Q、藤原妹紅と蓬莱山輝夜は弾幕ごっこ無しのガチンコの殺し合いならどっちが強いと思いますか?
A、強さなんて生きてりゃいくらでも変わりますからそんなのどっちでもいいですよHAHAHA。
「どどどっどうなってるのよこれぇぇぇぇ!? こんなの何かの間違いよ! 何で!? どうしてこうなったのよ!?」
「本当に久しぶりに本気を出してみればこれか。どうやら私ってば強くなりすぎちゃったみたいだね、ごめんね輝夜」
それは遠い遠い未来の幻想郷。
眩いほど光輝く満月が夜の闇に浮かぶ迷いの竹林にて、二つの影が照らされていた。
蓬莱の薬という禁忌によって不老不死の蓬莱人となった、二つのヒトガタ。
息を荒げて今にも倒れそうなほど満身創痍の輝夜と、余裕綽々で悠然と仁王立ちする妹紅。
「こっ、このおおおおおおおっ! 言わせておけばァッ! こうなったら取って置きを食らいなさいっ!」
輝夜は常人が受ければ跡形も無く蒸発してしまうほどの熱量を持った光弾を妹紅に放つ。
技の華麗さではなく単純な破壊力のみを特化させたそれは、弾幕ごっこではけして用いられない類の技。
それもそのはずで、なぜならこれは弾幕ごっこではない。
今二人の間に行なわれているのは、彼女達が幻想郷に来る以前に幾度と無く繰り返してきた純粋なる殺し合い。
最後に行なったのは遥か昔。
悠久の時を経て久方ぶりの、殺し合い。
「無駄無駄、この程度の攻撃じゃ掠り傷一つ負わないよ」
妹紅は大妖怪ですらも直撃すれば死を免れないような光弾をまともに浴びながらも平然と立つ。
まるで涼風でも受けているかのように。
取って置きの一撃が全く通用しないところを目の当たりにした輝夜は愕然としながら地に膝を突く。
信じられない、信じたくない、認められない、認めたくない。
だが輝夜にとって悪夢のような目の前の光景は紛れもない現実であった。
「何で……どうしてよ……スペルカードルールばっかりやっててしばらく本気で戦わないでいるうちに……何が……どうなって…………」
「まさかここまでとは思わなかったよ。強くなりすぎっていうのも考え物だね」
妹紅は自らの掌を開閉する様子を見つめて満足そうにため息を吐く。
自らの能力の高まりを実感できて、それはそれは愉しいのだろう。
「その力、どうやって身につけたのよ……!? どうやってそんなに強くなったの!?」
うろたえる輝夜の質問に対し、妹紅は遠い目をしながら答える。
「当時の私は不死身に甘えていたんだ……。古い漫画で例えをするなら万○さんの初期ぐらい酷かった……」
「……えと、○次さん? ○次さんって無限の○人の主人公の、あの不死身の身体とドラえ○んみたいに次から次へと武器を取り出すあの万○さん? 古い漫画だから記憶が曖昧だけど……」
「そうだよその○次さん。不死身に甘えて油断しまくって剣の腕衰えてたあの○次さんね」
「あ~……そういえば言われてみるとその漫画、最終回の終わり方はすっかり忘れているのに初期に万○さんが雑魚のハゲ三兄弟にあっさりメッタ刺しにされたところとか未だに覚えてるわ。モブに素で殺される主人公ってマジ衝撃的だったもの」
「そうなんだよ、その辺の雑魚に。不死身じゃなかったらその辺の雑魚キャラABCにも瞬殺されてたんだよ、その辺の雑魚に。むしろ切った雑魚ハゲの方が本当に上手くいくとは思わないでびっくりしてたもんね、雑魚だから」
○次さんの名誉のために付け加えるのなら、中盤で囚われの身となりお姫様ポジションを経た後はそのような甘さは消えつつあったし、不死身の体ゆえの戦闘の壮絶さと多数の武器を用いる殺陣は見る人の心を大きく震わせるものがある。
それでも不死身じゃなかったら死にまくっていたであろうところは変わらないしフォロー出来ないが。
「だから私は不老不死に頼らないように、自らの鍛錬を重ねた。法力とか、魔法とか、呪符を用いた人外相手に戦う外法の術を身につけようとした。でもね――」
そして妹紅はいきなりふふっと口元を歪める。
