Coolier - 新生・東方創想話

今日もあの子がやってくる

2005/06/06 06:18:45
最終更新
サイズ
10.94KB
ページ数
1
閲覧数
1067
評価数
4/43
POINT
1870
Rate
8.61

あらすじ
・パチュマリ
以上



私は、病気にかかってしまった。

「わぁ、本がいっぱいだぁ。後でさっくり貰っていこ」
これが私と彼女の出会いだった。
彼女は私の図書館に来る度に、サックリどころかゴッソリ本を持っていく魔性の女。

初めて見たときは迷惑だった。どうやって調理してやろうか寝る間も惜しんで研究もした。
それでも彼女は毎日のようにやって来て、私の本を奪っていった。

初めて彼女の声を聞いたときはうっとおしくてしょうがなかった。
私が好きなのは図書館の大切な本たちだけ。人間の魔法使いが図書館に入ってくるだなんて許せなかった。

いつのころからだろうか、彼女の顔を見たくなったのは。
いつのころからだろうか、彼女の声を聞きたくなったのは。

彼女が話しかける度に、私はそっけない態度を取ってしまう。
彼女を見かける度に、私は無関心を装ってしまう。

彼女の声を聞くと、胸が高鳴る。
彼女の顔を見ると、胸が苦しくなる

そうだ、小悪魔に聞いてみよう。この病気の原因を……


ξ・∀・)ξ・∀・)


「パチュリー様、今日は随分と顔色が良いですね」
「そうね。昨日は十分睡眠を取ったからかしら」
ヴワル図書館、朝のひととき。
パチュリーと小悪魔の二人は小さなテーブルを囲み、朝食を取っていた。
「小悪魔、今日のトーストはちょっと硬すぎるわ。44点」
「パチュリー様はアゴが弱すぎるんですよ。トーストというものは焼けばこうなります」
「まったく……じゃあミルクにつけて食べるわ」
「……」

むらさきもやし。誰が名付けたのかは知らないが今のパチュリー様はまさしくその通りだった。
歩けば10歩で息切れを起こし、1分起ち続けるだけで立ちくらみ。果ては本より重いものを持てば筋肉痛。
小悪魔はそんなパチュリー様を見るたびに、胸にこみ上げる儚さと愛おしさを必死に堪える。

病魔に苦しむパチュリー様を抱きしめたい。介抱したい。添い寝をしてあげたい。
しかし私とパチュリー様の関係は主人と使い魔。一線を越えることは許されない。
私はその胸に秘めた思いを押し殺し、図書館司書・小悪魔として生きている。



「ところでパチュリー様、なにか悩みがあるのですか?」
突然、小悪魔が核心を突いてきた。
私は動揺し、食べかけのトーストをポロリと床に落としてしまった。
「なっ、なんで分かったの!?」
「ため息をつきながら、ぽけーっと上ばかり見てる人を見れば誰だってわかりますよ」
さすがは私の従者、何でもかんでもお見通しというわけね。
やっぱり彼女に隠し事は出来ない。思い切って告白してしまおう……

「……小悪魔、私は病気なの」
「そんなこと知ってますよ。もっと運動してください」
「そのセリフは聞き飽きたわ」
私が殺意の篭ったジト目で小悪魔を睨みつけると。小悪魔の背筋が伸びた。
折角これから衝撃の告白をしようとしているのにダレた態度を取ってもらっても困る。真剣に聞きなさい。
「図書館に紛れ込む例の魔法使い、あなたも知ってるわね」
「ええ、本をガッポリ持ち去る悪魔の黒白ですよね?」
「あの魔法使いが私の病気の元に違いないわ」
「え?」
「あいつが来るたびに私の脈拍数が上がる。あいつの声を聞くたびに私の喘息が酷くなる。間違いないわ」
あまりの的外れな推理に、目を丸くする小悪魔。
何その目は、私をむらさきもやしだとバカにする気!?
「……ちょっと待ってくださいパチュリー様、何のスペル唱えてるんですかー!!!」
「ハッ、いけないわ……つい何時ものクセが」
危ない危ない、ついつい妄想が先走って罪のない小悪魔を葬り去ってしまう所だった……

