Coolier - 新生・東方創想話

埋まらぬ距離、されど私は我を貫く

2005/06/12 06:13:28
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今日も暑かった。
朝起きてカーテンを開けると、灼熱の太陽の光が降り注いでいるのを確認できた。開けたカーテンを数秒で閉めて、ベッドに倒れこむ。カーテンを開けただけで今日のやる気が完全に萎えたので、こういう日はとっと寝るのが一番だ。
しかし、寝ながら汗を大量に掻いたのか喉が渇いてしょうがなかったので、台所まで這い出て家の中の出があまり良くない井戸を汲み上げて水を飲んだ。少しは冷たい水を期待したが、明らかに私のやる気を削ぐ温さだ。ベッドまで帰るのも面倒臭くなったので、乱雑している台所の床で寝ようとした。
その時、玄関の戸がノックされた。元々私は他人を家に招きたくなかったし、何よりも今日は来客の応答をする気力も無いので、無視してこのまま惰眠をむさぼろうと決めた。
しかし、来訪者も頑固なものでいつまでもノックを止め様としない。結局私のほうが折れて非友好的な誰何の声を上げた。
「ちょっと、魔理沙。居るんだったら早く返事をしてよね。いつまで客をこんなクソ暑い世界に留まらせておく気よ。」
霊夢だった。思わぬ来客に慌てて返事をし、玄関の扉を開いた。
「まったく、暑くて死ぬかと思ったわよって、魔理沙、だらけ過ぎよ。」
慌てていたので、当たり前のように寝巻から着替える時間なんて無かった。
「ああ、嫌味を言いにこんな朝っぱらから私の家に来たのか。」
半眼になって霊夢を睨みつけながら、とりあえず用件を聞いた。霊夢はハッとした表情になり、私に必死で訴えてきた。
「魔理沙、お願い。お湯を頂戴!!」

「博麗神社の井戸が枯れた!?」
「ん、ここ最近出がだんだん悪くなっていたんだけど、遂に今日枯れちゃったのよ。」
暢気に神社から持って来た玉露をこれまた神社から持って来た急須と湯飲みを使って、霊夢は至福の時を過ごしているかのような表情で啜っていた。
「まあ、別に神社だけに限った話じゃないようだけど。里の方も大分干上がって来ているみたいだし、今じゃ雨を求めて神社に祈祷に来るくらいなんだから。」
「うわ、世も末だぜ。」
まったくね、と同意しながら霊夢は暢気に玉露を湯飲みに注ぐ。
「しかし、何で今年に限ってこんなに水不足なんだ。まさか誰かの仕業か。」
「う~ん、私も最初は疑ったんだけど、これといった怪しい力は何にも感じないのよ。だから多分天災だわ。」
「天災なのか。」
「そ、天災。今年の梅雨の時期に雨が全く降らなかったのが原因じゃないかしら。それにここのところ無駄に厳しい日差しが続いているせいで、皆が好い気になって水を使ったからじゃない。」
難儀な話である。こんな無駄に暑い日は水をガンガン使いたくなるのが人情というもんなのに。天災じゃあどうしようもないし。
「じゃあ、霊夢も水を無駄に使い過ぎたんだな。」
「ん、まーね。」
何やらしっくり来ない返事をして、霊夢は明後日の方向を向く。ひょっとして水を求めて来た人に井戸を有料で使わせたんじゃないだろうか、と勝手な推測を立ててみた。本人に聞かれたら、どっちに転んでも黄金の右が飛んできそうである。
「しっかし、外じゃそんなに大変な事になっているのか。」
「つい最近の出来事だけど、どうせ魔理沙は暑いから外に出るのが嫌だったんでしょう。だから魔理沙には私達の大変さが分からないのよ。」
私にとっても他人事ではなくなっているし、いくらこの森が蓄えている地下水脈がそう簡単に枯れる訳がないとは言え、こうも雨が降らずに日照りが続いていると一抹の不安を拭えぬものである。
「ふう、やっと一息付けたわ。朝起きたらお茶が飲めないんだから、どうしようかと思ったわよ。」
「おいおい、暢気なもんだぜ。これからの生活どうする気だ。」
「えっ」
「えっ、じゃないぜ。私は水無しでどうやって生活していく気なんだって聞いたつもりだぜ。」
「あ!?」
私はどうやら霊夢の頭の春度を甘く見ていたようだ。これからの生活の心配よりも、朝一番の玉露の事しか頭が行かなかったらしい。



