Coolier - 新生・東方創想話

らんにっき

2012/02/02 04:36:57
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*諸所で今風の言葉が使われているが、これはその時代の言葉を今風に翻訳したものだと思われたし。




────遥か昔────




一日目

私、八雲紫は今日から日記をつけようと思う。
理由はなんとなく。
人間の文明レベルは相変わらず低く、いじり甲斐もなし。
要するに退屈なのだ。
こうやって定期的に日々あったことを書いておくと、数百年、数千年後に酒の肴くらいにはなるだろう(漬物のごとく)。
定期と言っても人間は時間の計算すらロクにできていないので、私が独自に作った太陽暦というものを使用する。
将来この日記と時間の概念がずれて計算することになるのも面倒なので、そのうち人間にもこっそり太陽暦を使わせるよう仕向けようと思う。
さて、今日はこのくらいで就寝することとしよう。
明日こそは面白いことのありますように。

二日目

日記二日目にして書くことがなくなってしまった。
仕方がない。
特に大した事ないのだから……
今日食べた夕飯のことでも書こうかしら。
ええと、今日は……20前半くらいの雄を食べたわね、筋っぽくて味はいまいちだったけど。
明日こそは面白いことのありますように。

三日後

常日頃から思うことだが、人間というものは面白い。
果てしなく愚かだが、必死なので時には応援もしたくなる。
それでいて空腹も満たしてくれるのだから、一石二鳥の存在だ。

今日覗いていた雄と雌は、赤ん坊がどうのこうの話をしていた。
人間は非効率的な繁殖方法を以て、非効率的な幼生を生産する。
何故このような生物が増えているのか甚だ疑問でり、私の興味は尽きることを知らない。
とはいえ、さすがに人間の生活を覗くのにも飽き飽きしていているのも事実。
どこの個体を覗いてみても、大なり小なり本質的には同じである。

……明日こそは面白いことのありますように。

四日後

今日は何もなかった。
もちろん厳密に言えば何もないわけではないけれど、所詮同じことの繰り返し。
そろそろこの日記も飽きてきた。


十二日後

明日こそは面白いことのありますように。


















九十九日目

すっかり忘れていたけれど、日記をつけていたのを思い出したので再開しようと思う。日付はたぶんあっているだろう。
今日は本当に色々なことがあった。
珍しく早起きをした夕暮れ時、暇つぶしに人の里を見ていると、人間の退魔師らしき集団が妖怪退治をしていた。
腕の良い者達が集まっていたようで、そんじょそこらの妖怪では太刀打ちできないほどの腕はあっただろう。
だが、今宵の妖怪は相手が悪かった。

────九尾の狐────

人の間では伝説級の妖獣である。
藪にいる蛇をつついてしまった人間達は哀れ、一人また一人と倒れていく。
だがこの妖狐、どこか慢心している節があった、そこをつかれた。
最後まで残っていた退魔師の人間(恐らく首領格)が死に間際に深手を与えたのだ。
致命傷を受けた妖狐は暫く足を引きずっていたものの、とうとう動かなくなってしまった。

その妖狐が今、私の横にある。
ちょうど暇をしていたので、これで色々遊ぼうと思う。
そう思うとなかなかと楽しくなってきた。
さて、そろそろ死にそうになっているので日記はここまで、さっきから殺気を飛ばしてきて少し鬱陶しい。

百日目

記念すべき日記百日目。
百回どころかまだ十回も書いていないのだけれど……
記念と言えば、今日はあの子の誕生日でもある。
私が思っていたよりあの妖狐は重症だった。
どうやら呪術の施された剣で刺されたらしく、普通の治療では治りそうもなかった。
傷を治せないならば、単純に生命力を伸ばすしかない。
私はあの妖狐を式神として使役することにした(ちょうど雑用が欲しかったし)。
さすがに力の強い妖怪だけあって術式に時間がかかったが、成功しただろう。
いまは式神をインストールしているので、明日の朝頃には完成するはずである。
ああ、眠い。
汚い妖狐なんて拾ってきて構ったもんだからひどく疲れた。
おやすみなさい。

