*これは作者の妄想です。
「うう……あたい、こんなの嫌だよ」
まだ洗濯してからさほど経っていない洋服を魔理沙の掌が台無しにする。
「大丈夫だぜ……」
そう、耳元で囁いて軟肉を甘噛みする。矮躯がぶるっと痙攣した。
「ひぃっ、ぁは……………うっ」
未知の感覚に抗う為に彼女は身をくねらせる。手を徐々に下方へ這わせる。
「…………ぜぇ……」
悦びを肺から吐き出した。布の上を彼女の膝が擦ったのだ。覆いかぶさった魔法使いは、青いスカートを捲り上げ、ドロワに手を掛ける。
余りにも観るに堪えなかったのでアリス・マーガトロイドは人形ともども踏み込んだ。
魔理沙の対応も速い。
目と鼻の先で八卦炉が光を絞り出している。
「よう、アリス」
「ねえ、魔理沙……これ全部悪ふざけよね………それ退かしてくれない? 」
魔理沙は本を返し忘れた時のように狼狽して意味不明な事を口走るのでもなく、口ごもるのでもなく、実にあっけらかんと言い放った。
「冬場の最高の贅沢は、暖が効いた部屋でチルノを愉しむことなんだぜ? 」
全方位から弾の雨を浴びせた。
「魔理沙の変態」
「手に怪しげな注射器とコケシ持ってる奴が言うのか? 」
魔力を遮断してコケシを止める。注射器を人形に渡す。
「最高の魔法を造りたかったら良く遊び、良く学び、身を削ることが必要なんだぜ? 」
魔理沙が不敵な笑みを浮かべる。
「”遊びにすら本気に成れないでどうすんだぜ?”……でしょ?」
口元を歪めて返した。こういうときの決まり文句だ。
「お人形遊びなら私も混ぜなさい」
「喜んで」
「あたい、お人形じゃないもん!」
わらわら蠢いている金髪の中で青いのが一匹、涙目で抗議している。
「…………ひぃっ…………服破くなぁ! 」
今直ぐにでも胸に顔を埋めたいのを自制しながら歩み寄る。こういうのは段取りが大切なのよ。田舎者はエレガントじゃない。
「新しいの縫っとくから心配なさんな。魔理沙、下ね」
「やれやれ」
魔理沙がチルノを持ち上げて膝の上に乗っける。ふと、傍らから練乳のチューブが差し出されたので有難く受け取っておく。
「大ちゃんも撮るなぁ!! 」
大妖精はテープを交換しながらけらけら笑っていた。
フリル増量。胸部に不自然じゃない程度に保冷ジェルが充填されたパックを仕込んで若干のボリュームアップ。靴をややヒール風に。ついでにかわいいあんよを保全するために特殊緩衝材を中に敷いた。ついさっきまで膨れていたのに、改造した服を渡したらあっという間に機嫌を直してしまった。
「あたいったら最強よ。今に見てろ、山のオオガマガエル!」
妖精二人が元気よく飛び出して行った。
九九回に一度の頻度で風鈴の音が鳴る魔法が気に入ったのか羽を頻りに動かす。
「ちょろいわね……妖精」
窓の外のどんどん小さくなっていく妖精を観察していると魔理沙が口を開いた。
「あれ、完成したか? 」
魔理沙はオムライスを口へ運んだ。
「簡易香炉でしょ。持って来たわ」
人形に指示して袋を作業台の上でひっくり返す。鉄塊から直接削り出した得物が一五個。はっきり言って量産性重視の余り良いものとは言えな。何時もの出力で数十回撃てば壊れてしまうだろう。
「錬金術ならパチェの方が得意じゃない? 」
「加工するのはアリスが一番上手いんだぜ。こーりんはツケが溜まりすぎて受け付けてくれなくなった」
「ガラクタか魔導書でも売ればいいじゃない。そもそも、これ以上火力を上げて一体何と戦う気? 」
米と鶏肉を咀嚼してから魔理沙は明かした。
「花火やんだよ」
「あら、魔理沙が里に催し物なんて珍しい」
魔理沙は不服そうに事の経緯を語り始めた。
「この間の満月のときさ……竹林で慧音の黒歴史見ちまってな」
うん、魔理沙が悪い。誰だって触れられたくない過去ぐらいあるだろうに。
「怒った妹紅が襲ってきて……負けた」
ああ、まさに編纂中だったのね。まぁ、そんな事はどうでもいい。魔理沙可愛い。悔しそうに眉を歪める魔理沙も可愛い……頭に焼き付けておいて人形に応用しよう。
「そしたらさぁ”祭りの花火係”と”お化け蚕の飼育係”どっちがいい? て聞かれたからさ」
聴き捨てならない。とろとろの卵とパラパラの米を十分に咀嚼して喉を通過させてからつっこみを入れた。
「ちょっと待って、何で花火選んだのよ。幻想郷の紡績産業に貢献しなさい」
魔理沙は咽た。慌てて水に手を伸ばす。落ち着いてから再び口を開く。
「嫌だ。一週間も蟲に抱かれるなんて……そんなん言うならアリスがやれ」
「嫌よ。魔理沙がやるから意味があるんじゃない。霊夢も言ってたわ。”魔理沙にやらせてみたい”って」
薄い本が増えると思ったのになぁ。残念ね。
「最近やけに皆そろって勧めてくるな。……そういえばあれアリスだろ。妹紅にあげたの」
「あれって何よ」
「スパイク付きの耐火・防刃・防弾ブーツ。あんなの無ければ勝てたのに」
