※作品集14~15にて投稿した『幻想郷最速選手権』の続編です。
読んでおられなくても話は通じますが、流し読み程度に読んでおかれると前提が分かります。
「……今年もあのレースの時期がやってきたのだな」
「どうしたんだ慧音。早く今日のトレーニングをはじめようよ」
「妹紅、今日から私も一緒に練習させてもらうぞ」
「え?」
「ねえ橙、お願いがあるんだけど」
「なんですか? 紫さま」
「練習に付き合って欲しいのよ」
「ついに紫さまもデビューされるんですね。さっそく始めましょう!」
「お久しぶりでございます、幽々子様」
「あら妖忌、久しぶりね。妖夢のお見舞い?」
「それもありますが、一つご報告をしたく」
「……言わなくても分かるわ。昔の血が騒ぎ出したのでしょう?」
「さすがは幽々子様。仰られるとおり」
「さくやー、さくやー」
「どうしたんです妹様、そんなに慌てて」
「私、傷害レースに出る!」
「……傷害ではなく障害ですよ、妹様」
幻想郷最速選手権・EX ~夢幻泡影~
『幻想大弾幕』
それは8月の満月の夜に行われる、年に一度の大障害レース。
そのレースに勝利することは、すなわち最大級の名誉と賞金を手にすることを意味する。
今年も、この大レースの時期が近づいてきた。
魔理沙が幻想ダービーに勝利してから1ヵ月、競妖界が再び熱気を帯びていく。
「あと5週間か……いよいよ近づいてきたね」
「ふーん。そうだな」
魔理沙は、香霖堂にいた。
ホームステイという名目で住み着いている魔理沙は呆けた声で適当に相槌を打つ。
燃え尽き症候群、ダービーを勝った魔理沙はのんべんだらりとした毎日をココ香霖堂で送っていた。
そんなやる気のない魔理沙を余所に、霖之助はカレンダーの日付を数え始めた。
「またレースか? 魔理沙様はしばらく夏休み中だぜ」
「丁度良かった。魔理沙が出ないのなら僕の勝率が少し上がる」
「……おい香霖、おまえも競妖にでるのか?」
「当然さ」
香霖、お前じゃ一勝も出来ないだろ……
魔理沙は驚きと呆れの両方を混ぜた表情で霖之助を見つめていた。
そんな魔理沙の視線を感じた霖之助は何を勘違いしたか、魔理沙にウインクを返した。
「おい香霖、悪いことは言わないからやめとけ」
「何を言うんだい魔理沙。既に僕は事前登録を済ませてしまっているんだよ」
「事前登録って……重賞に出るのか?」
魔理沙の表情から驚きが消え、呆れのみが残る。
妖夢クラスの実力者ならばそれでも良いかもしれないが、目の前にいるのはあの霖之助だ。阿呆としか言い様がない。
「香霖、いくらなんでも重賞デビューってのは……」
「デビュー? なにを寝ぼけているんだい魔理沙。僕はとうの昔にデビューを果たしているのさ」
「なんだって?」
「ほら、これが証明」
霖之助から一枚の紙切れを渡される魔理沙。
そこには、お世辞にもカッコイイとは言えない霖之助の写真と戦績が載せてあった。
「森近 霖之助……登録名コーリン、平地戦績17戦0勝」
「ハッハッハ、恥ずかしながらね」
「全然恥ずかしがってないなお前……なんで未勝利のお前が重賞に出る気マンマンなんだ」
「最後まで読みたまえ魔理沙君」
なに、こんな読みたくもない写真付きプロフィールに続きがあるのか……?
