タグの通りの珍カプです。お気を付けください
私の休日の過ごし方、それは幻想郷に出てきて、人や妖怪達に己の善行を積むように諭すことである。人は私を説教くさいだの言い、会えば大概顔を歪めるが、私は気にしない。私が善行を積むよう諭し、いざ裁判を受けるときに、その善行のおかげで地獄行きを逃れることが出来ればきっと私の言葉に感謝するでしょう。それならば嫌われ者でも構いません。これが私のすべき善行なのです。
そんなわけでこの休日も、ある妖怪のところへ行つもりなのです・・・・
「ふぅ、ここはいつ来ても綺麗に咲いてますね」
私は太陽の畑に来ていた。その一面はヒマワリによって色づいており、そのほかにも多種多様な花々が咲き誇っている。
目的は人物(いや妖怪か)はもちろん、この太陽の畑に住まう風見幽香である。
「あら、また来たの?」
後ろから声をかけられ、少しドキッとしつつも振り返る。
「もちろんです。私は貴方にもっと善行を積んで貰うために来ているのですから。」
“また”と言うのは、私が休日の度にここに来ているからだ。もちろん他の場所も回ってくるが、最近はいつも最後にはここに来る。
「はぁ、もう説教は懲り懲りよ。閻魔の仕事ってそんなに暇なのかしら?」
大げさにため息をつきながら肩をすくめる幽香。もちろん閻魔の仕事は暇などではない。むしろ大忙しである。
「説教ではありません。善行を積むように諭しに来たのです。そもそも貴方には協調性というものがありません!」
「あぁ、はいはいわかったわかった」
「わかってません!そりゃ妖怪ですから、他の者、特に人間となれ合う事はそうそう出来ないでしょうけども、協調の心を少しぐらい持ってもいいと思うのですよ。そんなんだから御阿礼の子には毎回友好度最悪と書かれるのです!少なくとも人の話にはちゃんと耳を傾けなさい!」
「そうね、考えておくわ」といつも変わらない笑顔で返してくる。
むぅ・・・・。
風見幽香はいつもこうだ。だいたい何を言ってもこんな感じにあしらわれる。八雲紫でさえ、耳ぐらいは傾けてくれる(と見せかけて、実際は完全に聞き流している)。そしてなぜか毎回私ひとりで熱くなってしまう。普段冷静な私なのに、どうも風見幽香の前ではおかしくなってしまうのである。しっかりせねば・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「来たわね。」
太陽の畑に近づいてくる気配を感じ、少し浮つく心を抑えながらその気配のする方へ歩いてゆく。
「あら、また来たの?」
そう声をかけると、気配の主は少し驚いたような顔でこちらへ振り向く。
気配を消して近づいたので驚かせてしまったようだ。まぁ、わざとだけど。
「もちろんです。私は貴方にもっと善行を積んで貰うために来ているのですから。」
「はぁ、もう説教は懲り懲りよ。閻魔の仕事ってそんなに暇なのかしら?」
さも当然だという言葉に、私にとってはなんと言う事はない皮肉で返す。
少しむっとした顔で言い返してくるのだが、それに対しても「あぁ、はいはいわかったわかった」と適当にあしらう。
そういう私の態度にひとり熱くなっていく閻魔を見るのが楽しい。勝手に自滅していってるだけなのだが、そんな様子に私の嗜虐心がくすぐられるのだ。そして熱くなるに従って赤くなる顔に可愛く、愛おしく思われる。
そう、私はこの四季映姫という閻魔の事が好きなのである。
なぜかと問われればあのときが原因なのかもしれない。
それは、その閻魔が初めて説教をしにここに来たときだった。
閻魔が説教をしてまわっているというのは知っていた。とうとうこんな所まで来たかと思い、長々と説教を聞くなんて死んでも嫌なので逃げようかと考えたのだが、不運にもすぐさま見つかってしまい逃げ出すチャンスを逃してしまった。しかたなく予想以上に長々とした説教を適当に聞き流していた。その内容も今日と同じような内容だった。
『貴方はもっと善行を積むべきです』
その言葉の“もっと”というところに、私は疑問に思った。自慢ではないが彼女が言うような善行を、私は自分自身積んでいるとは思っていない。
『“もっと”ということは、私は既にいくらかの善行を積んでいるのかしら?』
私の中の疑問を言葉にして聞いてみると彼女は少し嬉しそうな顔で、周りの花々を見ながら
『こうやって美しい花々を育てるのはすばらしい事だと思います。』
そう言いながら私の方を向き
『私は貴方のその能力を羨ましく思いますよ。』
と屈託のない笑顔で、そう答えた。
このせいで私は彼女を好きになってしまったのだ。
