ぴし
碁石を打つような、はたまた鞭で打つような、そんな音。
響き渡り、冴え渡り、波紋を広げて静かに消える。
というほど優雅な情景は、そこに肉眼を持って立っていた者ならば、浮かぼうはずもなかった。
ぴし――ぱしっ
今度は二度。
先ほどより幾分か強く、幾分以上に悲痛な、万感を込めて鳴らされる、音。
それが、広い、広さばかりが先に立つ間に木霊する。
ぴし ぱしっ ぴしっ……
「………………」
ぽたっ
汗が頬を伝い、流れ落ち、雫となって、畳に落ちる。
「――――――――、やはり、」
唇を噛み締める。二筋目の汗が畳に落ちた。
「……まあ、今更どうこうできるものでもない、か」
昼下がりの陽射しは、障子越しに薄められながらも健気に陽気を振り撒いている。笹の触れ合う音もまた、竹林を抜けていく涼やかな風に乗って。しかし、彼女の目には、彼女の耳には、その一切が届かない。ただ、無心に『それ』を弾き続ける。
『それ』。
彼女の目前には、背の低い木造の机。そしてその上には、細い腕が差し伸ばされた、ひとつの、
ソロバン。
「っ」
ぴし、
それが、合図。
ぴしぴしぴしぱしぴしぱしぴしっぴしぱしっぱしぱしぱしぱしぱしっぴしぱしぱしんぱしぴしぴしぱしっぱしぱしぱしぱしぱしっぱしっ、ばんっ! ばんっ! ばんっ! ばんっ! ――――ばしぃっ!
「っ……、」
微塵と散ったソロバンを無闇に大きな動作で机から払い落とし、彼女は顔を上げ天井を睨み銀髪を『ぐあし』と掻き上げ、呼ばわった。
「鈴仙・優曇華院・イナバをここへ!」
「御意、サー!」
どすん!
「んぐぅ!」
一畳挟んだ正面に出現する兎が一匹。荒縄で両手両足頭上の両耳まで残らず縛り上げられた、完全な拘束状態だった。
天井の板が一枚、すっと音を立てて閉じる。はめ込まれる寸前、隙間の向こうにピンクのフリルが揺れていた。そのフリルの先と視線が合い、彼女はふっと笑みを浮かべる。遠く指を立てる仕草が見え隠れし、板は完全に元に納まった。
「ひ……ひひょぉ……?」
視線を下ろすと涙ながらの目と目が合った。なかなかに『そそる』ものがある。猿轡まで噛ませろとは言っていなかったが、なかなかどうして、あの兎は、
――気が利いている。
持ち前の嗜虐心が、夏の夕立を呼ぶ入道雲のごとく、精神の地平線からむらむらもこもこと立ち昇る。圧倒的なヒエラルキー的弱者を前にして、先の錯乱はものの見事に鎮まっていた。
「批評? 何? 誰のことを言っているのかしら?」
「だ、だっひゃらこれ、外ひてくだひゃいよ……」
「別に口はいらないから。耳だけあれば十分よ」
言って歩み寄り、耳の縄だけ解きほどく。ほどきつつ、これって本物だったっけ……、と一瞬よぎった疑問を振り払う。
もう一方の手で顎を掴み、ぐっと手元に引き寄せた。紅い眼が、恐怖と欺瞞に揺れている。
「聴きなさいウドンゲ。これから悲しい悲しい、とても悲しいお知らせがあるわ」
「はひ……?」
鈴仙だの優曇華院だのイナバだの、いまいち呼び名の定かではない月の兎は、その底冷えのする言葉と空気に身を硬化させた。
「おひらせ……でひゅか?」
「そう。でもその前に、舌足らずな口は閉じておきなさい。噛んでも知らないわよ」
へ? と喉が動くよりも早く、
ずびし「あふ」
首筋から体の内側に突き抜ける衝撃、稲穂の根を刈り取るイメージ。視界がたちまち暗転する。
「――では、始めようかしら」
声が切れると同時に、鈴仙・優曇華院・イナバはがくりと意識を手放した。
「作戦名は、」
『永遠亭始めました』
――あら、なかなか似合ってるじゃない。重畳だわ。てゐ、寸法合わせは完璧のようね。
目の前なのにひどく遠く感じる声は、きっと意識が醒めきっていないせいだろう。
――いやまあ、こんなものでしょう。鈴仙さまに感づかれるなんて、ねえ?
