EX化(いーえっくすか)
幻想郷に住む一部の妖怪や人間に見られる類稀な変化。
憤怒や憎悪など、負の感情によって引き起こされるのが一般的な説とされている。
EX化した存在は能力面が格段に強化される代償として、感情を暴走させてしまい、理性を保てなくなるという。
その結果、感情の赴くままに破壊、虐殺などの行為を行い、理性を元に戻す事は極めて困難な事とされている。
因みに外界では、こういった変化を操る宇宙人戦士が更なる強さを求めて闘う物語が今もなお、流行しているという。
美鈴書房発行
幻想郷版広辞苑第五版より
夏も近い今日この頃、幻想郷はいつも通りの変わらぬ日々であった―――
それは、今日はまだ何も起きていないという事を表していた。
今日、これから何が起きるのかは、誰にも分からない―――
『伝説のEXルーミア』
湖上の氷精、チルノ。
マヨヒガの黒猫、橙。
宵闇の妖怪、ルーミア。
仲の良いこの三人は、今日何処で美味しいおやつを食べようか、という話題で盛り上がっていた。
「そうだ!」
ポン、と手を叩くチルノ。その頭には、一瞬だけ豆電球のようなモノが見えた。
「この近くに吸血鬼の住む館があるんだけどね、そこのお菓子がすっごく美味しいのよ!」
「そーなのかー!」
両手を真横にバッ、と広げて感嘆するルーミア。どうやら、この仕草は天然ものらしい。
「……チルノちゃん、どうやってそのお菓子食べたの?」
少々、訝しげな表情を浮かべて橙がチルノの方を見る。
確かに、一介の妖精であるチルノが吸血鬼の館にすんなり入れるとは思えない。
「んとね、台所にあったものをこう、ひょいっとね」
ちなみに、この時食われたのは門番のモノだったとか。
「大丈夫、なの……?」
橙は心配そうな顔でチルノを見る。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!結局あの時もバレなかったし、今回も大丈夫よ」
「そーなのかー!」
「…………」
橙は不安そうな顔をしていたが、ルーミアはいつも通り能天気な表情をしていた。
一人の少女が暗い廊下を歩いている。少女の両肩辺りからは七色の輝きを宿した羽とおぼしきものが見え、
それが少女を人間ならざる者だと示していた。
少女の名前は、フランドール・スカーレット。この紅魔館の主、レミリア・スカーレットの妹である。
「ねぇ、さくや~。今日のおやつ、何?」
振り向いたメイド―――十六夜 咲夜は少々、苦笑いを浮かべて答える。
「シナモンクッキーにミルフィーユ、それと紅茶ですよ。フランドール様」
フランドールはつい最近まで、肉を固めて作られたケーキと、人間の血を少し薄めて作られた紅茶しか口にする事はなかった。
だが、ある二人の人間によって館の外の食事を知った時、その味に驚かされた。
自分が口にしているモノよりも遥かに美味しいモノだったのである。
それ以降、フランドールはそういった食事を好むようになり、ヴワル図書館で美味しそうな食事の挿絵が入った本を見ては、
メイド長兼料理長である咲夜に『作ってちょうだい』と頼むようになったのである。
「本当? たのしみだなぁ~」
その顔に浮かんだ笑顔を見た咲夜は、
お嬢様と妹様、姉妹だけあって本当によく似ているわ……と心の中で微笑んだ。
「台所の方に御用意してありますので」
「わかった~」
笑顔でとてとてと廊下を歩いていくフランドール。
咲夜はその背中を、娘を見守る母親のような表情で見送った。
「さて、今日はお嬢様が博麗神社に行きたいとか言っていたわね……外出の準備をしないと」
フランドールが歩いていった方向とは正反対に、咲夜は歩を進めて行った。
チルノ、橙、ルーミアの三人はソ○ッド・ス○ークの様に、紅魔館の門壁を叩いて門番の注意を引き寄せて侵入。
その後も壁張り付きや覗き込みなどのテクニックを駆使して、目的場所である紅魔館の台所に到着。
そして現在、台所のテーブルの上に置いてあったシナモンクッキーとミルフィーユを、せっせと平らげていた。
「もぐもぐ……これ、おいしいね~」
「むしゃむしゃ……だから言ったでしょ~。美味しい、って」
「ぱくぱく……でも、大丈夫なのかな……?」
「かりかり……心配性だね~。自分だって食べているのに」
「ぱりぱり……そ、それは……」
