震わせて、私を熱っぽい目つきで見つめている……ふむ、排泄の欲?
「いや…………ちょっと、今朝は…………湿気がひどいみたい、ですね」
「ご自分の立場を考えて必死で気を落ち着かせようとする豊聡耳さま可愛いですよ。芳香の次に」
「見て見ぬふりをする優しさがあるということを知りなさい」
「ごめんちゃい」
誠心誠意の気持ちで謝ったが、豊聡耳さまの髪のうねりはさらに激しくなった。なぜだか相当お怒りのご様子。
まったく、権力者って赤ん坊みたいに機嫌がころころ変わるから困りものです。
でも、そういう理不尽なところがまた可愛いんですよね。ダメなところがいじらしいと言いますか。生活力やら精神年齢やらが底辺レベルの人とか大好き。
「青娥、私はともかく、あまり彼を怒らせないでください。彼は私ほど寛容ではありませんからね」
「彼? ああ、そういえばあの人も無事に目覚められたんでしたね」
私の言葉にこたえるように、豊聡耳さまの髪のハネは、ぐねぐねとうねるのをやめて言った。
「青娥、何度も言ってきたが、わたしは人ではない。ミコに寄生する生き物にすぎないのだ」
豊聡耳さまのぴんと跳ね上がった二本の寝ぐせから、彼は目玉をのぞかせた。
相変わらず態度は可愛くないクリーチャーのくせに、瞳は芳香のようにくりくり丸くかがやいている。
つぶらな瞳は甘みが強そうで、芳香の飴ちゃん袋にでも入れておこうかと考えたときもあった。豊聡耳さまがやたらと彼のことを気に入っていたのであきらめるしかなかったが。
いきなり身体に住み着いた得体のしれない寄生生物がまかり間違って、彼女にとってかけがえのない友人となってしまったのは、幼いころから周りが退屈な大人ばかりで気の許せる友人がいなかったさみしさからか、それともただの不思議ちゃんだからかのどちらかでしょう。
後者だと私の趣味にあっているので大変よし。黒歴史になりかねないキャラ作りに笑顔で付き合ってあげて、その後本人が忘れたころにそっと耳元でそのときのことを事細かにつぶやいてあげたい。
「ミミー。私だって何度も言うけど、きみは私の家族ですよ。ミミーのおかげで十人がいっぺんに話すことも聞きとれるようになったんですからね」
「……家族、か。やはりきみの脳を奪わなくて正解だった。はじめは、きみのその耳あてに阻まれたせいで乗っ取りに失敗したことを、実に悔んだのだがな」
「ふふ、私もミミーがいきなり喋りだしたときはあわてて切るところでしたよ。『そうだな、ここは人間の耳という器官なのだろう』なんて言ってミミーと名乗ったときには笑っちゃいましたけど」
「きみの髪型の趣味は相変わらずだが、わたしの居場所をとっておいたくれたことには、まあ、感謝しておこう」
そして変わらず仲もいいですね、あなた方。
まあ、それも仕方ない。豊聡耳さまとミミーの巧みな連携といえば、どの史書にもその活躍が載っているほどです。
崇仏派と排仏派が対立した戦で、ミミーの切っ先を飛び交わせて屈強な敵軍を次々となぎ払った武勇はあまりにも有名。寝ぐせを振り回しながら首を刈っていく彼女の姿は、かつて東漢で武勇を誇った呂布そのものだと言われ、今でも『二本の触角がある』、『頭が昆虫っぽい』、『触角がある』、『めちゃ強い』、『触角がある』という確固たる根拠のもと、豊聡耳さまと呂布の同一説が広く語られているのです。
そのため、豊聡耳さまに近付かれた人が『た……太子だー! 太子が出たぞー!! うわー!!』と叫びながら逃げる遊びが、飛鳥文化に根付きました。私が根付かせました。
豊聡耳さまの泣き顔は国宝級でしたので、仕方なかったと思います。
「それで、青娥。いい知らせとはなんです? もしやようやく、私のこの髪型に感銘を受けたものでも来たのですか」
「いえ、それは相変わらずさっぱりですわ」
「ふうむ、長く眠りましたがまだ時代は私に追いついていないようですね」
反重力ヘアのくせに、なんでこの方こんなに強気なの。
「ミミーもそう思いますよね?」
「ミコの髪の状態はとてもいい」
「なるほど、髪質についてはわかりました。それで、髪型は?」
「髪の色合いもすばらしい」
「ありがとう。それで、髪型は?」
「いい大人がうさぎになりきっているみたいで見ていて愉快」
「リピート」
「む、眠くなった! 四時間寝る」
逃げたわ。このパラサイト。
「もう、ミミーったら仕方ないですね。青娥、きみは私の髪型についてどう思います?」
「どうかと思います」
「リピート」
「いいお知らせというのはですね。もちろん芳香のことですわ。豊聡耳さま、驚かないでくださいよ。なんと……なんと、あの芳香がですね……以前よりも超かわいらしくなったんです!」
「いや、その話じゃなくて」
「今までだって超かわいいのに、さらに可愛くなったんです。ちょっとお口がさびしくなったとき舐めるのに丁度いいくらい可愛い! この可愛らしさはとどまることを知らない! もはや厳正な管理が必要なレベルですね、あの人里のこともありますし」
「芳香云々はきみが毎日言ってることじゃないですか。いや、それより人里でなにかあったの?」
「おや、ご存じないのですか。ならばこれを」
言って、以前拾っておいた新聞を彼女に渡した。
「これは?」
「新聞という、さまざまな出来事について書かれたものです。里の通りの端っこに砂まみれになって置かれていました。無料配布にしてはずいぶんとずさんな置かれ方でしたが。あ、そこの一番大きな記事をご覧ください」
「ふむ、なるほど。えぇと、『里のトップ発言、「ただちに趣味嗜好に影響はない」』、なにこの一文……読む気を根こそぎ奪ってくる」
『里のトップ発言、「ただちに趣味嗜好に影響はない」』
以前から里では可憐な芳香が日に日に増大していったことから、里の芳香指数への懸念が寄せられていたが、本日その芳香指数について里の長が記者会見を行った。
会見で長は、里の芳香指数は若干増加の傾向にあるが基準値を大きく下回っている、ただちに趣味嗜好に影響はないと述べ、住民に対し冷静な対処を呼びかけた。
「この当たり前のように使われてる芳香指数ってなんですか」
「やだ、豊聡耳さまったら。芳香可愛がりの程度を表したものに決まってるでしょう」
「その常識でしょって言い方、やめなさい。即刻やめなさい」
「え、常識ですよ。里の子供でも知ってますし」
顔をあげた豊聡耳さまは、そのまま持っていた新聞を床に叩きつけた。
「あー、うん。そもそも、その芳香指数とやらが高まると、どうなってしまうのです?」
「そうですね。簡単に言うと、私みたいになります」
「こ、この世のおわりじゃないですか……」
なんだか顔色の優れない豊聡耳さま。きっとなにか勘違いしているのね。
ここは一つ、今の人里のすばらしさをお伝えして、彼女にも芳香の魅力を認めさせなくてはなりませんね。
あと、落ち着かせるためにも。
「記事のとおり、里は事態を楽観視したので、芳香指数が人体に甚大な影響を及ぼすレベルになっても人々は避難しませんでした。そのため、人里に住んでいた大人も子供も、おねーさんも、いい歳した無職も、注意散漫なウェイトレスも、信仰がほしいならと巫女を誘って人気のない小屋につれていくだけの簡単な仕事をしているオッサンも、みんな芳香原理主義者になったのです。今では人里はすっかり、良質な芳香スポットとして有名になりましたからご安心くださいな」
「なに一つとして安心できる要素がない……」
「あらあら、豊聡耳さまったら心配性なんですから」
「きみの言葉で納得できるものがいれば、別の意味で心配ですよ」
む、説得は失敗におわったようだ。説明する前はおどおどとしていて大変そそる目つきだったのに、今は刃物を横にして構えている女の目になっている。
やはり豊聡耳さまも一度人里に連れていって、芳香色に染め上げるべきでしょうか。
「はあ、もういいです。とにかく、人里に関してはきみが責任もって対処してください」
「わかりましたわ。この青娥にお任せ下さい。徐々に人里の勢力を拡大させて幻想郷を芳香の魅力で掌握してみせます」
「ミミー、起きて起きて。食事の時間よ」
「間違えました。てきとうに人里の芳香指数を戻しておきます」
皆のあこがれ、娘々として『死因:寝ぐせ』は許されない。
「よろしい。ついでに布都や屠自古から聞きましたが、きみが最近やってるあの見世物もやめなさい。人里の件も、それが原因なのでしょう?」
「まあ、豊聡耳さま!」
心外だ。
芳香よしよしはただの見世物ではない。道教の立派な布教なのだ。お二人はそれをわかっていないだけ。
そう、豊聡耳さまに力説したが、彼女はやれやれと言いたいかのように首をふった。縦に。
え、寝てたの。
「あ、寝てませんよ。起きてます起きてます。屠自古よしよしの話でしたね」
「それはあなたの願望です」
「あ、あーはい、はい、芳香ね。そっち系ね。そっち系でしたかー、勘違いしてたわ。うん」
豊聡耳さまは、相手の欲を聞きとって会話をさぼる癖があるせいか、先走って勘違いしたという言い訳をよくされます。
ですが、この私にはそんな常套句は通用しませんよ。
そう睨みつけると、豊聡耳さまは間違いを素直に認めてくれました。
教え子との信頼をより深く築けたことに私は嬉しく思いながら、彼女のすねを執拗に蹴りつけるのをやめた。
「それで、芳香をなでるだけでなんで信者が増えるんですか。風が吹けば桶屋が豪遊するレベルですよ」
「いえいえ。道教をはじめたらこんなに可愛い彼女ができました! と体験談のように語るだけで改宗する方がわんさかと」
「う、胡散臭すぎる……! なんでみんなつられてるの」
「芳香の魅力のなせる業ですわ」
別の宣伝紙にあなたさまの体験談も載っているからでしょうとは、口がさけても言えません。
目に黒線の入った豊聡耳さまが『もちろん、はじめは信じませんでした。ですが、道教をはじめてからというもの、仕事では大活躍。美人のお嫁さんもできた上にその母親までゲット。もう道教が手放せません! 道教をはじめなかった昔の自分がバカみたいに思えます(笑)』と満面の笑みで語っているという。
おそらく本人にばれたら、芳香とのペアルック(種族)を強要されるでしょういや待てそれご褒美じゃないですかやったー!
