年末年始、博麗神社は今回もあまり人が来ない。
妖怪や妖精が境内に作った出店は今年もあって、去年より繁盛しているようだった。
霊夢は去年これらの屋台を皆壊し、人外達を皆退治してやろうかとも思ったが、紫に止められた、せっかく賑やかなんだから良いじゃないの、というのが紫の弁である。
紫は今年も式神達と一緒に出店を楽しんでいた。なにかの思惑とかではなく、純粋に楽しんでいるようだ。
境内を見渡すと、チルノのかき氷屋台は今年はそこそこ繁盛していた。
去年の場合、真冬にかき氷というだけでもまずいのに、水味しかなかったのだ。しかし今年は果物の汁や練乳をかけた物を商品に加え、物好きな妖怪たちが買っている。意外と冬にかき氷というのもおつなものかも知れない、霊夢はそう思ってチルノの屋台に出向く。
チルノの周りはさすがに余計に寒い。よく見たらレティが傍らで舌づつみを打っているではないか。あまりの寒そうな光景に、やはりかき氷は遠慮しようと思う霊夢だった。
「こんばんわ、今年は売れているそうね、おバカなあんたのくせに、妬ましい」
「おう霊夢、みんなの助言で今年は少し、れぱーとりぃってヤツを増やしてみたのよ。ところで、橋姫にでも洗脳されたの?」
「いいや、場所代、定額じゃなくて売り上げが増えるほど取り立てるシステムにすれば良かったと後悔しているの」
「累進課税? それやり過ぎるとみんな働く気が起こらなくなるぜ」
厚着をした魔理沙が冷やかした。
「あたい、売り上げぜ~んぶ霊夢にあげてもいいよ、こうやってみんなあたいを好きになってくれれば、あたいの力も増すってもんよ」
「妖精はピュアで可愛いな」 魔理沙がチルノを撫でた。
「あたいは、可愛いじゃなくて綺麗を目指してんのよ」
と言いつつ、嬉しそうな雰囲気が漂う。
「私達人外はね、働く時は利益のためじゃなくて、働くこと自体を楽しんで動くのよ。人間と違って、物理的な衣食住を必要としているわけじゃないからね」
そしてレティは、今年は雪の降らない夜空を見上げて、感慨深げにつぶやく。
「私達人外を維持しているのは、人々の思い。幻想や空想こそ、私達が存在するための糧なのよ。相手が神さまの場合は信仰ね」
「なら結局利益のためじゃない、人のために働いて、良い印象が得られれば、それだけ強い存在になれるんでしょ、さっきチルノも言っていたじゃない。結局は欲得ずくね」
「欲得ずくで何がいけないの、人間もその方がいいでしょ。人の印象に残ると言っても、恐ろしい人食い妖怪としてとか、祟り神としてとかよりはマシ。まあ小難しい哲学はおしまいおしまい。チルノ、次はライチ味を頂戴」
「あいよ~」
あれだけ食べて下痢にならないのだろうか、と霊夢は妖怪ながら心配になる。それはそうと、三月精がしている屋台でお酒やおでんを食べさせてもらおう。場所使用料の一環として、霊夢だけただで食べられるのだ。
「こんにゃくと卵、がんもどきに大根頂戴」
「はいよ~」
普段見られないルナチャイルドの威勢のよい掛け声。霊夢はこの子はこう言った商売に向いてなさそうに思えたのだが、祭りのような雰囲気がそうさせたのだろうか。
チルノとレティの言っていた事を反芻する。幻想や空想、信仰、そういう想いの力、それが人外のエネルギー源なのだろう。この子もめでたい雰囲気で力が増したのだろうか。
「へいおまち」 カウンターにどんぶりに入れられた料理が出される。
「いただくわ」 おでんはどれも美味で、ほんのり甘くてしょっぱい汁も体を温めてくれる。
「ねえ、そう言えば、妖精達って冬も遊んでいるの?」
「いいえ、私達は妖精の中でも力が強い方ですし、チルノは加えて氷の妖精だから冬でも活動できますけど、大部分は……んーそうですね、冬眠していますね」
「へえ」
力のない妖精は冬眠しているのか、それで春になったらまた湧いてくる。妖精は自然そのものだと言うから、冬じっと耐えて、春に芽吹く草花のようなものなのか。