私の能力を羨ましいと言ってくれたからだろうか、いやそれだけではない。単純にその笑顔に惹かれたのだ。いつもしかめっ面か眉間にしわを寄せている表情しかしていないのに、そんな表情もできるのかと。花妖怪が聞いてあきれる、その笑顔はどんな花よりも綺麗だった。
だから私は、私の態度に赤くなっていく彼女のその顔よりも、本当はあの笑顔が好きなのだ。しかしあれ以来“笑顔”は見ていない。いつも決まった日に必ず来てくれるのは嬉しいのだが・・・。
「~~~人の話にはちゃんと耳を傾けなさい!」
という言葉に回想の世界から現実に戻される。
「そうね、考えておくわ」
と答えるのだが、“聞いていませんでしたね”という顔をされたので、“聞いてたわよ”という笑顔で返した。
「まったくもう!」
怒らしてしまったようだ。まぁ実際聞いていなかったのだから仕方ないが。
どうやったら怒りを静めてくれるだろうかと考え、彼女の帽子を取り、頭を撫でてみた。
こんな事では笑顔にはなってくれないだろうとは思うが怒りぐらいは静めてくれるだろう。
「な、な、何をするんですか!もう、まったくまったく!」
どうやら逆効果だったらしい。その顔は笑顔どころか真っ赤にして頭から湯気を出している(実際は出してないけどそんな感じがする)。
まぁこれはこれで。
「あ、あんまりバカにしないでくださいね。私はもう帰ります。また来ますからね!」
といいながら飛び立つ彼女に「もう来なくていいわよ。」などと言う。いつものことだ、また来てくれると信じているからこんな事が言えるのだと思う。
手を振り見送り、小柄な閻魔の姿が見えなくなった後、私はひとりため息をついた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「もう、私には風見幽香という妖怪がわかりません。突然あんなことして・・・」
昨日のことを思い出して一人ごちる。
「急に頭を撫でるなんて、体の悪いいたずらです。」
などと言いながらも、自分の頭を撫でるその手は決して乱暴なものではなく、むしろやわらかく優しい手つきだったことを思い出す。
「な、何を考えてるのでしょう私は。仕事をしなくては。」
熱くなる自分の顔に気付かないふりをして、途中までしか進んでいない仕事を再開する。
なぜ仕事の途中に幽香のことを思い出したかと言えば、仕事机の上に飾ってある花が目に入ったからだ。この花は幽香から大分前に貰ったものだ。未だに枯れずに無機質な閻魔の仕事場に彩りを与えている。
閻魔の仕事はとても忙しい。それはもう忙しい。2交代制なのだからそれほど忙しくないのではないかと思われるが、なにも閻魔の仕事は死者を裁く事だけではない。デスクワークや雑務だってたくさんあるのだ。だから片方の閻魔が裁判官として死者を裁いている間でも決して暇などではなく、別の仕事をしているのである。
おまけに閻魔内でも派閥があったりと色々面倒な事もあったり、部下は毎度毎度サボったりと、仕事が増えていく事なんてざらである
「せめて小町がもう少し真面目に働いてくれたら・・・」
はぁ、とため息をつくと
「私がなんですか?」
調度私の所にやってきた小町が自分の名前に反応したようだった
「いいところに来ましたね小町。先日別の死に神から貴方がまたサボっていたというタレコミがありました。また貴方にはいろいろと話す事があるようですね。」
「うわ~~~ん、変なタイミングに来ちゃった~~」
と泣く小町に二刻ほど勤労の尊さについて話をした。部下の教育も立派な仕事です。
「四季様、仕事のストレスを私にぶつけてません?」
一息ついたところで小町にそんなことを言われた。
「おやおや小町。貴方が私の事をそんな事をするような上司だと思っていたなんて・・・。これはまだまだ説教もとい教育が必要のようですね。」
とニコリと笑いかける。
「うわ~~~~んやぶ蛇だった~~~~」
はぁ、小町のせいで全然仕事がはかどりませんね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
休日、いつも通り善行を積むよう諭すために幻想郷を回り、そして最後に太陽の畑へとやってくる。いつも通りなのだが、今日は些か疲れた。
なぜなら、この休みはおよそ一月ぶりの休みなのである。つまりこの一月急に仕事が増え、例のごとく小町はサボり、ずっと働きづめだったのだ。
「少し休みましょうかね。」
そういって、太陽の畑でも少し小高くなっているところに腰を下ろす。ここからは太陽の畑に咲いている花々を一眸できる。
