過去に囚われていては前に進めない
例え、本人に囚われているつもりがなくともそれは変わらない
いくら磨耗しても、その過去を振り払わない限り永遠に前には進めないのだ
過去は過ぎ去るものであって、留まるものではない
残りはしても、留まらせてはいけない、拘ってはいけない
例えそれが、今の自分を形作るものであったとしても・・・
私こと、霧雨魔理沙にも、そういう過去があったわけだ
退屈な日常
満月が奪われる事件以来、これといった事件もなく退屈な日が続いていた
魔法の研究をするにしても興味の湧くテーマがなく、暇を持て余し神社に入り浸る
そんな毎日だった
そしてそれは今日も変わらず、神社でいつもの面子と退屈な会話に興じていた
まあ、紫がいるのが珍しいと言えば珍しいが・・
「そういえばずっと前から気になってたんだけどさ」
話のネタも尽きかけてきた頃、霊夢が思いついたように言ってきた
目がこちらを向いていると言うことは、私に対しての事なんだろう
「何だ?質問なら有る事無い事無差別に答えてやるぜ」
「まじめに答える気は無いのね・・・・」
いつもながら妖夢は律儀に突っ込んでくれる、そういうところは好ましい
「私は札を使うし、咲夜はナイフを使う、妖夢は剣を使うじゃない?だけど何で魔理沙は星なのかなぁって・・・」
いまいち質問の意図が理解できない
戦闘の際に使う攻撃手段の事なんだろうが、何故疑問を挟まれるのかがわからない
私が悩んでいると霊夢が続けて言ってきた
「私たちは道具を使ってるから、その道具でしか戦えない、でも、魔理沙は魔法使いなんでしょ?普通に魔法弾を撃てばいいのに、何でわざわざ星の形にするのかなぁって・・・」
ああ、やっと少しは理解できた
つまり、何の手も加えず、ただ魔法を撃てば早いのに、何故いちいち星の形にして撃つのか、と言う事らしい
そういえば何でだろうか、考えてもみなかった
「・・・・さあな、自分でもよくわからない」
結局、そう言うしかなかった
「ふ~ん・・・ま、良いけどね」
すぐに答えが聞けないとわかると、興味が無くなってしまったようだ。ただの思いつきなんだろうから、当然だ
しかし、この疑問は私の心に強く残った
「・・・・・・・」
だから、紫が小難しい顔をして私を見ていた事など全く気付かなかった
その日の夜
自宅に帰った私はまだその事を考えていた
霊夢の言うことももっともだ
わざわざ星の形にしてから撃つなど本来は非効率だ、それでも星にする理由・・・・
通常弾からスペルに至るまで悉く星・・・
何故私はそんなに星に拘るんだろう・・・
そんな事を考えながら、私は眠りについた
私には何より楽しみな時間があった
月に一度だけのお楽しみ
人間も妖怪も分け隔てなく集まり、やはり楽しそうにしていた
でも、肝心の内容は覚えていなかった
分からない何かを胸躍らせて楽しみにしている
そんな、幼い頃の夢を見た
次の日の神社
まだ私は考えていた
何故か頭から消えないのだ、ろくに他の事が頭の中に入らないほどに
それでも神社に足を運ぶあたり、私がどれほどこの神社に依存しているのかが分かってしまう。ここに来るのは最早日課らしい
「どうしたの、魔理沙?ぼーっとしてるなんて珍しい」
今日は霊夢以外に誰もいない、まあこういう日もあるものだ
もっとも、今の私にとってはその方が良い訳だが
「ん~?魔理沙~?何か答えなさいよ~」
返事がなかった事が不服だったのか少し不機嫌なようだ
「ん?・・・ああ、悪い、少し考え事をな」
「んなこと見れば分かるわよ、で?悩みなんか無さそうな魔理沙をそこまで悩ませる事って何よ?」
明らかに目が輝いている、いい退屈しのぎが出来そうだという目だ
明らかに自分がその原因を作ったとは思っていないらしい
「ドラえもんはどらやきの餡が好きなのか皮が好きなのか」
「餡ね、他の奴は中身が違うもの」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
即答された
いつもの事と言えばいつもの事だ、霊夢も嘘だと言う事は分かっているはずだ
普通ならここで気楽に言ってしまうのだが・・・・
「・・・悪いな、今回ばかりは真剣なんだ」
そう、今回ばかりは駄目だ、こればかりは自分の問題だ、他人に言ってどうこうなる問題でもないだろう
それに、これはきっと大切なことなんだろうから、こんなにも長い時間悩み続けるからにはきっと意味があると思うから
だから、霊夢にも喋る気は無い、これは、私が一人で答えを出さなければいけないのだ
「・・・・・そう、なら聞かないでおくわ、魔理沙がそんなだと調子狂うんだから、早く解決しなさいよ?」
こういうとき、なんだかんだ言ってこいつはいい奴だ、と思う
「ああ、サンキューな・・・」
だから、こうやって素直に礼も言える
そして私は、日が暮れるまで神社で考えていた
霊夢は何も言わずにお茶だけ出して、そのまま掃除をしていた
結局私はお茶を飲まずに冷ましてしまったが、やはり何も言わずに片付けてくれた
今日は、静かだった・・・・
その帰り道
今日も何も無く、何も分からないまま終わるのかと思いつつ帰路についていた
だが、その途中、普段なら気にもしなかっただろう場所が、やけに気になった
森の中にある、中途半端に高い崖
どこか懐かしかった
崖の上に降り立ってみる、そこから見えるのは、どこか見慣れた風景だった
私はここに来たことがある
私はこの場所を知っている
何度も、何度もここに足を運んだ
では、何のために?