本人にばれることを楽しみに待つ毎日です。
気分も良くなったので、頼まれごとをさっさとやってしまおうという気にもなった。
「では、私はこれから人里に行ってきますね」
「待ちなさい。もう一つ知らせがあるんでしょう?」
豊聡耳さま。普通に呼びとめるだけでいいので、ミミーを使うのはやめてください。腕が痛い。
「ああ、はいはい。大したことではないのですっかり忘れてましたわ。豊聡耳さまのお部屋のことなんですが芳香が使いますので、あなたさまは今日から廊下で寝てください。では」
「待ちなさい」
浮かび、天井から抜けようとすると、今度は全身を捕縛された。
さっきよりもきつく絞められてるから痛さも尋常じゃない。おまけに、ちょっと吐きそう。
朝食で、今日も芳香味でご飯が美味い! とか調子に乗って霞三杯おかわりしたのが仇となったようです。
「芳香は昼も夜も、外で番をしているでしょう。それに部屋ならほかにいくらでもあるじゃない」
「今、芳香は里に遊びに行かせてますけどね。あと私のこと、ちょっとくらい気遣ってくれてもいいんですよ」
「はやく答えて。きみの手足はあまり待ってはくれませんよ」
ぎりぎりと、四肢がそれぞれ異なる方向にゆっくり引っ張られていく。
ええぇ、車裂きの刑を長年の師に処すとか邪仙の私でも引くんですけど。
ついでに血の気も引いてきたので、素直に答えることにした。
「芳香よしよしはいわば営業ですからね。ちゃんとした報酬をお客様から頂いているのです」
「報酬? ああ、芳香二体でしたか。あれはどういう意味なんですか」
「お客様の身近な方に芳香が噛みき仲間入りさせて、その芳香を頂いてます。売り上げも上々ですので、芳香の総人口は今や億に到達してます。おかげで増えた芳香でこの大祀廟の空き室はすべてうまってしまいましたよ」
「やってることが完全に奴隷商人ですからね。いや、そもそも私はそんな大人数の芳香を一度も見てませんよ」
「ちゃんと隠れるように言いつけてるので。気付かないだけで豊聡耳さまの周りには常に芳香がいるんですよ」
そう、今この瞬間も芳香が私たちを取り囲んでいるのです。
天井裏に芳香が三人。そこの柱に一人。床下にも五人。隣の部屋には二人。豊聡耳さまの背後に二人。
「なにその光景、完全にホラーじゃないですか。というか道理で最近雑音が多いと思ったら」
「申し訳ありません。隠しきれると思っていたのですが、あまりに数が多くなってもう追い出せる規模ではなくなったので打ち明けることにしたんです」
「本音がもれてますし、言ってることがタチ悪いんですが」
「邪仙ですから」
「その得意げな顔やめて」
突然腕を震わせながら、耐えるようにくちびるを引き結ぶ豊聡耳さま。
いったいどうしたのかしら。彼女の身になにが起こったというの。
まるで降ってわいたような苛立ちからなにかに殴りつけるのを我慢しているようにも見えるし、お酒がきれたようにも見える。
凡人ならばここで読み違えてしまうでしょう。ですが、豊聡耳さまとのお付き合いも長く、その上誉れ高い仙人である私ならば、真実をあてることなど造作もないのです。
「豊聡耳さま、お酒を持ってきましょうか」
「は?」
あれ、おかしいわ。露骨に嫌な顔をされてしまった。
これはおそらく、乙女心の前には何人もかなわないという教訓なのでしょう。そうに違いないわ。
ふふ、また今日も徳をつんでしまったようね。
そんなふうに私がにやにやしていると、豊聡耳さまの背後にいた二人の芳香が突然飛び出してきた。
いきなり現れた二人の芳香に、豊聡耳さまは可愛らしくおどろき、私はどさくさにまぎれてミミーの手からなんとか逃れた。
「ごきげんよう、青娥娘々。あなたって呼びにくい名前よね」
「ごきげんよう、青娥娘々。あなたって呼びたくない名前よね」
青っぽい髪の芳香と金髪芳香が、行儀よく順番に言った。
「青娥、この同じ顔で同じ言葉を喋っている二人組はいったい誰ですか」
「ああ、ご紹介します。こちらは先日の芳香よしよしで頂いた芳香たちです。向かって左が芳香スカーレットさん。右が芳香スカーレットさん」
「そこは分けてあげましょうよ」
「あら、あなたは見た目で区別もできないのかしら」
「あら、あなたは見た目で差別もできないのかしら」
「見た目で差別するのは悪いことなのよ!」
「見た目で差別できないのは目が悪いからなのよ!」
「この人の目が悪いかなんてわからないでしょう!」
「この人が悪いのは頭かもしれないでしょ!」
「見た目でこの人の頭が悪いかなんてわからないじゃないの!」
「見た目でこの人の頭がかっこ悪いかはわかるじゃないの!」
「人の頭をかっこ悪いって差別するのはいけないことなのよね!」
「この人の頭はかっこ悪いけど差別するのはいけないことなのよね!」
「この子たち、キョンシーならぶっ壊しても問題ないですよね?」
「お、お待ちください、豊聡耳さま。お慈悲を!」
天井にまで逆立った髪を押さえながら、必死に豊聡耳さまをなだめる。
というかこの髪、硬すぎるんですが。オリハルコンより硬い。
「この子たちはキョンシーではなく、芳香ですよ! 種族、芳香! 吸血鬼らしいのでなかなか死なないでしょうけど!」
「え、キョンシーに噛みつかれたらキョンシーになるのでは?」
「一日三回、食後三十分以内に噛みつかれることを一週間ほど続ければそうなりますね。ただ噛まれだけでは、顔にお札を貼っていないと落ち着かなくなったり、私に懐いてきたり、頭の具合が若干ゆるくなったりする程度です」
そのため、噛まれたものをキョンシーではなく、芳香と呼んでいる。
芳香になったものは基本的に頭が残念な出来になるので、ちょっとだけ普段よりも素直になりすぎた言動をする。
だから、この芳香姉妹も悪気があったわけではない……いや、どうだろう。なんだか手慣れてる感じがするし。食後の一服の感覚で、人の逆鱗の上をスキップしていそう。
「なるほど。きみの言いたいことはわかりました。ですが、私の髪型とミミーを侮辱した罪は、キョンシーだろうと芳香だろうと吸血鬼だろうと平等に重いのです」
「重いわね」
「愛が重いわね」
「そこの輪唱姉妹、うるさい」
豊聡耳さまは芳香姉妹を睨みつけた。
姉妹も負けじと睨みかえした。姉妹同士、お互いを。
「私、あなたのことが好き」
「私、自分だけが好き」
ラブロマンスが始まった。大分一方的なので、続きが気になるところ。
しかし、豊聡耳さまはそんな芳香たちを完全に無視していた。
「青娥、今すぐ里の件を解決してきなさい。同時に、芳香にしたものたちの対処もね」
耳を疑った。
思わず、笑顔でとんでもないことを口走った豊聡耳さまをじっと見る。髪は天井を突き抜けるほどに逆立っていて、その様相はまさしく鬼としか言いようがなかった。
そう、鬼だ。鬼のようなことを、このお方は言ったのだ。
「そ、そんな……そんなことって……精根こめて作り上げてきた私の芳香たちを戻せだなんて、ひどすぎる……そんな、これが人間のやることですか!」
「聖人です」
「あ、はい」
さすがに豊聡耳さまには泣き落しも通用しませんね。せっかくがんばって涙声にしたのに。
「あなたさまの望みとあらば、仕方ありませんね。これより青娥は修羅となりましょう。芳香に逢うては芳香を斬ります」
「いや、ちゃんと戻してあげなさいよ」
「そこが問題なのです。芳香たちを元に戻すなどまったく想定していなかったので、まず方法から探さなければなりません」
「普通、想定しておくものですからね。後片付けまでが異変ですよ」
「安っぽい標語みたいですね」
「頼むから反省してるふりくらいしてくれません?」
やり方を知らないので、できません。
「とりあえず、キョンシーの治療法ならば増えた芳香にも効くんじゃないでしょうか」
「どんな治療法なんです?」
「そうですね。たとえば、生のもち米をかけると毒が緩和しますよ」
「ほう」
「あとは赤豆とか、雌鶏の血なんかがあります。それに……ど、ど、どどど、どうてい、の方の、その、血とかが」
「そういうのいいから」
「はい」
豊聡耳さまったら本当につれないお方。
ちょっとしたサービス精神は、すげなく打ち捨てられることになった。
ひとまず、備蓄にあったもち米を少しばかり頂き、まずは目の前の芳香姉妹から治すことにしよう。
はい、かけますよ。
「痛みがしみてくるようだわ!」
「痛みでしみができるようだわ!」
あ、これ豆でした。
「この幻想郷の、あらゆるところに芳香はいるのです」
里の入口で、「ここは人里だよ」と話す仕事をしていたらしい名も知らぬ芳香が、近付いてきたと思うと早々に仕事に入った。
