Coolier - 新生・東方創想話

戦史と悪魔、新月の夜に

2005/06/19 00:50:56
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紅い紅いお屋敷。
紅い館の幼い主人が、憤慨しながら廊下を歩く。
「まったく、フランには困ったわ」
その、紅い主人の半歩後ろに瀟洒な従者が付き従う。
「えぇ、困りましたわ」
主人が困っているのは、このお屋敷の幼い主人、レミリア・スカーレットの妹、
フランドール・スカーレットの事。

「フラン、今日から歴史をお勉強しなさい」
レミリアは妹の部屋に直接出向いてそう告げた。
今までは部屋の中だけが妹の世界だった。
フラン自身も、それだけで満足していた。
が、とある出来事からフランは外に興味を持ち出した。
「お姉様、私も外に出てみたい!」
妹の願望は叶えてあげたい。
だが、妹は力の制御ができない。
それは危険すぎる。
それに加え、外も危険だ。
降雨、流水によって力を削がれれば動けなくなるし、
日の光は体を蒸発させる。
それ以前に、レミリアの可愛い妹は外の世界を知らなさ過ぎた。
どうすれば良いのだろう?
レミリアが思案していると
「そうね……それなら外の世界を知ってからでいいんじゃないの?」
レミリアの古い友人、パチュリー・ノーレッジは予備知識があれば良いのでは?、と言うのだ。
さすが知識人。
持つべき物は友である。
世界の予備知識――歴史から教えれば、妹の勉強にもなる。
その間に力の制御もできるかもしれない。
それに長い間可愛い妹を館に置いておける。
そう思って妹に告げたのだ。

だが……
「ぅー……お姉様は?」
「私がどうしたの?」
「お姉様は歴史を勉強したの?」
この一言が原因だった。
「私が歴史を? するわけ無いでしょ、過去なんて知っても無意味…もがッ」
後ろで従者の咲夜が慌てて主人の口を塞ぐが、
「お、お嬢さまッ」
「むぐぐッ」
「じゃあ、私も勉強しないもーん」
遅かった。
それでももう一度聞いてみる。
「……妹様、歴史の勉強の方は……?」
「ふーんだ、お姉様がしてないなら私も歴史は勉強しなーい」
そう言うとフランドールは部屋の奥に引っ込んでしまったのだった。
「ぶはッ、もう、苦しいじゃない!」
「あぁ、すみませんお嬢さま」
「ふん、もういいわ、戻りましょ」


そして現在に至る。



主人であるレミリアを部屋に送った咲夜は、
時間を止めて掃除をしながら、思案していた。
従者が考えているのは主人の歴史嫌い克服だった。
レミリアが歴史を好きになって勉強すれば、妹のフランドールも勉強してくれるはずだからだ。
「うーん……」
しばし考え、思い至る。
「そういえば、丁度いいのが居るじゃない」
案が浮かべば、咲夜の行動は素早かった。


▼△▼△▼


草木も眠る丑三刻、仄かに光る星々を背景にして一人の少女が腰に手を当てて、
人間の集落をはるか上空から見下ろす。
「うん、今夜も異常無し、と」

彼女の名は上白沢 慧音
妖怪達からこの集落を守る存在。

慧音は振り返り、雲一つ無い空を眺める。
「今日は新月、か……」

だが、彼女は人ではない。
半獣と呼ばれる存在で、満月の夜には白沢に姿を変えてしまう。
それでも、彼女の気持ちは変わらない。
彼女は人間が好きで、この集落を守る為に力を使う。
どんな存在が現れても、人間の為に彼女は、戦う。

