Coolier - 新生・東方創想話

ある少女の0へ至る道

2012/01/18 02:02:06
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 八雲紫は一人考え事をしていた。
スキマ妖怪という極めて特殊な妖怪に属する彼女のその能力は幻想郷においてもかなりの強大さを誇っている。
人間界には神隠しと言われる怪異があるが、これも彼女の仕業の一つだ。退屈しのぎか、或いは結界の欠損か。
ともかくスキマに穴が開き人間がそこに迷い込む。
たちが悪いのはその後で、迷い込んだ人間を気分次第だが彼女は食らうか、放っているかを決める。
たいていは後者にあたり後は好きに幻想郷に生きろと言わんばかりに無関心を通す。
大多数は落ちた先で路頭に迷い飢えて死ぬか、別の妖怪に食われるのだが、運良く人間の集落の近くに落ちれば助かることもある。大抵の場合は前者だが。
 かくしてまた一人、彼女のスキマの餌食になったのは年端もいかぬ少女であった。
普段なら気にもしないものだが、八雲紫は一つの興味を示した。
それは人間と妖怪の共存とは真に可能なのかという問いである。
その問いは幾度と無く紫自身が向き合って来た事だが、答えはいつもノー。
妖怪とは疎まれる存在であり、決して受け入れられる存在では無いという結論に至るのだ。また妖怪も人を餌とし決して対等に見る事などしない。
歴史もそれを物語っている。だが紫は遠い昔から人間の知人が居る。
今はもう人間という枠組みから外れた者だが、それでもかつては人であるそれと、妖怪である自分は確かに何処かで解り合っていたのだ。
それを例外と認めれば良いのだが、もしそれが可能ならばまた幻想郷とは違った形で進化を遂げると肌に感じたのだ。自分と知人が特殊だったのか。
それとも人間と妖怪とは共存出来るのか。ある種の退屈しのぎだが、わずかでも可能性を見いだせるならばそれは大きな収穫にもなり得る。
今回ばかりは紫自身もスキマに招かれた少女の落ちゆく先を指定して落とし観測することにした。紅く紅く―。不気味にそびえ立つ吸血鬼の館。
名を紅魔館という。その館の前に少女を落ちた所から、この物語は始まりを告げる。

――***

 何かの気配を感じた。常に周囲に気を張り巡らせ警戒をする紅魔館の門番である紅美鈴は妙な違和感を感じていた。
その気配は突然にして現れた。
だが妙なことに隠れるわけでもなく、またこの紅魔館を探るわけでもないそんな気配。明らかに素人か何かだが、それにしたって妙なのはその気配は文字通り突然現れたのだ。
素人と解る気配でありながら、その気配の主にこうも近くまで寄られている。
距離にして100前後だろう、美鈴自身気配のみを感じ取るならその倍かそれ以上まで感じ取れる。

――罠?

より一層警戒を強めるものの、納得はいっていない。
そもそもこの距離まで近づいておきながら気配を晒す意味がない。
もし、気配の主が素人を気取って油断を狙っているならば。
なるほど大した役者である。だがその余りに異質な行動が帰って不気味さを増させ美鈴は普段より一層警戒の色を強めた。
 ゆっくり間合いを詰める。
目視出来るまでの距離に近づくと、そこには銀髪の少女が倒れていた。

「……行き倒れ?こんな人気のない所で?」

何処からか落ちたのか、少女の服装は所々切れ、更には少しばかり怪我をしているようだった。息も細く、気を失っている。
 困ったように頬を掻きながら美鈴は少女を覗き込んだ。
放っておけば少女は例え目を覚まそうと飢えて死んでしまうだろう。
いや、それ以前に匂いを嗅ぎつけた妖怪に食われてしまうかも知れない。
少し迷いはしたが、彼女はその少女を放っておくことが出来なかった。
自分も妖怪の端くれではあるが、情というものもある。
たかだか門番の気まぐれではある。もしここで助けても紅魔館の主の眼鏡に適わなければ、再び放り出されるか、最悪は殺されてしまうかも知れない。
だがわずかでも。万が一にでも紅魔の主に気に入られればこの子は助かるだろう。
見棄ててしまうより余程その方が美鈴としても楽であった。
そこに「自分は助けた」という偽善が織り交ざるからだ。
そうして銀髪の少女を抱えあげて美鈴は自室へと向かった。

「…あら美鈴。仕事は良いのかしら」

少女を自室へ運ぶ途中、魔女に見つかった。
内心紅魔の主に見つかったかと思っただけに、美鈴は安心した。
まだ日が出ているこの時間に、紅魔の主が起きている事は少ないものの仮に紅魔の主に見つからないという保証はまるで無い。
ましてや紅魔の妹に見つかって居たら紅魔の主以上に可能性はなく少女は玩具と化しただろう。
だからこそ、見つかった相手がこの魔女、パチュリーでよかったと胸を撫で下ろした。

「パチュリー様。少しそこで少女を拾ってしまったもので」

 へらっと笑ってその場を足早に去ろうとした。
仮にこのパチュリーが穏便な者であろうと、変に留まれば絡まれ兼ねないからだ。しかし、そんな美鈴の努力も虚しく、パチュリーは銀髪の少女に興味を示していた。

「犬やネコじゃないのだから…まったく。へぇ、可愛い子ね。それに、ずいぶん面白そうな子を見つけてきたわね」
「どういう事ですか?」

 パチュリーはじっくりとまるで観察するようにこの銀髪の少女を覗き込んでいた。
その後で満足いったのか口元を少しニヤつかせて頷いた。

「良いわ。看病は私がしといてあげるわ」

 どう考えても裏がありそうな笑顔を浮かべていた。
だが、逆らうわけにも行かない。
パチュリーは紅魔の主の客人として此処に住んでいる。
その客人の申し出を断れる程、紅美鈴は愚かでは無い。
「それではパチュリー様、私の部屋を御使いください。
看病といっても特に何をしろという事もないので見てくれてくれるだけで結構です。」

「あら、看病の仕方くらい私が決めるわ。部屋に先に連れて行っておいて頂戴。いくつか本を持ってからそちらに行くわ」
「わかりました。ではお先に」

 一旦パチュリーと別れてから歩を進める。
長い廊下の先、紅美鈴は自室へと辿りついた。
まずは背中に背負った少女を自分のベッドの上に寝かせた。
その途中、彼女の服装と傷が目に飛び込んできた。
土に汚れた体がなんと痛ましい事か。タオルを水で濡らして丁寧に体を拭いてから、自分の寝間着を着させてあげた。
 そうしてようやく落ち着かせると、自己満足かも知れないが彼女の顔から少しばかり苦痛が消えたように見えた。

「失礼するわ」

程なくしてパチュリー様が来た。
手には2冊の本。図書館に比べれば狭いものの、それでも広く大きな紅魔館の一室である。6畳ほどの部屋の隅に置かれたイスに腰掛けて本を読み始めた。

「それではパチュリー様、よろしくお願いします。」
「えぇ、別に本を読む場所が変わっただけだし、気にしなくて良いわ。仕事に戻りなさい。」

 不安が無いかといわれれば嘘だが、例えばここで少女に何かが起きても。
少なくとも私は仕方がないと思える。
たかだが会って間も無く、喋ったことすら無い人間である。
可哀想には思い、胸を痛めようとも私の生活には支障は無い。
 そう自分を納得させて美鈴は自室を後にした。
去り際に小さく笑っていたパチュリーが不気味に見えた。