「ごっくん……なぁに、だいじょーぶよ。いざとなったら逃げればいーんだから」
そう言って、チルノは皿に残っていた最後のクッキーを口にした。
「んーおいしっ!さぁて、目的も達成したし、さっさとずらかりましょ」
「…………」
「橙?どうし―――」
橙は台所の入り口の方を見て、固まっていた。
チルノもそちらへと目を移すと、同時に固まる。
ルーミアだけが、いつも通りのマイペースでその方向を見ていた。
そこには、ただ呆然と立っている一人の少女がいた。
その少女の両肩からは、七色の輝きがこぼれていた。
「あれ……わたしのおやつが……」
フランドールは目の前で起きている事象を理解しようと、頭をフル回転し始めた。
目の前には私のおやつが盛ってあったとおぼしき皿が二つに、空になっているティーカップが一つ。
これから推理できる答えは実にシンプル。
目の前の三人が、私のおやつを盗み食いした、という事。
「ねえ……そのおやつはあなたたちが食べたの?」
「…………」
チルノと橙は、顔を合わせて沈黙していたが、ルーミアは呑気にまだもぐもぐと口を動かしていた。
「そうなの……わたしはとっても残念な気持ちなの……折角のおやつを盗み食いされて……」
感情のこもっていないように聞こえる台詞だったが、そこに明白な殺意があるのは当然の事だった。
「ゆ……許さない……絶対に許さないわ! 虫ケラども! じわじわと弾幕で甚振り尽くしてやる!」
一瞬でフランドールの顔が鬼神のそれへと変化を遂げる。
三人は知らないだろうが、それは博麗 霊夢と霧雨 魔理沙が初めてフランドールと相対した際の表情であった。
「ば、バレた……!!」
「あわあわあわ……」
「……だーれ?」
ただ一人、状況をよく飲み込めていないルーミアを除いた二人は、目の前の強大な存在に対して、殆どパニック状態に陥っていた。
フランドールから放たれる恐ろしいほどの殺気に、足がすくんで逃げる事もままならない。
「はあああああ……!!」
フランドールの右手に、漆黒の長剣が現れる。
レーヴァテイン。世界を滅びへと導いた魔剣の名を冠するソレは、まるで生き物のように鳴動しているかに見えた。
「三匹の虫如きにこれを使うまでもないが……そうでもしないと気が済まない」
一人ごちるフランドールは、ゆっくりとレーヴァテインを上段に構える。
「……あの世で私に詫び続けろ、虫ケラ共がぁ!!」
その叫びと共に、レーヴァテインは神速の如く振り下ろされた。
「やば……!」
「わわわ!!」
「わー」
恐ろしい速さで迫り来る炎の斬撃を三人は紙一重で避ける。
グレイズポイントが凄い勢いで溜まったよ兄さん、なんて思っている余裕なんて微塵も無い。
「全員避けた、か……フフフ、そうでなくちゃね。そうでなきゃ―――」
口元が裂けるほどの凄惨な笑みをフランドールは浮かべると、
「愉しめないからねぇ!!」
再び、紅い斬撃が台所を走る。レーヴァテインを駆るフランドールの顔は、恐ろしいほどに歪んだ愉悦の感情に満ちていた。
「ふ~。これで、洗濯は終わりだな」
八雲 藍はマヨヒガの庭で、物干し竿に洗濯物を干し終えるところだった。
自らの主は寝てばかりなので、家事は彼女の担当になっている。
いつからそうなったのは記憶に無い。
以前の事を思い出そうとしても、ずっと前から自分が家事を担当していた、という記憶があるのみである。
記憶の境界でもいじられたのだろうか、しかし、藍にとってはもうどうでもいい事だった。
「次は夕食の準備、だな」
藍が庭から台所に向かおうとした瞬間、
「―――橙!?」
自らの式の名前を呼ぶ。彼女の脳裏に、必死に助けを求める声が聞こえてくる。
藍さま……こわいよぉ……助けて……お願いします……らんさま……
「橙ーーーー!!!」
藍はマヨヒガを飛び出すと、自らの出し得る最大速度で橙の元へと飛び去った。
紅魔館の台所では、必死の応戦が続いていた。
チルノはパーフェクトフリーズを使用してみるものの、世界を破壊する炎の前には無力だった。
橙は飛翔毘沙門天で撹乱しつつ、攻撃するという策をとるものの、フランドールの高機動性の前には当てる事すらままならない。
ルーミアは……言わずにもがな。
「愉しい……愉しいわ……」
