「――どうも、いけません」
そんな弱音を紅魔館の門番・紅美鈴が言い出したのは、春も終わりかけたとある一日のこと。
「へぇ? 何がいけないっていうの」
上役たるメイド長の咲夜がたずねると、
「この、通りです」
「――っ?」
美鈴は上司の手を取って、自分の胸に導いた。
「大きくなって、いるでしょう?」
「フム……言われてみれば」
もとより、美鈴の胸はそう小さいわけではなく、じゅうぶんに豊かな双丘をなしていた。
が今は、以前よりゆうに一回りは膨らみ、張りもまたたっぷりと強まっている。
「なぁに? いつのまにやら、妊娠でもしたの」
とんでもありません、とあわてて手を振る美鈴。
「ちょっと、『陰』の気が溜まり過ぎてしまいまして」
「と、いうと?」
そこで美鈴がいうには。
――万物は相生し相克する。
――そのためには陰と陽の気が正しく循環せねばならぬ。
――だが、いま彼女の身体には陰の気が蓄積されており、そのため陰に属する『女』の要素が強くなっている。
「というわけで、どうにも困っているんです」
「はぁん。……けどあんた、いちおう『気』の使い手でしょうに? なのにどうしてそんなザマになるのよ」
「それはその……たぶん、ここはことのほか女っ気が濃いからかと」
「フムン」
そうでなくとも、この屋敷には『陰』の気こそあれ、『陽』の気なんぞは薬にしたくもなさそうではあった。
「もっと搾ったら、乳が出るかしらね?」
「っ、さぁ……っ」
「ミルクティーに使ったら、お嬢様に叱られてしまうわねェ」
「そ、そう思われるなら、もう、やめ、……」
「で? どうしたいっていうの」
ようやく胸を解放された美鈴がいうには、
「これを治すには、体内に『陽』の気を取り込む必要があるんです」
「陽の気……あー、男の気?」
「ええまぁ」
「なんだ。ようは、男あさりに行きたいってことね?」
「そんなわけじゃないんですが……」
まぁいいわ、とメイド長。「これから人里に行くところなの。ついてきて、そこで手ごろなのを探せばいいんじゃない」
「ハー……でも、なんだか照れます」
「知ったことかい」
ともあれ咲夜は、美鈴を連れて人間たちの里へむかった。
「いい? 私が買い物をしているあいだに、適当なのを探しておきなさいよ」
「えぇ、わかりました」
とは答えたものの、さてイザとなるとそこらに男が転がっているわけではなし。
そこで美鈴しかたなく、手近な民家をたずねた。
「ごめんください」
「そういうあんたはなんだい」
出てきたのは老婆であったから、美鈴は軽い失望を覚えつつ、
「じつはかくかくしかじかで……男を探しているんですが、いい塩梅の人はいないでしょうか」
すると媼がいう。「お嬢ちゃん、それは無理難題というものだ。というのは、ここいらの若い男は、こぞって近くの竹林に入り浸っているのだから」
「へぇぇ? なんでまた……」
さらに老婦人はいう。「というのは、竹林には妖怪兎どもがたむろして、あやしげな芸をもって若い衆をたぶらかしているのさ」
「フムン」
老婆に礼をいって家を出た美鈴は考える。「これはどうも、竹林に行ってみるしかないようね」
そこへ咲夜が小麦粉の袋を背負って戻ってきた。「あぁ重い! さぁ、あんたも手伝って頂戴」
「それがその」
美鈴がこれこれこうこうと事情を話すと、
「ふーん。……そりゃ結構だけど。まずはこれを運びなさい」
「はぁ」
そこで美鈴は小麦粉を背負い、館まで運んだ。
おかげで彼女は頭から足の先まで真っ白になってしまった。
「なかなかね。それなら、兎に見えるんじゃあない?」
「! ああ、小麦粉を買ったのは、このためだったんですね!」
「ンニャ、ただの偶然だけども」
「そうですか……」
ともあれ美鈴は竹林にむかった。
青々としげった若竹のあいまをくぐりぬけていくと、やがてこじんまりとした小屋が目に入った。
「まさにウサギ小屋というわけね」
などとつぶやきながら気配を殺して近寄り、中を覗くと、そこはまさに、
「……酒池肉林」
といった具合で、見目麗しい妖怪兎どもが悩ましく媚態をふりまいて若者たちをたぶらかし、翻弄し、ほしいままになぶっているのだった。
「いやはや。どうしたものかしらね」
思案していると、そこへ兎どものリーダーである因幡てゐがやってきて、
「このグズノロマ! なンでサボっているのさ?」
「あ……いやまぁ」
「なに口答えしとるのさこのボロゾウキン! ンン? あンた、耳はどうしたのさ」
「あー、その、ちょいと質に預けてまして」
「ふぅン? まぁいいけど……さぁさ、はやいところ仕事にかかりなよ」
と、てゐは美鈴をむりやり小屋に押し込ンだ。
そしてしばしののち……
ひとり、小屋を出てきた美鈴は物足りなげに
