小鳥が一匹死んだ。
事実として言うべきことなど、それだけだ。そう、たったそれだけのこと。
それだけのことで、あの子は泣くのだと、それだけのこと―
空は高く、白く、世界は白色透明な光に包まれ始める。
白夜というのとは全然違うのだろうけれど、こんな朝の時間帯を、こんな天気の日を、私は白夜だと言いたくなる。
神様ってやつがいるのだったら、面倒事を、それに仕える巫女に処理させるのではなくて、自らたまには何とかして欲しいなぁと思うのだけど、この世界は誰かに祝福されてるのかな、なんて思うことはある。
そう思う程度には、この時間帯のこの世界は、美しい幻想に彩られているということ。
というような事をつらつらと考えて、私は紅魔館目指して空を飛んでいた。
「んー、ここら辺かな」
眼下には、その辺り一帯だけ霧が濃い場所がある。元々、霧が発生しやすい場所なのか、日光が嫌いだから意図的に作り上げて届きにくいようにしているのか、正確な所は聞いたことがないから分からないけれど、やけに霧が濃くて、濃密な妖気が渦巻いている場所があれば、そこは間違いなく紅魔館だ。
大よその目算を付けて、私はくるんと身体を縦に半回転させ、そのまま自然落下に身を委ねた。
空を飛んでいたのだから無重力だったわけだけれど、こうして引力に引っ張られて落ちていくのもまた無重力だ。
身体はぐんぐんと速度を上げて、日が昇りきらぬ朝方の空気は身を切るようなモノへと変わっていく。それは心地よく、少し寝惚けていた頭と身体を覚醒させてくれる。
適当な距離を自由落下したところで、引力を相殺させて落下速度を落としていき、再びくるんと縦に身体を半回転させて私は地面に着地した。
何となく両手を左右45°くらいに掲げてみたり。
「うん、なかなか」
10点満点中、10.5点くらいは貰えるわね。
もしかしてアレかしら、軽業師とかやったら儲かるのかしら? とか少し考えたが、無重力であることがバレたら「詐欺だ! 金を返せ!」と怒られそうな気がしたので、軽業師を目指すのは数秒で止めた。
そもそも見世物になるのは勘弁だし。
私は時々、紅魔館へ足を運ぶようになった。
約束めいたものをしたから、というよりは気紛れに近いかな。まぁ、たまには子守めいたものをしたって悪くは無いかと、そんなところ。決して、紅魔館の食事に惹かれたとか、釣られたとか、そういうんじゃないわよ、ほんとよ。
しいていうのなら、『遊びに来てあげるから』と、つい約束めいたものを口にしてしまったのが原因だろうか。
全く、自分がそんな口約束程度に律儀さを発揮するとは、何とも私らしくない。
しかしまぁ、「待っている」と言われて、それを無視決め込んで気持ちが悪くならないという程には、私も人間辞めていないのだ。
「『優しさとか、思いやりなんて、人間が後生大事に抱え込んでいる要らないもの』、アイツはそう言ったっけか」
全く、馬鹿な娘だ。本気でそう思っているのなら、泣きながらそんなことは言わないだろうに。
「遊んで欲しいのなら、ただそう言えばいい。まぁ、それに付き合う私も充分馬鹿なのかしらね」
空を仰いで見るけれど、濃霧で空の色を確認することは叶わない。
「こんな濃い霧じゃ、隠れる場所が無くっても、かくれんぼが出来るわね」
さて、今日は何をしましょうか。そんなことを思いながら、私は近くにあるはずの紅魔館を探して歩き始めた。
ヴァンパイア二人の妖気が垂れ流しだ、方角を探るのは容易い。
陽射しは全然弱い上に、辺りの空気は霞がかっていて、本当に見通しが悪い。
こんな時間から私も随分と勤労なことだ、と本気で思う。どこぞの農家じゃあるまいし、普通の人はまだ皆寝てるってのよ。
胸中で呟きながら、門を潜った。
名前は知らないけれど、中華風の妖怪の女が「いらっしゃいませ」と笑顔で言いながら、ひらひらと手を振ってくれた。私は半ば投げやりに、「お互い、朝っぱらからご苦労なことよね」と返した。女は、「私は仕事ですから。でも、霊夢さんはご苦労様ですね」そう言って、苦笑した。
相手のほうが全然長生きだってのに、子守っていう感じだもんなぁ。そう思って、軽く溜息を吐いたが、門番は既に外を向いており、私の溜息には気が付かなかったようだ。もっとも、気が付かれた所で、何がどうなるわけではないけれど。
門番はこんな時間にも毎日居るけれど、私はかなり前から顔パスである。魔理沙は毎度毎度、門番と一悶着起こしているらしいけれど、何でなのかしら?
