「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「昨日フラれたわ」
「やけにあっさりと言うのね」
「昨日死ぬほど泣いたから、もう今日は泣かない」
「目が赤いのはそういうこと。まあ、すっきりしたならそれでいいじゃない」
「三ヶ月付き合ってたのかな」
「微妙な期間ね」
「なんとなく短いようで、長い時間だったわ」
「蓮子には充実した期間だったってことじゃない?」
「すごい優しい人だった」
「よく蓮子と付き合う気になったわね」
「最後は、君にはもうついていけないって、そう言われた」
「あなた、私のように恋人を振り回すのはよしなさいよ」
「……ぅ、ぇ……」
「ああ、もう、思い出して泣かないで……ほら、ハンカチ」
「……ぅ、ごめ、ん……」
「私こそ、ごめんなさいね」
「すん……メリーは、優しいね」
「だって、あなたの友人ですもの」
「友人、かあ……」
「ほら、ココア飲む?」
「うん……熱い」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「告白したらオッケーされた」
「ええと、大学に入ってから?」
「三人目」
「今度は三ヶ月以上続くといいわね」
「エネルギーある人だから、大丈夫よ」
「にこにこしてる顔を崩すのも無粋だから、とりあえずおめでとうと言っておくわ」
「ほら、メリーだって早く誰かと付き合っちゃいなよ」
「私はいいわよ」
「メリーと付き合いたいって思う男なんかいくらでもいるよ?」
「まあ、そう思う日が来たら行動するわ」
「つまんない、私もメリーの惚気話聞きたい」
「このココアの惚気話なら、いくらでも」
「それよりももっと甘々な話を聞きたいな」
「じゃあ、あなたが今指でいじってる角砂糖でも舐めたら?」
「なんか、今日のメリーは意地悪ね」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「またフラれたわ」
「また死ぬほど泣いたのね」
「目、赤い?」
「すごく」
「そう……三ヶ月と一日。記録、更新したばっかりだったのに」
「ほら、ココアちょっと飲んでいいわよ」
「うん、いただきます」
「……熱い?」
「体に染み渡る。メリーの優しさと同じ味がする」
「私は大昔の風邪薬じゃないんだけど、元気が出たなら嬉しいわ」
「今、なんとなく思ったんだけど」
「うん」
「もし、私が男だったら、メリーは私と付き合う?」
「付き合わないわよ」
「……ぅ……」
「ああ、ごめんなさい、そういう意味じゃなくて……ほら、ハンカチ」
「……うう」
「私が魅力を感じるのは、やっぱり女の子の蓮子。だから、蓮子には女の子のままでいてほしいの」
「……ほんとう?」
「涙目で言われたら、肯定するしかないわ」
「じゃあ、メリーが男だったら私と付き合う?」
「蓮子は男の私と付き合いたい?」
「……」
「そういうことなの。私の気持ち、わかってくれた?」
「なんだか、今日のメリー、ちょっと大人」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに」
「今の彼氏とはうまくいってるの?」
「うまくも何も、至って平穏よ」
「惚気話とかないの?」
「あなた、私の惚気話を聞きたいの?」
「聞きたい気もする、聞きたくない気もする」
「私が話すまではわからない、と」
「シュレーディンガーの猫状態」
「ちょっと違う気もするけど」
「やっぱりいいや、メリーの惚気を聞いたら嫉妬する気がしてきた」
「またあなたも好きになる人を見つけられるわよ」
「どうだかね」
「ところで、今日あなたに会ってからずっと気になってたことがあるんだけど」
「なに?」
「ええと、あなた蓮太くん?」
「髪を短く切っただけよ!」
「あ、男になったのかと思ったわ」
「その境界を超えようとは、さすがの私も思わないわよ」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「そっちのあたしは元気?」
「きっと今のあなたと同じくらいには元気よ」
「そうかあ、どこのあたしも、あたしなのね」
「でも、こっちの蓮子は『あたし』じゃなくて『私』って言うのよ」
「あ、そうなんだ」
「コーヒーに砂糖入れるし」