「もはや頬を水滴が叩いても、雨の憂鬱さを思い浮かべる必要もございません。ごらんなさい。はるか上空では無数の雨雲芳香が、栗みてぇな口からよだれをこぼしているのです。その恵みのよだれをひとたび味わえば、宮古芳香と酢酸イソアミルの運命的な出会いに涙を流さずにはいられないでしょう。さあ、ようこそお越し下さいました、我らが青娥娘々。ここは芳香の里です」
以前とは比べ物にならないその営業トークには、血のにじむ努力が見え隠れするようです。
いい台詞です。感動的です。
「ですが無意味になります。今日からね」
言って、ひとにぎりのもち米を目の前の芳香にぶつける。
ひとすくいの水でも私が手にしたならばそれは立派な武器になりえる。それが砂ならばより一層強力な、ましてやそれよりも大きな固形物のもち米ともなれば。
それはもはや、凶器。
血まみれになった元芳香の殿方は、あっという間に地に伏した。
仙人修業の一環で学んだ、環境利用闘法がこんなところで役立つとは思わなかったわね。
「覚えておきなさい。芳香は万人のものではありません。この青娥娘々、ただ一人のものなのよ」
気持ち良く勝ちどきをあげる。中年男性の芳香には死を。
しかし、さすがは良質な芳香スポット。見まわすとそのほとんどが芳香になっている。
屋敷の瓦には芳香がしきつめられているし、戸が芳香になっている家も多くある。せっかくなので私は、この芳香の扉を選びたい。
「くっ、ここはやはり天国でしたか」
こんなすばらしい場所を元に戻せだなんて、豊聡耳さまも酷なことを仰るものです。また躊躇なく車裂きの刑にされるのは断固拒否したいので、嫌々ながらもち米をあたりにまき散らしますが。
そんな、『美女がもち米を投げてくる事案が発生』などと回覧版に書かれそうなことを私がしていると、通りの向こうで、もんぺ姿の芳香と、教師っぽいけれども人妻の方が断然向いていそうな芳香の二人組を見つける。
芳香のあたらしい可能性に気づかせてくれるような二人だ。こういう芳香こそ、こっそり手元に残しておきたい。
「おい、ホルスタイン、ホルスタインはどこだ」
「なんだ、妹紅。あと、私の名前は上白沢」
「あなたは口をはさまないで、パンタローネ」
「最後しかあってないからな。それに人形じゃなくてワーハクタクだって」
たしなめるように色っぽい方の、上白沢芳香さんが言った。
色っぽくない方の妹紅芳香さんは負けじと言い返した。
「ふん、そんな些細なことはすぐ忘れてしまうのよ。昨日の夕飯がなんだったかも覚えてないわ」
「それは痴呆だ」
「え?」
「お前の年齢から考えると、もはや手の施しようがない」
「ええ!?」
妹紅芳香さんは、ほとんど泣きそうになっていた。なんというか、いじめがいのありそうな、才能あふれる芳香だ。
上白沢芳香さんはその泣き顔を見ても表情を変えない。
不動のアルカイックスマイルは、その道にどれほど通じているかを思い知らされるようだった。
「大体だな、その取ってつけたような口調はなんなんだ」
「だ、だって……私貴族だし。いいところのお嬢様だし。お父様の娘として恥ずかしくないようにしないといけないし」
「またあのお姫様になにか言われたのか。無駄なことを」
「でも、でも、でも」
「そんなことをしなくても、お前はもう十分に……可愛いじゃないか。ふふ、もっと近づけ、妹紅。抱きしめてやろう」
「け、けいねぇ!」
顔を真っ赤にして妹紅芳香さんは、上白沢芳香さんの胸に飛び込んだ。
そして、上白沢芳香さんもそれを優しく受け止め……ていない! 馬鹿なっ、残像ですって!
「いつから抱きしめてもらえると錯覚していた?」
地面を数メートルほど顔面で耕した妹紅芳香さんに、彼女は平然と言い放った。いや、あなたが言ったんでしょう。
ですが、泣き言をもらしてる妹紅芳香さんも、表情はそこまで不満げではないようです。
え、なに、合意の上なの? 趣味で倒錯的なあれやこれに興じていただけなの?
ためしにもち米を二人にばらまいてみましたが、先ほどと変わらずプレイをお楽しみになってました。
夫婦円満の秘訣というものを学んだような気がします。やっぱり、性別の一致が重要なんですよねぇ。
そのまま通りを進むと、ちびっ子たちに懐かれて、幸福の絶頂にいるような笑顔で人形劇をする芳香がいました。ふむ、これも逸材の予感。
そして、そこにいる子供をつかまえては、「雑草という草はないのだ。お主に名があるようにな」とドヤ顔で語ることを繰り返す芳香……違う、あれは物部さん家の布都ちゃんだ。
なにやってるんですか、あの人。
というか言ってることがひどい。上げたあとに、落としすぎ。
ですが、さすがは物部さま。この芳香まみれの中でもその存在は、はっきりとわかります。芳香のキュートさをもってしても、あのにじみでるウザったさはカバーできなかったようですね。
「おお、青娥殿ではないか!」
あ、しまった。逃げ遅れた。
正直に言うと物部さまとは二人っきりにはなりたくないのです。基本的に可愛い子であれば食わず嫌いはしない主義なんですが、どうも物部さまにはもよおすよりも先に苦手意識が出てしまいます。
だってこの子の趣味、ちょっと理解できない次元にあるんだもの。
「こんなところで見えるとはなんと奇遇な! こちらには何用で。もしや我と同じく道教のすばらしさを知らしめるために?」
「いえ、ちょっと芳香に用がありまして。というか先ほどの行為は布教だったんですね」
布教というよりは布告なんですが。宣戦布告。
どうみても喧嘩売ってましたよ、あれ。
「あの、ところで物部さま」
「うむ?」
「どうして私のまげの輪に手を入れてるんですか」
「穴があったら入りたいのだ! そういう気分になるときは誰にでもある……そうであろう?」
あってたまるか。
それにあなたは私に会うと、いつもこの髪の輪に手を出し入れしてますよね。そういう病気なんですか。万年挿入期なんですか。うさぎよりレベル高いな。
「うぁ、あ、あっ、あんっ……ふぅ、この入れ心地のなんと良いことか。物部の秘術と道教の融合はここに極まったのだな!」
「勝手に私を組み入れないでください」
「そんなつれないことを言わないでもらいたい。我とお主は抜き差しならぬ仲ではないか」
「いや、この手は抜いてくださいよ」
そもそもどんな仲ですか、それ。
もしかして私、喧嘩をふっかけられてるのかしら。いけない、だったら期待にこたえてあげないと。
私はもち米をつかみ、物部さまのゆるそうな顔に狙いをさだめた。と、同時に物部さまが「そういえば」と言い出した。
なんでしょう。遺言ですか?
「青娥殿は芳香殿を探しているのだったな。先ほど向こうにいるのを見かけたぞ」
「ああ、私が探しているのは増えた芳香たちの方で、えっ、芳香を見たんですか」
「うむ。芳香殿のように顔に札をはりつけたものたちと共にな」
すぐさま、私はその場をあとにしました。
後ろから「ああ、待つのだ、穴! 違った、青娥殿!」という叫びが聞こえましたが、もちろん無視です。というか本音がひどい。穴って。
それよりも今は芳香のことが気になります。もっと遅いと思っていましたが手遅れになる前に着かなければ、ここまでした意味がありません。
物部さまに教えられた方にそのまま急いで進んでいくと、里のはずれにまで来てしまった。そして、そこに人だかりがあった。
人だかりは全員が芳香。
その中心で、私の芳香が悲鳴をあげていた。
「なに、わあ、なんだー、お前たちは! 芳香は私だぞ!」
芳香の一人がそれにこたえた。
「何度も言っているだろう。俺たちも芳香なんだ。芳香はもうお前だけのものじゃねえんだよ」
「私は私なんだ。青娥だって芳香を私って言ってくれるんだー。あれえ、私を芳香? だっけ?」
「その青娥娘々が俺たちを芳香だって言ってるんだ。お前も芳香なら主に従うんだな」
別の芳香が言った。芳香はその言葉の聞こえた方に首をぐるんとまわした。
ああ、あんなに急に動かしたからきっと骨が折れちゃってるわ。
「青娥はそんなこと言わないぞ。お前たちは仲間じゃない。うそはだめだー」
「芳香はもう俺たちのことでもあるんだ。お前一人がなにを言おうが、芳香の言うことにはならないね」
「私が言ってるのにぃ?」
「そうだ。もちろん、我らが青娥娘々もな」
また、芳香の誰かが言った。
途端に、芳香は目の色を変えた。
「青娥は私のだー!」
「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」
「せ、せいがは、わだじ、のぉ……」
何十人もの芳香は口々にこたえ、芳香は……芳香? もしかして、泣いているの?
