草木も眠る丑三つ時。
紅一色に染め上げられた空間で、対峙するは少女二人。
一方は、幼い外見に似合わず、余裕に満ちた態度で。
一方は、滾る衝動を、寸での所で押し殺すように。
「で、どうするって言うの?」
「もう、問答は不要だ。幻想郷を覆うこの妖気……
お前が犯人であるか確かめさせてもらう」
「別に構わないけど……それよりも」
レミリアは、すっ、と視線を逸らす。
それが油断を誘っての行動ではないことは、妖夢が一番良く分かっていた。
「さっきからそこで一部始終を見てるお爺さん。誰よ?」
「うー……それだけは触れて欲しくなかったのに……」
言葉が示す通り、妖夢の背後には、一人の老人が難しい顔をして突っ立っていた。
「ああ、ワシの事なら気にされるな。ただの見物人とでも思ってくれい」
「……って言われてもねぇ」
「なあに、空気みたいなもんじゃ。ただ、もし妖夢に何かあったら……
少しばかり気圧が変わるやもしれんがな」
等と、腰に挿した剣に手をかけつつのたまう。
冗談とは思えなかった。
何故なら、目が真剣そのものである。
「お師匠様……お願いだからそれだけは止めて下さい。
……というか! どうしてずっと着いて来るんですか!」
耐え切れない、と言った様子で妖夢が声を上げた。
「な、なんじゃ、ワシはお前の為を思って……」
「大きなお世話です!」
この老人の名は魂魄妖忌。
妖夢の祖父であり、また剣術の師匠でもある人物だ。
その剣捌きたるや、幻想郷中に知れ渡る程の冴えであり、今では半ば伝説とまでなっていた。
だが、彼にはただ一つだけ、どうにもならない欠点があった。
それは……
「いい加減放って置いて下さい! どこの世界に弟子にくっ付いては威嚇して回る師匠がいますか!」
「ここにおるではないか」
「威張らないでっ!」
そう。
彼は、真性の孫バカであったのだ。
「うう……」
妖夢は状況に追い詰められていた。
もしも、負けようのものなら、妖忌は本当に暴れ出しかねない。
そうなれば白玉楼、及び自分達の評判は、地を通り越してマントルまで落ちよう。
既に落ちきっているという意見は、脳内から抹殺する。
負けられない……絶対に。
幸か不幸か、妖夢のやけっぱちパワーは、有効に作用した。
「ああ、もう、服が汚れちゃったじゃないの」
涙目のレミリアが、頭を抑えつつぼやく。
そう、妖夢は勝ったのだ。
「って、犯人じゃ無い!?」
「だから、最初からそう言ってたでしょう」
「でも、それだと、もう犯人の心当たりが……」
「はあ? 一番怪しい奴が残ってるじゃないの。
ほら、あんたの親玉よ」
「……あ」
言われて見れば、だった。
策謀を凝らす事に関してなら、幽々子の右に出る者は居ないであろう。
確かに出立の際にも、何も言われる事はなかったが、それすら策の一つとすれば……
「む、妖夢。お前、お嬢を疑っておるのか?」
「え! あ、いや、その」
「それは違うぞ。確かにあの方は陰湿で嫌味で天然かつ大喰らいの陰謀家だが、
この事変に限っては、お嬢の仕業では無い」
「何故、そう思われるのですか?」
妖忌は顎鬚を摩りつつ、ニヤリと笑った。
「勘に決まっとろう」
「……そうですか」
聞いた自分が馬鹿であった。
翌日。
妖夢は一足早く、宴会場である博麗神社に赴いていた。
犯人の目星が着かない事もあってか、一応、網を張っておこうという考えである。
「師匠の言う通りだとすれば、幽々子様以外に真犯人がいるという事になるけど……
でも、そんな奴いるのかな……」
それと、もう一つ気になる事がある。
この異変は傍目に見て、余りにも曖昧に過ぎた。
現に出席者の大半は気付いてすらいなかったのだ。
ならば、その目的は一体?
