Coolier - 新生・東方創想話

天国に一番近い場所

2012/02/02 21:15:10
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八雲紫の式神である八雲藍は狐の妖怪である。

ただの狐の妖怪なのではない。彼女の種族は世にも最強と名高い、九尾の狐なのだ。
大妖怪たる八雲紫の式神なのだからそのくらいのモノは流石に持ってて当然と言ったところか。
そんな彼女の実力は言わずもがなであるが、その利点、いや魅力は藍の至る所に発現している。
それは彼女の優れた頭脳であったり、または端正な顔立ちやスタイルであったり。

しかしなんと言っても八雲藍の一番の魅力といえば、彼女の持つ九つの尻尾。
美しくもっふもっふな黄金色の尻尾であることは間違いないと断言出来よう。

そして美しいものとは、時としてあらゆる人を狂わせるものなのだ。








「幻想郷で天国に一番近い場所って、どこですかねぇ?」

主人の屋敷で主人と自分の式と三人仲良く食卓を囲んでいた八雲藍は目を瞬かせた。
宙に疑問を投げかけたのは藍の式神、橙。普段はマヨヒガにいる彼女であるが、このところ八雲家に入り浸っている。
主人の紫と、橙と、藍。この三人の食事を作るのは八雲邸の家事のほぼ全てを取り仕切る藍の仕事だった。

「それはまた、どうして?」
「いえ、地獄は地底にあるらしいじゃないですか。じゃあ天国はどの辺りなんだろうって」

言いながら橙は箸を器用に使って朝食の焼鮭にぱくりと食いついた。
もぐもぐと口を動かして良く噛む橙を見ながら、藍は先ほど問われた質問を考えてみる事にした。
まず、天国とは何か?それは死者が向かう場所だ。生前良い行いをしたものは天国へ。悪い行いをしたものは地獄へ。それがルールだ。
良い行いの死者が向かう場所なのだから……

「…やはり、冥界ではないかな」

幻想郷では、閻魔の裁判を受けて白とされた死者の魂は一旦亡霊である西行寺幽々子が管理する冥界へと送られる。
死者の霊はそこでしばしの間過ごしてから成仏や転生をするというわけだ。
成仏するというのは即ち天国へ行くという表現でおそらく間違ってはいまい。
であるからして、この幻想郷において天国に一番近い場所というのは冥界だ、というのが藍の考えである。

「それじゃつまんないです」
「は?」

が、ダメ…っ!
藍の出した答えは儚くも彼女の式によって一蹴されてしまった。嗚呼、哀れなり。
藍の意見を瞬時に否定した橙は口を尖らせて続けた。

「あまりに単純だと思うんですよ、それだと。」
「いやいや、単純とかつまらないとかそういう話ではないだろう?」
「もっとこう、ハッとするようなとこが欲しいんですよ、ハッと。盲点でしたーみたいな」
「………」

藍は自身が式神にして式神を操る程度の能力を持っているが、その能力は完璧なものではない。
橙を完全に自分に忠実に動かすにはまだまだ修行が足りず、時たま橙は突拍子も無い行動や言動をする。例えば、今みたいに。
藍が自分の力不足を実感するのはまさしくこういう時だった。
天国に一番近い場所にハッとするようなところもなにもあるか。そんなの冥界以外に考えられないだろう。

「私、知ってるわよ」
「え?」
「え?」

そこに突如横やりが入った。藍と橙はほぼ同時にその横やりを突っ込んだ人物を見やる。
声の主は今まで黙って二人の会話を聞きながら朝食を食べていた八雲紫大先生。
藍は怪訝そうに自分の主人を見つめて尋ね返した。

「天国に一番近い場所ですか?」
「ええ」
「冥界ではなくて?」
「冥界ではなくて」
「じゃあどこにあるんですっ?」

最後の発言者は橙だ。彼女はわくわくと目を輝かせながら自分の主人の主人を見つめた。
紫先生、その視線に臆する事なくゆったりとした華麗な仕草で悠々と味噌汁を啜る。
あくまでも優雅に味噌汁を飲み終えた後、お椀を食卓の上に静かに戻して八雲紫は断言した。