「ブラックが好きじゃないの? あたしの哲学が台無しね」
「私はココアが好きだから、きっとこっちの蓮子と気が合うのね」
「こっちのメリーは紅茶が好きだからね。でも、髪はもっと子どもっぽくまとめてる」
「さて、あなたにひとつ聞きたいんだけど」
「元の世界位相に戻る方法?」
「難しいことは蓮子の得意分野でしょ?」
「あたしもパラレル・ワールドを取り扱うのは初めてだから、ちょっと難しいわ」
「でも、何とかしてほしいの。こちら側の私と、私の蓮子、今頃泣いてるわ」
「えー、そっち側のあたしは泣き虫なのかあ……それは困ったなあ」
「そっち側の私も泣き虫なの?」
「当然。だって、あなただもの」
「あなたの前で泣くなんて、心外ね」
「泣き虫なメリーは可愛いよ?」
「そうね、とは言えないわ」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「明日卒業式なんだけど、何か欲しいものある?」
「唐突すぎるプレゼントの提案ね」
「今を大事にしないと、いつか何かあったら困るの」
「大丈夫よ」
「大丈夫じゃない、だって去年みたいなことがあったら、私――」
「ケーキ」
「……へ?」
「今、ここでケーキが食べたいわ」
「え、ええ?」
「今を大事にする。だったら、今しかないものにしたいの」
「ケーキは食べちゃえば終わりだから?」
「そう。合成で食品が作れる時代になっても、そのときの味はそのときにしかないもの」
「深いお言葉。じゃあ、ちょっとケーキ買ってくる。ショートケーキでしょ?」
「……ねえ、蓮子」
「なに?」
「……いえ、なんでもないわ」
「? ちょっと今日のメリー、おかしいね」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「私、結婚したの」
「そう、おめでとう」
「やけにあっさり言うのね。まあ、ありがとう」
「別に目は赤くないわよ」
「誰も聞いてないわよ」
「電話越しだから、わからないでしょ?」
「わからないわね。でも、メリーの瞳は青の方がいいな」
「そう言ってくれると、嬉しい」
「……あれ、何を言おうと思ってたんだっけ」
「結婚の報告だけでいいと思うんだけど」
「うーん、何かあった気がするんだけど。まあ、いいや、思い出したらまた電話する」
「ごめんなさい、蓮子。ちょっとお鍋が沸騰してきて危ないから切るわね」
「え、うん……今、夕食時だっけ?」
「時間くらい、あなたの目で見たらどうなの」
「そうか、すっかり忘れてたわ」
「じゃあね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「今日、メリーの家に行っていい?」
「あら、今日、ちょうど夫が仕事で帰らない日なのよ」
「……ごめんね」
「どうしたの?」
「前話したけど、別居してから三ヶ月と二日。なんだか人恋しくなって」
「記録更新」
「……?」
「あ、いや、こっちのことよ、気にしないで」
「メリーの家に行くの、何年ぶりかな」
「お互い結婚しちゃうと、なかなか会えなくなるものね」
「大学でメリーと秘封倶楽部をやってた時代が、すごく眩しいものに見えるわ」
「私もよ」
「……あ、思い出した」
「何を?」
「さっき、メリーが言ってた『記録更新』。恋の話だったよね」
「そうね」
「でも、あれは付き合ってた時間だから、別居してる時間じゃな、くて……ぅ」
「あああ、ごめんなさい。余計なことを思い出させちゃって……」
「ぐすん……熱いココア、入れて……」
「ごめんね、蓮子……今すぐ迎えに――」
「北緯35度、東経135度42分」
「どこ、そこ?」
「今、あなたの家の前なの……」
「……真っ赤な目で待ってなさい」
「ちょっと怒らせた?」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「先立たれた悲しみって、消えないものなのね」
「愛が強いほど、深い傷になるものだしね」
「あなたの旦那を大事にしてね」
「ええ、それはもう限りなく」
「はあ……齢六十を過ぎても、私って変わらないのね」
「だいぶ変わったわよ、あなたの髪が白くなったこと」
「メリーだってだいぶ白くなってる」
「金が銀に変わったと思えば、そんなにつらいこともないわ」