――それもそうね。
確かな疎外感を感じるのは、単に自分が気を失っているからかもしれない。ううん、そうに違いない。
――で、永琳。守備はどうなの?
上座から降りてくるような声。紛れもない満月の姫こと輝夜様のものだ。
――はい。今試着させてみましたが、問題はないでしょう。あとは量産、その後、亭内の改装に向かう運びです。
――手間がかかること、ままならないものねぇ。
そして、ようやくというか、なんというか、
唐突に、夜分、門限を破って玄関の前で途方に暮れていた子どもの目の前で光がゆっくりと四角に切り開かれた時のように唐突に、意識に目覚めの許可が下りた。
「――――っ」
がば、と身を起こす。胸元にやった手が、妙に重たい。視線を寄越す。
固まった。
「…………う、えええ?」
着物を着せられていた。
それも本格的な、浴衣のように簡略化されたものではない随所に細やかな細工の施された本格的なもの。浅黄色の帯、小豆色の生地に、竹の刺繍が映えていた。
「あら、起きたの?」
私は部屋の奥に寝かされていたらしく、数畳ほど離れた先で、こちらに視線をやる師匠とてゐが座していた。その向こうには姫が、やはり上座でよくわからない笑みを浮かべている。
「似合うわよ鈴仙。これなら安心して接待を任せられるわ」
そう言って、長い振袖の裾で口元を隠す。長い黒髪が淡い赤光を浮かべていた。軌跡を追うように首を向けると、障子の向こうから斜度の低い光が、赤く鋭く差し込んでいた。だいぶ寝込んでいたらしい。
「接待……と、いいますと?」
「接見応対ともいうわね」
「いえそうでなくて」
「あなたには、仲居、というか侍従かしら。その中の侍従長、の補佐を任せる予定なの。あくまで補佐ね」
座布団の上で座りを入れ替え向き直り、師匠は笑ってそう告げた。嫌な笑みだった。
「ちなみに侍従長? というかメイド長?(それは違うと思う。)は私が任されてるよん」
薄紅い唇に指を乗せて、因幡の黒兎は自信満々に笑う。これもやはり嫌な笑みだった。
「ちなみに私と永琳は、まああれね。麗しい亭主と肝っ玉女将というところかしら」
「あら姫様。私は終始、清廉潔白若女将で通しますよ?」
「異議が何人から飛んでくるか見物ね」
「あら、それなら姫こそ」
「うふふ、永琳。『様』を忘れているわ」
「ふふふ、姫様。そこはフレキシブルに」
永琳め、うふふ!
うふふ。
付いていけなかった。
と、そこで気がつく。思い出す。
私は三者三様の態度の中にある共通点、悲しい共通点を見出した。否、見出してしまった。おずおずと、手を上げる。
「あの…………誰か、どなたか説明とか、してくれないんですか?」
訴えが受理されたのは日が暮れてからのことだった。
悲しいかな。これは自分が言えた義理ではないけれど、永遠亭には固定収入というものがない。
それ以前に、この幻想郷で商いを営むもの自体が少数派ではあるのだけれど、形式、方式の差こそあれ、一定以上の力を持つ存在は誰もが、固定収入に近いものを持っている。
例えば紅い悪魔の住まう紅魔館。あそこは典型的な暴君タイプだ。
恐怖政治で周囲を治め、安寧、もとい無闇な蹂躙、搾取を行わないという条件の下、食料等生活物資を『献上』という形で近隣の民、それも人妖を問わず貰い受ける。もとい、吸い上げる。
その統治の前提条件として、「根こそぎ殺し尽くしたりしないだけありがたく思え」という理不尽な御厚意が存在している。まさに戦闘能力の高さが物をいう手段であり、ハイリスクハイリターン。
ただ、意外にこの手段を用いる存在は少なく、その辺りは外界とはやはりどこか違うような感覚を私は覚えている。