「それは藍の尻尾の中にあるッ!」
「いや、意味が分かりません紫様」

コンマ3秒程で藍は主人の言葉にツッコんだ。

「ハッ……!」
「ハッ……!じゃないだろう、ハッ……!じゃ!」

自分の隣で紫の言葉にハッ……!としていた橙にもツッコんだ。
驚異的なスピードで二つのツッコミをこなした藍を前に紫は再度きっぱりと言い切った。

「天国に一番近い場所。それは藍の尻尾の中よ。間違いないわ」
「紫様。私は理解いたしかねるのですが」
「なぜ、なぜなぜそう言えるんです?」
「良い質問ね、橙。藍のあの尻尾を見なさい」

藍を無視して橙の言葉に反応する紫。言われて橙は藍の尻尾をまじまじと見つめた。
他二人の視線が自分の尻尾に集まるのを感じて藍も自分の尻尾を眺めた。
ふさふさとした九本の尻尾。八雲藍がきちんと手入れをし、それなりの自慢にも思っている見事な尻尾である。
自分の式神の尻尾を直視しながら八雲紫は橙に問うた。

「もふもふしてるわよね?」
「もふもふしてますね」
「もっふもふよね?」
「もっふもふですね」
「つまり、そういうことよ」
「なるほど!」

わからん。
皆目わからん。
さっぱりわからん。

藍は綺麗な三段活用を脳裏に浮かべつつ、眉間に深いしわを刻み込んだ。

この尻尾が天国に一番近い場所?
あの二人はいったい何を話しているんだろうか。なにがなるほどなのだろうか。
二人の間でどのような意思疎通がなされ、どのような合意が得られたのであろうか。
それは最強の妖獣たる藍の頭脳をもってしても計り知れぬことであった。

しかし、計り知れない事態というものは得てして加速するわけで。

「しかるに、我々はその天国を体感する必要があるとおもうの」
「はい、紫様。橙もそう思います」
「ちょっとお待ちを。なんですか?ねえなんですか?」
「これはもはや義務に等しいわ。そうよね橙?」
「はい、紫様。まったくその通りかと」
「なんですか?なんでにじり寄ってくるんですか?ちょっと、お二人様!?」

目を不気味に輝かせながら両手をわきわきさせる主人と式神を恐怖の眼差しで見つめる藍。
直感で身の、いや、貞操の危機とも呼べる殺気を感じ取った藍は忍者もかくやという身軽さで食卓から飛び退った。
二人から距離をとった藍に紫と橙は一歩一歩丁寧に畳を踏みしめて近寄っていく。

にじり。ずさり。にじり。ずさり。

二人が一歩詰め寄るごとに、藍も一歩後ろへ下がる。
全くズレる事のない距離を保ちつつ、十歩ほど平行移動した三人はピタリと立ち止まった。
三者とも一歩も動かずにその場に静止する。時間だけが無常に流れる。さながらそれはヘビとカエルとナメクジの三すくみか。
その均衡を破ったのははたして。

「そのけしからん尻尾もふらせろや藍ーーーーー!!!!」
「もふもふさせてくださいらんしゃまああああああ!!!」
「わあああああああああああ!?」

何の前触れもなく藍に飛びかかって来た寄せ手の二人組だった。
その獣のごとき鋭い咆哮と勢いをもって自らの欲望を満たすべく黄金の尻尾へなだれ込む!
そこへ対する八雲藍、あまりの出来事に何も考えられなかったか、ただ身を護る為に反射的に腕を振るった!

「まそっぷ!」
「うなっ!?」

二人は吹っ飛んだ。



顔の前で両腕をクロスさせてガードしようとした矢先、ダイブした二人の顔面が勢いよく振るわれたその腕に直撃したのである。
自分の眼前であえなくノックダウンされた二人を目にした藍はしばしの間呆然としていたが、やがて我を取り戻し、

「…すまん、橙!申し訳有りません、紫様!」

矢のような勢いで障子をガラリと開け、八雲邸から外の空へと飛び出していった。
後には食べかけの朝食達と、一撃でのされた紫と橙の姿だけが残されていた。







幻想郷上空。
八雲邸を逃げ出した藍は空を力なく飛んでいた。

「危なかった…あのままだったら確実に私の何かが危なかった…」

ご自慢の尻尾をだらりとさせ、ふよふよと漂う藍は避難場所を求めていた。
恐らく今日はあそこには帰れまい。下手に帰ったらなにをされるかわからない。
ここは二人のほとぼりが冷めるまでどこかに潜伏しておくのが正しい選択肢だろう。