「そう。メリーは強いね……私、ひとりになったらめそめそ泣いてばっかりだよ」
「今は、私がいるわ」
「熱いココアと一緒に」
「あなたも、微糖のコーヒーと一緒」
「この頃はブラックに挑戦する気力もないなあ、もう歳だわ」
「いつもいつも子どもっぽいのは蓮子だったのに」
「向こうの私みたいになっちゃった?」
「あっちは理知的なお姉さん。おばあちゃんじゃなかったわ」
「どっちがいい?」
「今の蓮子」
「こっち側、ということじゃなくて?」
「今、私の目の前に座っている、あなたが好きよ」
「私も、メリーが好きだよ。今、私の前に座っているあなた」
「両想いね」
「変な気分ね」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「私、ひとりになっちゃったね」
「てっきり私の方が先に死ぬのかなあ、って思ってたけど」
「いいの。孤独はちょっと慣れちゃったから」
「また目、赤くなってる? おかしいわね、泣いてるつもりなんてないのに」
「でも、泣いてるのは統一力学の法則と同じくらいに、しかたないことだから」
「意地、じゃない。あなたとの思い出ばかりに浸ってるのは、本当だから」
「やっぱり、全然私変わってない。思い出に泣いてばっかり」
「でも、今は誰もココアを渡してくれない。ハンカチも」
「結局、こうするしかないのよね」
「ああ、そうだ……私がたったひとりだけ、世界で愛し続けた人を知ってる?」
「それはね、あなたよ、メリー」
「ずうっと、ずうっと、好きだった。あなたに愛されるんだったら、これ以上幸せなことはない。今までもそう思ってたし、今もそう思う」
「……また、フラれるんだろうね」
「いいのよ、時々疼くのを感じても、それでも前を向いて……生きるわ」
「それだけだよ、聞いてくれてありがとう、メリー。私、少しは泣き虫治そうと思う」
「じゃあね、メリー」
「なあに、蓮子」
「昨日フラれたわ」
「やけにあっさりと言うのね」
「昨日死ぬほど泣いたから、もう今日は泣かない」
「目が赤いのはそういうこと。まあ、すっきりしたならそれでいいじゃない」
「三ヶ月付き合ってたのかな」
「微妙な期間ね」
「なんとなく短いようで、長い時間だったわ」
「蓮子には充実した期間だったってことじゃない?」
「すごい優しい人だった」
「よく蓮子と付き合う気になったわね」
「最後は、君にはもうついていけないって、そう言われた」
「あなた、私のように恋人を振り回すのはよしなさいよ」
「……ぅ、ぇ……」
「ああ、もう、思い出して泣かないで……ほら、ハンカチ」
「……ぅ、ごめ、ん……」
「私こそ、ごめんなさいね」
「すん……メリーは、優しいね」
「だって、あなたの友人ですもの」
「友人、かあ……」
「ほら、ココア飲む?」
「うん……熱い」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「告白したらオッケーされた」
「ええと、大学に入ってから?」
「三人目」
「今度は三ヶ月以上続くといいわね」
「エネルギーある人だから、大丈夫よ」
「にこにこしてる顔を崩すのも無粋だから、とりあえずおめでとうと言っておくわ」
「ほら、メリーだって早く誰かと付き合っちゃいなよ」
「私はいいわよ」
「メリーと付き合いたいって思う男なんかいくらでもいるよ?」
「まあ、そう思う日が来たら行動するわ」
「つまんない、私もメリーの惚気話聞きたい」
「このココアの惚気話なら、いくらでも」
「それよりももっと甘々な話を聞きたいな」
「じゃあ、あなたが今指でいじってる角砂糖でも舐めたら?」
「なんか、今日のメリーは意地悪ね」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「またフラれたわ」
「また死ぬほど泣いたのね」
「目、赤い?」
「すごく」
「そう……三ヶ月と一日。記録、更新したばっかりだったのに」
「ほら、ココアちょっと飲んでいいわよ」
「うん、いただきます」
「……熱い?」
「体に染み渡る。メリーの優しさと同じ味がする」
「私は大昔の風邪薬じゃないんだけど、元気が出たなら嬉しいわ」
「今、なんとなく思ったんだけど」
「うん」
「もし、私が男だったら、メリーは私と付き合う?」
「付き合わないわよ」
「……ぅ……」
