――物理を教えてちょうだい、宇佐見さん?
今日は私の通う高校の始業式だった。
クラス替えがあり自己紹介も終わって一息ついて、
一眠りでもしようかしらなんて考えていると、目の前に金髪美女が。
「ひゃっ」
なんてマヌケな声を出してしまったんだとすぐさま後悔。
でもこれは仕方がないだろう。私は人見知りなのだから。
「突然ごめんなさい、あなた宇佐見さんでしょ、私に物理を教えてくれないかしら?」
気を取り直して思考を進める。
この子はたしか…ハーンさん。ファーストネームはなんとかベリーだったような。
物理を教えてくれってなんで物理なのかしら。
それに一度も話したことはなかったはずなのだが。
「あなたハーンさんよね、たしか理系ではなかったと思うのだけど」
私の高校では一部の授業が選択制で、専門教科では教室が別れるのだ。
いままでの物理や化学の授業でこの子を見かけたことはない。
「ええ、それはね、一次試験で生物の代わりに物理をつかうことにしたのよ。ああ、迷惑だった?」
物好きだなぁ。なぜ、までは聞かないが。
「いや大丈夫よ。でもなんで私なのかしら、あまり話したことないでしょう?」
一応、こっちの理由は聞いてみる。まあ、なんでもいいんだけど。
「宇佐見さんってとても頭がいいんでしょう?友達から聞いたのよ。それで声をかけてみたの。」
「私の頭脳はせいぜいプランク並だわ。周りの連中はわかってないわね。」
「ふふっ」
どこか含みのある笑い。お付き合いの微笑ってやつだろう。
私の渾身のジョークを汲み取ってくれたのか。
それとも真に受け取られてしまったか。
誰もいない教室で美少女と二人っきり。なんか緊張してきた。
掃除がめんどくさいので、黒板を使わずに机をくっつけて教えることにした。
この距離感は小学校のときの給食の時間を想起させる。
「じゃあ、まず力学から教えるわね。この分野は波動、電磁気、熱、そして原子を理解する上で重要よ。
まずは物体の空間上の位置から定義するわ。数学でもそうだけど、ある理論体系には公理が必要なのよ。
あ、公理っていうのは、簡単に言うと何者からも生まれない事実みたいなものでね―――――――――
――ここで両辺を置換積分すると力学的エネルギー保存則の出来上がりってわけ。今度は時間つまりtで
両辺を積分すると――それでケプラーはこう考えたの…ってごめんなさい置いていっちゃたわね。」
やってしまった!これだから友達が増えないのだと思う。
いつも科学のことになると周りが見えなくなって、自分の世界へ入り込んでしまう。
それで変人だと思われているのだろう。今回もそうだ。私は嫌われるのが怖い。
「ふふっ、とても分かりやすいです。特にコペルニクスの地動説は感動しましたわ。
ところで、宇佐見さんって以外とおしゃべりなのね?
静かなイメージがあったものだから、びっくりしたわ。」
…嫌われてない?なぜ?
あの含みのある笑いのせいで分かりづらいが、嫌な顔はしていない。
それにこの人は私の話をしっかり聞いてくれている。
うれしい。初めてだ。
「そ、そう。ここまで理解できるなら、私が教えなくてもよっかたんじゃないかしら」
「そんなことはないわ。あなたの教え方が上手いからよ。宇佐見さん、あなた先生に向いてるって言われるでしょう?」
学者に向いてると言われたことならある。たぶんマッドサイエンティストの方の。
「それでね、いや、うーん、そうね――」
急に考え込み始めた。マイペースな娘だ。
いろんな意味で私と正反対だと思う。
「――宇佐見さん、放課後、毎日、私に教えて物理をください!」
あ、喋った。
それで、なんでそんなに顔が赤いのだろうか。
しかも目をつぶって…、まるで私が告白されてるみたいじゃないか。
よく見ると睫毛長いな、さすがハーフだ。いや、クォーターなのかな。
「ま、毎日はちょっとね。でも暇だから、そうねとりあえず明日の放課後はどう?」
「っ!!、お願いするわ!、よろしくね宇佐見さん!」
うわぁ、これが満面の笑みってやつか。
ちょっとドキッとした。つられて微笑んでしまいそうになる。
というか思わずOKしてしまったがよかっただろうか。
まあ…なるようになれだ。
それに彼女とは長い付き合いになるような気がするし。
<了>
続きがあれば期待します
次はもっと長いものを読んでみたいと思いました
創想話にようこそ!
次回も期待しています。
かなりテンポが速くポンポン進んでしまった感じなので、もう少し落ち着いて二人の様子や、その他周りの様子を描いてテンポを落としてくれると読みやすいと思います。とんとん拍子に話が進んでしまったので、ちょっとおいてけぼりを食らったので。
……あくまで個人的な感想ですけどね!