◆この話は作品集160 『ハートブレイカー』の後半に当たります。
暗い洞穴の中、淡い光を発する鉱石だけが進む道を示してくれる。
ここは地獄への道。
世界から見放された者の最果ての地。
数多の大切なものと引き換えに、ようやく手にした私達の楽園。
これでもう、辛い思いをしなくて済む。
何せ地獄だ。堕ちた者の終着点。これ以上、己のものを失くす事は無いだろう。
「もうすぐ……もうすぐですからね。。。」
彼女に言い聞かせ、私の歩みが速まる。逸る気持ちが抑えられない。
彼女は物言わず、私の手に従う様に歩む。
時間の感覚も分からない程暗闇を歩き続けると、やがて目の前に大きな穴があらわれた。
ここが現世と地獄を繋ぐ道。堕ちるべき者が落とされる底辺。
どの様な存在も、無慈悲で平等に黒一色で染まる世界。
それこそが地上に拒まれた私達の最後の場所。
浴びると悪寒を感じさせる、不気味で生暖かい風が吹き上げる。
堕とされた者達の恐怖や絶望の念が入り混じっているからだ。醜悪な輩に全身を撫でられている様で不愉快極まりない。
「危ないですから、私の背中に掴まっていて下さい。」
前かがみになり、背負う形になる様に、慎重に彼女の両腕を引っ張る。
ふと思えば、彼女をおぶったのは初めてだ。
私は彼女より一回り小柄だから、もしかして重いのではないかと失礼な考えが過ぎったものの、いざ身体を預けられると、とても華奢で軽かった。
この細身で私をよくおぶってくれたのだと思い起こす。
彼女がいたから今日まで生きられた。
彼女が支えてくれたから今日まで永らえた。
「……暴れない様にお願いしますね。」
微笑みかけながら彼女に言う。
返事は無い。
心の声も聞こえない。
分かりきっている事。
彼女は何も理解できない。
心が、壊れてしまっているから。
あるのは、私をよく抱きしめてくれた彼女の身体だけ。
身体が触れ続ける程、ずっと護ってくれていた、昔の事を想起させる。
この優しい温もりを
もう二度と手放さぬよう
しっかりと彼女を背負い
私は地獄の深淵へと降りていく。
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「お祭りにいこう!ね!!」
パルスィは声高らかに叫んだ。目の前で。
――朝、「か、感じる。腹立つ輩がいるー!」と言いながら、いきなり私達が山中で寝泊りしている横穴からミサイルの様に飛び出し、横で寝ていた私を唖然とさせて置きながら、昼過ぎに満腹な顔で帰ってきて早々何を訳分かんない事言ってるんでしょうかこの橋姫は。
「……お祭りですか?」
「そーそー。最近貴女、元気ないから。」
パルスィはニコニコしながら言った。
「こいしちゃんを見つけたいと、根詰めてしまう気持ちも分かるけどね、気分転換ってのも大事と思うワケ!
美味しいものがいっぱいあるしー、楽しい舞も見れるの。」
「行きたくありません。」
……人間の祭りなど、行きたくもない。
私の妹や仲間を憂き目に合わせた種族の催しなど、考えるだけで胃がムカムカする。
「大体パルスィは人間が嫌いなのでしょう?
祭りなんて、強欲な人間が財や権力を誇示する披露宴ではないですか。」
「別に人間全部が嫌いなわけじゃないんだけど……。
まぁ、祭りを催している奴の事を考えると妬ましいけど!
財力とか人望とか妬ましいけど!!
けど、雰囲気!雰囲気なのよ!!
ああー、こんなムカつく世界の事を忘れられるイベント!
子どもも大人も富豪も貧乏人も、みーんな幸せそうな顔した奴らを見てたら妬ましくって自分の嫉妬心だけで1ヶ月は『食事』しなくてもいけちゃう位楽しいとこなんよ!!」
すごく舞い上がってる。自分が行きたいだけなんじゃ…。
「……はぁ。橋姫って自分の嫉妬でも食糧になるんですか?」
「そういうもんみたいね、自分でもよく分かんないけど。
でも、やっぱり他人の方が美味しいかな?
しかし、たまには自分のも味わってみたくなるという衝動に駆られるわねぇ。」
考えながら、蛇の様にチロチロと舌なめずりしてるパルスィ。
「自分を味わうとか他人が美味しいとか、パルスィってヤラシイですね。」
あ、顔が赤くなっていく。
「……ッッッ!!
こどもがそんな事言うなぁぁぁぁぁ!!」
ぶん殴られた。グーで。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「じゃじゃーん、見ておどろけ~。」
ようやく落ち着きを取り戻したパルスィは、バンザイしながら見慣れない布の小包を天に掲げた。
「お祭りに行くって事で、可愛いさとりちゃんには私のお友達が作ってくれた着物をプレゼントフォーユーしちゃうわ!」
「え、パルスィ友達いたんですか?」
「グフゥッッ!!」
足からごっそりと力が抜け落ちたかの様に体勢が崩れ、地に伏せた。
「いやだって、ほとんどというか、いつも私と一緒にいるから。」
「……い、いくら嫉妬深い私だって……友達の一人や……ひとり…くらい……?」
「一人だけなんですね。」
「……心が折れそうです。一人いるだけでも評価して下さい。」
顔を手で覆っている。自分から振った話なのに何で心が折れそうになっているのか、訳が分かりません。つーか話し進みません。会話できません。
仕方ないので、パルスィが落とした布の小包を開ける。
中には空のように青く澄んだ色の浴衣が入っていた。
…絹というのは触ったことが無いけれど、こういう物の事を指すのかと思う程、滑らかな感触。
「……これ、すごいじゃないですか!織りも綺麗だし、縫い目も全然分からない!」
本当に良い物というのは、見て触れるだけで分かるんだなぁ…。
「うん…。手先が器用な子で…編み物とかメチャ得意…。そんな着物を作れるのが妬ましい……。」
「パルスィには勿体無いお友達ですね!」
「ウウ……ネタマシイネタマシイネタマシイ……。」
ブツブツと呟いているのを無視して、私は早速着替えることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
浴衣に着替えた私を見るパルスィ。
「おー。かぁいいかぁいい♪ 『孫にも衣装』とはよく言ったものだわ!」
感嘆の声を洩らしながら言う。
……。
「それ、どういう意味で言ってます?」
「孫に良い物着せたらすっごい可愛い!!」
満面の笑顔で言っている。
時折このバカさ加減が愛らしいと思うのは私だけだろうか。
「パルスィ……。私が孫だったら、あなたはお婆さんになってしまいますよ。」
「……あれ?」
「それと、『馬子にも衣装』です。字が違います。」
「え?え?」
「更にいうなれば、褒め言葉ではありません。『卑しい者でも身なりが良ければ立派に見える』という意味です。皮肉ですね。」
……すっごい汗かいてる。これはこれで愛らしいかもしれない。
「オ、Oh……、ニッポンゴ、ムツカシィネッ!」
「なんでいきなり片言になるんですか?」
「ワタシ、ガイライジンダカラ。ハツオンキニシタラダメネ、サトリ!サー、イキマショ!!」
パルスィが私の前に座る。背中を向けて。
「…何してるんですか?」
「オンブヨ、オンブ。」
「いや、もう自分で飛べますし。」
「イイノ!オンブシタイノ!」
「その腹の立つ話し方を止めたら考えます。」
「さぁ、さとりん!!私の背中に乗るのよさとりん!!」
そのまま私は街に向かって飛んでいく。
ミサイルの様に。
「えぇ!!??? ちょっと、待って、待ってぇぇぇぇ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さー、着いたわよ~。」
結局パルスィに捕まり、おんぶされた状態で京の都に来た。
人間の大都市で行う祭りというだけあって、物凄い人の数だ。
露天でおもちゃや食事を売る人々。
それを買って喜ぶ人々。
大きな塔の上で太鼓を鳴らし、それに合わせ周りで踊る人々。
第三の目では到底拾い切れない程の声が入ってくる。うるさくて頭が痛い。
「いい感じに賑わっててネッタマシー!」
……この状態じゃ眼は見れないけど、きっとキラキラ輝いてるんだろうなぁ…。
「いい加減、恥ずかしいんですけど…。」
「ん、うん。」
名残惜しそうに私を降ろす。
「うん、黒髪のパルスィ。似合ってますよ。」
パルスィは、京で有力者達を襲っているが、『緑眼を持つ不可視の妖』と呼ばれるいる為、今でも姿を見られた事は無い。
が、金髪緑眼はさすがに目立つ為、髪と眼の部分だけ変身している。
「あら、ありがと。それはともかく、お祭りよぉ!!おこづかいあげるから楽しんでいらっしゃい!!」
ジャラジャラと音の鳴る布の袋を私に渡す。
「お金持ってるんですか?」
「そりゃお金ないと美味しいもの食べれないし。
