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「なんとも好い春風だ。こんな日和には、中庭でティータイムとしゃれ込むに限るな」
レミリアお嬢様の声が天から降ってきたのは、シエスタには絶好の昼下がりのことだった。
「……悪くないんじゃないですか。最近は寒さも落ち着いてきましたし」
紅美鈴はうなずきを返して、門柱に腰かけた主人を見上げた。コーザ・ノストラのドンみたいな恰好だった。桃色の日傘とのミスマッチさ加減は、ともすれば芸術的だった。
「しかしだな、肝心の茶請けがない。茶請けのない茶会なんぞ、パスタのないイタリアみたいなもんだ」
真っ暗なサングラスを持ち上げて、吸血鬼は真っ赤な瞳を覗かせた。
「どうでも好いですけど、どうしたんですかその格好?」
「うん、ラッキー・ルチアーノの映画を観てな。つい影響されてしまった」
マフィアばりの黒服を風になびかせて、レミリアは云った。口調まですっかり変わっていた。
「そこでだ、どうしても和菓子屋の栗羊羹が食べたい」
「でも紅茶ですよ? 和洋折衷ですか?」
「この前、霊夢から緑茶の葉をもらった。これを呑まない手はないだろう」
「咲夜さんに頼めば好いのでは」
「生憎、咲夜は忙しい。というか霊夢と聴くとあのメイド、私の命令をことごとく無視するんだ」
「それって――」
云いかけて口をつぐんだ。後頭部にナイフを投げられても文句を云えない失言をかましてしまうところだった。
お嬢様は瞳を真紅に燃やして、こちらの胸を射抜いてこられる。春先の太陽よりも眩しかった。
やべ、すっげえ期待されてやんの。
「あのぉ、私は仕事が……」
「門番なら私にだって出来る。なんなら帰宅するまで待っててやるぞ、マイヤー・ランスキー君」
屈伸して凝り固まった筋肉を解してから、シシリアンな主人に向き直った。こんな幼い容姿なのにハリウッド・スター並みに黒服が似合っているのが不思議だった。
何はともあれ、門衛までやって頂けるとなると、あまり手間をかけてはならないだろう。
「了解しました。ひとっ飛びして買ってきますよ」
「――あぁ、待て。マイヤー」
その呼び方やめてもらえないだろうか。
「……いかがされました?」
「もしかしたら、面白い運命が転がっているかもしれない」
はぁ、と生返事。
「いいか、ふだん何気なく通り過ぎてしまう日常でも、草むらを分けてみれば意外と面白い発見が隠れているもんだ。お前にとっては単なる買い物でも、ちょいとデコピン一発かませば、とんでもない方向に運命が転がっていくこともあるんだ」
「ご忠告、と受け取って宜しいのでしょうか?」
お嬢様は、牙をむきだして笑われた。
「プレゼントさ。五百年近くも運命を視てきた私から、ささやかな教訓のプレゼントだ」
「それで、最後に確認されたのはいつごろなわけ?」
「二十分ほど前――母親の棺のそばに、確かに置いてあったって喪主の方が」
美鈴が紅魔館の門前を飛び立った丁度その頃、命蓮寺の一室では二人の少女が顔を寄せ合って緊急会議を開いていた。
二人の顔は青ざめている。命蓮寺が開山して以来、これまで何度も暴れ狂う荒波のようなトラブルの数々を乗り切ってきたが、今回ばかりはどうやって事を丸く収めるべきか見当もつかなかった。
封獣ぬえは二色の羽を神楽のごとく舞わせて天啓を得ようと試みたが、なんの成果も上がらずに終わり、しょんぼりとうつむいた。隣の村紗水蜜はぶつぶつと念仏を唱えており、瞳は深海みたいに虚ろに濁っていた。
「でもさ、私たちの責任なわけ? こんなの誰だって予想もつかないでしょ?」
ぬえは歯ぎしりした。白蓮を罵る野太い声が脳裏に蘇ってきた。
「――赤ん坊の死体がなくなるなんてさぁ!」
キャプテン帽ではたかれた。
「ご遺体と云いなさい、バカぬえ……葬儀を引き受けたのはうちなんだから。管理の不徹底で済んじゃう話だし、遺族の方々に責任を押し付けるわけにもいかないじゃない」
いつまでもこうしちゃいられないわね、と水蜜は話を切って立ち上がる。
亡くなったのは母子の二人だった。母親のお産の経過が芳しくなく、夜のうちに陣痛が始まったのだが、寒い寒い夜を越えることはできなかった。母親の遺体は棺に、赤子の遺体は桶に入れられて、望まぬ火葬の刻限を待っていたのである。
「とにかく寺中を探してみるしかないわ。私は内を探すから、ぬえは外をお願いね」
云うが早いか、水蜜は足音を忍ばせて部屋から出ていった。
ぬえも机の角に腰をぶつけたみたいによろよろと立ち上がってから、中庭に視線を移した。池に反射した日差しの眩しさに顔をしかめる。寺にとっては最悪の日なのに、空模様は最高に春の日和だった。屋根瓦のうえで一杯やれないのが残念に思えてくるほどだった。
「なんで、いなくなっちゃうかなぁ……」
故人に怒りをぶつけるのは酷だ。そう分かっていても、畳を踏みしめる足の力は緩まなかった。
確かに根っからの妖怪である自分には、どうでも好いと云えばどうでも好い話なのかもしれない。
けれど。
「白蓮が、困ってるってのに」
それなのだ、結局のところ。
まだ返せていない恩は、両手で抱えきれないほどにあった。ぶっ飛んだネジの空回りばっかりで、受け取った言葉はいつだって「気持ちだけ頂くわ、ぬえ」だったのだ。
自分の尻尾を追いかける猫みたいに、部屋中をぐるぐる回って考える。安置されていた部屋から、みなが集まっていた御堂へは襖一枚を隔てるのみ。ほとんど密室状態だったのだ。誰にも気づかれずに、ルブランの怪盗みたいに桶をかっさらうなんて、とても人間技とは思えぬぇ。
葬式、消えた遺体、人外の仕業。
ぬえは、はっと顔をあげた。稲妻が脳裏を駆け抜けたみたいだった。
「いや、まさか――でも……」
確信はない。ないけど、葬儀の際に死体を持ち去る妖怪に、私は心当たりがある、そう思い出したのだった。
善は急げである。ぬえはわき目もふらずに縁側から飛び立ち、春の日差しのなかを翔け抜けた。
冬の終わりを祝い合うツバメたちよりも、なお早く、さらに早く。
アリス・マーガトロイドの優雅でアーバンな午後は、玄関から転がったノックの音によっていとも簡単にぶち壊されてしまった。
人里での人形劇を終えて帰宅、アップルティーとチョコチップクッキーで一服していたところにコレである。「はいはい、ただいまー」と投げ返す声に棘が生えていたのは否定できない。
「やっ――どもども、突然お邪魔しちゃって悪いね、人形遣い」
「あなた……いつかの土蜘蛛」
扉の向こうにいたのは黒谷ヤマメだった。地底にうごめく暗闇を感じさせない、向日葵みたいな陽気な笑みを浮かべていた。
「覚えていてくれたのかい、そりゃ光栄だね。お礼に私の同胞をひとり遣わそうか。害虫退治にはピッタリだ」
「けっこうよ。立地はアレだけど、これでも清潔には気を付けているつもりだから」
そりゃ残念、とヤマメは肩をすくめてから、アリスに続いて家のなかに入ってきた。もの珍しそうに首を左右に巡らせるもんだから、金髪のポニーテールが野兎みたいに跳ねまわった。
「なるほど。こんなに綺麗だと、逆に落ち着かないねぇ」
「アップルティーは嫌い? 煎茶の方が好かったかしら?」
「いやいや。すぐ終わる話だから、お構いなく」
「チョコチップクッキーもあるけど」
「そういや小腹が空いていたところだったよ」
アリスはふっと笑ってやってから、新たに焼いたクッキーをテーブルに置いた。
「それで何、突然やってきて」
「ん、ウマい――なに、大した用事じゃないんだけどね。もし桶を持ってるんなら譲ってくれないかい?」
「桶ェ? 身内で葬式でもやるの? そも、なんで私の家にあると思ったわけ?」
アップルティーを一呑みにして、土蜘蛛はいかにも落ち込んだようにため息をつく。
「やっぱり嘘だったか。やだねぇ、世間様ってのは冷たいねぇ。厄介払いの言葉が身に沁みるよ」
まるっきり片田舎のオバハンみたいなイントネーションだった。アリスが何も云えないでいるうちに、小雨のように湿り気を帯びた言葉たちがテーブルを叩く。
「実はさ、友人が大の引っ込み思案なやつでね。いつも桶に引きこもってるんだけど、そいつが落盤で壊れちゃったんだよ。幸い怪我はなかったんだが、えらい落ち込みようでね。旧都――町のほうも被害を受けちゃって、桶屋も大岩でつぶれちゃった。ここは私が一肌脱いでやろうと思ってね、わざわざ地上へ探しに出てきたってわけ。でもねぇ……」
ヤマメはクッキーを手に取って、シマリスみたいに前歯でかじった。
「よくよく考えてみれば、私は追いやられた身だからね。里には近づけないんだ。仕方ないから顔見知りの人間を頼ろうと思って、例の金髪の人間の家に行ってきたのさ」
魔理沙か。嫌な予感がしてきた。
「ところがどっこい、あいつも持ってないって云うんだ。いよいよ八方塞がったかと思ったら、もう一人の魔法使いなら持ってるって助言をもらったのさ」
頭を抱えたい気持ちだった。あの野郎、また厄介事を押しつけてきやがったな。
「生憎だけど、私は桶には縁のない生活をしてるから」
「人里になら桶屋があるんだろう? なんとか見繕ってくれないかな。今となっちゃ、あんただけが頼りなんだ」
「……私とあなたが地上と地底の境界で隔てられているのと同じように、私の持ち合わせてる親切の範囲にも境界があるの」
土蜘蛛は椅子から崩れ落ちるんじゃないか、と思うくらいに脱力してしまった。
「よよよ……世知辛いねぇ。無情な世の中だ――お礼ならするよ、土蜘蛛の糸は丈夫で千年来の妖力が詰まってる。人形遣いのお気に召すと思うんだけどなぁ」
「むっ」
思わず顔をあげた。その途端、ヤマメが表情を一変させた。蝶々を狙う自然界のハンターそのものの笑みが浮かんでいた。
「自分で云うのもなんだけど、ちょっとやそっとじゃ手に入らない上物だよ。桶の一つや二つ、軽いんじゃないかい?」
「むむむ」
「何が『むむむ』だ!」
アリスの頭のなかでそろばんの玉が一斉にじゃらじゃらと音を立てた。いや、考えるまでもなかった。鼻先にチーズを突き付けられたネズミのような心境だった。
「……どれだけ譲ってくれるのかしら?」
「あんたが望むようにね。なんなら毛玉いっこぶん出してやっても好いよ」
商談成立である。
早速テーブルを片づけると、火の元をチェックしてからカーテンを閉めた。外でヤマメが呼ぶ声がするが、その前に人形のチェックも済ませなければならない。うっかり一体だけ動かしたままにしておくと大変なことになる。
その異常に気付いたのは、痺れを切らしたヤマメに肩を叩かれたときだった。
「……うそ」
「なにがだい? さっさとしないとお天道様が沈んじゃうよ」
「上海がいない」
「はぇ?」
いつも連れだっているはずの大切な人形が、痕跡ひとつも残さずにアリスの手元から消え去ってしまっていたのである。
「ごめん、急用ができたわ。桶は他の人に頼んでちょうだい」
「え――ちょ、困るよ! そんな急に!」