結局霊夢はバケツ一杯に水を入れたのを二つ、持って帰って行った。遠慮して一日おきに水を貰い来るつもりらしいので、そんな面倒な事をするよりも私の家に寝泊りする事を提案してみたが、即答で却下された。
霊夢が帰った後、一応面倒だが朝食を食べようとして食料が尽きている事に気が付いた。まあ、補充もせずに一週間食っちゃ寝を繰り返していたのだから当たり前の話である。
仕方が無いので、里に食料の買出しに出る事にした。暑くて外に出るのも嫌だったが、それでも腹は減るので空腹には勝てなかった。
一番近い里に着くと、里の変わりように驚いた。まるで生気が無いのだ。川は干上がり、樹木は枯れ、人が喘いでいる。これは確かに大事だ。
必要な食料を買い込み茶屋で一息付いていたら、忙しそうに走り回っている慧音を見かけた。
「よう、慧音。調子はどうだ。」
「ああ、魔理沙か。新しい井戸を掘ろうとしていて、躍起になっているところさ。」
「ふうん、じゃあ私も手伝うとしようかな。私の魔砲なら一発だぜ。」
「頼むから止めてくれ。せっかく見つけた水脈ごと一発で吹き飛ばす気か。」
「何だよ、せっかく人が親切に協力をしてやろうって言っているのに。人の好意は素直に受け取っておくもんだぜ。」
「その好意で里が全滅したら元も子もないだろ。頼むから大人しくしていてくれ。魔理沙でも出来るようことがあったら、後でちゃんと協力を求めに行くから。」
かなり貶された様な気がしたが、本当に忙しそうなので今日は免除してやろう。ただ単にこの無意味に暑い外で弾幕ごっこをしたくなかっただけなのだが。
「それで、水の状況はどうなんだ。」
「正直かなり不味いな。このまま雨が降らなければそう遠くないうちに里が全滅するだろう。新たに井戸を掘っても、どれだけ持ちこたえれるものか。」
「そう言えば、以前パチュリーがフラン絡みで雨を降らせた事があったぜ。頼んでみようか。」
「ああ、駄目だった。パチュリーは熱射病で完全にダウンしている。」
後でチルノと戯れる(張り倒した後ヒンヤリする)ついでに見舞いにでも行くか。
「じゃあ、紫にならどうだ。」
「あれが率直に頼まれてくれればいいのだがな。それに、いくら紫でも天候を自由に操る事が出来るとも思えないのだがな。間違えて今度は土砂降りが続いて里が水没するなんて事にでもなったら、本末転倒だろ。」
色々と難儀な事である。忙しそうにしている慧音と別れ、高価な上に量が少ないお茶を飲んだ。



夜になると、また霊夢が私の家にやって来た。朝持っていった水を使い切ったのかと思ったが、お風呂を借りに来たと言った。断る理由が無いので、さっきまで私が使っていたお風呂を霊夢に貸した。水不足対策に一々水を張り替えるような事はしなかったが。
居間で一人のんびりと冷えた牛乳を飲んでいると、また玄関が叩かれる音がした。誰何の声を上げると、アリスの返事が返ってきた。
「よう、アリス。こんな時間にどうしたんだ。」
「魔理沙、お願い。少し食料を分けて欲しいんだけど。」
「何だ、そんな事か。別に構ないけど、勿論・・・」
「この前私が貸してあげた本の返済期間、いつだったかしら。」
「ああ、遠慮せずにどんどん持って行ってくれ。私は心が広いから、全然気にしないぜ。」
すっかり忘れていた。暑くてダラダラしていたのでまるで読んでいなかった。
そういう訳でアリスを我が家に招き入れ、今日買ったばかりの食料が物色された。
「しかし、夜になるまで食料が尽きていた事に気が付かないなんて、だらけ過ぎだぜ。」
「魔理沙と一緒にしないでよ。私は研究に没頭していたら、残っていた食料が腐っていたのに気が付かなかっただけなんだから。」
「寝食忘れすぎだぜ。」
その時、アリスが硬直した。その目線を辿っていくと、私の後ろに寝巻き姿の湯上り霊夢が立っていた。
「ああ、アリスも来ていたんだ。ねえ、魔理沙、よく冷えた牛乳って無い?」
霊夢がちょっと片手を挙げアリスに挨拶をしても、アリスは固まったままだった。
「一応無いことは無いんだが、ありゃ私が一人で楽しむ為に冷やしておいたもんだぜ。」
「けちな事を言ってないで、少しくらい分けてくれてもいいじゃない。ねえアリス。」
「嫌なもんは嫌なんだ。っておい、アリス。大丈夫か。」
何やらアリスが音を立てながら崩れていく気がした。
「ま、魔理沙、御免。何だかお邪魔のようだったみたいね。私、もう行くわ。」
慌てて逃げるように玄関に向かうアリスを、とりあえず取り押さえて沈静化させるのに多大なの労力を要した。



「へー、博麗神社ってそんなに大変な事になっているんだ。」
「そうなのよ。それにしても魔法の森ってつくづくいい所よね。絶対に神社よりも涼しいし、水もあるし。って何ゲッソリしているのよ、魔理沙。」
「いーや、別にー。なー、一つ聞いていいか、霊夢ー。何で寝巻きなんだ。」
「しょうがないじゃない、汗臭くない服はこれしか残っていなかったんだから。洗濯し様にも明日の一着分しか水が足りなかったし。」
「じゃあ、寝巻きで帰るのか。」
霊夢が肩を落として深いため息を付いた。風呂で体をサッパリした後に汗が多量に染み込んだ巫女服を着るか、薄めの寝巻きで外を飛ぶかの激しい葛藤の末の苦渋の選択だったに違いない。まあ、そのお陰で私も要らぬ労力を費やす羽目になったんだが。
「それにしても、毎日がこうも暑いと参っちゃうわ。いい加減雨でも降らないかしら。」
「そうだよな、里の方も雨が降らないと不味いみたいだぜ。」
「そんなに不味い状況なの。」
「ああ、アリスも実際に行って見てくれば分かるぜ。私だって茶屋でお茶飲むのが憚ったくらいだぞ。まあ、結局飲んだけど。」
「そっか、私達にも何か出来ないかな。」
「ああ、そうだな。どうにかしたいのは山々だが、どうすればいいのか皆目見当付かないのが現状だな。慧音も必死で駆けずり回っていたし。」
「仕方ないわよ、こればかりは。」
私とアリスは、もう大分温くなった牛乳をチビチビとやっている霊夢の方を見た。
「おいおい、それじゃあ人死にが出るぞ。そうなる前に何か手を打たないと。」
「それも仕方ないわ、天災なんだから。早く夏が過ぎるのを待つか本格的な雨が降るのを待つかしかないわよ。」
「じ、じゃあ、霊夢はこれから死ぬ人に、そういう運命だから仕方が無いことですって言うつもりなの。」
霊夢が黙って注いで置いたお茶を飲むのを見て、アリスは絶句した。だが、私には何となく霊夢の言いたい事が分かった。