芳香の表情は、久しく見ていないものだった。
死を踏みにじってから無縁となっていた、絶対に手放したくないものがその指からこぼれようとしている、そのおぞましい寒さにおびえたような顔。
あなた……そんな顔もできるようになったのね。
「うー……青娥! お前たちのじゃない! 青娥! 私! せーが、せいがぁ!」
「青娥娘々は芳香の居場所だ」
泣き喚く芳香に、芳香の一人はささやくように言った。
ほかの芳香は黙り込み、空気はどんどん重くなっていく。
「そして、芳香はお前の場所だ」
芳香の誰かが言った。
囲んでいた芳香たちが、徐々に芳香との距離を詰める。
「しかし、今は我々の場所だ」
芳香の誰かが言った。
何十もの芳香の足が地を強く押し付ける。
「奪い返せばよい」
芳香の誰かが言った。
そして、すぐに。
「がえぜっ! やだっ、せぇがせーがっ!」
「……できるものなら」
「せーが!」
私の芳香も、山となった芳香たちも、誰も彼もが一斉に飛びかかった。
「それで?」
「そのまま帰ってきましたよ」
「いやなんで見届けないで戻ってきてるのよ。普通そこは助けに入るとかするでしょう?」
「邪仙ですから」
「だからそのしたり顔やめて。ほんとやめて」
豊聡耳さま、また震えてらっしゃる。今度こそお酒がきれたのでしょうか。
「お酒、持ってきましょうか」
「あ?」
威圧された。
もうっ、本当に権力者ってなに考えてるかわからないわ。
ミミーも準備万端で、私の首をじろじろと舐めまわすように見てきます。いやらしい……。
あれから私は顛末を見届けることなく、すぐに里に戻って残りの芳香たちを治しました。
ほかの雨雲芳香や木材芳香は放っておけばそのうち戻るでしょう。自然は回転効率がいいですし。
「そもそもきみは、どうして今回あのようなことをしたのです。布教なんかでは当然ないんでしょう?」
「あらあら、豊聡耳さまでもおわかりにならないことがあるんですね」
「きみの欲、三大欲求がないかわりに芳香って大きすぎる欲があるんですよ」
まあ、芳香がいればその三つのことも済ませられますし。
「ですが、それ正解ですよ」
「はい?」
「芳香が私に執着するところってあまり見たことないですよね?」
「それはいつも、きみの方から構ってあげているからでしょう」
「芳香は可愛いですから」
「青娥はその一言でなんでも済ませようとする」
うるさいですよ、パラサイト。
豊聡耳さまとセットだからこそ話してあげていますが、単品注文できるならあなたはいらない子なんですからね。
「ですから、たまには芳香が私に執着するところを見てみたいなと思いまして」
「はあ、つまり嫉妬されたかったのですか」
「ええ。おかげで芳香のなつかしい顔が見られましたわ」
死んでからは、生きることに必死になることもない。
そんな芳香があんなにくやしそうにしているなんて、可愛らしくて仕方ない。
あの切ない顔はたまりません。必死にもがいて、すりきれそうな声をあげて、私の名前を呼んでくれるなんて!
頬がゆるむが、どうにも抑えられない。
豊聡耳さまはそんな私の前でため息をついた。こんなにすてきなことがあったのに、どうして疲れたようにしているのでしょう。
「青娥、ひとつ聞きたいことがある」
「なんです」
あら、ミミーの方から話しかけるなんて珍しい。存在自体が珍しすぎるパラサイトですけど。
「きみは芳香をずいぶんと大切にしているようだ」
「私の可愛いものですからね」
「ならば、なぜその芳香が襲われたときに助けなかった。芳香もどきでは、いくら数が増えようと問題ないと考えたのか」
ああ、そういうこと。
「あの芳香たちは、増えた芳香たちの中でも才能のあるものたちです。だから、芳香よりの考え方ができたんでしょうね。ちょっと会っただけの私にずいぶんと執着してくれましたし」
「本物になり変わろうとしていたのか。だが、それでは答えになってないな。わたしが聞いているのは理由だ」
「さて、どうしてでしょうかね?」
にこやかに笑ってやる。
ミミーにおわりまで話す必要はない。私のことは私だけが理解していれば十分なのだ。
「もしや、きみ。誰でも良かったのか?」
ミミーの言葉は、以前にも誰かさんに言われたものだった。
死体ならば。誰であろうと芳香のようにできる。壊れても取り換えれば済む話ではないか、なんて。本当に、もう。
笑っちゃうわね。
「ミミー、無駄ですよ」
「わたしは青娥と話している。ミコ、邪魔してないでくれ」
「私はきみを家族だと言いましたね。それを彼女がわかってると思いますか?」
「なにを言ってる。彼女の知能ならばそれくらい理解できるだろう」
「言葉の上の話ではないんですよ」
「う、む?」
ミミーが身をねじりながら、ううんと唸りだした。
途端に、豊聡耳さまの自慢の髪のハネはおっきな三つ編みに早変わり。一本角の鬼っぽくも見えるし、ドリルを生やした変人にも見えますね。
そのとき、外が少し騒がしくなった。墓に誰かがやってきたようだ。
もちろん、誰が来たかはわかっている。
いまだに、ぐぬぬと悩んでいるミミーと、そのミミーの形に新しい希望を見出した豊聡耳さまをしり目に、私は天井から抜け出し、仙界の外へと向かった。
墓地は奇妙に思えるほどひんやりとしていて、うす暗い。
その中でじっと待つ。
肌はすっかり冷えてしまい、ちょうど彼女とおそろいになった。ようやくやってきた彼女と同じ。
その服装。買ってあげた帽子。丁寧に作った札。そして、馴染みのある、あの笑みも。
「うーおー。青娥っ、たーだいまー!」
「おかえりなさい。芳香」
いつもどおり、彼女を優しく抱きしめる。
コツを知らないと腕がごろんと取れてしまうが、私はもうずっと昔から意識しなくてもそれができる。
「あのな、えーとお腹いっぱい! ……じゃなくて、えーとえーと、そうだ! うその私がいてー、そいつをやっつけてきたんだぞ」
「あらあら、そうなの。じゃあ、帽子を取りなさい。なでてあげるわ」
「うん」
芳香が身体をゆすって、自分の帽子をずり落とす。
暗い藤色の髪は、ところどころが暗褐色になっていた。なでてみると、硬くなってしまったところが指の先にのろのろと噛みついた。
引っかからないように、ゆっくりゆっくり、手を動かす。
「よし、よし。いいこ、いいこ」
どちらも冷たいはずなのに、痺れが抜けていくような心地よさがやってくる。
芳香は嬉しそうに身じろいだ。
可愛がりたいけど愛でる芳香がいない、永久保存できる美少女芳香をなでなでしたい、そんなときに!
芳香可愛がりで鍛えた邪仙が、一生懸命あなたの周りで芳香よしよしをします!
モチロン芳香を用意する必要もありません!
芳香があなたの家の近くの住人に無差別にかじりついて仲間入りさせます!
※お支払いは、一時間につき芳香二体でお願いします』
かような宣伝紙をまき散らした結果、芳香の総人口は、今や一億にまでのぼりつめました。
さすがは幻想郷。やっぱり欲望には勝てなかったよって人であふれてるので、毎日が最高に楽しいです。空気もウマイ。
まあ、空気がおいしいのは、どこにいっても芳香の群れがいるおかげで、そこらに甘ったるい腐臭が漂っているからなんですがね。
もちろん、ここ大祀廟もその例外ではありません。私が連れ込んだ芳香が、そこらにうじゃうじゃいるのでここでも芳香に包まれた気分になれるのです。
ところで、数日前から胸がくるしくてしかたないのですが、これはやはり芳香への想いで胸がいっぱいだからなのでしょうか、豊聡耳さま。
「いえ、息を吸い続けているからでしょう」
なるほど。どうりで意識が遠のくばかりだと思ったら、芳香の体臭があまりにかぐわしいせいで息を吐き忘れていたらしい。
芳香ったら本当にいけない子。主人の生死をもてあそぶだなんて。
……でも芳香にもてあそばれる自分とかちょっと見たいかも。
「ドゴォ」
こめかみを的確に狙った一撃を、わずかにのけぞって避ける。
豊聡耳さまが先ほどから効果音を口で言いながらシャドーボクシングをなさっているのですが、どうして私の前でやっているのでしょうか。
今のように事故で当たりそうになることが数十回はあったので、正直遠慮してほしいですね。お気に入りの子はつい甘やかしたくなるので、口にはしませんが。
「そうそう、豊聡耳さま。いいお知らせと、聞けば大胆に服を脱いで私を押し倒すお知らせがあるのですが、どちらからお聞きになります?」
「きみの断末魔が聞きたい」
「あ、あかるい内からそんなことを仰られてはいけませんわ。あなたさまときたらもう……めっ! ですよ」
「なぜ私がたしなめられるのかまったく理解できないし、その初々しさをかたる言動もものすごく不快ですので即刻やめなさいお願いします」
おかしな豊聡耳さま。可愛い権力者に殺意を向けられるとかご褒美以外のなにものでもないじゃない。
こんなステキな場面に恵まれるなんて、きっと私が誠実な仙人として民衆を導いてきたからでしょう。やっぱり日ごろの行いって、こういうところで出てくるんですねぇ。
「あら、豊聡耳さまったら。ご自慢の髪型が乱れてますわ」
うさぎを模したはずなのに会う人にことごとく、『クワガタみてぇ……』と言われた豊聡耳さまの立派な髪のハネが、なにかを我慢しているようにのたうち回ってる。
かの聖徳道士が、いったいどんな欲望に耐えているというのかしら。
拳をぶるぶると震わせて、私を熱っぽい目つきで見つめている……ふむ、排泄の欲?
