前回までのあらすじ
みょんなことから競走妖になり、障害レースに参加することになった魔理沙。
彼女は化け物たちが跋扈するこの世界から生きて帰ることが出来るのだろうか?
「そして……時は動き出す」
「ふんっ! ほっ!」
白玉楼の広大な庭に、つむじ風が舞い上がる。
妖忌は久しぶりにその庭の掃除を行った後、そのまま朝の稽古に励んでいた。
当然ただの剣術ではない。それは高速で動く的を正確に叩き切る、競妖向けの稽古。
昔と変わらぬその姿、その外見からは妖夢の祖父とはとても思えない。
幽々子はそんな妖忌を遠くから眺めていた。
「朝早くから練習ごくろうさま、妖忌」
「これはこれは幽々子様、お早いお目覚めで」
「お腹が空いたわ、そろそろ朝食にしましょう」
「おお、もうこんな時間でしたか。すぐに用意しますゆえしばしお待ちくだされ」
「妖夢はようやく自分で立って歩けるまでに回復したわ」
「それはなにより。秋には今までどおりの生活ができるようになりますな」
朝食を食べ終え、食後のお茶をすすりながら幽々子と妖忌は会話を交わしていた。
「それよりも妖忌、あなた本当に幻想大弾幕に出るの?」
「そうです。決着をつけねばならない敵が居りますので」
この妖忌が決着をつけるような敵……幽々子にも心当たりは有る。
昔々、妖忌は最強の障害競走妖として活躍し、その名を歴史に残している。
吸血鬼を、鬼を、果ては月人をも平伏させ、『武神』と呼ばれた妖忌。
テン良し中良し終いよし。そのレース振りたるやまさに達人の技。
彼の刀と末脚に切れぬものなど、殆ど無い。
彼は目指すべき目標を失い、一度は競妖を去った。
その妖忌が今になって競妖に帰ってきた。
それはつまり……再び飛ぶ理由が出来たと言うことに他ならない。
「妖忌、満月の夜は背後に気をつけることよ」
「承知しております。奴とて怪物、簡単に勝てるとは思っておりませぬ」
「しかし幽々子様、私にはその怪物よりも倒すべき敵がおります」
「私も、あなたに倒して欲しい敵がいるの」
幽々子は目一杯間を取り、妖忌に向けてその名を口にした。
愛しい妖夢を酷い目にあわせた犯人の名前を。
同時に、妖忌も己が倒すべき敵の名を口にした。
可愛い孫を酷い目にあわせた仇の名前を。
「妖夢の仇。霧雨 魔理沙」
「ダービーの覇者。霧雨 魔理沙」
妖忌の口元が、わずかに吊りあがった。
「おい、香霖起きろ。もうお昼だぞ」
「難題魔理沙?」
「人を難題扱いするな」
すでに太陽は真上にまで昇っている。こんな良い天気に寝て過ごすだなんてとんでもない。
魔理沙は霖之助の布団をひっぺがした上に蹴りを食らわせ、強引に起床させた。
傍から見れば恐妻魔理沙。彼女がこんな強硬手段に出たのには訳があった。
「お腹が空いたぜ、なんか作ってくれ」
「そのことなんだが魔理沙、残念ながらウチにはもう食料がないんだよ」
「なんだって?」
魔理沙は耳を疑った。
食料がないだと? どうやってこの先居候すればいいんだ、と魔理沙は自分の身だけ心配しておく。
「正確には蓄えが無いと言うべきかな。魔理沙が稼いでくれたお金も昨日でなくなってしまったし」
「ちょっと待て、なんで私が香霖を養ってやらなくちゃいけないん―――」
霖之助は魔理沙の手を握り、その目で何かを訴える。
とたんに紅くなる魔理沙の顔。
「硬いこというなよ魔理沙、君と僕との仲じゃないか」
「……都合のいい解釈するなよ。しょうがないな、私に任せとけ!」
そう言うと、魔理沙は箒に跨ってどこかへ飛んでいってしまった。
「流石は魔理沙だね。頼りになるよ」
だが、魔理沙が持って帰ってきたものは食べられるかどうかも分からない大量のキノコだけだった。
「魔理沙よくやった、と言いたいところだが……」
「なにが? うまいぜこれ、香霖も食べてみろよ」
