「妖夢、外の世界のお料理を作って頂戴」
――全ては、その一言から始まった。
私、魂魄妖夢は、冥界の白玉楼で庭師だとか剣の指南役をしている。
主である幽々子様と私以外は基本的に霊体である為に、必然的に家事も私の仕事と言うことになる。普段ならそれで何の問題も無くこなせているけれど、今回は少し事情が違った。
「外のお料理かあ……どうしよう」
ここ幻想郷は、さる妖怪が言うには外の世界と常識を隔てており、外の世界で行き場を無くしたようなものが入ってくる。
外の料理は外の世界でしか作れない。そういった"常識"である以上は、非常識な要求なのだ。あ、今ちょっとかっこよかった。
「とはいえ、できませんでしたって言ったら、あとが怖いしなあ……。そうだ、幻想郷にだって、外の世界を知ってる人ならいますね」
こうして私の戦いが始まった。
「私に作れぬものなど、あんまりない!」
思いたったが吉日、というよりは晩御飯の時間までそれほど時間はないわけで、調理の手間を考えると、日が落ちるまでが献立と食材探しの時間。私は急いで守矢神社へと向かった。
「あ、妖夢さん。珍しいですね、ここに来るなんて」
「少し、貴女に伺いたい事がありまして」
この守矢の巫女は、近年になって外の世界から幻想郷へと来た人物だ。若いし、そこはかとなく家庭的な雰囲気も漂わせてる。頼れそうだと思ったのだ。
「外の世界の料理を作ることになったのですが、なにぶんどんな料理があるのかも知らないので貴女にと」
「おおー、外の世界の料理を!それは素晴らしいですよ妖夢さん!でもそうですねえ、何がいいでしょう」
言うなり、顎に手を当て考え始めた。見た目からでは普通の少女のそれしか感じ取れないが、神格者なのだ。あなどるな私。
「やっぱりカレーですかねえ」
「かれえ?」
「はい。野菜やお肉をたくさんの香辛料で味付けしたものです。それを白米やパンにかけて食べるんですよ」
香辛料というと、わさびやからしのことでしょうが、ううむ。
「あ、そうか、ここでは外といったら日本なんでしたね。ええと、香辛料にも色々あるんです」
――少女学習中
「なるほど、わかりました。確かにおいしそうです」
「そうでしょうそうでしょう! 大好きなんですよー。香辛料はわけてあげたいんですけど、持ち込んだ分は使っちゃって、てへへ……。栽培すればよかったですね」
そもそも幻想郷の土壌で育つのかとも思いますが、無い物は仕方ないですね
「そこまでして頂く訳にはいきません。ありがとうございました。完成したらおすそ分けに来ます」
これで献立は決まりました。あとは残りの食材です。野菜は里で買うとして、最近品薄がちなお肉が問題ですね……。香辛料は知りません。
かれえ、という料理を作ることにはしましたが、香辛料というのが厄介です。話を聞いただけの為に詳細が不明というのが痛いです。
そんなこんなでこれからどうしようと途方に暮れていると、いつの間にか魔法の森付近まで来ていました。
「おーい、妖夢じゃないか。ぼーっと歩いてどうした?」
霧雨魔理沙登場です。何かに巻き込まれそうな気がしてめんどくさい。斬ってやりましょうか。
「なんでもありません。邪魔しないでください」
「まーそういうなよ。当ててやろうか。かれーっていう料理の食材探してるんだろ」
「……何故それを」
いつかそういう日が来るのではないかと思っていましたが、とうとう妖怪と化してあやしげな能力を手に入れたのでしょうか。もしそうならけしからぬ事です。斬っておきましょうか。
「そんな怖い目で見るなよ……。守矢神社に盗みに入ろうとしたら、たまたま会話が耳に入ったからおもしろそうだと思って聞いて、そしてたまたま帰り道が一緒だっただけだよ」
「貴女は言葉と行動を正すべきです」
最後の部分は本当だろうけど。
「そんなどっかの閻魔みたいな事いってないでさ。こうしんりょーって奴なら、当てがなくもないぜ?」
嘘くさい、と一蹴しようかと思いましたが、魔法の森に住む彼女。なら頼りにできそうな……あ、そうか。
「貴女に頼るくらいなら、同じ魔法の森にすむ魔法使いでもアリスさんの方でしょう。それがいいそうします」
なにせ元人間のアリスさん。今目の前にいる少女も人間ですが、私はうさんくさい人間と頼れそうな元人間なら後者を選びます。霧雨魔理沙という少女に料理の言葉は似合いそうにありません。アリスさんならその点……まあ、うん。
「待て待て、お前は勘違いをしている。魔法とはすなわち、料理なんだよ!」
うるさいのに捕まりました。斬っておけばよかったかな……。