館の入り口に向かって数歩歩いて、そこで声を聞いた気がした。
幼く、高く、悲しい声。泣き声だ。
どうしてここのヴァンパイアは、姉妹揃って年齢にそぐわない性格をしているのだろうか、そんな事を思いながら、声の主を探した。
門番の娘は、聞こえていないのか、それとも私に任せる方が良いと思ったのか、こちらを向いてさえいなかった。こんなことで頼りにされてもなぁ。
上空はともかく、館一体はこの時間帯、霧が余りにも深く、数歩先すら見渡すことがままならない。とはいえ、相手は人間ではないのだから、妖気を辿ればいいだけだし、その子は強すぎる妖気を垂れ流しだから、意識せずとも分かる。
一分とかからずに、声の主は見つかった。光翼に、白いけれど健康そうでハリのある肌。力の大きさからでは思い描くのは難しい、とても華奢な体。これが吸血鬼だと言われて、どれ程の人間が信じるだろうか。
そいつは、大地に両膝と両手をつき、何かを零していた。
「…れい…む。動かないの、この子が動かなくなっちゃったの…」
零しているのは、疑問の言葉か、それとも理解できぬ事柄への恐怖か、いや、ただ涙を零していると、そう言えばいいのか。
震える両手に、大事そうにそれを乗せて、私に見せた。
「雀ね」
ただの雀だ。妖怪でも何でもない、ただの雀だ。
「館の中を探索してて、窓から外を見たらこの子が飛んでて、それで一緒に遊ぼうと思って…」
「それで、手で捕まえたら動かなくなった。そんなところ?」
フランドールは、うんと頷いた。
この娘は『遊びたい』、という理由で屋敷内で暴れた例の一件の後、「別に普通に遊ばせてあげれば暴れないんじゃない?」、「レミリアだって、好きに外をへ出てるわけだし、フランだって出して構わないんじゃないのか?」という私と魔理沙の一言により、屋敷内と、その敷地内の闊歩が許されることになった。
とはいえ、この娘をそのまま部屋から出すという行為は、空腹の虎やライオンを手綱もなしに檻から出すようなものである。そこで、私は条件を付けることにした。いや、虎やライオン相手に手綱があったところでどうにもならないような気もするけどね。まぁ、気休め程度にはなるだろう。
レミリアはその条件を出しても少し渋っていたが、「霊夢がそれでいいなら、私は構わないわ」と、最後には折れた。何故か、そっぽを向きながらで、頬を紅くして怒っていたような気もするが、別にレミリアに怒られる理由も浮かばなかったので、それは私の気のせいだと思うことにした。
付けた条件はたった一つ。
『決して、無闇矢鱈にモノを壊さないこと』
この娘の力は、考えもなく振り回すには余りにも大きく、凶暴だ。だから、そんなことをもし繰り返せば、幻想郷が壊れることは勿論だが、この娘自身が、本当に壊れてしまうと、私はそう考えた。
私は、雀を受け取りながら、様子を軽く調べようと思った。しかし、調べるまでも無い。瞬きは無く、体はピクリとも動かない。更に、体の骨がほとんど砕けている。これでは、この雀が妖怪化していたとしても生きてはいまい。
外傷らしい外傷など何処にも見当たらないのに、完全に死んでいた。恐らく、フランには本当にその気は無かったのだろう。ほんの僅かでもその気があったのなら、この雀は跡形もなく消し飛んでいただろうから。本当に、この娘は因果な力を持って生まれたものだと思う。
「その子、どうしちゃったの…?」
ここで適当な嘘を吐くのは容易い。わざわざ残酷な言葉を投げる必要など、恐らくどこにも無いし、私はいちいち冷たい人間を気取って悦に入るほど、サドでもない。