「……うーん……」
一人、日の落ちかけた境内で考えに浸り続けていたその時。
「……はっ!?」
世界が、割れた。
「随分と沢山斬ったものね。そんなに冥界を満杯にしたいのかしら?」
日傘を片手に、突如として現れたその人物。
何が楽しいのか、顔には満面の笑みを浮かべている。
「紫様……」
主である幽々子の数百年来の友人であり、幻想の境界と称される大妖怪、八雲紫。
当然というか、妖夢自身も紫とは浅からぬ付き合いであり、
常日頃から幽々子と結託しては、散々にからかってくるという困ったさんである。
が、こうして一対一で相対するのは、久しぶりの事であった。
「相変わらず突然現れるんですね……まぁいつもそうですけど」
「あら、よく分かってるじゃないの」
「流石に慣れました。……今日は宴会にお呼ばれですか?」
「だったら良かったんだけどねぇ。いつまで経っても呼んでくれないから、自分から出向く事にしたの」
「いえ、それは違いますね」
「……どういう意味かしら?」
「私は、呼んでいましたよ」
かちゃり、という音がした。
「これほどまでに怪しい人物を忘れていただなんて……幽々子様、疑って申し訳ありませんでした」
楼観剣を腰溜めに構えては、真っ直ぐに正面を見据える。
その相手である紫はというと、余裕の態度を崩してはいない。
むしろ、以前にも増して楽しげな様子である。
「へぇ……少しは察しが良くなったようね。
……でもね、それじゃ合格点はまだ与えられないわ」
「そうですか、ならば……」
紫を見据える眼光が、より一層鋭いものへと変化する。
「この剣によって、お墨付きを頂く事に「おお、紫殿、久しいですな」
場にそぐわない余りにも暢気な声に、思わずつんのめる妖夢。
背後からのっそりと姿を見せたのは、言うまでもなく妖忌その人である。
「(ゆ、油断してた……まさかこのタイミングまで我慢してたなんて……)」
先日、撒いたと判断してから約十五時間。
その間、ずっと気配を殺しつつ付いて回っていたのだろうか。
「あら、妖忌じゃないの。ここ最近姿を見かけないから、てっきり成仏したものかと思っていたわ」
「生憎ですが、ワシは妖夢の晴れ姿を見るまでは、生き汚くも半生に執着するつもりですからの」
「それは……随分と長い事になりそうね」
「ふはは、相変わらず冗談がお好きな事で」
本気なんだけど。とは言わなかった。
一応、本人の前であるからだろうか。
「……?」
当の妖夢は、今ひとつ理解出来ていない様子であったが。
「まぁ、ここは再会を祝して一つ、勝負と洒落こんでみるのは如何ですかな?」
「成る程。そう来るとは意外……でも無いわね。貴方なら言い出すと思ったわ」
賛成の意なのか、紫が懐から一枚のスペルカードを取り出す。
「では、先手必勝と言うことで……幻想『第一種永久機関』!」
宣言と同時に、四つの光弾が、妖忌を包み込むよう現れては回転を始める。
更にその光弾から吐き出される、無数の小さな光弾。
「むぅ? 何とも珍妙な……」
「貴方に見せるのは初めてだったかしら。
文字通り、永久に張られ続ける弾幕……どう対応してみせるのかしらね?」
「対応? これは不思議な事を言われる」
それまでまったく動きを見せなかった妖忌が、初めて行動に移る。
剣は抜かない。
カードも取り出さない。
回避の素振りすら見せない。
ただ、己の存在を誇示するかのように、両の手を広げただけであった。
「この鍛え上げた肉体に、小細工など必要無し!
弾幕は友達! 怖くない! 体のどこにでも当たれい!」
妖忌は、謎な台詞と共に弾幕へと突進した。
グレイズ等という小奇麗なものではない、まさにバンザイアタックである。
「ふはははははははは! かゆい! かゆいですぞ!」
いつの間にか、周辺を回る光弾のみならず、大小さまざまな弾幕まで展開され始めていた。
が、それらすべての直撃を喰らいながらも、妖忌は余裕の様子で走り回る。
弾幕戦の常識を覆す、恐るべき行為である。
「く……! 相変わらずの変人振りね!」
半ば呆れながらも、紫は更に光弾の数を増やす。
しかし、それに対しても妖忌は、何ら動揺を見せない。
それどころか、一端立ち止まっては、ニヤリと笑みを浮かべる余裕振りだ
「おや、おかわりはまだ頼んでおらぬと言うのに。いやはや、大判振る舞いですなあ」
「……」
今や完全に取り残された感の妖夢。
抜き身の剣もそのままに、目の前の惨劇……否、喜劇を呆然と眺めるのみである。
妖忌が平然としている理由。それは分からないでもない。
弾幕……特に、今紫が展開しているようなタイプのものは、主に不意を突く事を目的としている。
ならば、最初から受ける事を前提に動けばどうか?