 かく言うパチュリーはと言うと、興味に胸を踊らせていた。
門番が面白い者を拾ってきた。銀髪を輝かせる少女。
だがその見た目にパチュリーが興味を持ったわけではない。

”この人間には特殊な魔を感じる”。

七曜の魔女と呼ばれ知識を喰らい、魔を深めて来たが、そんなパチュリーにでも未知の魔だ。
興味ばかりが先走る。
久方ぶりに胸を踊らせる。
だが焦らずに少女の目覚めを待ったのは一重に少女の容態を見たからだ。
疲弊が大きく顔に現れ、寝ている中でも悪夢でも見ているのかうなされている。
情というやつだろうか。魔女と呼ばれたパチュリーは興味よりもまず、彼女を休ませる事を選んだ。
それは例えこの少女が全快したとしても逃げられるわけないという余裕から来る所でもあった。
今は静かにまとう。
本を読み進めるが内容は入ってこなかった。
文字をただ読取流していく。
それほどまでに少女の目覚めは待ち遠しかった。

――***

 ただ助けを呼ぶ声は、虚空に飲まれ、足元は地面から浮遊しもはやどちらが地面でどちらが空だったのかすら覚えていない。
人は常に恐怖を知識と経験で乗り越えてきた。
初めて大地に降り立った人間は、きっと何にも恐怖し警戒したのだろう。
知識と経験。この2つはどちらも無ければ人は恐怖に押し潰され生きていけない。
虚を付かれるというのは生物にとって最も危険で、最も愚かな行為だ。
その中で虚を付かれないために警戒をするのだが、警戒を延々と続ける事は不可能だ。
身体的負担も、精神的負担も大きい。
それだけ警戒するという事は神経を研ぎ澄ませなければならない。
その負担を軽減するために知識から予想し、経験から確信に至る。
だが少女の居る空間は間違いなく人が積み上げてきた知識からは程遠い空間だった。
 取り分け恐怖したのは周囲に浮かび、自分を覗き込む無数の目だ。
ただでさえグロテスクなそれが、360度頭上足元にまである。
特殊すぎるこの空間もまた少女の知識はおろか人の歴史には存在しないであろう。
それはまるで空気のある水の中だった。
足をつけるべき地面も無く足元を見ても深淵が広がり、上を覗いても光は届かない、そんな深海。いっそ深海なら恐怖すること無く圧力で、窒息で、意識は刈り取られていたというのに。どういう事か少女から見える世界には空気があった。
圧迫感は無かった。
意識ばかりはっきりしていき、クリアになっていく頭が何度も警告を告げる。

“ここは危ない”

 不意に何かに引っ張られるのを感じた。
それは今まで感じなかった、重力の力。
勢いをそのままに、突如としてこのグロテスクな空間が割れる。
文字通り空間が割れたのだ。
 そうしてこの場が何処か解らないまま、少女は地面に叩き付けられた。
痛みはある。だが叩き付けられた地面から太陽の匂いを感じた時少女は痛みも構わずに安堵した。
緊張の糸が解けたのか、安心したように少女は意識を闇に飲まれていった。

 次に少女が目覚めたのは温かいベッドの上だった。

「目が覚めたようね」

 部屋の隅から声がした。
まだ焦点の合わないままに体を起こす。
その時自身が見慣れない服を身に纏っていることに気づいた。
ブカブカで肩を肌蹴させてしまい、慌てて掛け布団に身を包ませた。

「どうしたの?」

 優しく、なるべく優しく自身の優しさというやつをフル動員してパチュリーは少女に向き合った。
理由は簡単。彼女に深く興味を持っているからである。言うなれば黒い笑顔。

「す、すみません。ここは何処でしょうか…?」

 恐る恐る口を開いた。
掠れた声で、静寂に包まれた室内でも尚小さな声で少女は振り絞った。

「ここは紅魔館。吸血鬼の館。魔を内包する館」
「きゅ、きゅうけつ…?」

 ええ、とパチュリーが頷くのを見て彼女もそれが冗談で無いことをすぐに理解した。
だがそれでも彼女の理解を超えた返答にパニックをしてしまっていた。

「まぁ思うところもあるでしょうけれど。私は貴方に興味があるのよ。ねぇ、名前は何ていうのかしら。」
「え?え?」
「名前よ。あるでしょう?貴方にも」
「サク…」
「そう。サクっていうのね。私はパチュリー。七曜の魔女とも呼ばれているわ」
 魔女に吸血鬼。
まるで御伽話の中に迷い込んだような錯覚に陥る。
夢なのかと頬をつねってもただ痛みを訴え、これが現実なのだとささやきかける。
悔しいがこれは夢などでは無く現実だそうだ。

「サク、さっきも言ったけど私貴方に興味があるの。正確には貴方の中の魔に興味がある。幻想郷の何処にも感じた事のない魔の香りに。ねぇ、その正体を私に見せてくれないかしら。」
「???」

 まったく解らない。魔女は言う。
私の中の魔という奴に興味があるのだと。
だが私にはその魔という奴に心当たりなどなかった。
だが一つ。確かに確信できることが一つあった。この魔女は、もし自分に興味を無くせばそれこそ道端に転がる石のように私を見るだろう。
とても優しく見えるが、それでもこの魔女は自分の興味だけで動いているのがほんの少し話しただけでも解る。
仮に興味をなくされたら、そこからはどうなるかは想像するに恐ろしい
御伽話の通りならば、魔女は私を取って食ってしまうかも知れない。
だが、どうすれば良いのか解らないし、どうしようも無いことも解っていた。
何せ自分にはその魔という奴すら理解できていないのだから。
「もしかして、使えないのかしら」
思わず硬直してしまう。バレた。
もう終わりかも知れない、と心音を高鳴らせながらも少女の顔から血の気は引いていった。

「まだ潜在的なものなのかしら。うーん、あれ、顔色悪くなってきたわよ?大丈夫?」
「え、えと…その…」
「大丈夫よ。元々貴方は人間でしょう?扱えない、その力に気付いていないなんて事よくある話しだわ。でもそれだけに勿体ない。未知の力を秘めながら知らぬまま朽ちていくのは余りに勿体ない。人間は自分の限界を勝手に決めて枠に収まるわ。それが当たり前だと諦めるわ。器なんて物、自分で作る物でしか無いのにね」

 魔女は饒舌に、それでいて忌々しそうに語った。
何を言っているのかあまり理解は出来なかったが、唯一解ったのは現時点でこの魔女は私に危害を加えるつもりは無いという事だ。
だが油断ならない。夢中になっていた玩具も、別の玩具が出ればすぐに捨てられるのだから。
「決めたわ。貴方私の元で魔を学びなさい。基本をやっていく内に貴方の属性が見えてくるはずだわ。一体何が出るか今から楽しみね」