「あたしほど、魔法の森の草花に詳しい奴もいない。なにせそういったものから魔法を作ってるからな。そいつらで料理すればきっとうまいもんができるさ!」
何の根拠もありません。
しかし、幻想郷にない食材を取ろうとすると、魔法の森は避けては通れないように思います。この森で採れる茸や草木などは選別が難しく、それができる者というと……。
背に腹はかえられません。時間もないし。
「わかりました、では目利きをお願いします」
「素直なことは美しきかな、だな。ああ、それとな」
まだ何か、と振り返ると、
「昔に母親から聞いた覚えがあるんだが、料理ってやつは最後にコツがあるんだと」
……親、か。恐らくその言葉は彼女にとって重たいものでしょうが、あまり感じいることができない私は、やはり人外なのでしょうか。
しばらくお互いに何も話せないでいると、
「ああ、そういうことを言いたいんじゃないんだよ。最後に愛を込めるんだ。人間の料理は大体そうらしいぜ」
「……あい? というか私も半分は人間なんですが。貴女も」
ふざけて場を和ましてくれた事に感謝しなくてはいけません。それにしてもあい、とはどんな意味の言葉だったか思い出せないでいましたが、覚えておかねばならないでしょう。
とりあえず香辛料になりそうな食材を頂く事が出来ました。野菜は白玉楼にも少し残っていますから、あとはお肉です。
――最後はお肉です。これはそう難しい話ではありません。
幻想郷で人気の高い食材の一つに兎肉があります。貴重な食材ですが、探せば見つかります。時間がないので素早くひっ捕えて観念してもらいました。
そんなこんなで、日が落ちた辺りで白玉楼に戻ってこれた私は、早速調理に入りろうと厨房へ。
「あら妖夢、もう戻ってこれたのね。無理を言ったかしらと……ってあなた、まさか……」
「幽々子様、完成まで少々お待ち下さい」
何か言いたそうだが無視です。ここからがお料理の本番なのです。
まずお鍋にお神水を入れて……えーと、香辛料になりそうな、茸とか草を入れて……。お肉は生でもおいしくて……。野菜は最後に入れるんでしたよね。いや、最後は確か"あい"だったような。
「あい……あい……」
思い出せません。人間にとって大切なものだったはず。あれー。長年幽霊や亡霊。特に幽々子様と接してきたせいで、やはり私は人間味が薄れてきているようです。これは幽々しき問題。なんちゃって。と、その時、
「こんばんは。紫さまのお使いで来ました。……なんですか、この臭いは」
「幽々子様のお友達らしい八雲紫という妖怪の式、八雲藍である。この臭いとはなんだ。それより何かひっかかる。冷静に整理してみよう。
私は幽々子様から"かれえ"を作るように言われた。早苗さんからどんな料理であるかの簡単な部分と調理の仕方をついでに教わった。人間の魔法使いに香辛料をわけてもらった。料理のコツも教わった。それは何だったか。
「最後にあいをこめろ」
あい。なんだったかは忘れたので代用品を使うしかありません。今目の前にいるのは、八雲藍。藍の字は、あいとも読めます。あい。あいをこめて混ぜろ。
「御覚悟ー!!」
「ひえええ!!」
「さ、幽々子様、かれえが出来ましたよ」
最後のあいは難題でしたが無事解決。これで幽々子様のお腹も満たされます。
「ささ、どうぞ」
「あ、あの、妖夢……」
「どうぞ」
何を遠慮しているんでしょうか。もしかしてつまみ食いでもしたのでしょうか。それはいけません。たまには怒っておかないと。
「あんまりわがままだと、たまには私も怒りますよ?」
「た、食べます!」
幽々子様が、かれえに手をつける。
今回のわがままはてこずりましたが、無事に解決です。
翌日。
式が戻ってこないことを受けて、八雲紫は、博麗の巫女と主に白玉楼へと赴いた。藍が言いつけを果たせぬことなど、前代未聞だからだ。
「は~、なんで私がこんなめんどくさい。……ってうわなにこの臭い!」
「……いったいなにが……幽々子!妖夢!藍!出てらっしゃい!」
中へと押し入った二人が見つけたのは、壮絶にお腹を壊した幽々子と妖夢、そして何故か頭を見せようとしない藍であった。
『みょんなかれえ 使用食材』
化け物茸
名前も不明な草花達
わさび からし
兎の生肉
賞味期限切れの野菜
"あい"の髪の毛
などなど。
誰が一番罪深いのか。
――全ては、その一言から始まった。
私、魂魄妖夢は、冥界の白玉楼で庭師だとか剣の指南役をしている。
主である幽々子様と私以外は基本的に霊体である為に、必然的に家事も私の仕事と言うことになる。普段ならそれで何の問題も無くこなせているけれど、今回は少し事情が違った。