何故、そこだけを忘れている?
一体、ここに私の何があるというんだ・・・
「珍しいわね、こんなところに一体どうしたの?」
背後から、声
だが、確かめるまでも無い、知っている声だ
「お前ほど珍しくは無いから安心しろ紫、ちょっとした小休止だ」
振り向き様に言い返す、何時の間に現れたかなんて馬鹿みたいな事を聞く気は無い
「わざわざ家に帰るのに小休止ねぇ・・・喧しいのが取り柄のあなたに限ってそんなことは無いと思うけど・・・」
「淑女率180%超の私に喧しいとはご挨拶だな、そんな事言ったらお前のほうこそ何しに来たか怪しいぜ」
さっきからそれが気になっていた、こいつがここにいる理由が。
偶然にしてはあまりに出来すぎている、また何か厄介な事を企んでいると考えるのが普通だ
普段ならむしろ望むところなのだが、今はそんな気分ではない
「私は定期的に来てるわよ、みんな忘れてしまっただろうけど、私は覚えているもの」
ああ?
何だって?
こいつ今何て言った?
忘れてしまった?
何の事だ?
こいつは、ここであったことを知っている?
私の知らないことを、こいつは知っている?
「紫・・・お前、一体何を知ってるんだ・・・・?」
私の呆けた顔を見て満足したのか、上機嫌な顔のままこう言った
「そうねぇ・・・・月に一度のお楽しみの事・・・・かしら?」
「な・・・・!!!」
決定的だった
私が夢で覚えていた事、それをこいつは知っている、恐らく・・・
すべてを・・・だ
「紫!お前・・・!!」
飛び掛ろうとした、飛び掛って、何としてでも聞き出そうと思った、だが
「自力で思い出してみることね、安心しなさい、ここに来たという事は、もう少しと言う事よ」
そう言って紫は消えていった
後は、飛び掛かる体勢のまま立ち尽くす私だけが残った・・・
私は父と母が大好きだった
二人ともとても優しい人だった
両親は魔法使いだった、今私がそうなのも両親が魔法使いだったからだ
あの二人の魔法は綺麗だった
嫌な事あって泣きそうになっても、その魔法を見るだけで気分が良くなった
そして、その中でも一番綺麗だったのが、月に一度のアレだった
私は、あの二人のような魔法が使いたいと思った
だから、頑張って勉強したんだ
そう、思い出した
月に一度のお楽しみ
私が必死に追い求めていたものを・・・・
その次の日の夜
私はまた例の崖の上にいた
昨日と全く同じ風景
でも、違う
昨日は分からなかったが、今なら分かる
この場所は、こんなに暗くは無い
私が知っているこの場所は、夜の暗さが主役ではなかった
この暗さは、引き立て役に過ぎない
夜を明るく、綺麗に照らすアレの引き立て役だったはずだ
「10年位前だったかしら、ここは月に一度だけの盛大な宴会場だったのよ」
昨日と同じく、また、声
何も言わずに、そちらを向く
「妖怪も人間も関係なく集まったわ、月に一度のお楽しみを見るためにね」
「ああ、崖の下ではどんちゃん騒ぎ、すげぇ光景だったぜ」
その様子を思い出したのか、紫は少し笑った
「ええ、凄かったわ、宴会の騒ぎもそうだったけど、本命はもっと凄かったわ」
「私の一番の自慢だったからな、アレは」
目を瞑り、その光景を思い出す
「綺麗だったわ、思わず見とれてしまったもの」
「ああ、全くだ、とんでもなかったよ」
目を開き、目の前の空と、あの光景を合成させる
「あの・・・星の花火は・・・・・」
私が10歳にも満たない頃に両親は死んだ
魔法使いは妖怪退治などもする、そういう仕事だ、いつ死んでしまってもおかしくない
ただ、それだけのことだ
両親がいなくなってからも、私は必死にあの魔法を追い求めていた
だが、やっとあの星の花火に近いものを作れるようになってきた時、私はその花火の事を忘れていた
この星は、私だけの魔法だと思ってしまっていた
