Coolier - 新生・東方創想話

知識人ホムーラン (前)

2005/06/29 07:25:59
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(注)当作品は、拙作『東方雀鬼録』の設定が若干含まれています。
  予めお読み頂くと、いくらか楽しめる点があるかもしれません。














それは、とある満月の晩の事であった。

「……出来たわ」
動かない大図書館ことパチュリー・ノーレッジは、その異名の通り、
今日もヴワル魔法図書館に引き篭もっていた。
……もとい、知識人としての活動に励んでいた。
「さっきから何をやっていたんですか?」
そこに声をかけたのは、図書館の司書兼パチュリーの助手兼パチュリーの小間使い兼(以下略)である小悪魔。
「ふふふ、良くぞ聞いてくれたわね」
「はあ……というかそこは私の机ですし、嫌でも聞かざるを得ないというか……」
「細かい事を気にしないの。今夜、レミィと咲夜が出かけているのは知っているわね?」
「はい。満月の怪異が龍料理でグリモワールが結界……でしたっけ?」
「多少ノイズが混ざっているようだけど、まあそんな所ね」
「でも、それがどうかしたんですか?」
「生憎、私は体調不良で行く事が出来なかったのだけど……今夜の怪事はただ漫然と任せるには惜しい事態なのよ。
 ここは是非とも情報を収集する必要がある。と私は判断したわ」
「言ってる事が良く分からないんですが……」
「物分りの悪い子ね。仕方ない、結論から言ってあげるわ。
 私が作成していたのは、コレよ」
パチュリーは、ばん、と机を叩いた。
……が、強く叩きすぎたのか、自分の手を押さえては悶絶していた。
「……うう……、こ、これぞ遠隔監視魔術『グレイテストエンターティナータシロ』よ!」
堂々と、かつ涙目で言い放った。
「(……タシロって誰?)」
至極もっともな疑問を浮かべる小悪魔であったが、追求した所で有意義な時とはならないであろう事は、
嫌というほど理解していたので、心の内に止めておいた。
「ええと、要するに、お二人の様子を覗き見する魔法なんですね?」
「……まぁ、有体に言うならそうね」

小悪魔は内心嘆息した。
大袈裟に準備していたのは、何のことはない、只の覗き見魔法だったのだ。
そんなものを使う理由……。
言ってみるなら、連れて言って貰えなかったので寂しかったのだろう。
だからと言って、レミリア達を責める気にはなれなかった。
確かにパチュリーは、魔力だけなら幻想郷中でも五本の指に入る存在であろうが、
調査という目的がある以上、パチュリーを連れて行くのは不安要素が大きすぎる。
道中で喀血されては堪ったものではないだろう。
無論、パチュリーの気持ちも理解できる。
百年来の友人であるレミリアが、自分ではなく咲夜を連れて行ったという事実。
咲夜の事を嫌っている訳ではないのだろうが、それと感情の問題は別だ。
勿論、パチュリー自身は認めはしないだろうが。

「じゃ、発動するわよ」
「え、あ、ああ、はい」

思案に暮れている間に、既に準備は整っていたようだ。
いくつかの詠唱を経た後、空中に小さな泉のようなものが広がった。
言うなればそれは、某妖怪の作り出すスキマに酷似していたのだが、
生憎二人はスキマの存在を知らなかった。

「上手く行ったようね」
「……みたいですね」

泉には、何者かと口論中のレミリアと咲夜の様子が映し出されていた。
この類の魔術は特に珍しいものではない、続に言う千里眼というものだ。
が、これの特徴は、監視する対象にあった。
千里眼が、特定の位置を対象とする魔法ならば、これはもっと曖昧なもの。
今回の場合なら、レミリアと咲夜に追従するように見る事が可能なのである。

「これって、向こうからは私達は見えないんですか?」
「当然よ。気付かれては意味が無いでしょう?」
「……はぁ」

『うちにはもう知識人は要りませんわ……』

「……え?」

覗きの犯罪性について語るべきかを悩んでいた小悪魔の耳に、あってはならない発言が飛び込んできた。
三半規管が狂っているのでなければ、今の発言は間違いなく咲夜のものである。
慌てて隣を見ると、そこには直立不動で固まっているパチュリーの姿があった。

