Coolier - 新生・東方創想話

東方花宵塚

2005/06/13 10:21:39
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 この物語は、
 花咲き乱れる幻想の中、
 世に知られることなく現れ消えた、
 とある日の、
 泡沫の馬鹿騒ぎである――――









――東方花宵塚――










 影が飛ぶ。
 花天井を一気に抜けると、遥かに眼下、広がる世界が見渡せた。
 白、赤、黄色。緑、紫、ゆかりにあらず。
 極彩ともいうべき花の世界。空は雲もなく、地上の華やかさを盛り立てるように青を広げていた。
 気分も悪くなろうというものだ。
 まさに春地獄だった。日傘を手離せば瞬く間に、この身体は花弁の嵐に消えるだろう。
 その地上。
「どこに行っても花の香りが取れないわね」
「ほんとほんと」
 花薫る大平原。
「材料にも肴にも困らなくていいわね」
「何のよ」
 一面の春。
「ジャスミン茶……風のお茶」
 一陣の風。
 巻き上がる花弁。
 その最中、飛び抜ける少女達。
 そして、始まる。
 咲くは弾幕、開くも弾幕。
 弾幕の春。

「……ふぅん」

 不機嫌を隠すでもなく、その影は姿を消した。
 後に続く、炸裂音。

「ところで……ジャスミン茶って、何?」







 竹林を歩く。天井は茂る薄闇、透かして見える太陽は、笹の葉まみれの地面を照らす。
 春を遠くに感じる。森は、林は、湖は、はぐれものか何かに思えた。
 枯れた緑。盛る緑。緑一面の世界を歩く。
 そんな中、
「竹の花が……」
「珍しいでしょ?」
 見慣れた風景に映る、僅かな変化。
「といっても、花は珍しくないけど」
「これだけ咲いてれば、今夜は竹の花ご飯ね」
 手に取ってみる。
 小さな花だった。
「私は筍ご飯のほうがいくばくか良いわ」
 竹がしなる。笹が散る。
 木々の切れ間、縫うように舞う少女達。
 それを見つめる。

「……むー」

 ちぇっと舌打ち、歩き出す。
 傍らの竹が一本、燻されたように弾けた。
 響く高い破音。そして遠く、それを掻き消す爆発が、竹を波とし林を巡る。

「珍しい食材の方が、何故美味しいのか判る?
 それは人間は舌で味を感じるのではなく、脳で味を感じるからなのよ」

 





「あ」
 少し前、ほんの少し前までは、ここは野原のはずだった。
 夜の光に浮き出た地平の、その彼方まで続く一面を、丈の低い草が覆い、輝かす。
 しかし、
「あ」
 今。
「あんた」
 空を染め上げようと挑むかのように、それは月まで包むかのように、
「お前は」
 舞い、散り、揺れる、
 花吹雪。

『誰だっけ』

 春の中。
「まだ冬みたいね」
 はらはらと、白くない雪が降りてくる。
「そうね。でも、この雪あったかいから、春ね」
 ざあっ、と風が丘を抜ける。
 花が、天へと昇っていく。それはあたかも幕のように、幻想を照らし、映す、花色の幕。
 そこで初めて、ふたりはお互いの姿を見た。
「弾幕りますか?」
 ぼわんとひとつ、赤羽が鳴く。
「弾幕ろうじゃない」
 ばさりとひとつ、紅翼が打つ。
 そして、

「不死『火の鳥」

「神罰『幼き」

 絡み合う。

「-鳳翼天翔-』」

「デーモンロード』」

 喰らい合う。

 突如として空間が爆ぜた。

 うなる圧倒的な破壊。
 もがく絶対的な崩壊。
 さけぶ超絶的な滅壊。
 炎を越えた炎。
 星を越えた星。
 絡み合う。絡み合う、絡み合い、

 突如として消えた。

「つまらないわ」
「つまらないか」

 地を蕩かすマグマがあった。
 夜を焦がすフレアがあった。
 世界が奇妙に歪んで見えた。
 世界が奇矯にのたうっていた。

 ふたりは静かに笑っていた。

「ねぇ、面白いことを考えたわ」
「へえ、そりゃあ奇遇だ私もだ」

 紅翼をなびかせ少女が、
 赤羽をなびかせ少女が、
 手を掲げ、手を伸ばし、

 互いが互いを、握り拳で指し示す。

「あれでいきましょう」
「あいつらみたいにって?」
「そう。面倒だけど、楽で良いわ」
「矛盾してる気もするけどね」
「いいじゃない」
 取り出す霊符は無色の無含。
「いいけどね」
 こちらも無色の符を握る。
 久方ぶりに、冷めた大地を風が巻いた。
 その風に、わずかに混じる白くない雪。