外の世界など知らない、見たことも無かった。なら、そこに居た生き物に初めてした行為が、それの命を奪う結果となるものだとしても、そこに悪意が無かったのであれば、誰がそれを責められる。
少なくとも、ここの館に居るものは誰一人としてこの子を責めないだろう。実際、たかが小鳥一匹だ。この子が吸血鬼でなく、ただの子供だとしても、目くじらを立てるほうが多分おかしい。
(魔理沙辺りなら、適当にそれっぽいことを言うんでしょうね)
そう思うものの、魔理沙は居ない。年がら年中本を読み漁っているような彼女と違い、自分は上手い言葉も、言い回しも知らない。
けれど誰も言わないのならば、私が言うしかないのだろう。あぁ、本当、面倒だ。
冷たく、鋭利に、刺す様に。私は、淡々と言葉を紡いだ。
「死んだのよ。貴女に分かりやすく言うのなら、『壊れた』というところ」
「こわ…れた?」
「そうよ。動かない、呼吸をしない。この子は二度と動かない。フラン、貴女が壊したのよ」
「うそ…嘘だよ。わたし…そんなつもり…」
「本当は分かっているんでしょう?」
だから泣いている。この子は分からないフリをしているだけだ。 誰より、壊してしまったということを自覚しているはずだ。
「ごめんなさい…ごめんなさい…。本当…わたし…」
「謝れば済むと、そう思っているの? 命がその程度のものだと、貴女はそう思っているの?」
「ち、違うよっ! ごめんなさい…ほんとにごめんなさい霊夢」
そうじゃない、フラン。貴女は分かっていない。許されるとか、許されないだとか。罪だとか、罰だとか。そんなことはどうでもいいの。ただ、考えることが必要なの。反省するかしないかなんて、その上で貴女が決めるべきこと。
「何かに、誰かに許されたくて、謝罪の言葉を紡いでいるのなら、今すぐ黙りなさい」
誰かに許されて、それで楽になりたいと、そう思っているのだったら、私は貴女を叩かないといけない。人だからとか、妖怪だからとかは関係ない。心を持ち、言葉を操るものとして、そんな行為は最低だからだ。
この世界は貴女を受け入れる。けれど、意味無き破壊は、私も幻想郷も決して認めない。 この世界の規律云々以前の問題だ。
命の尊さを説く気など無い、そんなのよく分からない。特に分かる気も無い。 そんなことは、巫女の仕事ではなく、寺の坊さんの仕事だ。
何かを意味無く壊すことは、貴女自身を貶める。だから、止めなさい。
私はただ、そう言っている。
「私も魔理沙も、貴女を受け入れる。貴女は自分を受け入れてくれるものを壊したいと思うの? 自分が相手を壊そうとして、その相手に受け入れられると思うの?」
「わかんない…そんなのわかんない。私はただ、遊びたいだけだもん…」
手で目をこすり、涙を拭い、言葉を紡ぐ。
まぁ、そうなんでしょうね。
今はまだ、意味など分からなくて当然だ。貴女は悪くない、だけど誰かが叱ってあげないといけない。
なんでそれが私なのよ、という感はあるし、本当に誰か代わりに言って欲しいのだが、咲夜には従者としての立場があるだろうし、レミリアは鳥一匹如きのことで、どうこう言う事などないだろう。その他大勢のメイド達とか、館で働いている人も立場的に苦しい。
そう考えていくと、残るのはパチュリーと魔理沙、私くらいのものになる。パチュリーは図書館から出てこないし、魔理沙は今ここに居ないし、これは必然的な貧乏くじというやつなんだろうか。
まぁ、妖怪の始末も後始末も、人間がどうせやるハメになるのだ。なら、説教の一つくらいもして然るべきなのかもしれない。
「ごめんね、フラン」
ぽんと頭に手を置いた。