「いや…………ちょっと、今朝は…………湿気がひどいみたい、ですね」
「ご自分の立場を考えて必死で気を落ち着かせようとする豊聡耳さま可愛いですよ。芳香の次に」
「見て見ぬふりをする優しさがあるということを知りなさい」
「ごめんちゃい」
誠心誠意の気持ちで謝ったが、豊聡耳さまの髪のうねりはさらに激しくなった。なぜだか相当お怒りのご様子。
まったく、権力者って赤ん坊みたいに機嫌がころころ変わるから困りものです。
でも、そういう理不尽なところがまた可愛いんですよね。ダメなところがいじらしいと言いますか。生活力やら精神年齢やらが底辺レベルの人とか大好き。
「青娥、私はともかく、あまり彼を怒らせないでください。彼は私ほど寛容ではありませんからね」
「彼? ああ、そういえばあの人も無事に目覚められたんでしたね」
私の言葉にこたえるように、豊聡耳さまの髪のハネは、ぐねぐねとうねるのをやめて言った。
「青娥、何度も言ってきたが、わたしは人ではない。ミコに寄生する生き物にすぎないのだ」
豊聡耳さまのぴんと跳ね上がった二本の寝ぐせから、彼は目玉をのぞかせた。
相変わらず態度は可愛くないクリーチャーのくせに、瞳は芳香のようにくりくり丸くかがやいている。
つぶらな瞳は甘みが強そうで、芳香の飴ちゃん袋にでも入れておこうかと考えたときもあった。豊聡耳さまがやたらと彼のことを気に入っていたのであきらめるしかなかったが。
いきなり身体に住み着いた得体のしれない寄生生物がまかり間違って、彼女にとってかけがえのない友人となってしまったのは、幼いころから周りが退屈な大人ばかりで気の許せる友人がいなかったさみしさからか、それともただの不思議ちゃんだからかのどちらかでしょう。
後者だと私の趣味にあっているので大変よし。黒歴史になりかねないキャラ作りに笑顔で付き合ってあげて、その後本人が忘れたころにそっと耳元でそのときのことを事細かにつぶやいてあげたい。
「ミミー。私だって何度も言うけど、きみは私の家族ですよ。ミミーのおかげで十人がいっぺんに話すことも聞きとれるようになったんですからね」
「……家族、か。やはりきみの脳を奪わなくて正解だった。はじめは、きみのその耳あてに阻まれたせいで乗っ取りに失敗したことを、実に悔んだのだがな」
「ふふ、私もミミーがいきなり喋りだしたときはあわてて切るところでしたよ。『そうだな、ここは人間の耳という器官なのだろう』なんて言ってミミーと名乗ったときには笑っちゃいましたけど」
「きみの髪型の趣味は相変わらずだが、わたしの居場所をとっておいたくれたことには、まあ、感謝しておこう」
そして変わらず仲もいいですね、あなた方。
まあ、それも仕方ない。豊聡耳さまとミミーの巧みな連携といえば、どの史書にもその活躍が載っているほどです。
崇仏派と排仏派が対立した戦で、ミミーの切っ先を飛び交わせて屈強な敵軍を次々となぎ払った武勇はあまりにも有名。寝ぐせを振り回しながら首を刈っていく彼女の姿は、かつて東漢で武勇を誇った呂布そのものだと言われ、今でも『二本の触角がある』、『頭が昆虫っぽい』、『触角がある』、『めちゃ強い』、『触角がある』という確固たる根拠のもと、豊聡耳さまと呂布の同一説が広く語られているのです。
そのため、豊聡耳さまに近付かれた人が『た……太子だー! 太子が出たぞー!! うわー!!』と叫びながら逃げる遊びが、飛鳥文化に根付きました。私が根付かせました。
豊聡耳さまの泣き顔は国宝級でしたので、仕方なかったと思います。
「それで、青娥。いい知らせとはなんです? もしやようやく、私のこの髪型に感銘を受けたものでも来たのですか」
「いえ、それは相変わらずさっぱりですわ」
「ふうむ、長く眠りましたがまだ時代は私に追いついていないようですね」
反重力ヘアのくせに、なんでこの方こんなに強気なの。
「ミミーもそう思いますよね?」
「ミコの髪の状態はとてもいい」
「なるほど、髪質についてはわかりました。それで、髪型は?」
「髪の色合いもすばらしい」
「ありがとう。それで、髪型は?」
「いい大人がうさぎになりきっているみたいで見ていて愉快」
「リピート」
「む、眠くなった! 四時間寝る」
逃げたわ。このパラサイト。
「もう、ミミーったら仕方ないですね。青娥、きみは私の髪型についてどう思います?」
「どうかと思います」
「リピート」
「いいお知らせというのはですね。もちろん芳香のことですわ。豊聡耳さま、驚かないでくださいよ。なんと……なんと、あの芳香がですね……以前よりも超かわいらしくなったんです!」
「いや、その話じゃなくて」
「今までだって超かわいいのに、さらに可愛くなったんです。ちょっとお口がさびしくなったとき舐めるのに丁度いいくらい可愛い! この可愛らしさはとどまることを知らない! もはや厳正な管理が必要なレベルですね、あの人里のこともありますし」
「芳香云々はきみが毎日言ってることじゃないですか。いや、それより人里でなにかあったの?」
「おや、ご存じないのですか。ならばこれを」
言って、以前拾っておいた新聞を彼女に渡した。
「これは?」
「新聞という、さまざまな出来事について書かれたものです。里の通りの端っこに砂まみれになって置かれていました。無料配布にしてはずいぶんとずさんな置かれ方でしたが。あ、そこの一番大きな記事をご覧ください」
「ふむ、なるほど。えぇと、『里のトップ発言、「ただちに趣味嗜好に影響はない」』、なにこの一文……読む気を根こそぎ奪ってくる」
『里のトップ発言、「ただちに趣味嗜好に影響はない」』
以前から里では可憐な芳香が日に日に増大していったことから、里の芳香指数への懸念が寄せられていたが、本日その芳香指数について里の長が記者会見を行った。
会見で長は、里の芳香指数は若干増加の傾向にあるが基準値を大きく下回っている、ただちに趣味嗜好に影響はないと述べ、住民に対し冷静な対処を呼びかけた。
「この当たり前のように使われてる芳香指数ってなんですか」
「やだ、豊聡耳さまったら。芳香可愛がりの程度を表したものに決まってるでしょう」
「その常識でしょって言い方、やめなさい。即刻やめなさい」
「え、常識ですよ。里の子供でも知ってますし」
顔をあげた豊聡耳さまは、そのまま持っていた新聞を床に叩きつけた。
「あー、うん。そもそも、その芳香指数とやらが高まると、どうなってしまうのです?」
「そうですね。簡単に言うと、私みたいになります」
「こ、この世のおわりじゃないですか……」
なんだか顔色の優れない豊聡耳さま。きっとなにか勘違いしているのね。
ここは一つ、今の人里のすばらしさをお伝えして、彼女にも芳香の魅力を認めさせなくてはなりませんね。
あと、落ち着かせるためにも。
「記事のとおり、里は事態を楽観視したので、芳香指数が人体に甚大な影響を及ぼすレベルになっても人々は避難しませんでした。そのため、人里に住んでいた大人も子供も、おねーさんも、いい歳した無職も、注意散漫なウェイトレスも、信仰がほしいならと巫女を誘って人気のない小屋につれていくだけの簡単な仕事をしているオッサンも、みんな芳香原理主義者になったのです。今では人里はすっかり、良質な芳香スポットとして有名になりましたからご安心くださいな」
「なに一つとして安心できる要素がない……」
「あらあら、豊聡耳さまったら心配性なんですから」
「きみの言葉で納得できるものがいれば、別の意味で心配ですよ」
む、説得は失敗におわったようだ。説明する前はおどおどとしていて大変そそる目つきだったのに、今は刃物を横にして構えている女の目になっている。
やはり豊聡耳さまも一度人里に連れていって、芳香色に染め上げるべきでしょうか。
「はあ、もういいです。とにかく、人里に関してはきみが責任もって対処してください」
「わかりましたわ。この青娥にお任せ下さい。徐々に人里の勢力を拡大させて幻想郷を芳香の魅力で掌握してみせます」
「ミミー、起きて起きて。食事の時間よ」
「間違えました。てきとうに人里の芳香指数を戻しておきます」
皆のあこがれ、娘々として『死因:寝ぐせ』は許されない。
「よろしい。ついでに布都や屠自古から聞きましたが、きみが最近やってるあの見世物もやめなさい。人里の件も、それが原因なのでしょう?」
「まあ、豊聡耳さま!」
心外だ。
芳香よしよしはただの見世物ではない。道教の立派な布教なのだ。お二人はそれをわかっていないだけ。
そう、豊聡耳さまに力説したが、彼女はやれやれと言いたいかのように首をふった。縦に。
え、寝てたの。
「あ、寝てませんよ。起きてます起きてます。屠自古よしよしの話でしたね」
「それはあなたの願望です」
「あ、あーはい、はい、芳香ね。そっち系ね。そっち系でしたかー、勘違いしてたわ。うん」
豊聡耳さまは、相手の欲を聞きとって会話をさぼる癖があるせいか、先走って勘違いしたという言い訳をよくされます。
ですが、この私にはそんな常套句は通用しませんよ。
そう睨みつけると、豊聡耳さまは間違いを素直に認めてくれました。
教え子との信頼をより深く築けたことに私は嬉しく思いながら、彼女のすねを執拗に蹴りつけるのをやめた。
「それで、芳香をなでるだけでなんで信者が増えるんですか。風が吹けば桶屋が豪遊するレベルですよ」
「いえいえ。道教をはじめたらこんなに可愛い彼女ができました! と体験談のように語るだけで改宗する方がわんさかと」
「う、胡散臭すぎる……! なんでみんなつられてるの」
「芳香の魅力のなせる業ですわ」
別の宣伝紙にあなたさまの体験談も載っているからでしょうとは、口がさけても言えません。
目に黒線の入った豊聡耳さまが『もちろん、はじめは信じませんでした。ですが、道教をはじめてからというもの、仕事では大活躍。美人のお嫁さんもできた上にその母親までゲット。もう道教が手放せません! 道教をはじめなかった昔の自分がバカみたいに思えます(笑)』と満面の笑みで語っているという。
おそらく本人にばれたら、芳香とのペアルック(種族)を強要されるでしょういや待てそれご褒美じゃないですかやったー!