確かにそうすれば、受けるダメージは最小限に抑えられるかもしれない。
が、現実にそれが出来るかというと別問題である。
極端な話、あんな馬鹿な戦いぶりは、妖忌以外に出来る訳が無い。
分かっていた所で痛いものは痛いのだ。
というか、普通死ぬ。
「さて……そろそろカードゲットとしますかの」
依然として無数の弾幕が直撃しているにも関わらず、
まるでそれを無視しては、手にした刀を構える。
「ふんがっ!」
そして、無造作に振り切った。
「……!?」
紫の目に映るは、真一文字に迫り来る衝撃破。
それは、ただ本当に、目の前の敵を落とす為だけの一撃であり、何の工夫も凝らされてはいない。
が、だから何だと言うのだろう。
速い。
重い。
鋭い。
それだけで、十分だった。
「う、きゃあっ!」
ぽてん、と墜落した紫を、いつもの顎鬚を摩るポーズで見据える妖忌。
「ふむ、スペルカードの選択を誤りましたな紫殿」
「あたた……ええ、まったくその通りね」
埃を叩きつつ、ゆっくりと紫は起き上がる。
流石というべきか、傍目にも左程のダメージは無いように見えた。
「貴方みたいな相手に、包囲弾幕は無意味……私も呆けてきたのかしらねぇ」
とぼけた言葉遣いは変わらない……が、その瞳は明らかに趣を異としていた。
「では、今一度、参りましょうかの」
「……ええ、臨むところよ! ……と言いたい所だけど、その前に」
そこで、今思い出したかのように、くるりと振り向く紫。
「妖夢。もう分かってるでしょうけど、この妖気……ああ、目の前の変態老人じゃないわよ。
これの犯人は私じゃないわ。今、真犯人の所へ送ってあげるから、貴方は貴方で勝手になさい」
「……はぁ、分かりました」
今ひとつ、釈然としないものを感じながらも、妖夢は頷く。
自分の役目を果たすことが先決であるから。
決して、妖忌を視界から一刻も早く消したかった、等という理由ではない。
多分。
「それじゃ、一名様ごあんなーい」
「……ここは?」
気が付くと妖夢は、見知らぬ場所に立っていた。
一切の人工物が存在しない、ただ、月の光だけが存在感を露とする空間。
だが不思議な事に、寒々しい空気はまったく感じられない。
原初たる光景、とでも言うのだろうか。
「や、始めまして、かな?」
「!?」
妖夢は慌てたように、声の方向へと顔を向ける。
「(まったく気配を感じなかった……紫様ですら、僅かに兆候を見せていたというのに)」
「随分と悪行を重ねてきたみたいねぇ、冥界の住人を自給自足って所?」
のほのんと語りかける、一人の少女。
小柄である妖夢と比べても、さらに小さく見えるその姿。
が、それが力と直結していないことは、こうして見ているだけでもよく分かった。
「妖気が消えたということは、お前が犯人か」
「人を犯罪者呼ばわりするんじゃないの。……そもそも、あれは妖気なんかじゃないよ」
「?」
「……まぁ、言っても分かんないか。あんたにはまだ、修行のみならず色々と足りないみたいだからね」
それが、挑発の意を込められた言葉なのかは、判別がつかない。
が、昨日今日と、色々とストレスを溜め込んでいた妖夢には、十分過ぎる言葉であった。
「御託はいい。お前が犯人。だから斬る。これ以上は何も必要ない」
「斬る? あはは、面白い事言ってくれるじゃない」
少女は、心底おかしいと言った感じで笑い声を上げる。
「ああ、自己紹介が遅れたわね。私は伊吹萃香。
貴方達の言う所の、鬼って奴ね」
「鬼、だと?」
「吸血鬼やら幽霊やらの魑魅魍魎が、堂々とのさばる幻想郷。
鬼が存在した所で、何の不思議もないでしょ?」
「それは……そうだけど……」
「ま、御託はいいんでしょ。
その剣で鬼が斬れるものか……確かめてみなさい!」
「……そうだったな。
魂魄妖夢……参る!」
「いかん! いかんぞ妖夢!」
二人はコケた。
「ああ、もう……!」
一体、これで何度目だろう。
もう腰を折られる事にも慣れつつあった。
見れば、紫との戦闘直後であるにも関わらずやたらと元気な様子である。
どこまで無茶苦茶な存在なのだろう。
「そやつを甘く見るでないぞ。いいか、鬼を斬るにはな……」
「お師匠様」
凛とした声が、妖忌の薀蓄を遮る。
「私なら大丈夫ですから、戻っては頂けないでしょうか?」
「む、だがな」
「戻っては頂けないでしょうか?」
「し、しかし……」
「戻っては頂けないでしょうか?」
「むぅ……そ、そうか……」
妖夢の目は、真剣だった。
言葉遣いこそ崩してはいないが、言外に『失せろ』の意が込められている事は明白である。
流石の妖忌も、これには些かショックを受けた模様であり、
力なく踵を返すと、少しずつその場から遠ざかって行く。
「……」
気まずい。
大人しく帰るとは意外だったが、その図体に纏ったどんよりオーラはどうにかならないのか。
しかも、数歩進む度にこちらを振り返る。
その瞳はまるで捨てられた子犬のように儚く切なげだ。
「ぬぉっ!」
こけた。
仮にも伝説の剣士と謳われた人物とは思えないへっぽこ振りである。
地に伏したまま起き上がらない妖忌に、鬱陶しい程に巨大な半身が慰めるように寄り添った。
と言っても、どちらも妖忌自身なので、言うなれば女々しい自作自演と言った所か。
「ああ……こうして孫も一人立ちしていくのだな……ワシは嬉しいぞ。
……だが、この頬を伝う液体は一体何だ?