自分が優しいなどと、暖かいなどと思うことは無い。それでも、わざわざ冷たく当たるのも面倒極まりない。普段の声音で言って、俯いたフランの頭を少しだけ優しく撫でてやった。
この娘が傷つくなんてこと、私だって分かってる。それでも、私はそんな言葉を口にした。これで、この娘が怒るのなら、それはそれで構わないと思う。
でも、確信がある。この程度でこの娘は壊れないと。一人きりで、狭い檻とも呼べる部屋で、500年近い時を過ごしてきた、それでも尚この娘は壊れなかった。
私はフラン程、強い娘を知らない。
フランは受け止めるだろう、小さな命の喪失を。言葉足らずの私の言葉を。そしていつか理解する、この世界を。自分の力が何なのかを。
それまで傍にいてやるもの、まぁ悪くないかも知れない。私が遊びに付き合いに、ここへやってくるのは結局、そんなところなのだろう。
明確な理由なんて、何一つありはしない。気分で物事を行うのは、人間も妖怪もそんな変わるまい。
「霊夢は、私のこと嫌った?」
「嫌っていたら、問答無用であんたの両目に針でも投げ込んでるわよ」
言って、フランに背を向け、館に向かって歩き出す。
「もんどーむよー?」
声と足音が追いかけてくる。
「何にも言わずってこと。あんたは言えば分かると思った、理解をすると思った。だから言った、叱った。それだけよ」
足音が止まった。
私の言っている意味が分からないのだろうか? そう思って、背を振り返った。 背中に軽い衝撃と、それと比べると随分と強い力で体が締められる。華奢だけれど吸血鬼なのよねと、これでもかなり手加減しているのだろうなと、そんなことを思う。
「えっへへー」
分かった、分かった、よーく分かったっ!
何度何度も連呼する。
「ちょっ、いきなり抱きつくなっ!」
一体何をどう理解したのよ、この娘は。絶対にあんたは何かを勘違いしてるわよっ。
あーもー、わかんない、本当わかんない。
子供は苦手だ。
さっきまでぴーぴー泣いてたくせに、今は無邪気に笑ってる。信じられない、どんな精神構造してんのよ。
顔を見返してやれば、更に、にこにこするもんだから、顔を背けるようにして歩いた。
「ぶらーん」
フランが喋るたび、首筋に息がかかってくすぐったい。
「人にぶら下がるな、重い」
噛み付いたらぶっとばすわよ、と言うつもりだったけれど、違うことを言っていた。レミリアとフラン、二人にその気が無いことなんて、実際とっくに知っているけれど、私は時々冗談めかしながらそう言う。もののはずみで噛み付かれることは、充分に考えられる話でもあるし。
本当は全然、フランは重くなど無かった。ぶら下がりながら、自分で羽ばたいてでもいるのだろう、半端な気の使い方をする娘だ。けどまぁ、不器用で当然か。
誰と触れ合うことも無く、世界は檻のような狭い部屋一つと、書物だけ。
けど、これからは色んなことを経験していくんだろう。
その都度、何かを壊して、笑って、時には今日みたいに泣くんだろう。
だけどもし、それでも貴女が外の世界を恐れないのなら。
「フラン。いつかあんたから、うちに遊びにいらっしゃい」
「え? 何か言った霊夢?」
ぶら下がる、僅かなフランの体重を背に感じながら、私はゆっくりと瞼を数秒閉じた。
「何でもない」
それはまだ、先の話よね―
いつか、貴女の光翼が、透明な朝日を反射して輝くことを、世界に対して無邪気に笑うことを―
そんな馬鹿なことを柄にも無く、声に出さず神様にお祈りした。
瞼を開き、フランを無理やり引き剥がして、乱暴にくしゃくしゃと頭を撫でる。
「今日は何して遊ぶ?」
そんな一言で、フランの顔が笑顔で弾ける。本当、子供みたいだ。