ルナチャイルドの続けた言葉に霊夢は驚いた。
「木の中とかに、テントウムシみたいに固まって冬眠していますよ、最近は民家の屋根裏とかでも眠っています」
「本当なの? もしや」
霊夢は神社の社に駆けてゆく、拝殿に入り、そう簡単に見せるわけにはいかないご神体にちょっと一礼して飛び上がり、屋根裏を覗き見ると、びっしりいた。
手のひらサイズの雑魚妖精が子猫のように固まって眠っている。
慌てて追ってくる音が聞こえる。
「サニー、スター、霊夢さんが感づいちゃった」
「ルナが変な事言うからでしょ」
「だってぇ」
どべっ、と誰かが転ぶ音が響く、ルナチャイルドだろう。
彼女を乗り越えて、サニーミルクが拝殿に入り、慌てて霊夢を止めようとする。
「待って下さい! 霊夢さん。その子たちは力も弱いし、悪戯をする力なんてないの、見逃してあげて下さい」
霊夢は三月精の元に降りて、あきれ顔で妖精達を見る。
「あんた等ねえ、私が誰かれ構わず人外を攻撃するとでも思ったの?」
「そりゃあもう……いやいやそんな事思っていませんが」 サニーが必死に弁解する。
「害がないなら良いけど、こいつら、起きたら何かするんじゃないでしょうね」
起き上がったルナチャイルドが、埃を払いながら説明した。
「人家で冬眠する妖精達はですね、春目覚めるとき、お礼にちょっとだけそこに住む人を幸せにしてくれるんですよ」
「本当に? まあ期待しないで待っていてあげるわ」
スターサファイアが霊夢に感謝する。
「ありがとうございます。私達なら多少霊夢さんに蹴られても大丈夫ですけれど、力の弱い子たちは本当にもろくって、ちょっとした事で一回休みになってしまうんです。復活しても、記憶もろくに受け継がれていない子が大半でして。ご配慮感謝します」
「あんた達って、意外と同胞を大事にしているのね。意外だわ」
霊夢は三月精の同胞愛を微笑ましく思いつつ、拝殿から出て夜空を眺めた。
視線を地上に戻すと、妖怪たちが新年のカウントダウンをしている最中だった。
カウントがゼロになると、境内が歓声に包まれ、魔理沙の掛け声が響き渡る、
「そうれ、新年祝いだぜ」
弾幕花火が星空を彩る。美しいの一言だった。
魔力の塊が天頂目指して飛び上がり、弾けて七色の流れ星となった。
流れ星はただ落ちるのではなく、規則的な円を描いて拡散していき、やがて消えてゆく。
弾幕ごっこ絡みではなく、純粋にアートとして眺める弾幕パターンも良いものだ、と境内にいた誰もが感じた。
その後も朝まで賑やかさは続き、出店はしばらく残したまま、神社に静寂が戻る。
月日がたち、やがて春告げ精が冬の終わりを告げてまわる時期がやってきた。
神社で眠っていた妖精達は一斉に神社を飛び出し、ある者は風に身を任せ、ある者は自分が決めた方向を目指し、思い思いの方向にふよふよと舞っていく。
霊夢は冗談交じりに、夢想封印で撃ち落としてやろうかしら、と口走ったが、そのまま飛んでいく妖精達を眺めていた。
妖精達が飛び去った後、空から一通の封筒が、箒を持った霊夢の足元にぱさりと落ちた。
博麗霊夢様へ、と書かれた封筒の主は、遠く離れた友人なのか家族なのか、男性なのか女性なのか、はたまた人か人外かは霊夢以外誰も知る者はいない。
ルナチャイルドがかつて、人家で冬眠する妖精は、お礼に家に住む者を少しだけ幸せにすると言っていた。
きっとこれが、その妖精達のささやかなプレゼントに違いない。
少なくとも、手紙を読む霊夢の顔は、彼女が普段見せない笑顔だったのだから。
妖怪や妖精が境内に作った出店は今年もあって、去年より繁盛しているようだった。
霊夢は去年これらの屋台を皆壊し、人外達を皆退治してやろうかとも思ったが、紫に止められた、せっかく賑やかなんだから良いじゃないの、というのが紫の弁である。