「そうだな……明日は妹紅でも誘って茶でも……」
明日の事を考えて満足そうに微笑むと、
長い髪を翻して、集落の外れにある自分の家に戻ろうと
ゆっくりと宙を降りてゆく。
だが、帰宅するのは少し遅れる事になった。
彼女の背後から声が掛る。
「もう帰るのかい? 折角遊びに来たというのに……」
以前二度ほど耳にした声だった。
「今度は何の様だ? 悪魔たち」
振り返り、居るであろうその二人を睨みつける。
やはり、あの異変の時に対峙した悪魔とその従者だった。
「何の様?……誰にでも判る事でしょ? 吸血鬼が人里に来る理由なんて……」
「……ふん、里の人間には、指一本触れさせない!」
そう言うなり、里の四方に使い魔を飛ばし、結界を展開する。
見る見るうちに、里全体が陽炎の様に揺らめくと、薄れて行き、やがて消えてなくなる。
里の歴史を食べて隠し、無かった事にしたのだ。
「歴史を喰ったわね……」
「待たせたな。 あの時の屈辱、晴らさせてもらうぞ!」
「咲夜、貴女は見てればいいわ」
手で咲夜に合図をすると、前に出る。
「はい、お嬢さま」
咲夜が下がる。
「ふん、一人ずつ、か。 まぁいい、この日の為に準備させてもらったよ。
戦いの歴史をな!」
言うなり複数の魔法陣を展開する。
「受けてみろ、大陸を席捲した騎兵の力を!!
戦史・蒼き狼の末裔!!」
魔方陣が輝きを放ち、屈強な騎兵が無数に召喚される。
現れた騎兵達はそのままレミリアに向かって猛然と突撃する。
「ふふ……楽しめそうね……」
微笑みながら魔力で爪を伸ばし、硬化させ迫り来る騎兵を迎え撃とうとする。
だが、レミリアの予想は外れた。
「あら?」
騎兵部隊が速度を保ったまま左右に分かれたのだ。
さらに、左右の騎兵が同時に射撃をしてくる。
「へぇ、騎射で十字砲火……」
すっと身を避けて火線の通らない場所に身をおき、反撃する。
「でも、ぬるいわね。 この程度、一薙ぎで吹き飛ばしてあげるわ!」
右に分れ、すれ違おうとする部隊に魔力を乗せた爪を振るう。
振るわれた魔力が紅い衝撃となって騎馬隊を襲う。
「ふ……」
その様子を見て、慧音がにやりと笑う。
紅い衝撃は、数匹の使い魔をズタズタに引き裂いただけで終わってしまった。
部隊が散開して最低限の被害に食い止めたのだ。
「ちッ……小賢しいわね……」
左右の部隊は更に二手に、計四部隊に分かれてそのまま疾駆し、レミリアの遥か後方に去っていった。
「……これで終わりかしら?」
慧音とレミリアの間には弾一つ、遮る物すらない。
「さぁ?」
だが、慧音は余裕の表情で両手を肩まで挙げて、判らない、と体で表現する。
「ふ……」
離れてみていた咲夜にも判った。
レミリアが慧音の挑発に乗ってしまったことが。
「ふざけるな!」
弾幕ごっこよりも、肉弾戦の方が好みであるレミリアは当然の如く、
翼を広げ、慧音に向かって猪突する。
「ふ……莫迦め!」
慧音が両手を突き出し、巨大な妖気弾を猛進するレミリアに向かって放つ。
「こんなもの!」
魔力の帯びた手で簡単に妖気弾を薙ぎ払う。
バチッと火花の散る音がし、軌道を逸らされた妖気弾が爆ぜる。
その衝撃によって少しだけ、レミリアのバランスが崩れる。
「むぅッ」
レミリアがバランスを崩した一瞬の隙を突いて、
慧音は後退しながら、激を飛ばす。
「懸かれ!!」
後退する慧音と入れ替わるように、
左右から突如現れた騎馬隊が流矢のような弾幕を張りながらが押し寄せる。
「くぅうッ……」
弾幕に比べ、騎馬の突撃は危険だ。
満月の夜なら、運命操作との相乗効果で、蝙蝠一匹分さえ残れば瞬時に完全再生可能だが、
今は新月だ。
夜が最も濃い日ので魔力は十二分に振るえるが、再生能力がフランと同程度になってしまう。
つまり、上位吸血鬼程度にまで落ちてしまう。
腕一本程度なら瞬時に再生可能だが、全身となると時間がかかってしまう。
「……ちぃッ」
いくらか被弾しながらもその場を飛びのく。
レミリアのすぐ脇を騎馬隊が疾駆する。
「後ろがガラ空き……」
魔力の塊をぶつけようと力を両手に集中し振り向くが、
「ひゃぁ!!?」
なんと、またも騎馬隊が迫ってきていた。
二度目の奇襲。
完全に虚を突かれ、集中が途切れてしまう。
集まっていた魔力が霧散してしまう。
「なッ また!?」
「なに、戻ってきただけだ……それより、どうする?
もう一度踊るかい?」
両手を組んだ慧音が不敵に笑い、
先ほどのレミリアの様子をダンスに喩え、挑発する。
「ふん、折角の二度の勝ち目を無駄にしたわね」
再度、魔力を両手に込めて慧音に飛び掛る。
「もう一度……、踊れ!」
またも妖気弾を撃ち出してくる。
今度はこちらも魔力弾で相殺させる。
「相殺したか? だが既に騎馬隊は戻ってきている! 懸かれ!!」
空中なのに、蹄の音をたてて騎馬隊が突撃を敢行する。
しかし、二度目は勝手が違った。
迫り来る騎馬隊に向かってレミリアは手をかざし、魔法陣を環状にいくつも展開する。
「邪魔だよ、お前達……サーヴァントフライヤー!!」