「あ、あの、パチュリー様。言葉一つで状況を判断するのはよくありませんよ。
 ほ、ほら、前後に何かあったのかもしれないじゃないですか!」
「…………」

慌ててフォローを試みるも、それが直接的な否定に繋がっていない事に気が付き、頭を抱える。
「(ああ、咲夜さん……どうしてこのタイミングでそんな事言うんですかぁ……)」

『知識人は役に立つわね。家にはもう要らないけど』
『家の知識人は本ばっかり読んでて、あんまり役に立っていない気が……』
『ムダ知識が豊富なのですよ。もう要らないけど』

追い討ちとばかりに届く会話。
あろう事か、咲夜のみならずレミリアの声まで混じっていた。
パチュリーの表情は変わらない。
いや、凍りついたままと言うべきか。
「…………」
「そ、その、あの、ええと……」
脳内で適切なフォローを作成に走る小悪魔であるが、芳しい解答は導き出されず、
ただ、言葉にならない呟きを漏らすだけであった。




「(要らない……知識人……無駄知識……本ばかり……)」
灰色の脳細胞がV12エンジンばりに猛回転する。
無論、タイヤは空回り。
無駄にガソリンばかりが消費されて、環境に悪い事この上無い。

「……私は、要らないのね」
「ち、違いますよ! これは何かの間違いです!」

そう、そういう事だったのだ。
何も今日、お呼びがかからなかったのは、健康上の理由などではない。
要らない奴を連れていく訳が無いのだから。
以前、誰かに『門番など無能に与える名前だけの役職だ。経験上』と言った記憶がある。
その持論は今だに変わらないが、一つ項目を付け加える必要性は感じた。
『居候は役職ですらない。経験上』
うん、これでいい。

…………
 …………
  …………
   …………

少し泣いた。

「……小悪魔、私は決断したわ」
「え、な、何をですか?」











「パチェ、入るわよ」
どかん、と力強く扉を開け放ったのは、紅魔館の主であるレミリア。
体を着飾る衣装は、あちこちが焦げたり破けたりしており、お嬢様然とした姿とは言いがたかった。
「……? いないの?」
図書館はいつにも増して、しん、と静まり返っていた。
きょろきょろと辺りを見渡すも、友人は愚か、司書の小悪魔の姿も確認できない。
いつも座っていた机にも、その姿は無かった。
「寝てるのかしら……ん?」
そこで、机の上に手紙らしき物が置かれている事に気が付く。

『レミリア・スカーレット様へ』

筆跡から、それがパチュリー本人が書いたものと判断する。
「……?」
疑問符を浮かべつつ、レミリアは手紙を開封した。



 拝啓 
 ヨロシク、哀愁。
 盗んだバイクで走り出します。
 探さないで下さい。
 でも、探してくれないと寂しいので、少し探して欲しい気もします。
 どうなるかは神のみぞ知るといった所です。
 でも、私は無神論者です。
 そこはフィーリングでお願いします。
 グッバイ、青春。
 グッバイ、紅魔館。
 愛してるわレミィ。
                    かしこ
  パチュリー・ノーレッジ



「……はぁ?」













同時刻、パチュリーと小悪魔は、街道をてくてくと歩いていた。
残念ながら、バイクには乗っていない。
既に、紅魔館からは遠く離れ、もう振り向いても視界には入ってこない。
「うう……レミリア様、申し訳ありません」
「いつまでぶつぶつと過去を振り返っているの。これからは未来に向けて歩かないといけないのよ」
「私には未来が見えません……」
吹っ切れたのか、意外にもパチュリーは元気な様子であった。
一方、小悪魔の表情は、反比例するかのように重く、暗い。
それは決して、荷物が重いからでは無いだろう。多分。
「さて……これから何処へ向かうべきかしら」
「え、当ても無しに飛び出したんですか!?」
「……」
「いや、黙らないで下さいよ」
「……そうね。魔理沙の家にしましょう。あそこなら色々と融通も効くでしょう」
「はぁ、まぁ確かにそうですけど。場所、知ってるんですか?」
「任せなさい。私を誰だと思っているの」
「……」
とても、不安だった。




