21
「フラン様、わがままも大概にしてください」
「ふーんだ、世界は私を中心に回ってるのよ!」
「完全に包囲されてますね」
◆
22
私はスナイパー。
月の訓練所ではトップクラスの優等生。
たとえ銃が地上製の粗悪品でも、この距離ならば外さない。
ほんとはこんなことをしたくは無かったが、てゐの頼みとあらば断れまい。
ガショッ
ボルトアクションの古臭い音が響く。
月にはフルオートの狙撃銃なるものもあったが、それは邪道というもの。
二の矢はいらない、一撃でしとめる。
ターゲットまでの距離、風向き、打ち抜く角度、すべてを計算に入れる。
ふーっと息を吐く。
私の目は鷹のそれ、何人たりとも逃しはしない。
引き金を絞る。
瞬間、銃身内で圧縮されていたバネが開放され、先端にこめられていたコルク弾が射出される。
ノックバックに身を揺るがす私を余所に、黄土色の弾丸が死の放物線を描いてゆく。
ターゲットの中心やや下に下方向から弾は衝突する。
狙い通りのコース。
私はZIPPOっぽいオイルライターが下に落ちるのを確認して、小さくガッツポーズをした。
「……れ、れーせんが楽しそうで何よりウサ」
◆
23
閻魔様の説教が地霊殿に響く。
心を読んでみた。
まだまだ言いたいことは山ほどあるらしい。
視察のたびにこれでは業務に差し支えるのだけれど、何とかならないものだろうか。
「そう、あなたは少し斜に構えすぎている。もっと当事者意識を持って……」
はあ、後どれくらい続くのだろうか。
「さとりさまー」
げげっ、お空!?
「む、あなたは確か」
「お空、今は取り込み中です。下がっていなさい」
そしてお願いだから余計なことは言わないで。
「この子だーれ?」
「……」
いやぁんクリティカル。
「申し遅れました、私は幻想郷およびその近辺担当の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥと申します」
ああそんな、お空にまでわざわざ。
……なんか、すごい申し訳ない。
「お空はねー、うつほって言うんだよー」
「そうですかうつほさん、申し訳ありませんが今は旧地獄の視察の最中ですので、今度改めて挨拶に参ります」
「閻魔ってなーに?」
お燐早く来て!
「……閻魔とは死者を裁く存在です。うつほさんも天国に行きたければ善行を積むとよいでしょう」
「うん!ぜんこー積むよっ!」
「はい、よい心がけです」
ふぅー、心なしか閻魔様の顔から険が取れた気がする。
「さあお空、もういいでしょ? お燐のところに行きなさい」
「ねー閻魔ー」
様を付けろデコ助やろう。
「みんな死んじゃったら閻魔って何するの?」
「えっ」
えっ
「お燐が言ってたよ、いつか人も妖怪もみーんな死んじゃうんだって、そしたら閻魔って何するの?」
……ど、どうなんでしょう。
私はお空を下がらせるのを忘れ、閻魔様のほうに向き直った。
「……」
めっちゃ困っておられる。
脂汗がにじみ出ておられる。
「……申し訳ありません、宿題にさせてください」
たっぷり5分は黙った後、閻魔様はそれだけ言って帰っていった。
「うにゅー?」
この子は自分がどれほどの偉業を達したのかわかってないらしい。
こいつはいい、次の視察の時もお空に頼もう。
◆
24
雛は『お役目』で忙しいらしい。
椛は山で白狼の集会があるらしい。
魔理沙は変な手紙のゲームに夢中らしい。
私、避けられてるのかな。
「おや、にとり、こんなところで奇遇ですね」
「あ、文、こんにちは」
ちょうどいい、文にも聞いてみよう。
「ねえ文、全自動で尻子玉抜いてくれる機械発明したんだけどモニターを……」
「あー、すっかり忘れてました、今から椛と会う約束をしてたんです、すみませんがまた今度に」
「え? 椛は今日集会だよ?」
「え、あ、いや、私も出るんですよ、その集会」
言うが早いか文はその最速の翼で飛び去っていってしまった。
やっぱり私、いじめられてるんだろうか。
◆
25
「テレビが見たい」
幻想郷に来てからというもの、その手の文明とは無縁の生活を強いられている。
仕方が無いこととはいえ、現代っ子の私には少々つらいものがある。
鬱陶しいとさえ思っていたNHKの集金すらも、今となっては懐かしい。
「そうか、無いなら作ればいいんだ」
テレビはさすがに難しいが、ラジオくらいならいけるのでは?