それは自嘲の色を含んでいた。
「私には才能が無かったんだ。だから体を鍛えたんだ……。毎日毎日布団の中でイメトレをずっとずっと」
「鍛えてねーじゃん!?」
「若いままの肉体を鍛え続けたらどうなると思う? 止まらないんだよ。成長――っていうか進化? 肉と骨がね」
「んなアホな!? プリセ○さんじゃあるまいし!?」
「まぁようするに単純なことだよ輝夜。鍛えていたのさ、ずっとずっとね。自らの不死身に頼らないように、その基本性能から叩き直してきた。力量差のある者同士でも対等な条件で戦うスペルカードルールのせいで、変化は長らく実感出来なかったみたいだけどね」
弱い者でも戦えるスペルカードルールのせいで自らの成長を実感できないとは、なんとも皮肉な話である。
それでも一応はしばらく前から妹紅は弾幕ごっこでもリザレクションを用いなくなったなどの変化はあったが、殺傷目的ではない弾幕ごっこ故に輝夜も深く考えず気付くことは無かった。
「まぁそういうわけだから、さっそく殺し合いを再開しようか。一方的な殺戮になるかもしれないから先にあやまっとくよ、ゴメンね」
「ひっ、ひぃぃ!?」
ジャリッ。
妹紅が輝夜の方に一歩足を踏み出した瞬間、輝夜は身を硬直させ後ずさる。
不老不死故に自らの命を失うことは恐ろしくないはずなのに。
死ぬほどの苦痛程度には今更怯むことはないはずなのに。
なのに輝夜は恐怖に足を竦ませ、今にも背を向けて逃げ出したい衝動に駆られた。
圧倒的な力量差の敵という、生きとし生けるもの全てが恐れるものの前ではそれも当然のこと。
それでも彼女を決闘の場に押し留めているのは、妹紅の宿敵であり続けたいという意思。
もっとも、それも風前の灯であった。
「うわあああああああああああああっ!!」
取り乱す輝夜の手から放たれる無数の火炎弾。
弾幕ごっこではまずありえないような、純粋な戦闘故の隙間一つないそれを前にして、妹紅はこれっぽっちも動揺していなかった。
何故ならば避ける隙間すらないそれは、妹紅にとって避ける必要すら無かったからだ。
輝夜の破れかぶれの全力攻撃も今の妹紅には全て被弾したところでまるで効果が無いため。
だが、それは先ほど披露した。
だから妹紅は別の形で絶望の返答を与えることにした。
フッ……。
逃げ場一つ無いほどの数の火炎弾は、妹紅の身に辿り着く前に煙と共に消え去った。
まるでドライアイスが解けた後の様に、跡形も無い。
輝夜が驚愕に瞳を開いて後ずさりする。
先ほどの話を聞くと、妹紅は新しい術を得たわけでは無さそうだ。
となれば、純粋な肉体能力によってかき消したという事になる。
目に見えないほどの速さで四肢を動かして消し飛ばしたのだろうか?
答えは否。
そんな労力なんて妹紅は使っていない。
指一本も動かしていない。
それを察した輝夜は恐怖に顔を引きつらせ尻餅をついた。
もはやプライドなんてものだけで強がることが出来ないほど、彼女は追い詰められていた。
「ま、まさか息だけでかき消した!? それとも気合!?」
「息でも気合でもないよ、輝夜。その正体はコレさ」
どんな恐ろしい攻撃がやってくるのか、輝夜はぐっと息を飲んで身構える。
だがそこで妹紅がとった行動はキラッと擬音を立てながらぱっちりとウィンク。
勿論律儀に横ピース。
パチンッ。
ズガァァァァァン!!
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
安っぽい爆発音と共に輝夜は突然吹き飛ばされ、固い地面にたたきつけられる。
「い、今のは……――」
パチンッ。
ドガアアアアアアアアアッ!!
「のおおおおおおおおおおっ!?」
再び宙に投げ出される輝夜。
あまりにも速いのか、もしくは無色透明の何かが襲い掛かってくるのか、その正体が見えない攻撃。
唯一の予備動作といえるものは、妹紅が行なうウィンクのみ。
(ウィンク……パチン……まさか、まさか!?)