というより、もともと他人から搾取するという観念がここには存在していないようにも思えた。
我らが永遠亭とも渡り合えるほどの力を持つ、そのほとんどが勝手気ままな性格で、全ては己の異能便り。
死んでるから死なないし、ご飯はまあ、嗜みで。という大食亡霊姫もいる。
一方で、なんでもあり、どこにでもいる、なんでも欲しいだけ奪い、欲しいだけ喰う、とにかく気まぐれ、統治はしないが面倒も見ない、という真に厄介な妖怪もいる。
滅茶苦茶だと思う。
パワーバランスは取れているようで、実際その矛先はどこにも向いていない。空を睨んでいるうちはいいけれど、何かの拍子にそれらが地面に突き立とうものなら、明日の朝日は終末の光になりかねない。
しかし、それをそうやって憂いでいるのは客観視した場合のこと。実際にその中で揉まれ遊ばれ流れていると、意外なことに気が付くのだ。
そう。ここは、幻想郷は、
思いのほか丈夫で、意外に優しくて、でも厳しくて、それでいて甘美で、それでもやはり残酷な、そんな世界だ、ということ。
正直自分で言っていてよく分からない。
でも、何となくは分かる。ようは、そういうことなのだろう。
言葉にはできないけど、感覚では理解できる。つまりは、そういうところなのだろう。
曖昧ゆえの優しさ、曖昧ゆえの、酷薄さ。
だから姫がいるのだろう。だから師匠がいるのだろう。だから、てゐも、だから、
だから、私がいるのだろう。
とにもかくにも益体のない話、つまりは訳の分からない話で、でもこれが、夜分に師匠が話してくれた言葉の、かなり適当な要約であり、そして結論はこうだ。
――幻想郷での基本姿勢は自給自足なの。
――まあ、そうですね。うちもそうですし。
――ええ。でもね、それじゃ足りないものも、やはりあるのよ。お金とか。
――ぶっちゃけた……。
――だから、働かなくちゃ駄目なのよ。
――働く――それで、『これ』ですか?
――そう。幻想旅館『永遠亭』。再来週から熱烈オープン、期待の新星よ。
蓬莱人って遊び人の同意語なのか、と思った夜だった。
翌朝、起きて洗顔歯磨き体操軽く水浴びさっと着替えてひとり廊下を歩いている頃には、私は自分なりの結論に達していた。
ようは、あれだ。
あの人たちは、自分で畑を耕すことすら億劫なんだ。
姫は元より庭より外には出もしないのに。師匠は指示を出すだけなのに。
常に、文字通り血の滲むような血豆や、お風呂場で憂鬱な気分にさせる汗疹と戦っているのは、他ならぬ、私や他のイナバたちなのに!
どうなの! そこのところどうなの!? と半狂乱で心の空をきりもみ飛行する脳をなだめつつ足だけは前へ。
と、
……そういえば、てゐがそういう問題を抱えているのを見たことがない。やはり健康派は伊達じゃないのだろうか。
揺れる耳を視界の上端に捉えつつ、ニンジンを眼前に引っ掛けられた馬の気分で廊下を進む。適当に意識を散らせていないと、ここの廊下は淡々と過ぎるには長いに過ぎる。
術の行使を差し引いても、この永遠亭は紅魔館にも引けを取らない大家なのだから。それこそ、冥界の姫の屋敷にも。
ただ、主の素養に関しては、コメントは控えたかった。
なんともなしに廊下の先まで視線を飛ばす。――遠い。本当に遠い。飛ぶ気も起こらないほどに遠い。点をひとつ置いて、定規で線引きしたような救えない光景だった。
基本的にこの亭内でやることなど、師匠の助手か姫の暇つぶしの相手がほとんどであり、さすがにこの廊下をモップがけしていくつもりは師匠たちにもないらしい。
結局のところ、一日の仕事が終わり、長い廊下をとぼとぼひとり自室に戻れば、あとは全くの暇なのだ。
興味のアンテナが頭上でふたつ、瞬きに合わせてぴこりと揺れた。