魔法陣が輝き、騎馬隊に向かって蝙蝠が撃ち出される。
突撃状態では散会できない。
騎馬隊たちは展開していた弾幕や繰り出す槍によって襲い掛かる蝙蝠を撃ち落すが、
レミリアの圧倒的な魔力量によって無尽蔵に撃ち出される蝙蝠に対処できなくなり、
次第に勢いが削がれ、逆に撃破されてゆく。
目の前で騎馬隊が数を減らしているのに慧音は余裕だった。
「止まっていては標的だぞ?」
後方からも馬蹄が響き、弾幕が脇を掠める。
残りの騎馬隊が、レミリアの左右の背後から襲い掛かる。
だが、この攻撃も既に予測がついていた。
所詮はスペルカード――術式である。
記された式の通りにしか術は発動しない。
つまり、パターン化してしまうのである。
「標的? 違うわ……先ほどの貴女といっしょ、囮と言うものよ」
蝙蝠を打ち出し続ける魔法陣をそのままに、くるりと後ろを振り向く。
「先に来るのは……左、ね」
呟くと、爆発的に紅い魔力を燃やし、左翼の騎馬隊目掛けて突進する。
「デーモンロードアロー!!」
展開された弾幕を掻い潜り、紅い彗星が迫り来る騎馬隊を木っ端微塵に打ち砕く。
散会する暇も無かった。
「なんだと!」
驚愕する慧音を余所に、
騎馬隊を壊滅させたレミリアは、宙でくるりと回転し体勢を整える。
そして、その手には圧縮された紅い魔力。
レミリアの視線の先には
目標を失った騎馬隊がパターン通りの進路を弾幕を張りながら直進している。
「消えちゃえ!」
レミリアから放たれた紅く巨大な魔力弾に反応し、騎馬隊が散会するが、
その範囲も考慮された魔力弾は騎馬隊を飲み込み、消滅させた。
「ふぅ……少し汚れたわね、……これで終わりかしら?」
「ふ……ッ」
慧音の両手に妖気が集まり、紋様の浮かんだ妖気の塊を形成する。
「 準 備 し た と言った!」
レミリアに向かって紋様弾を放ち、
さらに、両手を突き出し、無数に魔法陣を展開する。
先ほどの紋様弾を簡単に避けるとレミリアはため息を吐く。
「さっきと同じだねぇ……」
「ふん、同じかどうか、貴様の体で試してみろ!!
彼によって確立し完成された、完全なる包囲を!!
戦史・ハンニバルの全周包囲殲滅!!」
魔法陣が輝き、左右両端の魔法陣からは騎兵が、
中央の魔法陣からは屈強な戦士が隊列を組んで現れる。
「無駄無駄無駄無駄ァ!、私の蝙蝠でもう一度粉砕してあげるよ!」
レミリアも瞬時に
慧音が用意した戦列と同数の数の魔法陣を展開する。
圧倒的な魔法力を見せ付けられて慧音が毒ずく。
「くッ……バケモノがッ……進め!!」
慧音の号令に、戦士達が流矢によって弾幕を張りつつ、巨大な盾を構え前進する。
それを迎え撃つ様にレミリアは蝙蝠を一斉に撃ち出す。
先ほどと同じなら、暫くすれば蝙蝠達によって戦列に穴が出来るはずだ。
そうなれば一気に慧音に肉薄できる。
だが、今度の使い魔は頑強だった。
「……確かに違うわね……」
高速で召喚され、撃ち出される蝙蝠と慧音の戦士たちは完全に拮抗していた。
時折蝙蝠を越えた弾がレミリアを掠める。
正面戦力が耐えていると、慧音が次の手を打つ。
「さぁッ、コレはどうする?」
両翼の騎馬隊がレミリアを包囲しようと前進する。
このまま此処に留まれば囲まれてしまうが、
突貫し突破するか、後退して騎馬隊だけを引きずり出せば包囲されなくてすむ。
前者だと、突破に時間がかかれば包囲されてしまう。
「引きずり出して叩くべきね……」
そう判断すると、レミリアは後退しようとするが、
「お嬢さま、後ろは既に塞がっています!」
離れて見ていた咲夜から声が掛る。
背後には既に戦士と騎馬隊が戦列を組んでいた。
「ちぃ……最初の紋様弾ね」
背後からも弾幕が展開される。
「今更理解しても遅いぞ!」
ジリジリと包囲が狭まり、弾幕の密度が濃くなってゆく。
「ッ……」
周囲に魔法陣を移動させ、弾幕を蝙蝠達で打ち消しつつ上空を見上げる。
曲射された矢が夜空を埋め尽くしている。
「下が空いてるぞ?」
「……狙い撃つ気なのは分かってるわ」
「そうか……、ならば潰れろ、全軍前進!!」
前後の戦士達が長剣を構え、声をあげて突撃する。
左右の騎馬隊も、槍を構えて突撃する。
「迎え撃て、蝙蝠達!!」
迫り来る戦士達に向かって、蝙蝠達が魔法陣から撃ち出されるが、
所詮は攻撃専用の使い魔である。
戦士達をいくらか撃破するが、前進までは止められ無い。
高く掲げられた長剣が振り下ろされると、
パキンッと澄んだ音がして魔法陣を切り崩される。
「かかれ!!」
そして慧音の号令の元、戦士達はレミリアに殺到し切りかかる。
「なめるな!」
硬質化した爪で、迫る戦士を引き裂き応戦するが、
流石のレミリアも、左右前後から繰り出される槍の刺突、剣の斬撃を全て避けることは出来ない。
「くッ……ぐッ……ぁ……」
鈍い衝撃と共に、
レミリアの小さな体から一本、二本と槍が生え、鮮血が飛び散る。
動きの止まったレミリアに、更に攻撃が加えられ、その度に赤い飛沫が戦士達を染める。
「お嬢さま!」
咲夜が叫ぶ。