私達は神でもなければ仏でもない。だからこういう天災を根本的にどうにかするだけの力は無いし、出来たとしても犠牲なしでは出来ないだろう。
例えば、パチュリーの場合。確かにパチュリーは雨を降らす事が出来るが、一時的なものだ。そんな雨ではこの今年に限って無駄に強い日差しの前では、すぐに干上がってしまうだろう。だから効果的に雨の恩恵を得られるためには一定時間、それも広範囲で定期的に降らせなければならない。そんな事をすればパチュリーの身が持つかどうか分からない。
早い話パチュリーを人柱として差し出すのだから、霊夢はそれを認めないのだろう。霊夢は誰に対しても平等に接する。だから、平等であるがために一人の犠牲で大勢が助かるというのは良しとしないのだろう。まあ、私もあまり好きな話ではないんだが。
私は霊夢とは長い付き合いだからこういう性格だという事は分かっているのだが、アリスには冷たい奴に見えただろう。私だって目の前に苦しんでいる人がいれば、とりあえず何とかしてやりたいと思う。
だが、必ずこういう時には槍玉に挙げられる不幸な存在が出るのだ。生贄という、他人にとって都合のいい存在が。

「しかし、いいのか、霊夢。人が減ればその分神社に賽銭が入る確率が減るぜ。」
「あっ!?」
とりあえず茶化しておいて、この場を納めた。



二人が帰った後、私はどうしたものかと思いあぐねていた。
博麗霊夢という私の友人は、酷く面倒臭い奴である。どこか他人とは一線を隔てている感じがし、結構色んな奴に好かれているくせにその為に要らぬ誤解を生む事もあるし、冷たい奴と思われる事もある。
しかし、霊夢は博麗の名を継ぐ者で博麗大結界を代々管理してきた血筋である。博麗大結界は幻想郷と人間界を隔てる物であり、大雑把に見て幻想郷の全てといっても過言ではない代物である。それ故に博麗大結界を管理する為には一切の私情を持ち込んではならず、何者からも束縛されずに、また誰に対しても平等で中立でなければならない。それが出来なければ、一時の気の迷いが全てを無に帰す事になりかねないし、偏った心はその危険性を増やす事になる。誰かに強制されるなぞもってのほかだ。
だから博麗の名を継ぐという事は、人でありながら人を止めるという事に他ならない。一切の博麗としての間違いが許されず、私見を挿まずに誰もを平等に見なければならないような超人であることを求められるのだから。
だが、霊夢は博麗の名を継いだ。そしてその生き方を受け入れ、中立で平等で、そして博麗として孤独に生きる事を望んだのだ。それ故に、私達の言動は霊夢とは最後の部分は一致しない。どこか理解の出来ない雰囲気を纏い、私達では理解できない世界で生きている。そのために、誰も霊夢を計る事は出来ないだろう。
しかし、霊夢とて年相応の少女なのだ。傷つけられれば、泣く。だが、霊夢は誰の庇護も受けようとはしないだろう。そういう生き方を選んでいるからだ。泣きながら、尚も自分を貫かなければならない生き方を。
だから傷つくと分かっていても、歯を食いしばり一人で耐える事を選ぶ。放っておけば、最後にはボロ雑巾のように成り果てて一人朽ち果てるだろう。
水が出なくなったから、分けてもらう。お賽銭が無くなったから、誰かに飯を奢ってもらう。そんな簡単な事には助けを求めるくせに、肝心な所ではいつも一人だ。だが、そういう時にこそ頼れば平等ではなくなる。だから私達が差し伸べる手を払い除けてしまうので、助けたくても助けられないのだ。そして、結局傷つき、苦しみ、悲しむ。
思えば私が霊夢に出会ってからかなりの年月が流れていた。割と長い付き合いの中で、私は何となく気づいたのだ。霊夢という少女の事を。
だから私は決めた。霊夢の傍に居る事を。本人は嫌がるだろうから、ごく普通に自然にさり気なくだが。傍に居る事で何が出来るかは分からないが、それでも居たいと思うのだ。
しかし、不思議だった。何故こんな事をしようと決めたのか、何故自らこんな酷く面倒な付き合い方をしようと決めたのか。今でも分からなかった。
とりあえず、機会があればアリスにちゃんと言い含めておこうと思った。要らぬ誤解はさっさと解くに限る。