話はみるみるうちに進んでいった。
だが断る事は出来ない。
断ればそれまでだろうとサク自身思ったからだ。
だから彼女は無言で頷く事しか出来なかった。

――***
 見張りを妖精に任せ、美鈴は自室へ戻った。
「はぁ…」
 見にまとった衣服を次々脱いで、申し訳程度に備え付けられた湯浴み場で汗を流した。しばらく脱力感に夢心地を味わいながら名残り惜しくも湯から上がる。
寝間着を来てさぁ仮眠を、と思った所で自分の寝間着が無いことに気づいた。
おかしいな、とクローゼットを探ってみてもやはり見当たらなかった。
頭を掻いているとベッドの掛け布団がガサガサ動いているのに気がついた。
一瞬身を強張らせたがすぐにそれが何かとすぐに思い出した。
それと同時に寝間着の所在も。

「おー、目覚めましたか」
「あわわ…」

 少女は慌てるばかりで掛け布団にくるまってしまった。
俗に言う人見知りというやつだろうか。
顔を紅潮させながらもぞもぞしている。

「なんだ、元気そうでよかったです。ほら出てきて挨拶しましょう。」
「はわわ…」

 呼びかけてなお、彼女は目のやり場に困ったようにアチラコチラに視線を移した。
なるほど。これは思い切って。

「えいっ」

と、包まる布団を勢い良く剥がした。
そうして初めて、二人は対面を果たした。

「こうして起きて会うのは初めてですね。はじめまして紅美鈴と言います。愛と親しみを込めてめーりんって呼び捨てでも構いませんよ。」
「サ…サクって言います。その…めーりんさん…あの…」
 
サクはチラチラ横目で美鈴を見ながらも恥ずかしそうにしたままだった。

「サクさんですね。それで、どうしました?何か言いたい事でも?」
「あ、あの…服を…着てください。」

 改めて美鈴は自身の体に視線を落とした。
なるほど、全裸だ。汗を流していたから当然だが。
全裸だ。裸だ。HADAKA。なるほど。
だから顔真っ赤にしてたんだ。なるほど…。
どうしよう、逃げ出したい。その位に恥ずかしい。

「こ、これが私の部屋のスタイルなのです!」
 
苦し紛れに言い逃れをした。
我ながら苦しい言い訳であるが、何か言わないでは居られなかった。

「ふーん…貴方を見る目変わっちゃいそうね」
「へ!?」

 声の方向はちょうど真後ろのドアの方向。
そこにはパチュリーが立っていた。
それもさも汚物を見るような目をしてらっしゃる。

「パ、パ、パチュリー様!ノックくらいしてください!」
「したわよ。そしたら中から物音がして、サクに何かあったのかと思って入ってきてみたら貴方が裸でサクを襲っているものだから。いやまさかそんなつもりで連れ込んでたとは私も気づけなかったわ。良いのよ。でも、サクの意思も尊重してあげて欲しいわ」

 何かとてつもない勘違いをさせてしまった気がする。
どうしたものか、今は何言ってもダメな気もする。
だが沈黙は肯定という言葉があるとおり、黙ったままでも居られない。
それでも上手い言葉も見つからない。
まさに負のスパイラル。
救いの手を求め、藁をも掴む思いでサクを見た。
ふと気づくと彼女は薄くだが笑っていた。
だが美鈴が見ていることに気づくとすぐキュッと口元を閉ざしてしまった。
この状況には困ったものだが、少女に少しでも元気が戻ったなら少しの勘違いくらいそれもまた良いなと、美鈴は思った。

「なぁに、黙っちゃって。サクも嫌なら嫌って言わないとダメよ」
「は、はい…」

 やはりクスっと少女は笑った。
とりあえず美鈴はうまい言い訳を思いつかないからただその場に立ち尽くすばかりだった。全裸で。

 何とかパチュリーに言い訳を通した。
言い訳は「ほんの些細なジョーク」というゴリ押し。
必死な美鈴に対してもう興味がなくなったのか、それとも見放されたか、パチュリーは「はいはい」と相槌だけ打って何やら術を少女にかけていた。
害意のあるものなら美鈴にはすぐ解る。
だがパチュリーのそれはむしろサクの為に行われているようなものだった。
魔法について詳しく知っているわけではないが、普通の人間が一人生きていくには辛すぎる世界だ。
なんの気まぐれかは知らないが、パチュリー様が退魔の手段を授けると言っていた。
それは彼女にとってこの幻想郷という環境で生きていくには必要不可欠な手段である。

「まずは識る事。次に五感で感じる事。最後に扱う事。魔法とは大きく分けてこの3つの工程に分かれるわ。だから…ハイッ」

 ドスンと小さく音を立てて置かれたのは辞書にも似た本を5冊。
サクの手元に置かれた。

「これは…?」
「ん、魔法の基礎よ。まずはこれを頭に叩き込む事。それが貴方に与える私からの課題。そうね。明日の同じ時間までには覚えて貰うわ」
「パチュリー様、いくら何でもそれは…」
「貴方が口出すことではないわ」
 それじゃあハイッと5冊の本を置いて、パチュリーは部屋から出ていった。

「え…えと…」
 困ったようにサクはオロオロするばかりだった。
恐る恐る魔法に関する本を開いてみても解らないのかすぐ首を傾げた。

「こうなったらやるしか無いでしょうね。サクさん」
「頑張ってみます」
 サクは夜が更けるまで本と向き合った。
時折首を傾げたを見て一緒に首をかしげて見せたり、少し自分が解る所ならば得意げに教えたりした。

「オウ、メーリンシゴトダゾー」

ドア越しに妖精が片言で言ってきた。
仮眠をするつもりがいつの間にか時間は過ぎていたらしい。

「お仕事…ですか」
「えぇ、私はこの紅魔館の門番ですから」
「そうですか、それじゃあ頑張ってくださ。」

 頑張ってくださいとサクは照れくさそうに笑って私を見送ってくれた。
照れくさそうなサクの顔を見て、こっちまで恥ずかしくなるようだった。

「サクさんも無理なさらずに」
「はい」

 ドアを閉める。少し胸が痒い。仮眠も取れなかったから疲れは残っているが不思議とそれも心地よく感じた。

「それじゃあ、頑張ろうかな」

大きく伸びを一つ入れてから頬をパンと叩いて気合を入れた。

――***

 サクは不思議とこの状況を楽しんでいた。
小難しい本で、意味を理解するまでに時間がかかっても苦痛では無かった。
むしろ現実からより遠い所へ連れていってくれるのは今は助かっていた。
 余りに異常な状況に、余りに理解しがたい現実に。
自分一人が置いてかれている中で本という逃げ場はありがたくあった。
もしかしたらあの魔女は、それも見越して5冊という膨大なボリュームの知識を一晩で覚えるよう言ったのかも知れない。

「まさかね…」

 2冊の本を読み終えた時、少女は一つの違和感を覚えた。

――自分の体感以上に時間が進んでいない。

 もう夜が明けてもおかしく無い程の時間をかけて理解を深めていったはずだ。
そのせいで2冊しか読み進めれてない自分に焦りすら覚えていたはずだ。
 だが現実は。夜は明ける所か夜はまだ深まるばかりだ。
膨大な知識の前に体感時間が狂ったのかも知れない。
いやきっとそうだったのだろうとサクは思った。

「これなら、もしかしたら」

 本を読み進める。疑問には頭を捻り答えを丁寧に一つ一つ出していった。
この辺りからは最初に覚えた基礎にほんの少しのアレンジを加えて答えを導かなければならない。
それはまるでパズルのようで。組み合わさった時の快感はそれ以上かも知れない。
こうして、サクは理解しながら読み進めて尚、一夜にして5冊をついに読み終えた。
 疲れからか、倒れこむようにベッドに潜り込み、そのまま微睡みに包まれていった。
この時サクは気づいて居なかったが、5冊読み終えて尚、夜はまだ明けなかった。