もはやヤマメの声など耳に入らなかった。アリスはロケットみたいに打ちあがり、人里へ向かって全速力で舵を切った。
自分を呼び止める悲鳴がミサイルみたいに背中に突き刺さってきた。
ごめん、と心のなかでもう一度だけ詫びた。
「何度だって云ってやるけどね。あたいは無実、濡れ衣だよ」
「火葬を待つ死体を持ち去るなんて、あんたくらいしかいないじゃないの。さっさとゲロったらどうなのさ?」
「……騒々しい、いったいどうしたの。税務署の取り立てかしら? あれほど帳簿はきちんとつけておいてって云ったのに――あら?」
うわ、厄介なのがきた。
封獣ぬえは相手の襟首から手を離した。喉を押さえて大げさに咳を転がすは地獄の超特急、火焔猫燐である。
ところは地霊殿のエントランスホール。赤子の遺体の行方を巡って云い争いをしているところへ、当主の古明地さとりがパジャマ姿で階段を下りてきた。
「あらあら、お鵺じゃないですか。お久しぶりですね」
「その呼び方やめて」
「あなたが地上に出てからというもの、心なしか屋敷も寂しくなってしまって。なんなら泊まっていってはいかがです?」
「御免こうむりたいね。今日は急ぎで尋ねたい事があって来たんだから」
さとりは三つの瞳をカメラのシャッターみたいに開閉させた。その間、心臓を手のひらで転がされているような悪寒に襲われたが、その方が話が手っ取り早いので、目をつむって耐えた。
「ふむふむ……なるほど、話は分かりました」
「さとり様、このポンコツ石頭に云ってやってくださいよ」
「また私のペットになりたい、ですか。喜んでお迎えしましょう」
ズコーッと燐が大げさにすっ転んだ。
「ウソ云わないでよ。二度と地底になんか帰ってやらないんだから」
そう答えつつ、ぬえはさとりから目をそらした。大昔、火遊びが原因で旧都の面々をスチームポッドみたいに怒らせてしまい、大慌てで逃げ込んだ先が地霊殿であった、なんてトラウマが脳裏に蘇ってきた。
「あの頃に比べて、今のあなたは可愛げがなくなりましたね。やはり地上に行かせるべきではなかった、と今でも後悔しています。ほら、覚えているでしょう? 初めて逢った時のお鵺の泣き顔ときたら――」
ワーワーキャーキャーと叫んでさとりの口を塞いだ。モガモガとうごめく唇はナメクジみたいな感触で不気味だった。
「さて――昔話はこのくらいにして、単刀直入に申し上げます。うちのお燐は無実です」
さとり様っ、と燐が復活して立ち上がる。
「お燐は、朝からずっと旧灼熱地獄跡で熱心に仕事をしていました。まさに馬車馬ならぬ火車馬ですね。いま、ウマいこと云った――つまり、お鵺の寺に置いてあったザ・ボディをオ・リンがテイク・アウェイするのは、物理的に不可能なのです」
息が詰まるような思いだった。云い返す言葉も正体不明で浮かんでこなかった。
「じゃあ、いったい誰が……」
「それは私にも分かりませんし、力になって差し上げられません。人間の死体はここでは食糧か燃料ですから、お疑いになるのも無理はありませんが」
これ以上はなんの収穫もない、ということだ。ぬえは謝罪もそこそこに地霊殿を辞した。
「戻って来たくなったら、いつでも。お鵺が帰って来たと知ったら、こいしも喜びます」
わざわざ外に出てまで見送ってきたさとりに、ぬえは仕方なく手を振ってやった。
「……って、なんであんたが付いて来てんのよ!」
「いやぁ、今日のノルマは終わらせちゃってね、暇が出来たのさ。せっかくだから、あたいも久々に地上見学としゃれ込ませてもらうよ」
「あー、もうっ」
面白いことになりそうな気がするんだ、と火車は笑いながら、こちらの肩を叩いてきたのだった。
まるでハヤブサみたいだった。
レミリアから頼まれて栗羊羹を購入した美鈴は、人里からの帰り道にアリスとすれ違った。いや、すれ違ったというよりはグレイズした、という云い方のほうが正しかった。
普段の余裕に満ちた物腰もぶっ飛んだ焦りっぷりである。こちらを振り返ることすらしなかった。しばらく、その後ろ姿を眺めてみたが、やがて木々の向こうに消えてしまった。人里に降りたらしい。
ぶつけた右肩が鈍く痛んだ。やれやれ、と飛翔を再開しようとしたところで、脳裏にミサイルが降ってきたみたいな衝撃が走った。
栗羊羹が、ない。
右手は空っぽだった。いまの衝撃で落としてしまったのだ。
美鈴は自分でも訳の分からない叫び声を上げながら急降下した。ぶっちゃけると大ピンチだった。
今日は品切れだったところを、なんとか無理を通してこしらえてもらったのだ。そのせいでだいぶ時間を食ってしまった。これ以上、お嬢様を門前に立たせるわけにはいかなかった。
「あ、めーりんだ。これ、あなたの?」
栗羊羹は無事だった。けれど、もっと大ピンチになった。
「ルーミア……そう、私が買ってきたやつ」
食いしんぼう核弾頭が岩に腰かけて、栗羊羹の箱詰めをひらひらさせた。ちょっとヘコんではいるが、踏みつぶされたカエルの内臓みたいに中身が飛び出しているわけではない。
「ふーん、お菓子?」
「タオルケットの詰め合わせ」
「もっとマシな嘘ついたら? 箱に『菓』って書いてあるよ」
「アイヤー!」
ガッデム、ファッキン、シット!
「……お嬢様がどうしても食べたいって仰ってね」
「ふーん、まぁいいや。はい」
ルーミアは興味なさげに箱詰めを手渡してきた。これは驚いた。ぱっくんちょされるかと思って、懐にスペカを忍ばせていたのだが。
「珍しいなぁ。あなたが食べ物に興味を示さないなんて」
「さっき、お腹いっぱい食べたばかりだから」
「何を食べたわけ?」
「赤ちゃん」
ふぅん、とうなずきかけて美鈴は凍りついた。
「ちょ――人里の赤ん坊をさらったの? そんなことしたら、遠野の神隠しよろしく消されるじゃないの!」
ルーミアは大丈夫、と手を振って笑った。失敗した口紅みたいにほっぺに血糊が付着していた。
「綺麗なお姉さんにもらったの。私には必要ないからって。それに、もう桶に入っちゃってたから」
すでに死んでたってことか。いや、しかし、と美鈴はルーミアの屈託のない笑顔を見上げた。雲ひとつない夏空みたいに眩しい顔だったので、それ以上は何も云えなかった。
「あ、そうだ。これ要らないから、ついでにあげるね」
そう云ってルーミアが寄越してきたのは、死臭が白カビみたいに張りついた桶である。
いらねぇ。いらねぇが、ここに放置しておくのもマズい。そのお姉さんとやらが何者なのかは知らないが、里の人間に害を為したことに変わりはないのだ。このまま道端に捨て置いて、もし里の人間が発見でもしたら大変なことになる。
「あー……分かった、頂戴するよ。それとキャッチしてくれてありがとうね。おかげで助かった」
「どういたしまして。次はしっかり抱えていることね。赤ちゃんを守るカンガルーのお母さんみたいに」
闇の妖怪はひとつうなずくと、岩のうえでゴロりと横になった。三秒と経たずにいびきをかき始めたあたり、只者ではなかった。
美鈴は春空へと舞い上がり、ふぅっと息をついてハエのたかった桶を見下ろした。どこか遠い場所に捨てるか、それとも焼いてしまうべきか。
「これ、どうしようかなぁ……」
また仕事が増えてしまった。
一方、アリスはふだん人形劇をおこなっている寺子屋の広場で上海人形を探している真っ最中であった。
こういう時の失せ物というのは、失くした場所に戻っても見つからないことが大抵である。実際、広場には人形の腕すら落っこちていなかった。
物を失くすのも忘れるのも随分と久々のことだった。ちょっと焦り過ぎているな、と深呼吸する。
上海人形は自分にぴたりとくっついて、有事の際には即応できるようになっている。自動制御に頼り過ぎていたこともあるけれど、それにしたって存在を忘れてしまうなんて、いくらなんでも平和ボケがすぎている。
タイミングとしては人形劇を終えた直後、何者かが上海の制御を奪ったとしか考えられなかった。
「おい、伺いも立てずに敷地に入ってもらっては困る」
ふたたび飛び立とうとしたところ、上白沢慧音が裏手から姿を見せた。寝癖がひどい。頭のうえで機雷が爆発したみたいだった。紺色の浴衣を着ているところを見るに、どうやら寝ているところを起こしてしまったらしい。
「あら、ごめんなさい――寝癖がすごいことになってるわよ。それとも、ロックンロールにでも目覚めたのかしら?」
慧音の眉が持ち上がる。
「いや、昨夜は満月だったからな。予想以上に編纂作業が長引いて、やっとこさひと眠りできたところだ」
腕組みをしてハクタクは首を傾げる。慧音ほど腕組みの似合う女性をアリスは他に知らない。
「……そうか、今日は人形劇の日だったな。知らずに爆睡してしまったよ」
「大丈夫よ、子どもたちなら声をかけただけで集まってきてくれたし、無事に終えられたわ」
「なら好いんだが、それなら何でまた戻ってきたんだ。忘れ物か?」
うなずいて事情を話すと、子ども思いの教師は渋面を形作る。
「なんだか雲行きが怪しいな。大事にならないと好いが」
「ここ以外に探す当てがなくてね。ほんと、どうかしてた」
目撃証言を探ってみるしかないか、と考えたところ、慧音があっと声をあげた。
「探し物なら適役がいるだろう。ほら、命蓮寺の妖怪の」
「それよ!」
そうか、その手があった。思わずハハッと笑い声が漏れてしまった。
「ありがとう、さっそく行ってみるわ」
春風に乗ってふわりと浮かび、慧音に会釈を贈る。欠伸を返されてしまった。
「ん、気をつけてな。私はもう一度、夢という名の歴史を探る作業に戻るとしよう」
二度寝か。物は云いようね、とアリスは苦笑した。
霍青娥が鼻歌をそよがせながら仙界の道場に戻ってきたのは、陽が盛りを越して傾き始めた頃合いであった。
「青娥殿、遅かったではないか。点心が冷めてしまったぞ」
物部布都が朱塗りの戸を開けて現れた。両手に芝麻球、いわゆる胡麻団子が詰まった蒸籠を乗っけて得意げな笑みを浮かべていた。今日も上出来なのだろう。
「ごめんなさいね、どうしても手が離せない用事があったものですから」
「どこまで遊行されたので? いや、詮索するつもりは毛頭ありませぬが」
受け取った芝麻球を頬張ってから、青娥は懐を探った。
「例の寺ですよ。ちょっとした敵情視察のつもりだったのですが、目の前に美味しそうな……そう、この芝麻球のように美味しそうな珠が転がっていたものですから、つい摘み取って参りましたの」
銀髪の尸解仙はほう、と興味深げに息をついたものの、取り出したブツを見せてやったとたん、その表情は落盤に遭ったみたいに崩れた。
「せ、青娥殿。これは、もしや……」
「えぇ、ご推察の通りですわ。ちょうど弔祠の最中で、目を離した隙に頂戴いたしました」
青娥が取り出したのは、青黒い炎をロウソクみたいにちらつかせた球体である。炎が怯えたように弾ける度に、悲鳴ともうめき声とも知れない叫びが地の底より湧き上がってきた。
ヤンシャオグイ、という言葉がある。幻想郷に来てからというもの、赤子の魂を仕入れるのが難しくなってきていたのだ。今回の葬儀はちょうど好い猟場になった。