「ああ、ごめんなさい、そういう意味じゃなくて……ほら、ハンカチ」
「……うう」
「私が魅力を感じるのは、やっぱり女の子の蓮子。だから、蓮子には女の子のままでいてほしいの」
「……ほんとう?」
「涙目で言われたら、肯定するしかないわ」
「じゃあ、メリーが男だったら私と付き合う?」
「蓮子は男の私と付き合いたい?」
「……」
「そういうことなの。私の気持ち、わかってくれた?」
「なんだか、今日のメリー、ちょっと大人」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに」
「今の彼氏とはうまくいってるの?」
「うまくも何も、至って平穏よ」
「惚気話とかないの?」
「あなた、私の惚気話を聞きたいの?」
「聞きたい気もする、聞きたくない気もする」
「私が話すまではわからない、と」
「シュレーディンガーの猫状態」
「ちょっと違う気もするけど」
「やっぱりいいや、メリーの惚気を聞いたら嫉妬する気がしてきた」
「またあなたも好きになる人を見つけられるわよ」
「どうだかね」
「ところで、今日あなたに会ってからずっと気になってたことがあるんだけど」
「なに?」
「ええと、あなた蓮太くん?」
「髪を短く切っただけよ!」
「あ、男になったのかと思ったわ」
「その境界を超えようとは、さすがの私も思わないわよ」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「そっちのあたしは元気?」
「きっと今のあなたと同じくらいには元気よ」
「そうかあ、どこのあたしも、あたしなのね」
「でも、こっちの蓮子は『あたし』じゃなくて『私』って言うのよ」
「あ、そうなんだ」
「コーヒーに砂糖入れるし」
「ブラックが好きじゃないの? あたしの哲学が台無しね」
「私はココアが好きだから、きっとこっちの蓮子と気が合うのね」
「こっちのメリーは紅茶が好きだからね。でも、髪はもっと子どもっぽくまとめてる」
「さて、あなたにひとつ聞きたいんだけど」
「元の世界位相に戻る方法?」
「難しいことは蓮子の得意分野でしょ?」
「あたしもパラレル・ワールドを取り扱うのは初めてだから、ちょっと難しいわ」
「でも、何とかしてほしいの。こちら側の私と、私の蓮子、今頃泣いてるわ」
「えー、そっち側のあたしは泣き虫なのかあ……それは困ったなあ」
「そっち側の私も泣き虫なの?」
「当然。だって、あなただもの」
「あなたの前で泣くなんて、心外ね」
「泣き虫なメリーは可愛いよ?」
「そうね、とは言えないわ」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「明日卒業式なんだけど、何か欲しいものある?」
「唐突すぎるプレゼントの提案ね」
「今を大事にしないと、いつか何かあったら困るの」
「大丈夫よ」
「大丈夫じゃない、だって去年みたいなことがあったら、私――」
「ケーキ」
「……へ?」
「今、ここでケーキが食べたいわ」
「え、ええ?」
「今を大事にする。だったら、今しかないものにしたいの」
「ケーキは食べちゃえば終わりだから?」
「そう。合成で食品が作れる時代になっても、そのときの味はそのときにしかないもの」
「深いお言葉。じゃあ、ちょっとケーキ買ってくる。ショートケーキでしょ?」
「……ねえ、蓮子」
「なに?」
「……いえ、なんでもないわ」
「? ちょっと今日のメリー、おかしいね」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「私、結婚したの」
「そう、おめでとう」
「やけにあっさり言うのね。まあ、ありがとう」
「別に目は赤くないわよ」
「誰も聞いてないわよ」
「電話越しだから、わからないでしょ?」
「わからないわね。でも、メリーの瞳は青の方がいいな」
「そう言ってくれると、嬉しい」
「……あれ、何を言おうと思ってたんだっけ」
「結婚の報告だけでいいと思うんだけど」
「うーん、何かあった気がするんだけど。まあ、いいや、思い出したらまた電話する」
「ごめんなさい、蓮子。ちょっとお鍋が沸騰してきて危ないから切るわね」
「え、うん……今、夕食時だっけ?」
「時間くらい、あなたの目で見たらどうなの」
「そうか、すっかり忘れてたわ」