百一日目

寝不足である。
それもそのはず、私は妖怪、人間とは違う。
だから朝寝て昼寝て夜起きるのだ。
昨日はたまたま式神の作業で時間を使ったので夜が回ってしまい、今日は一日中寝るつもりだったのに……
起こされた、あの子に。
頭の痛いことに、式神は失敗だった。
いや、式神化自体は成功だからある意味成功なのだろうか。
とにかく、私の思ってたのと違う。
容貌はまるで人間の幼子のようで、知能も甚だ低い。
どうやらギリギリまで死にかけるのを待ったのが不味かったらしく、式神化の変化に耐えられず、突然変異的なものを起こしたのではないかと推測している。
捨ててしまおうかとも思ったが、仮にも伝説級の妖怪をこんな姿にして捨て置いたのではさすがに可哀想であるし、少ーしくらいは敬意を払うべきだと思った。
とりあえず、眠いので寝る。

百二日目

妖狐は昨日きつく言っておいたので私を起こすようなことはしなくなった。
……そして私が起きるまでずっと横に座っていた。
命令を出すのを忘れていたからだろう、式神だから命令しないと動かないのだ、不便である。
それと、いつまでも妖狐々々では不便なので、名前を付けることにした。
暫く悩んだ結果、藍という名前にした。そして私の名前も教えた。
「私の事は紫様と呼ぶように」
と教えたら
「はい紫しゃま!!」
と言っていた。
この舌足らずな話し方も問題だ……
これから教育していかねば。
頭が痛い。

百三日目

藍の教育プログラムを組むのに今日一日を使ってしまった。
物凄く面倒くさいが、自分が楽をするためだ、仕方ない。
この八雲紫、楽をするためにはどんな苦労も厭わないのである。
組んでいる間、藍が何かしたいと言ってきたので本を読ましておいた。
全て私がその昔、戯れに書いた本だが、高度な知識をつけるためには人間の書いたものなど読ませるわけにもいかない。
だがさすがに難しすぎたのか、本とにらめっこしたままウーウー唸っていた。
さて、プログラムのインストールは明日からするとして、今日はもう寝てしまおう。
藍には適当な所で寝ておくように言っておいた。

百四日目

どうやら"適当"がどれくらいかわかってなかったようだ。
私が16時間ほど寝て起きた頃にまだ本を読んでいた。
尻尾がピョコピョコ動いていたので機嫌が良いのはわかった。
そして驚くべきことに、読めるのかと聞いてみると読めると返してきた。
もちろん式神だから私に嘘をつくことなどしないが、誤作動を起こしている可能性もあるので一応簡単に理解度をテストする。
その結果、完璧とまではいかないでも7割方理解していることがわかった。
どうやら藍は、知能こそ低いものの、学習能力が非常に高いらしい。
私はこれに一つの仮説を立てた。
彼女は元々聡く、知恵もあったのだが今回のそれでそれがほとんど消え去って……厳密には忘却されてしまった。
が、その膨大な知恵の欠片は残っており、学習することによりそれらが再構築される、そしてその速度は式神としてパワーアップしている分二次関数的に飛躍しているのだと。
これは僥倖だ。
これならば彼女の本来の持っている知能まで戻すのにそう時間もかからないだろうし、それ以上も容易に狙えるだろう。
そして何より、私の都合の良いように刷りこむことができる。 それも迅速に。
なかなか理想的だ。どうやら私はいい拾い物をしたらしい。
藍のアップデートも済ましたし、これから楽しみである。









百八日目

藍の成長速度には目を見張るものがある。
ここ数日、忙しくて日記も書けなかった。
なんせ起きていても寝ていても紫しゃま紫しゃまと煩いのである。やれここを教えて欲しいだのやれここはこうではないのかと。
最初のうちは私も付きっ切りで教えていたのだが、そろそろ面倒になってきた。
というか眠い。寝たい。
そこで勉強のほうは一旦打ち切りにし、炊事や洗濯などの雑用を覚えるように命令した。
本人からしたらもっと学びたいこともあっただろうが、命じるとすぐに「はい、わかりました!」、とやる気に溢れていた。
なかなか可愛らしいものである。

百九日目

夜、"朝食"を食べようと起きた私の鼻腔に焦げ臭い香りが飛び込んできた。
おおかた魚でも焦がしたかと台所に向かうと、台所が焼け落ちて無くなっていた。
藍はというと、涙目でおろおろと走り回ってはそのたびに尻尾に火が引火して転げまわっている。
とりあえず面白いのでしばらく眺めておいた後、境界を弄って全て元に戻しておいた。