これは涙? ワシは泣いているのか?
女々しい、女々しいぞ魂魄妖忌!
己が肉親の成長を喜べないような醜い精神の持ち主か貴様!
前を向け。そして歩き出せ。挫けるな! ううっ……」
「……」
妖夢は顔をしかめると、無意識に眉間を押さえる。
「(いつからお師匠様はこんなアレな人になってしまったんだろう……)」
もしや、自分が気付いていなかっただけで、元々こういうキャラだったのかもしれない。
そうだとすれば、蟄居した理由も頷ける。
否、蟄居ではない。
追い出されただけなのだ、と。
「……そういえば、幽々子様はお師匠様が苦手だったな……」
とは言え、仮にも妖忌は己の師匠であり、そして血の繋がった祖父である。
放って置くという選択肢も魅力的ではあったが、妖夢が選んだのはもう一つの方であった。
「……お、お爺ちゃん」
「!?」
妖忌が、ぱっと顔を上げる。
先程とは打って変わり、まさに歓喜と呼ぶに相応しい表情である。
「よ、妖夢……まだワシをお爺ちゃんと呼んでくれるのか」
「あ、当たり前でしょ。
その、心配してくれてるだけっていうのは私にも分かってるから……
ここは任せてくれないかな?」
これまでのような敬語ではなく、また、戦闘時のような高圧的な口調でもない。
稀に、本当に極稀にしか見せる事のない、妖夢本来の口調であった。
「大丈夫、絶対に勝つよ。だって、私は魂魄妖忌の孫だもん」
「……そうか。ならば何も言うまい。剣により示される心、あの鬼娘に見せてやると良い」
「うん」
返事を聞いた妖忌は、一回大きく頷くと、今度はしっかりとした足取りでその場を離れた。
が、表情がにやけきっているので台無しであった。
「……待たせたな」
「……うぃっく……ん、あー、終わった?」
地面に寝転がり、酒をかっくらっていた萃香が、やる気なさげに顔を上げた。
「ああ、始めるぞ」
「へーへー」
二人の闘いは、一見壮絶であった。
……そう、一見。
すでに気力が減退しまくっている萃香。
宣言した以上、何としてでも勝たねばならない妖夢。
この勝負の行方、どちらに傾いた状態から始まっていたのかは言うまでも無い。
だがそれでも、萃香の繰り出す技は、苛烈の一言に尽きた。
故に、壮絶なのである。
「迷津……慈航斬!」
裂帛の気合と共に、楼観剣が振り下ろされる。
「あーれー」
投げやりな断末魔と共に吹き飛ぶ萃香。
ついに、最後までやる気は感じられなかった。
先程のやりとりが、これを想定してのものならば……
恐るべしは魂魄が師弟である。
「腕を上げたな、妖夢」
いつの間にか、再びこの場へと舞い戻って来ていた妖忌が、厳粛に声をかけた。
「……いえ、まだまだ。到底お師匠様には及びません」
戻れ言うたやないか。という突っ込みを押し殺し、静かに言葉を返す。
事実、これは妖夢の本心であった。
己の目指すべき所は、今だ遠いのだ。
「ぬぅ……もう、お爺ちゃんとは呼んでくれんのか?」
「……以前、『これからワシをお爺ちゃんと呼ぶことはまかりならぬ』とおっしゃられたのは、
他でも無い、お師匠様自身だった筈ですが」
「そ、そうだったな、うむ。いや、分かっておったぞ?」
「……はぁ」
「嘘じゃないぞ!?」
……こんな人物ではあるが、それは確かなのだ。
「……アホらし。これじゃまるっきり道化じゃないの」
萃香はそんな師弟の様子を眺めつつ、ヤケ酒とばかりに瓢箪を傾ける。
「ま、いっか……そろそろ飽きてきた所だったしね」
先程の一戦。実のところ、萃香自身に手を抜いたつもりはなかった。
やる気無さそうに見える態度も、本来彼女が持つ物の一つなのだ。
最後に繰り出したスペルカード『百万鬼夜行』に至っては、必殺の意を込めて放った物である。
だが、萃香は破れた。