「えっとね、えっとねっ――!!」
こんな風に、無邪気に笑う貴女を私は知っている。
だから、貴女が紅魔館という檻を飛び出して、いつか幻想郷という世界と笑顔で戯れることを私は知っている。
世界を、外界を恐れるな。
私も、魔理沙も、レミリアも咲夜も、この世界も、皆々、貴女を祝福する。
無ければ良い命など、壊れて良い命など、貴女を含め、何一つ無い。
いつか、飛べなくなった雀の代わりに、手を取り合って空を飛びましょうか、フラン―
私達は、手を繋ぎながら紅魔館の玄関を潜った。玄関では、咲夜が当然のようにそこで待っていて、会釈をしながら扉を開けてくれた。
「お帰りなさいませ、フランドールお嬢様。お外はどうでしたか?」
「雀を壊しちゃった…」
そう言って、繋いでいない方の手を開いて、咲夜に見せた。私が、フランの外出に関して付けた条件を知っている咲夜は何も言わない。いや、咲夜のことだ、言う必要など無く、言う気など無いということなのかもしれない。
「あとで、お墓を作りましょうか」
「おはか?」
フランが私に振り向く。
「そう。死体を土に埋めて、お祈りするの」
「おいのり?」
「うーん。思うっていう事かしら。安らかに、幸せにと、そう願うの」
「もう生きてないのに?」
「肉体が滅びても、魂は消えてなくなりはしないものよ」
「ふーん。じゃあね、お祈りする。お墓を作ってお祈りする。雀は鳥だから、――ってお祈りする」
「きっと届くわ、その思いは」
フランは嬉しそうに笑って、それを見た私も同じように返して。
「では、朝食にしましょうか。お嬢様」
咲夜は、優しく微笑して。そう言った。
「あら、元気な雀」
見てみて妖夢。
と、亡霊の姫が穏やかに、屋敷の縁側に座して言った。
「確かに元気に飛んでますね、幽々子様。でも鳥の魂がここにやってくるのは毎日じゃないですか、別に珍しくないでしょう?」
二振りの刀を振り回し、庭木の手入れをしながら返す。
「分かって無いわね、妖夢。何故、鳥が飛ぶのか知らないの?」
「翼があるからでしょう」
「それは現世の話よ。私は冥界の話をしているの」
「飛びたいからじゃないですか?」
「妖夢は、侍を気取っている節があるのに、風情が無いわよね」
「じゃあ、何だって言うんですか幽々子様」
刀を鞘に納め、少し拗ねるように妖夢が言った。
「魂や霊、それが何なのか、その本質を妖夢は考えたことがあるかしら?」
それでも亡霊の姫は、はぐらかす。
「深く考えたことは無いですし、斬ったこともないので、分かりません」
「じゃあ、明日までにその答えを考えるのが妖夢の宿題」
「意地悪しないで教えてくださいよ」
その声が聞こえているのかいないのか、何かを懐かしむように、雀が飛び行く青空を姫は見上げて呟いた。
「飛んで欲しいと、そう誰かに願われたからよ。あの子は幸せだわ、とても気持ち良さそうに空を舞っている」
「飛べることは、鳥にとって確かに幸せなことなんでしょうね。籠の中で一生を終えるのは、不憫ですものね」
「そうね。外界が恐ろしいものだと、そう震えるのは、籠を飛び立ってからで遅くないわ」
そう言って姫は立ち上がる。
「というわけで、お腹が空いたわ妖夢。昼食にしましょう」
「何が、というわけ、なんですか」
そんな主の物言いに半ば呆れながらも、はいはい分かりました、と頷く妖夢。
「何か投げやりね。幽々子悲しい」
「とか言いながら、桜餅を食べないで下さい。すぐに昼食を作りますから」
言いながら、ふわりと厨房へと飛んでいく。その背を見送りながら姫は、食べる口を休め、今一度口を開く。
「ねぇ妖夢?」