早速神奈子様に相談してみることにした。
「神奈子様ー」
「お、どうした早苗、余計なことでも思いついたか?」
「テレビとかラジオって幻想郷で放送できませんかね」
「どうだろう、テレビ……は難しいだろうが、ラジオならあるいはできるかも知れないな」
おお、脈ありかな?
「電波塔か、河童なら作れるだろうか、135kHz帯でならあるいは、いやしかし……」
「長考入りましたー」
「よし、いけそうだ」
「おおっ」
「これで守矢の信仰も増えるぞ」
「やったね神奈子様!」
「早苗もたまにはいいことを言うじゃないか」
「えへへ、ステマステマ」
すべては信仰獲得のため、守矢の守矢による守矢のための情報統制を。
「こういうのは諏訪子の方が得意だな、早速相談しよう」
わぁい。
素敵な番組を作りましょうね。
◆
26
私は覚悟を決め、人形を手にした。
魔理沙が帰ってこない。
紅魔館のメイド長がPADなのかどうか調べてくる、と出て行ったっきり帰ってこない。
死んだのだろうか。
赤い館へ赴き、まずはパチュリーのところへ。
事情を話そうとしたら、いきなり口を押さえられた。
そしてキョロキョロと周りを見回し、安全を確認するとため息を付いた。
「あれは、タブーに触れたのよ」
もう関わらないことね、と悲しい瞳で遠くのほうを見つめながらつぶやいた。
しかし私は引き下がるためにここに来たわけではない。
もうこうなったらメイド長とやらに直接会いに行こう。
「そう、なら止めないわ、アリス、今までありがとう、あなたは良き友人だったわ」
ティーカップを傾けながら、パチュリーはそう言った。
メイド長はすぐ見つかった。
「いらっしゃいませ、パチュリー様でしたら地下の図書館にいらっしゃるかと」
「今日はあなたに会いに来たの」
「私に、ですか?」
「魔理沙がここに来たはずよ」
ピク、とメイド長の眉が動いた気がした。
「はい、去年の暮れに忘年会をしたときにお越しになられました」
「つい昨日よ」
「いえ、いらしてはおりません」
「あなたの事を調べていたはずよ」
「存じません」
「じゃあいいわ」
言い終わらないうちに人形を繰り出す。
放った弾幕は虚空をきる。
「アリス様、館内を破壊せぬようお願いいたします」
どこからとも無くナイフが現れ、雨のごとく降り注ぐ。
しかし私も歴戦の魔法使い。
見える糸、見えない糸、強い人形、弱い人形、遅い弾、早い弾。
持ちうる全てをかけて応戦し、ついにメイド長を捕らえる。
そう、ちょうど胸部をかすめるようにして。
そして私は見た。
真相を。
◆
27
夜風が気持ちいい。
寺のみんなでわいわい飲むのもいいけれど、たまにはこうして1人で飲むのもいい。
「白蓮ちゃん、晩酌かい?」
「あら、マミゾウさん、よければご一緒にいかがですか?」
「ふむ、ご相伴に預かるとしよう」
始めからその気だったのだろう。
彼女の手にはとっくりとちょっとしたツマミが乗せられていた。
「これは?」
「イカの一夜干じゃ、佐渡じゃあ酒はこいつで飲む」
「そうでしたか」
「持ってきたのはこれで最後じゃがな」
それはもったいない、今食べてしまっていいのだろうか。
「なあに、あんたとなら」
「……ありがとうございます」
しばし2人で杯を交わす。
あまり会話も無かったけれど、伝わるものはたくさんあった。
それにしても……
「それにしてもそうじゃな」
「はい?」
「白蓮ちゃんは綺麗な肌をしておるの、うらやましい限りじゃ」
「はい?」
「ぐふふふ、ええ香りじゃ」
「ちょ、やめてください!」
「ええじゃないかええじゃないか」
「い、いや! 私には寅丸という心に決めた人が!!」
「え?」
「え!?」
「は?」
「ぬぇ!?」
「ウソ!?」
「ええ?」
……あらあら。
「ありゃりゃ、いっぱい出てきおったな」
「間抜けは見つかったようですね」
盗み聞きとはいただけない。
誠に若く、軽佻浮薄であるッ!