その日はとても暖かい日和だった。一月前はまだ肌寒く太陽の畑に咲くヒマワリにも違和感があったが、今日という日の暖かさは、季節とヒマワリの間から違和感をぬぐい去っていた。
その暖かさに思わず欠伸が出、まぶたが重くなる。ここ一月の疲れも相まってか、猛烈な睡魔が訪れる。
「いけ・・ません・・・、こん・な・・ところで・・・眠って・・は・・・」
そう言いながらも、体は船をこぎ始め・・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
久々にその気配を感じた。その実一月ぶりだろうか。まさか前回言った「もう来なくていいわよ。」という言葉を真に受けて、本当に来なくなってしまったんじゃないかと気が気でなかった。
だから今、その気配の下へ急ぎ足で向かっているのは仕方ない事なのである。
すぐに小高い場所に座っている閻魔の姿を見つけた。いつも通り気配を消して声をかけようと思ったのだけれども、少し様子が違った。
その小柄な体は前へ後ろへ揺れていた。おかしいなと思いつつゆっくりと近づいてみる。するとその体が後ろへ倒れそうになる。突然の事で慌てたが、すぐにその体を抱きかかえる。間一髪頭が地面に着く前に抱きかかえる事が出来た。
彼女の顔をのぞき込むと、そこには愛らしい寝顔があった。
「なんだ、驚いた。」
ふぅ、と息をつくが、改めてその顔を見てみると、顔色は決して良くはなかった。
「疲れているのね。」
この一月の間ここに来なかったのも閻魔の仕事が忙しかったからだという事がその顔色からすぐにわかった。
帽子を取り、頭を膝の上にのせてあげる。
自分の家のベッドに寝かせようかと考えたが、ヘタに動かして起こしてしまうのもかわいそうだ。今日はとても暖かいしこのまま寝かしてあげよう。
そんな事を考えながら、頭を撫でると
「ゆうか・・・・」とつぶやいた
名前を呼ばれドキッとしたが、寝言だとわかりホッとする。しかし寝言でも自分の名前を呼ばれるのは嬉しい。私の夢を見てくれているのだ、嬉しいに決まっている。
しかしその後すぐに「善行を・・・」とも言われ、ガクッと肩を落とした。
「はぁ、そんなものか・・・」
肩を落としながらも、寝顔を頬笑ましく見つめ、疲れて眠ってしまった映姫が起きるまで膝枕をするのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
深いまどろみの中、優しく頭を撫でられる感触にふとなぜか風見幽香の顔を思い出す。その顔は普段見せる笑みとは違い、優しい笑顔だった。
そんな顔も出来るのかと驚くとともに、とても良い笑顔だなぁと思い、そしてそのままストンと深い眠りに落ちていった。
ハッと気付いたときには西へと沈む太陽が消えていくのが見えた。太陽の畑に来たのが昼頃であるから、かなりの時間眠っていたようだ。
「あら、起きたの?」
という言葉に驚き、空の方へ目を向けるとそこにはいつもの笑みを見せる風見幽香の顔があった。
あまりの驚きに数秒の間固まる。そして後頭部に柔らかい感触があるのに気付いた。膝枕をされていたようだ。
「な、なんで?」
動揺する心を何とか抑えて、その言葉を絞り出す。
「暢気に寝ている閻魔にいたずらしようと思ってね。」
その言葉を聞いて慌てて顔を触る。触った感じ特に異常はない。
「冗談よ。そんな疲れた顔した奴に何かするほど私の心は腐ってないわ。」
それを聞きホッとするが、同時に、では幽香は長い間私を介抱してくれたのか?という疑問が生まれた。だがその疑問を口にする前に
「今日は家に泊まって行きなさい。」
え?と声を出すので精一杯だった。訳もわからないまま、なすがままに連れて行かれるのだった。
あれよあれよという間に幽香の家に到着し、お風呂に入り、夕食まで頂いてしまった。ここまでくるとさすがに動揺は無くなったが、しかし頭の中は疑問でいっぱいだった。
「はい、カモミールティー。落ちつくわよ。」
そのお茶からはとてもいい匂いが漂っていて、たしかに落ちつく。
私は思いきって頭の中の疑問をぶつけてみた。
「どうして幽香はこんなにも私によくしてくれるのですか?」
いきなりの質問に驚いたのか、え?という声をあげる
「それは、貴方が疲れた顔をしていて、そのまま送り出したらきっと途中で倒れてたかもしれないからよ。この太陽の畑から飛び立っていった貴方が途中で倒れたら、私が何かしたみたいじゃない。だからよ」
「それに貴方の言うところの善行とやらを積んでみただけ。それだけよ。」
と言うと、後ろを向いてしまった。