小悪魔は危険が去ったことを確認すると、どこぞの大食い幽霊そっくりなガードポーズを解除して向き直る。
「コホン、私には分かりました。その病気の原因が」
「……なんですって?」
私は耳を疑った。彼女は本を整頓するしか脳の無い使い魔だと思っていたのだが。
それはとんだ思い違いだったのかもしれない……
「それはズバリ! パチュリー様は恋をしているのです!!」
「……なに寝ぼけてるの小悪魔、私も彼女も女よ?」
「コホン、パチュリー様は自分に無いものを黒白に求めているんです」
「私に……無いもの?」
今更何を言っているの小悪魔。
ありとあらゆる魔法を使いこなす知識を持った私に無いものなど……

そういわれれば、彼女は私に無いものを沢山持っている。健康的な体、火力満点の箒、減らず口etc……
「一度、一緒にお茶でも飲んで、ゆっくりと話してみてはどうです?」
お、お茶するですって!? そんな恥ずかしいこと出来るわけがないじゃないの。
話すといってもなにを喋っていいものやら……その意見には断固反対よ!!
「パチュリー様、顔が真っ赤ですよ?」
「……え?」
「やっぱりあの黒白が気になるんですね! 今日来たらお茶会にしましょう」
「あ…ちょっとまっ……」
私に反論する時間など……無かった。


ξ・∀・)ξ・∀・)ξ・∀・)


午前10時、紅魔館のお茶時間。レミリアの部屋では鳩時計が10回鳴る。
「来ますね」
「来るわね」
お茶会の準備は万端だ。パチュリーと小悪魔は扉が開くその時を待つ。
「いらっしゃいましたぜ!」
勢いよく扉を開けて、黒白の魔法使いがやってきた。
「いまだ、かかれー!!!」
「な、なにをするおまえらーーーー!!!」

「で、いつの間にやらお茶をいただいてしまったわけだが」
「あなた……よくこんな熱い緑茶が飲めるわね」
「お茶は熱いうちに淹れろってな。そうすることで風味が増すってエライ歴史学者も言ってたぜ」
淹れたての熱湯を一気飲みしておいて良く言う。風味とは何なのか分かってないだろお前。
パチュリーは心の中で一応ツッコんでおき、自分自身を納得させる。
魔理沙のペースは会話を合わせるだけで精一杯。恥ずかしがる暇など無かった。
「私の作ったお茶請け、どうでした?」
「甘くて美味しかったぜ」
だめだこいつ……この浅漬けが甘いだなんてどうかしている。早く何とかしないと!

魔理沙との距離が縮まっただけ、このお茶会は成功だった。
少なくとも私はそう思う、いや、そう思いたい。

「さてと……お茶もいただいたし今日の本を貰って行くかな」
「え……本を?」
「そうだぜ、いつものようにもらってくぜ」
まっすぐな目でパチュリーを見つめる魔理沙。その目にはある種の決意すら感じられた。
そんな目で見つめられてはパチュリーの脳みそは一気に沸点まで行ってしまう。
「……どうぞ……好きなのを持っていってね」
顔を真っ赤に染めたパチュリーは魔理沙を直視できなかった。言われるがまま要求を飲む。
既に彼女の意識は妄想郷へと飛び立っているようだ。
「それじゃあ、コイツを」
いつの間にやら魔理沙の右手には一冊の魔道書があった。
それは黒くて分厚い、黄色の栞が一つだけ挟まっている一冊の本。
「!?」


ξ・∀・)ξ・∀・)ξ・∀・)ξ・∀・)