「で、では、その水子の死骸は――」
「その辺の妖怪にくれてやりましたわ。嬰児の死体はキョンシーの役に立ちませんもの」
仙人の卵はひとたまりもなく失神したが、青娥に背中を支えられてふたたび蘇った。
「……これは不味いのではないか。太子様がお聴きになられたら、なんと仰るか……里の人間に手を出すなど、この地では御法度では」
青娥は首を四十五度くらいに傾けて、震える布都の唇に人差し指をあてがった。
「なんの痕跡も証拠も残しておりませんわ。心配のし過ぎですよ、物部様。それに、あの寺もこれでは面目丸潰れ、大目玉食らうの大盤振る舞い。豊聡耳様もきっと、お喜びになられるはず」
それよりも御茶をいただけますか、と布都の手を取って道場に入っていく。後ろからノイズの酷いテープレコーダーみたいな独り言が転がってきたが、青娥は当然のように無視した。
今日は、実に気分が好い。
「ちょいと待っておくれ、お鵺。向こうからかぐわしい香りがするんだ」
「だからその呼び方――ちょっとちょっと、そっちは駄目だって!」
地底から命蓮寺までの帰路、使い魔を放ってあちこちと調べてみたが、亡くなった赤子の遺体は発見できなかった。これ以上は留守にするわけにもいかず、ぬえは寺まで帰ってきたのだが。
一緒についてきた燐が急停止して、鼻をすんすんと鳴らしたと思ったら、裏手の墓地へと降りていってしまったのである。
このうえ墓荒らしまでされてしまったら、何を云われるか分かったもんじゃなかった。白蓮の力になろうと飛び出してきたはずが、文字通り寺の墓穴を掘る羽目になっちまうのである。
「ヤクっと回ってさあ大変っ――あら、お寺のひと? それとも厄払いの相談かしら?」
「お鵺! 間違いない、こいつは上物だよ! 産まれたてのホヤホヤさ!」
墓場の中央で燐と相対しているのは、見知らぬ妖怪だった。いや、妖怪にしては感じる妖気の質が違う。人間がバタークリーム、妖怪がクリームチーズだと仮定すると、目の前の少女はサラダよりもケーキにトッピングしたほうが似つかわしい妖気を身にまとっていた。
早い話が、神である。
「その通り。私は鍵山雛。秘神流し雛よ。えんがちょマスターとか云いやがったら次の新月の夜には覚悟してもらうことになるから、そのつもりでね」
「お雛さんよ、ちょいと手元を見せてもらえないかい?」
「ふむ、お雛さんね。なかなか好いネーミング。その調子よ、はい」
ぬえが声を挟む間もなく、雛は工事用ドリルみたいな回転を止めて、膝のうえに重ねていた両手を解いた。
「……人形?」
見事な意匠が施された可愛らしい人形である。墓場ではお馴染みの瘴気が、人形の全身から毒ガスみたいに漏れ出ている。ぬえは反射的に羽をクネクネ動かして結界を張った。
猫に人形を手渡しながら、厄神様が説明なされる。
「普段は御山のほうで厄を集めているんだけど、毎年この季節は雪解け厄を拾いに降りてきているの。冬を越えられなかった命の無念が、目に見えない泥土みたいに積もっていって、それはそれはとんでもない厄をばらまいてしまうのよ。その代表格が墓場ね。お墓で転んでしまうとあの世へトリップしちゃうって伝承は、ここから来てるってわけ」
「そいじゃ、この人形はなんだい? 活きの好い怨霊が取りついちまってるけど」
三人して顔を寄せ合い人形を覗き込む。
「怨霊?」
「怨霊さ、死んだばかりのコケコッコーだよ。どこで拾ったんだい?」
「お寺の周りをうろうろしていたわ。なんとかして入ろうとしていたみたいだけど、この結界じゃ無理ね。よほど怨みのある人間が中にいるんじゃないかしら?」
お雛さんが命蓮寺を振り返る。葬儀はどうなったんだろう、とぬえは考えて、はっと人形に向き直った。二度目の稲妻が脳裏を翔け抜けていった。
「この怨霊、もしかして亡くなった赤ん坊じゃないの?」
「いんや、残念だけど違うね。いわゆる妙齢の女性ってやつさ。写真にでも収めたら、さぞかし外の世界を騒がせるだろうね。それくらいに強い怨みを持ってる。素人が迂闊に触ると火傷じゃ済まないよ」
そう云い放ち、燐は人形の身体をあちこちと検めたが、渋い顔で黙りこくった。どうやら、このままでは持ち帰れないらしい。
「完全にくっついちゃってるね、仕方ない。首をすっ飛ばして取り出そうか」
燐が鎌のように鋭い爪を振りかざしたので、二人は距離をとって見守った。
その時である。
「――ちょっと待ったぁ! ストップ、ストップー!」
予期せぬ闖入者のご参上である。
「ありゃ、お姉さんってば、いつかの人形の」
「アリス・マーガトロイドよ、別に覚えなくても好いけど――あぁ、上海! ごめんね!」
なんだか凄いことになってきた、とぬえは思った。完全に蚊帳の外であった。
「気を付けなさいよ。そのお人形さん、とんでもない量の厄がハッピーセットみたいにくっついてるから」
厄神が再びクルクルと回り始めながら忠告を届けると、人形遣いは涙まじりにうなずいた。本当に人形みたいな青空の瞳を涙でうるませた姿は、ぞっとするくらいに綺麗だった。敵わないなぁ、とぬえは首を揺らす。
「なるほどね、タチの悪いのが入っちゃったってわけか……まぁ、これくらいならどうってことないわ」
魔法使いは小声でサンドイッチみたいに詠唱を重ねていった。それに合わせて、十本の指から糸が持ち上がる。鎌首をもたげたヘビみたいな動きだった。
火車は今にも飛びかからんばかりに両手を持ち上げて、舌なめずりを繰り返していた。まるっきり獲物を狙う猫だった。厄神様は厄神様で回転を続けてヤクを集めている。
ぬえに出来ることはなかった。もう帰って好いかな?
しかめ面を上げたときには、勝敗は決していた。人形はアリスと感動の再会を祝い合い、燐は極上の怨霊を両手でかかげて小躍りしていた。雛はなぜかミドルシュートをぶち込んだプロサッカー選手みたいに清々しいガッツポーズをキメていた。
ぬえは何だか泣きたくなった。徒労の結果がコレとは報われない結末だった。
命蓮寺の墓地が喝采で盛り上がっていた丁度その頃、黒谷ヤマメは焦っていた。
アリスに約束をフルスイングされてからというもの、里に近づこうにも近づけず、幻想郷の春空を当てもなく飛び回っていたのである。
さっさと地底にずらからないと、キスメも心配していることだろう。けれども、キスメが残念そうにまつ毛を伏せる姿も見たくなかった。パルスィのやつには嫌味を云われるに違いない。勇儀の旦那は笑い飛ばすに違いない。
どれもこれも、ヤマメにとっては面白くないことばかりである。
これはもうゼロ戦のごとく人里に特攻をかけるしかないか、と思い詰めたときだった。
眼下の街道沿いの林から、ひとりの少女がヒバリみたいに舞い上がってきた。いまや懐かしの唐風の格好をしていたが、そんなことはどうでも好かった。ヤマメの視線は、少女の手にぶら下がっている物体にブラックホールのごとく吸い寄せられた。
「ヘ、ヘイッ! ゼア・チャイニーズ!」
思わずカタコトの英語を口走りながら、ヤマメは両手を振って突貫した。
「うわわ、日系アメリカ人の方ですか? 私、英語はマジ無理なんですけど」
少女は紅色の長髪を振り乱して逃げ腰である。ヤマメの心臓がバンジージャンプした。ここで逃げられてはならない。守矢の大好きな奇跡か古明地の大嫌いな偶然か、チャイニーズが運んでいたのは小柄なキスメにはピッタリなサイズの桶であった。桶からなにやら禍々しい瘴気を感じるが、知ったこっちゃなかった。
もはや一刻の猶予もなかった。ヤマメは空中で土下座した。サーカスのピエロにだって出来ない芸当である。
「まったく突然ですまないが、その桶を譲っておくれ!」
少女が面食らったように息を詰まらせたのが分かった。頭を下げたまま、お願いだ、お願いだよ、と繰り返し叫ぶ。大根役者にでもなった気分だった。
「……えっと、どちら様でしょうか?」
「――ぁぇ」
考えてなかった! ヤマメは踏みつぶされた蜘蛛みたいな悲鳴をあげた。
さんざめく空騒ぎが大バーゲンな毎日を送ってきたせいで、後先を考えずに行動するのが癖になっちまっていたのである。
ワタシハ地底カラ来マシタ、なんて白状しちまっては、もっと警戒させてしまうやもしれぬ。嘘も方便、ということわざがハリケーンみたいにヤマメの心を直撃した。
「――よ、妖怪専売の桶屋だよ! ちょいとした事故があって、顔面に投げつけたカボチャパイみたいに店が潰れちまってね。このままじゃおまんまの食い上げさ。なんとかして桶をかき集めて、家内とセガレを食わしていかなくちゃならないんだよ!」
ヤマメはそこまで叫んでから、自分も女性なのに家内と呼んじまったことに愕然とした。痛恨であった。
しかし。
「あー、そういう事情でしたら、むしろこちらからお願いしますよ。どうぞ、もらってください」
赤髪の妖怪が臭い物でも取り扱うみたいに桶を突き出してきた。よっぽど手放したかったらしい。
「ウラー!」
「今度はロシア語ですか」
ヤマメは躍りあがって桶をひったくった。この木目の手触りと好い、大好物の人間の死臭と好い、文句のつけどころがなかった。
「助かるよ、チャイニーズ! いつかお礼は必ず返すから!」
とんでもない、と両手を振る少女と無理やり握手を交わしてから、ヤマメは弾道ロケットみたいな軌跡を描いて、友人たちが待つ我が家へと帰っていった。
ルーミアは心地よいまどろみから目覚めた。
春眠暁を覚えずとは好く云うけれど、これなら夕暮れさえも覚えずになってしまいそうだった。極上ステーキのレアにありつけて、気分は天に昇る竜の心地である。
いつもならブルーベリーソースみたいな闇が空を覆うまで眠ってしまうところだったのに、今日に限って目覚めてしまったのには、とある理由があった。
「……誰だろ」
闇のなかでは聴覚が鋭敏になる。蒸気機関車みたいな荒々しい息遣いが、こちらに向かって来ている。人間の男だ。大人の男だ。
息を乱した牡鹿がこちらに近づいていると知ったとたん、お腹が銅鑼のような大声を立てた。くふふ、と笑い声をこぼしてしまう。
「今日はツイてるなぁ。いつも十字架のポーズをとってるおかげかな?」
祈りが天に通じるとは、なるほどこのことを云うらしい。神様は日々の行いを見ていらっしゃるのだ。あの赤ん坊をくれた羽衣のお姉さんは天の使いなのやもしれぬ。
人間の男が、茂みの中からこちらの眼下へと飛び出してきた。真上に人喰い妖怪が舌なめずりしていることなんて露知らず、岩肌に背を預けて呼吸を整えている。
ルーミアは食いしん坊だが、云いつけはきちんと守っていた。里中で人間を襲ったことはない。けれど、どこの世界にもシルクみたいに肌触りの好い例外ってもんがある。
つまりは、里の外へとノコノコ出てきた人間なら、食っちまってもゲンコツを落っことされることはないのだ。
男は着物の袖で汗を拭いながら、筆に起こすのもはばかられるほどの悪態を吐き散らしている。ひときわ大きな舌打ちが弾かれたその時、ルーミアは身にまとっていた闇を超新星爆発みたいに押し広げた。
辺り一帯は無間の闇に閉ざされてしまった。
