はじめに。
この作品は前作の文々。新聞 ~冬の特別号~の魔理沙の記事がもととなり、起きた話です。詳細を知りたい方は、文々。新聞 ~冬の特別号~をお読みになることをお勧めします。
文々。新聞 ~熱愛編~
「皆さんこんにち――」
ドン。
「きよ――」
ドン。
「くっ、ただ――」
ドンドンドン。
大衆の外に突き飛ばされる。
「はぁ、はぁ、天狗たちが強くなっていますね。なぜこんな時だけに? やはり記者たる者、特ダネは欲しいということでしょうかね」
新聞記者射命丸文、これまでにこんな状況に陥ったことがあるだろうか、いや、ない。反語。
「皆さんこんにちは、清く正しい射命丸です」
「その助手の犬走椛です!」
射命丸はそう言い終えると、ぜぇぜぇと荒い息を落ち着かせる。
「大丈夫ですか? 文様……」
椛が心配そうに射命丸の様子を窺う。
「大丈夫、大丈夫ですよ。椛」
乱れた服装を直しながら射命丸は言う。
ここは、香霖堂前、ここの店主、森近霖之助のスクープが発覚したために駆け付けた射命丸だったが、
「ふうっ、それにしても多いですね~」
「全くですね。本当にすごいですよね」
えぇ全く、と射命丸は答える。目の前には数多の記者が所狭しと詰め寄せていた。
ようやく、今回の発端である、森近霖之助が現れた。しかし、様子は記者たちが騒ぐものだから仕方なく、といった感じである。
「霖之助さん! 今回のことについてはどう思うのですか!」
一人の鴉天狗の記者が霖之助に問う。
「すいません。今はまだお話しすることはできません」
きっぱりとそう言った。
そもそも、今回は射命丸も初体験となる、熱愛報道だ。
香霖堂の店主、霖之助と、
「なら、霧雨魔理沙さんとの関係を少しだけ!」
魔法使い、霧雨魔理沙との、熱愛が発覚したのだ。
「彼女とは昔からの中ですよ」
そう言った霖之助は店内へと戻っていた。
「あややや。これは、ここにいても埒があきませんね。ここは魔理沙さんのほうに取材に行くとしましょうか。椛、あなたはここで随時、進展があったら連絡をください」
「はい!」
椛にそう言うと、射命丸は踵を返して、その場を後にした。
「ここもダメですか……」
魔理沙の住む家にも香霖堂と同じ光景が広がっていた。
魔理沙への質疑応答の嵐。
いつもの彼女が一転、今回はとても可愛らしい普通の女の子にしか見えなかった。
「魔理沙さん! 霖之助さんとは今どんな状況ですか!?」
「あー、それは、だな、ノーコメントだぜっ」
言葉に強い語調がない。
「あやや、魔理沙さんも苦労していますね。ん?」
射命丸がここもダメだと帰ろうと後ろを振り向いたら、とある人物が目に入る。
彼女は木の陰に隠れ、こちらを凝視している。
「あれは、人形使い、アリス・マーガトロイドさんですね」
アリスのもとへと歩いていき、射命丸は話を伺うことにした。
そのアリスは何やらブツブツと何かを言っている。
「あの~、アリスさん。何をしているのでしょうか?」
アリスは我に返ったように射命丸を見た。
「あら、何かしら?」
先程までとは一風違った様子だ。
「いや、ですから、何をしているのか、ですよ」
「そうね……強いて言うなら魔理沙の様子を窺っていた、というところかしら。毎日見てるけどいつにもなく今日の魔理沙は可愛いわぁ」
明るい笑顔でそう言うアリスに対し、射命丸ははっきりと言った。
「それ、ストーカーですよね?」
「違うわ」
即答である。
「私はただ、魔理沙を近くで見ていたいだけなのよ。彼女の迷惑にならないように、彼女と一緒に生きながら」
そして、彼女は何かを思い出したかのように言った。
「それで、魔理沙は本当に霖之助さんと付き合っているの?」