――あ、別に今まで打ちのめした奴らのお金じゃないわよ!これでも倫理は守ってるんだから!!」
人間殺しておいて倫理も何もあったもんじゃないと思うけど。。。
「……あぁ、例のお友達から貰ったんですね。」
「アイツ、『己の技術を磨くために行くのさー。』とか言って人間の織物屋に入り浸るのよ。その時、自分の織物を売ったりして、その代金がそれよ。あれ以上、上目指してどうすんだか…。」
なにそれ凄く良いお友達。パルスィには勿体無い。
「今度、紹介してくださいよ。お友達。」
「ダメよ。病気うつるもん。」
「えっ…。病気?」
「うつるの。さとりだったら死ぬかも。」
…なにそれこわい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「楽しんでらっしゃい。私はちょいと、そこらへんブラブラしてるから。」と言い放ち、パルスィは人混みに紛れて消えた。
どうして「お祭りに行こう!」と誘ったくせに、いざ着くと別行動にするのか、ホント何考えてるのか分かりませんアレは。
適当な屋台でご飯を買いながら、塔の見える所で座る。
ドンドンと、お腹に響く太鼓の音。
笑顔で舞う人達。
第三の目を使わなくとも分かる。とても幸せそうだ。
一時的にでも、幸せな時間に身を投じ、辛い世界から目を背けるためか。
それとも今の幸せを噛み締め、再び得るために辛い世界に向かうのか。
想いは人それぞれだろう。
けど、この場所でやらなくてもと、思う。
あの塔の立っている所は、昔、屋敷があった。
こいしの友達、『姫ちゃん』が住んでいた場所。取り壊され、今は更地になっている。
『姫ちゃん』と別れ、パルスィと暮らしていた私だったが、
暫くして輝夜姫はこの世から姿を消した。死んだ訳ではなく、失踪したのだ。
どこを探しても見当たらず、世間では人の手の届かない月に行ってしまったという噂が流れた。
その直後、屋敷は火事になったらしい。
死傷者が多く出たらしいが、確認された限りの中には、『姫ちゃん』はいなかった。
瓦礫に埋もれたか、炎に身を焼かれ灰になったか分からないが、恐らく生きてはいないだろう。
あの時の私は、『姫ちゃん』の存在は憎しみの対象だった。
こいしを裏切り、郷のみんなを殺した者の一人。
けれど、今思えば、彼女は救うべき命だったのではないか。あの子もまた、残酷な世界の犠牲者なのだと。
結局、肝心な事は取り返しが利かなくなってから気付くのだ。
こいしの時だって、郷の外に出ることが常態化してしまったから気付いてやれなかった。
毎日話していた。外の事を。
けれど、私の心の中のどこかで、あの子が好き勝手遊び回っているだけの様に見えていた。
能力が優れていたこいしに対する劣等感があったのかも知れない。
楽しそうにしているこいしが妬ましかったのかもしれない。
つまらない感情に捉われ、こいしの安全を怠った私にこそ、罪があるのではないかと思う。
そして今度も、自分の感情に流され、『姫ちゃん』を捨て置いてしまった。
あの子はこいしの大事な友達。こうなるなら、こいしの姉である私が護ってあげるべきだったと。
つくづく、嫌になる。自分が。
何もできない、できていない自分が。
パルスィ。
寂しくなって、彼女に、無性に逢いたくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
街中を走り回る。
空を飛んだ方が探しやすいが、そういう訳にはいかない。妖怪だとバレてしまうから。
名前を呼ぼうと思ったが、『パルスィ』なんてあからさまに変わった名前、多分怪しまれる。
視覚と第三の目を頼りに探す。
ネタマシイーとか心で叫んでくれてたら判りやすいんだけど。
ふと、街と街を隔てている大きな川を架ける橋を見ると、パルスィが立っていた。
あちこちで嫉妬していると思っていたが、存外穏やかな雰囲気。
けれど、川をじーっと眺めている。
心なしか、寂しそうだ。
(かすが……春日……。)
……。
自分の名前を想い起こしている。
彼女が昔、旦那につけてもらった名前を。
橋姫は人間が怨恨の念を抱いて変化した未練と嫉妬の怪物。
おそらく、人間の頃を思い出している。
(お前様……。)
言葉で言い表せない様な苦い顔。
感情の起伏が激しい彼女だが、あんな顔を見るのは初めてだった。
パルスィも辛い過去を背負って生きている。
郷のみんなの墓を一緒に作った時、彼女の記憶が過ぎった。
血まみれで、天に泣き叫ぶパルスィの姿。今でも苛まれているのだろう。過去のトラウマに。
でも、今の私では彼女の力になれない。
私の方が弱くって、今でも彼女無しでは私は生きられなくて。
けど、彼女は今まで一人だった。孤独の中で生きてきた。
パルスィと私では、比べ物にならない。心の強さが。
それに、こいしを諦めずに探しているのは、今では彼女の方ではないかと思えてくる。
結局、諦めて不貞腐れた子どもの様な奴なんだ、私は。
……パルスィが私を見つけた様だ。手を振っている。
とにかく、彼女と一緒にいたい。私は橋に向かって駆け寄る。
突然、パルスィの右手が、宙に舞っていた。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
彼女の悲鳴とともに、突然橋を覆う光の五芒星。
―― 結界だ!! ――
(くぁ…、か、体が、痺れて……!)
変身が解け、次第に彼女の髪が金色に変わり、緑眼が現れていく。
「皆、橋から離れよ!!」
パルスィの手を斬った男が叫ぶ。
「彼奴は京を騒がす大妖怪『緑眼を持つ不可視の妖』!
人に恐怖と死を与える存在は、我等が下す!!」
男は二振りの刀でパルスィに襲い掛かる。
相当な手練れだ、太刀筋が全く見えない。
懸命に身をよじるが、かわす事もままならず、彼女の鮮血が橋を染める。
(くそ、なんて事……!)
ダメージ覚悟で、パルスィは体当たりを仕掛ける。
脇腹を斬られながらも、男にぶちかまし欄干に叩き付ける。
その間に、身体を引き摺りながら男の反対側の方へ向かい距離を開ける。
――が。
「がぁぁぁぁぁ……!!」
彼女の向かう方向から、白い針の光弾が襲い掛かる。
全身に撃ち込まれてしまい、膝を付くパルスィ。
反対側にはいつの間にか、仲間であろう、導師服を着た女性が待ち構えていた。
「……はっ……はっ……。。。。。。」
もう彼女には気力しか残されていない。
挟み撃ち。しかも男も体制を立て直し、距離を詰めている。
私の体から全身血の気が引いていく。
殺されてしまう。彼女が。
いやだ!絶対嫌だ!
野次馬の人混みをかき分け、急いで彼女に向かう!
もうすぐ、もうすぐ橋に入れる!
彼女と目が合った!
待っていてパルスィ!今助けます!!!
(……さとり!来ちゃダメ!!)
!!
(橋に入ったら…、貴女もやられる…!妖力が使えない……封魔陣よ!!
逃げなさい…!早く逃げなさい!!!)
…逃げられるわけが無い!
もう目の前で、大切な者を失うのは嫌なんだ!!
落ち着け、落ち着け私!!
五芒星の光の頂点に目をやる。札が取り付けられている。あれが仕掛けか!?
だが、直接は触れられない。遠距離でやるにしても、妖力が通らなければ破壊は不可能だ。
…でも、これほど強力な結界が、仕掛けだけで動いているはずが無いから、あの二人とは別に、結界を行使している術者が存在するはず!
探せ……心を読め!
封魔の念を心に抱き、言霊を吐いている奴……どこだ!!!
「う…あぁ…!」
二人の猛攻に耐え切れず、欄干を這うようにして逃げ廻る。
だが脱出しようにも、結界の光の淵に触れると体が弾かれてしまうらしく、橋からも脱出できない様だ。
悲鳴が弱弱しくなっていく。
お願いパルスィ、もう少しだけ耐えて……!!
・・・見つけた!!橋のすぐ傍、野次馬に紛れた奴!!
想起『グリーンアイドモンスター』
自分の記憶から引き出したパルスィの妖術。
爆音と共に緑の閃光が術者に襲い掛かった。
気づいた術者は、私の妖術の対処に入る。
……これは追跡型だ。術の詠唱を妨げるのには一番効果的。
橋を包む光は少しずつ薄くなっていく。
……消えるまではいかないが、効力は半減しているはず。
今のうちに橋に取り付けられた結界の仕掛けを壊せば、パルスィを助けられる!
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
突然、地鳴りの様な叫り声!
……パルスィだ!結界が弱まって、妖力が体現できるようになったのか!?
橋が揺れ、川の水が暴れている!
「ああああああああぁぁぁぁ!!!!!」
緑眼の怪物が咆哮を上げる!
その妖力に耐え切れず、次々と結界の仕掛けが壊れていく。
最後の仕掛けが壊れたと同時に、パルスィは自分の周囲に『グリーンアイドモンスター』を放った!