百十日目

藍、私は確かにお米を洗ってと命令したけど石鹸で洗ってはダメよ……

百十一日目

藍、私は確かに雑巾をかけておいてと言ったけ物干しにかけるのじゃないのよ……

百十二日目

藍……

百十三日目

とりあえず家事は置いておいて、学習に力を入れるとしよう。
そう思い、私は今日から藍にまたマンツーマンで授業をすることにした。
今日は外の世界を教える為に、人間の村の近くまで行った。
遠目にだが人間を初めてみた藍は、面白いほどにはしゃいでいた。
彼女としては初めてではないのだが、藍としては初めての外の世界……
そこまで考えて、私はふと、思った。
いつか藍が全てを思い出した時、私のことをどう思うのだろうか。
きっと私のことを怒るだろう、逃げ出すかもしれない。 当然だ、これだけ好き勝手したのだ。
悲しくもなんともないが、せっかく雑用として育てているのだから、いなくなるのは、困る。

百十四日目

私達妖怪は人を襲うものであり、人を襲わないものは妖怪ではない。
いわば襲うことが妖怪としての存在意義であり、使命であり、義務とも言える。
私は今日も人をさらい、食べた。
同じことを藍にさせ、食べさせた。
その後あたりから、どうも藍の様子がおかしい。

まあ、昔の記憶がないのだからある程度こうなることはわかっていた。
しかしあの子も妖怪、明日にもなれば元に戻るだろう。

百十五日目

昨日の私は愚かだったのかもしれない。
藍が、いつも笑顔で私の命令に従っていたのに、今日に限って気分が悪いから休ませてくれと言ってきた。
こんなことは初めてだ。
理由は明らかだが、何故こうなったのかがわからない。
人間が動物を可哀想だとか思う、そういった陳腐なものではないのだ。
妖怪がヒトを襲いたいと思うのは、ハチがミツを取ってきたり、クモが巣を張ったりするのと同じである。
やめられるものではない、やめようとも思わない。
彼女はもう、既に妖怪ではないのか、それとも、やはり式神になったことによる副作用がそうさせているのか……

百十六日目

夜、私が目を覚ますと良い匂いが漂ってきた。
居間に行くと、そこには既に朝食ができている。
そして藍は私にこう言った。
「は~いた~んと食べてくださいね~、ごはん重くしてありますよ~」
意味がわからなかったけれど味噌汁はおいしかった。



百二十日目

どうやら私の心配は杞憂に終わったようで、あれから藍はいつも通りだ。
いや、むしろ以前より甲斐甲斐しく働くようになった。
今や炊事も洗濯も完璧にこなす、一家に一台に欲しい逸品と言っても過言ではない。
妖怪は基本的に人間を食べるが、実は食べなくても生きてはいける。
時折食べたいという衝動が起きるのだが、その周期は種によってマチマチである(別に食べたくなくても食べられるけど)。
私の場合、食べたくない時は人間の食べているような食事をする。
他の下級妖怪ならともかく、私ほどになると別に食事をしなくても生きていけるのだが……
まぁ、しいて言うならなんとなくである。
時間のけじめがつくし。 人間をいじる時に人間の生活を知っておいたほうがやりやすいのだ。
ただ、それだけ。

百二十一日目

今日、藍に「いつか、あなたも一人前になれば八雲の姓を授けましょう」と言ったところ、大層喜んでいた。
「絶対、絶対約束ですよ紫しゃま!」と目をキラキラさせていた、可愛い。



百二十五日目

大変だ。

百二十六日目

なんとか落ち着いてきたので、日記でも書いて落ち着こうと思う。
藍が風邪を引いてしまい、大変だった。
つきっきりで看病するつもりだったのに、いつの間にか寝てしまい、起きたのは藍が台所で包丁を振るっている時だった。
急いで藍を再び寝かしつけ、おかゆを作ってやった。
後で自分で食べたからわかったのだが、ひどく不味かった。
藍が美味しい美味しいと食べてくれていたのが嬉しくもあり、泣きたくもなった。

百二十七日目

なんとか藍の熱も引いたようで、一安心。
私と違い、藍はまだ食事から栄養をとったほうが効率がいい。
今日は人間の村から拝借した料理を振る舞った。
私は藍のためと思い、藍も喜んでくれると思ったのに……
藍はこれをどこから持ってきたのかと聞き、私が答えるとそんなことをしては駄目だと言ってきた。
反抗期だろうか。

百二十八日目

藍の提案でマヨヒガの庭に畑を作ることに。
まあ、いくらでも土地はあるからいいのだけれど……
これからの妖怪は自給自足だとかよくわからないことを言っていた。
しかし可愛い式神の言うことだ、好きにやらせてみよう。
じゃあ今日の御飯は私が作るわと言ったところ、私がやりますからと聞かなかった。
反抗期だろうか。