藍は空を舞いつつしばし考え、ひとまず博麗神社に行くことにした。




所変わって、ここは博麗神社。
神社の境内で博麗霊夢は箒を巧みに操って掃き掃除をしていた。
ざっさざっさと葉っぱをかき集めながら霊夢は縁側に座っている人物に声を掛けた。

「あんたも少しは手伝いなさいよ」
「あー?」

とんがりの魔女帽子を脇へうっちゃりながら緑茶を啜っていた魔理沙は霊夢に生返事をした。

「掃除。お茶出してるんだから、それくらいの仕事はなさい」
「今私はこのお茶の味を見極めるという大事な仕事をしているんだぜ?」
「うっさい。そんなのは私がとっくの昔に済ませてるわ」
「そうか。で、評価は?」
「イマイチ」
「同感だぜ」

イマイチなお茶を飲みつつ渋い顔をして魔理沙は応える。
霊夢は掃き掃除の手を止め、足をブラブラとさせて縁側でくつろぐ魔理沙をジト目で眺めた。

「あんたねえ、人んちのお茶を頂いておいてイマイチはないでしょう。イマイチは」
「事実だぜ。霊夢も認めてるじゃないか」
「それはそうだけど…それとこれとは話が別よ」
「めんどくさい奴だな…」
「あーあ。また霖之助さんから良いお茶っ葉でも貰ってこようかしら」
「それがいいな。このお茶っ葉はどうも…ん?」
「どうしたの?」

会話をしながら空を眺めていた魔理沙が急に話を止めたので霊夢も空を見上げた。
一見何もないように見えた。が、よくよく目を凝らしてみるとだんだんと近付いてくる物があるのが分かった。
点のようだったそれが次第に人の形へと変化していき、神社に着地する頃にはすっかりと判別がつくようになっていた。

「やあ、邪魔するよ」
「なんだ、藍じゃないか」

帽子が吹き飛ばないように片手で押さえながら藍はすとんと神社の境内に降り立った。
普段の神社ではあまり見かける事のない客人に魔理沙は声を掛ける。

「神社に来るなんて珍しいな。何かあったか?」
「ああ、少しね。霊夢、悪いがしばらく休憩させてもらっていいかな?」
「ん、いいわよ。お茶でも飲んでいけば?イマイチな味だけど」
「ありがとう」

藍は掃き掃除を再開した霊夢に礼を言って縁側に腰掛けた。




数分後、掃除を終えた霊夢と魔理沙と三人で藍は縁側でお茶を飲んでいた。

「どうせまた紫がなんかやったんでしょ?」

霊夢が戸棚からもってきた煎餅をポリポリと齧りながら藍に尋ねる。
藍はその言葉に苦笑いとともに返事をした。

「そんなところだ。ちょっと逃がれてきたところでね」
「紫のやつ、今度はなにをやったんだ?」
「なに、そこまで大きな問題じゃない。取るに足らんことだよ」
「ふ~ん」

魔理沙の疑問を藍は受け流してお茶を啜った。魔理沙もそこまで気にしてはいないようだ。
あの突如勃発した奇天烈な出来事をわざわざ彼女らに伝えるようなことでもないだろう。
自分の尻尾を狙って主人と式がトチ狂ったなどとどうして言えようか。
しかし、霊夢は彼女の曖昧な返事を良しとしなかったようで、

「なによ、気になるわね。ちょっと言ってみなさいよ」

さらに詳しく問いつめて来た。
藍はなんとか霊夢の追撃をかわそうとした。

「…別に大した事ではないから」
「大した事じゃなくてもいいわ。教えなさいよ」
「いやホント、どうでもいいことで」
「触りの部分でもいいから」
「別に君らに迷惑がかかることでは」
「教えて」

ああ、やっぱり今回もダメだったよ。藍は心の内で嘆いた。
霊夢はいつもは暢気だが、ちょっと頑固者の気がある。こうなると彼女の意志は変えられない。
霊夢の追求に観念した藍はコトの確信に触れないように慎重に言葉を選んで口を開いた。