橋一面が緑の光で眩く炸裂する。
その光に紛れて、私はパルスィの元へ駆け寄った。
「パルスィ!!無事ですか……!!?」
彼女の姿を見て、言葉を失った。
着ている服は夥しい血痕が付着し、体中が刀傷や針の光弾の傷でズタズタになっている。
目に殆ど生気が感じられない。
「ぱ、パルスィ…。。。」
もう私は泣きそうだった。
ただ、お祭りを見に来ただけなのに…どうして…。
「……さとり…。目を閉じて、手で鼻を押さえなさい…。」
彼女が呟いた直後、左腕で私を引き寄せ、川に飛び込んだ。
「がはっっっ!?!?!?」
呼吸が出来ない…!
水中で泳ぐ事などした事の無い私はただ、もがいていた。
しかしパルスィは私を抱えたまま水流に逆い、猛スピードで水中を泳いでいく。
まだこんなに力が残っているなんて…。
口が、何かで塞がれる。
塞いでいたものから鉄分の様な味がする空気が流れ込んでいく。
(パルスィ!?)
彼女の口から大量の空気が送られてくる。
けれど、これではパルスィが窒息してしまうんじゃ…。
(…ずっと地上にいたけどね、私は水妖よ……。水の中で呼吸するくらい訳ないわ…。
橋姫は怨恨を抱いた人間が、水の中で覚醒した妖怪だから。
陸地より水中の方が本領なの……。)
私の疑問を払拭する様に、心で語りかける。
(襲われたのが橋の上だったのが助かった……川を遡れば振り切れる……息苦しくなったら右肩を引っ張って合図をして…。)
彼女に何度も空気をもらいながら、大江山から流れる川を上っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
滝の裏側に隠された洞窟。
泳ぎ終えた彼女は力尽きてしまい、私は彼女を引きずりながら奥へ向かっていく。
「……さ。さ、とり?」
暫くして彼女は目を覚ました。
しかし、いつもの力強い瞳の光は弱弱しくなっている。
「パルスィ……生きてくれて良かった。」
本当に。
――瞬間、彼女は私の服の襟を掴み、自分の顔近くまで私を引っ張り込む。
「……さとり、どうして逃げなかったの…!!」
歯を剥き出し、恐ろしい形相で私を憎む様に睨みつける。
「な……何で怒ってるんですか…!??」
こんな怖いパルスィ、初めて見る。
心の底から私を憎んでいる。
「よ…読んだんでしょ、私の心を。逃げろって……聞こえたはずでしょ…!」
「で、でも、あのままじゃパルスィが…!?」
「いい事…?貴女の目的は……私と心中することじゃ……ない…!
こいしちゃんを見つける事で…しょ…!!」
時折咳き込み、口から血が滲み出る。
「貴女は、貴女だけの事を考えれていればいいの…。分かった……!?」
「……分かりません!」
「分かれって、言ってんの…!!」
「わかりません!!!」
私は彼女の手を強引に振り払う。
「もう嫌なんです!!大切な人を失うのは嫌なんです!!」
「こいしちゃんの方が大切でしょ…!!待ってるのよ貴女を!
望んでるのよあの子は……!!貴女がいなくなったら誰がこいしちゃんを救えるって言うの…!!」
「だったら!!だれがパルスィを救うんですか!!」
「わ…私は……救いなんて求めてなぃ……うぅぅ…!」
岩にもたれ掛り、うずくまるパルスィ。
「くそぅ……様ぁ無いわね。。。さとりに助けられるなんて……。」
「パルスィ……。」
痛みを堪える事と、昂ぶった心を落ち着かせようとしている。
私は、彼女が振り向いてくれるまで、動くことも、話しかけることも出来なかった。
荒い息がずいぶんと収まったパルスィは、ゆっくりと私の方を向いた。
そして、諭す様に言葉を紡ぐ。
「さとり……私が逃げろって心の中で言ったのはね……もう……手遅れだからよ…。」
「な。て……手遅れ…?」
何が手遅れなのだ。
現に彼女は生きている。助けられたではないか。
「あの男が持っていたのは……妖刀…。傷口から妖力が抜け出てるのが分かるのよ…。これでは体力が回復するのに莫大な時間が掛かってしまう……。
それに……何より…手を…奪われてしまった……。居場所が…割られてしまう。
強い力の妖怪は……切断されても体の部品と部品が引かれ合うの…。それこそ主が強い念を入れれば…空を飛んで戻ってくる時もある。ソレを見た人間は『怪異』だとか騒ぐみたいだけど…。
けど、今の状態じゃ……ムリだし…あれ程の手錬れの対魔師……手を調べて、私の位置を…把握する術式を組むでしょう……。」
「それって…。」
「手を斬られた時点で……もう私は詰んでいたの……。」
「ぃや……。」
「もう私はここまでなのよ……。」
「やぁ……。」
「貴女とこいしちゃんが再開するところ、見届けられなかったのが……残念だけどね。」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
心の奥底から張り裂けんばかりの感情が吹き上がる。
「嫌ァ!!絶対に嫌ァァッッ!!
どうしてみんな居なくなってしまうの!?
こいしもいなくなってしまった!!
村のみんなもいなくなってしまった!!
もう私にはパルスィしかいないのに……!!
パルスィもいなくなるなんて……!!」
「………………。」
「さようならなんて聞きたくない!!
耐えられない!こんな世界!!パルスィが死んでしまうなら私も一緒に――」
唐突に、彼女は私に倒れ掛かった。
覆いかぶさる形になる。私が下で、彼女が上で、何かから護る盾の様にパルスィは乗り掛かっている。
……いつもなら抱きしめてくれた。不安になった心が癒えるまで、ずっと。
でも、それすら出来ない程疲弊しているんだ。
「……聞いて、さとり。」
「いやだ。いやだ……。」
「私を……世界中の魂を裁いている是非曲直庁に引き渡しなさい。」
「できません…。」
「世界を脅かす妖怪を捕えたと言うの……。そして見返りを要求しなさい…。
報酬の対価は『是非曲直庁に入れる事』。」
「できないです…。」
「個人で動いても、こいしちゃんは見つける手立てが無い……。だから、組織を利用するの…。
…貴女はおりこうさんだから、きっと上に…伸し上れるわ。」
「いや……。」
「時間が無いわ……。私に『恐怖催眠術』を使って気絶させて…。早く……。」
「そんなの…できる訳ない…。」
「頼むから早く……。」
「だって、パルスィ、こんなに震えているのに……できる訳ない…。」
「……これは、身体がダメージで…おかしくなってるだけ。気にしないで…。」
「声も震えてます…。」
「……。ち、血が喉に張り付いて……上手く喋れないだけよ……。」
「だったらなんで、そんなに泣いているんですか…?」
彼女の瞳からは、ボロボロと大粒の涙が零れている。
「怖いんですよね、パルスィ…?
そんなに怖がってるのに、そんな事、できる訳無いじゃないですか…。」
「違うのよ。これは……。だって、心…読めるんでしょう?私、本心から……そう言ってるって分かってるでしょ?やれって、言ってるでしょ!!?」
「分かってます…。大声で言っています。
でも、心に嘘ついてるのも分かってます。貴女の心の奥底の恐怖を、自身の失望に迫られた決意で覆い被せてるって、分かるんです。」
「……。」
「本心を見せて下さい。最後の貴女が掛けてくれる言葉が虚栄の言葉なんて、嫌なんです…。
『怖い』って、大声で叫んで泣き喚いて下さい。
覚えていたいんです。
本当の水橋パルスィを、心に残していたいんです。」
「……ハ……アハハハ……!」
笑った。
観念したように喚いた。
「ええ、そう!!私だって嫌よ!!怖いわよ!!さとりと別れたくない!
……でも、仕方が無いのよ……!だって、こうなっちゃったんだもの…。」
彼女の隠した想いが、次々と溢れ出る。
「わ、私さ……こいしちゃんが見つかったら、そのままさとりと一緒に暮らしたかった……!
三人でさ、山奥に家を建てて暮らすの……。私が毎日、貴女達にご飯を拵えて、笑い合いながら川の字みたいに並んで寝てさ……生きていたかった!!