炎天下の中、私は箒を教えられた場所に向けて飛ばした。
あれから嫌な事が幾つか起きた。慧音の奮闘により井戸が完成した。しかし、その頃になると各里の水の状況は深刻なものとなっていた。
そこで、新たに掘った井戸の水を各里に分配する事が決まった。急ぎ水を汲み上げ、幾つもの大きな瓶に全て移し、慧音が各里の人口と状況に応じて分配を決めた。そして、移送する事となった。しかし、厄介な事にその移送途中で何者かに全て奪われた。
確かに今までも賊は出没していたが、大した数でもないし大きな事は何もやっていなかった。せいぜい家畜を盗む事や、通行人を脅して金を巻き上げるくらいの事だ。だから、妖怪の襲撃も見越してちゃんとした数と腕の護衛をつけておけば問題は無かったはずなのだ。
しかし、荷は奪われた。護衛も半数以上は斬られた。いくら奇襲を受けたとは言え、数人のゴロツキ程度が出来る仕業ではなかった。
元々この幻想郷は盗賊が発生しにくい環境だった。その原因は妖怪だ。里単位で群れていなければ真っ先に餌食になる。それ故にどこかの森にアジトを構えるという事は出来ない。だから大きくなれず、出来る事も高が知れているのだ。
だから、今回の事は酷く厄介な事に発展しそうである。賊の仕業ではない。斬られているし、食べられていないので、妖怪の仕業でもない。だとすると、考えられるのは一つ。どこかの里の仕業だ。
そして、水が分配されなかった影響が最悪の結果で出た。一番多めに分配するはずだった里が、滅んだ。里の人間が、全て熱射病や脱水症状なんかで死んだのだ。そうなる前に慧音が何とかしようとしたが、どの里も他を助けるだけの余裕は無かったし、余分に人を受け入れる余裕も無かった。結局慧音が右往左往している間に手遅れになってしまったのだ。
私は今の状況を慧音から聞くために、慧音が向かったという全滅した里に向かっているのだ。そもそも私は他を当てにして何もしないなって事は出来ないのだ。
アリスはあの夜以降、また篭りっきりでどうにか雨を降らす事が出来ないか研究を続けているが、あまり良い成果は出ていないらしい。雨を降らせるには降らせる事が出来るのだが、降らした後の天候への影響がどうなるかに多大な問題が残っているらしい。それが完成するのを待つという事は私には無理な話だ。



里には入れ違いになってしまったのか、慧音の姿が無かった。所々火葬するために遺体が積み上げられているのが不気味でしょうがなかった。しかし、予想もしなかった姿を見つけた。霊夢。積み上げられた遺体の傍らに、一人静かに佇んでいた。
どうした、と声を掛けようとしたが、漂っていた雰囲気に呑まれてしまった。霊夢の横顔は遠めから見ても無表情である事が見て取れた。見ているだけでそくっとするような、冷たい表情。同族がこんなにも凄惨な死を遂げたというのに、まるで気にしていないようにしか見えなかった。
しかし、私は見逃さなかった。瞳の奥にほんの少し悲しみの様な光が灯っているのを。博麗の名が禁じた感情だ。
その時、霊夢が私の視線に気づいた。私に向き直ったときには冷徹な表情は無くなっていたが、瞳に映る感情は消しきれていなかった。
「霊夢、何故ここに。」
「私がなればいいと思っていた結果が、ここにあるからよ。」
その言葉は強い意志を持っていて、本当に現実と対面しに来たようだ。しかし、瞳に悲しみの色が一瞬燃え上がったのを私は見逃さない。注意していなければ決して分からないだろうが、生憎私は霊夢の事を良く知っているのだ。
何故霊夢の傍にいることを決めたのか、不意に今になって悟った気がした。私は霊夢にこういう表情をさせたくなかったのだ。

人は、変わる。人は短時間に簡単に変わることが出来る。しかし、どんなに時間を掛けても変えられない物もある。霊夢とて博麗として生きる事を望まれてはいたが、博麗として生まれて来た訳ではない。博麗の名を継ぐまでに持ち合わせていたものをまだ持っているとしたら、そしてそれが本来の霊夢の優しさだったとしたら。
私には想像する事が出来ないくらい辛い事のなのだろう。博麗として望んだ生き方と、捨てきる事が出来なかった本来の自分との板ばさみになっているという事は。
だからだ。私が霊夢の傍に居てやりたいと思ったのは。年相応の見ていて放っとけない博麗の少女だからだけではなかった。霊夢の中に小さく儚く存在しているものを無意識に感じ取り、それを何とか守ってやりたいともいつの間にか思うようになっていたからだ。
だから、これ以上霊夢が心をすり減らすような表情を見たくなかったし、させたくなかった。そのために私は傍に居る事を決めたのだから。
私には分からない苦闘が続いているんだろう。だから、あんなに頭が春にならないとやっていけなかったんだな。いつも頭が春だって馬鹿にして、済まなかったぜ。

「気にするな、霊夢。これは天災で、だれの責任でもないぜ。強いて言えば、御天道様ぐらいなものだ。」
「何よ、急に。」
「いんや、別に。霊夢が柄にも無く自分の発言を気にしているのかなって思っただけだぜ。」
そう言って、見た目には怒っている霊夢を後に、再び慧音を探す為に空に舞った。今の私に出来る事は、軽口を叩いて霊夢の気を少しでも紛らわせてやる事だけだ。それ以上は霊夢が嫌がるだろう。