――そうか。廊下は私の幻視でいくらでも長くできる。部屋だって、師匠の術を使えば廊下の長さだけ据え付けられる。
敷地面積の問題だけは、始めから無条件に解決済みなんだ。
「旅館、かぁ……あながち悪い判断じゃないのかも……」
それに、昨日の振袖。
私に和服の知識はほとんどないけれど、やはりあれは綺麗だった。また着てみたい、と素直に思う。いずれ、師匠もあの奇抜な服のドラッガーから帯を巻いた肝っ玉女将に変身するのだろうか。そう思うと、気分が変に弾む。歩調も軽く、速くなる。
よし。今日も一日、がんばろう。
Vターンで廊下を歩いていた。
「酷すぎる……」
「鬱病?」
傍らを行くてゐがそっけなく言った。
「違う……と思いたいけど」
師匠の指示はいたって簡潔、明瞭だった。曰く、「改築に近い大規模な手入れを行いたいから、その為の材料を見繕ってきて」というものだった。ちくしょう。いるかそんなもの。ここらの廊下一理二里でもバラバラに解体して、それを使えばいいだろう。タコだって空腹極まって進退窮まれば自分の足を食うという逸話にも覚えがある。
とは口を裂かれ傷口にポマードを塗りつけられても言えそうになかった。
「ねえ、てゐ」
「んー?」
「具体的に、何を見繕えばいいわけ?」
私が聞かされたのは指示の最後の概要だけだった。部屋にたどり着いた段階で、既にいたてゐが話の大体を伝えられたらしく、そのままターン。まあ、仕方がないとも思う。
私はあくまで仲居のナンバー2。語弊がありまくりであろう侍従長とやらの補佐であり、いわば手足なのだ。なるほど、てゐは確かに手足が短
「いたたいたたたた!」
太ももをつねり上げられた。それはそれこそ、万力で挟まれたかのような膂力で。
「失敬な想像をしないことだよ」
こいつ地の文を……
「とりあえず、廊下は竹を敷き詰める予定なんだって」
話題が華麗にインメルマンターンをきめた。こちらも、負けじと追随する。
「――竹、って、簀子を敷くわけ? なんでまた」
「埃が溜まっても掃除をしないで済むってこと。いやまあ、私の発案なんだけど」
策士ここにあり。いや、これは単なる物臭兎か。
「いたたいたたた!」
「月の兎は学習しない、と。メモっとこ」
「やめて全月面のはらからたちに申し訳が!」
「で、問題は竹の選別なんだけど」
今度は逆タカ戦法だった。流石に付いていけず、開きかけの口がもごもご。
「それは逆に無問題。鳳凰竹にしろって姫から直々にお達しが出てるくらいだし」
「……鳳凰、竹?」
鳳凰竹。鳳凰。
――――火の鳥。
不死。
――――――――の、人間。
ひとの、かた。
っ、
喉が、驚くほど大きな音を立てて鳴った。
身震い。
そして、どっ――――と、
今更のように、思い出したように、廊下の広さ、天井の高さ、無音の圧迫が、甦る。押し寄せる。
押し潰されそうで、逆に内から張り裂けそうで、
この、どうしようもない、『いたたまれない』空気。
不死の空間。とでも言うのだろうか。
たまらない。たまらなく、疎外感。
思い知らされる。
自分が、未だに、『此処』に――――――――馴染みきれて、いないこと。
――客分扱いは、解けてるけれど。でも、
だから、嫌だった。ここで、周囲に意識を向けてしまうのは。
だから、嫌いだった。いつまでも、引きずり続けて、脱ぎ捨てることも、染まることもできない自分が。
違う。忘れてた。思考をいくらか巻き戻す。そうだ、
鳳凰竹に、姫が込めた意味。それは、
「――――――やっぱり?」
「でしょ。怨恨浅からず、というか、地獄の最下層より深そう」
もっとも、とてゐは言う。
やることは似たもの踏み鳴らしてスカッとしようって程度だし、可愛くない?