「いざ、南無三――!」
深夜の妖怪寺に悲鳴が響き渡った。
◆
28
文明が滅んでから何万年経っただろう。
土地は枯れ果て水は淀み、それでも終わることの無い人生を私は歩んでいる。
「かーぐや」
もこうが来た、こいつともどれくらいの付き合いだろう。
もこうってどんな漢字だったかも思い出せない。
「いらっしゃい」
もこうは私に覆いかぶさると、赤子のように甘えてくる。
殺しあうのも愛し合うのもとっくの昔に飽きてしまった。
最近はこうして朝から晩まで体を摺り寄せ、どこにも行かないように捕まえておくばかりだった。
「あ、いいこと思いついた」
もこうが頭を起こす。
「2人で組んでえーりんを倒してみない?」
「……その発想は無かった」
いいアイディアだ、感動的だ。
何で今まで思いつかなかったのだろう。
「えーりんは強いわよー?」
「だからいいんじゃん」
「それもそうね」
かくして私たちは、この難題に挑むことにした。
そして永遠に解けないことを悟った。
えーりんは死んでいた。
私たちが寝床にしていた洞穴で、息を引き取っていた。
「え?」
「は?」
えーりんの死体のそばに手紙が置いてあった。
紙もペンも無いのにどうやって書いたのか分からなかったが、そんなことはどうでもいい。
忘れかけていた知識をフル動員して文字を読む。
『輝夜と妹紅へ、私は疲れました。』
『ごめんなさい。』
『私は小瓶を持っているはずです。』
『その中に蓬莱の薬を打ち消す薬が入っています。』
『ただし、1人分しかありません。』
『材料が無くてどうしても作れませんでした。』
『それをどうするかは2人で相談して決めてください。』
『2人ともごめんなさい、愛してます。』
『八意永琳』
なんでとかどうしようとか言うより先に、そうだ『もこう』ってこんな漢字だった、と思った。
◆
29
私は納屋にそっと宝塔を隠した。
そして何食わぬ顔で本殿に戻り、ナズーリンを探す。
「うわーん、ナズーリーン!」
「なんだご主人、また何かなくしたのか」
「わ、私だっていつもいつも物をなくしてるわけじゃないですよ!」
「そうかい、それは悪かったよ。で、何をなくしたんだ?」
「……宝塔です」
やれやれだ、とつぶやくナズーリン。
ごめんなさい、ホントは甘えたいだけなんです。
「しっかりしてくれよご主人」
「てへっ」
◆
30
「えーりん!えーりん!超怖い夢見たー!」
「蓬莱の薬でしたら1万年ごとに飲みなおさないといけないので大丈夫ですよ」
「なぜ夢の内容を知っている」
「うおおー輝夜ーー!」
「なによあんた」
「超怖い夢見たー!!」
「……蓬莱の薬なら1万年で効果切れるんだって」
「なんで私の見た夢知ってんのよー!」
そうか、永琳も同じの見てたのか。
了
「フラン様、わがままも大概にしてください」
「ふーんだ、世界は私を中心に回ってるのよ!」
「完全に包囲されてますね」
◆
22
私はスナイパー。
月の訓練所ではトップクラスの優等生。
たとえ銃が地上製の粗悪品でも、この距離ならば外さない。
ほんとはこんなことをしたくは無かったが、てゐの頼みとあらば断れまい。
ガショッ
ボルトアクションの古臭い音が響く。
月にはフルオートの狙撃銃なるものもあったが、それは邪道というもの。
二の矢はいらない、一撃でしとめる。
ターゲットまでの距離、風向き、打ち抜く角度、すべてを計算に入れる。
ふーっと息を吐く。
私の目は鷹のそれ、何人たりとも逃しはしない。
引き金を絞る。
瞬間、銃身内で圧縮されていたバネが開放され、先端にこめられていたコルク弾が射出される。