叫ぶが、駆け寄ろうとはしない。
「やはり、包囲されればあっけないな……」
慧音が勝利を確信する。
が、
「……ふふッ……」
レミリアは笑っていた。
串刺しにされたままで。
「まさか……、あえて攻撃を受けたと言うのか!?」
「あはははははははははははッ、
全ての兵が集まるのを待っていたんだよ!
消し飛べ!!
紅符・不夜城レッド!!」
レミリアの全身から、暴力的な紅色の魔力が放たれる。
紅色の衝撃は周囲を埋め尽くす戦士達を巻き込み、彼ら全てを破壊する。
紅い光に照らされるながら、慧音が歯噛みする。
「ッ……でたらめなヤツ……」
やがて、紅色の暴力は終息する。
すっきりした顔のレミリアがスカートの汚れを払う。
「ふぅ……服がボロボロになってしまったわ……」
既に傷は癒えた様で、
見れば槍や剣で切りつけられた場所から白い肌が見え隠れしている。
そんな格好を気にすることなく、レミリアは、
「さぁ、まだ楽しめるのかしら?」
と慧音に問う。
「あぁ、コレで最後だ存分に楽しんでもらおう」
そう言うと、慧音は三度目の魔法陣を前方に多数展開する。
「近代戦術の創始者にして完成者である征服王が生み出した決戦陣形、
貴様に耐 え ら れ る か ?
戦史・アレクサンドロス・ファランクス!!」
ずらりと並んだ魔法陣から、超長槍を持った重装の戦士達が現れ、密集陣形を取る。
一部の隙間も無い程密集した完全な方陣。
そこから突き出された超長槍が壁のように整然と並んでいる。
「これは……、見事ね…」
レミリアが思わず漏らした本音。
見ただけで解る。
アレは突撃に純化した陣形。
アレが出来る事は突撃だけ。
何か一つに純化した物は、それだけで美しい。
レミリアは目の前にあるソレから、狂的で、破滅的な美を感じ取り、
思わず言葉を漏らしたのだ。
「踏み潰せ!!」
慧音の、今宵最後の号令が発せられ、兵士たちの怒号が夜空に響く。
隊列を組み、一つになった狂気が前進する。
今までの様な弾幕は展開されない。
目標は、レミリア。
ただ、進むのみ。
「あはははははははははッ、面白いわ!最高よ!!」
全身から紅い魔力を噴出すと、槍の壁に自ら突撃をかける。
突き出される槍を避けて戦士の懐に飛び込むと
戦士の胸部装甲に手を当てる。
メキッという音と共に、装甲がひしゃげる。
「ふふ……、」
両手から魔力が噴出し、
一瞬にして、最前列の戦士たちの目の前に紅い魔力の帯が壁の様に現れ、
戦列を包み込む。
「……力比べよ!」
紅い魔力の壁に阻まれ、全軍の突撃速度が落ちる。
「な、なんだと!」
この陣の後ろに居るであろう、慧音が驚愕する。
軍の突撃を、個人が押し返そうというのだ。
こういう事は、勝負事が大好きな鬼が好んでやる。
吸血鬼であるレミリアもまた、そんな鬼の一人だった。
幼き夜の王と、統制された狂気の単純な力比べ。
「……ふ、ふふ……」
レミリアが思わず笑う。
なんと、前進が止まったのだ。
「これで、……私の勝ち、ね……」
前進を止めたと言う事は、越えたという証。
個人が軍を凌駕したのだ。
後は全力でこの陣を打ち砕くのみ。
力を増強する為に、レミリアの全身を紅い魔力が包む。
「まだだ、これは戦いだ!
征服王がとった戦術……」
密集陣形の後ろで慧音が叫ぶと、どこからか蹄の音が聞こえる。
「金床の動きを止めたお前に……」
密集陣形の左端から、騎馬隊が現れる。
慧音自ら騎乗し、陣頭に立っていた。
「鉄槌をプレゼントしてやる……」
騎馬隊全てが、妖気で形成、具現化された槍を構える。
号令の元、一匹の獣がレミリアに疾駆する。
目前には自分を拘束する強大な槍の壁、
左から向かい来るは一匹の獣と化した騎馬隊。
レミリアはそんな状況に狂喜する。
「いいわ……、運命を……生と死の境界を感じるわ! 」
レミリアを包んだ紅い魔力が、魔王の証である、巨大な六枚の翼を作り出す。
「ぁああああぁぁぁああッ」
渾身の力を込めて軍を、押す!
押す!押す!
「!?」
戦士達使い魔が驚愕する。
突撃に純化し、押しつぶす存在である自分達が、
押し戻された。
たった一歩の後退。
だが、それが、戦士達の心を打ち砕いた。
「あ゛ぁあ゛あ゛ッ」
巨大な翼を広げた悪魔が更に、両手を思いっきり突っ張る。
その、圧倒的な一押しの前に、戦士達の形が崩れてゆく。
戦士達の崩壊は、ファランクスの崩壊を意味した。
頑強だったファランクスがガラス細工の様に崩れ去る。
目の前の壁を崩したレミリアだが、
慧音率いる騎馬隊が、一匹の獣がもうすぐソコまで迫っていた。
「……砕け散れぇええ!」
慧音と、その使い魔が、敵を打ち砕くと言う具現化した意志を、槍と化して放つ!
迫る獣の爪牙に、体を左に向けることすら間に合わない。
そんな状況で、思わずレミリアは笑い出した。
「あはははははははははははははッ」
左手を伸ばす。
手の中には、圧縮された紅い魔力。
魔力は自身の血と混ざり合い、巨大な槍を形作る。
必ず貫くというその槍を構え、放つ。
槍と槍がぶつかり合い……