幽香らしいとも思えたが、何故か違うとも思えた
構わずさらに私は疑問を投げかける。
「では幽香、貴方は私が眠っている間ずっと膝を貸してくれていたのですか?」
「違うわ、寝ている貴方を見つけて、いたずらしようと思って膝に貴方の頭をのせたの。それは貴方が目覚める少しだけ前よ。だからずっとじゃないわ、そんな疲れることしたくないもの。」
後ろを向いたまま幽香は答える。
それは嘘だな、とすぐに思えた。
なぜなら、私はかなり長い時間眠っていたのだ。そんな長い間頭を地面に付けていれば痛くなっても仕方ないはずである。でも痛みなど少しもなかった。
さらに地面に頭を付けていたなら帽子に土や葉、そして皺がが付いていてしかりである。しかし私の帽子には汚れ一つ、皺一つ付いていなかった。
だからきっと幽香は、私が地面に横になる前に私の頭を自分の膝の上にのせて、帽子を預かっていてくれたのだろうと思う。
でも、それを指摘するのは止める事にした。それは野暮であると思ったから、そして後ろを向いた幽香の顔が少し赤らんでいたからだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
映姫の疲れた顔を見てしまい。勢いで家に泊まらせてしまったが、ほんの少しだけ後悔している。なぜなら彼女が投げかける質問に私がしどろもどろになっているからだ。
疲れている彼女を送り出すのは心配だったのは本当だ、だが“自分が何かしたみたいじゃないか”というのは本心を隠すためのものだ。
膝枕の事なんて完全に嘘である。
なんとかそれっぽいことで本心は隠しているが、顔の熱さを隠す事は出来ない。私は急いで後ろを向いて
「さぁ、疲れているならもう寝なさい。(普段から使ってない)客間があるから」
そういって、彼女に寝るように促す。
客間の灯りは付けず、ベッドへと案内する。映姫がベッドに横になるのを確かめて、そそくさと部屋を出ようとドアの方へ向かうが、声をかけられ歩みを止める。
「幽香、貴方は私が思っているよりもずっと優しいですね。」
優しいなんて言われるのは初めてだ。驚いて映姫の方を向くと、そこには笑顔があった。
部屋の中には灯りはなく、満月の月明かりだけが部屋を照らしている。それでもその顔は笑顔だとわかった。それは私がずっと見たかった笑顔だ。
映姫は「おやすみなさい」と言うとベッドに横になった。
私も「おやすみ」と返し、部屋から出た。
月明かりで赤くなった顔が照らされなかったかと心配になりながらも、私はうれしさで踊り出しそうだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
朝目が覚めるとベッドの上だった。そうだ、幽香の家に泊まったのだと思い出すのと同時に仕事があるのを思い出す。時刻は既に間に合うかどうかの境目である。
急いで支度をしていると、家主の風見幽香が部屋をのぞき、そんなに慌てなくてもいいわよと言った。しかし実際は慌てなくてはいけない時間である
そろそろ遅刻も怪しくなってきた頃、ようやく準備も出来、職場である是非曲直庁へ急ぐ、という時分、幽香が待ってと呼びかけてきた。焦る気持ちを抑えて幽香の方を向くと、いきなり抱き抱えられてしまった。
「なんです!?」
驚きと疑問の声を上げると
「しっかり捕まっていなさい。」
と言って、ものすごい早さで飛び立つ
いつかの御阿礼の子が幻想郷縁起に、“幽香は遅い”と書いてあったが、どうやら間違いのようである。稗田阿求には書き換えるように言っておこう。
それからしばらくしないうちに、彼岸に着いた。ここまで来れば、十分間に合う。遅刻するかもしれないという焦燥が嘘のように間に合ってしまった。
「ありがとうございます、幽香」と礼を言う。
「この程度大したことじゃないわ。」
とは言うが、私の遅刻回避の恩人である。それになんといってもあの風見幽香がここまでしてくれるのが嬉しかった。
「やはり幽香はやさしいですね」
と嬉しさで笑いかける。そうすると幽香はここまで飛んできた方を向き小さな言葉で
「あなただけよ。」
その言葉だけを残し、すぐさま来た方向へと飛んでいってしまった。
そのときチラリと見えた幽香の顔は熟れた林檎のように真っ赤で、それを見た私の顔も熱くなっていくのがわかった・・・・。
私の休日の過ごし方、それは幻想郷に出てきて、人や妖怪達に己の善行を積むように諭すことである。人は私を説教くさいだの言い、会えば大概顔を歪めるが、私は気にしない。私が善行を積むよう諭し、いざ裁判を受けるときに、その善行のおかげで地獄行きを逃れることが出来ればきっと私の言葉に感謝するでしょう。それならば嫌われ者でも構いません。これが私のすべき善行なのです。