「あの程度じゃあ、どうしようもない」
と、ぼやいた。
それというのも、小屋の中の男たちはすっかり陽の気を吸い取られ、骨抜き状態だったからである。
腹いせに兎どもを始末してきたものの、陰の気は収まるどころかいよいよもって増大してくるありさま。
「困ったこと!」
難儀していると、道端に鳥妖怪が行き倒れていた。
「あぁ……お腹がすいて! もういけない」
「哀れね。私には関係ないけど」
「そういわずに!」必死に訴える夜雀の妖怪。「なんとか助けて頂戴」
「むしろ逆に」私こそ助けてほしいのだけど、と美鈴。「だいいち、私は何の食料も持ってないんだもの」
「いやいや」夜雀。「あなたのその乳! それを分けてくれれば、じゅうぶんよ」
「さぁ?」
困惑しつつも、美鈴は胸をはだけ、血管がうっすらと浮き出るほどに白く、こんもりと張った乳房をあらわにした。
そして妖怪の口へ、とがり立った乳首の先を含ませてやる。
「あぁ! 生き返る……」
チュウチュウと音を立て、夜雀の怪は溜まりに溜まっている陰の気を吸い取っていく。
「ふぅ、ごちそうさま。お礼に歌をうたうわ」
「いらない」
「あぁそう……じゃね」
すっかり元気になった妖怪は、礼をいって去っていった。
「やれやれ! 参ったけど、でもまぁおかげで気の巡りも正しくなったみたいね」
美鈴はひととおり体さばき足さばきを確かめ、満足してうなずいた。
おおいによろこび、足取りも軽くさっそく館へ帰還しようとしたその矢先、十六夜咲夜がやってきた。
「あぁ! メイド長。じつは――」
「喜びなさい、美鈴。いいしらせよ。わりとね。
貴方のことをお嬢様たちが聞きつけて、解決方法を考えたの。退屈しのぎに。
そこで思い至ったのがれいのロケットというやつ。ロケテストじゃあないわよ。
あれをこしらえて太陽までいけば、まちがいなく多量の陽の気を得られるそうよ。パチュリー様によればね。
こんなこともあろうかと材料はすでに集めてあったから、あとはもう発射するばかりよ。忘れ物がなければ。
さぁ、はやくお出でなさい、皆様お待ちかねよ。とくにお嬢様は。
……なぁに? どうしてそんなに青ざめてるのよ。さっさとついてきなさい。
どうしたのよ、美鈴? さぁ……早く……」
そんな弱音を紅魔館の門番・紅美鈴が言い出したのは、春も終わりかけたとある一日のこと。
「へぇ? 何がいけないっていうの」
上役たるメイド長の咲夜がたずねると、
「この、通りです」
「――っ?」
美鈴は上司の手を取って、自分の胸に導いた。
「大きくなって、いるでしょう?」
「フム……言われてみれば」
もとより、美鈴の胸はそう小さいわけではなく、じゅうぶんに豊かな双丘をなしていた。
が今は、以前よりゆうに一回りは膨らみ、張りもまたたっぷりと強まっている。
「なぁに? いつのまにやら、妊娠でもしたの」
とんでもありません、とあわてて手を振る美鈴。
「ちょっと、『陰』の気が溜まり過ぎてしまいまして」
「と、いうと?」
そこで美鈴がいうには。
――万物は相生し相克する。
――そのためには陰と陽の気が正しく循環せねばならぬ。
――だが、いま彼女の身体には陰の気が蓄積されており、そのため陰に属する『女』の要素が強くなっている。
「というわけで、どうにも困っているんです」
「はぁん。……けどあんた、いちおう『気』の使い手でしょうに? なのにどうしてそんなザマになるのよ」
「それはその……たぶん、ここはことのほか女っ気が濃いからかと」
「フムン」
そうでなくとも、この屋敷には『陰』の気こそあれ、『陽』の気なんぞは薬にしたくもなさそうではあった。
「もっと搾ったら、乳が出るかしらね?」
「っ、さぁ……っ」
「ミルクティーに使ったら、お嬢様に叱られてしまうわねェ」
「そ、そう思われるなら、もう、やめ、……」
「で? どうしたいっていうの」
ようやく胸を解放された美鈴がいうには、
「これを治すには、体内に『陽』の気を取り込む必要があるんです」
「陽の気……あー、男の気?」
「ええまぁ」
「なんだ。ようは、男あさりに行きたいってことね?」
「そんなわけじゃないんですが……」
まぁいいわ、とメイド長。「これから人里に行くところなの。ついてきて、そこで手ごろなのを探せばいいんじゃない」
「ハー……でも、なんだか照れます」
「知ったことかい」
ともあれ咲夜は、美鈴を連れて人間たちの里へむかった。
「いい? 私が買い物をしているあいだに、適当なのを探しておきなさいよ」
「えぇ、わかりました」
とは答えたものの、さてイザとなるとそこらに男が転がっているわけではなし。
そこで美鈴しかたなく、手近な民家をたずねた。
「ごめんください」