貴女をいつしか、娘の様に思ってた……。愛していた…。のに……。」
「……パルスィが、私の、お母さん?」
「迷惑かもしれないけど……私は家族が欲しかった…。
ゴメンね……。本当にゴメンね……。」
「パルスィ……。」
「……でも、そんな資格、私に無かったって気付くべきだった……。私……橋姫だもん…。許されない事だったって…。」
「そんな事ありません。」
私は、とどまる事の無いパルスィの涙を拭い続ける。
「私は…パルスィがいてくれたら、幸せでした。
パルスィが護ってくれたから、
辛い現実を受け入れながらも生きられた。
謝りたいのは……
あやまり……たいのは……
あたしの…ほう。。。」
「さとり…。」
「わたしの……よわさが…あなたを……しなせてしまうんだと……。
ほんとうに…ごめん…なさい……。できの…わるいむすめで……ごめんなさい……。」
「さとり…!!!」
私達は泣き明かした。
避けられぬ不幸を嘆きながら。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
洞窟に光が差し込む。
朝焼けがかった空。
彼女の顔にはまだ、涙の雫が残っている。泣き疲れて眠っている様。
私は『恐怖催眠術』を掛ける準備をする。
……これが見納めだ。彼女とは。
パルスィの頬に手を添える。
見慣れた顔を忘れぬ様、心に焼き付ける。
考えれば、彼女は初めて仲良くなった、赤の他人だ。
彼女はヘタレで真っ直ぐで頭が悪くて強い者が嫌いで弱い者に優しかった。
そんなパルスィが、私は好きだった。
願わくば永遠に。生涯共に歩きたかった。
けれど、もうここで終わり。
古明地さとりと水橋パルスィの思い出は、ここで終止符を打つ。
私は、頭を下げた。
何も出来なかった私を、ここまで育ててくれて、
本当に、今まで、ありがとうございました。
「……さようなら。」
愛する人に、別れの言葉を。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あああああやめてくれぇぇぇぇ!!」
許しを請う声。
「みせないでくれそんなものぉぉぉぉ!!」
喚き声。
「ならば、汝は認めるか。己の生前の罪を。」
「わかったああああわかったからぁぁぁぁ!!!」
「死してなお偽りの懺悔をするものは、如何なる理由があろうと、黒。
此れを地獄へ。
灼熱地獄の焔に焼かれ猛省なさい。輪廻の環を潜るのはその後です。」
十王の一人が凛とした声で判決を下す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
是非曲直庁。
死んだ者の魂が輪廻の環に入る前に、生前の行いを省み、相応しい転生を促す避けて通れぬ場。
今、私はここで十王の秘書をしている。
永年、世を騒がせた『緑眼を持つ不可視の妖』を、一介のさとり妖怪が捕えたという事で、入庁した当初からこの役職。破格の待遇だと庁内が騒然とした。
時折、輪廻から逸脱した仙人・天人・妖怪・悪鬼などが生きたまま連れられることもあり、その者には然るべき『寿命』が設定される。そうしなければ、輪廻の仕組みは勿論、世界のシステムが揺らぐのだ。生は死へ、死は次なる生へ。これが世界の理。
本来は専属の死神が対応する仕事だが、懸賞首をかけられている事も少なくない。
パルスィも、懸賞首の中の一人だった。
……彼女を代償にして得た地位だから、
手放す訳にはいかない、何があっても絶対に…。
一日の審判が終わり、書類の整理をする。
「ご苦労様、さとり。」
「気遣いは無用です、映姫様。私の役目ですから。」
直属の上司、十王が一人・四季映姫に一礼する。
「マジメねぇ。死神のぐうたら小町もあなたの半分くらい仕事にやる気持ってくれたらいいのに。」
「新参者ですから、早く仕事を理解したいだけです。」
「理解といっても、もう教えることなんて殆ど無い位分かってるくせに。
尋問・審判・事後処理。どれをとっても文句なし。
特に尋問の時に行使しているあなたの読心、手間暇の掛かる浄玻璃鏡とは比べ物にならない位早いし。仕事が前倒しにできるのはいい事だわ。」
「貴女の教えが素晴らしかったからです、映姫様。ありがとうございます。」
「そんなにペコペコしないで。肩が凝るわ。」
彼女には心の底から感謝している。
催眠術を掛け、偶然、滝の近辺で寝ていた…というか、仕事をサボっていた死神・小野塚小町と一緒にパルスィを映姫に引き渡した時、その場で私を秘書にすると指名してくれたのは彼女だ。
映姫の側近だった事とさとりの能力が裁判に向いている事から、今では人手が足りない非常時には、私が裁判を取り仕切れる程の権力をくれている。実質、十王の次席だ。
……それでも足りない。
知識が、権力が。
もっと上に伸し上がらなければ、こいしを探し出せない。
どこかで生きているこいしが……。
庁に入って先ずした事は、死者のリストをチェックだった。
調べてみると、郷のみんなは死んだ同じ日に裁判を受けていた。
しかし、こいしはこの日以降のリストを探っても載っていない。
今でもこいしが生きているのは確定した。
だが、問題は探し出す手段。
地上にいた時もパルスィとあれだけ探したが、何の情報も得られなかった。
庁にある神具を上手く使えばとも考えたが、情報の無いものを探し当てられる様な便利な神具などない。そんなものがあったら、死神達がパルスィをすぐ捕まえている。
何かいい方法がないものか……。
「ああ、さとり。そういえば地獄の簡略化の話だけど。案件通ったわよ。」
「え?あぁ、あれですか。」
地獄の簡略化。
とはいっても、施設を行き来しやすい様に場所を固め、規模を縮小するだけのものだが。
一度視察に行ったことがあるが、一階層ごとのスペースが無駄に広く、一日では到底廻りきれない。それが複数階あるので、全部回るだけでも1ヶ月は掛かる。
さらに、広い分だけ地獄の管理人も多いから給金もバカにならない。
戦争でも起こればしっかり稼動するのだが、それ以外は閑古鳥状態。
無駄が多すぎるとレポートを書き、ついでに改善策も提出していた。
「通ったというか、案件にした覚えが無いんですけど……。」
「私がしたの。」
ずぃっと、私の傍に顔を寄せる。
「うちも貧乏ですからね、切り詰めるとこは切り詰めないと、偉そうに説教できない立場になってしまうわ。」
「……また強引に説得したんですね。」
一瞬、映姫のまつ毛が跳ね上がる。
あ、ヤバイ。
「強引とは失礼な!私はこれを読んで、然るべき処置であると信じ、行動を起こしたまで!そもそもこれは以前から問題になっている議題だったのです!生命が分別ある知恵と行動を弁えた時から善を重んじ悪を戒めた!そうなれば地獄が縮小していく事は必然!……それを長々と『工事費用とか人員配置で一悶着起きそうだから~』と、先延ばしにして!工事など、初期費用でしょうが!!数十年やれば、人件費と維持費が減る分だけで元が取れるの!そ・れ・よ・り、地獄みたいな大変な所に飛ばされたくないのが本音なのよ絶対!!私!?いいわよ!行くわよ!いつでも行ってやるわよ!!これで庁が良くなるんなら何百年でも行ってやるわよ!!前なんて同じとこでずっと座りっぱなしだった頃と比べたら何ともないわよ!地蔵だった私をなめんじゃないわよ!!」
「え、え、え、映姫様!?落ち着いて!十王の貴女が行くわけないじゃないですか!
裁判が滞ってしまいます!」
「裁判!?さとりが代わりにやればいいじゃない!もう押しちゃう!太鼓判押しちゃうよ!!十王やりなさいよ!なんでも勝手に好きなのやったらいいじゃないよ!!」
「あれ!?なんで私が怒られてるんですか!!?」
「全く、どいつもこいつもこまちもちくしょおぉぉぉ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
喚き散らしている映姫をなんとか近くの裁判官に預けてそそくさと退散。
映姫はスイッチが入ると半日は止まらないので、今日はもう会わない事にした。秘書だけど。
自室に戻り、敷いてあった布団に倒れこむ。
心に疲労が溜まっているのが分かる。
裁判の時に使っている『恐怖催眠術』。
相手の深層心理を覗く妖術。
罪人の心を暴くのは簡単だが、その為には私も同じものを見なければいけない。相手がそれを心に刻んでいる場合は大きく反響し、此方まで心が侵される。精神的に辛いのだ。
でも、地上にいたときと比べたらまだ耐えられる。
「パルスィ…。」
今の私はパルスィの様に強くなったのだろうか。
孤独の中でも生きられる程、強くなったのだろうか。
「パルスィ…。」
……きっと、変わってないと思う。
まだ、パルスィが恋しいから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さとり、あなたの手を借りたいの。」
庁の食堂。モグモグとご飯を食べていたら、映姫が串団子がいっぱい乗ったお皿を持って、私の前に座って言った。そのメニューは地蔵の時の名残なのかといつも聞きたくなるのだが、高確率で地雷なので止めた。朝から説教は辛いし。
しかし、昨日の怒気はどこへやら、いつもの真面目な顔で私に言った。
「借りたいって、私は貴女の秘書なんですけど…。」
「そうなんだけど、難儀な裁判なのよ。浄玻璃鏡だけじゃキツイの。」
言いながら、箸で串に刺さった団子を一つずつ取りながら口に運ぶ。
映姫は一口で食べられる団子じゃないと嫌なのだ。串に刺さっていない団子は、握りこぶし位のものしか食堂で用意されていないため、難儀な食べ方をしている。
これは聞いた。地雷で説教だった。『小さいと皿からコロコロ落とす人がいるから串に指していると屁理屈を抜かす』と怒っていたと思うが、咄嗟に催眠術を自分に掛けたので話はあんまり覚えていない。
「はっきりいって、あなたの精神に相当な負担を掛けるかもしれない。」
「……。」
彼女は物事をはっきり言う。はぐらかす事もない。それが彼女の性格。
白を白と認め、黒は黒と言い切る。
曲がることの無い、強い心を彼女は持っている。
「それでも、やってほしい。」
彼女が信じてくれるなら、私はただ、応えるだけだ。
「わかりました。行きます。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それで、どんな者なんですか?」
歩きながら、映姫から情報を聞き出す。
映姫は心のガードが固く、見え辛い。
彼女もそれを意識していて、「心を読むだけでなく、口に出した言葉を理解した方が、ふといいアイデアが出るもの」という自論から、会話で談義するのが基本スタンスだ。
「厄介な奴よ。調書を取ることさえままならないから情報が殆ど無いのよ。」
「どういう事です?」
「聞いてる方が根を上げるのよ。『アレと一緒にいたくない』って。
近づくどころか、部屋にも入れない者がいるくらい厄介な気質を出している。
だから、あるのは庁が地上で集めた分かる範囲だけの情報。
正直、役に立つネタは無いわね。」
「それは難儀ですね……。」
「若干拷問みたいな事もしたらしいけど、全く逆効果。余計暴れさせちゃって。
……止む得ず自然死を待とうとしたみたいだけど、放っておくと、逆に元気になっててお手上げ。」
……?