本人にばれることを楽しみに待つ毎日です。
気分も良くなったので、頼まれごとをさっさとやってしまおうという気にもなった。
「では、私はこれから人里に行ってきますね」
「待ちなさい。もう一つ知らせがあるんでしょう?」
豊聡耳さま。普通に呼びとめるだけでいいので、ミミーを使うのはやめてください。腕が痛い。
「ああ、はいはい。大したことではないのですっかり忘れてましたわ。豊聡耳さまのお部屋のことなんですが芳香が使いますので、あなたさまは今日から廊下で寝てください。では」
「待ちなさい」
浮かび、天井から抜けようとすると、今度は全身を捕縛された。
さっきよりもきつく絞められてるから痛さも尋常じゃない。おまけに、ちょっと吐きそう。
朝食で、今日も芳香味でご飯が美味い! とか調子に乗って霞三杯おかわりしたのが仇となったようです。
「芳香は昼も夜も、外で番をしているでしょう。それに部屋ならほかにいくらでもあるじゃない」
「今、芳香は里に遊びに行かせてますけどね。あと私のこと、ちょっとくらい気遣ってくれてもいいんですよ」
「はやく答えて。きみの手足はあまり待ってはくれませんよ」
ぎりぎりと、四肢がそれぞれ異なる方向にゆっくり引っ張られていく。
ええぇ、車裂きの刑を長年の師に処すとか邪仙の私でも引くんですけど。
ついでに血の気も引いてきたので、素直に答えることにした。
「芳香よしよしはいわば営業ですからね。ちゃんとした報酬をお客様から頂いているのです」
「報酬? ああ、芳香二体でしたか。あれはどういう意味なんですか」
「お客様の身近な方に芳香が噛みき仲間入りさせて、その芳香を頂いてます。売り上げも上々ですので、芳香の総人口は今や億に到達してます。おかげで増えた芳香でこの大祀廟の空き室はすべてうまってしまいましたよ」
「やってることが完全に奴隷商人ですからね。いや、そもそも私はそんな大人数の芳香を一度も見てませんよ」
「ちゃんと隠れるように言いつけてるので。気付かないだけで豊聡耳さまの周りには常に芳香がいるんですよ」
そう、今この瞬間も芳香が私たちを取り囲んでいるのです。
天井裏に芳香が三人。そこの柱に一人。床下にも五人。隣の部屋には二人。豊聡耳さまの背後に二人。
「なにその光景、完全にホラーじゃないですか。というか道理で最近雑音が多いと思ったら」
「申し訳ありません。隠しきれると思っていたのですが、あまりに数が多くなってもう追い出せる規模ではなくなったので打ち明けることにしたんです」
「本音がもれてますし、言ってることがタチ悪いんですが」
「邪仙ですから」
「その得意げな顔やめて」
突然腕を震わせながら、耐えるようにくちびるを引き結ぶ豊聡耳さま。
いったいどうしたのかしら。彼女の身になにが起こったというの。
まるで降ってわいたような苛立ちからなにかに殴りつけるのを我慢しているようにも見えるし、お酒がきれたようにも見える。
凡人ならばここで読み違えてしまうでしょう。ですが、豊聡耳さまとのお付き合いも長く、その上誉れ高い仙人である私ならば、真実をあてることなど造作もないのです。
「豊聡耳さま、お酒を持ってきましょうか」
「は?」
あれ、おかしいわ。露骨に嫌な顔をされてしまった。
これはおそらく、乙女心の前には何人もかなわないという教訓なのでしょう。そうに違いないわ。
ふふ、また今日も徳をつんでしまったようね。
そんなふうに私がにやにやしていると、豊聡耳さまの背後にいた二人の芳香が突然飛び出してきた。
いきなり現れた二人の芳香に、豊聡耳さまは可愛らしくおどろき、私はどさくさにまぎれてミミーの手からなんとか逃れた。
「ごきげんよう、青娥娘々。あなたって呼びにくい名前よね」
「ごきげんよう、青娥娘々。あなたって呼びたくない名前よね」
青っぽい髪の芳香と金髪芳香が、行儀よく順番に言った。
「青娥、この同じ顔で同じ言葉を喋っている二人組はいったい誰ですか」
「ああ、ご紹介します。こちらは先日の芳香よしよしで頂いた芳香たちです。向かって左が芳香スカーレットさん。右が芳香スカーレットさん」
「そこは分けてあげましょうよ」
「あら、あなたは見た目で区別もできないのかしら」
「あら、あなたは見た目で差別もできないのかしら」
「見た目で差別するのは悪いことなのよ!」
「見た目で差別できないのは目が悪いからなのよ!」
「この人の目が悪いかなんてわからないでしょう!」
「この人が悪いのは頭かもしれないでしょ!」
「見た目でこの人の頭が悪いかなんてわからないじゃないの!」
「見た目でこの人の頭がかっこ悪いかはわかるじゃないの!」
「人の頭をかっこ悪いって差別するのはいけないことなのよね!」
「この人の頭はかっこ悪いけど差別するのはいけないことなのよね!」
「この子たち、キョンシーならぶっ壊しても問題ないですよね?」
「お、お待ちください、豊聡耳さま。お慈悲を!」
天井にまで逆立った髪を押さえながら、必死に豊聡耳さまをなだめる。
というかこの髪、硬すぎるんですが。オリハルコンより硬い。
「この子たちはキョンシーではなく、芳香ですよ! 種族、芳香! 吸血鬼らしいのでなかなか死なないでしょうけど!」
「え、キョンシーに噛みつかれたらキョンシーになるのでは?」
「一日三回、食後三十分以内に噛みつかれることを一週間ほど続ければそうなりますね。ただ噛まれだけでは、顔にお札を貼っていないと落ち着かなくなったり、私に懐いてきたり、頭の具合が若干ゆるくなったりする程度です」
そのため、噛まれたものをキョンシーではなく、芳香と呼んでいる。
芳香になったものは基本的に頭が残念な出来になるので、ちょっとだけ普段よりも素直になりすぎた言動をする。
だから、この芳香姉妹も悪気があったわけではない……いや、どうだろう。なんだか手慣れてる感じがするし。食後の一服の感覚で、人の逆鱗の上をスキップしていそう。
「なるほど。きみの言いたいことはわかりました。ですが、私の髪型とミミーを侮辱した罪は、キョンシーだろうと芳香だろうと吸血鬼だろうと平等に重いのです」
「重いわね」
「愛が重いわね」
「そこの輪唱姉妹、うるさい」
豊聡耳さまは芳香姉妹を睨みつけた。
姉妹も負けじと睨みかえした。姉妹同士、お互いを。
「私、あなたのことが好き」
「私、自分だけが好き」
ラブロマンスが始まった。大分一方的なので、続きが気になるところ。
しかし、豊聡耳さまはそんな芳香たちを完全に無視していた。
「青娥、今すぐ里の件を解決してきなさい。同時に、芳香にしたものたちの対処もね」
耳を疑った。
思わず、笑顔でとんでもないことを口走った豊聡耳さまをじっと見る。髪は天井を突き抜けるほどに逆立っていて、その様相はまさしく鬼としか言いようがなかった。
そう、鬼だ。鬼のようなことを、このお方は言ったのだ。
「そ、そんな……そんなことって……精根こめて作り上げてきた私の芳香たちを戻せだなんて、ひどすぎる……そんな、これが人間のやることですか!」
「聖人です」
「あ、はい」
さすがに豊聡耳さまには泣き落しも通用しませんね。せっかくがんばって涙声にしたのに。
「あなたさまの望みとあらば、仕方ありませんね。これより青娥は修羅となりましょう。芳香に逢うては芳香を斬ります」
「いや、ちゃんと戻してあげなさいよ」
「そこが問題なのです。芳香たちを元に戻すなどまったく想定していなかったので、まず方法から探さなければなりません」
「普通、想定しておくものですからね。後片付けまでが異変ですよ」
「安っぽい標語みたいですね」
「頼むから反省してるふりくらいしてくれません?」
やり方を知らないので、できません。
「とりあえず、キョンシーの治療法ならば増えた芳香にも効くんじゃないでしょうか」
「どんな治療法なんです?」
「そうですね。たとえば、生のもち米をかけると毒が緩和しますよ」
「ほう」
「あとは赤豆とか、雌鶏の血なんかがあります。それに……ど、ど、どどど、どうてい、の方の、その、血とかが」
「そういうのいいから」
「はい」
豊聡耳さまったら本当につれないお方。
ちょっとしたサービス精神は、すげなく打ち捨てられることになった。
ひとまず、備蓄にあったもち米を少しばかり頂き、まずは目の前の芳香姉妹から治すことにしよう。
はい、かけますよ。
「痛みがしみてくるようだわ!」
「痛みでしみができるようだわ!」
あ、これ豆でした。
「この幻想郷の、あらゆるところに芳香はいるのです」
里の入口で、「ここは人里だよ」と話す仕事をしていたらしい名も知らぬ芳香が、近付いてきたと思うと早々に仕事に入った。