魔理沙はけったるい感情を前面に押し出しながら続きを読む。
「あー、平地戦績17戦0勝。障害戦績30戦9勝……9勝!?」
「一昨日のレースも勝ったから正確には31戦10勝。それが僕の実力さ」
「本当かよ、しかも重賞勝ちまであるのか……って、重賞6勝だと!?」
重賞を勝つとは並大抵の実力じゃない。しかも霖之助のアホはそれを6回も勝っている。
それが現実、恐るべし森近 霖之助。
魔理沙はぶったまげ、椅子から転げ落ちてしまった。
ひっくり返りながら魔理沙は霖之助のプロフィールを読み続けていた。
「弾幕賞、星屑賞……聞いたことないレース名ばっかりだな」
「おっと、そういえば魔理沙はダービー妖のくせに障害レースを知らないんだったね」
「うっさい!」
障害レース。
それはスピードを競う平地レースとは一線を画する。
コースの途中にいくつかの弾幕が設置され、それを潜り抜けながらゴールを目指すというものだ。
潜り抜け方は自由。気合で避けるもよし、強引に消し飛ばすもよし、他の競走妖を犠牲にするもよし。
試されるのは知力、体力、時の運。まさに総合弾幕格闘技。
「そんな競妖もあったのか……知らなかったぜ」
「まぁそれもそうだね、君はまだ妖券を買えるような年齢じゃないし世の中を知らなくてもしょうがないね」
遠まわしに子供扱いされ、魔理沙は頭に来た。
ダービーを勝った私を子供扱いするとはいい度胸だ。一発痛い目にあわせてやる……
マジックミサイルを投げつけてやろうと振りかぶった魔理沙に、霖之助は真剣な顔で向き合った。
「魔理沙、僕は今年こそあのレースを勝つつもりだ」
「なんだよ、急にマジメな顔して」
「去年はあと一歩という所で負けてしまってね……今年はリベンジさせてもらうよ、ハハハ」
「が、がんばれよ」
「それで、そのレースって何だ」
「幻想大弾幕。幻想郷最大の障害レースさ」
霖之助の眼は、復讐に燃えていた。
「うはっ、何だこのレース面白すぎるぜ!!」
「魔理沙……声が大きいよ」
気がつけば、魔理沙は霖之助と一緒に白玉楼へとやってきていた。
白玉楼競妖場、そこは魔理沙が妖夢に二度も負けた思い出の場所。
夏の白玉楼競妖場は障害レースが目白押し。この日も12レースすべてに障害レースが組み込まれていた。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからずと言うからね」
「それで、今日は敵を知るというんだな」
「まぁそんなところだね。特に後半4レースは強力メンバーが揃っていて一見の価値はあるぞ」
「それで香霖、お前の強敵はどのレースに出るんだ?」
「どのレースも面白そうだが、強いて言えばメインレースかな」
面白い? 香霖は変わった表現をするなと魔理沙は違和感を覚えたが、実際にレースを見て分かった。
誰が生き残るか分からない。
半数は途中で被弾したり力尽きたりしてゴールまで辿り着けない。
ハラハラドキドキの連続で見るものを惹きつけて離さない。
これが障害レース。
それ故に万妖券もしばしば出る。レース後半の神風アタックで自爆なんてしょっちゅうだ。
気がつけば、魔理沙はすっかり障害レースの魅力に取り付かれてしまったようだ。
「うぎゃあああああ、もう財布の中がカラッポだ!」
「ざんねん まりさの かけごとは ここで おわってしまった!」
「……なんだその説明口調は」
「そんな怖い眼で睨まないでくれ。ほら、コインいっこあげるから」
「サンキュー香霖。これでフランに一票賭けて来るぜ!」
「……フラン?」
なんだって、あの狂気の魔法少女が障害レースに? 霖之助は震える手で次レースの出走表を確認した。
『4枠7番 フランドール』
そこには確かにフランドールの名前が記されている。
「まいったな、本番にまで出られると命を取られかねないぞ」
「アハハハハ! 全部壊しちゃったよ!」
「さすがです妹様」
第7レースの勝者は、破壊魔フランドール。
他の競走妖は……残念ながら半数が途中棄権し、残りの半数は白玉楼の露と消えてしまっていた。
「ねぇさくや、これでお姉さまも褒めてくれるかな?」
「そうですね。もう一回勝てばご褒美を貰えるかもしれませんよ」
「すげ……」
「怖気づいたかい魔理沙、こんなことも障害レースでは日常茶飯事さ」
「まじかよ」
「面白くなってきたね、本番が楽しみだよ」
「せ、精々死なないことを祈るぜ香霖」
「さて魔理沙、非常にすばらしい事態が発生した」