「……自然死って、生きてるんですか?」
「ええ、霊魂じゃない。生きた妖怪。」
「妖怪……。」
「日本だけならまだしも、西洋の気質も混ざってるの。」
「……西洋?」
「あちらじゃ『不死身のレヴィアタン』とか呼ばれてるらしいけど。
嫉妬を司る関係から、妖怪化した時にあっちの妖力分も拾ってきたんでしょうね。
――ここの裁判室で行う事になってるわ。」
それって……。
「それって、まさか……。」
「そうよ、あなたが捕まえてきた、あの橋姫。」
扉が開かれる。
映姫を除く十王は既に席へ着いている。
被告席にいるのは。
「名は――水橋春日。
橋姫に妖怪化した際、夫を殺し、都を滅ぼし、姿を眩ましては要人の暗殺を繰り返し、世界を混迷させようとした大悪党。――分かっているのはコレだけよ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「汝、愛する夫を手に掛けたにも飽き足らず、欲のままに人間を導く人間を殺し、世界を揺るがそうとした事、相違ないな!」
……。
「相違ないな!!」
映姫が声を張り上げる。
パルスィは答えない。
「汝はここで己が全てを懺悔せねばならない!なぜなら、汝は世界の理から矛盾した存在だからだ!理を無視する事は今を生きる全ての者の冒涜である!
人は人として死す!妖は妖として死す!それが理!
だが、人の身に生まれながら妖のまま死す事は許されない!
懺悔せよ!
懺悔し、己が答えを吐き出せば、理の中へ返す事も叶うだろう!」
……パルスィは答えない。
「汝が答えぬなら、此方から暴くまで!
さとり、下賤なる橋姫の心を暴きなさい!!」
……。
「どうしたのです、さとり!」
「あ…。」
わ、わたし?
私が、暴く?
パルスィの心を……暴く?
「は…はい。」
彼女に向かって歩む。
重い。
足を動かすのって、こんなに重たかったっけ…?
彼女の前に立つ。
雁字搦めに体が拘束され、その上椅子に縛り付けられている。
全く身動きが取れないようだが…。
斬られた筈の手がある。
別れた時から相当の年月が経ってはいるけど、尋問と拷問の日々を繰り返していた割には身体は健康そうだ。一体……。
「……フ…フフヒヒ…。」
「! パッ……か、春日…さん?」
パルスィは笑っている。
でも…違う、パルスィとは違う、何なのこの感覚は?
「フヒハハハハ!!!こんな小娘が!私を!!どうしようってのさ!!」
「!!」
第三の目で彼女を見据える。
だけど、心の声は、唯一つ、『妬ましい』。
……パルスィの心は嫉妬と狂気で心が完全に支配されていた。
怨恨の炎を宿した瞳で私を睨んでいるが……私が誰だかまるで分かっていない。
「これだけの首揃えて、私一人何とかできないなんてさ、アンタらも大した事無いなァ!!
それとも嬲るのが趣味ぃ?ああ、世界の正義執行人ってワケ!?
そんなことを気取れるアンタらが妬ましい妬ましい妬ましいわぁぁぁぁぁ!!!」
誰なの、これは?
私の知ってるパルスィはこんなんじゃない。
もっと優しくて、暖かいのがパルスィだ。
こんな刺々しくて、汚らわしいのはパルスィじゃない。
「話にもなりませんね。」
映姫が溜め息を付く。
「自己主張、被害妄想。会話どころか話も聞かないとは。
有無を言わさず灼熱地獄に落としたい所ですね。」
他の十王も映姫の意見に同意の様だ。
だけど…。
「……違います。彼女は。」
「さとり、どうしました。」
「彼女は、『食事』をしただけなんです。」
「続けなさい。」
「橋姫は嫉妬心を操る程度の能力を有しています。
その橋姫の妖力の源は嫉妬心。
要人ばかりを狙ったのは、平民よりも欲の心が数倍も強いから。
大勢を狙わなくとも、一人を狙えば大きな糧を得られる。
けれど、もし、襲えない状況にあるなら。
糧を得られないのならば、どうするのか。
簡単です。自分の心を糧にすればいい。
そうすれば、己が生み出した嫉妬心を元に、妖力を使って身体を直せばいい。」
……全て、彼女が言った言葉だ。
欲深い人間の方が食糧になる。
そして、他人だけでなく、自分の嫉妬心も糧になる、と。
映姫が一呼吸入れてから、言う。
「前者は分かりますが、後者は理屈です。
そんな事をすれば、自我を保てないではないですか。」
「ただ、嫉妬できればいい。何かに嫉妬さえしていれば、生きられる。
それが、橋姫という妖怪の生存本能です。
生命は自我よりも、死なぬ事を優先する。それがこの結果。
けれど、一度、己に焚きつけた嫉妬心はそれを元に新たな嫉妬を生む。
その嫉妬は周囲に狂気を撒き散らし、拡散させる。
一度、嵌れば抜け出せない、傷付いても自分から溢れ出す嫉妬心で治す。
嫉妬する事・させる事が生きる目的と変化した、害しかもたらさぬ不死身の橋姫。
それが、今の彼女です。」
「ならば、それを抑える方法は?」
「根源を潰せばいい。彼女が嫉妬心を生み出せない様な状況にすればいい。」
嫉妬とは自分と他者との対比だ。比べるものが無ければ嫉妬は出来ない。
出来ないけど……。
「……彼女が妬んでいるのは、この『世界』そのもの。
どれだけ隔離しようと尋問しようと拷問しようと、彼女はこの『世界』の住む者です。『世界』を無くさない限り、この状況は収まらないでしょう。」
「では、それ以外の方法は?」
「彼女の心を……砕くしかありません……!」
右手に妖力を込める。
「一度、彼女の記憶も心も、リセットするしか……!」
パルスィに手をかざす。
「――出来るの?アンタに?」
「……。」
「アンタみたいなガキが、私の嫉妬心を、砕けると思ってんの!??」
「春日さん!!」
「名前で呼ぶなっつったでしょ!腹立つのよ!!私を裏切ったアホの旦那に付けられた名前なんざ聞きたかないんだよッッ!!思い出したくも無い!馬鹿な男の事なんか一欠けらも!!」
違う!違う!!
名前で呼ばれて嫌なのは、そういう理由じゃない!
泣きたい程、思い出すのが辛くて嫌だったからでしょ、パルスィ!!
こんなの……こんなのパルスィじゃない!!
「消えろ……。」
「消えろ?アンタが目の前から消えればいいだろッ!!」
「醜悪な心を抱く怪物!消えろォォォォ!!」
叫びながら彼女の顔を掴み、『恐怖催眠術』を放った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第三の目を閉ざした、こいしが泣いている。
な、何で今、この夢を……?
泣きながら何か言っている。
(さようなら、おねえちゃん。
ずっと安全な所にいながら私を羨んでたおねえちゃん。
私が怖い目にあっても知らん顔のおねえちゃん
一人ぼっちで寂しいのに迎えに来てくれないおねえちゃん
いつまで弱い子ぶってるの?
いつになったら、こいしと向き合ってくれるの?
諦めたくなるくらいの愛情しかないなら
探さなきゃいいじゃん
それとも、わたしを心に留めて置くのが、おねえちゃんの罪の償い方なの?
姫ちゃんにはあんなことしておいて
死なせておいて
ねえ?
自分はいい子ぶりたいだけなんでしょ?
おりこうさんのさとりちゃん
それでもわたしのおねえちゃん
おねえちゃんがあきらめても、わたしは待ってるよ?
おねえちゃん)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ……ああああああああああああああ!!」
止めて止めてやめてやめてやめて。
「ありがとうお嬢ちゃん。そんな醜い心で私に近づいてくれてさぁ!!」
とてもじゃない。立っていられない。
い、息が…出来ない……あ、あ、泡を吹いてるのわたし???
「さとり!!」
「邪魔するなァ!!」
映姫様???後ろで…緑色?に何か光!って……。
「動くなよ!?動いたら、さとりもろとも、ここを消し飛ばすよ!!」
し…侵食されてる?嫉妬の心に?。?。?
手を離してるのにながれこんでる?しっとしん???
心にへんなものがあふれて…自分が……じぶんでなくなっていく!!???