事態は深刻な物にとなった。慧音が執念で水の行方を探し当てたのだが、やはり里単位での犯行であった。慧音の再三に渡る申し入れを受け入れず、頑なに拒み続けている。その態度に激怒した他の里の人間が即座に水と首謀者を引き渡すように激しく抗議しに行ったのだが、抗議した人達が斬られるという事態が発生し、いよいよ手が付けられないものとなった。
そもそも移送中の水を奪うという事自体が正気の沙汰ではないのに、このような事をすればどうなるか少し考えれば分かる事なのだろうが、すぐそこまで来ている危機に捕らわれ、最早誰も正常な判断が出来ずにいたのだろう。危機感に煽られて、恐怖に突き動かされたというところだ。恐怖に支配された人間が何を考えているのか分かったものじゃない。
それで完全にキレた他の里の人達が手に思い思いの獲物を持ち、その里に殺到した。慧音が間に入り何とか事を納めようと四苦八苦しているが、自体はまるで好転しそうに無かった。
私もこの殺気に満ちている里に来ていた。さすがに静観できる状態ではないので私も何とか事態を収拾しようと試みたが、まるで駄目だった。慧音ほど人徳が無かったので、話しすら聞いてもらえなかったのだ。
いい加減埒が明かないので、私が首謀者を締め上げて水を奪い返そうかと慧音に提案したが、首を縦に振らなかった。理由は、狂気に駆られた連中の抵抗で私が思わず人を殺すような自体は避けたいとの事で、私も自信が無かった。
仕方が無いので、隅のほうで自体の成り行きを見守っているだけで、今にも倒れそうな疲労困憊の慧音を応援しているだけだった。
空を見上げると、どんよりと雲が立ち込めていた。今の状態を象徴しているみたいだが、さっさと雨が降らないかと歯痒く思っていた。雨さえ降れば頭に血が上っている奴らも、恐怖で血迷っている奴らも落ち着くかもしれないからだ。
目を閉じ、これからの事を考えた。とりあえず今のところは何とか慧音が両陣営を抑えてはいるが、それももう時間の問題だろう。十分すぎるほど殺気と狂気が満ちているのだ。その時私は何をするべきなのか、考えなければならなかった。
恐らく両陣営に飲み込まれるだろう慧音を救う、そして後は成り行きしだしいだと決めた。
もう一つ私は気にしている事があった。霊夢だ。本来妖怪退治が主だったが、この異常な事態を霊夢は見逃す事が出来るのか。もし見逃す事が出来ないのならば、どういう行動に出るのか。その行動は博麗霊夢としての行動なのか。また、その行動は霊夢の心を締め付けるものなのか。そして霊夢に私が傍にいれるだけの場所があるのか。
これも、殆ど出たとこ勝負である。しかし、可能な限り霊夢の傍に立つ。もう、そう決めたのだ。
暗雲が更に立ち込めた。今にも降りそうな天気を恨みながら、慧音の居場所に注意を払う。慧音が両方の代表者を会わせて、話し合いをさせようとしていた。
里の長のような人が、何やら狂気じみた言葉を並べ始めた。その殆どは被害妄想や強迫観念に捕らわれた物でしかなく、聞いているほうが馬鹿馬鹿しくなってきたがこの里の人の間では正論視されているようで、ある意味狂信者のような連中だ。水を手放す気は無さそうだし、この事態を収める気も無いようだ。
次にもう片方の代表者が出てきて、怒り心頭といった感じで叫び始めた。言っている事の殆どは筋が通った物なのだが、いかんせん一方的過ぎる物言いだった。どうやらこちらも事を収める気は無いようだし、水を諦める事もしないようだ。
結局、物別れに終わったようだ。だが、慧音には悪いが最初から予想していた事だ。
両者の主張が合図となった。両陣営から気が膨れ上がり、溢れ出した。決壊。この状態にピッタリの言葉に思えた。
私は急ぎ箒に跨り、顔面蒼白になっている慧音の元に飛んだ。