「なんだ香霖。拾い食いして腹でも下したか?」
「そんなことはないぞ! 僕の体は食べ物で腹を下すようなヤワな体じゃないさ!」
そっちを否定するのかよ! とツッコむ魔理沙。
障害レースの熱気に当てられたのか、段々といつもの霖之助ではなくなってきている霖之助がそこにいた。
「これを見てくれ、第8レースの出走表!」
「あーん? 1枠1番ヨーヨーキ……妖夢のオジジかな?」
「我が永遠のライバル魂魄妖忌。まさか彼が復帰してくるとは思わなかったよ!」
「ライバルって……そう思ってるのはお前だけだと思うぞ香霖」
「他愛のない……うぬらでは勝負にならぬわ」
第8レース、ヨーヨーキこと妖忌は2着を10秒以上ぶっちぎってゴールした。
ここまで来ると賭け事として成立していない。オッズは無常にも0.9倍だった
「さすがは妖忌ね。このクラスでは格が違うわ」
「幽々子様。妖夢の仇は私が取ります故、どうか今しばらくここに置いて下さりませぬか」
「もちろんよ。あのにっくき黒白を斬り潰して頂戴ね」
「折角当たったのに……これ詐欺じゃないか!」
「残念だったね魔理沙。これが白玉楼クオリティなんだよ」
「さぁ魔理沙、いよいよメインレースだよ!」
「ごめん香霖、お金がなくなったから賭けられない……」
「僕なんてずっと昔から一文無しさ、ハハハ!!」
「こいつめ、ハハハ……アホか!」
言い争っても仕方がない。二人は仲良く一文無し、これが現実。
魔理沙と霖之助は静かに観戦することにした。
「おい香霖、これは面白そうだぜ」
「ワーハクタク……最強の障害ファイターが今年も現れたか」
上白沢 慧音、競走妖トレーナーとして有名な彼女にも裏の顔があった。
32戦22勝、GⅠ5勝の生ける伝説。史上最強の障害競走妖ワーハクタク。
「今年こそ君の首をいただくよ……フフフフ」
「おい香霖、よだれよだれ」
まったく世話の焼ける……
魔理沙は霖之助のよだれをふき取ってやると、もう一度パンフレットを開いた。
「勝つと決めたときには既に勝っている……」
第9レースの勝者は当然のようにワーハクタク。彼女の前に敵は無し。
まだ月は出ていない、なのになぜか慧音の前を飛んでいた競走妖は難度の低い弾幕で被弾したりコースアウトしてしまっていた。
目に見えないプレッシャーに負けてことごとくリタイヤしたのだ。
「さすが慧音! 昼間でも強いじゃないか」
「月が出れば、もっと強くなるさ」
「なぁ香霖、これって賭け事として成立してるのか」
「これが競妖さ。なにが気に入らないんだい?」
「さっきと同じで配当が0.9倍じゃないか! なんで当たって損するんだよ!!!」
「第10レース、このレースに1倍を切るような不埒なヤツはいないようだね」
「いやいや香霖、とんでもない化け物がいるぜ」
「化け物……おお、これは凄い!」
競妖界に衝撃が走った。
八雲 紫、マヨヒガのグータラ主な彼女が遂に競妖に参戦!
「なに? 紫のやつデビュー戦かよ!」
「常日頃から、彼女とは障害レースで戦ってみたいと思っていたんだよ」
「まぁ何が起こるかわからないからな、競妖は」
「まぁ……こんなこともあるさ」
「……本当に何が起こるかわからないからね、競妖は」
「でも、よりによって最下位とは」
第10レース、紫はビリだった。
障害を越えていく能力はダントツだったが、スピードの無さもダントツだったのだ。
いくら障害レースとはいえスピードがなくては話にならない。
「橙、あなたには責任を取ってもらうわ」
「ちょっと待ってくださ……きゃあああああ!!」
「なあ香霖、拾ったコイン1個が3個まで増えたわけだがどうする?」
「それならドカンと勝負すべきだね」
「即決かよ」
「もし迷っているのなら萃香に賭けるといい。新進気鋭の爆弾娘だよ」
第11レースはスイカこと伊吹 萃香の独壇場だった。
わはわは言いながら弾幕を滑り込みで避ける姿は微笑ましく、妖券が外れて荒んだ筈の心を和ませた。
ただ、競走中止が7匹も出たのは彼女の爆弾が原因に他ならなかったのだが。
「祝杯あげてもいいですか?」
「せめて表彰式が終わるまで待ってください」
「魔理沙、何故君は萃香に賭けなかったんだい?」
「……ごめん、番号間違えて買ってた」
「……」
「さて魔理沙、めぼしいレースは見終わったから帰……」
魔理沙がいない。
先に黙って帰ったわけではなさそうで、帽子だけが残されている。
さてはジュースでも買いに行っているのかな、と判断した霖之助はしばらく待つことにした。