幸いと言うべきか、天候は快晴と呼ぶにふさわしいものであった。
この分なら、今夜も満月がはっきりと姿を見せるだろう。
「たまには徒歩というのも悪く無いわね」
「そうですねぇ、でも無理しないで下さいよ」
「大丈夫よ、今日は体調も良いから」
好天のせいか、小悪魔も次第に普段の調子を取り戻していた。
単に諦めが付いただけかもしれないが。
「でも、良かったの? 貴方は残っていても構わないのよ。
 図書館が健在である以上、司書の存在は必要不可欠なんだし」
「馬鹿な事言わないで下さい。私の主はパチュリー様だけです」
「……そう」
それは、召還した主だから止むを得ず、という意味なのか。
それとも、別の何かの意が含まれているのか。
パチュリーには判断が付かなかった。
「……放っておける訳、無いじゃない」
小悪魔の呟きは、パチュリーの耳には届く事なく消えた。
 




「……ごほっ、ごほっ……」
「……だから無理しないほうが良いって言ったじゃないですか。
 パチュリー様は生まれ付いての引きこも……インドア派なんですから」
三十分後。
二人は魔法の森に入っていた。
正確には、小悪魔がパチュリーを背負って、だ。
そのパチュリーはというと、顔面蒼白で今にもバッドエンドを迎えそうな様子である。
「貴女には迷惑かけるわね……ごほっ」
「気にしないで下さい。慣れてますから」
嫌味のつもりで言った訳ではない。
単なる事実の確認である。
それにしても、ちょいと歩いただけでこんな状態になるような人が、
紅魔館から出て、この先生きて行けるのか、今更ながらに不安になってきた。
「だから、放っておけないのよね……」
「……何か言った?」
「い、いえ、何も」




「あ、見えてきましたよ」
小悪魔の言う通り、視界の向こうに、一軒の館があるのが目に入った。
高い木に囲まれ、日当たりは最悪。
もっとも近い集落からも数時間はかかるであろう場所。
おおよそ最悪と呼ぶにふさわしき立地条件に建っているのは、霧雨魔理沙の住居であった。
もっとも、これらの条件も、魔理沙にとっては、たいした問題では無いのだろうが。

玄関前まで来ると、パチュリーは大地に降り立った。
と表現すると大層な物に聞こえそうだが、要は小悪魔の背中から下りたというだけである。
古めかしい扉の前に立つと、静かにノックする。


「……」
「……」
「……」
「……聞こえてないのかしら」


ノックの音を少し大きくしてみる。


「……」
「……」
「……反応ありませんね」
「寝ているという可能性もあるわ」


小悪魔と一緒に、扉を乱れ打つ。
が、依然として反応は無い。


「……」
「……」
「……あのー、パチュリー様」
「諦めては駄目。まだ終わった訳ではないのよ!」


今度は二人並ぶと、大声で叫んだ。
「「まーりーさーちゃーん、あーそーびーまーしょー」」


「……」
「……」
「……いい年ぶっこいて恥ずかしく無いんですか?」
「貴女もね」


パチュリーは握り拳を固め、正中線五連突きを慣行。
続けて小悪魔のホワイトファングが炸裂する。
扉には拳の跡が七つ、某正座形にくっきりと刻みつけられた。
……だが、それだけであった。


「……」
「……」
「……」
「……」
「……あのー、やっぱり留守なんじゃ……」
「……住居には日符が効果的!」
「だ、駄目ですっ! そんな事したらお家全部燃えちゃいますよぉ!
 というか森一帯が大火事です! 大惨事です!」

