「なによ、また来たの?」
「それ貴女の台詞じゃないですよね」
開口一番、私の発した言葉は我ながら手厳しかった。
微かなインクのにおいを運んできた烏天狗は、文字通り撃ち落とされそうになっていた。
けれど、へらっと頬を緩ませてそれを誤魔化す事で、文は屋根付きのテラスに足を付ける。
文が来る時は決まって太陽の傾いた昼下がり。時間に狂いなく館内を掃除する私をいい事に、姿を見せるのはいつもこの時間帯。
丁度私がこのテラス周りを掃除しているのだ。その時を見計らった様にちゃっかり紅茶を飲みに来る。
その事を咎めても、「私の休憩時間とたまたま重なってるんですよ」なんて返された。何処まで本当かは知らない。
「……腰掛けたら? ずっと立って居られると何だか私の居心地が悪い」
「あやや、これは失礼して」
そうやって紅茶を飲みに来るくせに、私がそう言わなければテーブルセットの椅子に腰掛ける事もしない。
いつも文はそうだった。座って待ってくれた方が私にとっては楽。下手に館内をうろつかれるよりはずっと。
そんな事を前にも伝えたはずなのに、私が言い出すまで文は動こうとはしなかった。
ようやっと文が腰掛けたところで、瞬間的にその目の前にティーセットを。
「下手な魔法使いよりも魔法使いしてますね」
「そうね」
素っ気ない返事で、ティーポットを手に紅茶をカップへと注ぐ。文だけが紅茶を飲むちょっとしたティータイム。
その始まりを告げるのは私が向かいの椅子に腰掛けて「どうぞ」の一言から。弾かれる様に文は淹れて貰った紅茶を口へと。
「それにしても、すっかり紅茶の味に慣れたみたいね」
「……元から平気でしたよ」
嘘ばっかり。前は紅茶の後味に慣れなくて一杯飲み終えるのにも時間が掛かってたのに。
それでも無理して飲んでたのは誰だったかしら。
「そう? 最初の頃はあんなに顔をしかめてたのに。口に合わないなら残してくれても良かったのよ?」
「出して頂いた物を残すのは失礼ですからね」
そう言えば紅茶を残された事は一度もなかった。律儀に全部飲み干してくれた。
私が紅茶に何を入れようが、お構いなし。淹れ甲斐があるから嬉しいけど。
「……でも今日は何を混ぜたんですか? なんか、変に渋みがあって舌触り悪いんですけど。しかも沈殿してるし」
「嫌なら飲まなくてもいいわ」
「飲みますって。残すのは失礼だって言ったばかりじゃないですか」
ぶぅ、と唇を尖らせてまた一口。今日混ぜたのは流石に紅茶には合わなかったか。
まぁ本来混ぜる物でもないし、文の渋そうな顔が何よりの証拠。軽く噎せた様で小さく咳払いをした。
「レミリアさんは何とも言わないんですか? こんな味が変わってしまう物を入れてしまったら流石に……」
「大丈夫よ。味を壊すような真似をするのは貴女だけだから」
「それは、光栄ですね……」
わかりやすく悄気た。背中を丸めて視線が落ちる。
私としては気兼ねなく紅茶を出せるから褒めたつもりだったんだけど、どうやら伝わらなかったみたい。
その腹癒せにまた一つ記事を書かれてしまいそうな気がした。
『咲夜また異物混入。今度はトリカブトか』なんて。妖怪にはそんな毒も効かないだろうし、そういう捏造記事が出てきても可笑しくはない。
「でも前回から少し時間があいたわね」
「……そりゃまぁ私も仕事や事情がありますから、こうして足を運ぶのも区々になりますね」
嘘だ。私は知っているから。
何でもない様に取り繕ってるけど、文が紅魔館の直前で踵を返したのを私は何度か目撃している。
怖じ気付いている様に見えた。真相こそ文に聞かねばわからないことだけど、ただの帰り道だとは思いにくい。
視線が泳いでる。私の切り替えしに備えてるみたい。
けれど私はその胸中穏やかでない文を眺めるだけにした。その方が楽しいから。
ずず、と次に文は落ち着かない様子で沈殿したものを口に含まない様に上層部だけ啜る。
けど、壊れた味は紅茶に全体に広がってしまっていたようで、また唇を噤んだ。
イガイガ感も消えず喉越しも悪そう。何度も嚥下を繰り返して小さく咳き込む。
「一体何を入れたんです? 今回ばかりは流石に酷い様な」
「それは内緒。でも貴女は何を入れても残さず飲んでくれるから、紅茶を淹れるのは楽しいわ」