先ほどからの火炎弾をかき消し、輝夜の肉体を木の葉のように吹き飛ばす衝撃波の正体。
輝夜が思い至ったその正体は、まばたき。
まばたきの――風圧。
妹紅の高速のまばたきによる衝撃波。
「どうやら気付いたみたいだね輝夜。正解だよ、今の攻撃の正体はまばたきだ。今ので大体2割ぐらいの力かな?」
「んなあほなあああああああああああっ!!? 筋力とかそんな問題超えてんじゃねーかぁぁぁぁ!」
余談だが河童が作った測定器でレベルで現したら輝夜は987。
日本一なソフトウェアのラスボスを瞬殺出来るレベルだ。
対する妹紅は8956421、もはや超魔王○ールを小指でなぎ倒して三時のおやつ代わりに気軽にむしゃむしゃ食べることが出来るレベルである。
二人の力関係は完全に逆転していた。
「ああありえないわよ!? こんな“ぼくのかんがえたさいきょうのもこたん”なんて認めないわ! 薄い本だって妹紅が優勢なのは殆ど無いじゃない! 私はこんなの認めないっ! 認めてたまるかぁぁぁぁぁぁっ!!」
パチンッ!
「どへぇー!?」
直接攻撃にと飛びかかってくる輝夜をウィンク一つで弾き飛ばし。
「ほほほ蓬莱の玉の枝ッ!」
パチンッ♪
「ギエピー!?」
強力な財宝の魔力もウィンクでぶちのめし。
「こうなればっ永遠と須臾を操る程度ののうりょ――」
パチンッ☆
「ぎにゃあぁぁー!」
時の壁すらも割ってしまう妹紅のまばたきの衝撃波。
挙句の果てにキラッ☆と横ピースで歌まで歌ってしまう。
もはや完全に舐めきってますこの子。
「『一度敗れた相手をレベルで上回る気分はどうだ』大魔王様の台詞だったっけ? 答えは、最高だよ。この長い長い人生でこんなにいい気分になったことはないね」
「あ……あ…………」
もはや輝夜に万策付き、策や戦術で状況を引っくり返せるような段階など遠い彼方。
妹紅は傷ついた輝夜の顎を手に乗せ、その悔しさと恐怖で歪んだ美貌を眺めて愉悦に浸っていた。
「『これが 本当にあいつかと思ってしまい にわかには自分の成長度がつかめないだろう。己の強さに酔う……どんな美酒を飲んでも味わえない極上の気分だぞ……』まさにその通りさ!」
妹紅はとろんと蕩けた顔で、輝夜と息が触れ合うほどの近さまで顔を近づける。
「輝夜……へこたれる輝夜は新鮮だなぁ……本当に可愛い……んっ――」
「もこう、いきなりなにするのっやめんんんんんっ――!?」
妹紅より突然行なわれる、無理矢理の口付け。
妹紅は輝夜のどんな名を響き渡らせた桜よりも鮮やかな桜色をした柔らかい唇、極上の甘露で出来たように甘い口内、絶世の美貌の中心たる顔にあるにも拘らず人目に晒されない矛盾を孕んだ赤き舌。
それら全ての生きた芸術品を妹紅は熱い舌で蹂躙し、甘い唾液を啜り、少女の肉体を味わう。
力づくで物にし、絶世の美貌を蹂躙する。
過去に想いあってその身を重ねあったことも何度もある二人。
よって輝夜が今失われるのは貞操ではない。
失われるのは、尊厳。
「ぷはぁっ……あぁ……輝夜ぁ……私はお前の事を本当はこうしたかったんだろうね……」
「はっ、はっ、はぁ………はぁっ……はぁっ……も……こ……」
呼吸が止まるギリギリまで唇を貪り、一度口付けを離した時に二人の間にあるのは唾液で形作られた淫靡な糸。
「輝夜、お前は私のものだ……ずっと、ずっと、永遠に私の所有物になるんだよ……」
「ひぃぃ……妹紅……どうしちゃったのよぉ…………」
妹紅は今始めて自覚した。
自分が輝夜に執着した当初の理由であった父が恥をかかされた恨みなんて、いつからかただの建前と成り果てたのだ。
藤原妹紅は単に、絶世の美少女蓬莱山輝夜を我が物としたかっただけ。
女の身で、彼女に欲情した。
力を求め続け、月の姫を狙い続けた理由はそれ。
努力に努力に努力を重ね、湖ほどの血反吐を吐いて月人の姫を越えた。
父の妄執は、娘が引き継いだのだろうか?