動揺のあまり声も出ない男の肩に寄り添って、ルーミアはそっと耳元に囁いてやった。
「ねぇ。あなたは、もしかしなくても取って食べれる人類?」
「どこ行ってたのよ! 心配させないでちょうだい、バカぬえ」
「ご、ごめんってば。なにも遊んでたわけじゃあ――」
「そういう問題じゃないっての。ひとこと云ってくれれば好かったのに」
水蜜が瞳を海水でうるませながら迫ってきたので、ぬえは何も云えなくなってしまった。三対の羽もしょんぼりとうつむいた。
二人は伽藍の隅っこで、またもや顔を寄せ合って話し込んでいた。火車や厄神に人形遣いと、色々とものすげえ面々と別れてから、ぬえはみじめな気持ちを引きずって寺の境内に降り立ったのであった。
「……どうしたってのよ?」
「いやさ、私ってば役立たずだなぁ、なんて思って」
サボテンになったみたいな気分だった。面白がられるだけで世話してもらってる恩も返せず、触れられればトゲを刺してしまう。背中の青い羽がサボテンのトゲみたいに見えてきた。
水蜜がむっと眉を寄せて、こちらを睨んできた。海の色を溶かした瞳に魅せられているうちに、キャプテンは帽子を手に取ってかぶせてくれた。雛鳥を愛でるみたいに撫でてくれる手のひらの感触が、帽子というフィルターを通して伝わってきた。
つまりは、これが私たちの距離なんだなって、ぬえは顔を赤くしながら思った。
いつもなら撫でられる度に恥ずかしくなって手を振り払ってしまうのだけど、今日だけは水蜜の陽だまりみたいな手のひらの感触を味わっていたかった。
「ぬえ、船長、ちょっと好いかい?」
「……空気読めない奴め」
失礼、と我らが賢将ナズーリンは肩をすくめてみせた。
「まず、赤子の遺体は見つからなかった。なんともおかしいことに、途中で反応が消えてしまったんだ。風にさらわれた砂粒みたいにね」
「うーん、やっぱり駄目だったかぁ」
水蜜が嘆息する横で、ぬえは熟れたトマトみたいに赤面していた。ナズーリンの能力のことをすっかり忘れてしまっていた。なにも自分が探しにいく必要なんてなかったのだ。
「それと、ぬえ。先に聖に顔を見せてやってくれ」
「えっ、なんでよ」
ナズーリンは懐からカマンベールチーズを一切れ取り出して、咀嚼しながらこちらを見すえてきた。
「どこに行っていたのかは聞かないが、君の不在を一番に気に病んでいたのは聖だ。こんな時だからこそ、慌てずに相談してもらわなくては困る」
賢将が真っ赤な眼を細めて、人差し指で胸をとんっと突いてきた。
「君の身体は、もう君だけのものじゃないんだからね」
ぬえは謝罪の言葉も口から転がせなかった。サボテンのトゲが、突かれた胸から抜けていくのを感じた。
「それで、ナズーリン。父親のほうは見つかった?」
水蜜が話を戻して云う。父親? 虚を突かれて顔をあげてしまう。
「そうだ、その話をしに来たんだった――ちゃんと見つけたよ。けど、手遅れだった。里の近く、林の奥だ。その辺の妖怪の仕業だろう。ジンベイザメに襲われたマグロみたいになっていたよ」
「ふん、好い気味だわ」
「ちょっとちょっと、話が見えないんだけど!」
二人が含み笑いを漏らしてこちらを見つめてきた。
「あれから事情が変わってね。赤ん坊の遺体どころじゃなくなったのさ」
水蜜が後を受けた。
「あの奥さんが死産になったのは、喪主の――あの男のせいよ。毎晩毎晩、奥さんに暴力を振るっていたらしいわ。顔だと目立つからね。背中やお腹を、何度も。仲の好かった産婆さんが証言してくれたわ。口止めされていたらしいけど、奥さんのことが可哀相で仕方がなくて、勇気を出して云ってくれたのよ」
「その後が面白かったね。あいつ、真っ青になって逃げだしたんだ。速いのなんのって、私でも追いつけなかったくらいさ。因果応報とはこのことだね」
まぁ、それは好い、とナズーリンはチーズを呑み下す。
「もう終わった話さ。いま、ご主人が喪主に代わって事を進めてる。またドジを踏まなければ好いが――ぬえ、君はさっさと聖に会ってやってくれ。心配のあまり鴨居で首を括りかねない」
返事も待たずに小さな大将は背を向けてしまった。主人の様子を見に行くのだろう。
「一件落着とはいかないけど、収まるところに収まりそうね。後のことは私たちでやっておくから、あんたは聖のとこへ行ってきて」
水蜜も立ち上がる。地底時代からの長い付き合いのせいか、その言葉の湿り気の具合で、どんな気持ちを抱いているのか分かってしまう。
だから、ぬえは小さな笑いをこぼしてから、セーラー服の背中に声を投げかけた。
「ムラサ」
「なによ」
「その、ごめん。それと――嬉しかった、ムラサも私のこと、心配してくれて」
「ばっ――バカ! このバカぬえ!」
顔をトマトにした舟幽霊にポカポカと殴られて、ぬえは痛い痛いと鳴き声をあげた。
鍵山雛が里の近辺の小川で流れ厄を集めていたとき、小野塚小町が弾んだ声をかけてきた。
「鍵山じゃあないか。こんなとこで会うとは珍しいね」
「小野塚さん、どうしたのかしら。ドリームジャンボ宝くじで三億円でも当たったの?」
「いやね、休暇ほど素敵な言葉なんてないって思わないかい?」
死神はいかにも機嫌が好さそうだった。水牛を仕留めたライオンみたいな顔つきだった。
「自慢話ですか?」
「そうさ、自慢して何が悪いってんだ」
死神はかんらかんらと笑う。その左手には青黒い炎を放つ球体が窮屈そうに収まっていた。
「それは?」
「ついさっき、近くで死んだ男の魂だよ。今日のノルマを終えたら休暇にして好いって云われてね。あと一人ってとこで、だれも来なくなっちゃったのさ。どうにも仕方がないから、久々に出張サービスに来てやったってわけ」
ふぅん、と返してやる。小町は重機関銃みたいに言葉を撃ち続ける。
「今日は運が悪くてね。二人ほど当てがあったんだけど、どっちの魂も持ってかれちまった」
雛はひやりとした。なんだか続きを聞かないほうが好い気がしてきた。
「片っ方は赤子の魂なんだけどね、新参の邪仙様が先にさらってしまったみたいだ。あの場所はあたいでも手が出せないから、諦めてその母親のほうの魂を回収にいったのさ」
そこで、小町は初めて嬉しげな表情を崩した。
「ところがどっこい、あの泥棒猫、またあたいの取り分をかすめ取っていやがった。怨霊はあたいの管轄、これはあたいのもんだとか勝手なこと云いやがって、まったく」
「そ、そこへ三人目がヘッドスライディングしてきたわけね!」
慌てて話をそらした。
「もち、その通り。どっかの妖怪のメインディッシュにされちまったようだね。いま話した母子の父親さ。銭もほとんど持ってないし、生前はロクなやつじゃなかったんだろうが、あたいの休暇のためだと思うと感謝したくなるね」
無常を感じた。邪仙に持っていかれた子供、火車にさらわれた母親、そして死神に連れていかれる父親――どのような経緯でこの一家がまとめて亡くなったのかは知らないが、その魂の逝く先に明るい未来なんてひとつもないことだけは確かだった。
「さぁて、どうだい鍵山。こいつを向こうまで届けたら、ちょいと呑みにいかないかい? 今日はあたいがおごってやるよ。小町さん、一世一期の大盤振る舞いだ」
厄神に近づくと不幸になる。けれど、妖怪の山の裏手、中有の道の飲み屋なら気にする必要なんてない。そういえば、最近はお酒なんて呑んでなかったな、と思い出す。
雛は人里を振り返った。炊事の煙が野辺の煙のように春の空へと溶けていった。人間たちは騒ぎ合って春を謳歌しているようだった。冬に散った命の雪解けに気を留めているのは、自分だけのようだった。いつもなら何とも思わないその情景が、いまの雛には羨ましく思えた。
こんな時は、近しい人と肩を組んで、ふざけ合って、そして忘れてしまった方が好いのだろう。
厄神は死神に向き直り、微笑みながらうなずいた。
「えぇ、せっかくだし、ご相伴に預かろうかしら」
幻想郷は春の日差しに暖かく包まれている。
広いようで狭いこの世の中、ひょんなことから赤の他人と縁を結んでしまうことは、決して珍しいことではない。
もうすぐ日も暮れる。本日の縁模様を繰り広げた少女たちは、今ごろは何を楽しんでいるのであろうか。
人里の寺子屋、上白沢慧音が自室で爆睡していた。里のど真ん中に隕石がホールインしても起きなさそうな、見事なまでの寝入りっぷりである。
里からほど近い雑木林、ルーミアが木の幹に背を預けて骨遊びをしていた。自分が食べた赤子と男性が親子であったことなど、ルーミアは知る由もない。
地底の竪穴、黒谷ヤマメと火焔猫燐が楽しげに会話を交わしている。地底の入り口でばったりと出くわしてしばし、本日の地上探索での土産物を盛んに自慢しあっていた。
地霊殿、古明地さとりが執務室のデスクに頬杖を突いてニヤニヤしている。もう一度、お鵺を可愛いペットにするための作戦を考えている真っ最中であった。
中有の道、鍵山雛と小野塚小町が激しい云い争いをしていた。焼き鳥屋とお好み焼き屋のどちらで腹を膨らませるかで、意見が真っ二つに割れていた。
仙界、夕食の準備を進めている物部布都の後ろで、霍青娥が嬉しそうに赤子の魂を撫でている。布都は返したほうが好いのではないかと食い下がるも、青娥は笑って取り合わなかった。
魔法の森、アリス・マーガトロイドは上海人形に追加の施術をかけていた。二度と大切な人形を失ってはならないと、その瞳は闘志に燃えている。
命蓮寺、水蜜とナズーリンが葬儀の後始末に追われる一方で、ぬえは白蓮の居室で大人しくしていた。膝のうえに腰かけろと云われて、そのうえ抱きしめられてしまっては、流石のぬえも逃げられるはずもなかった。
そして――。
「お嬢様、遅くなりました!」
「――緑茶はとっくに冷めてしまったぞ、マイヤー」
紅美鈴は紅魔館の門前に降り立った。レミリア・スカーレットは相変わらずの黒服姿で門柱に腰かけていた。
「すみません、売り切れのところを初めから作っていただいたものですから」
「云い訳は聞かんぞ。私の腹は栗羊羹を求めて有頂天だ。この食欲はしばらく治まるところを知らない」
云うが早いか、お嬢様は栗羊羹の包みを引ったくり、コンバットナイフみたいに凶悪な爪でなかの箱ごと引き裂いてしまった。肝心の羊羹は、迫撃砲が直撃したみたいになっていた。
「おい」
「ひっ――も、申し訳ないです。途中で落としちゃいまして……」
マリアナ海溝みたいに深いため息が挟まれる。
「マイヤー・ランスキーはラッキー・ルチアーノの最高の右腕だった。お前にはその自覚が足りんようだな。罰として、そうだな、マフィア映画五本を徹夜で鑑賞して、あらすじと感想をレポートにまとめてくるように」
「そんなぁ」
肩を落として花の水やりに行こうとすると、お嬢様が呼び止めてきた。
「それで、どうだった? 何か面白い運命は見つかった?」
「うーん……」
はて、確かに不思議なことの連続だったような気はするが。
「まぁ――桶屋が、ちょっぴり儲かったくらいですかね」
「そっか」
お嬢様は、満足げに微笑んだのだった。
.