「流石は悪趣味。そうして私にしかこれを飲ませない所も。自分すら飲まないなんて」
「私は今お仕事中ですわ。勝手に休息を挟むと叱られてしまいますもの」
おどけた私を見て文は肩を落とした。
この言葉が上っ面だけなのも文はわかってる。そうでなければ、毎回毎回こうしてこの時間を共有しないから。
文に紅茶だけ差し出して仕事に戻る事だって出来るのだ。でもそれじゃあ味気がない。
どんな紅茶でも飲み干してくれる文を見て楽しむ。だからこそ質が悪いだなんて言われるんだけど。
「まぁ、体に害がある物を入れてるつもりはないから安心して」
「つもりって、つもりって……」
「妖怪の体は頑丈。人間よりもずっとずっとね」
「聞かなかった事にしていいですか? 私の身に何かあったら責任取ってくれますか?」
「そういう事言えるのなら大丈夫。それに何かあった時はそれを新聞のネタにすればいいじゃない。記者自らが語る紅茶に潜む謎、とか何とか」
「誰も得しませんよ、そんな記事」
「窓ガラスの掃除に使うぐらいなら」
「ああ……平気で私の心を折りますね……」
新聞は確かにあまり読まないけれど、流石にちょっと言い過ぎたか。
紅茶をまた口に含んでくれるも、溜め息と一緒にカップがソーサーに舞い戻る。
当然か。自分が作り上げた物をそんな邪険にされてしまったら。
「そんなに落ち込まないで。今日紅茶に入れたのは外の世界の物だから。中々手に入らないものなのよ?」
「……その結果がこんな淀んだ紅茶とは。ちょっと泣きたいんですけど」
「あら、物珍しさが伝わって私は嬉しいわ」
そういう訳じゃ、なんて言いたげ。
文をじっと見ているのは楽しいけれど、彼女の胸中も紅茶と同様に淀んでしまいそうだった。
言い返してこればいいのに、何を気遣ってるのか文は私に強く出る事はなかった。
チクリと針で刺すような弱いもの。そんなのは軽く摘んでへし曲げられる。
もし今日の紅茶が甘かったのなら、文の顔色はもう少し明るくなっただろうか。
「そう言えば、レミリアさんの愛読書も外の世界の物でしたね。少女漫画とか呼ばれる」
「そうね。主に恋愛を題材に取り上げてるみたい」
「貴女は読まないのですか?」
「生憎とそういうのは間に合ってるから」
突拍子もない話題の盛り上がらない侘しさ。
そうでしたか、とまた紅茶を一口。誤魔化す為に文はこの紅茶を使っていた。
私の真意は伝わらず、そんな事をしても喉越しの悪さを広げてしまうだけ。
発しようとする言葉を呑み込まなければこの紅茶を喉に通す事が出来ないと思う。
やっぱり文は小さく咳払い。その学習能力の無さに微笑ましくなってしまう。
「試しに私も読んでみたんですけど、これが意外と良く出来てたんですよ」
まだこの話題が続くみたい。
「幼い頃の恋を想起させる様な丹念な作りで。懐かしくもあり、もどかしくもあり」
「へぇ、前はそんな都合のいいフィクションなんて当てにならないとか言ってなかった?」
「――え、っと、そうでしたか? いやぁ、食わず嫌いはいけないと思いまして読んでみたらこれが思いの外良くて」
目が泳いでる。漫画になんて見向きもしなかったのに何を突然。
「それでも私には必要ないわ」
「そう言わずに……。仕事が忙しい中でも、とある恋愛をなぞるちょっとした楽しみぐらいは出来ますから」
「やっぱり要らないわね。私は実際ので間に合ってるわ」
「あや、それは失礼しました……」
尻すぼみの声。私の言葉から何を繋げたのか勝手に潰れてしまった。
きっと今の文の中での私の評価は性悪な人となってるだろう。
しょぼくれてる文が流石にちょっと不憫だったから、話を続けてみる。
「じゃあ、文の方はどうなの? 千年も生きていればさぞ恋愛経験豊富なんでしょうけど」
「全くない訳じゃないですけど、周りと比べたら私は少ない方ですよ」
へぇ、と意外な返答が返ってきて間延びした返事をしてしまう。
人と多く関わる仕事柄、誰かと情事に落ちたって不思議ではないのに。
割と明るい性格だから尚更。変に物事に突っ込む事をやめたら受けはいいと思う。
私自身、恋愛に関してはそれほど詳しくないから何とも言えないけれど。
そういう訳で納得がいかず、追撃。