いや、そんな生易しいものではない。
今の妹紅は輝夜を奪おうと立ちふさがる者がいるとすれば、その父すらも排除するであろう。
「あぁ、輝夜ってやっぱり私よりも体温が低いんだなぁ……。すべすべで柔らかい……久しぶりだよこの感触。すっごく気持ちいいなぁ……」
「ひぃぃ……誰か助け…………」
「誰が来たって無駄だよ……。もし私から輝夜を奪おうとする奴がいたら返り討ちにしてやる……。誰であろうとね……」
妹紅は永き半生の中で輝夜と想い合って結ばれた時は幸せという言葉の意味はまさにこれなのだと思って永遠の命に感謝し、喧嘩別れをした時は不幸という言葉の意味を存分に味わい永遠の命を呪い即座に自殺したい衝動に駆られた。
だが、それもこれも全て自分が弱かったからああなったのだ。
もし自分が圧倒的に強ければ、輝夜はいつまでもいつまでもいつまでも自分の所有物となる。
「ずっとずっとずっと一緒だからね輝夜。あはっ、あははっ、あはははははははははははは――」
妹紅は輝夜を抱きながら何がおかしいのかケラケラと笑い続けた。
そんな妹紅の腕の中に抱かれるのは、宿敵であり友であり恋人でありとあらゆる存在であった少女の変貌に絶望した輝夜。
その光の消えた瞳からつぅっと涙が一筋流れた。
◆
~ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと遠い遠い遠い遠い遠い遠い遠い遠い未来~
資源が掘り尽くされて資源価値が無くなり更に長い時を経過した外の世界の地球。
外の世界も幻想郷も問わず外なる宇宙に人類と人外が飛び出し、そんな中残された星に二人はいた。
「輝夜、今日もいい天気だよ。一緒に散歩しようね」
「…………」
「んふふ~、輝夜ったら照れちゃって。ほら、いつもどおり手を繋いでいこっ」
妹紅は物言わない和人形のような輝夜の柔らかな頬に自らの滑らかな頬を擦り付けたかと思うと、今度は互いの手を繋いで未来的な作りの家の外に飛び出す。
残った人類は二人きりの星にも、太陽は燦々と煌いていた。
おめかしをした妹紅は生気のない輝夜をお洒落に着飾り、もはや遺跡と同じく観光という用途にしか使えない町並みを引き連れて歩く。
互いの手は固く固く繋がれている。
それは妹紅によるもので、輝夜から握り返してくる力はまるでない。
生ける人形に何かを握る力なんてあるはずがない。
だが今の妹紅はそんな輝夜から肌を離すことすら嫌がっていた。
永遠に続く時間の中、ずっとずっとこうしてきた。
輝夜のことを飽きないのかと言われれば、飽きるはずが無いと妹紅は答える。
いや、もはやそんな次元では無い。
例えるなら水を飲む事を飽きる飽きないという次元で話す人間なんているのだろうか?
妹紅にとって輝夜は水で、無くてはならない存在であった。
もはや輝夜と水さえあれば生きていける。
「ほら、輝夜。あ~んして、あ~ん」
「…………」
「はいよく出来ました~。輝夜、美味しい?」
「…………」
「えへへ~♪ 美味しいかな? 美味しいはずだよね。むしろ美味しいに決まってる♪」
そんな妹紅もたまに輝夜と宿敵として喧嘩していた頃の事が記憶に上ることもある。
あの頃の関係も凄く楽しかった。
宿敵から同性の夫婦まで、ありとあらゆる関係を網羅した自分達。
妹紅と輝夜、永遠の二人の関係を表す言葉はそれだけでいい。
そんな関係。
だが、妹紅が思うにそれも仮初の永遠だった。
想い結ばれ、そして破局、それからまた宿敵に戻り、まれに無関心となり、また宿敵に、そしてときたま想い結ばれ、また破局。
違うのだ、そうではない、そんなの永遠の幸せじゃない。
だからこそ妹紅は、輝夜を力づくで我が物にしようとした。
そしてとうとう妹紅は輝夜を我が物に出来て、幸せで幸せでたまらなかった。
「ねぇ、輝夜は今幸せ? 私は幸せだよ」
「………………」
輝夜は時が止まったかのように口を開かない。
最後に輝夜が喋ったのはいつのことだろうと、記憶を辿っても追いつけないほどの時を彼女は妹紅の愛玩人形として過ごしていた。