 突如として、花吹雪。

 止む。
 そこにはすでに花と花弁の海がある。

「不思議ね」

 呼び水の声。ふわりふわりと、花の波間、羽根の化生が身を起こす。

「どうなってるのかしらね」

 警鐘はなく、警戒もなく、はたまた警告もない。たちまちに、あたりを覆い尽くす羽根の化生。
 地平が埋もれ、蠢く壁が作られる。
 妖精の壁。
「じゃ、まあとりあえず」
「ええ、こいつらが相手」
 刹那。
 斉射。
 風に拠らない、破壊の痕が花弁を散らす。
 ふたりは消えた。
 瞬間、
 包囲の左右が決壊する。
「む」
「は」
 壊した数だけ、落とした数だけ、互いが互いを薙ぐように、ふたりをそれぞれ包み込み、無数の弾が雨と嵐と降りそそぐ。
 なるほど。
 敵は脆弱な存在ではなく、あくまで離れたあの相手。
 襲い、迫り、囲み、包み、ひたすらに来る弾はまさに弾幕。
 その中最中、躊躇悔恨後悔憐憫、一切持たずに笑みすら浮かべ、荒み、勇み、遊み、飛び込み、
 苦もなく抜けた。

「面白いわね、こりゃ」
「こういう不思議も悪くないわ」

 同時に無色の符を握る。同時に包囲が光を放つ。同時に握った符を放つ。

「まあ」
「こんなものでしょ」

 発光。
 炸裂。
 包囲が波打ち、孔を開ける。
 無色の符をして庫となし、零から汲み入れ力を放つ。近頃の流行らしかった。

「もいっちょ」
「更に続けてっ」

 ひときわ強く、
 ひときわ閃く、
 ひときは眩く、

「あでっ」
「痛っ」

 時折はたかれ、

「こンの、」
「喰らえっ」

 応酬し、
 交錯し、
 混在し、

「そこだぁ!」
「観え見え!」

 終には果たし、

「あ、やべ」
「しまっ、」

 空に舞う。







「っは、」
「あはは」
 静かだった。どこまでも静か。少なくとも、この夜空の下だけは。
 
「ねえ、昼間なにしてるの?」
「物見」
 静寂が幾度目かの風に消え、さざなみが雪を散らし、葉を揺らし、頬をくすぐる。

「そっちこそ、なにをしてる?」
「見物」
 月が天頂に差し掛かる。大地は大きく雄々しく見えて、視界の端を輪状に囲み、光っている。

「どっちも、たいして変わってないじゃない」
「どっちも、大いに暇してるってことでしょ」
 花の丘にふたり、着かず離れず寝転ぶ。その上を星が飛ぶ。流れ星。

「アレ落とせる?」
「黒白じゃないのよ。流石に届かないわ」
 視界を横切る軌跡、尾を引き、彼方へそっと消えていく。輪郭が消え、輝きが失せ、闇に溶け、

 消える。

「さて、明日は何をしたものか」
「お前の好きにすればいいわ」
 見飽きた。計らずも同時に身を起こす。

「じゃあ、明日も」
「ええ、ここで」
 踵を返し背中を向ける。共に背中に火が燈る。


「私は藤原妹紅」
「私はレミリア・スカーレット」
 紅翼。
 赤羽。

「じゃ」
「それじゃあ」

 そして消える。

 夜はまだ宵の口で、後にはただの花と風が舞い、そして浮かんだ月と雲があり、白くもない雪が舞い、

 その中最中、小さく積んだ、花の塚だけ照らされる。









 この物語は、
 花咲き乱れる幻想の中、
 世に知られることなく現れ消えた、
 とある日の、
 泡沫の馬鹿騒ぎである――――









――東方花宵塚 了――




今更ながら、ここまで読んで下さったことに感謝を。

一気に書き始めて一気に書き終わって即座に投下。これがノリと勢いといわずしてなんでしょう。
東方花映塚。体験版がついにwebでも公開され、
ようやく求めていた皆さん全員の手元に行き渡った頃と思います。
というか、どこか花映塚? といいますか、そうですね。なんであんな番外編みたいな、というと、
ようは、「あの戦闘システムがうまく表現できなかった」というオチでした。情けないです。
あのふたりの話も書きたかったというか、とりあえずの即興詩みたいなものだと思ってください。

基本は軽く流し見。じっと見てると矛盾が浮かび上がって心象を悪くしてしまいます。
再度見直すという挑戦者さんはお気をつけを。

追伸:ちょっとシナリオに手直し。一日空けるとこうも見る目がw

さらに追伸:某所にて後書きについて指摘がありましたので、一部書き換えました。
      読後感を悪くされた方がいらっしゃいましたらすいません。
      文体がいつもと違うのは上記の通りちょっと浮かれてたんで、そちらはその雰囲気そのままで。
      では。長編がなかなか進まない分、近いうちにまた別のものを書くかもしれません。
ハルカ
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コメント



0.900簡易評価
17.70床間たろひ削除
 花映塚、やっとDLできました。この作品のように妹紅やレミリアが出て
くれる事を期待しつつ夏を待ちましょう。
19.70沙門削除
 テンポよく読めました。二回目は、これはあの人だなとか思いながらじっくり読み直しました。実際EXステージは、真夏の夜の夢風になるのではと妄想中。謝々。
28.70とらねこ削除
特にこれといった目的の無い、本来の少女達の弾幕ごっことはこんな感じでしょうね。普段はこんなふうに遊んでいるんでしょうね。彼女たちは。