――***

 強力な何かに縛られる感覚にレミリアは目を覚ました。
「ん…」
 体を、翼を確認する。
だが自分に何かあったのかと言われれば、単純に一瞬感じた違和感のみ。
勘違いだと言えばそれだけだ。
それでも先の違和感は勘違いと流すには余りに強制力の強すぎる存在だった。
それも、一個体に与える影響では無く、空間にすら影響を及ぼす強制力。

「一体…?」

 運命を操るという吸血鬼ですら大きな不安を覚えかねない未知。
同時にそれは好奇心としてレミリアの胸を踊らせた。
では、探すとしようか。その力の所在を。
 魔の残滓を辿りゆっくりゆっくり、その残り香を堪能しながらレミリアは歩を進めた。やがてたどり着いた先は門番の部屋だった。

「まさか?あのめーりんが?でも今は仕事中だろうし。」

 ならば一体誰なのか。ドアの先に待ち受ける未知にレミリアは心躍った。蛇が出るか鬼が出るか。我慢しきれず勢いよくドアを開けた。
 ドアからまっすぐに、ベッド。
その先には窓から大きく顔を覗かせた月が輝いていた。
月が照らすは見覚えのない銀髪の少女。
魔の残滓は確かにその少女からの物だった。
だが。それはレミリアの期待を大きく裏切るものだった。
未知とは言え、この少女は人間だ。
 例え未知とは言え、あの脆弱な人間を前にレミリア自身が不安を覚えてしまったのだ。己が認めていない者の存在に。
そのことに強い不快感を示し、ついには鋭い爪を光らせた。

「あら、レミリア起きていたの?」

 レミリアがサクに襲いかかろうとしたまさにその時声がかかった。
聞き覚えのある自分の友人の声にレミリアは動きを止めて振り返った。

「違うわ、起こされたのよ」

 不機嫌そうにレミリアはパチュリーすらも睨みつけた。
やれやれ、と言った感じでパチュリーも首を振る。

「貴方も起こされたのなら興味を持ってここに来たのでしょう。それを何故今手にかけようとしているの?」
「それは――」

 ギリリと歯を食いしばり、拳を強く握りしめた。
立ち尽くすばかりで何も言えずレミリアはただ堪えていた。
パチュリーもまたその姿に哀しそうに目を伏せた。

「この子のことをもう少しだけ私に任せてくれないかしら。」

 沈黙を破ったのはパチュリーだった。
 レミリアはただ無言でサクから離れパチュリーの横を抜けていく。

「…寝直すわ」
「えぇ、おやすみなさい」

 ぷいとそっぽを向いてレミリアは自室へと戻っていった。
あれの根は深い。それでもここは堪えて引いてくれたのは一重に友人の頼みからだろう。だがあれではいつサクが襲われてもおかしく無い、そんな状態だった。

「…仕方ないかな…」

 ポツリと一人つぶやきながらパチュリーはサクの眠るサクの頬を優しく撫でていた。
 自室に戻る途中、館を不気味に照らす月がレミリアを映していた。
居てもたっても居られず、窓を開け、翼を広げてレミリアは飛び立った。
ただモヤモヤした気持ちを晴らそうと、ガムシャラに風を切った。その日レミリアは朝日が差すまで飛び続けた。

――***

「もう、読み終わったの?」

 サクはただコクリと頷いた。
信じられない。それも全て理解し頭に入ったのだという。
5冊を一夜にしてというのはほんの少し意地悪をしたつもりであった。
だが、実際彼女は基本から応用まで、何を質問しても自信なさげに正解を言い当てて来た。

「驚いたわ。貴方速読のスキルでもあるの?それとも瞬間記憶?どちらにしても並外れたものではないのね。」
「あのそれで次は何をすれば…」
「少し質問してもいいかしら」
「はい」
「貴方は“外の人間”よね?」

 外とはこの幻想郷の外、人間が支配し、妖怪が消えた世界の事である。
本を読み進めてく上で必ずこの幻想郷内ならではの世界としてのルールがあり、それを利用して初めて魔法が使える事を学ぶはずだ。
ここと、元居た場所とではもはや世界が違う事など嫌というほど解らされるだろう。

「そうですね。私は幻想郷という存在を昨日まで知りませんでした」
「では何故――」

――貴方はそんなに冷静で居られるの?と言いかけた所で、パチュリーはサクの顔を見て言葉を詰まらせた。
諦めの色を濃く見せたその顔を。
“この少女は初めから諦めている”

「仕方がない事ですから」
「仕方がない?それでも貴方は泣いて取り乱したり、帰る手段を探したり、色々出来るのに。どうして真っ先に諦めることを選ぶのかしら」
「泣いても取り乱してもしょうがないです。帰る手段は来た以上、あるかも知れないですが、今のところはここに居るのが最善だと思うからです」

 彼女の瞳には悲しみの色は無かった。
それはただ淡々と、自分を自分として見ずに居る様子。
客観的視点からの意見。そこに“サク”という存在は無かった。

「可哀想な子ね。貴方は自分を誰より知らないようだわ」
「え…?えっと。そうなんでしょうか」
「良いわ。私の興味は其処ではない。これ以上は私が教える所でも無いしね。っと、無駄話も過ぎたわ。今日は貴方の属性ってやつを見て行きましょうか」
「は、はい。よろしくお願いします」

 はっきり言ってしまえばサクには魔法の才能というやつは人並みだった。
識る事は早くともそれは識っているだけで、出来る事とは違う。
火を扱わせてみても、風を吹かせてみても。水を湧かせてみても、土を割ってみせても。
どれを取っても凡人。
詰まる所彼女の特殊な魔とはそれ以外のことだ。
それに昨夜の違和感にも気になる所がある。
あの時たしかにサクからは強烈な魔の残り香がした。
おそらくは無意識のうちにやっていることなのだろう。

「サク、昨日変わった事とか無かったかしら。どんな些細な事でも良いのだけれど」
「変わった事…ですか?そうですね…本を読んでいただけですし…あ、でも一つ…」
「あったの?」
「変わった事…かは解りませんが、体感時間のズレ…みたいなものを感じました」
「ふーん…。なるほど」
「きっと集中して時間を忘れるってやつでしょうか。あ、でもそれだと時間は思ったより進んでるはずですよね」

 おかしいですよね、とサクは笑った。
なるほど、確かにそれはおかしい。だが同時に興味深い。

「そうね…ちょっと試してみようかな」

 そうしてパチュリーは図書館へと彼女を案内した。
そこで新たに五冊の魔法書を彼女の前に差し出す。

「これ、次にやることだから覚えて。今ここでね」
「ここで…ですか…あ、あの…」
「何?」
「わからなかったら聞いても良いでしょうか」
「まぁ少しくらいは教えても良いわ。でもなるべく“時間をかけて自分で”解いてみなさい。」
「わ、わかりました」