「「――ッ!!?」」
巨大な力のぶつかり合いは、爆発となって周囲を巻き込んだ。
辺りを光が支配する。
月明かりの無い夜空が明るく照らされる。
そして、轟音と衝撃。
離れていた見ていた咲夜に、衝撃によって生み出された風が叩きつけられる。
「くッ……二人は?」
爆心地に急いで駆け寄る。
そこには横たわる二人……


▼△▼△▼


寅三刻を過ぎた頃。
「すまん、待たせたな」
汚れを洗い落とした慧音が、髪を拭きながら部屋に戻ってくる。
集落の外れにある慧音の住処。
その居間には、先ほど激戦を繰り広げた相手、レミリア・スカーレットとその従者、
十六夜 咲夜が座っていた。
レミリアは真新しい洋服に身を包んでいた。
どうやら咲夜が時を止めて、着替えを持ってきたようだ。
「お二人ともお疲れ様でした」
「ふーッ……少し熱くなりすぎたな……あぁ、すまんな。」
咲夜に紅茶を出されて、慧音は礼を言ってカップを受け取る。
「本当ね。 でも、楽しめたからいいわ」
満足そうに微笑むと、紅茶に口をつける。
この紅茶、もちろん慧音の持ち物ではない。
咲夜が持ってきたものだった。
「ふむ、それは良かった」
「どうかしら、うちで働かない? 今日みたいに毎日楽しめるのなら雇うわよ?」
「今日みたいな毎日……いいや、遠慮しておく」
慧音が顔を青くして申し出を断る。
「あら、そう?」
と呟くと、レミリアは紅茶を飲み干した。
「お嬢さま、そろそろお帰りの時間ですが……」
懐中時計を見て、咲夜が告げる。
「そうね、それじゃあ失礼するわ」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみなさい」
悪魔とその従者は、自分たちの館へ帰っていった。
「まったく……安請け合いするんじゃなかった……」
心底疲れた表情で、慧音は二人を見送った。