ハハハ、と声を立てて笑うフランドール。身に纏っている雰囲気は、異常という二言以外のなにものでもなかった。
「こんなに愉しいなんて……ねぇ」
狂気の笑みを浮かべるフランドール。右手に握られたレーヴァテインが、主の笑い声に同調して笑っているかのようにも見える。
「それでも、そろそろフィニッシュを決めて差し上げるわ。丁度飽きてきたところだし」
レーヴァテインを左手に持ち替えて、フランドールは無数の弾を撃ち始めた。
「わた、た!」
「ひぃ!」
「きゃー」
三者は散開して弾を避けるが、視界にフランドールの姿は無かった。
「……!! 橙、後ろ!」
「え」
その言葉が発せられると同時に、橙の身体が勢いよく床に転がる。
「あ……が……」
橙は背後からフランドールの零距離射撃をモロに受けてしまったのだ。
かつ、かつ、かつ……と何故か聴こえる筈の無い靴音を響かせて、転がっている橙の元にフランドールが歩み寄る。
「まずは……貴女から葬ってあげる」
レーヴァテインを勢いよく振り上げるフランドール。
「くっ……ダイアモンドブリザード!」
「ディマーケイションルナティックレベルー」
チルノとルーミアが、持ち得る最高のスペルカード技を繰り出す。
無限の冷弾に、闇夜の妖弾が、背中を見せているフランドールに襲い掛かる。
「やった! モロに入った! これなら……」
しかし、それらはフランドールに傷一つ付ける事は出来なかった。
「そう慌てないでよ……直ぐに貴女たちも同じ場所に送ってあげるからさぁ……」
壮絶な笑みを浮かべて振り返るフランドール。
……と、いうか。避けられて橙に当たったらどうするつもりだったんだ?
そこまで頭が回らなかったのだろうか。
流石はバカと能天気である。
フランドールは橙に向き直ると、両手で持ったレーヴァテインを振り下ろした―――
その時。
「橙ーーーーーー!!!」
カキィィィン!!と甲高い音と同時に、フランドールと橙の間に一つの影が立っていた。
藍である。橙の気配を探っている内にこの紅魔館の台所まで辿り着いた訳である。
え? 門番はどうしたかって? 超高速で突っ込んでくる藍の体当たりを受けて飛んでいったそうですが、何か?
藍は両手に持った二丁のクナイでフランドールのレーヴァテインを挟み込んでいた。
「橙……」
橙に振り返る事もなく、静かに言葉を紡ぐ藍。
「ら、藍さま……ごめんなさい……」
「喋るな。事情は大体分かった……」
……本当に分かっているのか? アンタ。
「避難していろ……巻き添えを食らうぞ」
「は……はい……」
橙は駆け寄ってきたルーミアとチルノに両肩を担がれ、台所の隅に避難する三人。
今の内に逃げればいいじゃないか、という選択肢は、この状況下ではもう考えられなかった。
「貴様が橙をこんな目に遭わせたのか……」
クナイでレーヴァテインを挟み込んだまま、鋭い目付きでフランドールを睨む藍。否、それは睨む、という概念を通り越した行為に思える。
「……だとしたら、どうする?」
藍を挑発するように、フランドールは嘲りの笑みを浮かべた。
「それ相応の報いを味わって貰う……!」
瞬時に藍の姿がフランドールの視界から消え、無数に等しいクナイ状の弾が、四方八方からフランドールに向かって迸る。
「フッ!」
掛け声と同時にレーヴァテインで、弾を切り払っていくフランドール。
「そこだ!」
フランドールの背後から、藍が猛烈な勢いでクナイを放つ。
しかし、クナイが到達する瞬間、フランドールの姿は霧散したかのようにそこにはなかった。
「消えた!?……ッ!」
藍は上から迫る危険を察知すると、両手から猛烈な勢いでクナイ弾の嵐を生み出す。
「逃げ場は無いぞ!」
だが信じられない事に、フランドールはそのクナイを避けようともしないで藍へと向かって来たのである。
「この程度の弾幕……破壊してみせるわ」
そう言うと、フランドールは片手でクナイ弾を払い始めた。虫を払うように。
すると、片手で払ったクナイ弾が崩れるようにして消えていく。
「な……!」
藍もこれには正直、驚かざるを得なかった。自らの放つクナイ弾には、それなりの高い妖力が秘められている。いかに吸血鬼と言える存在でも、それをいとも簡単に破壊できるとは思っていなかった。
「フンッ!!」
気合の声と共に、レーヴァテインが藍に振り下ろされる。