そんなわけでこの休日も、ある妖怪のところへ行つもりなのです・・・・
「ふぅ、ここはいつ来ても綺麗に咲いてますね」
私は太陽の畑に来ていた。その一面はヒマワリによって色づいており、そのほかにも多種多様な花々が咲き誇っている。
目的は人物(いや妖怪か)はもちろん、この太陽の畑に住まう風見幽香である。
「あら、また来たの?」
後ろから声をかけられ、少しドキッとしつつも振り返る。
「もちろんです。私は貴方にもっと善行を積んで貰うために来ているのですから。」
“また”と言うのは、私が休日の度にここに来ているからだ。もちろん他の場所も回ってくるが、最近はいつも最後にはここに来る。
「はぁ、もう説教は懲り懲りよ。閻魔の仕事ってそんなに暇なのかしら?」
大げさにため息をつきながら肩をすくめる幽香。もちろん閻魔の仕事は暇などではない。むしろ大忙しである。
「説教ではありません。善行を積むように諭しに来たのです。そもそも貴方には協調性というものがありません!」
「あぁ、はいはいわかったわかった」
「わかってません!そりゃ妖怪ですから、他の者、特に人間となれ合う事はそうそう出来ないでしょうけども、協調の心を少しぐらい持ってもいいと思うのですよ。そんなんだから御阿礼の子には毎回友好度最悪と書かれるのです!少なくとも人の話にはちゃんと耳を傾けなさい!」
「そうね、考えておくわ」といつも変わらない笑顔で返してくる。
むぅ・・・・。
風見幽香はいつもこうだ。だいたい何を言ってもこんな感じにあしらわれる。八雲紫でさえ、耳ぐらいは傾けてくれる(と見せかけて、実際は完全に聞き流している)。そしてなぜか毎回私ひとりで熱くなってしまう。普段冷静な私なのに、どうも風見幽香の前ではおかしくなってしまうのである。しっかりせねば・・・
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「来たわね。」
太陽の畑に近づいてくる気配を感じ、少し浮つく心を抑えながらその気配のする方へ歩いてゆく。
「あら、また来たの?」
そう声をかけると、気配の主は少し驚いたような顔でこちらへ振り向く。
気配を消して近づいたので驚かせてしまったようだ。まぁ、わざとだけど。
「もちろんです。私は貴方にもっと善行を積んで貰うために来ているのですから。」
「はぁ、もう説教は懲り懲りよ。閻魔の仕事ってそんなに暇なのかしら?」
さも当然だという言葉に、私にとってはなんと言う事はない皮肉で返す。
少しむっとした顔で言い返してくるのだが、それに対しても「あぁ、はいはいわかったわかった」と適当にあしらう。
そういう私の態度にひとり熱くなっていく閻魔を見るのが楽しい。勝手に自滅していってるだけなのだが、そんな様子に私の嗜虐心がくすぐられるのだ。そして熱くなるに従って赤くなる顔に可愛く、愛おしく思われる。
そう、私はこの四季映姫という閻魔の事が好きなのである。
なぜかと問われればあのときが原因なのかもしれない。
それは、その閻魔が初めて説教をしにここに来たときだった。
閻魔が説教をしてまわっているというのは知っていた。とうとうこんな所まで来たかと思い、長々と説教を聞くなんて死んでも嫌なので逃げようかと考えたのだが、不運にもすぐさま見つかってしまい逃げ出すチャンスを逃してしまった。しかたなく予想以上に長々とした説教を適当に聞き流していた。その内容も今日と同じような内容だった。
『貴方はもっと善行を積むべきです』
その言葉の“もっと”というところに、私は疑問に思った。自慢ではないが彼女が言うような善行を、私は自分自身積んでいるとは思っていない。
『“もっと”ということは、私は既にいくらかの善行を積んでいるのかしら?』
私の中の疑問を言葉にして聞いてみると彼女は少し嬉しそうな顔で、周りの花々を見ながら
『こうやって美しい花々を育てるのはすばらしい事だと思います。』
そう言いながら私の方を向き
『私は貴方のその能力を羨ましく思いますよ。』
と屈託のない笑顔で、そう答えた。
このせいで私は彼女を好きになってしまったのだ。
私の能力を羨ましいと言ってくれたからだろうか、いやそれだけではない。単純にその笑顔に惹かれたのだ。いつもしかめっ面か眉間にしわを寄せている表情しかしていないのに、そんな表情もできるのかと。花妖怪が聞いてあきれる、その笑顔はどんな花よりも綺麗だった。