「…天国に一番近い場所はどこか、とね。それを論じてた。それだけさ」
「なによ、それだけ?つまらないわね」
「だから大した事ではないと言ったろう」

一気に興味を失った霊夢に溜め息をつきながら藍は煎餅を口にした。
ボリボリと確かな歯ごたえが口の中に残る。こういうシンプルな菓子もたまには良いモノだ。

「天国に近い場所ねぇ。それってやっぱり冥界じゃないの?」
「霊夢もそう思うか」
「だって、それ以外にないじゃないの」
「そうだろう、そうだろう。…しかし紫様がなぁ」

藍は帽子の中に収まっている獣耳をへにょんとさせてうなだれた。
地面に落とした視線の先では、足元に落ちた煎餅のかけらをアリがよちよちと運んでいた。
藍はそれを眺めつつ、ああ、アリは偉いな、しっかり働いてて、などとどうでもいいことを考える。
言うなれば、彼女は疲れていたのだ。

「紫は何処だって?」
「…紫様はな」

だから、隣で話を聞いていた魔理沙の言葉に、つい無意識で返事をしてしまったのも仕方のない事だった。

「私の尻尾の中こそが、天国に一番近いのだと」

言ってからしばらく藍は地面にいるアリを眺め続けていた。
が、隣にいる二人がはたと黙り込んだのに気づいて顔を上げた。

「どうした、二人とも」

みると霊夢と魔理沙の二人はお茶を傍に置き、なにやら考え込んでいた。
その姿はさながら某考える人を思い出させるようであった。
それもつかの間、やがて霊夢と魔理沙はほぼ同時に声を発した。

「…なるほど」
「…やるわね」
「え?」

お茶を置いて立ち上がった霊夢と魔理沙は何かを悟ったような、清々しい表情をしていた。
そのしっかりと、いや、じっとりとした視線はある一点に集中されている。
二人の目が同じ方向に向いているのを見て、嫌な予感をひしひしと感じつつ藍もそちらを見やった。
そこには何も……いや。あった。唯一つだけ。


黄金色に輝く九本の尾。


「見ろよ霊夢。あの尻尾」
「ふつくしいわね。素晴らしいわ」
「もっふもふだぜ」
「もっふもふよね」
「お、おい二人とも?一体何を話しているんだ?」

持ち前の直感力で煎餅片手に大きく二人から距離をとった藍は既視感に襲われていた。
霊夢と魔理沙は何かよからぬ物に取り付かれてしまったかのように目を光らせ、両手をわきわきさせていた。
藍の頬にじわりと嫌な汗が滲み、ぽたりと地面に向けて落ちていった。

「天国に一番近い場所……か。紫は真理を悟ったんだな」
「流石は大妖怪ね。この私も負けを認めざるを得ないわ」
「待って、待って、話を聞いて、ねぇ!?」

この感覚は…っ!いやっ、まさか、そんなっ!
藍は自分の頭の中で鳴り響く警報を極力最小の音量に抑えつつも二人から一歩下がった。

にじり。ずさり。

一歩下がるごとに、一歩詰め寄られる。その彼我の距離は寸分の違いもなく。
そう、それはいつかと全くの同じ動きッ!!これではこの先の展開も読めるというものッ!!










「ヒャッハーーー!!もふもふだぁぁあぁ!!!」
「うーひょひょひょひょひょひょひょひょ!!!」
「ひいいいぃぃぃぃぃぃ!!!」

一斉に飛びかかって来た二人から全速力で藍は逃げ出した。
もはやこれは人間の出すような声ではない。あれは妖怪だ。もの凄くタチの悪い妖怪だ。
うひょひょひょと笑って飛びかかってくる少女がこの世にいてたまるものか!
チクショウ!今日は厄日だ!どうして私がこんな目に!私の尻尾がなんだというんだ!

藍はほぼ半泣きになりつつ、出しうる最大速度で空を飛んで博麗神社を後にした。














「はぁ……はぁ………」

神社から這々の体で命からがら逃げ出した藍は空中で一息ついていた。
まったく今日はいったいなんだっていうんだ。皆がみんなおかしくなってしまったのか。
橙も。紫様も。霊夢も。魔理沙も。そこまで私の尻尾をもふもふしたいのか!