「人間達が、人間達が・・・」
「馬鹿やろう、泣いている暇があったら打開策の一つや二つ、さっさと考えろ!!」
私達の下では、凄惨な殺し合いが始まっていた。怒涛のごとく人が里に押し寄せて、里の警備に着いていた人と激しい戦闘が始まった。元々あまり備えがされていなかったし数の上でも不利だったので、すぐに囲いが破られ人が里の中に流れ込んだ。そして、里のいたる箇所で殺し合いと殺戮が始まった。私が慧音を間一髪のところで拾い上げ安全な上空に退避し、私が一息ついていた間の出来事であった。
私は眼下で行われている事も抱えている慧音の事もそっちのけで、一つの事に注意を向けていた。霊夢が行動を起こすとするならば、どうするのか。この混乱の中で何をしようとしているか。何処で、何をする気なのか。
一瞬、感じなれた霊気を感じ、その後爆音が響いた。夢想封印 集。間違いない、霊夢だ。私は慧音を連れてその場所に急行した。
爆発が有った場所は、確か奪った水の瓶が保管されている小屋が建てられている所だった。そこで霊夢は何をしようとしているのか。
半壊した建物と里と攻め手の両方の代表者と手勢、紅白の巫女の姿。
「霊夢、何をしているんだ!!」
とりあえず今にも斬りかかられそうな霊夢の傍に着地し、周りの連中を退かした。しかし、霊夢は私達に関心を持っていなさそうな感じだった。
「霊夢、何を」
「決まっているじゃない、魔理沙。慧音でもこの騒動を抑える事が出来なかった。ならばこの騒動の発端になっている原因を排除するまでよ。」
「馬鹿な、それこそこの騒動は収拾が効かなくなる。馬鹿な事は止めて、大人しく博麗神社に帰るのだ。」
「だからね、慧音。皆が分かるようにこうして堂々と壊しているのよ。私が壊したって分かるように。」
最悪だった。霊夢はこの騒動を止める為にあえて憎まれ役をしようというのか。
霊夢は平等であるがために、事の発端がどうであれどっちかに着くという事はしない。元々関与自体しないはずだったのだろうが、さすがに見過ごす事が出来なくなってしまった。だから、ここにいる全ての人間の殺意の対象を自分に向けさせる事を選んだ。そうすれば確かにこの騒動は終わる。
「止めろ、霊夢。そんな事をすれば、お前がどうなるか分かっているのか。」
「貴方も邪魔をするというのなら容赦をしないわ。魔理沙、そこを退いて。」
霊夢の言葉に迷いは無かった。恐らく、何と躊躇いも無しに半壊しかかっている小屋を次の一撃で吹き飛ばすだろう。そして、ここにいる全ての人間が生き残る為に是が非でも手に入れようとしている水を、いとも簡単に吹き飛ばすだろう。
「頼むから止めてくれ、霊夢。お前がこんな事をする必要が何処にある。」
しかし、霊夢は無言で私を睨みつけて来るだけだった。
私は焦った。博麗としての行動なのかどうなのかは分からないが、霊夢は本気だ。しかし、そんなことをすればどうなるか。一生人から憎まれ、後ろ指を差され続けるだろう。最悪の場合、博麗神社が焼き討ちに合うという事態も起こり得る。
いかにこの騒動を治める為とは言え、これだけは霊夢にさせる訳にはいかなかった。傷つくという程度を超えた物が霊夢に待っているのだから。
しかし、もう既に賽は投げられている。半分は瓶は壊れているだろうし、ここにいる連中がそれを見ている。
慧音が一歩、前に出た。完全に敵視している。霊夢がやろうとしている事は、理由はともかく慧音にとって許せる事ではないのだろう。
このままでは、非常に不味い。ここにいる全ての者が、霊夢の敵になろうとしている。
私は霊夢を救う為に、自らを捨てる決断した。霊夢よりも大きな悪役を演じる事。それを上手くやれば霊夢に非難の目が向かなくなる。
「ああ、もう嫌だ。いい加減お前らの馬鹿騒ぎに付き合うのもウンザリしたぜ。」
大声で言うと、周囲の目が私に向いた。霊夢と慧音も何事かというような顔をしている。
「大体なんだ、霊夢。この騒ぎを収めるとか言って、お前まで結局騒ぎの一員になっているじゃないか。騒ぎたいんだったらどこか他所でやれってんだ。」
霊夢が何やら食って掛かってきたが無視した。
「それに慧音。お前が役に立たないからこんな事になったんだぞ。でかい事を言っていた割にはこの様だ。こんな事だったら、とっとと家に帰って畑でも耕してろ。」
慧音が心外だという表情をして、これまた食って掛かってきたが無視した。
私はここにいる連中にちゃんと聞こえるように宣言した。
「お前らには、ほとほと愛想が尽きた。何とか穏便に済ましてやろうと思ったのに人の好意を無駄にしやがって。この騒動も我慢ならない。だから覚悟しろ。お前ら全員、私がぶっ飛ばす。死んだらあの世で後悔しろ。」
「ちょ、魔理沙!?」
「待て、魔理沙。私はそれを許す事は」
「五月蝿い、お前らも喧嘩両成敗だ。大人しく星になりな!!」
言うと同時に、マスタースパークを放つ。霊夢と慧音とその他数名の悲鳴が爆音に掻き消された。



ようやく喧騒が収まった里を一人私は歩いていた。とりあえず焦げて伸びている慧音の代わりに、崩れかけた小屋から無事な瓶を運び出した。その過程で霊夢が壊したもう半分を私が壊した事にする。そして慧音と里の長と他の里の代表者を引きずって来て叩き起こし、争いの中止と水の分配を決めさせた。何やら文句を言っている奴には更に焦げてもらったが。
一通りやる事を終えて、後は慧音に任した。ようやく一息入れる事が出来、空を仰ぎ見る。今にも振りそうなのに、雨は結局降らなかった。雨さえ降れば要らぬ犠牲も出なかったのに。ままならぬものだと、つくづく思う。
気が付いてよろよろと動き出した人達が、私に気づいては嫌な視線を向けてきた。不快に思ったが、仕方が無かった。ここにいる全ての人間の敵になろうとして、この里で暴れていた連中を無差別に張り倒して回ったのだ。死人が出ないようには手加減したが、全治何ヶ月の怪我を負った者もいるだろう。
ようやくのろのろと起き上がっている霊夢を見つけた。例外なく焦げているが。
「よう、気分はどうだ。」
「無茶苦茶よ、全く。」
半眼になって睨みつけてきた霊夢は、ぶつぶつと文句を言ってきた。
「だけど、何とか事が収まっただろう。まあ、結構犠牲が出たが。最初から私に任せて置けばよかったんだぜ。」
「魔理沙、貴方一体どういうつもりなの。」
霊夢の目が、鋭くなった。
「別に、ただ単に私が切れて暴れ回っただけの事だ。霊夢が気にする事は無いぜ。」
霊夢の目が更に鋭さを増した。何を言おうとも見透かされそうだった。
「違わないぜ。殺し合いをしている連中を私が切れて張り倒した。その結果争いが沈静化した。何せ全員伸びちまったんだからな。だからこれにて一件落着。私も気分がすっきりしていい気持ちだぜ。」
「魔理沙」
「下手な勘繰りは止めてくれ。これ以上でもこれ以下でもないぜ。」
霊夢に背を向け、歩き出した。これ以上霊夢に詮索されると、何かボロが出そうだった。これは私が勝手にやった事で、霊夢には関係の無い事だ。だから霊夢が気に病む必要が何処にも無いのだ。
慧音がヨロヨロと私の横を歩いていき、すれ違った。その時慧音は私に複雑な視線を投げかけてきた。慧音の真意を計る事は出来なかったが、少なくともこういう形ではあるが私が争いを止めたという事は理解しているようだ。まあ、慧音にしてみれば不本意極まりないだろうが。
ふと、視線に気が付いた。少女。年功序列で焦がす火力を調整したのであまり焦げていない。その視線は私を射抜くかのようだった。
命が欲しいのでしばらく里の地を踏む事は止めておこうと思った。どうも必要以上に人から憎まれてしまっているようだ。それでもほとぼりが冷めた後もなるべく控えるようにしておこう。まあ、仕方が無い事だ。私の身一つで出来る事は、これが限度だ。
少女が近づいてきた。嫌な予感がした。しかし、その正体が掴めない。ひそかに身構えた。
少女が更に近づいてきた。手には何も持っていないが、その動きは明らかに不自然だった。
少女が急に駆け出した。すぐに距離が縮まった。手を背にやった。私も飛び退ろうとしたが、間に合わない。
少女が突進して来た。その衝撃で私の体は後ろに飛ばされたが、衝撃と同時に脇腹に熱いものが走った。咄嗟に身をよじって急所は避けたが、それでも意識を失いそうになった。
少女が私の血が滴り落ちるナイフを持って、私を見下ろしていた。その目は狂気で血走っていた。
さっきすれ違ったばかりの慧音が、私達の様子に気が付いた。割と強めに焦がしておいたので、いまだにヨロヨロとしている。そんな状態で何をしていると詰問してきた。
最早完全に理性が飛んで見境が無いのか、少女が邪魔だと言わんばかりに慧音の方に向かった。私の血で濡れているナイフを両手で構え、慧音に突撃をした。
避けろ、そう叫ぼうとしたが痛みが邪魔で出来なかった。刺される、そう思った瞬間幾つかの輝きが見えた。夢想封印。事態に気が付いた霊夢が咄嗟に放ったのか。しかし、その輝きは少女を粉々にするには十分過ぎる。
爆音と同時に、少女の体が吹き飛んだ。爆風に煽られた慧音が尻餅をつき、更に血の雨と肉片が慧音を打った。
私は霊夢を見た。大きく目を見開き自分のした行為に言葉も出ないといった様子だったが、地面に崩れ落ち嗚咽の声を上げだした。
私の頬を、冷たいものが打った。見上げると雨が降り出していた。
「馬鹿やろう、今更振り出しても遅いんだ!!」
傷が痛むのも気にせず、私は心の底から叫んだ。