「もはや頬を水滴が叩いても、雨の憂鬱さを思い浮かべる必要もございません。ごらんなさい。はるか上空では無数の雨雲芳香が、栗みてぇな口からよだれをこぼしているのです。その恵みのよだれをひとたび味わえば、宮古芳香と酢酸イソアミルの運命的な出会いに涙を流さずにはいられないでしょう。さあ、ようこそお越し下さいました、我らが青娥娘々。ここは芳香の里です」
以前とは比べ物にならないその営業トークには、血のにじむ努力が見え隠れするようです。
いい台詞です。感動的です。
「ですが無意味になります。今日からね」
言って、ひとにぎりのもち米を目の前の芳香にぶつける。
ひとすくいの水でも私が手にしたならばそれは立派な武器になりえる。それが砂ならばより一層強力な、ましてやそれよりも大きな固形物のもち米ともなれば。
それはもはや、凶器。
血まみれになった元芳香の殿方は、あっという間に地に伏した。
仙人修業の一環で学んだ、環境利用闘法がこんなところで役立つとは思わなかったわね。
「覚えておきなさい。芳香は万人のものではありません。この青娥娘々、ただ一人のものなのよ」
気持ち良く勝ちどきをあげる。中年男性の芳香には死を。
しかし、さすがは良質な芳香スポット。見まわすとそのほとんどが芳香になっている。
屋敷の瓦には芳香がしきつめられているし、戸が芳香になっている家も多くある。せっかくなので私は、この芳香の扉を選びたい。
「くっ、ここはやはり天国でしたか」
こんなすばらしい場所を元に戻せだなんて、豊聡耳さまも酷なことを仰るものです。また躊躇なく車裂きの刑にされるのは断固拒否したいので、嫌々ながらもち米をあたりにまき散らしますが。
そんな、『美女がもち米を投げてくる事案が発生』などと回覧版に書かれそうなことを私がしていると、通りの向こうで、もんぺ姿の芳香と、教師っぽいけれども人妻の方が断然向いていそうな芳香の二人組を見つける。
芳香のあたらしい可能性に気づかせてくれるような二人だ。こういう芳香こそ、こっそり手元に残しておきたい。
「おい、ホルスタイン、ホルスタインはどこだ」
「なんだ、妹紅。あと、私の名前は上白沢」
「あなたは口をはさまないで、パンタローネ」
「最後しかあってないからな。それに人形じゃなくてワーハクタクだって」
たしなめるように色っぽい方の、上白沢芳香さんが言った。
色っぽくない方の妹紅芳香さんは負けじと言い返した。
「ふん、そんな些細なことはすぐ忘れてしまうのよ。昨日の夕飯がなんだったかも覚えてないわ」
「それは痴呆だ」
「え?」
「お前の年齢から考えると、もはや手の施しようがない」
「ええ!?」
妹紅芳香さんは、ほとんど泣きそうになっていた。なんというか、いじめがいのありそうな、才能あふれる芳香だ。
上白沢芳香さんはその泣き顔を見ても表情を変えない。
不動のアルカイックスマイルは、その道にどれほど通じているかを思い知らされるようだった。
「大体だな、その取ってつけたような口調はなんなんだ」
「だ、だって……私貴族だし。いいところのお嬢様だし。お父様の娘として恥ずかしくないようにしないといけないし」
「またあのお姫様になにか言われたのか。無駄なことを」
「でも、でも、でも」
「そんなことをしなくても、お前はもう十分に……可愛いじゃないか。ふふ、もっと近づけ、妹紅。抱きしめてやろう」
「け、けいねぇ!」
顔を真っ赤にして妹紅芳香さんは、上白沢芳香さんの胸に飛び込んだ。
そして、上白沢芳香さんもそれを優しく受け止め……ていない! 馬鹿なっ、残像ですって!
「いつから抱きしめてもらえると錯覚していた?」
地面を数メートルほど顔面で耕した妹紅芳香さんに、彼女は平然と言い放った。いや、あなたが言ったんでしょう。
ですが、泣き言をもらしてる妹紅芳香さんも、表情はそこまで不満げではないようです。
え、なに、合意の上なの? 趣味で倒錯的なあれやこれに興じていただけなの?
ためしにもち米を二人にばらまいてみましたが、先ほどと変わらずプレイをお楽しみになってました。
夫婦円満の秘訣というものを学んだような気がします。やっぱり、性別の一致が重要なんですよねぇ。
そのまま通りを進むと、ちびっ子たちに懐かれて、幸福の絶頂にいるような笑顔で人形劇をする芳香がいました。ふむ、これも逸材の予感。
そして、そこにいる子供をつかまえては、「雑草という草はないのだ。お主に名があるようにな」とドヤ顔で語ることを繰り返す芳香……違う、あれは物部さん家の布都ちゃんだ。
なにやってるんですか、あの人。
というか言ってることがひどい。上げたあとに、落としすぎ。
ですが、さすがは物部さま。この芳香まみれの中でもその存在は、はっきりとわかります。芳香のキュートさをもってしても、あのにじみでるウザったさはカバーできなかったようですね。
「おお、青娥殿ではないか!」
あ、しまった。逃げ遅れた。
正直に言うと物部さまとは二人っきりにはなりたくないのです。基本的に可愛い子であれば食わず嫌いはしない主義なんですが、どうも物部さまにはもよおすよりも先に苦手意識が出てしまいます。
だってこの子の趣味、ちょっと理解できない次元にあるんだもの。
「こんなところで見えるとはなんと奇遇な! こちらには何用で。もしや我と同じく道教のすばらしさを知らしめるために?」
「いえ、ちょっと芳香に用がありまして。というか先ほどの行為は布教だったんですね」
布教というよりは布告なんですが。宣戦布告。
どうみても喧嘩売ってましたよ、あれ。
「あの、ところで物部さま」
「うむ?」
「どうして私のまげの輪に手を入れてるんですか」
「穴があったら入りたいのだ! そういう気分になるときは誰にでもある……そうであろう?」
あってたまるか。
それにあなたは私に会うと、いつもこの髪の輪に手を出し入れしてますよね。そういう病気なんですか。万年挿入期なんですか。うさぎよりレベル高いな。
「うぁ、あ、あっ、あんっ……ふぅ、この入れ心地のなんと良いことか。物部の秘術と道教の融合はここに極まったのだな!」
「勝手に私を組み入れないでください」
「そんなつれないことを言わないでもらいたい。我とお主は抜き差しならぬ仲ではないか」
「いや、この手は抜いてくださいよ」
そもそもどんな仲ですか、それ。
もしかして私、喧嘩をふっかけられてるのかしら。いけない、だったら期待にこたえてあげないと。
私はもち米をつかみ、物部さまのゆるそうな顔に狙いをさだめた。と、同時に物部さまが「そういえば」と言い出した。
なんでしょう。遺言ですか?
「青娥殿は芳香殿を探しているのだったな。先ほど向こうにいるのを見かけたぞ」
「ああ、私が探しているのは増えた芳香たちの方で、えっ、芳香を見たんですか」
「うむ。芳香殿のように顔に札をはりつけたものたちと共にな」
すぐさま、私はその場をあとにしました。
後ろから「ああ、待つのだ、穴! 違った、青娥殿!」という叫びが聞こえましたが、もちろん無視です。というか本音がひどい。穴って。
それよりも今は芳香のことが気になります。もっと遅いと思っていましたが手遅れになる前に着かなければ、ここまでした意味がありません。
物部さまに教えられた方にそのまま急いで進んでいくと、里のはずれにまで来てしまった。そして、そこに人だかりがあった。
人だかりは全員が芳香。
その中心で、私の芳香が悲鳴をあげていた。
「なに、わあ、なんだー、お前たちは! 芳香は私だぞ!」
芳香の一人がそれにこたえた。
「何度も言っているだろう。俺たちも芳香なんだ。芳香はもうお前だけのものじゃねえんだよ」
「私は私なんだ。青娥だって芳香を私って言ってくれるんだー。あれえ、私を芳香? だっけ?」
「その青娥娘々が俺たちを芳香だって言ってるんだ。お前も芳香なら主に従うんだな」
別の芳香が言った。芳香はその言葉の聞こえた方に首をぐるんとまわした。
ああ、あんなに急に動かしたからきっと骨が折れちゃってるわ。
「青娥はそんなこと言わないぞ。お前たちは仲間じゃない。うそはだめだー」
「芳香はもう俺たちのことでもあるんだ。お前一人がなにを言おうが、芳香の言うことにはならないね」
「私が言ってるのにぃ?」
「そうだ。もちろん、我らが青娥娘々もな」
また、芳香の誰かが言った。
途端に、芳香は目の色を変えた。
「青娥は私のだー!」
「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」 「違う」
「せ、せいがは、わだじ、のぉ……」
何十人もの芳香は口々にこたえ、芳香は……芳香? もしかして、泣いているの?