「チッ……!!」
咄嗟に回避へ移行するも、その斬撃を避けきる事が出来なかったのか、藍の左肩には焼け焦げた痕がある。
「フフフ……悪かったわね。貴女を侮りすぎていたの。だから実力を見せる事にしたのよ……実力を、ね……」
藍と距離を取って再び、レーヴァテインを構えるフランドール。未だに表情からは笑みが消えない。
とはいえ、そのフランドールも全くの無傷、という訳ではない。
クナイ弾の嵐で破壊し損ねた弾を浴び、ところどころ服が引き千切られている。
「そうか……私も、だ。本気でやらせて貰おう……」
藍はいつも被っている愛用の帽子を取って捨てると、指をコキコキと鳴らしてフランドールを見据える。
「へぇ……天弧風情が嘘を吐くなんてね……」
「……すぐにわかるだろう」
針のように藍の瞳が鋭さを増す。普通の妖怪なら、この瞳に睨まれただけでショック死しかねない。
「貴様に甚振られた力無き者たちの絶望を知るがいい!」
藍はクナイ弾の弾幕を展開すると、音速に近い程の速さを有するレーザーを放った。
「はっ!」
「―――!」
クナイ弾を破壊したフランドールだったが、レーザーを完全に避けきる事は不可能だった。
ならば、彼女に残された選択肢は一つ。
壊す事。破壊する事。どんな事でも、破壊する事によって私は勝ってきた。ただ少しの例外を除いて―――!
「壊れろォォォ!!」
気合一閃。それと共に、レーザーはフランドールの前で弾けるようにして散った。
「……確かにやるわね。それでも無駄な事。貴女はわたしに勝つ事は出来ない」
「まだ軽口を叩く余裕があるとはな……」
フッ、と藍が初めて笑みを浮かべた。逆に、フランドールの顔からは笑みが消え、いつにない真顔になっている。
「最後に、名前だけ聞いておこうかしら?」
「他者に名前を尋ねるなら、まず自らの名を言うのが先ではないのか?」
「フフ……そうね。私はフランドール・スカーレット。貴女は?」
「……藍。八雲 藍だ」
らん、らん、らん……と三回、フランドールが呟く。
「そう……藍、貴女は強いわ。でも……一つだけ、貴女には弱点がある」
「弱点、だと……?」
怪訝な表情を浮かべる藍とは対照的に、再び笑みを浮かべるフランドール。
「これなら……どうかしら?」
言い終わらない内に、レーヴァテインが疾風の如く振られ、台所の隅で固まっていた三人の元へ炎が迸る!
「……しまったッ!」
駆け出す藍。しかし、どう考えても三人を抱えて炎を避けきるのは不可能だと思えた。
―――覚悟を、決めるか……。許してくれ、橙とその友人たち……。
心の中で、藍は三人に謝罪の弁を述べた。
炎が三人を包み込もうとした刹那、
「ぐぅッ!!」
藍はその炎を自らの身に纏った。三人を守るべく。
「え……藍、さま……?」
「橙……大丈夫、か……?」
「は……はい……でも、藍さまが……」
「よかっ、た……」
「藍さま!」
ボロボロになった藍は、そのまま力なく床に倒れた。
息はしているが、もはや闘う事は不可能である。
「アハハハ!今の一撃に耐えるなんて、流石よ……」
フランドールの高笑いが響く。しかし、流石のフランドールにも藍との弾幕で疲れが見え始めていた。
「クッ……このぐらい、虫ケラどもを片付けるには造作も無いわ!」
凄まじい速さで三人の元へ飛んでくると、チルノの首を左手で掴んで上へと持ち上げた。
「……趣向が変わったわ。貴女から片付ける」
ルーミアと橙の顔が蒼白になる。もはや、頼れる者は誰もいない。
「チルノちゃん!!」
「や……やめてーーー!」
「ルーミアーーーーーー!!!橙ーーーーーー!!!」
にやり、と残虐な笑みを浮かべて、フランドールはチルノにレーヴァテインを突き刺した―――
瞬間。白熱の炎がチルノの身体を包み込み、一瞬でチルノは水蒸気と化した。
「アハハ……お次は、そこの金髪のお嬢ちゃんかなぁ?」
相変わらず歪んだ笑みを浮かべて、フランドールはルーミアの方へ向き直る。
この時、ルーミアは今までにない感情が膨れていくのを自分でも感じていた。
「ゆ……許せない……よくも……よくも……!」
ルーミアの瞳が朱く染まっていく。赤よりも紅く、紅よりも朱く―――
例え話をしよう。一杯のコップに入る水の容量は決まっている。にも関わらず、そのコップに水を入れ続けるとどうなるか。