 そうしてパチュリーはサクを観察することに決めた。
彼女の違和感、そしてパチュリーの仮説。
それから求められる答えは余りに単純な力で、余りに強力な能力。

――そうしてサクが本を読み終えるまでに時間は一時間しか経っていない事にパチュリーは仮説を確信に変えた。

 凡才の彼女が速読も瞬間記憶も使わずしてわずか一時間のうちに理解するにはどうすれば良いのか。
初めから識っていた、という可能性は少しはあるかも知れないが除外する。
あれらの魔法書は何処を探しても此処にしかない。
それを初めから識っていたなど可能性は限りなく低いからだ。
ではどうすれば良いのか。その答えは根底から覆される。
彼女は一時間以上の時間をかけて理解を深めていったのだ。
彼女は“彼女だけの時間を引き伸ばした世界”を無意識のうちに展開している。
それは時間の止まった世界。
活動出来るのは自分のみの余りに強制力の高い反則技。
だがその強力すぎる力にサクは飲まれている。
現に彼女は実時間一時間の間にその何十倍もの時間をかけて理解を深めていったのだ。
そのフィードバックたるや否や、全身を襲う疲労と、その代償に持って行かれる“自身の時間”は余りに大きい。
サクの能力とは命を削る行為他ならない。
だが一番の問題はサク自身がその能力に気づけていないことだ。
気づかないとは扱えていないことと同義だ。
まずはパチュリーはサクにこの能力を識り自在に使えるようにさせようと考えた。
だがそれはサクの為でなく、あくまでも自分の探究心からだ。
果たして扱える代物なのか。
扱えたとして発動と解除は自分で決めれるものなのか。
何時間止めれるのか。止まった世界に干渉するとどうなるのか。
知識を食らう魔女はどこまでも魔に魅せられている。
それ故に彼女もまた、常人には理解されない化物として、魔女というカテゴリーに収まっているのだろう。
期待に胸をふくらませながら、魔女は不気味に笑っていた。


「ふわぁ…平和だなぁ。」

 大きなあくびをして、美鈴は紅魔館の外壁にもたれかかった。
だが辺りへの警戒は緩めない。
それこそ彼女の仕事だからである。
一見して彼女自身普通の人間と何ら変わらない容姿をしている。
だがそれでも彼女が化物の一人であることは変わり無い。
例えば彼女が人間よりも人間らしい妖怪でも。
容姿端麗スタイル抜群、スラっと伸びた足と、鍛錬から絞られた体のラインに人間としての美しさをもっていたとしても。
 世には退魔を生業とする者がいる。
少なくともこの幻想郷には実在する。
当然退魔なのだから、紅き月と称された程の吸血鬼が住むこの紅魔館である。
それを退魔を生業とする者が放おっておくわけもなく紅魔館を襲うのだ。
退魔とは、魔をもって魔を制すもの。
即ち退魔を生業とするものは少なからず自身も魔法を使いなのだ。
その化物共を美鈴は紅魔館の門番として迎え撃つ。
こと戦闘に置いて彼女は圧倒的だった。
例えば彼女が魔法を用いた戦闘を苦手としてもそれを補って余りあるほどの身体能力で相手を圧倒する。
魔法使いとは魔法に対して強くてもその実、肉弾戦を得意とするものは数少ない。
現に紅魔館に居る七曜の魔女と恐れられたパチュリーですら、こと近接戦闘に置いては美鈴には遠く及ばないだろう。
最も二人が戦ったとしてもパチュリーに触れられもせず戦いは終わる確率のほうが遥かに大きいのだが。
 だがそれも相手がパチュリーの話。
化物の中でもさらに化物。
そんな相手は少なくとも美鈴が追い返してきた化物達の中にはいなかった。
 弱い魔法ながらも独自の“気”を補助として扱い、あくまでもその肉体を武器にして戦うスタイルで、美鈴はこの門を侵入者にくぐられた事は無かった。
 だが彼女は余りに甘い。トドメを刺せる相手は多く居た。
だが一人として“美鈴は”命を奪ったことは無い。
自身の目的は「紅魔館への侵入を許さない」事に尽きると考えているからだ。
だからこそリベンジしてくるものは居た。
だが美鈴自身はそれでも構わないと思っている。
その覚悟が無ければ見逃すことなど出来ず、何度来ても追い返せる自信が彼女にはあるからだ。
 故に彼女は化物だ。だがいずれ、そう遠くない未来。
彼女は自身の甘さこそが最大の敵であると気付かされるだろう。
その時こそ、彼女が初めて許す侵入者が生まれるだろう。

――***

 サクは強く念じた。
それは祈るように。
本当に出来るのかは解らないが、イメージするのは壊れた時計だ。
針が進まない時計。サクは強く強く念じた。

「貴方は時を止めることが出来るのかもしれない」

と、にわかに信じがたい事をパチュリーから言われた。
内心では焦り、どうすればいいのかわからずにいたが、それを察してかパチュリーは強く自分の中で時が止まることをイメージしなさいと言っていた。
そうは言っても時が止まるイメージなど、そもそも浮かんで来なかった。
だから時が止まっている物をイメージすることにした。
その題材に選んだものこそ壊れた時計である。
逆さまに動くわけでない。進むわけでない。
秒針の止まった壊れた時計。念じる。強く強く。時よ、止まれ―――。

 ガクンっと何かが切り替わるのをサクは感じた。
もしかして…と目を開くと、眼の前にいるパチュリーは止まっていた。
一瞬何かの演技かとも思ったが、それは完全に止まっている。
呼吸も、心臓も、体のありとあらゆる者全てが。
窓を開けていたはずなのにそれすらも無風で。
これではまるでファンタジーだ。世界は今この瞬間、サクだけのものになった。
面白かった。これでは何が出来る?何でも出来る。
まるで自分自身が王様になったような世界。
だが余りにそれは孤独な世界であった。
動けるのは自分だけ。目の前に居るパチュリーも、門の前に眠そうな目で止まった美鈴も、全てが無反応。
それどころか動いてすら居ない。
まだ止めてからわずか5~6分だろう。
だがそれでもその5~6分をサクは耐えられなかった。
自覚するとこれほどまでに恐ろしいものは無かった。
念じる。動けと。正常な時計を強く意識する。
それは壊れていない時計、正常に正常に。
秒針は止まることを知らない時計を思い描く。
またガクンと何かが切り替わるのを感じた。
 戻ったのだと直感する。サクは安堵した。
当然今までも止めていたと言われていたから、戻すことは出来るとは解っていた。
それでも自身でコントロールしていことなど無く、ほぼ無意識にこの能力を使っていた為不安が大きかったのも無理は無かった。
 わずか5~6分でも、自身でコントロールするとフィードバックもまた大きく跳ね返ってきたように思えた。
体は重くなり、額には汗を滲ませる。しかしサクは口元をニヤつかせて居た。
サクは楽しかったのだ。まったくの未知。
自分の住んでいた世界とは遠くかけ離れた世界のギャップについて行くどころか追い越して、幻想郷という世界に順応している。

「ずいぶん良い顔ね。」

 顔を上げるとパチュリーが廊下の窓から顔をのぞかせていた。

「どうやら本当に時を止めれるようね」
「そ、そのようですね」
「どうかしら。どのくらい止めれるものなの?」
「多分…ですが自分の体力が持つ限りだと思います。」
「なるほどね。あぁ、もう少し詳しく調べてはみたいけれど…」