それが何を意味するか……理解しているのは、自分を除いては一人だけであろう。
「……にしても、私にも心理分析の出来ない奴がいるとはねぇ。ありゃ一体、何者なんだろ」
彼女の呟きを耳にするものは、誰もいない。
所は変わって、白玉楼。
無事、異変の元を断った妖夢は、幽々子への報告を行っていた。
「それで結局、あの妖気の正体は何者だったの?」
「アレですか。……ただの、変な奴でしたよ」
萃香にしてみれば、お前達ほどじゃないと言いたかっただろう。
だが悲しいかな、彼女を擁護する人物はここには存在しない。
「変な奴ねぇ、それって」
幽々子はちらりと視線をずらす。
「アレよりも変な奴? だとしたら国宝級どころじゃないわね」
「……」
当然というか、妖夢には返す言葉も無かった。
「もう……どうして連れて来たりするのよ」
「いえ……連れてきたんじゃなくて、勝手に着いて来たんです」
「……あっそ」
二人から離れること数十歩程の距離。
木の陰から、ちらちらと妖忌の姿が見え隠れしていた。
本人は潜んでいるつもりなのだろうが、その図体と半霊が隠しきれる訳も無い。
「……本当にアレで剣の達人なのかしら。疑わしいったらありゃしないわ」
「……」
やはり、というべきか。
幽々子の妖忌に対する態度は、好ましいとは言い難いものだった。
「(まったく……いつまで孫に執着してくれちゃってるのかしら。
いっそこの場で引導を……いやいや、それじゃ余計酷い事になるじゃないの。
大体アレが、殺そうとした所で死ぬようなタマでも無いし……)」
ぶつぶつと考え込んでいた幽々子だが、何やら思いついたのか、ニヤリと笑みを浮かべる。
途端、妖夢は戦慄する。
この笑みが出たとき、まともな事が起こった試しが無い。
「よぉむ~、今日は疲れたでしょう。もうお仕事は良いから、お風呂にでも入ってらっしゃい」
「へ?」
「あ、そうだ。せっかくだから私も入るわ。背中流しっこしましょ」
「ゆ、幽々子様!?」
「ほらほら、早く行きましょう。
女同士でしか出来ないスキンシップを、それはもう猛然と執り行うのよ!」
「ひ、響きが怖いですよぅ!」
「怖がる事なんて無いわ。それはとてもとても気持ちの良い事なのよ?」
「一つに!?」
問答無用とばかりに、幽々子は妖夢を引き摺るようにして、屋内へと消えてゆく。
桃色やら灰色やら、様々な情念の交じり合ったオーラを発しながら……。
そんな二人の様子を伺っていた妖忌は、さめざめと涙を零していた。
口にはハンカチなどを咥えており、不気味な事この上ない。
「お、お嬢……そんなにワシが憎いですか……
……だが! いかなる障害があろうとも、ワシは妖夢を見守り……ふがっ」
妖忌の魂の叫びは、何処より飛来した死蝶霊の前に遮られた。
いつの間にか忘れていたようだ。
妖夢より以前に、この冥界に住んでいたものを。
覗きくらい大目に見て……やるもんですか!
西行寺 幽々子
でも、こう言う妖忌もありかなと受け入れてしまえる・・・
いあ、笑いが止まりませんでした♪
いつかこういう妖忌が来るとおもってますたwwwwっw
ええ、こんなジジイもアリアリですともさw。
あの亡霊嬢をして心胆寒からしめる物とくりゃあ、もうね、もうw。
他の方々が称えた点がどうにも馴染まなかった私。
スルーせよと言われそうですが、敢えて。
という台詞を覆す妖忌の活躍が面白かったです。
そーなのかー! よーし私も・・・弾幕はともd(ピチューン
・・・・・・素人にはオススメできない。
関係ないですが、萃香戦の前には、「この妖怪が鍛えし楼観剣に~」と言う台詞は欲しかったです。
幻想郷は老いてなお盛んなところだぜ……。
凄まじい勢いでイメージぶち壊されまくりでした。ある意味、それが快感。