「そういうあんたはなんだい」
出てきたのは老婆であったから、美鈴は軽い失望を覚えつつ、
「じつはかくかくしかじかで……男を探しているんですが、いい塩梅の人はいないでしょうか」
すると媼がいう。「お嬢ちゃん、それは無理難題というものだ。というのは、ここいらの若い男は、こぞって近くの竹林に入り浸っているのだから」
「へぇぇ? なんでまた……」
さらに老婦人はいう。「というのは、竹林には妖怪兎どもがたむろして、あやしげな芸をもって若い衆をたぶらかしているのさ」
「フムン」
老婆に礼をいって家を出た美鈴は考える。「これはどうも、竹林に行ってみるしかないようね」
そこへ咲夜が小麦粉の袋を背負って戻ってきた。「あぁ重い! さぁ、あんたも手伝って頂戴」
「それがその」
美鈴がこれこれこうこうと事情を話すと、
「ふーん。……そりゃ結構だけど。まずはこれを運びなさい」
「はぁ」
そこで美鈴は小麦粉を背負い、館まで運んだ。
おかげで彼女は頭から足の先まで真っ白になってしまった。
「なかなかね。それなら、兎に見えるんじゃあない?」
「! ああ、小麦粉を買ったのは、このためだったんですね!」
「ンニャ、ただの偶然だけども」
「そうですか……」
ともあれ美鈴は竹林にむかった。
青々としげった若竹のあいまをくぐりぬけていくと、やがてこじんまりとした小屋が目に入った。
「まさにウサギ小屋というわけね」
などとつぶやきながら気配を殺して近寄り、中を覗くと、そこはまさに、
「……酒池肉林」
といった具合で、見目麗しい妖怪兎どもが悩ましく媚態をふりまいて若者たちをたぶらかし、翻弄し、ほしいままになぶっているのだった。
「いやはや。どうしたものかしらね」
思案していると、そこへ兎どものリーダーである因幡てゐがやってきて、
「このグズノロマ! なンでサボっているのさ?」
「あ……いやまぁ」
「なに口答えしとるのさこのボロゾウキン! ンン? あンた、耳はどうしたのさ」
「あー、その、ちょいと質に預けてまして」
「ふぅン? まぁいいけど……さぁさ、はやいところ仕事にかかりなよ」
と、てゐは美鈴をむりやり小屋に押し込ンだ。
そしてしばしののち……
ひとり、小屋を出てきた美鈴は物足りなげに
「あの程度じゃあ、どうしようもない」
と、ぼやいた。
それというのも、小屋の中の男たちはすっかり陽の気を吸い取られ、骨抜き状態だったからである。
腹いせに兎どもを始末してきたものの、陰の気は収まるどころかいよいよもって増大してくるありさま。
「困ったこと!」
難儀していると、道端に鳥妖怪が行き倒れていた。
「あぁ……お腹がすいて! もういけない」
「哀れね。私には関係ないけど」
「そういわずに!」必死に訴える夜雀の妖怪。「なんとか助けて頂戴」
「むしろ逆に」私こそ助けてほしいのだけど、と美鈴。「だいいち、私は何の食料も持ってないんだもの」
「いやいや」夜雀。「あなたのその乳! それを分けてくれれば、じゅうぶんよ」
「さぁ?」
困惑しつつも、美鈴は胸をはだけ、血管がうっすらと浮き出るほどに白く、こんもりと張った乳房をあらわにした。
そして妖怪の口へ、とがり立った乳首の先を含ませてやる。
「あぁ! 生き返る……」
チュウチュウと音を立て、夜雀の怪は溜まりに溜まっている陰の気を吸い取っていく。
「ふぅ、ごちそうさま。お礼に歌をうたうわ」
「いらない」
「あぁそう……じゃね」
すっかり元気になった妖怪は、礼をいって去っていった。
「やれやれ! 参ったけど、でもまぁおかげで気の巡りも正しくなったみたいね」
美鈴はひととおり体さばき足さばきを確かめ、満足してうなずいた。
おおいによろこび、足取りも軽くさっそく館へ帰還しようとしたその矢先、十六夜咲夜がやってきた。
「あぁ! メイド長。じつは――」
「喜びなさい、美鈴。いいしらせよ。わりとね。
貴方のことをお嬢様たちが聞きつけて、解決方法を考えたの。退屈しのぎに。
そこで思い至ったのがれいのロケットというやつ。ロケテストじゃあないわよ。
あれをこしらえて太陽までいけば、まちがいなく多量の陽の気を得られるそうよ。パチュリー様によればね。
こんなこともあろうかと材料はすでに集めてあったから、あとはもう発射するばかりよ。忘れ物がなければ。
さぁ、はやくお出でなさい、皆様お待ちかねよ。とくにお嬢様は。
……なぁに? どうしてそんなに青ざめてるのよ。さっさとついてきなさい。
どうしたのよ、美鈴? さぁ……早く……」
>ロケテスト
はたして幻想郷の人にその言葉がわかるのかっ!?
事情を説明し終えるまで咲夜さんが正気だって事だと思うんですよ。
おお! おお! おお!
……すみません(汗