 困ったようにパチュリーは笑った。
そのまま広い庭先の空を指さしている。
サクは首をかしげ疑問に思いつつも指差す先を見た。

―――まるでそれは隕石。
ものすごい勢いで何かが庭先に激突した。
土煙をあげながら、勢い良く激突した紅魔館の庭を抉りとる。
柔らかい風で土煙は徐々に薄れていく。
先ほどまでサクの居たそこは完全に崩壊し、見るとこの紅魔館の主である、レミリアが一人立っていた。

――***

 また強い強制力の前にレミリアは目が覚めた。
忌々しい事にこの違和感は間違いなく昨夜の人間である。
イライラする。
昨日はそれこそパチュリーが居たから見逃したが、収まりが効かない。
まずこの館に人間が居るというだけで私が気持ちよく寝れる事は無い。
 舌を鳴らし、レミリアは起き上がる。
そのまま一瞬にして自室から外に繰り出した。
上空から見るとレミリアの憎むべき人間が庭先に出ているじゃないか。
 ニヤと邪悪な笑みを浮かべてレミリアは己の体を武器にサクに突っ込んでいく。
その勢いたるや必中。
もはや避けようの無いスピードで。
その威力たるや必殺。もはや生きていようがない破壊力で。
 手応えはあった。
必殺必中のスピードと威力を込めて向かったはず。
だがそれも紅魔館の庭を破壊し尽くすだけで、肝心の人間の姿が無かった。

「忌々しい…。なんの小細工よこれは!」

 思わず声を上げその存在を確かめる。
彼女は簡単に見つかった。わずか10mもない先で息を切らして私を見ていた。
 どうやって避けたなんか知らないが、確かに人間はそこにいる。
忌々しげに横目で睨めつけて再度必殺の構えを取る。が――。

「それくらいにしないと、紅魔館が壊れてしまうわよレミィ」

 自分のよく知る声がレミリアの動きを止めた。

「…止めないで欲しいわパチェ。私の眠りを妨げた罪は重いの」
「それは承諾しかねるわ。彼女はまだ私にとって利用価値があるのだもの」
「邪魔をすると?」
「それが必要ならば。」

 一触即発。レミリアは必殺の構えをそのままにパチュリーに向きあう。
パチュリーもまた自身の魔導書を取り出して臨戦態勢を取った。

「こうして向き合うのも何年ぶりかしらねパチェ」
「さぁ、もう遠い昔のようにも思えるわ」

 先に動いたのはレミリアだった。
幼い容姿に見つかない程に鋭い爪を光らせてパチュリーに向かっていく。
レミリアは自らの腕を槍が如く扱い腕を突き出した。
だがパチュリーの前には瞬時に石の壁が作られた。
その壁すらお構いなしに破壊するが、さすがの攻撃も岩を通しては威力は半減し勢いもまた落ちる。
岩を貫いてくるその攻撃をパチュリーは最低限の動きで避ける。
その後即座に宙に魔方陣を描き火球を繰り出した。
だがその火球すらも。レミリアの前には無意味でしかない。
爪を一振り。それだけで十分だった。
火球は当たりに飛散し、レミリアの目の前で砕け散る。
それでも火球の威力に振り払った右腕は多少焼かれダメージを負う。
ダメージを追っていたのはレミリアだけではない。
完全に避けたと思ったレミリアの一突きも、予想以上の威力とスピードを持っていた為パチュリーの反応を遅らし、頬を薄く掠めていた。

「腕が鈍ったかしらパチェ。反応が遅いわよ」
「まったく。これだから貴方の相手は嫌だわ」

 余裕の笑みと、追いつめられた笑み。
前者はレミリアで後者はパチュリーだ。
レミリアはまだ本気を出してすら居ない。
本来ならばこの2倍の威力とスピードでパチュリーを突き刺すことすら可能だったろう。
パチュリーが行使する魔術の多くは時間をかかるものが多く、今この場のレミリアとパチュリーとの間合いでは圧倒的に不利であった。
勝ちを狙うだけならば場所を変えれば良い。
広く自分の有利なフィールドへ引きずり込めばパチュリーはそれで問題ない。
しかしそれは勝ちを狙う場合である。
この場を離れられない理由はサクだ。
間違いなくフィールドを変えようとすればレミリアは標的を即座にサクに変えるだろう。

――マズイわね。

 額に汗をにじませながら思考を高速展開させる。
だがそれでもパチュリーにはこの状況を打開する術は見つからなかった。

「何か考え事?隙だらけよ」
「しまっ――!」

 瞬時に懐に入られた。
油断をしていたわけではない。
だがたった一瞬の隙。思考の隙間をレミリアは見逃しはしなかった。
完全に取られた。
パチュリーはダメージを覚悟し、少しでもそれを軽減するために咄嗟に後ろへとんだ。
――はずだった。
 気付けばパチュリーの体はレミリアの背面を取っていた。
両者は当然に困惑する。
状況をいち早く察知したのはレミリアだった。
レミリアは忌々しげに舌打ちをする。

「またお前か…!人間!」
「突然何なんですか貴方は!」
「何だと?笑わせる。私はお前を殺したい」
「なっ…」

 言葉を失う。明確なまでの殺意。
そんな純粋までな殺意をぶつけられた事は生まれてこのかたサクには無かった。
その上サクにはレミリアから受ける殺意の在りかに全く心当たりが無かった為、余計困惑した。その殺意が、視線が、存在が。サクの脳を揺さぶる。
――何故?どうして?殺す?殺される。何を?私が?何で?目の前の?こいつに。
 熱が出そうなほどに頭を回転させる。
呼吸は荒く、心臓は飛び出そうなくらいに鳴っている。
パチュリーがサクに近づき耳元で小さく何かをつぶやいていた。
だが沸騰したサクの頭には断片的にしか聞こえてはこなかった。

―ニゲロ。
―ココニイテハジャマダ
―デキルダケトオクヘ
―コウマカンノソトヘ。

 理解するより先にサクは自分の能力を駆使しながら振りかえる事もせず走りだした。
時の止まった世界の紅魔館の廊下を走る。
門だ。門にいけば美鈴さんも居る。
そこまで逃げよう。
がむしゃらに、ただがむしゃらに。
足がもつれて転んでも関係ない。
痛みより恐怖がサクを支配していた。
あれは危険だ。どうしようもないほどの恐怖の象徴。
そうしてサクは目の前の恐怖から逃げ出した。

「…意外ね。見逃すの?」
「追えばパチェが邪魔するでしょう?それに…」
「それに?」
「もうアイツは二度と此処には来ない。見たでしょう?あの顔を。あの恐怖を。私は私が安心して眠れるのならそれで良いわ。」
「なるほど。随分冷静に戻ったわね」
「戻ったですって?元から私は冷静よ」
「はいはい。そういう事にしておくわ」
「やっぱり此処で殺しておこうかしら。この魔女を」
「それが出来るのならやってみると良いわ。幼き吸血鬼さん」
「…やめましょう。喉も乾いたし。ティータイムとしましょう」
「悪くない提案ね。付き合いましょう」

 そうして紅魔館のテラスに備え付けられたテーブルに腰掛けた。
そうして数分もしない間に出てきた紅茶を口にする。
だがその紅茶を飲んでみても、レミリアは顔をしかめた。