芳香の表情は、久しく見ていないものだった。
死を踏みにじってから無縁となっていた、絶対に手放したくないものがその指からこぼれようとしている、そのおぞましい寒さにおびえたような顔。
あなた……そんな顔もできるようになったのね。
「うー……青娥! お前たちのじゃない! 青娥! 私! せーが、せいがぁ!」
「青娥娘々は芳香の居場所だ」
泣き喚く芳香に、芳香の一人はささやくように言った。
ほかの芳香は黙り込み、空気はどんどん重くなっていく。
「そして、芳香はお前の場所だ」
芳香の誰かが言った。
囲んでいた芳香たちが、徐々に芳香との距離を詰める。
「しかし、今は我々の場所だ」
芳香の誰かが言った。
何十もの芳香の足が地を強く押し付ける。
「奪い返せばよい」
芳香の誰かが言った。
そして、すぐに。
「がえぜっ! やだっ、せぇがせーがっ!」
「……できるものなら」
「せーが!」
私の芳香も、山となった芳香たちも、誰も彼もが一斉に飛びかかった。
「それで?」
「そのまま帰ってきましたよ」
「いやなんで見届けないで戻ってきてるのよ。普通そこは助けに入るとかするでしょう?」
「邪仙ですから」
「だからそのしたり顔やめて。ほんとやめて」
豊聡耳さま、また震えてらっしゃる。今度こそお酒がきれたのでしょうか。
「お酒、持ってきましょうか」
「あ?」
威圧された。
もうっ、本当に権力者ってなに考えてるかわからないわ。
ミミーも準備万端で、私の首をじろじろと舐めまわすように見てきます。いやらしい……。
あれから私は顛末を見届けることなく、すぐに里に戻って残りの芳香たちを治しました。
ほかの雨雲芳香や木材芳香は放っておけばそのうち戻るでしょう。自然は回転効率がいいですし。
「そもそもきみは、どうして今回あのようなことをしたのです。布教なんかでは当然ないんでしょう?」
「あらあら、豊聡耳さまでもおわかりにならないことがあるんですね」
「きみの欲、三大欲求がないかわりに芳香って大きすぎる欲があるんですよ」
まあ、芳香がいればその三つのことも済ませられますし。
「ですが、それ正解ですよ」
「はい?」
「芳香が私に執着するところってあまり見たことないですよね?」
「それはいつも、きみの方から構ってあげているからでしょう」
「芳香は可愛いですから」
「青娥はその一言でなんでも済ませようとする」
うるさいですよ、パラサイト。
豊聡耳さまとセットだからこそ話してあげていますが、単品注文できるならあなたはいらない子なんですからね。
「ですから、たまには芳香が私に執着するところを見てみたいなと思いまして」
「はあ、つまり嫉妬されたかったのですか」
「ええ。おかげで芳香のなつかしい顔が見られましたわ」
死んでからは、生きることに必死になることもない。
そんな芳香があんなにくやしそうにしているなんて、可愛らしくて仕方ない。
あの切ない顔はたまりません。必死にもがいて、すりきれそうな声をあげて、私の名前を呼んでくれるなんて!
頬がゆるむが、どうにも抑えられない。
豊聡耳さまはそんな私の前でため息をついた。こんなにすてきなことがあったのに、どうして疲れたようにしているのでしょう。
「青娥、ひとつ聞きたいことがある」
「なんです」
あら、ミミーの方から話しかけるなんて珍しい。存在自体が珍しすぎるパラサイトですけど。
「きみは芳香をずいぶんと大切にしているようだ」
「私の可愛いものですからね」
「ならば、なぜその芳香が襲われたときに助けなかった。芳香もどきでは、いくら数が増えようと問題ないと考えたのか」
ああ、そういうこと。
「あの芳香たちは、増えた芳香たちの中でも才能のあるものたちです。だから、芳香よりの考え方ができたんでしょうね。ちょっと会っただけの私にずいぶんと執着してくれましたし」
「本物になり変わろうとしていたのか。だが、それでは答えになってないな。わたしが聞いているのは理由だ」
「さて、どうしてでしょうかね?」
にこやかに笑ってやる。
ミミーにおわりまで話す必要はない。私のことは私だけが理解していれば十分なのだ。
「もしや、きみ。誰でも良かったのか?」
ミミーの言葉は、以前にも誰かさんに言われたものだった。
死体ならば。誰であろうと芳香のようにできる。壊れても取り換えれば済む話ではないか、なんて。本当に、もう。
笑っちゃうわね。
「ミミー、無駄ですよ」
「わたしは青娥と話している。ミコ、邪魔してないでくれ」
「私はきみを家族だと言いましたね。それを彼女がわかってると思いますか?」
「なにを言ってる。彼女の知能ならばそれくらい理解できるだろう」
「言葉の上の話ではないんですよ」
「う、む?」
ミミーが身をねじりながら、ううんと唸りだした。
途端に、豊聡耳さまの自慢の髪のハネはおっきな三つ編みに早変わり。一本角の鬼っぽくも見えるし、ドリルを生やした変人にも見えますね。
そのとき、外が少し騒がしくなった。墓に誰かがやってきたようだ。
もちろん、誰が来たかはわかっている。
いまだに、ぐぬぬと悩んでいるミミーと、そのミミーの形に新しい希望を見出した豊聡耳さまをしり目に、私は天井から抜け出し、仙界の外へと向かった。
墓地は奇妙に思えるほどひんやりとしていて、うす暗い。
その中でじっと待つ。
肌はすっかり冷えてしまい、ちょうど彼女とおそろいになった。ようやくやってきた彼女と同じ。
その服装。買ってあげた帽子。丁寧に作った札。そして、馴染みのある、あの笑みも。
「うーおー。青娥っ、たーだいまー!」
「おかえりなさい。芳香」
いつもどおり、彼女を優しく抱きしめる。
コツを知らないと腕がごろんと取れてしまうが、私はもうずっと昔から意識しなくてもそれができる。
「あのな、えーとお腹いっぱい! ……じゃなくて、えーとえーと、そうだ! うその私がいてー、そいつをやっつけてきたんだぞ」
「あらあら、そうなの。じゃあ、帽子を取りなさい。なでてあげるわ」
「うん」
芳香が身体をゆすって、自分の帽子をずり落とす。
暗い藤色の髪は、ところどころが暗褐色になっていた。なでてみると、硬くなってしまったところが指の先にのろのろと噛みついた。
引っかからないように、ゆっくりゆっくり、手を動かす。
「よし、よし。いいこ、いいこ」
どちらも冷たいはずなのに、痺れが抜けていくような心地よさがやってくる。
芳香は嬉しそうに身じろいだ。
何よりもよしかちゃんがピックアップされよしかちゃんが生き生きしていたのでこれはもうよしかちゃん生き生き推奨委員会代表がいすと氏としてはもう仕方がないぐらいに100点を投じるものでありよしかちゃんかわかわよしよしにもほどがあるのだがしかしながら全てYになる(よしかになる)というハーレムエンドもまた見てみたいと思う次第であり極限までいってしまえばよしかちゃんかわかわだけでむせるぅー!
よしかよしよし!よしかよしよし!
>生活力やら精神年齢やらが底辺レベルの人とか大好き。 個人的にはこの部分が青娥の新しい魅力を一番感じられた気がします。端的だけど最も良く表しているというか。
あと、「邪仙ですから」の使い勝手の良さは異常。もうそれだけでいいと言うか、その付近の神子の優しさにも地味にぐっときました。優しさがあるからその一言が生きてますよね。
ちょっとミミーのネタが入り込めなかったというか、浮いていた感じがするので10点だけ引いて評価としたいと思います。全体的に、文章の巧みさと、散りばめられ、流れに上手く組み込まれ、読む者を飽きさせない細やかなネタだけで十二分に楽しめました。ありがとうございました。
「芳香の数が百倍になったら、あの芳しき腐臭も百倍になるだろうか……」
誰かがふと思った
「芳香(みんな)の未来を守らねば……」
今年入ってから最高の切れ味のツッコミと思います。
よしかよしよし
最終的には、「ミコ、私はこれから無期限の休眠にはいる。そうなれば、私はただ君のミミとなるだろう」ですね
芳香スカーレットの流れはマジで死にかけた
はぁ俺も芳香になって青娥になでなでされたい
とりあえず面白かったです。
良かったかも…。
mmm...元ネタはわかるんだけど、笑えなかったなぁ…。なぜだ!?
なんと素晴らしい!!
よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし
よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし
∧ ∧
( ・∀・)
O ⌒ヘ⌒Oフ ))
( ( ´ω`)
しー し─ J
出だしがあのAAのパロだったから予想はしてたはずなのにw
ネタが多すぎて突っ込み切れません。
それなのに、そのネタが全てクリティカルヒットとは。御見それしました。
三 三三
/;:"ゝ 三三 f;:二iュ 三三三
三 _ゞ::.ニ! ,..'´ ̄`ヽノン
/.;: .:}^( <;:::::i:::::::.::: :}:} 三三
〈::::.´ .:;.へに)二/.::i :::::::,.イ ト ヽ__
,へ;:ヾ-、ll__/.:::::、:::::f=ー'==、`ー-="⌒ヽ
. 〈::ミ/;;;iー゙ii====|:::::::.` Y ̄ ̄ ̄,.シ'=llー一'";;;ド'
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……え?
芳香ちゃん可愛いよ芳香ちゃん