「よう、元気か。」
「私はね。魔理沙のほうが重症だったと思ったけど。」
「私があの程度の傷で死ぬもんか。」
いつも通りという感じで私は境内で掃除をしていた霊夢に声を掛け、いつも通りのような返事が返ってきた。
あれから何日も雨が降り続けた。何とかあの騒ぎは雨と慧音の奮闘努力と何より私のお陰で、一応の決着はついた。
雨が止むまで私はずっと怪我の治療に専念していて、事後処理がどうなったかは知らない。慧音に聞けば分かるだろうが、また刺されかねないので人里には入れないのだ。まあ、慧音の事だから、上手くやっているだろう。
それよりも、私は霊夢の事が気になってしょうがなかった。あの後強く降りしきる雨の中、ずっと泣いていたのだ。咄嗟の事で人助けの為とは言え、少女を殺してしまった事はそうとう堪えた様だ。
咄嗟の瞬間では予想していない限りその人の本質が現れる。だから博麗霊夢としてではなく素のままの霊夢として慧音を助ける事を選び、そしてこの結果を招いた。
仕方が無かった事だ。私でもあの状況では威力調整をするのは無理だったと思う。そればかりか援護が間に合わなかったかもしれない。だから本来その健闘を称えるべきものであるはずだった。
しかし、私は霊夢に何も話し掛けられなかった。ただただ雨に打たれながら泣き崩れている霊夢の後ろで、歯を噛み締めながら黙って見ているしかなかった。
霊夢が傷つかないようにと決めたはずだった。だが、結局霊夢は泣いた。私は自分の無力さに腹を立てているしかなかった。
「なあ、霊夢。」
「私なら平気よ。あれは仕方が無かった事なんだから。だからいつまでも気に仕方が無いでしょう。」
しかし、そう言う霊夢の表情にはどこか陰りがあるし、落ち込んでいるようにも見える。
「それより、魔理沙は本当に大丈夫なの。あの出血と雨の中で倒れるまで立っていたじゃない。」
「大丈夫だ。しっかり治したぜ。」
霊夢が私を見据えてきた。何かを計る様な目。
「そう言えば、何故魔理沙はあんな無茶をしたの。それに何故私が壊した小屋が魔理沙のせいになっているの。何故、私が行動を起こした途端にあんなに暴れだしたの。」
私は、何も答えられなかった。答えたくなかった。答えれば、庇われた事を知った霊夢がなんと思うか。全て私が勝手にやった事なのだ。だから霊夢が負い目を負う必要は無い。
そして、悟った目。
「そう、そう言う事ね。」
ふう、と霊夢はため息を付いた。
「そう言えば、私が泣いている時はいつも魔理沙は傍に居てくれたよね。それに、いつの間か誤解が解けていたときがあったし。」
「霊夢には関係ないぜ。私が勝手にやった事だ。何せ私は血の気が余る年頃の娘で、ついでに重度のお節介を焼きだからな。知らなかっただろ。」
やっとの思いで、言葉を搾り出す。
「だから、これからも好き勝手に暴れるし、霊夢が嫌だって言っても好き勝手にお節介を焼く。気にしていたら身が持たないぜ。」
何やら霊夢が呆れた表情をした。私だって苦しい事は分かっている。
「そう、じゃあせいぜい好き勝手にやっていなさい。」
そう言って霊夢は私に関心が無くなったように掃除を再開する。その姿はいつもながら何処と無く孤独感が漂っていた。それは霊夢が背負っているもの故か。
「もう少しで掃除が終えるから、縁側で待っていて。その間にもう少しマシな事を言えるようにしておきなさい。聞いているこっちがアホらしくなっちゃうわ。」
霊夢が感じている孤独感。常に一人で生きていく事を決めた時、何を思っていたのか。
「なあ、霊夢。」
霊夢が私の方を見た。私も霊夢を見る。つかの間、見つめ合った。
「霊夢、お前の傍には私がいる。それだけは覚えておいてくれ。」
何となく、言わずにはいられなくなった。だから言ってしまった。
私は霊夢の反応を待たずに、縁側に向かった。恥ずかしくて、とても霊夢の視線に耐えられなかったのだ。
霊夢は霊夢、私は私。例え霊夢がどう考えていようとも、どれだけ余計なお節介だと思っても。
私は私を貫く。
どうも、お久しぶりです。
そして恒例の懺悔タイム。どうもすいません。霊夢はこんなキャラじゃないっていう読者の方、どうぞスルーしてください。いえ、ぜひしてください。私も何となく違うよな、とか思っていますから。
それと、前回に無駄な部分が多いと言って反省するような事を言ってましたが、今度は更に酷くなっています。何故こうなったんだ!?うーん、ミステリーですね、私の頭が。
今回の話は、あくまでも魔理沙の主観で見た話なので、本当の霊夢は違うかもしれません。と言うか、多分違うだろうし。それでも、一遍はこういうものを創ってみたかったので乗せました。こういう魔理沙の霊夢との付き合い方が有ってもいいのではないかと思っております。最後まで読んでくれた読者の皆様、本当にありがとうございました。
それと、またアリスが何故か出てきました。出す予定が無かったのに、何故お前がここに居る!?
それでは、また。
ニケ
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コメント