紫は今年も式神達と一緒に出店を楽しんでいた。なにかの思惑とかではなく、純粋に楽しんでいるようだ。
境内を見渡すと、チルノのかき氷屋台は今年はそこそこ繁盛していた。
去年の場合、真冬にかき氷というだけでもまずいのに、水味しかなかったのだ。しかし今年は果物の汁や練乳をかけた物を商品に加え、物好きな妖怪たちが買っている。意外と冬にかき氷というのもおつなものかも知れない、霊夢はそう思ってチルノの屋台に出向く。
チルノの周りはさすがに余計に寒い。よく見たらレティが傍らで舌づつみを打っているではないか。あまりの寒そうな光景に、やはりかき氷は遠慮しようと思う霊夢だった。
「こんばんわ、今年は売れているそうね、おバカなあんたのくせに、妬ましい」
「おう霊夢、みんなの助言で今年は少し、れぱーとりぃってヤツを増やしてみたのよ。ところで、橋姫にでも洗脳されたの?」
「いいや、場所代、定額じゃなくて売り上げが増えるほど取り立てるシステムにすれば良かったと後悔しているの」
「累進課税? それやり過ぎるとみんな働く気が起こらなくなるぜ」
厚着をした魔理沙が冷やかした。
「あたい、売り上げぜ~んぶ霊夢にあげてもいいよ、こうやってみんなあたいを好きになってくれれば、あたいの力も増すってもんよ」
「妖精はピュアで可愛いな」 魔理沙がチルノを撫でた。
「あたいは、可愛いじゃなくて綺麗を目指してんのよ」
と言いつつ、嬉しそうな雰囲気が漂う。
「私達人外はね、働く時は利益のためじゃなくて、働くこと自体を楽しんで動くのよ。人間と違って、物理的な衣食住を必要としているわけじゃないからね」
そしてレティは、今年は雪の降らない夜空を見上げて、感慨深げにつぶやく。
「私達人外を維持しているのは、人々の思い。幻想や空想こそ、私達が存在するための糧なのよ。相手が神さまの場合は信仰ね」
「なら結局利益のためじゃない、人のために働いて、良い印象が得られれば、それだけ強い存在になれるんでしょ、さっきチルノも言っていたじゃない。結局は欲得ずくね」
「欲得ずくで何がいけないの、人間もその方がいいでしょ。人の印象に残ると言っても、恐ろしい人食い妖怪としてとか、祟り神としてとかよりはマシ。まあ小難しい哲学はおしまいおしまい。チルノ、次はライチ味を頂戴」
「あいよ~」
あれだけ食べて下痢にならないのだろうか、と霊夢は妖怪ながら心配になる。それはそうと、三月精がしている屋台でお酒やおでんを食べさせてもらおう。場所使用料の一環として、霊夢だけただで食べられるのだ。
「こんにゃくと卵、がんもどきに大根頂戴」
「はいよ~」
普段見られないルナチャイルドの威勢のよい掛け声。霊夢はこの子はこう言った商売に向いてなさそうに思えたのだが、祭りのような雰囲気がそうさせたのだろうか。
チルノとレティの言っていた事を反芻する。幻想や空想、信仰、そういう想いの力、それが人外のエネルギー源なのだろう。この子もめでたい雰囲気で力が増したのだろうか。
「へいおまち」 カウンターにどんぶりに入れられた料理が出される。
「いただくわ」 おでんはどれも美味で、ほんのり甘くてしょっぱい汁も体を温めてくれる。
「ねえ、そう言えば、妖精達って冬も遊んでいるの?」
「いいえ、私達は妖精の中でも力が強い方ですし、チルノは加えて氷の妖精だから冬でも活動できますけど、大部分は……んーそうですね、冬眠していますね」
「へえ」
力のない妖精は冬眠しているのか、それで春になったらまた湧いてくる。妖精は自然そのものだと言うから、冬じっと耐えて、春に芽吹く草花のようなものなのか。
ルナチャイルドの続けた言葉に霊夢は驚いた。
「木の中とかに、テントウムシみたいに固まって冬眠していますよ、最近は民家の屋根裏とかでも眠っています」
「本当なの? もしや」
霊夢は神社の社に駆けてゆく、拝殿に入り、そう簡単に見せるわけにはいかないご神体にちょっと一礼して飛び上がり、屋根裏を覗き見ると、びっしりいた。