「慧音……私もうへとへとだよ」
「そうだな、今日の練習はここで終わろうか」
慧音と妹紅は夕食を囲みながら、いつものように『本日の反省会』を行う。
反省会とは言っても、慧音の一方的なダメ出しになることが多いのだが。
「慧音って速いんだね。まさか私より速いだなんてショックだよ」
「伊達に経験積んじゃいないさ。単純な絶対スピードで妹紅に勝てるかどうかは分からないぞ」
ダービーを回避した妹紅は、次の週にGⅠである迷家一里塚杯で2着になっている。
つまり妹紅は相当速いし、それなりに自分のスピードに自信を持っていた。
その妹紅より慧音は速かった。障害競走妖なのに慧音のスピードは尋常でなく速いのだ。
それだけの力を持ちながら障害レースばかり出ている慧音。
妹紅は自分の疑問をぶつけてみることにした。
「え、私が障害レースにしか出ない理由?」
「そうだよ、慧音は平地レースに出ないの? 危険も少ないし賞金だって殆ど変わらないのに」
妹紅は不思議に思っていた。
実は慧音も競妖をすることを知ったのはつい最近だったが、戦績を見て不思議に思っていた。
慧音は平地でGⅠを勝った後に障害デビューをしている。
普通ならこんなことはしない。
そもそも障害レースは、スピードは足りないけれど弾幕には自信があるぜ! といったヤツが萃まるレース。
怪我をする確率は平地レースとは比べ物にならないし、命を落とす危険だってある。
「そうだな……理由といえば、里の皆が一分一秒でもより長く楽しんでくれるから。かな」
「え? それだけ?」
「……悪いか」
単純かつ分かりやすい回答。
ああ、やっぱり慧音は慧音なんだな……
妹紅は一人納得して頷いていたのだった。
「でもな妹紅、今度のレースだけは自分の為に戦うよ」
「どういうこと?」
「古の武神とダービー妖。その両者と同時に戦えるチャンスなんて滅多に無い。歴史を作れるんだ」
「歴史を作る?」
「そうだ、歴史を作る。こんなに充実できることは他に無いぞ。それに……」
「教え子の仇を自分の手でとれる。こんなに嬉しいことは無いだろう?」
妹紅の目に映った慧音は、喜びと野望に満ち溢れている。
そうだった。妖夢も慧音の大切な教え子だったんだっけ……
ただ満月の夜に何が起き、その結果どうなるのかまでは、妹紅には窺い知れなかった。
「ねえさくや、これでいいの?」
「さすがは妹様ですね。96点満点です」
ここは紅魔館競妖場。
開催のない平日にはレミリアの所有する競走妖のトレーニング場として使用されている。
広大な敷地、整備の行き届いたフィールド、トレーニング環境としては幻想郷でもトップクラス。
そんな贅沢な場所も、夜間はフランだけの為に使用されていた。
「では妹様、6本目行きましょうか」
「おっけー、いつでもいいよ」
「え、まだやるんですか咲夜さ……行きます行きます行きますからそのナイフ引っ込めてください!」
「咲夜、フランの調子はどう?」
「まぁまぁという所ですね。本番までにはキッチリ絶好調にもって行きますのでご安心ください」
「さすがは咲夜ね。私もまさかここまでフランドールがいい子になるなんて想像もつかなかったわ」
咲夜にフランの教育を任せて正解だった……レミリアはそう思わずにはいられなかった。
これまでも咲夜にはある程度の競走妖を任せていたのだが、春からはフラン専属のトレーナーになってもらった。
元々フランは規格外に速い。マトモに飛べばどんな相手でも勝ち負けできる力はある。
ところが速さと同じぐらい規格外な性格が災いして、これまで力を全く発揮できなかったのだ。
「妹様、一気に抜き去ろうとせずじっくりと飛んでください。速さでは絶対に負けませんからいつでも抜けます」
「わかったよ咲夜」