百二十九日目

ようやく土地がならし終わった頃、休憩がてら藍と式神について話した。
最初はその構造や術式など堅苦しい話だったが、藍の興味は次第に式神の使役に移っていった。
自分にも式神は扱えるのかと聞いてきたので、可能である、と言っておいた。
今のままでは到底無理だろうが、後十数年もすれば立派な妖狐として自立できることだろう。
そこまで話したところで、藍は「じゃあじゃあ、私はですね、えっとですね……猫! 猫がいいです!」と言い出した。
猫の式神……猫の妖怪と言えば化け猫やネコマタだが、あまり賢い種族とは言えない。
やはり式神として使役するならば、もっと高位な……例えばぬらりひょんなんてどうだと言った所、絶対に嫌だと言っていた。
反抗期だろうか。

百三十日目

反抗期ね、反抗期。
全く持って反抗期。



百三十三日目

藍と仲直りした。
今日はとても気分がいい。
紫しゃま大好きとか世界で一番好きですとかにゅふふふふふ。
はぁ……尻尾もふもふ……もふもふ……。

百三十四日目

藍が可愛い。
もはや日記などつけている場合ではない。
何があっても藍は私の物だ。
私から奪うものがあれば、全力で阻止する。
それをここに誓おう。

百三十五日目

今日も藍は可愛い。

百三十六日目









「紫様」

「ん?」

「いい加減その変なの書くのやめてください」

「あら、いいじゃない、減るものじゃなし……それに変な物じゃないわ、"らんにっき"よ!」

「やめてください」

「私と藍が出会ってからの甘々な日々を描く長編ストーリー、涙あり笑いありの感動大作!」

「やめてください」

「今回はゆかりんヤンデレモードでやっていこうかと……でね、時代設定は大体今から1600年くらい前でね」

「そもそも私にそんな時期ありませんでしたし……」

「はぁ、全く……ノリが悪いわねぇ」



夜明け、マヨヒガでの雑務に区切りがつき、そろそろ仮眠を取るかと藍が床に向かっている途中、いつもは寝ている時間であるはずの主人の部屋から明かりが漏れているのを見つけた。
どうせロクなことをしていないのだろうと思っていたら、案の定ロクなことをしていなかった。
とはいえ仮にも自分の主人だし、無理に止めるほど害があるわけでもない。
これ以上構ったところで仕様もないので、彼女は主人を見放した。

「それでは、私は仮眠してきますので……ほどほどに」

「はいはーい、お疲れ様ー」

机に向かったまま左手をピラピラさせて見送る紫を背に、一つため息をついてから、藍は部屋を後にした。

「…………じゃ、続き続きっと」

紫は出していたノートをスキマに戻し、それとはまた別のノートを取り出す。
















五十八万三千六日目

あれから数年になるが、経過は順調、安定しているようだ。
あの異変の時、藍の魂がアレに反応した時は心底肝が冷えた。
もし何かの拍子に藍が昔の記憶を取り戻したらと思うと、私は朝も夜も眠れなかった。
今更昔のことをと笑ってくれるだろうか? 長い間よくも騙していたなと怒るだろうか?
どちらにせよ、私は怖かった。
取り返しのつかないこと故、ずっと最後の手段としてきたが、結局、私は藍の記憶をいじることにした。
出会ってからの数十年の記憶は完全にデリート。
藍には私との関係はただの式神と主人、それ以上でもそれ以下でもないと無意識に思わせるようにする。
そしてそう思うことにも不思議だと思わせない……
これで藍は、あくまで"紫の式神"であり、昔のことを思い出そうとすることも無意識にしなくなる。
八雲藍は八雲紫の使役する式神であり、九尾の狐、それ以上でもそれ以下でもないし、誰も昔を知ることもない。
いや、知ろうとする者は私が許さない。

そう、許さないのだ……
?????日目

藍 愛してるわ
ハリー
http://kakinotanesyottogan.blog66.fc2.com/
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
愛している事には違いないですね
8.100名前が正体不明である程度の能力削除
重い愛だね。
10.100名前が無い程度の能力削除
最後どういう事なの!?ちょっと調べてくr・・・おっと、誰か来たようだ
12.70名前が無い程度の能力削除
ヤンデレ設定ではなくガチだったと
紫様は本当に頭の良いお方……
14.80名前が無い程度の能力削除
そして、橙がその触れてはいけない謎に挑む!という続編作ってください。お願いします。
20.100名前が無い程度の能力削除
私の嫁にそんな過去が……え?そもそも嫁に出した覚えは無い?あはは、冗談はよしt(その後、彼の姿を見た者はいない