追い求めていたはずの光景を忘れ、ただの模倣でしかない魔法をオリジナルだと思ってしまっていた
何故だったのだろうか
そんな大切な事を何故、忘れてしまったのだろうか
今となってはそれすら思い出せない
とんだ親不孝者だ、私は
だからせめて、その手向けくらいは・・・・
「なあ、紫」
どれだけの間黙っていただろうか
唐突に、私は切り出した
「近いうちに、宴会をやろうと思ってる」
「宴会?・・・・・ああ、そう言う事」
理解が早いのは面倒が無くて助かる、まぁ、今回ばかりは、だが
「後を継ぐ気はさらさら無いが、決着はつけておかないとな」
「そう・・・期待してるわね」
そう言って紫は去っていった
「・・・・・見てろよ」
私の目には、もうあの花火は映っていなかった
「宴会?そう言えば最近やってなかったわねぇ・・・」
次の日、神社に赴き、宴会をやると伝えた時の霊夢の反応だ
会ったときは「あれ?もう喧しいいつもの魔理沙に戻っちゃったの?」
と、失礼なことを言っていたが、宴会に対しての反応は悪くなかった
「だろう?ここのとこ退屈だったからな、久しぶりに・・・ってね」
「私は良いわよ、神社を散らかしたりしなければ」
そう言えば前に霊夢が言っていたな、宴会の次の日に庭を見るとげんなりする・・・と
だが、今回はその心配は無い
「安心しろ、今回の宴会場はここじゃない」
「ここじゃないって・・・んじゃあどこで?」
「場所はな・・・・」
そうして、全員了承してくれた
紫はどこにいるかは分からなかったが、必ず来るはずだ
そして、宴会当日を迎える
例の崖の下、ここにいつもの面子が集まっていた
「全く、こんなところで宴会って、アイツ一体何考えてるのかしら?」
アリスだ、雰囲気的に怒っているのではなく、純粋に疑問を投げかけているだけだ
が、こんな事よりももっと気にするべきことがある、それは・・・
「つか、何で魔理沙がいないのよ」
幹事であるはずの魔理沙がいない事だ
宴会のときは誰よりも早く来るはずの魔理沙がいない、これは異常なことだ
「まぁいつかは来るでしょ、先に始めてしまいましょう?」
この紫の発言を最初は怪しんでいたが、結局先に始める、と言う事で同意することとなった
崖の上、下からは見えないところに、私は座っていた
今回の宴会、私は参加するつもりは無い
私は、決別するためにここにいる
目を閉じ、集中する
これから行う一発芸のために
失敗は許されない
何故ならそれは、霧雨魔理沙の一世一代の大舞台なのだから・・・・
ところ変わって宴会場
魔理沙がいなくとも宴会はあまり変わらなかったが、それでもやはり気になる
しかも、事情を知っていそうなのが紫なのだ、嫌な予感ばかりがする
「ねぇ紫、あんた魔理沙がいない理由知ってるんでしょ?」
「そうねぇ・・・・知ってはいるけど、分かりはしないわ・・・・」
いつもながら、面倒な言い回しだ、もう少し何か言ってやろうと思ったのだが
「でも・・・・きっと良いものが見れるわ・・・・とても、良いものが・・・・」
そう言う紫の顔が、どこか寂しそうだったから、何も言えなかった
こんな顔は、初めて見たのだ
宴会はまだ続いている
そろそろ準備が出来てきた
必ず成功する
失敗するわけが無い
私は、霧雨魔理沙なのだから
立ち上がる、前に進む
下で宴会をしているのが良く見える
何人か私に気付いたようだ
すぅ・・・
息を吸う
「待たせたなぁ!!!魔理沙様のとっておきの一発芸タイムだ!!!あまりの凄さにショック死するがいいぜ!!!!」
思いっきり叫ぶ、注目をこちらに集めるのと・・・・雑念を吹き飛ばすため
みんながこちらを見る、よし、良い感じだ
両手を天高く上げるその手に、ありったけの魔力を集中させる
やる事は、一つ
恋符『マスタースパーク』
たった一つの私の完全オリジナルの魔法
私が恋焦がれた、『私だけ』の魔法