「わかったのならその剣収めてくださいよ~」
『九つ褒めて、一つ叱る』
咲夜はフランをまず褒める。
褒めて、機嫌を損ねないようにすればフランは素直になってくれる。
「美鈴、あんた遅すぎて勝負にならないよ」
「妹様が速すぎるんですよ……」
「妹様、最後に手を抜きましたね? そんな相手には勝って当然です。
魔理沙はもっともっと速いですから、魔理沙と一緒に飛びたければ最後まで手を抜いてはいけません」
「ご、ごめんなさい……」
そして注意する時はなるべく機嫌を損ねないように。怒り狂われては元も子もない。
こうして咲夜は徐々にフランの才能を開花させつつあるのだった。
「どう咲夜、今度のレースでフランは勝てそう?」
「ペース配分は問題ないでしょうね。ただ相手に攻撃された時に暴れないかという不安はあります」
「やはりそこよね。今度は相手も強力なのばかりだろうし……」
「ご心配なく。やられる前にやればいいんですから」
「……咲夜、あなた天才ね」
「それにお嬢様、私の力を知らないわけではありませんでしょう?」
「私が妹様に、競妖の正しい勝ち方をお教えしましょう」
「どう、一杯いかが?」
「それじゃあ頂こうかな」
マヨヒガの屋根の上で、萃香と藍の二人は蛍見物と洒落込んでいた。
「しかし綺麗な蛍だね。……ところで妖怪は満月になると変身したりするの?」
「スッ……いやいや萃香、断じてそんなことは無いぞ。決して裸になりたいという衝動に駆られるわけじゃ」
「……今、私の名前で誤魔化さなかった?」
相変わらずここは変わった妖怪ばかりで、楽しい。
前々から私を知っていた紫、一緒に酒を飲む相手になってくれる藍、そして私に競妖を教えてくれた橙。
萃香にとっては幻想郷の中でもココが一番居心地がよかった。
「どうだいレースの方は? 萃香が稼いでくれるお陰でウチも助かってるよ」
「まぁ居候の身だし、家賃くらい払わないとね」
「あれ、西瓜さんどこー?」
「私は萃香、西瓜じゃないよ。あんたも酒飲むかい?」
「私は西瓜のほうがおいしいから好きだな。お酒苦いし」
「橙はまだまだ子供だね」
「子供でけっこうですよーだ」
橙はほっぺたをぷくーっと膨らませて、萃香を睨みつける。
ただその姿は滑稽だったので、橙は二人から笑われてしまった。
「……ところで橙、何の用事だったんだい」
「忘れてた。来月の幻想大弾幕の事なんだけど、萃香さんはちょっと賞金が足りなくて出られないかも」
「あらら、出られないなんて残念だな」
萃香はちょっぴり残念がった、あの豪華メンバーと一回戦ってみたかったのに。
まぁ命の保障もないし、出れなかったら出れなかったで良しと……
「そう思って、今週のレースに登録してきたんだけど……」
「な、なんだってー!?」
橙はこと競妖に関しては用意周到。魔理沙をダービー妖にしたのも橙の功績による所が大きい。
平地レースでも十分通用するスピード、平気で弾幕に突っ込んでいく度胸、必殺のミッシングボンバー。
萃香なら幻想大弾幕を勝てる……そう判断した橙は是が非でも萃香を本番に出させたかったのだ。
「重賞レースになっちゃうんだけど、5着までに入れば本番に出られるから頑張ってくださいね」
「まかせといて。5着といわず1着になってあげる」
「やたら自信満々だな、萃香」
藍はニヤリと笑い、萃香を試すかのような口調で問いかける。
彼女の意図を酌んだ萃香は、一呼吸おいてから彼女の質問に答えることにした。
「いい加減、相手が弱すぎるよ」
「なんで人間がこんなに強いの?」
「なにこの強さ……コイツが鬼?」
白昼の白玉楼競妖場、メインレース・フラワリングカップは燃えに燃えていた。
7連勝を目指す萃香と、4ヶ月ぶりに復帰してきた咲夜の一騎打ち。
一番人気を分け合ったこの2人、実力もほぼ互角。