減るもので無し、もふもふくらいさせてやれと思う者も居るだろう。
しかしそれは第三者の意見に過ぎない。そいつらは奴らのあの目を見ていないからそういう事を言えるのだ。
私の尻尾を付けねらうあの目。間違いない。あれは狩る者の目だ。あれに捕まったが最後、間違いなく大変な事になる。


「ここまでくれば流石にヤツらも…」

神社から結構な時間を全力で飛ばし、だいぶ距離を稼いだ藍は後ろを振り返り、そして戦慄した。


「逃がすかあああああああ!!!」
「もふぅぅぅうううううう!!!」
「いやああああああ!!!」

って追って来てるしぃぃぃぃぃ!?
エリア移動しても追ってくるだと!?そんなの説明書に書いてなかったぞ!!

「藍ーーー!!私だー!もふもふさせてくれーーー!!」
「ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー…」

箒にまたがって弾丸のようにこちらに飛び込んでくる魔理沙。まるで婚約者のような言い草だ。
隣で飛んでいる霊夢に至ってはもう人智を超越した呼吸音を出している。どうやってるんだそれは。
少女とは言い難い欲望丸出しの表情でこちらに突っ込んで来る二人を前にして藍は覚悟を決め、懐へ手を突っ込んだ。


──────殺らなければ、殺られるっ!!




「式輝『狐狸妖怪レーザー』ッッッ!!!」

「ひでぶっ!?」
「たわばっ!?」

ガッシ!ボカ!二人はピチュッた。ヒューマン(笑)


突如藍の放った弾幕に勢いを殺さずに突っ込んでしまった二人はあっけなく撃墜された。
ひゅるひゅると錐揉みになりながら霊夢と魔理沙は地面へ向かって真っ逆さま。
墜ちていく二人を眺め、スペルカードを放ったポーズで固まって肩で息をする藍は既に心がボロボロだ。

「もう、いやぁ……」

普段の彼女ならば絶対に出さないような弱々しい声を出しつつふらふらと宙を漂う藍。
その行き先はもう何処へ行こうとしているのか分からない。


しかし、彼女の受難はこれでは終わらなかった。







「西行寺殿。少しここで休ませて……」
「幽々子様。天国に一番近い場所ってどこでしょうか?」
「あらあら。それはね、妖夢」
「ノーーーーーーーーーーーーーッ!!!」






「お、お山の神社さん。しばらくこの辺で休憩を」
「!神奈子様、諏訪子様、見てください!」
「ヒューッ!見なよ、ヤツの尻尾を!」
「ヒャア、がまんできねぇ!もふもふだぁ!」
「にゃああああああああああああ!!!!」






「……………あの」
「さとり様ー!地上からもふもふがー!」
「よろしい。ならば捕獲《キャプチャー》だ」
「やだああああぁぁぁぁぁぁ………」






藍は安寧の地を求めて方々さまよった。
しかし行くところ行くところで藍は血迷った連中に襲撃される。
連中の狙いはただ一つ。八雲藍が持つその美しい尻尾。それをひたすらもふもふすること。
ヤツらが彼女を襲うその度に全力を振り絞ってそこから脱出して、藍は体力の限界だった。
前のめりになりながらも歩みをすすめ、もはや精も魂も尽き果てて藍は地面に倒れ伏してしまった。


ざっ。


「ひっ……!?」

そこで辺りに響き渡った足音に藍は怯えた声を上げて飛び起きた。しかし、起き上がったのは上半身だけだ。
どうにかこうにか一生懸命もがいても、自分の足は完全に言う事を聞かなくなっていた。それは疲れからか、それとも恐怖か。
逃げたい。今すぐここから逃げたい。でももう逃げる体力がない。気力がない。万策尽きたとはこの状態だった。
しかも今の彼女にとって何より最悪の事態と言えたのは、その足音の主だった。

「あら…?何をそんなに怯えているの?藍……」
「ゆっゆっ紫、様……」

八雲紫復活ッ!八雲復活ッ!八雲紫復活ッ!
地面で力つきていた藍に声を掛けたのはまさしく今回の事件の発端になった八雲紫その人。
自分の式に一撃でノックアウトされたはずの大妖怪は今、自分の足で大地を踏みしめて立っていた。

