「暑いな」
残暑厳しい夏の午後、日も沈みきらないうちから僕、リグル・ナイトバグは待ち合わせをしていた。
午後7時、東の里入り口に集合。
夜行性の妖怪にとっては『早朝』もいいところだが、相手は気にしていないようだった。
「そして遅いんだよあの駄雀」
約束の時間はとっくに過ぎていた。
木陰で涼みながら僕は思いだす。
あの日もちょうど、こんな天気だった。
◆
2004年9月。
夜が終わらなくなる異変があった。
もっとも当時の僕がそれが異変だと知ったのは全てが終わった後だったが。
異変だなんて知る由もなく、ただふらふらと散歩をしていただけなのだ。
そこにふと現れた影が3つ。
「・・・・・・」
思わず息を呑んだのを覚えている。
遠くからでもはっきり分かった。
月明かりの下、満天の星空を背負って『紅白』がよく映えていた。
傍らにいるのは老婆とキツネ。
会ったことはもちろんない。
しかし直感で分かる。分かってしまう。
「や、くも・・・・・・?」
そもそも『老いる』ほど生きられる妖怪のほうが珍しいのだ。
輝くような金色の尾など拝めることすら名誉なのだ。
鋭い眼光、ピンと伸びた背筋、居るだけで冷や汗の出てくる威圧感。
そして、桁外れの妖力。
それら全てが、目の前のそれが本物であることを物語っていた。
自分の口がだらしなく開いているのを自覚しながら、僕は動けなかった。
逃げるとか戦うとか、そんな考えは頭に浮かばず。
ただ見とれていたのだろう。
3人は僕の横を掠めるように通り過ぎると、一瞥もくれずに去っていった。
『助かった』という言葉より『すごいものを見た』という感動が先に来ていた。
それからどれくらい後だろう。
興奮の醒めない僕の耳に、聞き覚えのある歌が聞こえてきた。
一瞬で思考がめぐる。
蟲の知らせとかそんな冗談言っていられない。
気がつくと声の方に向かって飛んでいた。
普段壊れたテープレコーダーみたいに歌ってる時の声色じゃない。
攻撃を目的とした、人を狂わす『夜雀の歌』だった。
「お前、そこまでバカだったか!?」
全力で飛びながら、歌手の正気を疑う。
観客が誰なのか、分からないのか。
破砕音とともに、歌が止んだ。
最悪の可能性が脳裏をよぎった。
◆
墜落する姿が見えたのは幸運だったのだろう。
ミスティアは煙を引いて地面に激突した後、ピクリとも動かなくなった。
「ミスちー!」
血が止まらない。
「しっかりしろ!」
弾幕が直撃したのだろう。
わき腹の一部がごっそりとえぐられ、弾けた肉片が辺りに散乱していた。
上着をやぶいて止血に使い、頭を抱き起こす。
「おい!起きろ!」
「・・・・・・ぁ」
かすかに声が聞こえた。
「ミスちー!何やってんだよ!」
今言うことではなかったけれど、僕もきっと混乱していたのだろう。
「・・・・・・と、しやが・・・・・・た・・・・・・」
「なに?」
そのときの親友の言葉は、いまだに僕に刺さっている。
「お前を、シカト、しやが、た」
「・・・・・・」
さぁっと自分の体温が下がるのを感じた。
違う、あれは、見逃してもらったんだ。
その言葉を、ぐっとこらえた。
「わ、たしらは、妖、い、だ・・・・・・化け、物だ」
「舐められる、くらいなら、死んだ、ぅがましな・・・・・・」
「・・・・・・」
ガクリ、と腕の中が重くなった気がした。
「・・・・・ミスちー?」
「・・・・・・」
ミスティアは動かない。
「ミスちー!?おい!ミスティア!!返事しろ!!」
ミスティアは動かない。
「・・・・・・嘘だろ?」
ミスティアは動かない。
ミスティアは動かない。
ミスティアは動かない・・・・・・
気が遠くなった。
◆
あれからちょうど1年くらいか。
むせ返るような血のにおいも、夜空に映る紅白も。
かすれるような歌声も、絶望的な力の差も。
冷めていく体温も、輝く金色も。
何もかも、昨日のことのように感じられる。
本当に、やなことを思い出した。
「ていうか」
そしてちょうど。
「遅いんだよミスちー」
待ち人が来たようだ。
「わりーわりー、まだ6時くらいだと思ってたよ」
「こないだあげた時計はどうしたんだよ」
「ああ、ちゃんと居間にかけてあるよ?」
「あれは腕に巻いて使うんだ!」
「マジかよ!道理でちょっと小せーなと」
「ミスちーの脳みそほどじゃないよ!」
「んだとこらー!」
さて、そんなこんなで。
「で、どこ行くのさ」
「うまいうどん屋見っけたの」
「そりゃ楽しみだ」
今日は快気祝い。
という名のデートなのでした。
了
残暑厳しい夏の午後、日も沈みきらないうちから僕、リグル・ナイトバグは待ち合わせをしていた。
午後7時、東の里入り口に集合。
夜行性の妖怪にとっては『早朝』もいいところだが、相手は気にしていないようだった。
「そして遅いんだよあの駄雀」
約束の時間はとっくに過ぎていた。
木陰で涼みながら僕は思いだす。
あの日もちょうど、こんな天気だった。
◆
2004年9月。
夜が終わらなくなる異変があった。