待つこと15分、ようやく魔理沙は見つかった。
「おい香霖、晩御飯代を稼いでから帰るぜ!!」
「魔理沙、障害レースは『障害越えはなんでもあり』だから気をつけるんだよ!」
最終第12レース、出走表の中にマリサの名前が見つかった。
我慢できなくなった魔理沙は、居ても立ってもいられなくなってレースに登録してしまっていたのだ。
「さて、障害レースとはどんなものなのやら……」
今までの平地レースとは違い、周りの競走妖からは殺気が感じられる。
なんでもあり……フランのレースでそんなことは承知済みだ。
殺るか殺られるか。魔理沙は覚悟を決め、スタートゲートに入る。
「障害なんて関係ないね。ぶっちぎってやるぜ!」
ガシャンとゲートが開き、魔理沙の障害デビューレースが始まった。
「先手必しょぉぉぉーーー!!」
魔理沙はダービーをも勝ったスピードを生かし、一気に先頭に踊り出た。
観衆がざわめく。魔理沙のスピードは障害レースでは桁が違うが、同時に無謀すぎるペース配分なのだ。
障害レースは平地レースに比べて距離が長い。この一般レースで7500メートルもある。
しかし当の魔理沙は観衆の心配などおかまいなし。二番手を大きく引き離す。
そんな魔理沙に最初の障害が迫る。ばら撒き弾だ。
魔理沙は自分に向けて飛んでくる弾を2、3度ヒラリと回転して避けていく。
さすがにまだまだ序の口といったところか、まだここで脱落する競走妖はいない。
「この程度なら楽勝、小遣いゲットだな!」
「ごめんな障害さん。さっきの発言は取り消すぜ」
4つ目の障害を越えた頃から、魔理沙から強気と余裕がなくなってきた。
「うげげ! 今度は私のミルキーウェイだぜ!」
5つ目の障害から突然、自分の得意技が放たれる。
魔理沙はここまで強引にトップスピードのままグレイズしていたが、いよいよ避けきれなくなってきた。
避けきれない星をマジックミサイルで打ち消し、危ない所は曲芸飛行で大きく避ける。
大きく避けることでスピードが落ち、リードが徐々に減っていく。
これぞ総合弾幕格闘技。徐々に魔理沙は障害レースの難しさを理解していった。
「……このままじゃ負けるな。なんとかしないと」
7つ目の障害、毛玉流超高速弾を迎えるところで魔理沙は後ろの集団に飲みこまれた。
「他のヤツを壁にする。それで行こう」
最初に障害に突っ込むから気合で避けなきゃいけない。何が来るか分かれば余裕で避けられる。
……分かっているから避けられる。これが弾幕回避の王道だ。
障害から事前に何の弾幕が展開されるかが分かれば怖いもんなし。、
コツを掴んだ魔理沙は無駄な体力を消耗することなく突き進んでいった。
「おや、早くも障害レースに順応しているとはさすが魔理沙だね」
霖之助は魔理沙のレース振りに感心していた。
ダービー妖は伊達じゃない、といった所か。
そんな魔理沙を見て楽しんでいる霖之助に一人の女性が声を掛ける。
「ふふふ……魔理沙が障害レースに出るなんて丁度いいわ」
「君は、確か西行寺家の……」
「はじめまして。この白玉楼の主、西行寺 幽々子です」
西行寺家といえば、知らない人など居ない競妖界きっての大オーナー。
霖之助はイメージよりも随分と若い彼女に少々面食らったが、そのカリスマを感じ取って納得した。
この人は、本物だと。
「あのヨーヨームのオーナーさんだね。あの子は強かったのに引退だなんて残念だよ」
「……私もあの時はショックで寝込んでしまいましたの」
「怪我さえ治れば復帰できるんじゃないのかい」
「いえ、あの子にこんな過酷な物を続けさせるわけにはいきません」
幽々子の眼が光る。霖之助はその眼に悲哀を感じた。
「……ところで、あなたあの魔理沙の何なの?」
「彼女は僕の上得意様さ」
「なら話は早いわ。魔理沙があのレースに出るよう仕向けてくれないかしら」
「ほう……」
「面白いね。その話乗らせてもらうよ」
9つ目の障害、アイシクルフォールを越えた魔理沙は先頭集団の挙動が妙なことに気がつく。
「あいつら……なにびびってんだ?」
白玉楼名物第10号障害、通称『名前で呼んでください』
途中で弾幕が変わるという難関障害だ。
その10号障害が近づくにつれ、集団のペースが一気に上がる。
「高速で何が来るか分からない弾幕を掠めつつ抜ける……確かに難関だな」
先頭を襲う弾幕は高速弾、2番手には全方位ばら撒き弾……