「じゃあね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「今日、メリーの家に行っていい?」
「あら、今日、ちょうど夫が仕事で帰らない日なのよ」
「……ごめんね」
「どうしたの?」
「前話したけど、別居してから三ヶ月と二日。なんだか人恋しくなって」
「記録更新」
「……?」
「あ、いや、こっちのことよ、気にしないで」
「メリーの家に行くの、何年ぶりかな」
「お互い結婚しちゃうと、なかなか会えなくなるものね」
「大学でメリーと秘封倶楽部をやってた時代が、すごく眩しいものに見えるわ」
「私もよ」
「……あ、思い出した」
「何を?」
「さっき、メリーが言ってた『記録更新』。恋の話だったよね」
「そうね」
「でも、あれは付き合ってた時間だから、別居してる時間じゃな、くて……ぅ」
「あああ、ごめんなさい。余計なことを思い出させちゃって……」
「ぐすん……熱いココア、入れて……」
「ごめんね、蓮子……今すぐ迎えに――」
「北緯35度、東経135度42分」
「どこ、そこ?」
「今、あなたの家の前なの……」
「……真っ赤な目で待ってなさい」
「ちょっと怒らせた?」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「先立たれた悲しみって、消えないものなのね」
「愛が強いほど、深い傷になるものだしね」
「あなたの旦那を大事にしてね」
「ええ、それはもう限りなく」
「はあ……齢六十を過ぎても、私って変わらないのね」
「だいぶ変わったわよ、あなたの髪が白くなったこと」
「メリーだってだいぶ白くなってる」
「金が銀に変わったと思えば、そんなにつらいこともないわ」
「そう。メリーは強いね……私、ひとりになったらめそめそ泣いてばっかりだよ」
「今は、私がいるわ」
「熱いココアと一緒に」
「あなたも、微糖のコーヒーと一緒」
「この頃はブラックに挑戦する気力もないなあ、もう歳だわ」
「いつもいつも子どもっぽいのは蓮子だったのに」
「向こうの私みたいになっちゃった?」
「あっちは理知的なお姉さん。おばあちゃんじゃなかったわ」
「どっちがいい?」
「今の蓮子」
「こっち側、ということじゃなくて?」
「今、私の目の前に座っている、あなたが好きよ」
「私も、メリーが好きだよ。今、私の前に座っているあなた」
「両想いね」
「変な気分ね」
「そうね」
「ねえ、メリー」
「私、ひとりになっちゃったね」
「てっきり私の方が先に死ぬのかなあ、って思ってたけど」
「いいの。孤独はちょっと慣れちゃったから」
「また目、赤くなってる? おかしいわね、泣いてるつもりなんてないのに」
「でも、泣いてるのは統一力学の法則と同じくらいに、しかたないことだから」
「意地、じゃない。あなたとの思い出ばかりに浸ってるのは、本当だから」
「やっぱり、全然私変わってない。思い出に泣いてばっかり」
「でも、今は誰もココアを渡してくれない。ハンカチも」
「結局、こうするしかないのよね」
「ああ、そうだ……私がたったひとりだけ、世界で愛し続けた人を知ってる?」
「それはね、あなたよ、メリー」
「ずうっと、ずうっと、好きだった。あなたに愛されるんだったら、これ以上幸せなことはない。今までもそう思ってたし、今もそう思う」
「……また、フラれるんだろうね」
「いいのよ、時々疼くのを感じても、それでも前を向いて……生きるわ」
「それだけだよ、聞いてくれてありがとう、メリー。私、少しは泣き虫治そうと思う」
「じゃあね、メリー」
浅すぎず深すぎずな関係がとてもよかったです
色々と妄想の余地があって、心にグッと来ますね
よかったです。
きっとメリーはまた別の世界の蓮子さんを助けに(ry
その上でセリフだけで表現される、蓮子とメリーの心の交流が、なんとも余韻を残して印象深かったです。
でもこの作品で満足しちゃったからもういいかな。素晴らしい
素晴らしいSSでした。
なんかすごいせつない気分になってしまった
東方のキャラクター達はお婆ちゃんになっても美しそうだ。
むしろ、綺麗なお婆ちゃんばかりだろうな。
会話文だけでここまで深みを出せるとは。お見事。
こんな秘封も良いですね。
これを5カ月間もスルーしていたとは……
あ、あと、ココア飲みたい。