「あああああやめてやめてやめて!!!!」
「止める訳無いだろォ!!久方ぶりに美味しい『食事』が出来そうなんだ!!長ーく、味あわせてもらうよ!!」
いちどこころが!
つながってしまったから!
ぱるすぃもこころのようかいだから!
こっちからだけじゃ!?
とめられない!!!
かんがえろ!いいほうほう!
いまは?ちょくせつ!かのじょと。しこうがつながって!!?
だから!!!
「て…!」
「…て?」
『てりぶるすーぶにーる』
「ハん、私に効くかぁ!!もう一遍、はね返されて、狂っちまいな!!!」
そうきしろ!わたしのこころ!
そうきしろ!ぱるすぃのことを!!
「……自分に『恐怖催眠術』を掛けたッ!!?」
そうきしろ!わたしのこころにやきつけた、ぱるすぃのかこを!!!!
れんそうさせろ!ぱるすぃのかこを!!!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
燃え盛る屋敷。
天に向かって呪詛を吐く。
こんな運命、許せない。
許せるはずがあろうかと。
全てが手遅れだった。
愛する旦那はもういない。
大好きだった都は形も無い。
私が殺した。
全て壊した。
恋人も友人も隣人も他人も。
屋敷も川も橋も都も。
残ったのは。
私が抱えた、愛した旦那の首一つ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これ……何で!??何でアンタが知ってる!!???」
「みえたから!あなたのこころが、みえたから!
わたしとおなじ、ぜつぼうが!」
ぱるすぃのこころが、ほころんだ!
もっと、もっとだ!!
「あなたがわたしとおなじだとかんじたからみえた!!」
「アンタが私と同じ!?違う!!
私は私だ!私だけの生命だ!!私より狂った『世界』をブチ壊すために燃やす命だ!!
アンタもそうなら、そんなとこに立ってるはず無いだろぅが!!」
「そうじゃない!おもいだして!
あなたのいのちは!!そんなものじゃない!!
それを……それを否定する答えを貴女は持っていたでしょう!!!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ただ、人が多かったからいただけで。
橋の上なら往来が多いというだけで。
私は待っていた。
私の様な風体の人間が通るのを。
けれど、ここは黒髪ばかり。
金色の髪を持つ者は現れない。
船が難破して、海に放り出されて、知らない国に流れ着いた。
帰りたい、故郷に。会いたい、家族や友達に。
「人とは思えぬ陽光のように暖かい金糸の髪。
人とは思えぬ大地のように優しい緑の瞳。」
「……。」
「名を教えてくれぬか。」
「わか……りません。」
何度も声を掛けられた。ただ、物珍しいと言うだけで。
けれど、私の名を告げても聞き取れず、理解できず。
しまいに腫れ物の様に去っていく。
黒髪の人間は助けてくれない。誰も助けてくれない。
「分からぬならば、そなたはこれから『春日』と名乗るが良い。」
「かすが…?」
「春の日の様に暖かく眩いそなたの姿に相応しい。
春は季節の始まり。
日は万物の始まり。
春日よ、私と共に水橋の一族として、この国で再び生きる事を始めよう。」
「お前様…。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お前様ッ!お前様ァァァァァ!!」
苦しんでる、パルスィが。
流れ込んできた嫉妬心が止まった。
「一時的に増幅した嫉妬心に心を囚われないで!!
心は、記憶の結晶!
貴女が過ごした大事な記憶は、そんな汚れた感情で塗り潰されていいはずが無い!!」
もっと、もっと暴く。
私の知らない、水橋パルスィを!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……これが噂に聞く、春日の姫か。まさに絶世。
そちには我が愛しき妹を。
これで同盟の契り、相成れば。」
「……そなたの国と、この水橋の国、永遠に栄える事を願って。」
「お前様……。」
「春日、私を憎んでくれてもいい。だが、この国が強国に喰われんが為には致し方無き事。」
「拾われた生命です。お前様の糧となるならば。」
「すまぬ、春日。」
水橋の国は穀物は豊かなれど、戦の弱い国。
世は強きが喰らい、弱きが喰らわれる理。
それゆえ、強きに擦り寄らねばならない。
それが、私の生きた時代だった。
愛しき旦那と別れようと、それが次代の為ならば。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「負け戦、不作が続くのも、あの人外の女が来てからだ!!
殺せ、春日の姫を!そして骸を神に差し出せ!
我が国に災厄をもたらす金色夜叉を!!」
新たな旦那は真に暴虐。よく私は殴られた。
挙句に厄病扱いで始末される事に。
私は逃げた。
逃げて水橋の国に、故郷に、家族に会いたかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ただ…愛する旦那に逢いたかっただけなのに……!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それも叶う事もない。
刀傷数知れず、さらには女の身。
追っ手も振り切れず、ただ、嬲り殺されるだけならば。
前も見えぬ夜の中、私は川に身を投げた。
この川、水橋の国に続く川。
神よ、せめて、私の骸だけでも家族の下へ還したまえ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
幾刻経とうと、意識がはっきりしていて。
水の中なのに、息苦しいが、息が出来ている不思議な感覚。
『生きたいか?』
声が聞こえる。
『生き永らえたいか?』
当たり前。死にたい人間なんているはずがない。
「生きたい…生きて愛するお前様に…逢いたい。」
『ならば抱け。生への未練。死への怨恨。
それが汝を生かす道。示せ、その証を。』
「どうすれば…?」
『命を生かすは、命。それは世界の理。』
「でも、私、何も持っていない。。。」
『あるではないか、抱えた命が。
差し出せ、汝の子を。
さすれば、恒久に果てぬ命を授けよう。』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お前様、春日は帰ってきました。
久しく空けておりましたが、この水橋の国、繁栄変わらず喜ばしき事。
とても、とても逢いとうございました。
もう春日は、どこにもいきませぬ。それに、人ならざる力を手に致しました。
これもお前様の徳なればこそ。
私は生涯、果てるまでお前様の傍にいます。
……何故逃げるのです?私は春日ですよ?
お前様と共に生きると誓った春日ですよ?
どうして、その女を庇おうとなさいますか!?
たかだが、我が国を護らんが為の契約として差し出されただけの存在ではないですか!!
もう、その女の国はありませぬ!私が滅ぼしたゆえ、その女にはもう価値はありませぬ!
ですが、私にはこの国を護る力があります!
もう何かに怯える必要はありませぬ!私が、私めが、お前様もこの国も護りますゆえ!!
……お願いですからこちらに来てくださいませ!!」
「よるなっ!化け物ぉぉぉぉ!!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「違う!!私は化物じゃない!!」
咆えた。パルスィが。
「私は、ただ取り戻したかっただけなのに!水橋春日として生きた日々を!!
やぁ……思い出したくない!!イヤ、いや、嫌ァァァァァァ!!!」
消えていく。彼女の記憶が、真っ黒に塗り潰されて。
心に、ひびが入っていく。
愛するはずの子を売って得た力で、愛したはずの人を殺した。
それが、パルスィのトラウマ。
名前で呼ばれるのを拒むのは、そのトラウマが蘇るから。
家族を得る資格なんて無いと言ったのは、自分で家族を殺したから。
こんな、ボロボロな彼女を見ているのは、耐えられない……。
私にできる事は、この不幸な生涯を終わらせ、楽にさせてやる事だけだ。
「……もう、終わりにしましょう?
全て無かった事にして、零からやり直しましょう。
再び輪廻の中に入り、新たな幸せを――。」
「いやぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
――壊れない!?
心が、これ以上壊れない!
「まだ、何かあるの…!?」
「死にたくない死にたくない死にたくない!!」
もう嫉妬心は無いのに、嫉妬を生む記憶は自分で潰したのに――!
「すみません、もう少しの辛抱です…!」
まだ、何か隠している…!彼女を現世に繋ぎ止めている、最後の記憶を暴く!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
結局、私は何だったのだろうか。
自分の考えが愚かだったと。
自分の行動が愚かだったと。
自分の存在が愚かだったと。
何をやっても裏目に出て、結局何にもできてなくて。
それでもまた、幸せを取り戻せると信じて願って。
結局、振り出しに戻って。。。
生き永らえても、きっと同じ事の繰り返しをしてるんだろう。
未練の妖怪だから。
……眩しいなぁ。
光が差しているのか。
私の顔に何か触れている。
暖かいなぁ。
ああ、護りたかった者に抱かれている。
これだけ。
ただ、これだけが欲しかった。
他は何もいらない。
愛という温もりだけが。
泣かないで。
私を忘れて生きて。
大切な娘。
「……さようなら。」
さようなら、さとり。愛してるわ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私は倒れた。
身体に力が入らず、受身を取ることもできないまま、地面に顔を打った。
パルスィは倒れた。
椅子ごと、横倒しになって、私と顔を合わせる様に。
「さとり、大丈夫ですか!!」
映姫が駆け寄り介抱してくれるまで、私はパルスィの瞳をずっと眺めていた。
大地の様な優しい緑の瞳ではない。
怨恨に燃える緑の瞳ではない。
ただ、ガラスの様に無機質な緑の瞳があった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もう何も考えたくない。
嫌な事ばかり思い浮かべてしまう。
「さとり、大丈夫?」
私の部屋まで運んでくれた、映姫が心配している。声を掛けないと。。。
「……。」
無理。口を開いたら、そのまま泣き喚いてしまいそう。
「辛い仕事を押し付けた事は……悪いと思っています。
でも、あなた以外に解決できなかったわ。」
映姫は悪くない。
悪いのは私だ。
そも、あれが『解決』だったのかも分からない。
分かっているのは、私がパルスィを殺した事だけだ。
「辛い……けど、仕事ですから。」
何とか言葉を紡ぐ。
「私じゃないと……聞きだせませんものね。……さとり妖怪だから。」
誰かが行っても、彼女は一切口を割らず、永遠にあのままだった。
「仕方ないです…。」
「懇意だったんでしょう?あの橋姫と。」
「……?何を言ってるんですか…?」
「だから、知り合いだったんでしょ?」
「そんな訳ないです。だって、私がアレを捕まえて、貴女に突き出したんですよ……?