▼△▼△▼


紅いお屋敷への帰り道、
「お嬢さま、今日はいかがでしたか?」
咲夜が聞く。
「えぇ、中々楽しめたわ」
結構上機嫌にレミリアが答える。
咲夜も嬉しかった。
これで、歴史嫌いは克服される。
そうすれば、妹様にも勉強に励んでもらえる。
「そうですか、それでは早速明日から慧音を館に呼びましょう。」
「そうね……あれならフランも楽しめそうね」
珍しい。
お嬢さまが、嫌いなものを克服しようとするなんて……
「良かったです。 これでお二人とも歴史の勉強できますね」
咲夜が手を合わせて喜ぶ。
「勉強……? 咲夜は何を言ってるの?」
「は……ぃ?」
まさか……
「私が言っているのは、弾幕ごっこの事よ。
歴史なんて勉強するはず無いじゃない」
あぁ、やっぱり……
「明日、早速呼んで来て頂戴。
ふふ……フランったらはしゃぎそうね……」
姉妹いっしょに弾幕ごっこをする姿を幻視して、
レミリアは嬉しそうに微笑む。
咲夜は一人心の中で知識人に同情するのだった。


後日、呼ばれた慧音が文字通り必死の思いで館を脱出するのは、
別の話。

久々にバトル物です。
弾幕ごっことか言ってる割に、弾幕少ないです
ごめんなさいッ

レミリアのフランに対する想いがオカシイですが、
自分の中ではこんな姉妹なのです。

新月時、幼女になるとか有りますが、
自分は微妙に能力値変化だと思ってます。(再生能力大幅減衰、攻撃力微量増加)
満月以外の月が出てるときがデフォルト状態と考えてます。

慧音が強すぎかもしれませんが
準備したのと、事前に相談した結果です。
と、言うことにしておいてください。orz


ローマ、マケドニア、カルタゴ、
ファランクス、レギオン、
ハンニバル、スピキオ……
古代戦争物って面白いですよね~
それがきっかけで書きました。

元々古代中国や日本戦国物が好きでしたが、
古代西洋にも興味がわきました。
騎士に対するイメージも大きくかわったり。

流矢:大量の矢を雨の様に降らせる事で、適当に放った矢の事ではありません。


●歴史:
現在残されている物から知る事の出来る記録や
物事の移り変わりの過程や、個々の出来事を指す。

●運命:
自己を全うするか、見失うか(生死)の兼ね合い
何を支えとして生きて行くかのギリギリの選択。
時代の推移や超越的な何かによって決定されている物事の成り行きや身の上。
偶然の出会いや出来事がそのものの将来を決定付ける様子。

ついでに、今回入れる余裕が無かったものを。
無何有(むかう):何も存在しないの意味
浄化:汚れの無い状態にする事。


誤字指摘ありがとうございます。
訂正しておきました。

スペカの事。
戦史と騎兵の活用って事で、
アレキサンダーとハンニバル、
そして、騎兵で大帝国を築いたモンゴル。
を選択しました。
EXAM
[email protected]
http://homepage3.nifty.com/exam-library/
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コメント



0.1390簡易評価
4.70no削除
近代史まで行くのかなとちょっと期待してたりしました。
くそう長命種め、歴史の勉強は楽しいのに・・・。
5.50悪仏削除
無粋ですが誤字らしき部分が見当たりましたので、指摘を。
フラン自信→フラン自身
12.70刺し身削除
慧音の槍!?……ああ、槍か。槍ですよね。

歴史はいいですよねぇ。
どちらかといえば勉強というより趣味。
24.50Hodumi削除
何て良いスペルカードの数々……もうちょっと行けば更に色々出てきたのに、と少し残念に感じたりしてしまいました。

一先ず後日の慧音に合掌。