「そのようですね」
射命丸はさらっと返した。
アリスは急に、踵を返し、歩き始めた。射命丸もその後に続く。
「あの、アリスさん。どこに行くんですか?」
「霖之助さんの所よ」
「え!?」
「だから、彼の所に行って、本当に魔理沙に相応しいか見極めるのよ。もし、魔理沙に相応しくないと判断したら……」
その後を想像するだけで、ぞっとなる。
「じゃ、そういうわけだから」
そのまま、アリスは射命丸の静止を無視して、その場を去る。アリスを追いたいところなのだが、魔理沙のほうも気になる。アリスのほうは椛に任せることにした。
射命丸は伝令用の鴉一羽を呼ぶ。妖怪の山のほうから来た鴉が、射命丸の腕にとまる。
「これを椛の所へ。頼みますよ」
カァッと鴉は元気よく鳴き、椛のもとへと飛んで行った。
それから暫くして、報道陣はようやく魔理沙の家からいなくなった。ようやく射命丸の取材の時間だ。
「まーりーさーさーん」
その射命丸の言葉に、家に入ろうとした魔理沙がゆっくりと振り向く。
「げっ! て、天狗!」
「『げっ!』って結構傷つきますよ?」
「そこはごめん。でも、お前のせいだからな!」
それに対し、えぇ!? と言いながら心外だと言わんばかりに射命丸は驚いた。
どうしてもそれに納得できず、魔理沙に問う射命丸。
「なんでですか?」
「お前が記事で、私が、こ、こ、こーりんのこと好きだとか書くから……!」
「失礼な! 私は愛のキューピットを務めただけですよ!」
「誰がやれと言った! 誰が!」
そう言いながら、魔理沙は手に持っていた竹箒をブンッ! と振ってくる。
それを寸でのところで避ける。というか、地味に鼻にかすった。
「痛いですねぇ。鼻の皮擦り剥けましたよ。ちょっとですが」
「ふんっ、その程度で済んだならいいじゃないか。私は困ってるんだぜ」
そう言われても、やってしまったものは仕方がない。やったもん勝ち。
「あ、そう言えば」
これは言っておいたほうがいい気がする。
「アリスさんが、霖之助さんのところに行きましたよ? それもすごい形相で」
「なんだって!? それは大変だぜ! すぐにこーりんのところに行かないと!」
やっぱり好きな人のことは心配らしい。そういうのは、嫌いじゃない。ので、応援したくなる。
「そうですか。なら私も向かいますよ」
「そ、そうか? 恩にきるぜ」
そうして射命丸は翼で空へ、魔理沙は箒で空へと飛び立った。
「それにしても、やっぱり大切なんですね」
「何がだ?」
香霖堂まではそこそこ時間がかかる。それまで射命丸は少し、魔理沙と話しながら行くことにした。
「だって、霖之助さんのこととなったら、先程までのきょどった様子から一変、大事な人のために動いているじゃありませんか」
「そうだな。言われれば確かにだな。やっぱり、私って、こーりんのことを……」
嬉しそうな顔をする魔理沙。
(やっぱり、霖之助さんのことを本当に大切で、好きなんですね)
「やっぱり、あれですね」
射命丸は少し照れくさそうに言った。
「こういうのを記事にするのは、野暮なものですね。ことの発端を起こした私が言うのもなんですが」
「全くだぜ。ま、反省してるならいいぜ。起きたものは仕方がないしな」
「その寛大なお心に感謝します。おや? あれは私の伝令鴉ですね。椛からでしょう」
飛んできた鴉を見て、射命丸は言った。鴉は射命丸の腕にとまる。射命丸は鴉の足首に付いていた紙をほどき、中身を確認する。
文様へ
緊急事態です! アリスさんが現れ、報道陣をなぎ倒し香霖堂に入っていきました。今のところは静寂を保っていますが、何が起こるか分かりません。文様、至急戻ってください!