「そんなに怖がらなくてもいいじゃない。ねえ、橙?」
「はい、紫様」
「ちぇ、橙……!?」

橙復活ッ!橙復活ッ!橙復活ッ!
おののく藍を挟んで紫とは反対側から、事件の発端その2の橙がぬるりと現れた。
動きたい。動けない。蛇に睨まれたカエル、否、猫に睨まれたキツネ。
自分の前後からじりじりと寄ってくる二人の気配を敏感に察知するも、藍はそこから一歩たりとも動く事叶わない。

「さあ、今こそ!」
「天国への扉を開くとき!」
「待って、待って、話を聞いて!話せば分かる!リッスンミー!」

邪悪な笑みを浮かべて両手をわきわきさせる紫と橙。
目に大粒の涙を浮かべて藍は必死に二人に訴えるも、到底彼女達には届かなかった。
彼女らの交わした言葉はまさにノッキン・オン・ヘブンズドァ。天国への合図だったのだから。


「いざ、尋常にッ!!」
「ダイナミック☆いただきます!」

その言葉を最後に、八雲紫と橙の二人は目の前の獲物に飛びかかっていった。
二人のフォームはかの怪盗も舌を巻くほどのそれはそれは美しいダイブであった。
そして、二人の標的となってしまった哀れな式神の運命は、もう語らずともお分かりであろう。



「ひ、や、やだ、だめっ、あっ、そ、そこはっ、ら、らめっ、らめぇぇぇぇぇえええ!!!」







爽やかな幻想郷の空に、一人の少女の悲鳴とも嬌声ともつかぬ声が響き渡った。
















その後、八雲藍のもふもふ尻尾は幻想郷に一大センセーションを巻き起こした。
上は天界、下は地底まで様々なところからもふもふ尻尾を求めて八雲邸に人が押し寄せた。
あまりの人の多さに、商売の気配を感じ取った藍の主人である八雲紫はこれに料金をつけることにした。

曰く、1もふ100円だそうだ。
しかしこのお値段設定にもかかわらず人波は絶える事なく八雲邸に訪れた。
中には一人で500もふもしていった豪傑もいたらしい。この臨時収入に八雲紫はほくほく顔だ。

心ゆくまで思う存分にもふもふしていったお客は接客係である橙に代金を支払って帰っていく。
客の途切れた合間には紫と橙の二人もしっかりもっふもふのふっかふかであるとのことだ。
八雲邸には金が入り、お客は精神をすっかり満たされて満足している。
この八雲家のもふもふサービスに不満を持つ人物は幻想郷には一人としていないということは、純然たる事実であった。







ただ一人の被害者を除いて、の話だが。


「うぅ……もうお嫁に行けない………くすん」
らんしゃまのしっぽもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ
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コメント



0.1930簡易評価
8.80奇声を発する程度の能力削除
10もふ程お願いします
10.80名前が無い程度の能力削除
とりあえず給料から家賃引いた分で
11.100白銀狼削除
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ
16.100名前が正体不明である程度の能力削除
まさにお値段以上!
22.100名前が無い程度の能力削除
こういうノリは好物(笑)
今のうちにもみじもみもみしてきます
26.100名前が無い程度の能力削除
20もふぐらいなら金銭的にもいけるか
35.100名前が無い程度の能力削除
けしからん‼実にけしからん‼らんしゃまの尻尾は俺のもんじゃああああ‼
38.100名前が無い程度の能力削除
ふん、どいつもこいつも欲望に走りよる。よろしい、傷心の藍様は私がなでなでしながら慰めて差し上げよう。
(そして、藍様の許可を得て尻尾をもふもふするのだ!)
41.100名前が無い程度の能力削除
もふもふもふもふもふもふ)ry
44.100名前が無い程度の能力削除
狂気
45.90名前が無い程度の能力削除
らんしゃまもっふもっふ。いいなぁ
52.100母止津和太良世削除
1000もふもふからフリータイムになりませんかね?

誤字報告をば
>「触りの部分でもいいから」
さわりは物語の中心となる部分を指すので少し違うかな、と