語尾を上げて、口元に手を当てて、密やかに笑う因幡の兎。白兎。
「――――――う、ん」
それを横目に歩く、こういうとき、私は常々こう思う。
この兎って、今までどれだけ生きてきたんだろうか、と。
気にならないといえば、無論のこと嘘だけども。
誰某何某の過去なんて、知りたくならないほうが不思議だったけれど。
兎が好奇心旺盛なのは月も地上も変わるまい。
――でも、
頭が、胸がふっと軽くなる。
――でも、だ。
彼女は、私の過去など訊かないじゃない。
それが答えであり、また理由。
だから、私も。
要るも要らないもない。詮索は、絶対にしない。ついでに言えば、それは幻想郷の、数ある暗黙の掟のひとつでもある。
少しの静寂。圧迫感は、とうの昔に流れ去って消えていた。
――そうだ。
もっと楽に、もっと気ままに、それが、ここでの最良の生き方。そう教わった。そう学んだ。そう、知った。
だから私は、気持ち気楽に、口火を切った。
「じゃあ、まずは人里近くの竹林からね」
「うん。あの辺りはほとんど全部鳳凰竹だから」
「種蒔いてたりして。あの火の鳥が」
「どうだか」
月の降るような夜。
輝夜輝夜と恨み言をこぼしながら、夜な夜な竹林を巡り、せっせせっせと種を蒔く蓬莱人が脳裏に浮かぶ。
なんだかおかしくて、ふたりして笑った。
唐突に、光が頬を打つ。目が勝手に瞬く。瞼の付け根がじわり痛んだ。
「お。やっとだ」
いつの間にやら出口まで来ていたらしい。廊下が開け、縦長横長の広い玄関が姿を見せる。
基本的に素足のイナバはここで泥を落として亭内に入るので、履物の類は以外に私達四人以外は持っていない。
てゐが草鞋やらを使うのは単なる気まぐれらしいけど、今日はきちんと履いていくらしい。
「今日は緑の緒のヤツで」
「なんか意味あるの?」
「別に。単なる気分のモンダイよ」
「まあそうよね」
私も革靴にかかとを入れ、つま先で地面を蹴って踏み心地を確かめる。
「よし。準備完了、と」
「では、侍従長補佐に侍従長から最初の命令」
「何なりと」
「おぶって行って欲しいなー」
「………………」
軽かったので許した。
それにまあ、外も明るかったし。空気も澄んでるし。いいや、不問としよう。
では、
――よし、今度こそ、今日こそ、絶対絶対、がんばろう!
「ああ、姫。兎たちが行きますよ」
「それどこからの引用?」
「さあ……」
「困ったわ。痴呆かしら。永琳が年相応の反応を」
「仕方がありませんわ。なにぶん年を数えるのを放棄してこちら、ずいぶんと時も経ちましたし」
「開き直ったわね」
「肝っ玉女将ですから。しかし麗しい姫。あてつけにしても、もう少し捻ってはいかがですか?」
「あんまり捻ると、あの子は気づいてもくれないもの。私が合わせてあげてるの」
「姫様も、鈍感な相手を見初めてしまったものですね」
「楽しいからいいの。それに、お膳立てはこれからなんだから」
「血を見そうな献立ですね」
「誰の?」
「最後に泣きを見る誰か様の」
「……永琳」
「……なんでしょう」
「私はあなたの何かしら?」
「姫は私の姫様ですよ」
「王子様みたいな口ぶりね。――で、あなたはいつ動くの?」
「とりあえずは今晩から、適当に当たっていきます。まずは客がいなくては、サービス業は成り立ちませんし」
「私は?」
「はい?」
「私は何をすればいいかしら」
「…………」
「永琳?」
「…………」
「八意永琳?」
「…………」
「――酷い。非道と書いて『ひどい』と読むわ」
「――――ああ。姫様やりました。いいものに思い当たりがありましたよ」
「思いつきなのね」
「客寄せパンダなど如何でしょう」
「永琳め、うふふ!」
「うふふ」
「それをいうならウサギよ」
「なるほど」
――永遠亭の明日はいずこへ――
ウドンゲの割とシリアスな想いはさてどちらに向かうのか、続編を心待ちにします。
今回はハルカさんの文章にしては珍しく誤変換が多かった気が・・・。
笑えたり感動したりは無いですが、こういう切れ味の良い文は好みです。
でも、金を払いそうなヤツなんてコーリンとけ~ねくらいしか
いないよーな。
『永遠亭』の財政事情は改善できるのか? 早速続きを読んで
来ます。