0.3440簡易評価
4.無評価no削除
匿名評価0点。
私見ですが殺伐すぎて幻想郷にそぐわない気がします。霊夢のキャラ立ては納得の行くところなのですが、その後の行動が「ここで人死にがあれば面白くなるだろう」的な所が透けて見えるようで納得がいきませんでした。また、封印はあくまで封印なのではないのでしょうか? とっさの判断とは言え殺傷の方向に機能するとは考えにくいのです。上白沢の歴史喰いの能力も考慮に入っていないようですし。
あくまで私見です。
19.40sa削除
個人的にキライではないですが、noさんの感想もわかります。
ケイネの能力をもうちょっと考慮したら話が変わるかなぁ、とも思いました。
が、水という生命線がなく奪い合いが発生する、という話の大筋は面白かったです。殺伐とした雰囲気はあるですが、人間の里という場において、こういうのもアリだと思いました。
21.無評価名前が無い程度の能力削除
話自体は面白かったけど、この幻想郷は自分のイメージするそれと大きくかけ離れているようで。
23.30Hodumi削除
―――これはこれで。何と言うか、ええと……これはこれで。
水は死活問題ですし。
31.60so削除
こういう殺伐とした幻想郷もありかなってのが個人的な所見です。
雰囲気だけで十分なインセンティブになっていました。

後、全体的に文が詰まっている印象を受けたので、会話の前や後に改行入れたりすると見やすくなるかなと思いました。
32.無評価名前が無い程度の能力削除
殺伐としてるのはまあいいんです。自分が気になってるのは、幻想郷の構成というか。
そもそも幻想郷とは、日本の山奥の妖怪が主に住んでいる一角を結界で閉じこめた所、ってのが妖々夢のテキスト(http://www16.big.or.jp/~zun/html/th07man/html/story.html)に書いてあるところで、そんなところになんでこんなたくさん人間がいるんだ、ってのが最大の違和感。
それから、水不足で妖怪は困ってないのでしょうか? リグルとかチルノとか、人間以上に切迫した状況になってると思うんですが。それらについて一切触れられていないのも、違和感がありました。
あと、紅魔館のあるところの湖ってどういう状況になってるんでしょう? 井戸なんか掘るより、あそこの水を濾過して使う方が火急の場合には都合がいいと思うんですが。
などなど考えていくと、この話は「水不足による諍いを起こさせるために色々都合良く設定した」ように見えました。
残念ながら、説得力を感じなかった、といったところでしょうか。
49.10名前が無い程度の能力削除
霊夢と魔理沙に対する掘り下げが深く、読ませる力がありました。
ただ、やはりけーねの能力を活かせてないことや、ラストの少女の死は蛇足のようにも思えました。
この殺伐とした幻想郷と霊夢を使った次回作を期待してみたりw
67.70名前が無い程度の能力削除
自分はこの話、とても面白く読めました。
挙げられてるような問題もあるとは思いますけど、やっぱりとても上手い文章だと思います。
84.70名前が無い程度の能力削除
この殺伐がいい感じ、他の人が言ってる設定とか大きいのはともかくそんな細かいのは気にしなくてもいいんじゃ・・・
まぁ人にもよるんでしょうけど

悪即斬の自分は少女じゃなく村長に死んでもらいたかったり
86.90創製の魔法使い削除
普通に良かったと思います。
最後の少女を殺してしまった事で、博麗の巫女ではなく『博麗霊夢』としての感情を表現したのが良かった。

二次創作は、ある一つの可能性だと私は思いますのでこの殺伐とした幻想郷もある一つの可能性だと思います。
87.無評価創製の魔法使い削除
追記

あくまでも二次創作ですので余り細かい事には気にせず作者が作った物語を純粋に楽しんだ方が良いと私は思います。