目次
Phase 1/Phase 2/Phase 3/Phase 4
Phase 5/Phase 6/Phase 7/Phase 8/Phase 9
Phase 10/Phase 11/Phase 12/Phase 13
Phase 1/Phase 2/Phase 3/Phase 4
Phase 5/Phase 6/Phase 7/Phase 8/Phase 9
Phase 10/Phase 11/Phase 12/Phase 13
Phase 1
「なんとも好い春風だ。こんな日和には、中庭でティータイムとしゃれ込むに限るな」
レミリアお嬢様の声が天から降ってきたのは、シエスタには絶好の昼下がりのことだった。
「……悪くないんじゃないですか。最近は寒さも落ち着いてきましたし」
紅美鈴はうなずきを返して、門柱に腰かけた主人を見上げた。コーザ・ノストラのドンみたいな恰好だった。桃色の日傘とのミスマッチさ加減は、ともすれば芸術的だった。
「しかしだな、肝心の茶請けがない。茶請けのない茶会なんぞ、パスタのないイタリアみたいなもんだ」
真っ暗なサングラスを持ち上げて、吸血鬼は真っ赤な瞳を覗かせた。
「どうでも好いですけど、どうしたんですかその格好?」
「うん、ラッキー・ルチアーノの映画を観てな。つい影響されてしまった」
マフィアばりの黒服を風になびかせて、レミリアは云った。口調まですっかり変わっていた。
「そこでだ、どうしても和菓子屋の栗羊羹が食べたい」
「でも紅茶ですよ? 和洋折衷ですか?」
「この前、霊夢から緑茶の葉をもらった。これを呑まない手はないだろう」
「咲夜さんに頼めば好いのでは」
「生憎、咲夜は忙しい。というか霊夢と聴くとあのメイド、私の命令をことごとく無視するんだ」
「それって――」
云いかけて口をつぐんだ。後頭部にナイフを投げられても文句を云えない失言をかましてしまうところだった。
お嬢様は瞳を真紅に燃やして、こちらの胸を射抜いてこられる。春先の太陽よりも眩しかった。
やべ、すっげえ期待されてやんの。
「あのぉ、私は仕事が……」
「門番なら私にだって出来る。なんなら帰宅するまで待っててやるぞ、マイヤー・ランスキー君」
屈伸して凝り固まった筋肉を解してから、シシリアンな主人に向き直った。こんな幼い容姿なのにハリウッド・スター並みに黒服が似合っているのが不思議だった。
何はともあれ、門衛までやって頂けるとなると、あまり手間をかけてはならないだろう。
「了解しました。ひとっ飛びして買ってきますよ」
「――あぁ、待て。マイヤー」
その呼び方やめてもらえないだろうか。
「……いかがされました?」
「もしかしたら、面白い運命が転がっているかもしれない」
はぁ、と生返事。
「いいか、ふだん何気なく通り過ぎてしまう日常でも、草むらを分けてみれば意外と面白い発見が隠れているもんだ。お前にとっては単なる買い物でも、ちょいとデコピン一発かませば、とんでもない方向に運命が転がっていくこともあるんだ」
「ご忠告、と受け取って宜しいのでしょうか?」
お嬢様は、牙をむきだして笑われた。
「プレゼントさ。五百年近くも運命を視てきた私から、ささやかな教訓のプレゼントだ」
Phase 2
「それで、最後に確認されたのはいつごろなわけ?」
「二十分ほど前――母親の棺のそばに、確かに置いてあったって喪主の方が」
美鈴が紅魔館の門前を飛び立った丁度その頃、命蓮寺の一室では二人の少女が顔を寄せ合って緊急会議を開いていた。
二人の顔は青ざめている。命蓮寺が開山して以来、これまで何度も暴れ狂う荒波のようなトラブルの数々を乗り切ってきたが、今回ばかりはどうやって事を丸く収めるべきか見当もつかなかった。
封獣ぬえは二色の羽を神楽のごとく舞わせて天啓を得ようと試みたが、なんの成果も上がらずに終わり、しょんぼりとうつむいた。隣の村紗水蜜はぶつぶつと念仏を唱えており、瞳は深海みたいに虚ろに濁っていた。
「でもさ、私たちの責任なわけ? こんなの誰だって予想もつかないでしょ?」
ぬえは歯ぎしりした。白蓮を罵る野太い声が脳裏に蘇ってきた。
「――赤ん坊の死体がなくなるなんてさぁ!」
キャプテン帽ではたかれた。
「ご遺体と云いなさい、バカぬえ……葬儀を引き受けたのはうちなんだから。管理の不徹底で済んじゃう話だし、遺族の方々に責任を押し付けるわけにもいかないじゃない」
いつまでもこうしちゃいられないわね、と水蜜は話を切って立ち上がる。
亡くなったのは母子の二人だった。母親のお産の経過が芳しくなく、夜のうちに陣痛が始まったのだが、寒い寒い夜を越えることはできなかった。母親の遺体は棺に、赤子の遺体は桶に入れられて、望まぬ火葬の刻限を待っていたのである。
「とにかく寺中を探してみるしかないわ。私は内を探すから、ぬえは外をお願いね」
云うが早いか、水蜜は足音を忍ばせて部屋から出ていった。
ぬえも机の角に腰をぶつけたみたいによろよろと立ち上がってから、中庭に視線を移した。池に反射した日差しの眩しさに顔をしかめる。寺にとっては最悪の日なのに、空模様は最高に春の日和だった。屋根瓦のうえで一杯やれないのが残念に思えてくるほどだった。
「なんで、いなくなっちゃうかなぁ……」
故人に怒りをぶつけるのは酷だ。そう分かっていても、畳を踏みしめる足の力は緩まなかった。
確かに根っからの妖怪である自分には、どうでも好いと云えばどうでも好い話なのかもしれない。
けれど。
「白蓮が、困ってるってのに」
それなのだ、結局のところ。
まだ返せていない恩は、両手で抱えきれないほどにあった。ぶっ飛んだネジの空回りばっかりで、受け取った言葉はいつだって「気持ちだけ頂くわ、ぬえ」だったのだ。
自分の尻尾を追いかける猫みたいに、部屋中をぐるぐる回って考える。安置されていた部屋から、みなが集まっていた御堂へは襖一枚を隔てるのみ。ほとんど密室状態だったのだ。誰にも気づかれずに、ルブランの怪盗みたいに桶をかっさらうなんて、とても人間技とは思えぬぇ。
葬式、消えた遺体、人外の仕業。
ぬえは、はっと顔をあげた。稲妻が脳裏を駆け抜けたみたいだった。
「いや、まさか――でも……」
確信はない。ないけど、葬儀の際に死体を持ち去る妖怪に、私は心当たりがある、そう思い出したのだった。
善は急げである。ぬえはわき目もふらずに縁側から飛び立ち、春の日差しのなかを翔け抜けた。
冬の終わりを祝い合うツバメたちよりも、なお早く、さらに早く。
Phase 3
アリス・マーガトロイドの優雅でアーバンな午後は、玄関から転がったノックの音によっていとも簡単にぶち壊されてしまった。
人里での人形劇を終えて帰宅、アップルティーとチョコチップクッキーで一服していたところにコレである。「はいはい、ただいまー」と投げ返す声に棘が生えていたのは否定できない。
「やっ――どもども、突然お邪魔しちゃって悪いね、人形遣い」
「あなた……いつかの土蜘蛛」
扉の向こうにいたのは黒谷ヤマメだった。地底にうごめく暗闇を感じさせない、向日葵みたいな陽気な笑みを浮かべていた。
「覚えていてくれたのかい、そりゃ光栄だね。お礼に私の同胞をひとり遣わそうか。害虫退治にはピッタリだ」
「けっこうよ。立地はアレだけど、これでも清潔には気を付けているつもりだから」
そりゃ残念、とヤマメは肩をすくめてから、アリスに続いて家のなかに入ってきた。もの珍しそうに首を左右に巡らせるもんだから、金髪のポニーテールが野兎みたいに跳ねまわった。
「なるほど。こんなに綺麗だと、逆に落ち着かないねぇ」
「アップルティーは嫌い? 煎茶の方が好かったかしら?」
「いやいや。すぐ終わる話だから、お構いなく」
「チョコチップクッキーもあるけど」
「そういや小腹が空いていたところだったよ」
アリスはふっと笑ってやってから、新たに焼いたクッキーをテーブルに置いた。
「それで何、突然やってきて」
「ん、ウマい――なに、大した用事じゃないんだけどね。もし桶を持ってるんなら譲ってくれないかい?」
「桶ェ? 身内で葬式でもやるの? そも、なんで私の家にあると思ったわけ?」
アップルティーを一呑みにして、土蜘蛛はいかにも落ち込んだようにため息をつく。
「やっぱり嘘だったか。やだねぇ、世間様ってのは冷たいねぇ。厄介払いの言葉が身に沁みるよ」
まるっきり片田舎のオバハンみたいなイントネーションだった。アリスが何も云えないでいるうちに、小雨のように湿り気を帯びた言葉たちがテーブルを叩く。
「実はさ、友人が大の引っ込み思案なやつでね。いつも桶に引きこもってるんだけど、そいつが落盤で壊れちゃったんだよ。幸い怪我はなかったんだが、えらい落ち込みようでね。旧都――町のほうも被害を受けちゃって、桶屋も大岩でつぶれちゃった。ここは私が一肌脱いでやろうと思ってね、わざわざ地上へ探しに出てきたってわけ。でもねぇ……」
ヤマメはクッキーを手に取って、シマリスみたいに前歯でかじった。
「よくよく考えてみれば、私は追いやられた身だからね。里には近づけないんだ。仕方ないから顔見知りの人間を頼ろうと思って、例の金髪の人間の家に行ってきたのさ」
魔理沙か。嫌な予感がしてきた。
「ところがどっこい、あいつも持ってないって云うんだ。いよいよ八方塞がったかと思ったら、もう一人の魔法使いなら持ってるって助言をもらったのさ」
頭を抱えたい気持ちだった。あの野郎、また厄介事を押しつけてきやがったな。
「生憎だけど、私は桶には縁のない生活をしてるから」
「人里になら桶屋があるんだろう? なんとか見繕ってくれないかな。今となっちゃ、あんただけが頼りなんだ」
「……私とあなたが地上と地底の境界で隔てられているのと同じように、私の持ち合わせてる親切の範囲にも境界があるの」
土蜘蛛は椅子から崩れ落ちるんじゃないか、と思うくらいに脱力してしまった。
「よよよ……世知辛いねぇ。無情な世の中だ――お礼ならするよ、土蜘蛛の糸は丈夫で千年来の妖力が詰まってる。人形遣いのお気に召すと思うんだけどなぁ」
「むっ」
思わず顔をあげた。その途端、ヤマメが表情を一変させた。蝶々を狙う自然界のハンターそのものの笑みが浮かんでいた。
「自分で云うのもなんだけど、ちょっとやそっとじゃ手に入らない上物だよ。桶の一つや二つ、軽いんじゃないかい?」
「むむむ」
「何が『むむむ』だ!」
アリスの頭のなかでそろばんの玉が一斉にじゃらじゃらと音を立てた。いや、考えるまでもなかった。鼻先にチーズを突き付けられたネズミのような心境だった。
「……どれだけ譲ってくれるのかしら?」
「あんたが望むようにね。なんなら毛玉いっこぶん出してやっても好いよ」
商談成立である。
早速テーブルを片づけると、火の元をチェックしてからカーテンを閉めた。外でヤマメが呼ぶ声がするが、その前に人形のチェックも済ませなければならない。うっかり一体だけ動かしたままにしておくと大変なことになる。
その異常に気付いたのは、痺れを切らしたヤマメに肩を叩かれたときだった。
「……うそ」
「なにがだい? さっさとしないとお天道様が沈んじゃうよ」
「上海がいない」
「はぇ?」
いつも連れだっているはずの大切な人形が、痕跡ひとつも残さずにアリスの手元から消え去ってしまっていたのである。
「ごめん、急用ができたわ。桶は他の人に頼んでちょうだい」
「え――ちょ、困るよ! そんな急に!」