カードを取り出そうとするパチュリーを、小悪魔は必死に抑える。
だが、胴を抱えても、羽交い絞めにしてもパチュリーは暴れ続けた。
先程まで死体寸前であったのに、どういう肉体構造をしているのだろう。
「仕方無いですね……」
止む無く、といった感じで小悪魔は手の位置を変える。
ターゲットは、その細首。
「……ふっ!」
「……!?」
気合一閃、小悪魔の手に力が込められる。
瞬時にパチュリーは、糸の切れた人形の如く崩れ落ちた。
これぞ、魔性のスリーパーホールド。
「ふ……雉も鳴かずば撃たれまいに……」
何者だお前は。








パチュリーは見慣れぬ場所で目を覚ました。
「……ここは?」
風景そのものは、幻想郷の標準的なものと大差無い。
が、そこに漂う空気は、明らかに異質なものであった。
俗に言う、生気というものがまったく感じられないのだ。
そもそもにして、自分自身の感覚が、普段と明らかに変質している。
まるで宙に浮いているかのような、曖昧な感覚である。

「あれ、新入りさん? って、どっかで見たことあるような……」
現状についての考察は、一人の少女の声によって遮られた。
「……貴女は確か」
その少女には、いくらか見覚えがあった。
以前、いつものように図書館で読書に励んでいた所を、突然襲来した辻斬り侍だ。
「あらあら、これはまた珍しいお客様だこと」
続いてもう一人、辻斬り侍の後ろから少女が姿を現す。
何が楽しいのか、満面の笑みである。
「でもね、残念だけど、まだ貴女はお呼びじゃないの。早い所お帰りなさいな」
「……?」
言葉の意味する所を理解する前に、再びパチュリーの意識は断絶した。









「……ん……」
「あ、お目覚めですね。パチュリー様」
目を開けると、いつもの小悪魔の顔が飛び込んできた。
どうやら自分は、地面に寝転がっているようだが、その割には頭の感触が妙にやわらかい。
状況から推測するに、これは膝枕というものであろう。
悪くはない。
だが、これに至る過程が些か不鮮明だ。
「ええと、どうして私はこんな所で寝ているのかしら」
「魔理沙さんが留守だったショックで気絶してらしたんですよ。お忘れですか?」
「……そう、だったかしら」
合っているような合っていないような、何か大事な事が抜けている気がしたが、
どうにも記憶が曖昧で、はっきりと思い出せない。
「そんな事より、これからどうするんですか? 魔理沙さん以外に当ては無いんですか?」
「……」
言葉を受け、しばし思案するパチュリー。
と、何故か突然、表情が泣きそうなものへと変化した。
「……ごめんなさい……聞いてはいけない事でしたね……」
釣られるように小悪魔も表情を歪める。

「……」
「……」

魔法の森の奥底で、涙を堪えながら膝枕をする悪魔とされる魔女。
これは悲劇か。それとも喜劇か。
いずれにせよ鑑賞する者は存在……

「こんな所で漫才の練習? 変わった趣味ね」

……した。

腕組をして、二人を見下ろしていたのは、これまた見覚えのある少女であった。
「ああ、そう言えば、貴方もこの森に住んでいたのね……ええと……七色魔法馬鹿?」
「……あのね、いいかげん名前くらい覚えなさい。アリスよ」
「そうとも言うわね」
「そうとしか言わないの!」
「何をそんなにカリカリしているの。カドミウムが足りないんじゃない?」
「パチュリー様、それを言うならパナジウムですよ」
「カルシウムよっ!」
「知ってるわ。ああ、小悪魔。アレを進呈するのはどうかしら」
「あ、そうですね。はい、新鮮な未検査牛の骨です。どうぞ」
「いらんわっ!」
アリスは頭から湯気を立ち上らせながら、ぷいと顔を背けた。
「……ったく、声なんてかけるんじゃなかったわ」
「ちなみに魔理沙なら留守よ。私達が身体で証明したわ」
「また訳の分からない事を……いないのは知ってるわよ。
 だからその間に物色……ゲフンゲフン!」
わざとらしい咳払いで言葉を切るアリス。
切るのが遅すぎた為に、バレバレであったのだが、
幸いにもパチュリーは同類の思考の持ち主であったため、問い詰めるという事はしなかった。
「あの、パチュリー様。アリスさんに頼んでみるというのはどうでしょうか?」
「……成る程。今日の貴方は冴えてるわね」
「は?」