「人里に行くと貴女の浮ついた噂を色々と聞くんだけど?」
「いや、それこそ嘘ですからね? 勝手な情報に流されないでください……」
「捏造新聞記者の貴女が言う?」
「……捏造じゃありません、誇張です」
「同じよ」
自ら撒いた種に文は口を封じられた。下唇を噛んで言葉を模索するも、まるで掴めなかった。そんなところだろう。文は顔に出るからわかりやすい。
視線を右往左往させて必要以上に言葉を選んでる。まぁ、こんな調子じゃ何を言っても自爆しそうだけどね。
「私、これでも清純派路線を目指してますからね……?」
苦し紛れに出た言葉に吹き出した。だって、脈絡なんて有ったものじゃないし、その見当違いのアピールに思わず。
だからこそ、私はこうして文をからかう。仕事の時はあんなに口上手なのに、今だけは本当に口下手になる。
お陰で文の恥辱は一気に燃え上った。思わず紅茶に手が伸びてしまうけれど、もうカップの中身は空っぽ。
その取り乱し振りに思わず頬を綻ばせて私は席を立った。ティーポットを手に。
そうしてまた注がれるちょっと淀んだ紅茶。それがミルクの甘さによるものなら良かったのに。
なんて我ながら思ってしまうぐらいには、私は意地悪である。
「思ったより好評ね。一杯飲んで貰えるのかもわからなかったけれど」
「確かに、お店で出したら突っ返されますよ、これは」
「それでも文は飲んでくれる。少ない休憩時間だと言うのに」
「……今日は取材の帰り道だったんです」
「そう。まぁ何でもいいけど」
カップに紅茶を入れ終えた後、また向かいに腰掛ける。
じぃ、と文が紅茶を飲む姿を凝視する。それを見られるのが恥ずかしいのか、文は落ち着く素振りを見せなかった。
合わせた視線を外し、私の方を窺うようにしてチビチビと口に含む。
ティーポットの中身が先の紅茶と違う訳もなく、喉越しの悪さは変わらない。
けれど、文が見せる反応は私の匙加減で移り変わって楽しませてくれる。
「砂糖、欲しくない?」
「……いつもはそんな事言わないじゃないですか。どうして突然――」
「別に。聞いただけ」
「欲しいと言えば、くれるんですか?」
ほら、こんな風に。
甘いものが欲しいならそう言えばいいのに、自分からは言い出さない。
落胆していた文の瞳に光が飛び込んだ様。でも残念。
素直に欲しいといえばあげるつもりだった。けど、このドヘタれ天狗は踏み込んでこない。
そういう優柔不断なところは結構なマイナスポイント。だから罰。
「あげないけどね」
「……そういう人だと思ってましたよ」
案の定、はぁ、と溜め息と共に急降下。文が悪態をついても彼女の自業自得だから私は平然と。
それどころか薄ら笑いを浮かべて、紅茶を飲み干す様を未だ見つめていた。
こんな事を繰り返している間に短いティータイムはもうすぐ終わってしまう。ほんの数分間だけなのだ。だから私も仕事を止める。
再び空っぽになったカップをソーサーに。砂糖をあげるなんて希望を見せたから、余計に今のは渋苦く感じたんだろうな。
「じゃあ、次は甘いのを用意しておくわ」
「……貴女も割と嘘つきですから信用なりませんよ」
「失礼ね。からかってるだけじゃない」
「メイド長酷い」
「それってメイド、超酷いと掛けたの?」
「違いますし、そういう事は思ってても言わないでください。悲しくなります……」
むすっとした様子で文は席を立つ。私もお見送りの為に一緒に。
散々苦い思いをさせたから、少し砂糖をあげなくては。私は小指だけ立てた手を差し出す。
「約束するわ。指切りでいい?」
「さっきから突然ですね。裏がある様にしか思えないんですけど……」
どうやらこの砂糖が遅かったらしい。
味の壊れた紅茶から始まって、今日は意地悪が過ぎたか。しかしここは責任転嫁。
「今日の文は凄く失礼。私が善意で約束を守ろうとしてるのに」
「本当に善意を持った人はそんな事言いませんよ」
「ショックね。文にそんな風に思われてたなんて……」
「やっ、そんなつもりじゃ――。し、します、指切りしますから……」
ちょっと揺さぶればすぐに慌てふためく。差し出した指に小指を絡めるにも落ち着きはなかった。
でも、本当だったらこんな事したくない。肌の荒れた手を見せたくはないから。