だから私は、私の態度に赤くなっていく彼女のその顔よりも、本当はあの笑顔が好きなのだ。しかしあれ以来“笑顔”は見ていない。いつも決まった日に必ず来てくれるのは嬉しいのだが・・・。
「~~~人の話にはちゃんと耳を傾けなさい!」
という言葉に回想の世界から現実に戻される。
「そうね、考えておくわ」
と答えるのだが、“聞いていませんでしたね”という顔をされたので、“聞いてたわよ”という笑顔で返した。
「まったくもう!」
怒らしてしまったようだ。まぁ実際聞いていなかったのだから仕方ないが。
どうやったら怒りを静めてくれるだろうかと考え、彼女の帽子を取り、頭を撫でてみた。
こんな事では笑顔にはなってくれないだろうとは思うが怒りぐらいは静めてくれるだろう。
「な、な、何をするんですか!もう、まったくまったく!」
どうやら逆効果だったらしい。その顔は笑顔どころか真っ赤にして頭から湯気を出している(実際は出してないけどそんな感じがする)。
まぁこれはこれで。
「あ、あんまりバカにしないでくださいね。私はもう帰ります。また来ますからね!」
といいながら飛び立つ彼女に「もう来なくていいわよ。」などと言う。いつものことだ、また来てくれると信じているからこんな事が言えるのだと思う。
手を振り見送り、小柄な閻魔の姿が見えなくなった後、私はひとりため息をついた。
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「もう、私には風見幽香という妖怪がわかりません。突然あんなことして・・・」
昨日のことを思い出して一人ごちる。
「急に頭を撫でるなんて、体の悪いいたずらです。」
などと言いながらも、自分の頭を撫でるその手は決して乱暴なものではなく、むしろやわらかく優しい手つきだったことを思い出す。
「な、何を考えてるのでしょう私は。仕事をしなくては。」
熱くなる自分の顔に気付かないふりをして、途中までしか進んでいない仕事を再開する。
なぜ仕事の途中に幽香のことを思い出したかと言えば、仕事机の上に飾ってある花が目に入ったからだ。この花は幽香から大分前に貰ったものだ。未だに枯れずに無機質な閻魔の仕事場に彩りを与えている。
閻魔の仕事はとても忙しい。それはもう忙しい。2交代制なのだからそれほど忙しくないのではないかと思われるが、なにも閻魔の仕事は死者を裁く事だけではない。デスクワークや雑務だってたくさんあるのだ。だから片方の閻魔が裁判官として死者を裁いている間でも決して暇などではなく、別の仕事をしているのである。
おまけに閻魔内でも派閥があったりと色々面倒な事もあったり、部下は毎度毎度サボったりと、仕事が増えていく事なんてざらである
「せめて小町がもう少し真面目に働いてくれたら・・・」
はぁ、とため息をつくと
「私がなんですか?」
調度私の所にやってきた小町が自分の名前に反応したようだった
「いいところに来ましたね小町。先日別の死に神から貴方がまたサボっていたというタレコミがありました。また貴方にはいろいろと話す事があるようですね。」
「うわ~~~ん、変なタイミングに来ちゃった~~」
と泣く小町に二刻ほど勤労の尊さについて話をした。部下の教育も立派な仕事です。
「四季様、仕事のストレスを私にぶつけてません?」
一息ついたところで小町にそんなことを言われた。
「おやおや小町。貴方が私の事をそんな事をするような上司だと思っていたなんて・・・。これはまだまだ説教もとい教育が必要のようですね。」
とニコリと笑いかける。
「うわ~~~~んやぶ蛇だった~~~~」
はぁ、小町のせいで全然仕事がはかどりませんね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
休日、いつも通り善行を積むよう諭すために幻想郷を回り、そして最後に太陽の畑へとやってくる。いつも通りなのだが、今日は些か疲れた。
なぜなら、この休みはおよそ一月ぶりの休みなのである。つまりこの一月急に仕事が増え、例のごとく小町はサボり、ずっと働きづめだったのだ。
「少し休みましょうかね。」
そういって、太陽の畑でも少し小高くなっているところに腰を下ろす。ここからは太陽の畑に咲いている花々を一眸できる。
その日はとても暖かい日和だった。一月前はまだ肌寒く太陽の畑に咲くヒマワリにも違和感があったが、今日という日の暖かさは、季節とヒマワリの間から違和感をぬぐい去っていた。
その暖かさに思わず欠伸が出、まぶたが重くなる。ここ一月の疲れも相まってか、猛烈な睡魔が訪れる。