もはやヤマメの声など耳に入らなかった。アリスはロケットみたいに打ちあがり、人里へ向かって全速力で舵を切った。
自分を呼び止める悲鳴がミサイルみたいに背中に突き刺さってきた。
ごめん、と心のなかでもう一度だけ詫びた。
Phase 4
「何度だって云ってやるけどね。あたいは無実、濡れ衣だよ」
「火葬を待つ死体を持ち去るなんて、あんたくらいしかいないじゃないの。さっさとゲロったらどうなのさ?」
「……騒々しい、いったいどうしたの。税務署の取り立てかしら? あれほど帳簿はきちんとつけておいてって云ったのに――あら?」
うわ、厄介なのがきた。
封獣ぬえは相手の襟首から手を離した。喉を押さえて大げさに咳を転がすは地獄の超特急、火焔猫燐である。
ところは地霊殿のエントランスホール。赤子の遺体の行方を巡って云い争いをしているところへ、当主の古明地さとりがパジャマ姿で階段を下りてきた。
「あらあら、お鵺じゃないですか。お久しぶりですね」
「その呼び方やめて」
「あなたが地上に出てからというもの、心なしか屋敷も寂しくなってしまって。なんなら泊まっていってはいかがです?」
「御免こうむりたいね。今日は急ぎで尋ねたい事があって来たんだから」
さとりは三つの瞳をカメラのシャッターみたいに開閉させた。その間、心臓を手のひらで転がされているような悪寒に襲われたが、その方が話が手っ取り早いので、目をつむって耐えた。
「ふむふむ……なるほど、話は分かりました」
「さとり様、このポンコツ石頭に云ってやってくださいよ」
「また私のペットになりたい、ですか。喜んでお迎えしましょう」
ズコーッと燐が大げさにすっ転んだ。
「ウソ云わないでよ。二度と地底になんか帰ってやらないんだから」
そう答えつつ、ぬえはさとりから目をそらした。大昔、火遊びが原因で旧都の面々をスチームポッドみたいに怒らせてしまい、大慌てで逃げ込んだ先が地霊殿であった、なんてトラウマが脳裏に蘇ってきた。
「あの頃に比べて、今のあなたは可愛げがなくなりましたね。やはり地上に行かせるべきではなかった、と今でも後悔しています。ほら、覚えているでしょう? 初めて逢った時のお鵺の泣き顔ときたら――」
ワーワーキャーキャーと叫んでさとりの口を塞いだ。モガモガとうごめく唇はナメクジみたいな感触で不気味だった。
「さて――昔話はこのくらいにして、単刀直入に申し上げます。うちのお燐は無実です」
さとり様っ、と燐が復活して立ち上がる。
「お燐は、朝からずっと旧灼熱地獄跡で熱心に仕事をしていました。まさに馬車馬ならぬ火車馬ですね。いま、ウマいこと云った――つまり、お鵺の寺に置いてあったザ・ボディをオ・リンがテイク・アウェイするのは、物理的に不可能なのです」
息が詰まるような思いだった。云い返す言葉も正体不明で浮かんでこなかった。
「じゃあ、いったい誰が……」
「それは私にも分かりませんし、力になって差し上げられません。人間の死体はここでは食糧か燃料ですから、お疑いになるのも無理はありませんが」
これ以上はなんの収穫もない、ということだ。ぬえは謝罪もそこそこに地霊殿を辞した。
「戻って来たくなったら、いつでも。お鵺が帰って来たと知ったら、こいしも喜びます」
わざわざ外に出てまで見送ってきたさとりに、ぬえは仕方なく手を振ってやった。
「……って、なんであんたが付いて来てんのよ!」
「いやぁ、今日のノルマは終わらせちゃってね、暇が出来たのさ。せっかくだから、あたいも久々に地上見学としゃれ込ませてもらうよ」
「あー、もうっ」
面白いことになりそうな気がするんだ、と火車は笑いながら、こちらの肩を叩いてきたのだった。
Phase 5
まるでハヤブサみたいだった。
レミリアから頼まれて栗羊羹を購入した美鈴は、人里からの帰り道にアリスとすれ違った。いや、すれ違ったというよりはグレイズした、という云い方のほうが正しかった。
普段の余裕に満ちた物腰もぶっ飛んだ焦りっぷりである。こちらを振り返ることすらしなかった。しばらく、その後ろ姿を眺めてみたが、やがて木々の向こうに消えてしまった。人里に降りたらしい。
ぶつけた右肩が鈍く痛んだ。やれやれ、と飛翔を再開しようとしたところで、脳裏にミサイルが降ってきたみたいな衝撃が走った。
栗羊羹が、ない。
右手は空っぽだった。いまの衝撃で落としてしまったのだ。
美鈴は自分でも訳の分からない叫び声を上げながら急降下した。ぶっちゃけると大ピンチだった。
今日は品切れだったところを、なんとか無理を通してこしらえてもらったのだ。そのせいでだいぶ時間を食ってしまった。これ以上、お嬢様を門前に立たせるわけにはいかなかった。
「あ、めーりんだ。これ、あなたの?」
栗羊羹は無事だった。けれど、もっと大ピンチになった。
「ルーミア……そう、私が買ってきたやつ」
食いしんぼう核弾頭が岩に腰かけて、栗羊羹の箱詰めをひらひらさせた。ちょっとヘコんではいるが、踏みつぶされたカエルの内臓みたいに中身が飛び出しているわけではない。
「ふーん、お菓子?」
「タオルケットの詰め合わせ」
「もっとマシな嘘ついたら? 箱に『菓』って書いてあるよ」
「アイヤー!」
ガッデム、ファッキン、シット!
「……お嬢様がどうしても食べたいって仰ってね」
「ふーん、まぁいいや。はい」
ルーミアは興味なさげに箱詰めを手渡してきた。これは驚いた。ぱっくんちょされるかと思って、懐にスペカを忍ばせていたのだが。
「珍しいなぁ。あなたが食べ物に興味を示さないなんて」
「さっき、お腹いっぱい食べたばかりだから」
「何を食べたわけ?」
「赤ちゃん」
ふぅん、とうなずきかけて美鈴は凍りついた。
「ちょ――人里の赤ん坊をさらったの? そんなことしたら、遠野の神隠しよろしく消されるじゃないの!」
ルーミアは大丈夫、と手を振って笑った。失敗した口紅みたいにほっぺに血糊が付着していた。
「綺麗なお姉さんにもらったの。私には必要ないからって。それに、もう桶に入っちゃってたから」
すでに死んでたってことか。いや、しかし、と美鈴はルーミアの屈託のない笑顔を見上げた。雲ひとつない夏空みたいに眩しい顔だったので、それ以上は何も云えなかった。
「あ、そうだ。これ要らないから、ついでにあげるね」
そう云ってルーミアが寄越してきたのは、死臭が白カビみたいに張りついた桶である。
いらねぇ。いらねぇが、ここに放置しておくのもマズい。そのお姉さんとやらが何者なのかは知らないが、里の人間に害を為したことに変わりはないのだ。このまま道端に捨て置いて、もし里の人間が発見でもしたら大変なことになる。
「あー……分かった、頂戴するよ。それとキャッチしてくれてありがとうね。おかげで助かった」
「どういたしまして。次はしっかり抱えていることね。赤ちゃんを守るカンガルーのお母さんみたいに」
闇の妖怪はひとつうなずくと、岩のうえでゴロりと横になった。三秒と経たずにいびきをかき始めたあたり、只者ではなかった。
美鈴は春空へと舞い上がり、ふぅっと息をついてハエのたかった桶を見下ろした。どこか遠い場所に捨てるか、それとも焼いてしまうべきか。
「これ、どうしようかなぁ……」
また仕事が増えてしまった。
Phase 6
一方、アリスはふだん人形劇をおこなっている寺子屋の広場で上海人形を探している真っ最中であった。
こういう時の失せ物というのは、失くした場所に戻っても見つからないことが大抵である。実際、広場には人形の腕すら落っこちていなかった。
物を失くすのも忘れるのも随分と久々のことだった。ちょっと焦り過ぎているな、と深呼吸する。
上海人形は自分にぴたりとくっついて、有事の際には即応できるようになっている。自動制御に頼り過ぎていたこともあるけれど、それにしたって存在を忘れてしまうなんて、いくらなんでも平和ボケがすぎている。
タイミングとしては人形劇を終えた直後、何者かが上海の制御を奪ったとしか考えられなかった。
「おい、伺いも立てずに敷地に入ってもらっては困る」
ふたたび飛び立とうとしたところ、上白沢慧音が裏手から姿を見せた。寝癖がひどい。頭のうえで機雷が爆発したみたいだった。紺色の浴衣を着ているところを見るに、どうやら寝ているところを起こしてしまったらしい。
「あら、ごめんなさい――寝癖がすごいことになってるわよ。それとも、ロックンロールにでも目覚めたのかしら?」
慧音の眉が持ち上がる。
「いや、昨夜は満月だったからな。予想以上に編纂作業が長引いて、やっとこさひと眠りできたところだ」
腕組みをしてハクタクは首を傾げる。慧音ほど腕組みの似合う女性をアリスは他に知らない。
「……そうか、今日は人形劇の日だったな。知らずに爆睡してしまったよ」
「大丈夫よ、子どもたちなら声をかけただけで集まってきてくれたし、無事に終えられたわ」
「なら好いんだが、それなら何でまた戻ってきたんだ。忘れ物か?」
うなずいて事情を話すと、子ども思いの教師は渋面を形作る。
「なんだか雲行きが怪しいな。大事にならないと好いが」
「ここ以外に探す当てがなくてね。ほんと、どうかしてた」
目撃証言を探ってみるしかないか、と考えたところ、慧音があっと声をあげた。
「探し物なら適役がいるだろう。ほら、命蓮寺の妖怪の」
「それよ!」
そうか、その手があった。思わずハハッと笑い声が漏れてしまった。
「ありがとう、さっそく行ってみるわ」
春風に乗ってふわりと浮かび、慧音に会釈を贈る。欠伸を返されてしまった。
「ん、気をつけてな。私はもう一度、夢という名の歴史を探る作業に戻るとしよう」
二度寝か。物は云いようね、とアリスは苦笑した。
Phase 7
霍青娥が鼻歌をそよがせながら仙界の道場に戻ってきたのは、陽が盛りを越して傾き始めた頃合いであった。
「青娥殿、遅かったではないか。点心が冷めてしまったぞ」
物部布都が朱塗りの戸を開けて現れた。両手に芝麻球、いわゆる胡麻団子が詰まった蒸籠を乗っけて得意げな笑みを浮かべていた。今日も上出来なのだろう。
「ごめんなさいね、どうしても手が離せない用事があったものですから」
「どこまで遊行されたので? いや、詮索するつもりは毛頭ありませぬが」
受け取った芝麻球を頬張ってから、青娥は懐を探った。
「例の寺ですよ。ちょっとした敵情視察のつもりだったのですが、目の前に美味しそうな……そう、この芝麻球のように美味しそうな珠が転がっていたものですから、つい摘み取って参りましたの」
銀髪の尸解仙はほう、と興味深げに息をついたものの、取り出したブツを見せてやったとたん、その表情は落盤に遭ったみたいに崩れた。
「せ、青娥殿。これは、もしや……」
「えぇ、ご推察の通りですわ。ちょうど弔祠の最中で、目を離した隙に頂戴いたしました」
青娥が取り出したのは、青黒い炎をロウソクみたいにちらつかせた球体である。炎が怯えたように弾ける度に、悲鳴ともうめき声とも知れない叫びが地の底より湧き上がってきた。
ヤンシャオグイ、という言葉がある。幻想郷に来てからというもの、赤子の魂を仕入れるのが難しくなってきていたのだ。今回の葬儀はちょうど好い猟場になった。
「で、では、その水子の死骸は――」
「その辺の妖怪にくれてやりましたわ。嬰児の死体はキョンシーの役に立ちませんもの」
仙人の卵はひとたまりもなく失神したが、青娥に背中を支えられてふたたび蘇った。
「……これは不味いのではないか。太子様がお聴きになられたら、なんと仰るか……里の人間に手を出すなど、この地では御法度では」