手入れは欠かさずにしているけれど、毎日の水仕事で中々治らないのだ。
文の指が綺麗だから尚更。意外そうな顔で見るのはやめて欲しい。意地悪だったのは認めるから。
「……指切りげんまん嘘ついたら――」
荒れた手から目を離さない文を放っておいて私は唱え始める。
上下に軽く揺すられるも無言の文。何をつまらない事を考えているのか。
「ほら」
「あ……。嘘ついたら針千本のーます――」
「ゆびきったっ」
交互に唱える指切り。こんなぎこちない指切りをした事なんて初めて。
小指同士が離れるとすぐに私は指を背中へと隠す。
「ところで、この針千本って本当に針千本なのでしょうか? ハリセンボンと呼ばれる魚がいるらしいのですけど」
「……幻想郷にそんな魚は居ないし、針千本で正しいと思うわ」
広げるべき話はここではなく、私の顔は必要以上に強張った。
「うーん、確かにそうかもしれませんね」
「じゃあ、次は甘いのを用意して待ってるわ」
「私としては貴女が針千本飲むのも見てみたいですけどね」
チクリと皮肉ったつもりらしいけど、私がそんなものに屈する訳がない。
それどころか自分をちょんちょんと指差し「手品師」なんて言って退ける始末。今日何度目かの溜め息を漏らす文。
「貴女には敵いませんよ、ホント」
「そうじゃなきゃ此処に居ませんもの。ほら、そろそろ文も職場に戻りなさい」
「……お互い、社会の歯車は大変ですね」
「私は望んでこの仕事やってるから」
「聞いた私が愚かでした……」
同情もはたき落とす。翼ももぎ取ってしまった。
せめて仕事から離れたプライベートな事を言ってみなさいよ。
今日も今日とて進展らしいものなんてなかった。このドヘタれ天狗は何の為にここへ通っているのか。
落ち込みたいのはこっちだ。幾つか助け船を出したのに何一つ踏み出して来なかった。
私の気持ちなんて知りもせず、文は乱れた襟や髪形を整える。背筋も伸びて次第にオンの姿へ切り替わっていく。
「飛ばしすぎたらまた髪型崩れちゃうんじゃないの?」
不甲斐ないドヘタれ天狗に八つ当たり。
「言わないでください。わかってますから」
「心配してあげたのに。まぁ、好きな時に来るといいわ。尤もまたこの時間帯でしょうけど」
「――言わないでくださいって! それに頻繁に来てる訳じゃないんですから」
どうだか。暇と勇気さえあればいつでも来ようとするくせに。
「はいはい」
「じゃあ、私行きますから……」
私に背を向けるや否、逃げ出す様に文は勢い良く空へと飛び立つ。
それと同時に発せられた私の「お粗末さまでした」との声はきっと届いてない。
残り風が前髪を揺らし、仄かなインクのにおいを香らせる。もう文の姿はテラスからは見えなかった。
「行ったようだね」
背後から呼び掛かる声に少々驚きながらも振り返る。
硝子戸を開けてテラスへ出てくるのは我が主。
「あら、お嬢様。いらしてたのですか」
「ちょいとね」
私とテーブルの上のティーセットを交互に目配せ。
けれど目的の物を見つけられなかったようで、ちょっぴり楽の色に染まっていた瞳は瞬間的に褪せてしまった。
落胆した様にお嬢様まで溜め息。
さらにも「折角私が漫画を貸してやったというのに」なんてぼやく始末。その答えはすぐに私の中で合致する。
「それはもしかしなくても」
「ああ、少女漫画さ。あの天狗がどうしても貸して欲しいって頼み込むからさ」
お嬢様と文の間にそんな交友があったとは意外。
それに文が此処へやって来ている事をお嬢様がご存じだとは、お嬢様も一枚噛んでいるのだろうか。
しかし、これで文が少女漫画の話題を強く振ってきた事にも納得がいく。
私から見えないところで密約紛いな事をしてたのかも。
でも、その努力の方向性は外れてるというか、空回りというか。何というか文のしている事は凄く回りくどい。
そんな事をせずとも、もっと真っ向な話題を振ればいいのに、と思う。
「それにしても進展なしか。今頃あいつは職場の壁に何度も頭突きをかましてるだろうねぇ」
「……壁、大丈夫でしょうか?」
「お前な……。冗談でもそれは質が悪いぞ」
じとっとした視線が私に。冗談のつもりはなかった。天狗のスピードで頭突きをしたら、ねぇ?