行き場を無くした水は、溢れるのが道理である。
感情や本能も、これまた然り。今のルーミアが、正しくそういった状態に置かれていた。
感情という水が、理性という名のコップから溢れるのは、必然の事だった―――
ルーミアの頭の中で、何かが弾け飛んだ。いつも頭に付けているリボンは頭上に浮かんで輪となり、
右手には深い紫に輝く大剣を、そして、黒き双翼が背中より生まれた―――
その姿は、闇に取り込まれた天使―――堕天使そのものでもあった。
「な……!?」
「る、る、ルーミアちゃん……?」
フランドールも、橙もその姿に言葉を失った。
「ちぇ……橙……。藍さんと一緒にマヨヒガに帰っていて……」
纏っている妖気も、普段とは比較にならなかった。橙から見ても、先程の藍を軽く凌駕している様に感じる。
「は……は……」
何だか、更なる別格の存在を目の当たりにして、橙の頭はフリーズ状態にあった。
「わたしの理性が少しでも残っている内に、とっとと消えるんだ!!」
いつものルーミアからは想像出来ない程、今のルーミアは怒り猛っていた。
「は、はいぃっ!」
橙は藍を何とか抱えると、ふらふらと台所を出て行こうとした。
「ルーミアちゃん……ありがとう……。私は待っている……元気でいつものルーミアちゃんを待っているよ……」
フランドールは、そうやって台所から出て行く橙の背中に向かって、レーヴァテインを構える。
「アハハ……!このまま逃がすわけ、ないでしょおっ!」
レーヴァテインを振り下ろす。が、途中でその刃は止まった。
「いい加減にしな……この妹蝙蝠が……」
いつの間に目前へ現れたルーミアが、左手の親指と中指二本で刃を止めていたのだ。
力をいくら込めても動きはしなかった。その事に、フランドールは愕然とする。
「……罪も無いモノを次から次へと傷つけ、破壊して……。……チ……チルノまで……」
自分たちが他人のおやつを盗み食いしたのが原因じゃないのか?という事を棚に上げて、怒り猛っているルーミア。
フランドールはレーヴァテインを、何とかルーミアの左手から引き抜くと、距離を取ってルーミアを見据える。
「な……何であんたにそんな力が……」
「私は怒ったぞ……!フランドール!!!」
右手に持った全長2メートル近い大剣で、思いっきりフランドールに斬りかかるルーミア。
「ぐっ……」
辛うじて防御には成功したものの、二撃目、三撃目と、フランドールの予想を遥かに越える速さで、
ルーミアの剣戟は繰り出される。それらを防ぐたびに、フランドールは自らの身体から力が抜けていくような感じがした。
フランドールは知るまい。
ルーミアが携えている大剣が、レーヴァテインと肩を並べる程に恐れられている魔剣、ストームブリンガーである事に。
混沌の神々ですら、その力には畏れの念を抱いたとされる、魔剣の中の魔剣と言っても過言ではないほどの威力を秘めた魔剣である事を。
「な……あんたは何者なの……!?」
「とっくにご存知なんだろう?」
名乗ってはいないような気もするが。しかも、何故に初対面の相手を知っていると言い切れるんだ。
「私は貴様を倒すために博麗神社から来た刺客……聖者のように純粋な心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の妖怪……」
……えーと。何だか最初の目的と全く違う気がするんですけど……。
「宵闇の堕天使……EXルーミアだ!!」
「く……何て、事……」
フランドールの胸中は屈辱に満ちていた。何処の妖怪とも知れぬ三下に、自らのおやつを食われた挙句、ここまで追い詰められるなんて。
「こうなったら見せてあげるわ……私の全力を!!」
レーヴァテインに全妖力を込め始めるフランドール。チャンスは、一回しかない。
「分かっているぞ、貴様が全力を出せない訳を……全力の状態で闘えば、自らの能力で身体ごと崩壊しかねないからだ」
「…………」
フランドールはぎり、と歯を噛んだ。その通りである。破壊する程度の能力を全力で使役した場合、自分にも負担が来る。
その負担に一瞬でしか耐えられないという事を、フランドールは自覚していた。
「いいだろう……貴様の全力、受けてやる。そして……チルノの無念を晴らしてやる!」