「マズイわね…。まだ私が淹れたほうが味があるわ。」
「やめなさいレミィ。どちらも大して変わらないのだから。」

 その一言にムウと頬を膨らませたがレミリア本人もその事を否定は出来なかった。

「あぁ…まったく。紅茶がマズイのも全部あいつの仕業よまったく!」

 苛立たしそうに叫ぶレミリアを見て、パチュリーは静かに笑った。

「何よパチェ。それより良かったの?私が言うのも何だけど、あの子気に入ってたんじゃないの。」

 その問いにもパチュリーはくすりと笑った。

「レミィ。一つ賭けでもしましょうか。」
「賭け?」

先ほどまで殺し合いをしてたとは思えないほど、平和なティータイムだった。

――***

「ここを真っ直ぐ行ってください。そうすれば人間の里があるはずですから」

 サクは美鈴の言葉を信じてただ真っ直ぐに逃げ出した。
パチュリーや美鈴には色々良くしてもらって置いてこんな去り方はサク自身不本意なものだったが、それ以上にサクは心臓を鷲掴みにされているような恐怖から只々逃げたくて、思考はそれ以上回らなかった。
 もうどれくらい走ったのだろうか。
10分だろうか。それとも1時間だろうか。
永遠にも感じる時の中で、ついにサクは人間の里の入り口にまで辿り着いた。
 フラフラと覚束ない足取りで、目は焦点も合わず宙を彷徨っていた。
だが周囲を少し見渡せば、自分と同じ人間が居る事にサクは安堵し、人間の里の日の当たらぬ場所で、人知れず眠りについた。
今は何も考えられない。心身ともに疲れきったサクはものの数秒で深い眠りについた。
 幻想郷に辿りついてから二度目の行き倒れ。
人が一生に倒れることなど大抵の人間は死ぬ間際くらいだろう。
だがこの短い期間にサクは2度倒れ、そして見知らぬ天井を目にした。
 だが今回違うのは、目覚めた時そばに誰も居なかった事くらいだろうか。
小さな小屋の中、薄っすら差す光を求めてドアを開けた。
そこは美鈴の言う通りの人間の里だった。
同時にサクは自分は助かったのだと安堵した。
とにかく自分を拾ってくれた人間に礼を言わねばならないだろう。
それほど大きくもない村だ。
恐らく自分の事も知れ渡っているくらいだろう。
そう思い近くを通りかかった老人に声をかけようとした。
だがそれより先に老人は口を開いた。

「目が覚めたなら出て行ってはくれないか。」

 残酷な言葉。サクは一転してどん底に叩き落された。
自分の仲間であるはずの人間が、サクを否定し拒否したからだ。
紅魔館から着たのだろうと言われればサクは頷いた。

 曰くそこは呪いの館で。
何人もの退魔師が向かったが帰ることは無かったという。
ならば何故、ただの少女にしか見えないサクが無事に此処まで辿り着けたのだと村の人間達は皆一様に警戒し恐怖していたのだった。
 周りを見渡せば。目を合わせないように何処かあさっての方向を向いて、村人達はサクを無視していた。視線が、無いはずなのに。
刺さる。刺さる。それは孤独故の恐怖。孤立故の焦燥。
サクは自身の眠らされて居た小屋へと戻る。
焦点の合わない目で周りを見ればそこは鶏小屋のようだった。
その端に申し訳程度に作られた自分の為のベッドを見てサクは笑い、泣いた――。

「おい、あんた。もしかして此処に住み着くつもり――あれ?」

村人が鶏小屋に入って来た。
が、少女の姿は既に無かった。

「おかしいな。確かに今さっき入っていったはずなんだが…。」

 村人は首を傾げた。だが居ないのならばしょうがないと、村人は自らの仕事へと戻った。

 しばらくして、サクはその鶏小屋に住み続ける事にした。
しかしそれは誰とも関わらないようにだ。
この鶏小屋の主人が来ればすぐに時を止めてやり過ごし、申し訳ないと思いながらも鶏の卵や、畑の作物を少量頂いて何とかその時その時を凌いでいた。
だが、そんな生活もすぐに暴かれてしまった。
不審に思った鶏小屋の主人が、未明頃に気付かれぬようにサクの寝てる所を見つけたのだ。
その儚さと、一般人とは思えぬ銀髪を拵えた少女を前にし、小屋の主人は己の鍬を振り上げ、体重をそのままに振り下ろしたのだった。
だが。つい瞬き一回前まで居た少女は、次の瞬間には目の前には居なかった。
サク自身も不意を付かれた為時間を止めるのも一瞬しかできず、小屋の主人の後ろに回るのがやっとだった。
だが突如として目の前の少女が消え、その気配が後ろあると知った時。
小屋の主人は恐怖し、振り返った。月夜に照らされ、少女はより不気味に見えたのだろう。

「ば、化物・・・!」

一言だけ残して、主人は四つん這いになりながら外へと逃げていった。

「…化物か…」

 なによりその言葉がサクの心に重くのしかかった。
確かに、少女自身気付かぬ振りをしていたが、もう自分自身普通ではないのだ。
人間は自分と違う事をひどく嫌う。
それ故に歴史の中で数多くの過ちを人は犯してきた。
理解できぬ事は、理解しないのが人間である。
次にあの主人のやりそうな事は大方予想が付く。
きっと仲間でも連れて私を殺しに来るだろう。
自分が平穏に生きる為に他の何かを殺すのだ。
それが同じ人間なら、話しあおうとか、理解しようとか、多少歩み寄る事はしてきてくれたかもしれない。
だが自分はもう、化物というカテゴリーなのだ。
ほら聞こえる。無数の足あとが。ほら見える、夜なのに明るい明るい松明の火が。手に持った武器が松明の火を反射して光を放つ。

「そっか…。あは…ははは…ハハハハははハはははは!」

諦めたようにサクは笑った。笑った。渇いた笑い。泣き声は隠す為に高く高く。
いっそ狂ってしまえたら、どんなに楽だったろうか。
時を止めてサクは外に出た。もう此処には自分の居場所などない。
いや、初めからそんなものは無かったのだ。
自分を殺しにやってきた大群の横をするすると通り抜けて少女は一人夜の道を歩いた。

――***

 気がつけば、紅魔館の前に居た。
月が落ちてきそうなくらい燦然と輝く夜の事だ。
その月に小さな影が降りる。
紅魔の主、レミリア・スカーレットだ。
翼をゆっくり羽ばたかせ、幼き吸血鬼はサクの前に降り立った。

「見逃してやったというのに…どういうつもりか知らないが、人間風情が私の前に二度も立つな」

 赤く鋭い魔を穿つ槍。グングニルと名付けたそれをサクに向かって投げつける。
だがそれでもサクの歩みは止まらない。一瞬時を止めて紅き槍をやり過ごす。

「忌々しい。なぜ戻った。まさか私に勝てると思って来たわけではあるまい。そんなに足も震わせて、それでも何故、尚私の前に立つか。恐れを知らぬとでも言うのか人間よ」
「怖いですよ。とても怖いです。ですが同時に私は今この時を嬉しくも思います」
「嬉しい…?何をふざけたことを…聞け人間。私はお前を殺したい」
「嬉しいですよ。だって貴方の前でなら私は人間で居られるみたいですから。」
 サクは笑っていた。
まさに目の前に自分を殺す者が居たとしてもサクは笑った。
それは人間としての死を迎えれる故の笑い。
小さく救いのない望み。その儚げな笑いに、レミリアは口を歪ませた。