どうやら文の事を心配するべきだったらしい。
でも私はいつもこんな感じだし、またしばらく日を置けばあの子はやって来るだろうから。
「咲夜、もう少しあの天狗に甘くなったらどうだ? お前のやり方はあいつを追いつめてるようにしか感じない」
「嫌ですわお嬢様。それではまるで私が文を急かしているようではありませんか」
「なんだ、違うのか?」
「ええ。違うのです」
確かに、背中を押してあげれば恐らくすぐに事は進むだろう。
けど、それじゃあ面白くも何ともない。何より文の為にもならない。
話題作りの為に奔走するのはちょっと微笑ましいし、そこは評価したいから。
「はぁ、まあいいや。あんまり苛めすぎるなよ」
「止めてしまったら私ではなくなってしまいますもの」
「……お前が人間だというのを、一瞬疑いたくなったよ」
溜め息一つ落として、お嬢様は踵を返して館内へと戻る。
無防備な背中に私は軽く会釈を。その翼はちょっぴり萎れていた。
取り残された私も程なくして、給仕先を無くしたティーセットを手にテラスから立ち去った。
私がどんなに弄り倒してもめげずに此処へやってくる文。
嫌われても可笑しくないぐらいに意地悪してる。でも泣きそうになる顔が可愛いから止められない。
妖怪のくせに私よりずっと人間くさい。ちょっとしたことで浮いたり沈んだり。
二十年も生きてない人間の私に何を臆しているのか。『咲夜』の名を呼んで貰った事すらない。
誰も居ないキッチンの流しにティーカップと紅茶が空っぽのポットを沈めた。
淀んだ紅茶もティーセットも綺麗さっぱり洗い流す。
すぐ隣には、さばかれた棘のある白身魚がまな板の上に放置されっぱなし。すり鉢も一緒。
魚のすり身を混ぜた紅茶は不評だったけれど、文はちゃんと飲んでくれた。
片づけないとな、と思いつつ、あの渋そうな天狗の顔が浮かんで顔が綻んでしまった。
「嘘吐いたらハリセンボン呑ます。……次は嘘を吐かせないから」
文の今後の頑張りが気になる
珍しい、と言えば珍しいカップリングでしょうか。
へたれ文、というのもなかなか見ない。よい発想だったと思います。
文章センスも悪くなかったと思います。
咲夜の一人称小説。
薄くはないのに、さくさくと読める。そして、表現が美しい。
ただ、逆に言うと普通の域を出ないかもしれません。
特筆するような特徴があまり見当たらない。
無論、マイナス点にはならないのですが……スパイスが欲しかったかなと。
そして、自分がこの点数をつけた最大の理由であり、マイナス点が話の内容。
心がほとんど動かなかったです。話にも入り込めなかった。
状況が劇的に変わるわけでもない、ただの日常の一コマ故かと思われますが。
これからもがんばってください。
場面を少々工夫したり、小説内で語る時間を延ばしたり。
読者を引き込ませる一工夫があれば、もっと評価されると思います。