難度は低そうだが突っ込んでみないと分からん、と魔理沙はスピードを落とすどころか一気に最高速まで上げ突っ切ることにした。
だが、それがまずかった。
魔理沙に向けられた弾幕、それは魔理沙の日ごろの行いを咎めるものだった。
「おい、これは冗談か……パチュリーのノンディレクショナルレーザーだとおぉぉぉぉうぎぎ!!!」
なんで私には必殺級の弾幕なんだよ! 魔理沙は愚痴る間もなく回避行動に入る。
気合で魔力全開急ブレーキ、完全停止。後ろを飛んでいた毛玉は止まりきれずに突っ込んで撃ち落されてしまった。
……なんとかレーザーを命からがら避けきった魔理沙。
だが急ブレーキの代償は大きい。既に先頭は遥か彼方まで進んでしまっていたのだった。
残りは後1000m程度、障害も一つしかない。
まずい、負ける。
そう直感した魔理沙は箒が折れんばかりの勢いで先頭目掛けてぶっとばす。
その時無事だった魔理沙を見て、観客席で一人の魔法少女が舌打ちをした事は誰も知らない……
「やばいやばい、こりゃマトモに飛ばしても届かないぞ……」
魔理沙は必死で飛ばす。確かに差は詰まっているがいくらなんでも残り500mで詰めきれる差じゃない。
残った障害は残り一つ。ここでブレーキを少しでも掛けたら100%敗北、掛けなくても被弾したら堕ちる。
こうなったら人生最高速でグレイズするか……簡単な弾幕相手でもこれは少しキツイ。
マスタースパークで一網打尽……だめだ、反動で後ろに飛ばされて負け確定だ。
「あーどうしようどうしよう。怪我したくないし晩御飯は欲しいし……」
(魔理沙、障害レースは『障害越えはなんでもあり』だから気をつけるんだよ)
魔理沙の頭に、霖之助の言葉が浮かぶ。
「そうだよな、このままじゃ届かないもんな……」
魔理沙の眼前に11番目の障害が迫り、濃い弾幕が展開される。
すぐに詠唱を始めた魔理沙は、箒をシッカリと握り締めトップスピードのまま弾幕へと突っ込んでいく!
「疾風怒濤、ブレイジングスター!!!」
そこのけそこのけ魔理沙が通る。邪魔するヤツは弾も妖もお構いなし!
障害弾幕は消し飛び、先頭を飛んでいたはずの競走妖たちが吹き飛ばされていく。
ダービーの再現、競妖場が彗星の光で真っ白に染まる。
……その光が収まった時、魔理沙は悠々とフィニッシュを果たしていた。
「この霧雨魔理沙様が一着ゲットだぜ!」
競走中止は4匹、何れも魔理沙の近くにいた運のない競走妖達。
魔理沙は彼らに向けて手を合わすと、そのままスキップで表彰式へと向かっていったのだった。
「ねぇさくや、まりさがいたよ! 一緒に飛びたいよ!」
「妹様、魔理沙は速くて強いですよ。それでも戦うんですか?」
「もちろん! まりさと一緒に飛べるなんて最高だよ!!」
「……それじゃあ妹様、あのレースに登録してもいいですね?」
「うん!」
「いやあ魔理沙、今日はご馳走になったね」
「私も久々に熱くなれたぜ」
「この機会に、君に伝えたいことがある」
帰りの夜道、霖之助と魔理沙は二人っきりで歩いている。
こんなところでそんなセリフを言われて動揺しない女性は居ない。魔理沙の顔が真っ赤になった。
「な、何だよ香霖、急に何言ってるんだよ!」
「魔理沙、君は障害レースで見事勝った」
「そうだぜ、そ、それがどうかしたか? 別にお前と一緒にレースに出たいわけ……」
「そう言うと思って幻想大弾幕に登録しておいた。取り消しは不可だよ」
嫌な告白だった。
幻葬郷への誘いを受けた魔理沙の真っ赤な顔が、真っ青に染まる。
まさか夕飯代を稼いだばっかりに、地獄への片道切符までいただいてしまうとは。
「ちょっとまってくれ香霖、それって例の……」
「これで今年の幻想大弾幕は超豪華メンバーだよ、ハハハハハ!!」
「こいつめぇ、アハハハハ……あぅ」
心の底から笑う霖之助を見て、泣きながらヤケクソ気味に笑う魔理沙。
ふと空を見上げると、雲ひとつ出ていない夜空に無数の星が光り輝いていた。
「私も……あの中の一つになっちまうのかな……」
相変わらずレースシーンの描写が上手くて、引き込まれます。危険度大幅UPだし。
要はコレって、低速封印どころか二倍速でノーミスプレイしろ、って事ッスよね!? ボムは可みたいですが。
次回が凄い楽しみです! 取り敢えず、自分はスイカにSuica一枚!
続き期待してま~ス!!
失敬、失敬
なってますな、完璧に。
しかし障害で競妖が帰ってくるとは!?
ヨーヨーキはヨーヨームの敵を取れるのか。
非常に今後が楽しみです。
続き楽しみにしてます。