「ブーツ? …………ああ、アレね」
以前、人形用にグレートソード打った時にオリハルコンが余ったからふざけて作ったんだっけ。宴会で会った時「金欠で靴を買うお金が無い」なんて言うもんだから譲って……確か「これは良いものだ。一万年は大事に使わせて貰う」とか「輝夜以外は大抵これで踏んどけば倒せる」とか随分気に入ってたような…………。コーンスープを飲みほした魔理沙が喋る。
「酷いぜ、使い魔は蹴り返す、問答無用でガードブレイクする。脚のツボを刺激して疲労を回復させる。反則だろ」
疲れるまで戦える蓬莱人に渡したのは失敗だったかしら……けど、霊夢も紫も何も言わないから……まぁ、大丈夫なんだろう。
「御馳走様。……もしかして魔理沙もあれ欲しいの? 」
「う~ん………………特には要らないかな……御馳走様」
魔理沙は水の入ったコップを傾ける。
遠慮しなくてもいいのに。
……………………そこは、もっと食い付いてくれると嬉しいのだけど。
ツケにするんだったら死ぬまで待ってもいい。
「さて、道具が揃ったところで明日の準備でもするかな」
立ち上がった魔理沙は香炉の山に向かう。
人形に食器を片させる。
食器が鳴る音、操作が少し雑だ。
嫌だな…………靴ごときで不機嫌になってる自分が。
カチ、カチ。
魔理沙の足元から金属音。
カチ、カチ。
「あっ……」
魔理沙はウエスタンブーツを履いていた。
「魔理沙、靴……」
「ん? ……ああ、お気に入りさ…………良いもんな。アリスの作る服とか靴って」
……まだ履いてたんだ。
何の動物の皮で作るのか。書籍の情報を忠実にすべく歯車を尖らせるべきか、歯は丸めてスカートに引っ掛かり難いようにすべきか。
色々迷った覚えがある。
結局は魔理沙は馬に乗らないから歯は潰して錆止めの魔法を簡単に掛けただけで……。
人形にじゃなくて、初めて誰かの為に作った作品だ。
正直、不慣れであんまり納得できる出来栄えじゃなかったんだけど。
気に入ってくれたんだ。
「踵、少し擦れてるわ。手入れしましょうか? 」
「今度にしてくれ……手が離せない。」
魔理沙は危険物に向き合いながら返事だけした。
魔理沙はペレットをピンセットで摘まんで慎重に香炉へセットしていく。
ピンセットを置いて香炉を両手で構える。弾は出さずに火だけ軽く入れただけのようだ。
特に異臭も異常音もなく香炉は低い唸りを上げた。
消火して次の香炉に手を伸ばす。
「さてと……」
洗い物は終わったから人形達を呼び戻した。演劇用の道具と人形一式が詰め込まれたトランクは心なしか何時もより軽く感じた。
「子供達が待ってるからそろそろ行くわ」
「ああ、またな。ドアは直ぐに閉めろよ」
ドアを開けると冷たい風が流れ込んできた。確かに、今の季節にチルノは贅沢ね。風でドアは勝手に閉まった。
冬色のモノトーンの空。
吐き出した息は白く、きちんと色を確かめようとした瞬間には融けて消えている。
人里の方へ飛翔する。
「ぐわっ、ぐわっ……」
勘違いした鴨が人形達の隣をV字になって飛んでいる。
「……ふふふ」
なんだか可笑しくて笑いが零れた。
心なんて空みたいにあっという間に移り変わってしまうけど。
「忘れたくないな、・・・・・今日の空」
コン、コン。
もう夕刻だというのに、人形の手入れをしていたら来客があった。
「はい、……どちら様? 」
扉を開けて目を引いたのは、深い蒼色の髪。
古典的なUFOみたいな帽子に乗っかる美味な桃。
震える華奢な身体。
「裸で会いに来れば服作ってくれるって『文々。新聞』に書いてあったわ。アリス、お願い! 」
「帰れ」
ばたん!
アリスは勢い良くドアを閉めた。
どん、どん!
どん、どん!
乱暴にドアを殴る音。
「ありすぅ~~~、氷精だけずるい。依怙贔屓だぁ。新聞にリークしてやる~~~! 」
推察するに、如何やらチルノは「裸になった、服を貰った」というディテールの欠けた話を文にそのまま話したようだ。あるいは意図的に文はディテールを欠いた記事にしたのかもしれない。
どん、どん!
どん、どん!
「ありすぅ~~~、寒くて凍えそう。放置プレイなんて気持ちい……じゃなくて、中に入れてええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
今度の記事の見出しは『裸の押しかけ女房、マーガトロイド邸へ』とかそんな感じだろう。『ラブラブ魔法使い、旧地獄温泉巡り。ポロリもあるよ!!』とかの方が良かったわ。
どん、どん!
どん、どん!
「ありすぅ~~~!」
「……………………はぁ……これだから世間知らずの箱入り娘は……簡単に乗せられちゃって……」
結局、裸のまま帰す訳にもいかないのでアリスは天子のためにフリルだらけの服を縫った。
おもろかったです
>彗音
フリルだらけの天子か……ふむ……
修正しました。
脳内のアリスはフリル大好きなので。