青娥は首を四十五度くらいに傾けて、震える布都の唇に人差し指をあてがった。
「なんの痕跡も証拠も残しておりませんわ。心配のし過ぎですよ、物部様。それに、あの寺もこれでは面目丸潰れ、大目玉食らうの大盤振る舞い。豊聡耳様もきっと、お喜びになられるはず」
それよりも御茶をいただけますか、と布都の手を取って道場に入っていく。後ろからノイズの酷いテープレコーダーみたいな独り言が転がってきたが、青娥は当然のように無視した。
今日は、実に気分が好い。
Phase 8
「ちょいと待っておくれ、お鵺。向こうからかぐわしい香りがするんだ」
「だからその呼び方――ちょっとちょっと、そっちは駄目だって!」
地底から命蓮寺までの帰路、使い魔を放ってあちこちと調べてみたが、亡くなった赤子の遺体は発見できなかった。これ以上は留守にするわけにもいかず、ぬえは寺まで帰ってきたのだが。
一緒についてきた燐が急停止して、鼻をすんすんと鳴らしたと思ったら、裏手の墓地へと降りていってしまったのである。
このうえ墓荒らしまでされてしまったら、何を云われるか分かったもんじゃなかった。白蓮の力になろうと飛び出してきたはずが、文字通り寺の墓穴を掘る羽目になっちまうのである。
「ヤクっと回ってさあ大変っ――あら、お寺のひと? それとも厄払いの相談かしら?」
「お鵺! 間違いない、こいつは上物だよ! 産まれたてのホヤホヤさ!」
墓場の中央で燐と相対しているのは、見知らぬ妖怪だった。いや、妖怪にしては感じる妖気の質が違う。人間がバタークリーム、妖怪がクリームチーズだと仮定すると、目の前の少女はサラダよりもケーキにトッピングしたほうが似つかわしい妖気を身にまとっていた。
早い話が、神である。
「その通り。私は鍵山雛。秘神流し雛よ。えんがちょマスターとか云いやがったら次の新月の夜には覚悟してもらうことになるから、そのつもりでね」
「お雛さんよ、ちょいと手元を見せてもらえないかい?」
「ふむ、お雛さんね。なかなか好いネーミング。その調子よ、はい」
ぬえが声を挟む間もなく、雛は工事用ドリルみたいな回転を止めて、膝のうえに重ねていた両手を解いた。
「……人形?」
見事な意匠が施された可愛らしい人形である。墓場ではお馴染みの瘴気が、人形の全身から毒ガスみたいに漏れ出ている。ぬえは反射的に羽をクネクネ動かして結界を張った。
猫に人形を手渡しながら、厄神様が説明なされる。
「普段は御山のほうで厄を集めているんだけど、毎年この季節は雪解け厄を拾いに降りてきているの。冬を越えられなかった命の無念が、目に見えない泥土みたいに積もっていって、それはそれはとんでもない厄をばらまいてしまうのよ。その代表格が墓場ね。お墓で転んでしまうとあの世へトリップしちゃうって伝承は、ここから来てるってわけ」
「そいじゃ、この人形はなんだい? 活きの好い怨霊が取りついちまってるけど」
三人して顔を寄せ合い人形を覗き込む。
「怨霊?」
「怨霊さ、死んだばかりのコケコッコーだよ。どこで拾ったんだい?」
「お寺の周りをうろうろしていたわ。なんとかして入ろうとしていたみたいだけど、この結界じゃ無理ね。よほど怨みのある人間が中にいるんじゃないかしら?」
お雛さんが命蓮寺を振り返る。葬儀はどうなったんだろう、とぬえは考えて、はっと人形に向き直った。二度目の稲妻が脳裏を翔け抜けていった。
「この怨霊、もしかして亡くなった赤ん坊じゃないの?」
「いんや、残念だけど違うね。いわゆる妙齢の女性ってやつさ。写真にでも収めたら、さぞかし外の世界を騒がせるだろうね。それくらいに強い怨みを持ってる。素人が迂闊に触ると火傷じゃ済まないよ」
そう云い放ち、燐は人形の身体をあちこちと検めたが、渋い顔で黙りこくった。どうやら、このままでは持ち帰れないらしい。
「完全にくっついちゃってるね、仕方ない。首をすっ飛ばして取り出そうか」
燐が鎌のように鋭い爪を振りかざしたので、二人は距離をとって見守った。
その時である。
「――ちょっと待ったぁ! ストップ、ストップー!」
予期せぬ闖入者のご参上である。
「ありゃ、お姉さんってば、いつかの人形の」
「アリス・マーガトロイドよ、別に覚えなくても好いけど――あぁ、上海! ごめんね!」
なんだか凄いことになってきた、とぬえは思った。完全に蚊帳の外であった。
「気を付けなさいよ。そのお人形さん、とんでもない量の厄がハッピーセットみたいにくっついてるから」
厄神が再びクルクルと回り始めながら忠告を届けると、人形遣いは涙まじりにうなずいた。本当に人形みたいな青空の瞳を涙でうるませた姿は、ぞっとするくらいに綺麗だった。敵わないなぁ、とぬえは首を揺らす。
「なるほどね、タチの悪いのが入っちゃったってわけか……まぁ、これくらいならどうってことないわ」
魔法使いは小声でサンドイッチみたいに詠唱を重ねていった。それに合わせて、十本の指から糸が持ち上がる。鎌首をもたげたヘビみたいな動きだった。
火車は今にも飛びかからんばかりに両手を持ち上げて、舌なめずりを繰り返していた。まるっきり獲物を狙う猫だった。厄神様は厄神様で回転を続けてヤクを集めている。
ぬえに出来ることはなかった。もう帰って好いかな?
しかめ面を上げたときには、勝敗は決していた。人形はアリスと感動の再会を祝い合い、燐は極上の怨霊を両手でかかげて小躍りしていた。雛はなぜかミドルシュートをぶち込んだプロサッカー選手みたいに清々しいガッツポーズをキメていた。
ぬえは何だか泣きたくなった。徒労の結果がコレとは報われない結末だった。
Phase 9
命蓮寺の墓地が喝采で盛り上がっていた丁度その頃、黒谷ヤマメは焦っていた。
アリスに約束をフルスイングされてからというもの、里に近づこうにも近づけず、幻想郷の春空を当てもなく飛び回っていたのである。
さっさと地底にずらからないと、キスメも心配していることだろう。けれども、キスメが残念そうにまつ毛を伏せる姿も見たくなかった。パルスィのやつには嫌味を云われるに違いない。勇儀の旦那は笑い飛ばすに違いない。
どれもこれも、ヤマメにとっては面白くないことばかりである。
これはもうゼロ戦のごとく人里に特攻をかけるしかないか、と思い詰めたときだった。
眼下の街道沿いの林から、ひとりの少女がヒバリみたいに舞い上がってきた。いまや懐かしの唐風の格好をしていたが、そんなことはどうでも好かった。ヤマメの視線は、少女の手にぶら下がっている物体にブラックホールのごとく吸い寄せられた。
「ヘ、ヘイッ! ゼア・チャイニーズ!」
思わずカタコトの英語を口走りながら、ヤマメは両手を振って突貫した。
「うわわ、日系アメリカ人の方ですか? 私、英語はマジ無理なんですけど」
少女は紅色の長髪を振り乱して逃げ腰である。ヤマメの心臓がバンジージャンプした。ここで逃げられてはならない。守矢の大好きな奇跡か古明地の大嫌いな偶然か、チャイニーズが運んでいたのは小柄なキスメにはピッタリなサイズの桶であった。桶からなにやら禍々しい瘴気を感じるが、知ったこっちゃなかった。
もはや一刻の猶予もなかった。ヤマメは空中で土下座した。サーカスのピエロにだって出来ない芸当である。
「まったく突然ですまないが、その桶を譲っておくれ!」
少女が面食らったように息を詰まらせたのが分かった。頭を下げたまま、お願いだ、お願いだよ、と繰り返し叫ぶ。大根役者にでもなった気分だった。
「……えっと、どちら様でしょうか?」
「――ぁぇ」
考えてなかった! ヤマメは踏みつぶされた蜘蛛みたいな悲鳴をあげた。
さんざめく空騒ぎが大バーゲンな毎日を送ってきたせいで、後先を考えずに行動するのが癖になっちまっていたのである。
ワタシハ地底カラ来マシタ、なんて白状しちまっては、もっと警戒させてしまうやもしれぬ。嘘も方便、ということわざがハリケーンみたいにヤマメの心を直撃した。
「――よ、妖怪専売の桶屋だよ! ちょいとした事故があって、顔面に投げつけたカボチャパイみたいに店が潰れちまってね。このままじゃおまんまの食い上げさ。なんとかして桶をかき集めて、家内とセガレを食わしていかなくちゃならないんだよ!」
ヤマメはそこまで叫んでから、自分も女性なのに家内と呼んじまったことに愕然とした。痛恨であった。
しかし。
「あー、そういう事情でしたら、むしろこちらからお願いしますよ。どうぞ、もらってください」
赤髪の妖怪が臭い物でも取り扱うみたいに桶を突き出してきた。よっぽど手放したかったらしい。
「ウラー!」
「今度はロシア語ですか」
ヤマメは躍りあがって桶をひったくった。この木目の手触りと好い、大好物の人間の死臭と好い、文句のつけどころがなかった。
「助かるよ、チャイニーズ! いつかお礼は必ず返すから!」
とんでもない、と両手を振る少女と無理やり握手を交わしてから、ヤマメは弾道ロケットみたいな軌跡を描いて、友人たちが待つ我が家へと帰っていった。
Phase 10
ルーミアは心地よいまどろみから目覚めた。
春眠暁を覚えずとは好く云うけれど、これなら夕暮れさえも覚えずになってしまいそうだった。極上ステーキのレアにありつけて、気分は天に昇る竜の心地である。
いつもならブルーベリーソースみたいな闇が空を覆うまで眠ってしまうところだったのに、今日に限って目覚めてしまったのには、とある理由があった。
「……誰だろ」
闇のなかでは聴覚が鋭敏になる。蒸気機関車みたいな荒々しい息遣いが、こちらに向かって来ている。人間の男だ。大人の男だ。
息を乱した牡鹿がこちらに近づいていると知ったとたん、お腹が銅鑼のような大声を立てた。くふふ、と笑い声をこぼしてしまう。
「今日はツイてるなぁ。いつも十字架のポーズをとってるおかげかな?」
祈りが天に通じるとは、なるほどこのことを云うらしい。神様は日々の行いを見ていらっしゃるのだ。あの赤ん坊をくれた羽衣のお姉さんは天の使いなのやもしれぬ。
人間の男が、茂みの中からこちらの眼下へと飛び出してきた。真上に人喰い妖怪が舌なめずりしていることなんて露知らず、岩肌に背を預けて呼吸を整えている。
ルーミアは食いしん坊だが、云いつけはきちんと守っていた。里中で人間を襲ったことはない。けれど、どこの世界にもシルクみたいに肌触りの好い例外ってもんがある。
つまりは、里の外へとノコノコ出てきた人間なら、食っちまってもゲンコツを落っことされることはないのだ。
男は着物の袖で汗を拭いながら、筆に起こすのもはばかられるほどの悪態を吐き散らしている。ひときわ大きな舌打ちが弾かれたその時、ルーミアは身にまとっていた闇を超新星爆発みたいに押し広げた。
辺り一帯は無間の闇に閉ざされてしまった。
動揺のあまり声も出ない男の肩に寄り添って、ルーミアはそっと耳元に囁いてやった。
「ねぇ。あなたは、もしかしなくても取って食べれる人類?」
Phase 11
「どこ行ってたのよ! 心配させないでちょうだい、バカぬえ」
「ご、ごめんってば。なにも遊んでたわけじゃあ――」
「そういう問題じゃないっての。ひとこと云ってくれれば好かったのに」
水蜜が瞳を海水でうるませながら迫ってきたので、ぬえは何も云えなくなってしまった。三対の羽もしょんぼりとうつむいた。
二人は伽藍の隅っこで、またもや顔を寄せ合って話し込んでいた。火車や厄神に人形遣いと、色々とものすげえ面々と別れてから、ぬえはみじめな気持ちを引きずって寺の境内に降り立ったのであった。