障害を迎えるたびに繰り出される攻撃、それを防ぎ、かわし、さらに相手にもう一撃を食らわせようと踏み込む両者。
デッドヒートが始まって既に3000メートル、この二人から一歩引こうという気配は微塵も感じられなかった。
「ねぇねぇ小悪魔、咲夜の相手って強いの?」
「そうですね。咲夜さんは平地レース向きですし、私も萃香に◎印を打ちましたから」
「ふーん。咲夜もいっぱいいっぱいで綺麗じゃないし、あんまり勉強にならないなぁ」
「あら妹様、そんないっぱいいっぱいな状況こそ見るべき所が沢山ありますよ」
「今宵の美酒は私の物!」
9号障害から展開されるヘイルストームに紛れて、咲夜は萃香に向けて雨のようにナイフを投げつける。
しかし次の瞬間、猛烈な爆風と共に咲夜の攻撃は本日9度目の無効化をされてしまう。
「この……鬼風情がッ」
咲夜は『妹様にはレースの正しい勝ち方をお見せしましょう』と言ってしまった手前、負けられなくなっていた。
いくらデビュー6連勝とはいえメンバーが格下ばかりのレース。実際は大したこと無い……
それが咲夜の抱いていた萃香への評価だった。
ところが実際にレースを戦ってみて萃香の恐ろしさを認識した……こいつは只者じゃない。
力任せのナイフ、トリッキーなナイフそして殺意を込めた必殺のナイフ。そのどれもがむなしく弾き返される。
「鬼のクセに生意気ね……うわ!」
「ちぇっ、今のはやったと思ったのにな~」
咲夜目掛けて投げつけた爆弾は、すんでのところで切り伏せられてしまった。
しかし落胆はしていない。こんなところで決着が着いたところで面白くもなんとも無いからだ。
萃香はこの戦いを単純に楽しんでいる。
これまでは楽しむ相手すらいなかったのだが、このレースでは咲夜という強敵に恵まれた。
血沸き肉躍る激闘、萃香はそんなスリルを求めていたのかもしれない。
「でも私も疲れてきたし、次で決めちゃおう。決定!」
残る障害は二つ、10号障害『名前で呼んでください』と、最終障害『@』。
その中でも『@』は重賞でのみ使用される超難関障害のため、相手を攻撃する余裕は無い。
仕掛けるなら『名前で呼んで』の方……と萃香は橙に教えてもらった情報を元に作戦を考えていた。
「行くよ、人間!」
『名前で呼んでください』からランダムな弾幕が展開された直後、萃香が動いた。
「ありったけの爆弾をどうぞ!」
「遠慮しておくわ!」
1、2、3……数えるのが億劫なほどの爆弾を、2本のナイフで素早く切り伏せていく咲夜。
1つ爆発すればすべてに誘爆し、大ダメージは避けられない。
弾幕を避け、爆弾も避ける咲夜。その真剣な表情にはいつもの余裕など微塵も感じられない。
わき目も振らず次々と目標を叩き落す咲夜。その姿はまさに完璧で瀟洒なメイドの仕事振り、そのものだった。
「やっぱり咲夜はカッコイイね」
「そうですね……」
「あれ、なんか小悪魔冷や汗かいてない?」
「き、気のせいですよ妹様!」
「(まずいわ……咲夜さんが勝っちゃったら、今月の私のお給料が紙くずになっちゃう!!)」
小悪魔は無意識のうちに、萃香の単勝妖券が潰れるほど右手を握り締めていた。
最終障害『@』へと突き進む咲夜と萃香。
先程の攻防は爆弾を全て切り落とした咲夜が制した。萃香は弾幕で被弾してしまい一歩遅れている。
咲夜の方が5メートルほど前に出て、やや遅れた萃香はその後ろにピタッと付ける。
「なぜ萃香は前に出ないんだ?」
咲夜の疑問。
萃香と咲夜がスピード比べをすれば、咲夜の方が速い。
つまり、最終障害を越えて咲夜にスタミナが十分に残っていれば萃香は100%負ける。
私に余力があることは萃香も分かっているはずだ。
なのに、なぜ後ろに控える?
それほどまでに『@』は恐るべきものなのか……?