「…何故お前はそうも嬉しそうに笑えるのだ。終わりを前にして何故それを受け入られる」

 小さな涙の粒を浮かべてサクはレミリアの投げた問いに答える。

「終わりよりも怖いものを見つけたからですよ。孤独というものを知ってしまったからです。貴方に殺されかけた後、私は人里に逃げたんです。だけどその先では私はどうやら“化物”だったらしいんですよ。可笑しいと思いませんか?私は自分が人間だと思っていました。だけどその同じ人間からは“化物”と言われ殺されかけて。“化物”と呼ばれている貴方からは“人間”として殺されかけている。それがどんなに嬉しいか解りますか?貴方の前では私は少なくとも人間として死ねるんですよ。ほら殺すことを望む者と死ぬことを望む者。なんて美しい、利害の一致」
「狂ったか人間」
「狂わなければ生きれないなら、喜んで狂いましょう」
「滅茶苦茶だなお前は。死にたいのか生きていたいのか。まるで纏まっていないじゃないか。」

狂くると、狂くると。サクは矛盾だらけになりながら自己を保つ事で精一杯だった。

――死にたい生きたい死にたい生きたい死にたい生きたい死にたい――。

サクは村から持ちだした小さなナイフを取り出して、レミリアに向き合った。
死にたいと願いながら生きるために戦う。
その大きな矛盾に気付かないままサクはカタカタと笑っていた。

「哀れだよ。お前は」
「そうですか。でも哀れんで救われてるのは貴方でしょう」

 両者向き合い矢の如くお互いをぶつけ合った。
当然レミリアは素のスピードでも、サクには到底そんなスピードはない。
だがそれを補うことが出来るのがサクの能力でもある。
時を止めて必死にレミリアのスピードに食らいついた。
一見すれば五分。だが決着は思いの外早く訪れた。
 ガクンと、サクの膝が折れた。
ついこの間まで“普通の少女”だったサクだ。
それが能力を使っているとは言え吸血鬼の身体能力についていこうとすれば、当然体のほうが先に壊れるなど解りきった事だった。
 レミリアの槍がサクの喉元にまで当てられる。

「生きる為に闘いながら死を望むとは。なんとまぁ器用な奴だよお前は。」
「生きるため、では無いですね。生きていたことを感じる為に戦ったのですよ。元々貴方に敵うとも思ってませんでしたから」
「そこに違いがあると思う時点で、お前は矛盾してるんだよ」

 もう立ち上がる体力も無い。苦しい程に肉体を酷使した結果だ。だがそれでもサクは笑う。もう何も思い残す事は無いように、覚悟を決めて目を閉じた。

―――ザシュッ!

 レミリアの槍はサクの喉を捉えず、ただ地面を突き刺した。

「気に食わないな。何故終わりを良しとする。何故目の前の恐怖に抗わない」
「…それが私が取れる唯一の道ですから」
「それが気に食わないんだよ。此処で殺すのは簡単だ。だがそれでは私の後味が悪い」
「矛盾を抱えてるのは貴方もじゃないですか。殺したいと言いながら私を殺せないなんて」
「…決めたぞ、お前は今から私の物にする」
「は…?」
「お前は紅茶を淹れられるか?」
「それはまぁ淹れれますが…」
「なら合格だ。お前は今日此処で私が殺した。だからお前は今から『咲夜』だ。月に連れ添い、輝きを惹き立たせる夜となれ」

 余りの事態にサク自身もついていけていないが、どうやらこの吸血鬼はサクを自身の館に置くつもりらしい。

「私の為に生きて私の為に死ね。どうだ、お前の嫌いな孤独という奴とは程遠い、一生召使いだ。光栄に思うと良い。それでも尚死にたくなったなら私に言え。私が大嫌いな“人間として”お前を殺してやる」

 一筋の雫が咲夜の頬に流れた。恐怖からでもなく喜びから咲夜は泣いた。

「どうする?咲夜」

 なんて狡い問いだろう。差し出された手を握って咲夜はゆっくり頷いた。一度は死んだこの身だ。この吸血鬼に仕えるというのは生半可な覚悟で出来る事では無いだろう。だがそれでも――。
「答えは決まってます。お嬢様」

私はこの方について行こう。孤独を振り払ってくれたこの方に。

「私などに情を掛けるとは、人間より人間らしいですね」
「そういう咲夜、私の本気のスピードに、たとえイカサマをしていたとしても付いてこれるなんてそこら辺の化物よりよっぽどだわ」

 互いにフフと笑った。化物のような人間と、人間のような化物の新しい主従。

「ちょっと動いたら疲れたわ。咲夜、お茶にしましょう」
「畏まりました。あ、…でも」
「でも?」
「ティーセットはどちらでしょう?」

 やれやれ、とレミリアは肩を竦めた。

「しょうがない、今日は私も一緒に淹れてやろう」
「はい、お嬢様」

 夜はまだ深まるばかりだ。
降ってきそうの大きな月を肴に、レミリアは咲夜の淹れた初めての紅茶を口にする。
中々美味い。思わず顔がほころぶが、咲夜の手前すぐに口をきゅっと閉める。

「まぁ及第点といったところかしら」
「ありがとうございます」

 その姿を影から覗く美鈴とパチュリーはクスクスと笑っていた。


――***
 八雲紫の望む結果として、今回は転がった。
一人の孤独な少女が孤独で無くなり、仕えるべき主を見つけ生きる意味まで見つけるストーリー。
あぁなんて陳腐で愛おしいストーリー。
可能性を広げるには十分すぎる材料だ。
何せ人間を憎み蔑む紅魔館の紅き月ですら、人間の心を通わせたのだから。
 だがそれは残酷なまでな終わりすら透けて見える。
遠い昔、桜の少女と八雲紫がそうであったように、紅き月と銀髪の少女の終わりもまた、人間と妖怪の差によって悲しみを生むのだろう。
あぁ何て悲劇。観測者である私は何も言えない。
ただ起きる事象を観測し可能性を模索するしかない。
今後の見所は“終わり”を迎えて尚、あの紅き月が人を愛せるか。
それとも終わりを迎えたが為に再び人を寄せ付けなくなるのか。
どちらに転ぶかということだろう。
時を操る少女よ。どうか時を恨むこと無かれ。止めて見せても遡れないそれを憎むこと無かれ。
紅き幼い月よ。どうか時を恨むこと無かれ。悠久を生き、数多の死を見つめることになろうともそれを憎むこと無かれ。

――どうか二人の道に幸多からん事を。


                                         観測者:八雲紫
初投稿となります。

これからちょくちょく作品をかけたら良いなって思っています。
文章力もまだまだではありますが、どうぞお手柔らかに宜しくお願いします。

(1/18正午 加筆修正)
Clair
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コメント



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2.90名前が無い程度の能力削除
誤字
話し→話
頑張って見る→みる

若干ストーリーがありきたりですが、上手い文章だと思いました。
3.100名前が無い程度の能力削除
面白かった
4.90名前が無い程度の能力削除
いいね
改行はしてほしい
7.80奇声を発する程度の能力削除
やや読みづらいなと感じましたが面白かったです
12.100名前が正体不明である程度の能力削除
王道だね。