ノックバックに身を揺るがす私を余所に、黄土色の弾丸が死の放物線を描いてゆく。
ターゲットの中心やや下に下方向から弾は衝突する。
狙い通りのコース。
私はZIPPOっぽいオイルライターが下に落ちるのを確認して、小さくガッツポーズをした。
「……れ、れーせんが楽しそうで何よりウサ」
◆
23
閻魔様の説教が地霊殿に響く。
心を読んでみた。
まだまだ言いたいことは山ほどあるらしい。
視察のたびにこれでは業務に差し支えるのだけれど、何とかならないものだろうか。
「そう、あなたは少し斜に構えすぎている。もっと当事者意識を持って……」
はあ、後どれくらい続くのだろうか。
「さとりさまー」
げげっ、お空!?
「む、あなたは確か」
「お空、今は取り込み中です。下がっていなさい」
そしてお願いだから余計なことは言わないで。
「この子だーれ?」
「……」
いやぁんクリティカル。
「申し遅れました、私は幻想郷およびその近辺担当の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥと申します」
ああそんな、お空にまでわざわざ。
……なんか、すごい申し訳ない。
「お空はねー、うつほって言うんだよー」
「そうですかうつほさん、申し訳ありませんが今は旧地獄の視察の最中ですので、今度改めて挨拶に参ります」
「閻魔ってなーに?」
お燐早く来て!
「……閻魔とは死者を裁く存在です。うつほさんも天国に行きたければ善行を積むとよいでしょう」
「うん!ぜんこー積むよっ!」
「はい、よい心がけです」
ふぅー、心なしか閻魔様の顔から険が取れた気がする。
「さあお空、もういいでしょ? お燐のところに行きなさい」
「ねー閻魔ー」
様を付けろデコ助やろう。
「みんな死んじゃったら閻魔って何するの?」
「えっ」
えっ
「お燐が言ってたよ、いつか人も妖怪もみーんな死んじゃうんだって、そしたら閻魔って何するの?」
……ど、どうなんでしょう。
私はお空を下がらせるのを忘れ、閻魔様のほうに向き直った。
「……」
めっちゃ困っておられる。
脂汗がにじみ出ておられる。
「……申し訳ありません、宿題にさせてください」
たっぷり5分は黙った後、閻魔様はそれだけ言って帰っていった。
「うにゅー?」
この子は自分がどれほどの偉業を達したのかわかってないらしい。
こいつはいい、次の視察の時もお空に頼もう。
◆
24
雛は『お役目』で忙しいらしい。
椛は山で白狼の集会があるらしい。
魔理沙は変な手紙のゲームに夢中らしい。
私、避けられてるのかな。
「おや、にとり、こんなところで奇遇ですね」
「あ、文、こんにちは」
ちょうどいい、文にも聞いてみよう。
「ねえ文、全自動で尻子玉抜いてくれる機械発明したんだけどモニターを……」
「あー、すっかり忘れてました、今から椛と会う約束をしてたんです、すみませんがまた今度に」
「え? 椛は今日集会だよ?」
「え、あ、いや、私も出るんですよ、その集会」
言うが早いか文はその最速の翼で飛び去っていってしまった。
やっぱり私、いじめられてるんだろうか。
◆
25
「テレビが見たい」
幻想郷に来てからというもの、その手の文明とは無縁の生活を強いられている。
仕方が無いこととはいえ、現代っ子の私には少々つらいものがある。
鬱陶しいとさえ思っていたNHKの集金すらも、今となっては懐かしい。
「そうか、無いなら作ればいいんだ」
テレビはさすがに難しいが、ラジオくらいならいけるのでは?