「……どうしたってのよ?」
「いやさ、私ってば役立たずだなぁ、なんて思って」
サボテンになったみたいな気分だった。面白がられるだけで世話してもらってる恩も返せず、触れられればトゲを刺してしまう。背中の青い羽がサボテンのトゲみたいに見えてきた。
水蜜がむっと眉を寄せて、こちらを睨んできた。海の色を溶かした瞳に魅せられているうちに、キャプテンは帽子を手に取ってかぶせてくれた。雛鳥を愛でるみたいに撫でてくれる手のひらの感触が、帽子というフィルターを通して伝わってきた。
つまりは、これが私たちの距離なんだなって、ぬえは顔を赤くしながら思った。
いつもなら撫でられる度に恥ずかしくなって手を振り払ってしまうのだけど、今日だけは水蜜の陽だまりみたいな手のひらの感触を味わっていたかった。
「ぬえ、船長、ちょっと好いかい?」
「……空気読めない奴め」
失礼、と我らが賢将ナズーリンは肩をすくめてみせた。
「まず、赤子の遺体は見つからなかった。なんともおかしいことに、途中で反応が消えてしまったんだ。風にさらわれた砂粒みたいにね」
「うーん、やっぱり駄目だったかぁ」
水蜜が嘆息する横で、ぬえは熟れたトマトみたいに赤面していた。ナズーリンの能力のことをすっかり忘れてしまっていた。なにも自分が探しにいく必要なんてなかったのだ。
「それと、ぬえ。先に聖に顔を見せてやってくれ」
「えっ、なんでよ」
ナズーリンは懐からカマンベールチーズを一切れ取り出して、咀嚼しながらこちらを見すえてきた。
「どこに行っていたのかは聞かないが、君の不在を一番に気に病んでいたのは聖だ。こんな時だからこそ、慌てずに相談してもらわなくては困る」
賢将が真っ赤な眼を細めて、人差し指で胸をとんっと突いてきた。
「君の身体は、もう君だけのものじゃないんだからね」
ぬえは謝罪の言葉も口から転がせなかった。サボテンのトゲが、突かれた胸から抜けていくのを感じた。
「それで、ナズーリン。父親のほうは見つかった?」
水蜜が話を戻して云う。父親? 虚を突かれて顔をあげてしまう。
「そうだ、その話をしに来たんだった――ちゃんと見つけたよ。けど、手遅れだった。里の近く、林の奥だ。その辺の妖怪の仕業だろう。ジンベイザメに襲われたマグロみたいになっていたよ」
「ふん、好い気味だわ」
「ちょっとちょっと、話が見えないんだけど!」
二人が含み笑いを漏らしてこちらを見つめてきた。
「あれから事情が変わってね。赤ん坊の遺体どころじゃなくなったのさ」
水蜜が後を受けた。
「あの奥さんが死産になったのは、喪主の――あの男のせいよ。毎晩毎晩、奥さんに暴力を振るっていたらしいわ。顔だと目立つからね。背中やお腹を、何度も。仲の好かった産婆さんが証言してくれたわ。口止めされていたらしいけど、奥さんのことが可哀相で仕方がなくて、勇気を出して云ってくれたのよ」
「その後が面白かったね。あいつ、真っ青になって逃げだしたんだ。速いのなんのって、私でも追いつけなかったくらいさ。因果応報とはこのことだね」
まぁ、それは好い、とナズーリンはチーズを呑み下す。
「もう終わった話さ。いま、ご主人が喪主に代わって事を進めてる。またドジを踏まなければ好いが――ぬえ、君はさっさと聖に会ってやってくれ。心配のあまり鴨居で首を括りかねない」
返事も待たずに小さな大将は背を向けてしまった。主人の様子を見に行くのだろう。
「一件落着とはいかないけど、収まるところに収まりそうね。後のことは私たちでやっておくから、あんたは聖のとこへ行ってきて」
水蜜も立ち上がる。地底時代からの長い付き合いのせいか、その言葉の湿り気の具合で、どんな気持ちを抱いているのか分かってしまう。
だから、ぬえは小さな笑いをこぼしてから、セーラー服の背中に声を投げかけた。
「ムラサ」
「なによ」
「その、ごめん。それと――嬉しかった、ムラサも私のこと、心配してくれて」
「ばっ――バカ! このバカぬえ!」
顔をトマトにした舟幽霊にポカポカと殴られて、ぬえは痛い痛いと鳴き声をあげた。
Phase 12
鍵山雛が里の近辺の小川で流れ厄を集めていたとき、小野塚小町が弾んだ声をかけてきた。
「鍵山じゃあないか。こんなとこで会うとは珍しいね」
「小野塚さん、どうしたのかしら。ドリームジャンボ宝くじで三億円でも当たったの?」
「いやね、休暇ほど素敵な言葉なんてないって思わないかい?」
死神はいかにも機嫌が好さそうだった。水牛を仕留めたライオンみたいな顔つきだった。
「自慢話ですか?」
「そうさ、自慢して何が悪いってんだ」
死神はかんらかんらと笑う。その左手には青黒い炎を放つ球体が窮屈そうに収まっていた。
「それは?」
「ついさっき、近くで死んだ男の魂だよ。今日のノルマを終えたら休暇にして好いって云われてね。あと一人ってとこで、だれも来なくなっちゃったのさ。どうにも仕方がないから、久々に出張サービスに来てやったってわけ」
ふぅん、と返してやる。小町は重機関銃みたいに言葉を撃ち続ける。
「今日は運が悪くてね。二人ほど当てがあったんだけど、どっちの魂も持ってかれちまった」
雛はひやりとした。なんだか続きを聞かないほうが好い気がしてきた。
「片っ方は赤子の魂なんだけどね、新参の邪仙様が先にさらってしまったみたいだ。あの場所はあたいでも手が出せないから、諦めてその母親のほうの魂を回収にいったのさ」
そこで、小町は初めて嬉しげな表情を崩した。
「ところがどっこい、あの泥棒猫、またあたいの取り分をかすめ取っていやがった。怨霊はあたいの管轄、これはあたいのもんだとか勝手なこと云いやがって、まったく」
「そ、そこへ三人目がヘッドスライディングしてきたわけね!」
慌てて話をそらした。
「もち、その通り。どっかの妖怪のメインディッシュにされちまったようだね。いま話した母子の父親さ。銭もほとんど持ってないし、生前はロクなやつじゃなかったんだろうが、あたいの休暇のためだと思うと感謝したくなるね」
無常を感じた。邪仙に持っていかれた子供、火車にさらわれた母親、そして死神に連れていかれる父親――どのような経緯でこの一家がまとめて亡くなったのかは知らないが、その魂の逝く先に明るい未来なんてひとつもないことだけは確かだった。
「さぁて、どうだい鍵山。こいつを向こうまで届けたら、ちょいと呑みにいかないかい? 今日はあたいがおごってやるよ。小町さん、一世一期の大盤振る舞いだ」
厄神に近づくと不幸になる。けれど、妖怪の山の裏手、中有の道の飲み屋なら気にする必要なんてない。そういえば、最近はお酒なんて呑んでなかったな、と思い出す。
雛は人里を振り返った。炊事の煙が野辺の煙のように春の空へと溶けていった。人間たちは騒ぎ合って春を謳歌しているようだった。冬に散った命の雪解けに気を留めているのは、自分だけのようだった。いつもなら何とも思わないその情景が、いまの雛には羨ましく思えた。
こんな時は、近しい人と肩を組んで、ふざけ合って、そして忘れてしまった方が好いのだろう。
厄神は死神に向き直り、微笑みながらうなずいた。
「えぇ、せっかくだし、ご相伴に預かろうかしら」
Phase 13
幻想郷は春の日差しに暖かく包まれている。
広いようで狭いこの世の中、ひょんなことから赤の他人と縁を結んでしまうことは、決して珍しいことではない。
もうすぐ日も暮れる。本日の縁模様を繰り広げた少女たちは、今ごろは何を楽しんでいるのであろうか。
人里の寺子屋、上白沢慧音が自室で爆睡していた。里のど真ん中に隕石がホールインしても起きなさそうな、見事なまでの寝入りっぷりである。
里からほど近い雑木林、ルーミアが木の幹に背を預けて骨遊びをしていた。自分が食べた赤子と男性が親子であったことなど、ルーミアは知る由もない。
地底の竪穴、黒谷ヤマメと火焔猫燐が楽しげに会話を交わしている。地底の入り口でばったりと出くわしてしばし、本日の地上探索での土産物を盛んに自慢しあっていた。
地霊殿、古明地さとりが執務室のデスクに頬杖を突いてニヤニヤしている。もう一度、お鵺を可愛いペットにするための作戦を考えている真っ最中であった。
中有の道、鍵山雛と小野塚小町が激しい云い争いをしていた。焼き鳥屋とお好み焼き屋のどちらで腹を膨らませるかで、意見が真っ二つに割れていた。
仙界、夕食の準備を進めている物部布都の後ろで、霍青娥が嬉しそうに赤子の魂を撫でている。布都は返したほうが好いのではないかと食い下がるも、青娥は笑って取り合わなかった。
魔法の森、アリス・マーガトロイドは上海人形に追加の施術をかけていた。二度と大切な人形を失ってはならないと、その瞳は闘志に燃えている。
命蓮寺、水蜜とナズーリンが葬儀の後始末に追われる一方で、ぬえは白蓮の居室で大人しくしていた。膝のうえに腰かけろと云われて、そのうえ抱きしめられてしまっては、流石のぬえも逃げられるはずもなかった。
そして――。
「お嬢様、遅くなりました!」
「――緑茶はとっくに冷めてしまったぞ、マイヤー」
紅美鈴は紅魔館の門前に降り立った。レミリア・スカーレットは相変わらずの黒服姿で門柱に腰かけていた。
「すみません、売り切れのところを初めから作っていただいたものですから」
「云い訳は聞かんぞ。私の腹は栗羊羹を求めて有頂天だ。この食欲はしばらく治まるところを知らない」
云うが早いか、お嬢様は栗羊羹の包みを引ったくり、コンバットナイフみたいに凶悪な爪でなかの箱ごと引き裂いてしまった。肝心の羊羹は、迫撃砲が直撃したみたいになっていた。
「おい」
「ひっ――も、申し訳ないです。途中で落としちゃいまして……」
マリアナ海溝みたいに深いため息が挟まれる。
「マイヤー・ランスキーはラッキー・ルチアーノの最高の右腕だった。お前にはその自覚が足りんようだな。罰として、そうだな、マフィア映画五本を徹夜で鑑賞して、あらすじと感想をレポートにまとめてくるように」
「そんなぁ」
肩を落として花の水やりに行こうとすると、お嬢様が呼び止めてきた。
「それで、どうだった? 何か面白い運命は見つかった?」
「うーん……」
はて、確かに不思議なことの連続だったような気はするが。
「まぁ――桶屋が、ちょっぴり儲かったくらいですかね」
「そっか」
お嬢様は、満足げに微笑んだのだった。
~ おしまい ~
.
ただぬえちゃんはもう少し動くところを見たかった、という個人的な欲求によりこの点数です。
唖々無常。妖怪が跋扈する世の中、死んで良いことなんてひとつもありませんね。
くだけた感じの調子がこれまたよかったです
ご評価・コメントの数々、どうもありがとうございました。ほっとしました。
ご指摘・ご意見を次回作の肥料にして精進を重ねます。それと、お鵺よ流行れ。
先生の次回作を心待ちにしております。
色々な例えが面白かった、少なくとも、ブラックラグーンを愛読する私にとっては。
逆にいうと、慣れない人にはクドイかも。
これを個性として伸ばすか、薄めてより多くの人々に読みやすい物にするか。
あくまで私個人の希望としては、是非伸ばし続けてほしいです。
せっかくの同人だもの。
群像劇とか構成とか文法とかは詳しくないのでノーコメント。
フェイズで細かく明確に区切ってくださった事は、文章を読み慣れてないオツムの弱い私にとっては分かりやすく親切でした。
最後に改めて、先生の次回作を心待ちにしております。