パチュリーは、現状に至る理由を、簡潔かつ脚色たっぷりに説明した。
「……という訳よ」
「はぁ、要するに、私の家に泊めてくれって事?」
「違うわ。永住するのよ……ううん、むしろ支配?」
「……却下。野宿でもなんでもしなさい。
 因みに、ここには魔法の通用しない獣がわんさか出るから気をつけてね」
くるりと踵を返し、飛び立たんとするアリス。
「い、今のはパチュリー様流のジョークですよ! 少し知識が溢れ出すぎて誤解されがちなんです!
 というか、置いていかないでくださぁーい!」
小悪魔はアリスにすがりついては懇願した。
表情に余裕が無い、本気である。
「ち、ちょっと、スカート引っ張らないでよっ!」
「嫌です! アリスさんがうんと言うまで、私はこの手を離しません! むしろ力を強めて脱がします!」
「い、いやぁ! 犯されるー!」
引っ張り合いをする二人を他所に、パチュリーは読書に励んでいた。
お気に入りの本であるのか、踊るようにページをめくる様は、美しくさえあった。
「って、なんであんたが第三者面してんのよ!」
「……五月蝿いわね。人の読書の邪魔しないで頂戴」
「きぃーーー! やっぱり帰る!」
「お願いですー! どうか御慈悲をー!」

結局、小悪魔の執念に根負けしたアリスは、
とりあえず今日だけという条件で、滞在許可を出したのである。





マーガトロイド邸は、霧雨邸とほぼ同様の外観だった。
一つ気になる点と言えば、窓の向こうに無数の人形の影が映っている事であろうか。
人形使いとは名ばかりではないという証か。

アリスが玄関扉を開けると同時に、中から二体の人形が飛び出してきた。
片方は赤のワンピース、片方は紺のメイド服と服装こそまったく違うが、
作りそのものは非常に似通っているように見えた。
「「オカエリーアリスー」」
「ただいま。上海、蓬莱」
「オキャクサマ?」
「ええ、非情に不本意ではあるけど、一応それに近い存在よ」
「……何だか棘があるわね」
「……当たり前だと思いますけどね」
アリスは一つため息を付くと、くるりと振り返った。
「ようこそ我が家へ。我々はお二人を心より歓迎いたしますわ」
「……お招きに預かり光栄ですわ」
流石のパチュリーも、ここで不遜な台詞を放つ事はしなかった。
無論、アリスは招いたりなどしていないし、パチュリーも光栄とも思っていないのだろうが、
これは社交辞令というものである。


「紅茶でいい?」
「ええ、ダージリンを」
「……普通、こういう時はお構いなくって言うものじゃないの?」
「なら、お構いなく」
「……遅いってば」
アリスは眉間を押さえながら、部屋を出て行った。
結果、残された形となる二人。
「うわぁ、本当に人形だらけですねぇ」
その時を待っていたのか、小悪魔が室内を物色し始める。
言葉通り、室内は無数の人形で埋め尽くされていた。
すべて女性型であるという点を除いては、正に多種多様。
中には等身大サイズの巨大な人形まであった。

「……あれ。これ、誰かに似てませんか?」
「?」
小悪魔が指さす先には、全長15センチ程度の小さな人形があった。
お下げにした金髪に、黒を基調としたエプロンドレス。頭にはとんがり帽子。
ご丁寧に、手には箒が抱えられている。
「魔理沙ね」
「ですよねぇ」
他に何があるんだと言いたくなるくらい、完璧に霧雨魔理沙だった。
ただ、妙なことに、その人形には封印が施されていた。
しかも只の封印ではない。
魔道書であれば、禁呪クラスの強大な封印が、幾重にも渡ってかけられているのだ。
一体の人形にこれとは、尋常ではない。
「……どういう事かしら」

「お待たせ……あ!」
戻ってきたアリスが、慌てたような表情を見せる。
が、それも一瞬の事だった。
「……ま、いっか」
「え、そこは普通、焦って引っ手繰ろうとして、お盆を取り落としちゃったりして、
 気まずい空気をかもし出すところじゃないんですか?」
小悪魔が、一風変わった見解を披露する。
知識人の使い魔は、かなり偏った知識の持ち主なのかもしれない。
「何よそれ……」