「何ですか、幽々子様?」
「此処(白玉楼)は、貴女にとって檻かしら?」
何でもないことのように、自然と、そう問いかけた。
「この世界が、幽々子様に御仕えすることが、魂魄妖夢の全てでございます」
真剣な顔で、妖夢はそう返した。
「妖夢は、生真面目ね」
姫は言葉と表情に、満足そうに微笑んだ。
「幽々子様が、ふわふわと惚け過ぎなんですよ」
「あら、私は妖夢を褒めてあげたのに、妖夢は私を馬鹿にするのね」
「いえ、私はそんな幽々子様をお慕いしていると、そう申したのです」
「知らない。早く昼食を作りなさい、妖夢」
そう言って、少し膨れてそっぽをむく、そんな主を眺めながら、妖夢も微笑んだ。
「私程度の思いでは、幽々子様は空を飛ぶことは出来ませんか?」
「それは意地悪の仕返しかしら?」
「滅相も無い」
そんなやり取りがその日、白玉楼であったというのは、また別のお話。
最初はシリアス・中盤は感動ですね。
あと、幻想「卿」になってるところがありますなぅー
そこにきてこの作品にはやられました。
辛い生を送ってきた彼女だからこそこれから誰よりも幸せになれるはずです。
読後、こんなにいい気分になったのは久しぶりです。
ちょっとないてます、この文を打ってる今。
色々と、素敵です。
フランも、霊夢も、レミリアも。
あと、妖夢も幽々子様も。
そして、幻想郷というそのものが、生きている、と感じました。
最後に、もう一度。
良い作品を読ませていただき、ありがとうございます。
会えなくなること、失われるということ……
冥界という場所があっても、たしかにそれは重要で、ちゃんと学ばなければいけないことで……
495年も、その事実を知らず過してきた彼女が、それを知った後は果たしてどうなるのだろうか、とか、つらつら考えました。
ちゃんと向きえれば良いのだけれど――
微妙に熱暴走中のようです、駄文、すいません。
権利だなんだと声高に主張するくせに、そんな当たり前のことすらできない大人が増えすぎたと思いませんか?
この作品に出てくる少女たちの爪の垢を煎じて飲ませたいです。
身に美しいとかいて「躾」という意味がよくわかる気がします。
考えてみた。フランがフランになっているんだなぁと思った。
綺麗で優しくて、瀟洒で素敵な一時をありがとうございました。
ひらがなの魔力、というものでしょうか。
決して単純にハァハァしてコメント書き込んだ訳では無いです。
お話的にちょっといいなぁ、と思ったからこそコメントさせて頂きました。
フリーレスなのも100点入れて「ふらん萌えー」なのを悟られぬよう誤魔化す為ではありません。
ええ、多少幼すぎる気もしますが、純粋かつ性格的に素直で破滅的に炉rで可愛いフランドールですね。
次は再びれみりあおじょーさまの素敵話を期待していることを、貴方に告白しておきます。
よい作品でした。
495年の間、彼女の時は止まってたかもしれなけど、「これから」変わっていけばいいんだなと、そう感じました。
ありがとう。
暴れてばっかり(?)のフランじゃない、別の意味での子供らしさがイイと思いました。
この二人の〆が非常にいい読後感を出していると思いました。
とまぁ、軽いホンネは霊夢の腋の如く置いておいて。
そういえば、フラン主体のSSってあんまりみかけないよなぁとか。私が忘れてるちうだけかもしれませんが。
霊夢や魔理沙に教育されてフランはどんな子に育つのか楽しみですね。
フランがいつか自由に幻想郷を飛びまわれるといいな、と。
貧乏くじとかいいつつ、毎日会いにくる霊夢もいいね。
それを願う人たちも周りにいてくれることですしね。