「外のお料理かあ……どうしよう」
ここ幻想郷は、さる妖怪が言うには外の世界と常識を隔てており、外の世界で行き場を無くしたようなものが入ってくる。
外の料理は外の世界でしか作れない。そういった"常識"である以上は、非常識な要求なのだ。あ、今ちょっとかっこよかった。
「とはいえ、できませんでしたって言ったら、あとが怖いしなあ……。そうだ、幻想郷にだって、外の世界を知ってる人ならいますね」
こうして私の戦いが始まった。
「私に作れぬものなど、あんまりない!」
思いたったが吉日、というよりは晩御飯の時間までそれほど時間はないわけで、調理の手間を考えると、日が落ちるまでが献立と食材探しの時間。私は急いで守矢神社へと向かった。
「あ、妖夢さん。珍しいですね、ここに来るなんて」
「少し、貴女に伺いたい事がありまして」
この守矢の巫女は、近年になって外の世界から幻想郷へと来た人物だ。若いし、そこはかとなく家庭的な雰囲気も漂わせてる。頼れそうだと思ったのだ。
「外の世界の料理を作ることになったのですが、なにぶんどんな料理があるのかも知らないので貴女にと」
「おおー、外の世界の料理を!それは素晴らしいですよ妖夢さん!でもそうですねえ、何がいいでしょう」
言うなり、顎に手を当て考え始めた。見た目からでは普通の少女のそれしか感じ取れないが、神格者なのだ。あなどるな私。
「やっぱりカレーですかねえ」
「かれえ?」
「はい。野菜やお肉をたくさんの香辛料で味付けしたものです。それを白米やパンにかけて食べるんですよ」
香辛料というと、わさびやからしのことでしょうが、ううむ。
「あ、そうか、ここでは外といったら日本なんでしたね。ええと、香辛料にも色々あるんです」
――少女学習中
「なるほど、わかりました。確かにおいしそうです」
「そうでしょうそうでしょう! 大好きなんですよー。香辛料はわけてあげたいんですけど、持ち込んだ分は使っちゃって、てへへ……。栽培すればよかったですね」
そもそも幻想郷の土壌で育つのかとも思いますが、無い物は仕方ないですね
「そこまでして頂く訳にはいきません。ありがとうございました。完成したらおすそ分けに来ます」
これで献立は決まりました。あとは残りの食材です。野菜は里で買うとして、最近品薄がちなお肉が問題ですね……。香辛料は知りません。
かれえ、という料理を作ることにはしましたが、香辛料というのが厄介です。話を聞いただけの為に詳細が不明というのが痛いです。
そんなこんなでこれからどうしようと途方に暮れていると、いつの間にか魔法の森付近まで来ていました。
「おーい、妖夢じゃないか。ぼーっと歩いてどうした?」
霧雨魔理沙登場です。何かに巻き込まれそうな気がしてめんどくさい。斬ってやりましょうか。
「なんでもありません。邪魔しないでください」
「まーそういうなよ。当ててやろうか。かれーっていう料理の食材探してるんだろ」
「……何故それを」
いつかそういう日が来るのではないかと思っていましたが、とうとう妖怪と化してあやしげな能力を手に入れたのでしょうか。もしそうならけしからぬ事です。斬っておきましょうか。
「そんな怖い目で見るなよ……。守矢神社に盗みに入ろうとしたら、たまたま会話が耳に入ったからおもしろそうだと思って聞いて、そしてたまたま帰り道が一緒だっただけだよ」
「貴女は言葉と行動を正すべきです」
最後の部分は本当だろうけど。
「そんなどっかの閻魔みたいな事いってないでさ。こうしんりょーって奴なら、当てがなくもないぜ?」
嘘くさい、と一蹴しようかと思いましたが、魔法の森に住む彼女。なら頼りにできそうな……あ、そうか。
「貴女に頼るくらいなら、同じ魔法の森にすむ魔法使いでもアリスさんの方でしょう。それがいいそうします」
なにせ元人間のアリスさん。今目の前にいる少女も人間ですが、私はうさんくさい人間と頼れそうな元人間なら後者を選びます。霧雨魔理沙という少女に料理の言葉は似合いそうにありません。アリスさんならその点……まあ、うん。
「待て待て、お前は勘違いをしている。魔法とはすなわち、料理なんだよ!」
うるさいのに捕まりました。斬っておけばよかったかな……。
「あたしほど、魔法の森の草花に詳しい奴もいない。なにせそういったものから魔法を作ってるからな。そいつらで料理すればきっとうまいもんができるさ!」
何の根拠もありません。
しかし、幻想郷にない食材を取ろうとすると、魔法の森は避けては通れないように思います。この森で採れる茸や草木などは選別が難しく、それができる者というと……。