「もし輝夜が不幸せでも、私から離れたいって思っていても、それは出来ないよ。今の私にとって輝夜がいなくなる事は怖いんだ……。行動範囲が宇宙にまで広がった今だと一度離れたら次に会えるのはいつになるかわからない」
「………………」
「それに不老不死の秘密を知ろうと襲ってくる奴がいるかもしれない、輝夜が可愛いから慰み物にしようと狙う奴等がいるかもしれない。そんな奴等みんな私が蹴散らしてあげる。守ってあげる。私がいる限りずっとね。だから輝夜は私と一緒にいることが一番幸せなんだよ」
「………………」
「そういえばさ、昨日ね、輝夜と思いっきり殺し合った頃の夢を見たんだ。脳じゃなくて魂に刻み付けられている記憶が思い出させたんだろうね」
「………………」
「聞いてないんだったらいいよ、ただの独り言だから。でも、凄く懐かしかったなぁ。あの頃も楽しかったね――」
「…………ねぇ、妹紅」
それを最初は聞き間違いだと妹紅は思った。
だがそうではないと気付くと、妹紅はまるで幼い子供のように無邪気に笑った。
「うっわぁぁっ! 輝夜ったら喋るの23051年ぶりじゃん! あ~、やっぱり鈴の鳴るような声っていうか可愛い声してるよね!」
「……妹紅」
「あぁごめんごめん、つい感動しちゃっていたよ。ところでどうかしたの? 何か言いたいことあるの? 私から離れたいっていう事以外なら何でも聞くよ」
「……今でもまた、殺し合いをしたいって思う?」
妹紅は最初輝夜の言葉の意味がわからず首を傾げたが、それを理解した瞬間ぷっと吹き出した。
そしてケラケラとひとしきり笑うと、笑いすぎて滲んできた涙を拭いながら輝夜に話しかける。
「あ~、懐かしいからまた童心に帰ってやってみたいとはたまに思うけど、どうせ無理じゃん私強すぎるし」
「――そう、わかったわ」
「え?」と妹紅が反応した瞬間にはすでに遅い。
輝夜が妹紅の手を払い、二人は道路の白線を隔てて分かれていた。
数世紀一言も発することの無かった輝夜が、数十世紀逆らうことの無かった輝夜が。
圧倒的な力の差故に手を振り払うことすら出来なかった輝夜が。
「うっうわああああああああああああああっ!!?」
手を振り払われ離れただけなのに、妹紅にしてみれば常人が四肢をいきなりもがれたほどの衝撃であろうか。
輝夜に極限まで依存していた彼女は、それが離れたことに耐えられず絶叫する。
狼狽する彼女に輝夜はツカツカと歩み寄り、パシンと平手で打つ。
「痛いぃぃ!?」
「あら? ぶたれる感触すらも忘れたの? 強すぎて相手がいないって言うのも考え物よ、妹紅」
「何で……なんでだよ輝夜ぁぁ……私のこと嫌いになっちゃったの?」
「いいえ、妹紅。私は今でも貴方のことは好きよ! 大好き! めっちゃ愛してる! 殺してずっと傍におきたいぐらい好きよ! こんな関係になっても私は相変わらず貴方の事が好きなの! 長い付き合いだもの、一度や二度ぐらい何かあったぐらいで本気で嫌いになんかならないわ!」
「じゃあ何でぇっ! 何で私を拒否するんだよぉっ! 私から離れようとするんだよぉっ! 私はこんなに輝夜のことを愛しているのに……」
「いいえ、これは否定ではなく矯正よ。歪んだ愛なんて愛じゃない! ただの所有欲よ!」
そして輝夜は妹紅に向け、遠い恒星から地球へと届く光のように真っ直ぐに指を示す。
「今私は貴方に正気を取り戻させる! 貴方がそうなったのは私が弱かったことが原因! 認めるわ、私が悪かった! だから藤原妹紅は私が取り戻す! そして再び殺し合いと寄り添い合いと別離を繰り返すの!」
妹紅が強くなっていたことを認められなかった自らの弱さがこの状況を招いた。
輝夜は長い時の中でずっと悔やみ続けてきたのだ。
「そんなの……そんなの永遠じゃない! 私は輝夜、お前とずっと一緒にいたいからこうして――」
「安心して、妹紅。私達の関係は永遠なのよ。喧嘩して、馴れ合って、殺しあって、無関心になって、寂しくなって、仲直りして、また喧嘩して――――お互いが生きている限り輪廻の輪のように私達の関係は巡りあうの。永遠にね」