数秒後、『@』は咲夜の疑問に答えてくれた。
展開された弾幕は『恋の迷路』、幻想郷の中でも屈指の難度を誇る弾幕。
「こ、これが『@』なの!?」
避けるスペースが無い。咲夜は愕然とした。
これが最終鬼畜障害とも呼ばれるとんでもない代物。
てっきり『@』は幽々子の得意技だとばかり思っていた咲夜には、これ以上無い不意打ちとなった。
「しまった……私を先に突っ込ませるために萃香はワザと被弾して遅れたのか」
咲夜はほんの少しだけ後悔したが、すぐに目の前の困難に打ち勝つべく対応策を練り上げる。
そして臆することなく『@』に立ち向かっていった。
「ふん、妹様のレース教育には丁度いいわ! これを乗り越えてこそ瀟洒な冥土。
時よ止まれ、ザ・ワールド!!」
咲夜は無心になり、時を止めて『@』に突撃していく。
弾を斬り裂き、自分が通り抜けられるだけのスペースを作る。
当然萃香に付け入る隙など与えない。自分の後には弾のシャワーが残るだけだ。
「そして……時は動き出す」
「ここで時間を止めると思っていたよ、十六夜咲夜」
「な……萃香!」
「わたしのとっておき、ミッシングボンバーを食らえ!」
咲夜が時間停止を解除した次の瞬間、萃香から投げつけられた爆弾が炸裂した。
先程『ありったけ』と言ったのは咲夜を油断させるため。打つ手が無いと思い込ませるため。
萃香はこの為に1つだけ爆弾を残しておいたのだ。
弾幕突破に気を取られ、あるはずの無い爆弾が迫っていることを気づかれないこの一瞬の為に。
「妹さ……うわああああぁぁぁ!!!」
「さようなら人間! また次のレースで会いましょう!!」
「さ、さくやー!!」
「咲夜さんっ!(や、やった! お給料が5倍に膨れ上がった!!)」
「……なんてね」
「?」
咲夜は爆風で吹き飛ばされながらも、笑っていた。
全身ボロボロになり、酷いやけどを負っているのにもかかわらず。
「アナタ……この先に何があるか分かっているの?」
「何がって、この期に及んで何を……?」
萃香は咲夜の言葉の意味が、すぐには分からなかった。
しかし、分かったとたんに愕然とした。
「しまった……もう障害は無い! ゴールがあるだけ!」
「伊吹萃香、アナタはこの私との知恵比べに負けたのよ」
咲夜の吹き飛ばされた方向は、レースの進行方向。
既に咲夜は態勢を立て直し、力を振り絞って真っ直ぐ飛んでいた。
その差は100m……最後の最後でとっておきの爆弾を使ってしまったのが仇になった。
もはや絶望的な差、どんな怪物でも残り500mでこの差はひっくり返せない。
「この咲夜、過程などに興味は無いわ。最後に勝てば良いのよ」
萃香、初の敗北。
史上稀に見るデッドヒートの勝者は紅魔館の瀟洒な冥土、咲夜さん。
外れ妖券が宙に舞い、私のお給料が泡と消えた夏の日の出来事でした。
「どうです妹様、レースとは最後に勝てば良いのですよ」
「さくやー、最初と言ってたことが違うー……あれ、寝ちゃった?」
「今日はちょっと疲れました。寝させてください……」
「私もとっても疲れました。泣かせてください……」
「どしたの小悪魔?」
「初めて負けちゃったよ、橙」
「でも2着ですから本番には出られますよ萃香さん。本番で勝てば良いんです」
「そうだね。本番に向けて明日から出直しだね」
「その意気ですよ」
今週も彼女は「博麗の巫女」として競走妖に印を打っていた。
「さすがは咲夜ね。彼女の勝利への執念を見くびっていたら、私は負けていたわ」
霊夢の懐に抱きかかえられているのは、ありったけの咲夜単勝妖券。
恐るべし、無重力の強運。
彼女もまた、幻想郷最高の予想屋の座を掛けて幻想大弾幕に挑むことになっていた。
完全武装された理論と魔法によるシミュレートを駆使する『紫の大魔術師』
常に七通りの妖券を駆使し、五月雨式に大穴を的中させる『七色のブレイン使い』
三人寄れば文殊の知恵、三者三様得意な妖券で勝負を掛ける『虹色の三姉妹』
それらはすべて、予想屋界隈において最も畏れられている怪物ばかり。
「競妖は遊びじゃあ勤まらない、まさに食うか食われるかの真剣勝負なのよ!」
とりあえず、小悪魔可愛いよ可愛いよ小悪魔。
にしても霊夢、いつの間にやら大金持ちに。しかしこのまま終わる筈はない、
彼女に似合うのは、そう、出涸らしの茶と空っぽの賽銭箱なのだ(何
流石は咲夜さんだ。直撃を受けてもなんともないぜ。
実は咲夜さんがレースに出るのを非常に楽しみにしてました。
よって非常に楽しめました。
そしてフランがんばれ!!
萃香にゃ勝って欲しかったですが、時を止める吸血鬼(の従者)ップリを遺憾なく発揮した冥土を、今回は素直に褒め称えたいと思います。
本番じゃ頑張れSuica!(予想屋勝負も楽しみ
楽しみにしてますぜアニキ!
続き期待してます!