背に腹はかえられません。時間もないし。
「わかりました、では目利きをお願いします」
「素直なことは美しきかな、だな。ああ、それとな」
まだ何か、と振り返ると、
「昔に母親から聞いた覚えがあるんだが、料理ってやつは最後にコツがあるんだと」
……親、か。恐らくその言葉は彼女にとって重たいものでしょうが、あまり感じいることができない私は、やはり人外なのでしょうか。
しばらくお互いに何も話せないでいると、
「ああ、そういうことを言いたいんじゃないんだよ。最後に愛を込めるんだ。人間の料理は大体そうらしいぜ」
「……あい? というか私も半分は人間なんですが。貴女も」
ふざけて場を和ましてくれた事に感謝しなくてはいけません。それにしてもあい、とはどんな意味の言葉だったか思い出せないでいましたが、覚えておかねばならないでしょう。
とりあえず香辛料になりそうな食材を頂く事が出来ました。野菜は白玉楼にも少し残っていますから、あとはお肉です。
――最後はお肉です。これはそう難しい話ではありません。
幻想郷で人気の高い食材の一つに兎肉があります。貴重な食材ですが、探せば見つかります。時間がないので素早くひっ捕えて観念してもらいました。
そんなこんなで、日が落ちた辺りで白玉楼に戻ってこれた私は、早速調理に入りろうと厨房へ。
「あら妖夢、もう戻ってこれたのね。無理を言ったかしらと……ってあなた、まさか……」
「幽々子様、完成まで少々お待ち下さい」
何か言いたそうだが無視です。ここからがお料理の本番なのです。
まずお鍋にお神水を入れて……えーと、香辛料になりそうな、茸とか草を入れて……。お肉は生でもおいしくて……。野菜は最後に入れるんでしたよね。いや、最後は確か"あい"だったような。
「あい……あい……」
思い出せません。人間にとって大切なものだったはず。あれー。長年幽霊や亡霊。特に幽々子様と接してきたせいで、やはり私は人間味が薄れてきているようです。これは幽々しき問題。なんちゃって。と、その時、
「こんばんは。紫さまのお使いで来ました。……なんですか、この臭いは」
「幽々子様のお友達らしい八雲紫という妖怪の式、八雲藍である。この臭いとはなんだ。それより何かひっかかる。冷静に整理してみよう。
私は幽々子様から"かれえ"を作るように言われた。早苗さんからどんな料理であるかの簡単な部分と調理の仕方をついでに教わった。人間の魔法使いに香辛料をわけてもらった。料理のコツも教わった。それは何だったか。
「最後にあいをこめろ」
あい。なんだったかは忘れたので代用品を使うしかありません。今目の前にいるのは、八雲藍。藍の字は、あいとも読めます。あい。あいをこめて混ぜろ。
「御覚悟ー!!」
「ひえええ!!」
「さ、幽々子様、かれえが出来ましたよ」
最後のあいは難題でしたが無事解決。これで幽々子様のお腹も満たされます。
「ささ、どうぞ」
「あ、あの、妖夢……」
「どうぞ」
何を遠慮しているんでしょうか。もしかしてつまみ食いでもしたのでしょうか。それはいけません。たまには怒っておかないと。
「あんまりわがままだと、たまには私も怒りますよ?」
「た、食べます!」
幽々子様が、かれえに手をつける。
今回のわがままはてこずりましたが、無事に解決です。
翌日。
式が戻ってこないことを受けて、八雲紫は、博麗の巫女と主に白玉楼へと赴いた。藍が言いつけを果たせぬことなど、前代未聞だからだ。
「は~、なんで私がこんなめんどくさい。……ってうわなにこの臭い!」
「……いったいなにが……幽々子!妖夢!藍!出てらっしゃい!」
中へと押し入った二人が見つけたのは、壮絶にお腹を壊した幽々子と妖夢、そして何故か頭を見せようとしない藍であった。
『みょんなかれえ 使用食材』
化け物茸
名前も不明な草花達
わさび からし
兎の生肉
賞味期限切れの野菜
"あい"の髪の毛
などなど。
誰が一番罪深いのか。
早苗も魔理沙も責任がないわけじゃないが、それを正しいと判断したのは妖夢だし。
>>2番コメント様
下調べはしたつもりでしたが、本当につもりだったようです、御指摘ありがとうございます。以後気をつけます。
>>3番コメント様
温かいお言葉ありがとうございます。精進します。
>>とーなす様
なるほどなるほど。自分的に妖夢はこういう一面もあるんじゃないかと思うんです。
投稿することで勉強になることはやはり多いですね。これからもがんばります。
「は誤字ですかな?妖夢さん、容赦ないぜ!