知り合いだったら、そんなことできる訳ないです。」
「そうね、さとりが薄情な子には見えないけど。
でも、あの橋姫は大妖怪。はっきり言ってあなた一人でどうこうできる相手じゃない。
席で見ていたけど、力の差は歴然。寝首も掛けないくらいの差があるんじゃない?」
「運が良かっただけです…。言ったじゃないですか、渡した時に。だって、捕まえる時はボロボロだったし。」
「ボロボロだった彼女に永い間、手間取らされてるのよ、こっちは。その程度で何とかなるならとっくに解決してる。けど、親しい間柄ならあなたの術を掛けられる。
さっきも、あなたが術を掛けるまで待っていた。他の者は部屋すら入れない事だってあったのに。
不自然すぎるのよ。」
「……。」
「懇意の者を捕まえ、是非曲直庁の利権を欲した。相違ないわね、さとり。」
「映姫様……?」
「仲間を売る事は裏切りと同じ、許されるものではない。よって黒。」
「…!?」
「けれど、これまでの是非曲直庁に尽くした功績はあまりに惜しい。
古明地さとりは、地獄へ行き、己が導き出した改善案を行使する事。
――終えるまで、帰れないわよ、ここへは。」
「ち、違う、映姫様!そんな!?」
「更に嘘を吐くか?」
「違うんです、私は!!私は……。」
「判決は下したわ。覆る事は無い。
今は身体を休め――。」
身体が勝手に動いていた。
指が軋む程、握った拳で映姫を殴っていた。
「違う!!そんなんじゃない!!
パルスィが望んだの!私だって嫌だった!
ずっと……ずっとずっとずっと一緒にいたかった!!
こんな所に来たかった訳じゃない!!
それを売った?裏切った!?
ふざけた事を言うなァッッ!!!」
一時の感情に身を任せた愚かな行動だって分かってる。
でも、許せなかった。何も知らない者が知っているかの様に考えを押し付けられるのが。
「私はずっと、こいしや郷のみんなと暮らしていたかった!!
パルスィだって、愛する人と一緒に暮らしていたかった!!
それをさせなかったのは、世の中じゃないですか!!
私達が住んでいた世界じゃないですか!!
弱いものを一方的に捨てて、強いものが我がもの顔ではびこって!!
そんな下らない世界を、パルスィは許せなかった!
私だって同じ!あなた達の様な傲慢な奴等は許せない!!」
「……言いますね。けれど、勝ち目はあると思っているのかしら。」
映姫から、力が放出される。
「神格である私に一介のさとり妖怪が。」
「敵うとか、敵わないとかじゃない……。」
力の差は分かる。
足元にも及ばない事も理解できる。
けれど気圧される事は無い。
「貫かねばならない想いが私にはある!!」
想起『グリーンアイドモンスター』
「これは……。」
映姫の動きが止まる。
「さっきの橋姫…。」
パルスィが、私の横に並んで立っている。
碧く爆ぜる弾幕ではない。
ただ、私の心に焼き付けたパルスィを映像化しているだけ。
「……彼女はヘタレで……真っ直ぐで……頭が悪くて……強い者が嫌いで弱い者に優しかった。
そんな彼女が私は好きだった……。
好きだったんです。
私は、生き別れの妹を探さなきゃならないから、自分の命を使って私を是非曲直庁に入って探し方を考えろって、言ったんです。
私達姉妹の為に、彼女は自分を犠牲にしたんです。
でも、私は彼女の想いを継いで、生きなければならない!
傲慢な強者を、世界を、見逃すわけにはいかない!
大好きだった水橋パルスィと共に生きた記憶が、想いが、私の心に焼き付いているから!
それこそが、水橋パルスィにしてあげられる、最後の事だから!!
……これが、彼女の貴い精神が黒ならば、許されない行為なら!!
彼女の命を返してください!
私の行動が黒だというのなら返して!!
パルスィを返して!!!!」
胸が張り裂けんばかりの想いで私は叫んだ。
映姫が近づいてくる。
パルスィの映像を眺めている。
「……優しい瞳ね。」
「優しかったんです、本当に。」
「嫉妬に塗れ、心が狂い、なお生きようとした理由は、あなただったのね。
……心配だったんでしょうね、残していくのが。」
「ぐ……ふぐ……。」
「さとり、地獄に行く際、パルスィを連れて行きなさい。
水橋春日は裁かれた。判決は地獄行き。
執行内容は、これから地獄を管理する古明地さとりに委ねる。
――彼女に恩を返したいのなら、パルスィとして、新しい生き方をあなたが導きなさい。
私にできるのは……ここまでです。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あーあ、全く忙しい身だっていうのに、映姫様も人使い荒いんだよねぇ。」
ギィギィと櫂を動かし、文句を言いながら三途の川を渡る船頭。
「サボるのに忙しいんですよね。」
「違ぇ。断じて違う。情報収集と言って欲しい。とっても大事なんだよ、さとりちゃん?」
「分かってます、小町さん。」
「おっけー、よーそろー。」
口笛を吹きながら、小町は慣れた手つきで船を地獄の道へ繋がる洞窟へ運ばせる。
パルスィと一緒に並んで座り、ゆったりと目的地に着くのを待つ。
彼女は私の腕をしっかり掴み、頭を肩に乗せたまま動かない。彼女の髪が頬に触れて、少しこそばゆい。
時折、魚が跳ねた水音に反応しキョロキョロと周りを見渡すが、暫くすると定位置に戻る。
「……あんまりさ、映姫様の事、恨まないでおくれよ?」
「…別に恨んでるつもりはないですけど?」
「それだったらいいんだけどさ…。」
歯切れ悪そうにものを言う。
「心配しなくても大丈夫ですよ。私はこうして、彼女といられるだけでも夢のように思っています。考えてみれば、安全にいられる場所まで提供してもらっている。映姫にはとても感謝しています。
――無論、あなたにも。」
「あたいはたまたま、祭りに来た時にアンタら見かけて、その後を追っかけただけさ。
お別れ済ませたら、あたいから声掛けるつもりだったのに、さとりちゃんの方から来るもんだから、驚いたなぁ。」
「サボった言い訳になってあげたんですから、貴女も私に感謝してくださいよ?」
「情報収集だっていってるじゃん!」
「ふふ……。」
冗談や、笑い話をしたのは久方ぶりだ。
もしかすると、さとりの郷に住んでいた時以来かもしれない。
ぺちぺちと、彼女が背中を叩く。
「あれ、嫉妬してるんじゃないの?」
「そうかもしれませんね。心は読めませんけど、感じますね。
構って欲しいのかしら?」
頭を撫でる。柔らかい感触。
いつも撫でられる方だったのにな……。
「それで、パルスィはどうするのさ?最初から育てるの?」
今の彼女は何も分からない、赤子の様な状態。
映姫のいう通りにするなら、そうするんだろうけど……。
「いえ。パルスィ自身で潰した記憶と壊れた心を治していこうと思います。」
「へぇ、そんな事できるの?」
「分かりませんね。やった事ありませんし。
でも、どれだけ時間が掛かっても、そうしていくつもり。
それが、私が出来る唯一の事だし。
嫉妬に心が塗り潰される前のパルスィに戻してあげたいから……。」
ガラスの様に透明な緑の瞳。
その瞳に再び、優しい光を宿してあげたい。
「困ったらさ、いつでも私を呼びなよ。映姫様もそれを望んでる。
あの人も、アンタら護りたいって思ってんだ。
さとりちゃんの辛そうな眼を見た時、すぐ自分の部下にしてさ。
橋姫とグルで、良からぬ事を企んでいるから一緒に処分しようって輩がいた時も、『証拠も無いのに何て事言うんだ!あんな誠実な子は他にいない!あの子の侮辱は私の侮辱だ』って、あちこち突っかかっていったり。
なるべくあの状態のパルスィをさとりちゃんに触れないように手回しして、何とか輪廻の環に押し込もうとしてたり。
でも、出来なくってさ。
あの裁判の前日、私んとこきて喚いてたよ。
自分が無力だって。橋姫の件を終わらせるには、さとりにしかできない事が堪らなく悔しいって。
懺悔を聞くのは映姫様の仕事なのに、聞かされちまったよ。」
「……あの人も、心を隠していたんですね。私に。」
言ってくれればいいのに。
思い切り殴ったのに何もしなかったのは、憎まれ役も自分から買って出なければ気が済まなかったんだろう。
「誰もそこまで頼んでいないのに…。」
「そういう優しさもあるって事だよ。」
「分かります。パルスィも、そうだったから。
私に心配掛けないようにしてくれてるんだって。」
「あと、地獄の管理人はさとりちゃんになるって事、大々的に発表するんだって言ってたよ。
名前を聞けばさ、もしかして妹ちゃんが尋ねてくるかもしれないからさ。」
「……はい。パルスィを治療しながら気長に待ちます。」
「さぁ、もうすぐ着くよ。彼岸のほとりなんて難儀な場所にあるけど、数ある地獄の入り口で地霊殿に行くにはこの洞窟が最短ルートなんだ。洞窟の奥底だから、足場に気をつけな。」
「入り口が無駄に多いのも問題ですね。改善案に盛り込まなくては。
――ありがとう、小町さん。」
船を降り、パルスィと手を繋ぐ。
――この地獄が きっと私達の最果て 歩いていきましょう 二人で――
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
「ふふふ、アハハハハ!!」
笑い声が聞こえる。
洞窟の中だから、とてもよく響く。
「ここには地上と違い、未来も希望も無い!!