「それはだめ」
パチュリーはその本が何なのかを悟ると、夢から覚めた。
「いいじゃないか、一冊くらい」
「だめよ、あげない」
好きな子にイタズラをする腕白坊主のように、パチュリーをからかう魔理沙。
元々この本には大して興味は無かった。ただパチュリーの反応が見たくて言ってみただけだった。
「ぜったいだめ」
「くれるって言ったじゃないか」
躍起になって、強引に本を取り上げようとする魔理沙。
これは私の宝物と言わんばかりの気合を込めて、パチュリーはその細い腕で必死に抵抗する。
魔理沙もパチュリーの意外な抵抗に驚いたが、一度言い出してしまったからには引き下がれない。
「うぎぎ、このドケチ!」
「なによ、この泥棒魔女!」
二人の争いが徐々にエスカレートしていく。
己の肉体に筋力増強魔法をかけ、本来ならば使うことの出来ない潜在能力を限界まで引き出す魔理沙。
同じように魔法をかけ、普段使わない筋繊維を叩き起こすパチュリー。
「一冊くらいいいだろ? こんなにあるんだし」
「この本だけはぜったいにだめ!」
「そう言われると、余計に欲しくなるのが人間だぜ」
今の二人ならば『東方最大トーナメント』でも優勝を争える、間違いない。
……と思う小悪魔であった。

お互いに一歩も譲らない。
(なぜパチュリーはこの本にこだわるんだ? 収集家としては余計中身が知りたくなるぜ)
こいつは思わぬレアアイテムなのかもしれない。
魔理沙は珍しいアイテムを手に入れるためならば、手段を選ばない魔性の女。
その毒牙が、今まさにパチュリーに向けられようとしていた。
「この強情張りめ! ノンディレクショナルレーザーを食らえ!!!」
紡がれるスペル、広がる光と熱。魔理沙は本棚ごと燃やすつもりで無指向レーザーを当たり構わずバラ撒いた。
「逃げて、逃げてパチュリー様ぁ!」
「あれ、何このスペル……」
分かっているから、避けられる。
パチュリーは魔理沙のノンディレクショナルレーザーを初見とは思えない動きで華麗にかわしていく。
なんで分かるんだろう…パチュリーは疑問を持った。
私はこのスペルを知っている。このスペルに見覚えがある。
迫り来るレーザーを回避しつつ、パチュリーはその疑問に知識を持って立ち向かう。
そして、一つの結論に辿り着いた……。
「な、なんであなたが私のスペル使ってるのよ!?」
「何言ってるんだ! これは正真正銘私のスペルだぜ! お前がパクったんじゃないか?」

パチュリーの中で、何かが弾けた。

「こ の 小 娘 が !」
そう、このスペルは私のスペル。強みも弱みも知っているのだから避けて当然。
勝手に自分のスペルをパクられた上に、自分のスペルをコピー呼ばわりされたパチュリーはキレた。
「小娘がぁ、調子に乗りやがってェェーーー!!!!!」
日月火水木金土、パチュリーは全ての符にありったけの魔力を注ぐ。
「ホントのパクりというものを見せてやるわッ!!」
「……おいおいおい、正気かパチュリー?」
分かっていても、避けられない。
魔理沙はこのスペルを知っている! このスペルに見覚えがあるッ!
それは魔法と呼ぶにはあまりにも強く、大きく、そして大雑把すぎた。

魔砲『ファイナルマスタースパーク』。

パチュリーが放とうとしている光の渦の正体は、紛れも無く魔砲そのものだった。
避けるべきか、受けて立つべきか。
「へっ、どっちが本当の魔砲使いなのかを証明するチャンス到来というヤツだぜ!」
魔理沙に迷いは無かった。それ以前に迷う選択肢があったのかすら分からないほどの潔さ。
「魔砲の準備は万全だ、いつでも撃ってきな!」
魔理沙の改造箒、通称『バスターブルーム』には中古のミニ八卦炉が内蔵されている。
魔力さえ送ってやれば飛びながらでもマスタースパークを発射できる超絶レアアイテム……って香霖が言ってた。
「魔理沙ァァァァ!!!!」
ゆれる紅魔館、激しく軋む図書館。
パチュリーが動く、魔理沙もそれに反応し箒に全魔力を集中させる!