「その人形は、ね」
アリスはティーカップに口を付けると、どこか遠い目をして語り出した。
「見ての通り、魔理沙をモデルに作ったの。
 名付けて『黒衣の魔人形2nd』」
「……せかんど?」
「ええ、文字通り二代目だから2nd」
「初代はどうしちゃったんですか?」
「……聞かないで頂戴」
嫌な思い出なのだろうか。
何故かアリスは、額の辺りを押さえつつ答えた。
「ま、とにかく色々あって二代目を作る事にしたのよ。
 でも、今回も作成は上手く行かなかった。
 そういう訳で封印。以上よ」
「はぁ……」
曖昧に頷いてはみたものの、意味がさっぱり分からなかった。
あまり追求はして欲しくないという事だろうか。
「……」
パチュリーは黙して語らない。
それから、魔人形の話題が出る事はなかった。






「これが魔界料理という物なのね。実物を見るのは初めてよ」
「あ、何となく私の故郷の料理に似てます」
「……貴方って、何処の出身なの?」



「コアクマー アソボー」
「ダンマクゴッコー」
「わ、あ、ひゃあっ!」
「……人形に負けるのはどうかと思うわ」
「あら、上海達を普通の人形と思っちゃダメよ」



「だから、現状で解を導き出すには……」
「不確定要素が多すぎるわ。第二十三章から引用してみるべきよ」
「……うう、お二人の言ってる事が意味不明です……」
「ワタシ ワカルヨー」
「マジで!?」



マーガトロイド邸での時間は、若干、小悪魔のプライドが傷つけられた以外は、
至って平和なものであった。
元来、種族的にも性格的にも似たところのあるパチュリーとアリス。
特にしがらみさえ無ければ、気が合うのも当然の所だろう。


しかし、平和な時間というものは、得てして長くは続かないものである。





<続劇>
どうも、YDSです。
今回は、ちと長くなりそうなので、前後編仕様となります。

人形について。
萃夢想で立ち絵のあった人形は上海人形というのが一般的な見解かと思われますが、
私の中では蓬莱人形ということにしてあります。
首吊ってるし……

では、後編も宜しくお願いします。
YDS
[email protected]
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コメント



0.4520簡易評価
4.70沙門削除
>盗んだバイクで走り出します。
後ろに乗ってください、と思ってしまった自分がいる。小悪魔のフォローもナイスで続きが楽しみです。
20.無評価七死削除
レミリアに恋破れながらあっさり魔理沙に走って違和感皆無なあたり、パチェはやっぱり軽いのかも知れn(幻想郷へ
26.70名前が無い程度の能力削除
「マジで!?」でワロタ
27.40匿名削除
アリスとパチュリーは打ち解ければ凄く仲良くなれると思うのですよ。
この作品はそんな可能性をとても明確に文字にして表してくれました。
さて、気になるのは黒衣の魔人形1stと2nd、そしてレミリア様の動向です。
どうなるのでしょうか。期待期待。
28.60K-999削除
まず笑った所は「ホムーラン」と「ヨロシク、哀愁」ですね。マサルさんとサイコプラスかよ。ってな感じで。しかし活動的なもやしだなぁ。

なんだかんだで人がいいアリスも良いですが、やはり人形は可愛いですな。半角が(ぉぃ。
30.60おやつ削除
アリスも人形もパッチェさんも可愛い。
しかしここは小悪魔に一票!!
実に続きが気になる展開です。
43.70っお削除
小悪魔がイイ味出してます。
88.80名前が無い程度の能力削除
おもしれ~!
89.80名前が無い程度の能力削除
小悪魔、貴女何者っ!
95.100名前が無い程度の能力削除
小悪魔……
97.30名前が無い程度の能力削除
正中線五連撃とホワイトファングでどうやって北斗七星を描くというのか!

いやまあ、どうでもいい話なんですが
100.80名前が無い程度の能力削除
よろしく哀愁