椛より
と書かれた文書だった。
「魔理沙さん。アリスさんが強行的に香霖堂に入った模様です」
「本当か!? アリスの奴……いったい何をする気なんだ?」
よし、と魔理沙は箒をギュッと握る。
「スピードを上げるぜ。追いつけるよな?」
「当たり前です。なめないでください」
そういうと、二人は、一気に加速した。
香霖堂に着くのにそれほど時間はかからなかった。
到着した二人が見たものは、見るも無残な記者たちの姿だった。地面に頭だけ刺さっていたり、香霖堂の壁に刺さっていたり。
「あ、文様!」
木の陰から椛が現れる。
「どういうことですか? この惨状は……」
「実は、数十分前にアリスさんが来て、こんな状況に……!」
そんな話をしていると、まだ息のある天狗の記者がいることを魔理沙が知らせてくれる。
「こいつ、まだ息があるぜ? おーい大丈夫かー」
パシンパシンと軽く頬を叩く魔理沙。やめたほうがいいのでは? と射命丸が止めに入る。
やがて、うぅ…と天狗記者がうめき声を上げた。
「大丈夫ですか? 誰にやられたんですか?」
落ち着いて射命丸は聞く。
「お、鬼だ! 鬼を見たんだ……! 金髪の鬼は『香霖堂に入れなさいー!』と言いながら私たちに襲ってきて、そして、こんな惨状に……。ヒィイイ!!」
叫び声を上げ、再び天狗記者は気絶した。先程のことがよほど恐怖だったらしい。
とにかく、まずは香霖堂に入らなくては。
射命丸、魔理沙、椛の三人は香霖堂の入り口へと歩いて行き、一旦扉の前で止まる。
一度、椛が扉に耳を当て、中の様子を探る。
「静かですね。誰もいないんじゃないか、と思いますよ」
とにかく、入らなくては始まらない。射命丸が、
「よし、ではここが私が慎重に――」
「こーりん! 大丈夫か!?」
バンッ! と扉は勢いよく開けられた。
「私が初めに開けたかったんですけどね……」
そこには、いた。霖之助とアリスがお互いに向き合ったままメンチを(というかアリスが一方的に)切っている。
「おや? 魔理沙、来たのかい?」
霖之助が魔理沙に向く。
「ちょっと! 今は魔理沙じゃなくて、私との話が先よ!」
今にも飛びつかんばかりの勢いでアリスが言った。
「あの、どういった状況なのでしょうか?」
と射命丸が霖之助に聞いた。
あぁ、と霖之助が答える。
「実は、数十分前にここに来てね。何やら、魔理沙の愛が本物かどうか試したいって言っているんだ」
「そうよ! だって、さっきの記者たちに対しても曖昧な答えしか出せないなんて、霖之助さんが本当に魔理沙を愛しているか疑いたくなるわ!」
こういうのは記事にしたくなるのが記者の本能。三角関係、素晴らしい。でも、これを記事にしたら今度は吹き飛ばされるであろう、魔理沙に。
「僕は魔理沙のことを愛している。結婚だってしたいと思っているし、子供を作って楽しい家庭を作りたい。そう、思っているんだ」
その言葉に、隣にいる魔理沙の顔が赤くなる。好きな人にそう言ってもらえば、嬉しいに違いない。
(よかったですね魔理沙さん。霖之助さんは本当にあなたのことを愛していますよ)
しかし、問題はアリスだ。彼女も魔理沙のことを堪らないくらいに好きなのは射命丸も知っている。この彼女をどう説得すればいいのか、そこは分からなかった。
どうにかしなければ。どうにかして、アリスを説得しないと。
「何を今更! 私だってそう思っているわ!」
それは少し無茶な気もする。
「では、これならどうですか?」
間に椛が入る。一体、何をする気だろうか。
「では、こういうのはどうですか? アリスさんが、霖之助さんと魔理沙さんの共同生活を見てみるんです。それで、霖之助さんが魔理沙さんに相応しいかどうか判断するんです」
一瞬の静寂が場を包み込む。
「……なるほど、いい案ね」
最初に口を開いたのは、驚いたことに、アリスだった。
「それなら口で言うよりも早いわ。そっちのほうが白黒はっきりつくしね」
それに対し、魔理沙が、
「いや、ちょ……」
口を挟もうとしたのだが、
「それならば確かめることができるね。僕の愛が真か、偽りか」
こうして本人の同意なく、対決が行われることとなった。
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文々。新聞 ~号外~
三角関係、今ここにあり!
霧雨魔理沙さんをかけ、香霖堂の店主、森近霖之助さんが、人形使い、アリス・マーガトロイドさんに真の愛を証明するため、奮闘します!
内容
・魔理沙との共同生活
場所
・香霖堂
日時
・一週間後の正午
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もうちょっとスッキリさせると良いと思います
前作では今回よりそれが出来ていたので次回作には期待したいです
話自体はとても面白かったです
小説や他のSSなんかも読んでみて上手い表現を学んでみるといいと思うのぜ
話は割と面白かった