「日月火水木金土符! ファイナルマス…ごふっ!」
飛び散る鮮血。霧散する魔力。そして床に崩れ落ちるパチュリー。
あれだけの魔力を操ろうとしたツケが回ってきたのか、パチュリーは咳と共に大量の血を吐き出し倒れこんでしまった。
「げほっ、し…しまった……」
「残念だったなパチュリー、人の魔砲をパクろうなんて100年早いぜ!」
「パチュリーさまぁぁぁぁ!!」
「に……にげ……て…小悪魔……」
「私の箒が光って唸る! お前を落とせと輝き叫ぶ!!
 その本はもらっていくぜ! 必殺ファイナルマスタースパー……」
その時、箒が弾けて魔理沙は光に包まれた。
やはり香霖堂の中古八卦炉では無理があったのか。
ファイナルマスタースパークはその使い手に向けて発射され、魔理沙は空の彼方まで吹き飛ばされていった……






ξ・∀・)ξ・∀・)ξ・∀・)ξ・∀・)ξ・∀・)


「パチュリー様はむらさきもやしなんですから無理しちゃダメですって」
「もやし言うな!……ごほごほ」
あれから三日、パチュリーの容態は非常によろしくなかった。
魔力の逆流による神経損傷に加え、肉体強化魔法による筋繊維の断裂、詠唱しすぎの気管支炎など満身創痍。
絶対安静、面会謝絶。なぜそんな具合になるまで頑張ったのか小悪魔には理解できなかった。
「…で、あそこまでして取られたくない本って何だったんですか?」
「それは二度と口にしないで」
ジト目から再び発せられる殺気を感じ、小悪魔は部屋の隅で丸くなった。
「ごめんなさいごめんなさいもう聞きません」
「私は寝るわ。おやすみ」
ぷいとパチュリーは顔を背け、小悪魔に部屋から出て行くよう促した。
ケガに苦しむパチュリー様を抱きしめたい。介抱したい。添い寝をしてあげたい。
そんな小悪魔の小さな野望は、脆くも崩れ去った。



「今日も一日ベッドの上、体中が痛かったです、まる」
パチュリーは一冊の分厚い『百年日記』に、今日の出来事を記す。
そして明日のページに黄色い栞を挟み、ベッドの下へしまいこんだ。

コンコン

ドアをノックする音、パチュリーはどうせ小悪魔がイタズラをしているだろうと思い寝たフリを続ける。

コンコン

またもやドアをノックする音、うるさいなぁ。パチュリーは無視した。

コンコン

もういい、小悪魔うざい。寝る。




「ごめんな、パチュリー」
魔理沙はドアの前に借りていた本を置き、何も言わずに帰っていった……。


――――――
イメージ元
絵板Ⅲ238他 半身氏のパチュ
あれ? パチュマリのラブラブネチョ一歩手前作品のはずが……いろいろ混ざりました。
いじめっこ魔理沙と引っ込み思案なパチュ……
パチュをいじめすぎた。誰かに後ろから殴られても悔いは無い。
刺し身
http://www.icv.ne.jp/~yatufusa/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1610簡易評価
1.無評価おやつ削除
いや、いい話だなぁと思うんですけど。
間のメルポがなんと言うかこうインパクトありすぎて……
だんだん増えていく彼らが、じわじわとツボに来ました。
4.無評価雪羅奈界削除
とりあえず初っ端のあらすじがいいセンス出してました。ていうか吹いた。
12.80774削除
最初の3行 反則です(笑)
15.50K-999削除
 ゆずってくれ、たのむ!
>ころしてでも うばいとる
 きょうみないな

「な、なにをするきさまらーーー!!」

アイスソードゲットだぜ♪

それはともかく。いいですね。むらさきもやし。恋する乙女も魔女としてのプライドは失くしてなかったんですねー。でも、怒号をあげた後でスペルを唱えるのはちょっと無謀でしたね。残念っ!
25.60七死削除
まあとりあえず……――   ガッ!!
43.70名前が無い程度の能力削除
ξ・∀・)ξ・∀・)ξ・∀・)ξ・∀・)ξ・∀・)ξ・∀・)

笑いました