輝夜は慈母のような優しい微笑みで妹紅に向け、そして宣誓する。
「そして……この対立する今も――永遠の輪の一部よ!」
だから次の段階に進もう、貴方が生きている限り私も付き合う。
輝夜から放たれるは永遠の時を共にしようという覚悟を孕んだ言葉。
けれど妹紅は受け入れられない。
「世迷言を……。私はそんなの絶対に嫌だ……。これ以上輝夜と体を離すこともやだ……。輝夜、それを私に納得させようとするのなら、私を倒してからにしなよ……」
「容易いことよ、さぁ始めましょう。もはや殺し合いにすらならないけどね、私が強すぎて」
「このっ……私とお前にどれだけの力の差があると思って――」
不敵に笑う輝夜を睨みながら妹紅は河童印のレベル測定器(という言い訳をしたけどぶっちゃけただのス○ウター)を身につけ、輝夜のレベルを測る。
どうやって強くなったか知らないが、今の自分はレベル8956421。
油断さえしなければ一ひねりすることぐらいは容易いに違いないと、今度はこのような間違いが起こらないように調教する必要があるなと、妹紅はにやりと口元を歪め――
蓬莱山輝夜レベル999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999
「どへー!?」
「その反応だと、どうやら私ってば本当に強くなりすぎちったみたいね」
間抜けな悲鳴も上げる妹紅と、てへぺろしながら頭を掻く輝夜。
今の輝夜を他作品とクロスオーバーなんてさせたら最低系の謗りと共にブーイングの嵐が待ち構えているだろう。
「ど……どうやってそこまでレベルを上げたんだ!? 四六時中ずっと私と一緒にいて、強くなるために体を鍛える暇なんて無かったはずなのに!?」
「イメージトレーニングよ!」
「お前はボンガロ版ジョー東か!? フルボッコにされてベッドの上でイメトレやってるだけで死の淵から蘇ったサイヤ人の如く超強化されたジョー東か!?」
イメトレぱねぇ、すごいね人体。
「ただのイメトレじゃないわ! 毎日毎日妹紅を蹂躙するイメージトレーニングをしていたのよ! 性的な意味で!」
「それはイメージトレーニングじゃなくて妄想だ!?」
「ふっふっふ~、そういえば力の差を示す為にあの時の妹紅は高速の瞬き一つで私の技をかき消したわね。でも私はそんなことはしないわ、私がこれからするのはあくまでも愛ゆえの奥義よ」
「ななな、何をする気だよ?」
「それは当然、私が主導権を握る愛情表現よ!」
この異常な高レベルからどんな想像を絶する攻撃が行われるのか。
妹紅は脂汗を浮かべながら逃げ出したい衝動に駆られたが、何処に逃げても無駄だという諦めめいた感情がうっすらと浮かんで来る。
自分のレベルですらまばたきだけであの威力だったのだ、それを遥かに上回るレベルとなった今の輝夜ならただの生理反射でも自分を消し炭に変えることぐらいわけのないことであろう。
それは長らく忘れていた、死の感覚。
だが恐ろしい想像にガタガタと震える妹紅に対し、輝夜がこれより行なう行動はけして攻撃などという物騒なものではなかった。
一応は。
「じゃあ行くわよもこたん! 私の愛の接吻で正気に戻りなさい! やばいわ私が攻めなんて久しぶりだから超緊張するわ!」
「ちょっまってタンマやめてインフレの限界を超えてるレベルで下手に動くな迂闊なことをするな何もするなやめ――」
「高鳴るぞ我が恋のビートォォォ!」
チュッ!
として――
ドッキーン!
そして一つの星が崩壊した。
あとがきまでえーりん完全に忘れてたわw
ていうか普通に相思相愛で吹いたw蓬莱人は過去未来宇宙とフリーダムに舞台設定できて素晴らしいですね。
いつえーりんが莫大な戦闘力を引っ提げて乱入するのかハラハラしてたら、これだよ。
一京のスキルはえーりんかな。髪色的に。
面白かったです。
ふしぎ!
あと妹紅の「どへー!」って悲鳴とウインクへの輝夜のツッコミでわらた
関係なく面白かったけどね!!