手のひらサイズの雑魚妖精が子猫のように固まって眠っている。
慌てて追ってくる音が聞こえる。
「サニー、スター、霊夢さんが感づいちゃった」
「ルナが変な事言うからでしょ」
「だってぇ」
どべっ、と誰かが転ぶ音が響く、ルナチャイルドだろう。
彼女を乗り越えて、サニーミルクが拝殿に入り、慌てて霊夢を止めようとする。
「待って下さい! 霊夢さん。その子たちは力も弱いし、悪戯をする力なんてないの、見逃してあげて下さい」
霊夢は三月精の元に降りて、あきれ顔で妖精達を見る。
「あんた等ねえ、私が誰かれ構わず人外を攻撃するとでも思ったの?」
「そりゃあもう……いやいやそんな事思っていませんが」 サニーが必死に弁解する。
「害がないなら良いけど、こいつら、起きたら何かするんじゃないでしょうね」
起き上がったルナチャイルドが、埃を払いながら説明した。
「人家で冬眠する妖精達はですね、春目覚めるとき、お礼にちょっとだけそこに住む人を幸せにしてくれるんですよ」
「本当に? まあ期待しないで待っていてあげるわ」
スターサファイアが霊夢に感謝する。
「ありがとうございます。私達なら多少霊夢さんに蹴られても大丈夫ですけれど、力の弱い子たちは本当にもろくって、ちょっとした事で一回休みになってしまうんです。復活しても、記憶もろくに受け継がれていない子が大半でして。ご配慮感謝します」
「あんた達って、意外と同胞を大事にしているのね。意外だわ」
霊夢は三月精の同胞愛を微笑ましく思いつつ、拝殿から出て夜空を眺めた。
視線を地上に戻すと、妖怪たちが新年のカウントダウンをしている最中だった。
カウントがゼロになると、境内が歓声に包まれ、魔理沙の掛け声が響き渡る、
「そうれ、新年祝いだぜ」
弾幕花火が星空を彩る。美しいの一言だった。
魔力の塊が天頂目指して飛び上がり、弾けて七色の流れ星となった。
流れ星はただ落ちるのではなく、規則的な円を描いて拡散していき、やがて消えてゆく。
弾幕ごっこ絡みではなく、純粋にアートとして眺める弾幕パターンも良いものだ、と境内にいた誰もが感じた。
その後も朝まで賑やかさは続き、出店はしばらく残したまま、神社に静寂が戻る。
月日がたち、やがて春告げ精が冬の終わりを告げてまわる時期がやってきた。
神社で眠っていた妖精達は一斉に神社を飛び出し、ある者は風に身を任せ、ある者は自分が決めた方向を目指し、思い思いの方向にふよふよと舞っていく。
霊夢は冗談交じりに、夢想封印で撃ち落としてやろうかしら、と口走ったが、そのまま飛んでいく妖精達を眺めていた。
妖精達が飛び去った後、空から一通の封筒が、箒を持った霊夢の足元にぱさりと落ちた。
博麗霊夢様へ、と書かれた封筒の主は、遠く離れた友人なのか家族なのか、男性なのか女性なのか、はたまた人か人外かは霊夢以外誰も知る者はいない。
ルナチャイルドがかつて、人家で冬眠する妖精は、お礼に家に住む者を少しだけ幸せにすると言っていた。
きっとこれが、その妖精達のささやかなプレゼントに違いない。
少なくとも、手紙を読む霊夢の顔は、彼女が普段見せない笑顔だったのだから。
とりあえずチルノかき氷と三月精のおでん下さい
家宝にします
いいわぁなごむわぁ。
そろって冬眠してる妖精達がかーわいいよぉー!
ほのぼのとして綺麗に終わって、いい読み物でした。
新年よりも春っぽさが出ている作品でした
しかし、野暮な突っ込みをあえてしてしまうと、恩返しが手紙という物質的なものだったことに肩すかし感を覚えました。いや、物質的でもいいんですが、せめてもう少し妖精らしさを残した恩返しはなかったのかなあと思います。
もっと野暮なことを言ってしまうと、手のひらサイズな妖精たちが手紙を書けるとも思えないし……。
和みました!!
某もこの中に混ぜてくr(ry
地権者は強いですねしかし。