ありったけの魔力を吐き出す、ただそれだけの、不細工な魔法
通常、破壊のみに使われるこの魔法も、今回ばかりはただのライトに過ぎない
本命は、これではないのだ
「あいつ、何してんのよ?」
腕を上げて何やらしている魔理沙を見て言った
突然出てきて、いきなり一発芸と来た
「黙って見てなさい、あの子の決別の証を・・・・」
そこに先程までの寂しさはなく、これから起こる何かを、ただ楽しみにしているだけだった
良い感じだ
魔力の集中が心地良い
何の抵抗もなく、体内の魔力が駆け巡る
もうそろそろ、頃合だ
「・・・・・・さあ、行くぜ」
そして、解き放った
轟音響かせ天へと昇る
ここまでは普通のマスタースパークと変わらない
ここからだ
魔法は人の心に左右される
雑念を無くし、心のままにしていれば、魔法は心を示してくれる
私の中の魔法のカタチを見せてくれるはずだ
そして、そのカタチは、きっと・・・・・
「・・・・・来た・・・!!」
光から、何かが出てくる
星だ
一つ目を皮切りに、呆れるほどの量の星が出てくる
結局、どうあがいても私の魔法のカタチは星だった
今までのそれと比べると、不恰好で、不細工だ
到底綺麗とは呼べないシロモノ、それでも、一点だけ、勝っていると思えるところがある
力強さだ
その星の光の力強さ、圧倒的な存在感は、絶対に負けない
この力押しの星が、私の魔法のカタチだ
「はは・・・あははははは・・・・・」
笑いが浮かぶ
楽しい
この上なく楽しい
魔力を吐き出しているだけなのに、どうしてこんなに楽しいのだろう
「もっとだ・・・ははは、もっと、もっと広がれ・・・!」
この光も、この星も、もっとたくさん、もっと広く
なんという高揚感
なんという解放感
こんな上機嫌に魔法を使ったのは初めてだ
これが本来の魔法の使い方だと、体が教えてくれる
この至高の時間は、まだ続きそうだった・・・・
「・・・・・どう?あなたたちの娘は、こんなになったわよ・・・」
目の前の光景を見て、思わず呟く
雑で、不細工で、ただ馬鹿みたいに力強いだけの星
綺麗さの欠片も無い、下の下の作品だ
だが、これは美しさを目指してなんていない
元から自己満足のためだけの作品だ
初めから評価なんて望んではいない
これはケジメの一発
両親と、過去の愚かな自分に対する決別の光
だから、ただ馬鹿みたいに眩しければそれで良いのだ
「・・・・・おめでとう・・・」
この少女はやっとスタートラインに立った
だから、それに対する祝福の言葉くらいは、言ってやってもいいと思う
魔力が切れる
さすがに立ってられなくなりその場に座り込む
星は、まだ光っている
この脱力感と、疲労感は心地良い
この達成感と、充実感は誇らしい
これでケジメはつけた、もう過去に用は無い
ただ、前に進むのみだ
星が消えていく
先程まで溢れるほどあった星は、数えるほどになった
その中の一つが、私の前にゆっくりと降ってきた
まだ私には、具体的に何に決別したのかが分からない
両親だろうか、花火だろうか、過去の自分だろうか
今はまだ分からない
いつか分かるであろうそれに、私は別れの言葉をかける
どうせ別れるものだ、長ったらしい言葉は要らない
別れの言葉は、一言で良い
目の前の星が、消えた
「あばよ」
きっとこれだけで、良い
今日はやけに、夜空の星が眩しく見えた・・・・・・
魔理沙は実家から出奔しており、おそらく両親とも不仲なはずだ、とか、
魔理沙に魔法を教えた師匠は両親とは別個に存在する、とか。
この二つはどちらも魔理沙の人格の根幹に関わる設定であるため、どうしても違和感が拭えません。
あれは18禁誌だから、読みたくても読めない人もいるし。
この場で「魔理沙の設定が原作と違う」と責めるのは、筋違いでは?
がんばってください!
それとは別に、中盤あたりである程度のオチがわかってしまうのがどうもイマイチ…。