ストームブリンガーの輝きが、一層と妖しさを増す。
そして―――どれぐらいの時間が経ったのだろうか。一秒と経っていないようにも思えるし、半刻近くも経ったとすら思える。
フランドールがレーヴァテインを振りかぶり、ルーミアがストームブリンガーを構え―――
二人の影が、重なった―――
紅魔館の前に広がる湖。
今日も仲良し三人組が、何らかの雑談をしています。
皆、いつも通りの服装と、いつも通りの口調でアハハ、と笑っています
ルーミアの金髪には、ちゃんとリボンが、堅く締められていました。
EXルーミアの小説読ませていただきました。
前半の呑気で食いしん坊なルーミアはイメージぴったりでした。
橙を助けに来る藍の姿も格好よかったです。
ただ意見をさせていただけるなら・・・
ルーミアのEX化後が、少し文章に違和感を感じました。
私ごときの頭ではギャグとシリアスの切り替えが上手くいかなかったようです。
どちらかに偏らせてみるのも良いかもしれません。
新しい試みだから仕方ないのかも知れませんが。
これからの作品も楽しみにしています。
>蕎麦を肴に芋焼酎を飲んだ気分、という感想
絶妙な組み合わせで、すっきりと飲める。と言う意味かも知れません。
描かれない部分は読み手が想うことであって、答えて貰うことではない。
ギャグですか? 不覚にも爆笑してしまいましたが。
こんなこと自分で言いますか普通。
残念な所はやりたい事を詰め過ぎてハーメルン現象を起こしている事ですね。
(某ハーメルンの漫画の様にギャグとシリアスの境界がゆかりんによって曖昧にされ、読者が付いてこれなくなる事。)
あと、何かオチかシメが欲しかったですね。
>木村圭氏
それもドラゴソのパロですよ。
フランVS藍の所までは良かったのですが…
>にやり、と残虐な笑みを浮かべて、フランドールはルーミアにレーヴァテインを突き刺した―――
と作中で書かれてますが、レーヴァテインを突き刺されたのはルーミアではなくチルノでは?
>フランドールはルーミアにレーヴァテインを突き刺した:ルーミアではなくチルノでは?
戦闘描写も慣れてないという割には悪くないと思います。
ここ結構DBを知らない人微妙に多数っぽい(笑
>私ごときの頭ではギャグとシリアスの切り替えが上手くいかなかったようです。
いいえ。これは単なる私の文章力が下手なだけです。ギャグかシリアス、今回の話は思いっきりギャグにしたつもりだったんですけれどね……。まぁ、また出直してきます。
次の作品では、境界線がきちっとなっています。……自信、ありませんけれど。
>描かれない部分は読み手が想うことであって、答えて貰うことではない。
すいません、の一言に尽きます。書く事に夢中になっていて、読み手の方々の気持ちを全く無視した作品になってしまいました。今後、気をつけます。
>あと、何かオチかシメが欲しかったですね。
オチは……思いつきませんでした。シメも……思いつきませんでした。
本当に申し訳ありません。
>レーヴァテインを突き刺されたのはルーミアではなくチルノでは?
修正させていただきました。ここでルーミア刺されていたら、以後の展開滅茶苦茶ですよねぇ……。
今回のあとがきが、かなり長くなってしまった事も少し反省すべきところだと思っています。それでは、また。
藍はやはり何処に居ても橙の助けの声が聞こえるのですね、さすがだ。
この次があれば頑張ってください♪
ドラゴンボールネタだったんですねorz 鬼瓦嵐様、頓珍漢なレスしてしまって御免なさい。
ちょっとルーミアに齧られてきます・・・
でも評価を変えるつもりはありません。やっぱりあれは自分で言うと失笑もののセリフだと思います。当時はドキドキしながらTVを見てたんですけどね……。
>紅狂
チルノ=クリリンだと思うので間違ってないかと。修正されてますし。
あとルーミア姉貴かっこいい。これからも頑張ってください。
以降の文章と展開が実に面白かったです。これはいいパロディですね。
フ○ーザ戦辺りの・・・
というよりルーミア、強w
面白かったです、ありがとうございました。
アリスが『きゅっとしてドカーン』されて魔理沙がスーパー化します。
さらに、『レミリア⇒クウラ』『美鈴⇒ドーレ』『パチュリー⇒ネイズ』『咲夜⇒サウザー』です。