もっとも当時の僕がそれが異変だと知ったのは全てが終わった後だったが。
異変だなんて知る由もなく、ただふらふらと散歩をしていただけなのだ。
そこにふと現れた影が3つ。
「・・・・・・」
思わず息を呑んだのを覚えている。
遠くからでもはっきり分かった。
月明かりの下、満天の星空を背負って『紅白』がよく映えていた。
傍らにいるのは老婆とキツネ。
会ったことはもちろんない。
しかし直感で分かる。分かってしまう。
「や、くも・・・・・・?」
そもそも『老いる』ほど生きられる妖怪のほうが珍しいのだ。
輝くような金色の尾など拝めることすら名誉なのだ。
鋭い眼光、ピンと伸びた背筋、居るだけで冷や汗の出てくる威圧感。
そして、桁外れの妖力。
それら全てが、目の前のそれが本物であることを物語っていた。
自分の口がだらしなく開いているのを自覚しながら、僕は動けなかった。
逃げるとか戦うとか、そんな考えは頭に浮かばず。
ただ見とれていたのだろう。
3人は僕の横を掠めるように通り過ぎると、一瞥もくれずに去っていった。
『助かった』という言葉より『すごいものを見た』という感動が先に来ていた。
それからどれくらい後だろう。
興奮の醒めない僕の耳に、聞き覚えのある歌が聞こえてきた。
一瞬で思考がめぐる。
蟲の知らせとかそんな冗談言っていられない。
気がつくと声の方に向かって飛んでいた。
普段壊れたテープレコーダーみたいに歌ってる時の声色じゃない。
攻撃を目的とした、人を狂わす『夜雀の歌』だった。
「お前、そこまでバカだったか!?」
全力で飛びながら、歌手の正気を疑う。
観客が誰なのか、分からないのか。
破砕音とともに、歌が止んだ。
最悪の可能性が脳裏をよぎった。
◆
墜落する姿が見えたのは幸運だったのだろう。
ミスティアは煙を引いて地面に激突した後、ピクリとも動かなくなった。
「ミスちー!」
血が止まらない。
「しっかりしろ!」
弾幕が直撃したのだろう。
わき腹の一部がごっそりとえぐられ、弾けた肉片が辺りに散乱していた。
上着をやぶいて止血に使い、頭を抱き起こす。
「おい!起きろ!」
「・・・・・・ぁ」
かすかに声が聞こえた。
「ミスちー!何やってんだよ!」
今言うことではなかったけれど、僕もきっと混乱していたのだろう。
「・・・・・・と、しやが・・・・・・た・・・・・・」
「なに?」
そのときの親友の言葉は、いまだに僕に刺さっている。
「お前を、シカト、しやが、た」
「・・・・・・」
さぁっと自分の体温が下がるのを感じた。
違う、あれは、見逃してもらったんだ。
その言葉を、ぐっとこらえた。
「わ、たしらは、妖、い、だ・・・・・・化け、物だ」
「舐められる、くらいなら、死んだ、ぅがましな・・・・・・」
「・・・・・・」
ガクリ、と腕の中が重くなった気がした。
「・・・・・ミスちー?」
「・・・・・・」
ミスティアは動かない。
「ミスちー!?おい!ミスティア!!返事しろ!!」
ミスティアは動かない。
「・・・・・・嘘だろ?」
ミスティアは動かない。
ミスティアは動かない。
ミスティアは動かない・・・・・・
気が遠くなった。
◆
あれからちょうど1年くらいか。
むせ返るような血のにおいも、夜空に映る紅白も。
かすれるような歌声も、絶望的な力の差も。
冷めていく体温も、輝く金色も。
何もかも、昨日のことのように感じられる。
本当に、やなことを思い出した。
「ていうか」
そしてちょうど。
「遅いんだよミスちー」
待ち人が来たようだ。
「わりーわりー、まだ6時くらいだと思ってたよ」
「こないだあげた時計はどうしたんだよ」
「ああ、ちゃんと居間にかけてあるよ?」
「あれは腕に巻いて使うんだ!」
「マジかよ!道理でちょっと小せーなと」
「ミスちーの脳みそほどじゃないよ!」
「んだとこらー!」
さて、そんなこんなで。
「で、どこ行くのさ」
「うまいうどん屋見っけたの」
「そりゃ楽しみだ」
今日は快気祝い。
という名のデートなのでした。
了
>老婆とキツネ
ギャグなのかガチなのか物凄く受け取り方に困ったww
ゆかりんをBBAと申したか!!
作者さんには永夜抄のプレイをオススメする。立ち絵から溢れる少女臭を堪能できるだろう。
ついでにリグルの一人称も確認した方がいい
あ、いやみすちーはヤンキーちっくなだけか?
次作で女の子だって言ってたからおまけでプラス10点しました。
ただ、リグルにもミスチーにも男っぽい台詞を喋らせようという製作者はあまりいない。
だから、多くの人はこの文章の冒頭の「男らしいリグル・ミスチ」を読んだときに強い違和感を覚えると思うんだ。
このssは良いssだが、奇抜な印象を減らしてもっと評価をあげるために、キャラの描写を入れてみたり、タグに配慮してみたり
いろいろやってみてはいかがでしょう。
男らしら半端ない。
確信犯であることから
免れえないのだ!
ひどい
だけど良かった 二人共男らしい。