地獄に堕とされた意味をまだ理解できていない様だなぁ!!」
地底の番人の声。
また、誰か地獄に堕ちたのだろう。
「世界の底辺で己の存在が不必要である事を認め、絶望と怨恨を抱いて深淵の闇の中で永久に行き続けるがいい!!」
見ると、彼女が誰かを投げ飛ばしている所だった。
底の見えない深淵の穴に吸い込まれていく、誰か。
パチパチパチ。
拍手をしながら、私は彼女に歩み寄る。
「ふふ……流石は地獄に堕ちた妖怪が『地底の鬼』と称し、畏怖される存在ですね。
拝見しているだけなのに、恐怖で身が竦んでしまいます。」
彼女は振り向かない。今しがた、投げ落とした存在を見つめている様だ。
「……何用だ、さとり。
仕事ならこなしているよ。
地上で悪事を尽くした更正の余地の無い愚者達を悪霊に変え、灼熱地獄の糧と成し、転生を促す、地底という名の『屑箱』
その『屑箱』の『蓋』が、私の役割だ。」
こちらを振り向く、金髪緑眼の妖怪。
水橋パルスィ。
……結果として、彼女の心は元に戻らなかった。
性格も口調も、変わってしまった。
嫉妬に狂った時と比べたらマシだが、誰であろうと敵意をむき出し、警戒する。
記憶が一部分しか戻す事しかできなかった為だ。
彼女の記憶を戻すには、『連想』させなければならない。きっかけが要るのだ。
しかし、私は一緒に過ごした時と、彼女の『トラウマ部分』しか知らない。
そこだけは治したのだが、やはり情報が足りなさ過ぎる。
私の知ってるパルスィの心の大部分は、その逆、『トラウマ部分』を塞いだ、人間時の記憶が大元。その記憶が、あの嫉妬心を上手くコントロールしていたのでは無いかと思う。
今の彼女の交流は、ぼちぼちといったところ。週に一度、足を運んで、彼女の様子を見に行く程度。
たまに逢うくらいならいいのだが、ずっといると、彼女が嫌がるのだ。
私といた記憶を戻した所為で、昔の様に演じようとする。
でも今の心がその行動が出来ず、ちぐはぐになって、挙句に逃げるか、昔の自分を妬んでしまう。
……また嫉妬狂いの状況になっては困るので今は離れ離れに生活をしている。
「今日は、大事な話をしに来ました。」
「大事な話…?私ヤだぞ。一緒に住まない。さとりが妬ましいもん。」
「分かってますよ。ソレじゃないです。」
「じゃあ、地底の事か?
けど、地底は閻魔の思惑通りに動いているはずじゃないのか?」
「ええ、今はそうなんですけど…。
どうやらこの地底を、地上の妖怪に明け渡す様なのです。」
「な……!?
何だその話は!?どういう事だ、さとり!!」
動揺している。
……私だってそうだ。今聞かされたばかりだし。
「先ほど、是非曲直庁に報告しに行ったのですが、地上で住み辛くなった鬼達の財と引き換えに、地底という住居を提供する話が上がっているのです……。地獄の管理も行うという条件で。」
「そんな…。」
「パルスィ、あなたは元々、『堕ちた妖怪』という形で地底にいます。
それを地獄の管理者たる私が口添えをし、『恩赦』という形で仕事を与えています。
けれど、この話が成立すれば、それが無かった事になる。
……私も、是非曲直庁に戻される事でしょう。」
「さとりが…庁に……?」
「……お別れ、ですね…。」
彼女の心が恐怖で染まっていく。
「私と別れるの、嫌ですか?」
「私は……そんな事…ない。」
失望と諦めで、心が覆われていく。
まただ。また彼女は嘘を付こうとする。
自分といるより、庁に戻る事が私の為だと思っている。
「私は嫌です。」
「さとり…?」
「私はこのままがいい……。
ここは私と貴女の最果てなんです。全てのものから疎まれた私達の。
もうここしかないんです。」
「わっ。」
彼女に向かって倒れこむ。焦りながらも受け止めてくれる。
「せっかく私達が、安心して暮らせる場所だったんですけど。
でも……仕方ないです。上が決めた事ですから私じゃ覆せそうにありません。
さっきの話が決まる前に。
私が戻される前に。
地上の妖怪達が来る前に…。」
怖いけれど、パルスィと一緒なら頑張れる。
「ここを出ましょう。捕まる前に。
今なら逃げられます。
遠くへ。また新しい最果てへ、一緒に歩いていきましょう。
……お願いします……パルスィ。」
「ダメよ、さとり。ここに留まろう。」
「……パルスィ?」
「ここは、お前が死に物狂いで得た最果てだ。
そんな場所を、易々とくれてやるものか!!」
ぎゅっと抱きしめてくれる。
力強く、護るように。
「私だって今は『地底の鬼』と恐れられてるんだ。
それに、この地底は堕とされた妖怪の未練や嫉妬心だって充満しているから、無尽蔵に妖力が獲れる。
地上の鬼なんかに劣りやしない。必ず、叩き出してやるさ。」
ああ、この温もりだ。
大好きだった彼女の抱擁。
彼女の想いは、心は……無くなったわけじゃない。
守護者の様に優しい心と、傲慢な強者に対する怒りの心を今も持ち合わせていた。
ふと、彼女の眼を見る。
その瞳には、凛とした熱い光が宿っている。
「お前は地底に落ちた妖怪が勝手に暴れたと、報告すればいい。
絶対……渡しはしない。お前と私の、この最果てを!」
◆作品集163 『バニシングハート』に続きます。
貴方でしたか!
……下手すぎて恥ずいとか言いつつ凄い文章力上がってるじゃないですかやったー
これは次回作にも期待出来ますねぇ(チラッ
ただ、それだけにこいしちゃんが忘れられてるようなのが なーんか締まりの緩い感じの終わり方
最後に出てくるかと思ったら出てこないんで「あれ?」てなりました
ところで水中キッスとは恐れ入りました。いいぞもっとやれと言わざるを得ない……っ!
映姫の不器用な優しさが好きです。
映姫様かっこえぇ……
めっちゃ良かったです
お疲れ様です!まさかこんなに早く続編がやってくるとは思っていなかったんでもう大興奮ですよ!!
前作もそうだったんですけど、相変わらずあなたの作品は面白い。というか登場人物がイキイキしててとっても読みやすいんですよね。
前作から引き継いだ、さとりの一番の目的「こいしちゃんの捜索」が達成されなかったのが少し残念ですが
ともかく完結お疲れ様でした。
壊しても壊れなかったパルスィの強さと、ひたすらに頑張り続けたさとり様に惚れる。
「ここは私と貴女の最果てなんです」
個人的にこの台詞が以前から大好きでして、その意味が語られて満足したぜ……
では、こいしちゃんが帰ってきたら起こしてください。
お疲れ様でした。
物語はすごく面白かったです。うまくやれば感動できたでしょう。
でも表現の技術が追いついてない気がします。特にパルスィに催眠術をかけてからは台詞に頼っているように見受けられました。
文字媒体だけでなく絵で補助したあったほうが分かりやすかったかもしれません。
やや文章が荒々しい感じはしますが、それゆえにストレートに伝わる物がありました。素敵でした。
パルスィの過去話が少ない・・・というあとがきには同意です。そしてパルスィがか弱い側多いなー、というのも。
さとパルはお互いの弱い部分を知っていて、お互いに守って守られて、支え合える関係なのかな、って思います。個人的に。
嫌われ者の彼女達の、最果てという名の楽園に幸あれ。
そして、こいしちゃんはいつ帰ってくるのか。
続く事に(良い意味で)驚きつつ、早速読んできます。