「いけ・・ません・・・、こん・な・・ところで・・・眠って・・は・・・」
そう言いながらも、体は船をこぎ始め・・・・。
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久々にその気配を感じた。その実一月ぶりだろうか。まさか前回言った「もう来なくていいわよ。」という言葉を真に受けて、本当に来なくなってしまったんじゃないかと気が気でなかった。
だから今、その気配の下へ急ぎ足で向かっているのは仕方ない事なのである。
すぐに小高い場所に座っている閻魔の姿を見つけた。いつも通り気配を消して声をかけようと思ったのだけれども、少し様子が違った。
その小柄な体は前へ後ろへ揺れていた。おかしいなと思いつつゆっくりと近づいてみる。するとその体が後ろへ倒れそうになる。突然の事で慌てたが、すぐにその体を抱きかかえる。間一髪頭が地面に着く前に抱きかかえる事が出来た。
彼女の顔をのぞき込むと、そこには愛らしい寝顔があった。
「なんだ、驚いた。」
ふぅ、と息をつくが、改めてその顔を見てみると、顔色は決して良くはなかった。
「疲れているのね。」
この一月の間ここに来なかったのも閻魔の仕事が忙しかったからだという事がその顔色からすぐにわかった。
帽子を取り、頭を膝の上にのせてあげる。
自分の家のベッドに寝かせようかと考えたが、ヘタに動かして起こしてしまうのもかわいそうだ。今日はとても暖かいしこのまま寝かしてあげよう。
そんな事を考えながら、頭を撫でると
「ゆうか・・・・」とつぶやいた
名前を呼ばれドキッとしたが、寝言だとわかりホッとする。しかし寝言でも自分の名前を呼ばれるのは嬉しい。私の夢を見てくれているのだ、嬉しいに決まっている。
しかしその後すぐに「善行を・・・」とも言われ、ガクッと肩を落とした。
「はぁ、そんなものか・・・」
肩を落としながらも、寝顔を頬笑ましく見つめ、疲れて眠ってしまった映姫が起きるまで膝枕をするのであった。
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深いまどろみの中、優しく頭を撫でられる感触にふとなぜか風見幽香の顔を思い出す。その顔は普段見せる笑みとは違い、優しい笑顔だった。
そんな顔も出来るのかと驚くとともに、とても良い笑顔だなぁと思い、そしてそのままストンと深い眠りに落ちていった。
ハッと気付いたときには西へと沈む太陽が消えていくのが見えた。太陽の畑に来たのが昼頃であるから、かなりの時間眠っていたようだ。
「あら、起きたの?」
という言葉に驚き、空の方へ目を向けるとそこにはいつもの笑みを見せる風見幽香の顔があった。
あまりの驚きに数秒の間固まる。そして後頭部に柔らかい感触があるのに気付いた。膝枕をされていたようだ。
「な、なんで?」
動揺する心を何とか抑えて、その言葉を絞り出す。
「暢気に寝ている閻魔にいたずらしようと思ってね。」
その言葉を聞いて慌てて顔を触る。触った感じ特に異常はない。
「冗談よ。そんな疲れた顔した奴に何かするほど私の心は腐ってないわ。」
それを聞きホッとするが、同時に、では幽香は長い間私を介抱してくれたのか?という疑問が生まれた。だがその疑問を口にする前に
「今日は家に泊まって行きなさい。」
え?と声を出すので精一杯だった。訳もわからないまま、なすがままに連れて行かれるのだった。
あれよあれよという間に幽香の家に到着し、お風呂に入り、夕食まで頂いてしまった。ここまでくるとさすがに動揺は無くなったが、しかし頭の中は疑問でいっぱいだった。
「はい、カモミールティー。落ちつくわよ。」
そのお茶からはとてもいい匂いが漂っていて、たしかに落ちつく。
私は思いきって頭の中の疑問をぶつけてみた。
「どうして幽香はこんなにも私によくしてくれるのですか?」
いきなりの質問に驚いたのか、え?という声をあげる
「それは、貴方が疲れた顔をしていて、そのまま送り出したらきっと途中で倒れてたかもしれないからよ。この太陽の畑から飛び立っていった貴方が途中で倒れたら、私が何かしたみたいじゃない。だからよ」
「それに貴方の言うところの善行とやらを積んでみただけ。それだけよ。」
と言うと、後ろを向いてしまった。
幽香らしいとも思えたが、何故か違うとも思えた
構わずさらに私は疑問を投げかける。
「では幽香、貴方は私が眠っている間ずっと膝を貸してくれていたのですか?」