早速神奈子様に相談してみることにした。
「神奈子様ー」
「お、どうした早苗、余計なことでも思いついたか?」
「テレビとかラジオって幻想郷で放送できませんかね」
「どうだろう、テレビ……は難しいだろうが、ラジオならあるいはできるかも知れないな」
おお、脈ありかな?
「電波塔か、河童なら作れるだろうか、135kHz帯でならあるいは、いやしかし……」
「長考入りましたー」
「よし、いけそうだ」
「おおっ」
「これで守矢の信仰も増えるぞ」
「やったね神奈子様!」
「早苗もたまにはいいことを言うじゃないか」
「えへへ、ステマステマ」
すべては信仰獲得のため、守矢の守矢による守矢のための情報統制を。
「こういうのは諏訪子の方が得意だな、早速相談しよう」
わぁい。
素敵な番組を作りましょうね。
◆
26
私は覚悟を決め、人形を手にした。
魔理沙が帰ってこない。
紅魔館のメイド長がPADなのかどうか調べてくる、と出て行ったっきり帰ってこない。
死んだのだろうか。
赤い館へ赴き、まずはパチュリーのところへ。
事情を話そうとしたら、いきなり口を押さえられた。
そしてキョロキョロと周りを見回し、安全を確認するとため息を付いた。
「あれは、タブーに触れたのよ」
もう関わらないことね、と悲しい瞳で遠くのほうを見つめながらつぶやいた。
しかし私は引き下がるためにここに来たわけではない。
もうこうなったらメイド長とやらに直接会いに行こう。
「そう、なら止めないわ、アリス、今までありがとう、あなたは良き友人だったわ」
ティーカップを傾けながら、パチュリーはそう言った。
メイド長はすぐ見つかった。
「いらっしゃいませ、パチュリー様でしたら地下の図書館にいらっしゃるかと」
「今日はあなたに会いに来たの」
「私に、ですか?」
「魔理沙がここに来たはずよ」
ピク、とメイド長の眉が動いた気がした。
「はい、去年の暮れに忘年会をしたときにお越しになられました」
「つい昨日よ」
「いえ、いらしてはおりません」
「あなたの事を調べていたはずよ」
「存じません」
「じゃあいいわ」
言い終わらないうちに人形を繰り出す。
放った弾幕は虚空をきる。
「アリス様、館内を破壊せぬようお願いいたします」
どこからとも無くナイフが現れ、雨のごとく降り注ぐ。
しかし私も歴戦の魔法使い。
見える糸、見えない糸、強い人形、弱い人形、遅い弾、早い弾。
持ちうる全てをかけて応戦し、ついにメイド長を捕らえる。
そう、ちょうど胸部をかすめるようにして。
そして私は見た。
真相を。
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夜風が気持ちいい。
寺のみんなでわいわい飲むのもいいけれど、たまにはこうして1人で飲むのもいい。
「白蓮ちゃん、晩酌かい?」
「あら、マミゾウさん、よければご一緒にいかがですか?」
「ふむ、ご相伴に預かるとしよう」
始めからその気だったのだろう。
彼女の手にはとっくりとちょっとしたツマミが乗せられていた。
「これは?」
「イカの一夜干じゃ、佐渡じゃあ酒はこいつで飲む」
「そうでしたか」
「持ってきたのはこれで最後じゃがな」
それはもったいない、今食べてしまっていいのだろうか。
「なあに、あんたとなら」
「……ありがとうございます」
しばし2人で杯を交わす。
あまり会話も無かったけれど、伝わるものはたくさんあった。
それにしても……
「それにしてもそうじゃな」
「はい?」
「白蓮ちゃんは綺麗な肌をしておるの、うらやましい限りじゃ」
「はい?」
「ぐふふふ、ええ香りじゃ」
「ちょ、やめてください!」
「ええじゃないかええじゃないか」
「い、いや! 私には寅丸という心に決めた人が!!」
「え?」
「え!?」
「は?」
「ぬぇ!?」
「ウソ!?」
「ええ?」
……あらあら。
「ありゃりゃ、いっぱい出てきおったな」
「間抜けは見つかったようですね」
盗み聞きとはいただけない。
誠に若く、軽佻浮薄であるッ!
「いざ、南無三――!」
深夜の妖怪寺に悲鳴が響き渡った。
◆
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文明が滅んでから何万年経っただろう。
土地は枯れ果て水は淀み、それでも終わることの無い人生を私は歩んでいる。
「かーぐや」
もこうが来た、こいつともどれくらいの付き合いだろう。
もこうってどんな漢字だったかも思い出せない。
「いらっしゃい」
もこうは私に覆いかぶさると、赤子のように甘えてくる。
殺しあうのも愛し合うのもとっくの昔に飽きてしまった。
最近はこうして朝から晩まで体を摺り寄せ、どこにも行かないように捕まえておくばかりだった。
「あ、いいこと思いついた」
もこうが頭を起こす。
「2人で組んでえーりんを倒してみない?」
「……その発想は無かった」
いいアイディアだ、感動的だ。
何で今まで思いつかなかったのだろう。
「えーりんは強いわよー?」
「だからいいんじゃん」
「それもそうね」
かくして私たちは、この難題に挑むことにした。
そして永遠に解けないことを悟った。
えーりんは死んでいた。
私たちが寝床にしていた洞穴で、息を引き取っていた。
「え?」
「は?」
えーりんの死体のそばに手紙が置いてあった。
紙もペンも無いのにどうやって書いたのか分からなかったが、そんなことはどうでもいい。
忘れかけていた知識をフル動員して文字を読む。
『輝夜と妹紅へ、私は疲れました。』
『ごめんなさい。』
『私は小瓶を持っているはずです。』
『その中に蓬莱の薬を打ち消す薬が入っています。』
『ただし、1人分しかありません。』
『材料が無くてどうしても作れませんでした。』
『それをどうするかは2人で相談して決めてください。』
『2人ともごめんなさい、愛してます。』
『八意永琳』
なんでとかどうしようとか言うより先に、そうだ『もこう』ってこんな漢字だった、と思った。
◆
29
私は納屋にそっと宝塔を隠した。
そして何食わぬ顔で本殿に戻り、ナズーリンを探す。
「うわーん、ナズーリーン!」
「なんだご主人、また何かなくしたのか」
「わ、私だっていつもいつも物をなくしてるわけじゃないですよ!」
「そうかい、それは悪かったよ。で、何をなくしたんだ?」
「……宝塔です」
やれやれだ、とつぶやくナズーリン。
ごめんなさい、ホントは甘えたいだけなんです。
「しっかりしてくれよご主人」
「てへっ」
◆
30
「えーりん!えーりん!超怖い夢見たー!」
「蓬莱の薬でしたら1万年ごとに飲みなおさないといけないので大丈夫ですよ」
「なぜ夢の内容を知っている」
「うおおー輝夜ーー!」
「なによあんた」
「超怖い夢見たー!!」
「……蓬莱の薬なら1万年で効果切れるんだって」
「なんで私の見た夢知ってんのよー!」
そうか、永琳も同じの見てたのか。
了
>>フルオートの狙撃銃
セミオート? 狙撃銃にフルオート機能つけてもしょうがない気が・・・
>>うっとおしい
うっとうしい
まぁそれでも割と面白いんですが。
もう少しペースを落としていただければ幸いです。
28wwwwwwww
23と27が良かったですw
あなたの勇気はしかと見届けた
パンが寝かせなければ膨らまないように物語も寝かせて膨らむのを待たなきゃ良いものはできませんよ。
過去の栄光にしがみついた有名人が連続出版してるエッセイ本みたいで飽きてきました。
一作目がウケて天狗になり二作目、三作目で転けた某映画と同じ流れじゃないか!
長いのは情景が浮かびやすくなったし
短いのはネタの切れ味が増した
個人的には21・23・28がよかった。