「違うわ、寝ている貴方を見つけて、いたずらしようと思って膝に貴方の頭をのせたの。それは貴方が目覚める少しだけ前よ。だからずっとじゃないわ、そんな疲れることしたくないもの。」
後ろを向いたまま幽香は答える。
それは嘘だな、とすぐに思えた。
なぜなら、私はかなり長い時間眠っていたのだ。そんな長い間頭を地面に付けていれば痛くなっても仕方ないはずである。でも痛みなど少しもなかった。
さらに地面に頭を付けていたなら帽子に土や葉、そして皺がが付いていてしかりである。しかし私の帽子には汚れ一つ、皺一つ付いていなかった。
だからきっと幽香は、私が地面に横になる前に私の頭を自分の膝の上にのせて、帽子を預かっていてくれたのだろうと思う。
でも、それを指摘するのは止める事にした。それは野暮であると思ったから、そして後ろを向いた幽香の顔が少し赤らんでいたからだ。
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映姫の疲れた顔を見てしまい。勢いで家に泊まらせてしまったが、ほんの少しだけ後悔している。なぜなら彼女が投げかける質問に私がしどろもどろになっているからだ。
疲れている彼女を送り出すのは心配だったのは本当だ、だが“自分が何かしたみたいじゃないか”というのは本心を隠すためのものだ。
膝枕の事なんて完全に嘘である。
なんとかそれっぽいことで本心は隠しているが、顔の熱さを隠す事は出来ない。私は急いで後ろを向いて
「さぁ、疲れているならもう寝なさい。(普段から使ってない)客間があるから」
そういって、彼女に寝るように促す。
客間の灯りは付けず、ベッドへと案内する。映姫がベッドに横になるのを確かめて、そそくさと部屋を出ようとドアの方へ向かうが、声をかけられ歩みを止める。
「幽香、貴方は私が思っているよりもずっと優しいですね。」
優しいなんて言われるのは初めてだ。驚いて映姫の方を向くと、そこには笑顔があった。
部屋の中には灯りはなく、満月の月明かりだけが部屋を照らしている。それでもその顔は笑顔だとわかった。それは私がずっと見たかった笑顔だ。
映姫は「おやすみなさい」と言うとベッドに横になった。
私も「おやすみ」と返し、部屋から出た。
月明かりで赤くなった顔が照らされなかったかと心配になりながらも、私はうれしさで踊り出しそうだった。
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朝目が覚めるとベッドの上だった。そうだ、幽香の家に泊まったのだと思い出すのと同時に仕事があるのを思い出す。時刻は既に間に合うかどうかの境目である。
急いで支度をしていると、家主の風見幽香が部屋をのぞき、そんなに慌てなくてもいいわよと言った。しかし実際は慌てなくてはいけない時間である
そろそろ遅刻も怪しくなってきた頃、ようやく準備も出来、職場である是非曲直庁へ急ぐ、という時分、幽香が待ってと呼びかけてきた。焦る気持ちを抑えて幽香の方を向くと、いきなり抱き抱えられてしまった。
「なんです!?」
驚きと疑問の声を上げると
「しっかり捕まっていなさい。」
と言って、ものすごい早さで飛び立つ
いつかの御阿礼の子が幻想郷縁起に、“幽香は遅い”と書いてあったが、どうやら間違いのようである。稗田阿求には書き換えるように言っておこう。
それからしばらくしないうちに、彼岸に着いた。ここまで来れば、十分間に合う。遅刻するかもしれないという焦燥が嘘のように間に合ってしまった。
「ありがとうございます、幽香」と礼を言う。
「この程度大したことじゃないわ。」
とは言うが、私の遅刻回避の恩人である。それになんといってもあの風見幽香がここまでしてくれるのが嬉しかった。
「やはり幽香はやさしいですね」
と嬉しさで笑いかける。そうすると幽香はここまで飛んできた方を向き小さな言葉で
「あなただけよ。」
その言葉だけを残し、すぐさま来た方向へと飛んでいってしまった。
そのときチラリと見えた幽香の顔は熟れた林檎のように真っ赤で、それを見た私の顔も熱くなっていくのがわかった・・・・。
これからの投稿を楽しみにしています!
是非頑張ってください
今後が楽しみです。
そのためか、えーき様がお仕事している段階で
「あ、このえーき様、どっかしらでぶっ倒れるな」
と思ってしまったり。独自の組み合わせなのに、展開が普通なのがちょっと惜しい気がします。
丁寧な文体や地の文がいい具合なので、今後も楽しみ!
善行を、と言われて本当に善行を積む幽香は死ぬほどかわいい
映姫さまも可愛い
続きが気になるお話ですね
…それにしても、良い雰囲気だな。